(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転倒前状態は前記歩行者の左右一方の足と左右他方の足とが交差したタンデムスタンス状態であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の歩行支援装置。
前記制御装置は、前記タンデムスタンス状態であると判定すると、前記把持部を把持している前記歩行者を前記杖部を介して前方に引っ張り、前記歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)が前記歩行者の身体の前方に移動するように前記駆動部を駆動させることを特徴とする請求項4記載の歩行支援装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の歩行支援装置は杖部が傾くことによって歩行者の転倒を防止するものであるため、実際に歩行者が転倒しないためには杖部を把持する歩行者の腕力に大きく依存する。このため、この歩行支援装置は高齢者等の腕力の弱い歩行者の転倒を防止することができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、歩行者の転倒の危険性を大きく軽減することができる歩行支援装置及び転倒防止方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歩行支援装置は、上下方向に延びており、歩行者が把持する把持部を上端部に設けた杖部と、
この杖部の下端部が連結しており、駆動部を有する移動機構が組み込まれ、前記把持部を把持した前記歩行者の歩行に伴って移動する台座部と、
前記把持部を把持して歩行する前記歩行者の両脚又は両足の位置を検知する検知装置と、
この検知装置の出力に基づいて、前記歩行者が転倒しそうな転倒前状態である
か否かを判定する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記転倒前状態であると判定すると、前記把持部を把持している前記歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)が前記杖部を介して転倒方向とは反対方向に移動するように前記駆動部を駆動す
ることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の転倒防止方法は、本発明の歩行支援装置を利用して歩行者の転倒を防止する転倒防止方法であって、
前記把持部を把持して歩行する前記歩行者の両脚又は両足の位置を前記検知装置が検知する検知工程と、
この検知工程において前記検知装置が検知した前記歩行者の両脚又は両足の位置に基づいて、前記歩行者が転倒しそうな転倒前状態であるか否かを判定する判定工程と、
この判定工程において前記歩行者が前記転倒前状態であると判定されると、前記駆動部を駆動して、前記把持部を把持している前記歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)を前記杖部を介して転倒方向とは反対方向に移動させる転倒防止工程とを実行することを特徴とする。
【0008】
この歩行支援装置及びこれを利用した転倒防止方法は、歩行者の両脚又は両足の位置を検知装置が検知して、歩行者が転倒しそうな転倒前状態であると判定すると、台座部に組み込まれた移動機構の駆動部が駆動し、杖部を介して転倒方向とは反対方向に歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)を移動させる。つまり、歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)が台座部と歩行者の両足とを結んだ面内に収まるようにする。このように、この歩行支援装置及びこれを利用した転倒防止方法は、歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)を移動して歩行支援装置の杖部を把持した歩行者の腕と歩行者の両脚で歩行者の身体を支えて転倒を防止することができる。つまり、この歩行支援装置及びこれを利用した転倒防止方法は、歩行者の腕力への依存度を低くし、腕よりも大きな筋力を有する両足で身体を支えて転倒を防止することができる。なお、本発明において、「脚」は太ももより下、かつ足首より上の部分を示し、「足」は足首より下の部分を示す。
【0009】
したがって、本発明の歩行支援装置及びこれを利用した転倒防止方法は、歩行者の転倒の危険性を大きく軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の歩行支援装置において、前記制御装置は、前記検知装置の出力に基づいて前記歩行者の両足の接地位置を特定し、前記転倒前状態を判定し得る。この場合、歩行者の両足の設置位置を特定するため、歩行者の歩行状態が転倒前状態であるか否かを確実に判定することができる。
【0013】
本発明の歩行支援装置において、前記検知装置は前記歩行者の膝下の両脚の位置を検知し得る。この場合、ステレオカメラ等の3次元を検知する検知装置でなく、2次元を検知する検知装置を利用することができるため、その後のデータ処理速度を速くすることができる。このため、歩行支援装置は、駆動部を適切に駆動することができ、歩行者の転倒を防止することができる。
【0014】
本発明の歩行支援装置において、前記転倒前状態は前記歩行者の左右一方の足と左右他方の足とが交差したタンデムスタンス状態であり得る。この場合、タンデムスタンス状態による転倒を防止することができる。
【0015】
本発明の歩行支援装置において、前記制御装置は、前記タンデムスタンス状態であると判定すると、前記把持部を把持している前記歩行者を前記杖部を介して前方に引っ張り、前記歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)が前記歩行者の身体の前方に移動するように前記駆動部を駆動させ得る。この場合、歩行者のゼロモーメントポイント(ZMP)が歩行者の身体の前方に移動し、台座部と歩行者の両足とを結んだ面内に収まるため、タンデムスタンス状態による後方への転倒を防止することができる。
【0016】
次に、本発明の歩行支援装置及び転倒防止方法を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
<実施例1>
実施例1の歩行支援装置は、
図1に示すように、杖部10、台座部30、検知装置であるレーザーレンジファインダー50、及び制御装置70とを備えている。杖部10は、上下方向に延びた棒状の杖部本体11と、杖部本体11の上端から水平方向両側に延びた棒状の把持部13を有している。杖部本体11は上端部に6軸の力覚センサ15を介装している。把持部13は歩行支援装置を利用して歩行する歩行者が把持する。
【0018】
台座部30は略6角柱状の外径を有している。台座部30は杖部本体11の下端部が連結しており、駆動部を有する移動機構であるオムニホイール31を搭載している。これによって、台座部30は全方位へ移動することができる。杖部本体11の下部と台座部30とはユニバーサルジョイント20によって連結されている。ユニバーサルジョイント20は2つのDCモータ―21によって稼働し、杖部10の傾きを制御することができる。
【0019】
レーザーレンジファインダー50は台座部30の上面に取り付けられている。歩行支援装置は、
図2に示すように、レーザーレンジファインダー50が歩行者の両脚側を向くようにして歩行者が把持部13を把持して利用することができる。レーザーレンジファインダー50は歩行者の膝下の両脚の位置を検知する。より詳しくは、レーザーレンジファインダー50は、歩行者の膝下高さとなる一定高さの水平面における歩行者の両脚を検知しており、この水平面におけるレーザーレンジファインダー50からの各脚の距離を計測することができる。つまり、レーザーレンジファインダー50が検知する一定高さの水平面における歩行者の各脚の左右両端の位置を計測することができる。なお、実施例1において、「脚」は、太ももより下、かつ足首より上の部分を示し、「足」は、足首より下の部分を示す。
【0020】
制御装置70は、
図1に示すように、台座部30の側面に取り付けられている。制御装置70は、次に説明するように、レーザーレンジファインダー50の出力に基づいてオムニホイール31の駆動部を駆動制御する。つまり、制御装置70はレーザーレンジファインダー50の出力に基づいて歩行者の両足の設置位置を特定する。歩行者の両足の設置位置は、レーザーレンジファインダー50が計測した各脚の左右両端の位置の中心を下方に垂下させた位置に各足の中心が位置するものとして特定している。そして、制御装置70は歩行者の両足の設置位置から歩行者が転倒しそうな転倒前状態であるか否かを判定する。転倒前状態であると判定すると、歩行者は転倒するおそれがあるため、把持部13を把持している歩行者のゼロモーメントポイント(以下、ZMPという。)が杖部10を介して転倒方向とは反対方向に移動するように駆動部を駆動制御する。
【0021】
特に、歩行者の左右一方の足と左右他方の足とが交差したタンデムスタンス状態であると判定すると、歩行者は後方に転倒するおそれがあるため、把持部13を把持している歩行者を杖部10を介して前方に引っ張り、歩行者のZMPが歩行者の身体の前方に移動するように駆動部を駆動制御する(
図3参照)。これによって、歩行者のZMPが、
図2に示すように、台座部30と歩行者の両足とを結んだ面S内に収まるようにする。なお、歩行支援装置が歩行者を引っ張る引張力、及びタンデムスタンス状態であるか否かを判定する方法については後述する。
【0022】
このように、この歩行支援装置は、歩行者のZMPを移動して歩行支援装置の杖部10を把持した歩行者の腕と歩行者の両脚で歩行者の身体を支えて転倒を防止することができる。つまり、この歩行支援装置は、歩行者の腕力への依存度を低くし、腕よりも大きな筋力を有する両足で身体を支えて転倒を防止することができる。
【0023】
したがって、実施例1の歩行支援装置は、歩行者の転倒の危険性を大きく軽減することができる。
【0024】
次に、この歩行支援装置を利用して歩行者の転倒を防止する転倒防止方法について説明する。
先ず、把持部13を把持して歩行する歩行者の膝下の両脚の位置をレーザーレンジファインダー50が検知する検知工程を実行する。これによって、歩行者の膝下高さとなる一定高さの水平面における歩行者の各脚の左右両端の位置を計測することができる。
【0025】
その後、レーザーレンジファインダー50の出力に基づいて歩行者の両足の設置位置を特定し、この両足の接地位置に基づいて、歩行者が転倒しそうな転倒前状態であるか否かを判定する判定工程を実行する。特に、歩行者の左右一方の足と左右他方の足とが交差したタンデムスタンス状態と特定されると、転倒前状態であると判定する。なお、タンデムスタンス状態であるか否かを判定する方法については後述する。
【0026】
判定工程において歩行者が転倒前状態であると判定されると、駆動部を駆動して、把持部13を把持している歩行者のZMPを杖部10を介して転倒方向とは反対方向に移動させる転倒防止工程を実行する。特に、歩行者がタンデムスタンス状態であると判定されると、歩行者は後方に転倒するおそれがあるため、把持部13を把持している歩行者を杖部10を介して前方に引っ張り、歩行者のZMPが歩行者の身体の前方に移動するように駆動部を駆動制御する。これによって、歩行者のZMPが、
図2に示すように、台座部30と歩行者の両足とを結んだ面S内に収まるようにする。なお、歩行支援装置が歩行者を引っ張る引張力については後述する。
【0027】
このように、歩行支援装置を利用して歩行者の転倒を防止する転倒防止方法は、歩行者のZMPを移動して歩行支援装置の杖部10を把持した歩行者の腕と歩行者の両脚で歩行者の身体を支えて転倒を防止することができる。つまり、この歩行支援装置は、歩行者の腕力への依存度を低くし、腕よりも大きな筋力を有する両足で身体を支えて転倒を防止することができる。
【0028】
したがって、実施例1の歩行支援装置を利用した転倒防止方法は、歩行者の転倒の危険性を大きく軽減することができる。
【0029】
次に、この歩行支援装置を利用して歩行する歩行者がタンデムスタンス状態に陥った際の運動を、
図4に示す線形倒立振子にバネ力を加えた運動で表しモデル化して説明する。なお、このモデル化の場合、歩行者の加速度を考慮していない。このため、歩行者の重心の位置として説明するが、加速度を考慮したZMPでも同様に考えることができる。
【0030】
歩行者がタンデムスタンス状態に陥った際、歩行者の支持脚は前方の脚に切り替わる。歩行者の後方の脚は遊脚となる。このため、運動の座標系は、前足の位置を原点とし、歩行者の進行方向をy軸方向、進行方向に対する左右方向をx軸方向、接地面と垂直な方向をz方向と設定する(
図6参照)。また、歩行者の体重をm、重力加速度をg、脚の蹴り力をf、重心の位置をy,z、z軸に対する重心の傾き角度をθ(歩行者側への傾きを正とする。)、バネ定数をkとする。バネは歩行者の前方の充分離れた位置を基点に重心と同じ高さに設置されているものとし、バネの自然長はy=0の前足の位置と設定する。y=0の時、重心は前足の真上に位置する。この時、歩行者の運動方程式は式1で表すことができる。
【0032】
歩行中の歩行者の重心の上下方向の変位は数cm程度であるため、歩行者が蹴り力fによって重心を一定の高さz
0に維持できていると便宜的に仮定すると、z=0となり、式2で表す力のつり合い式が成立する。
【0034】
支持脚の長さをlとおくと、cosθ=z
0/l、sinθ=−y/lより、水平方向の運動方程式は式3で表すことができる。
【0036】
式3はバネ−マス系の運動方程式を表しており、系の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和から、倒立振子の軌道エネルギーは式4で求めることができる。
【0038】
E>0の時、重心は支持脚の真上を通過する。E<0の時、重心は支持脚の真上を通過する前に失速し、最終的には速度が反転し後方に向けて移動する。E=0の時、重心は支持脚の真上で静止する。タンデムスタンス状態に陥った際の転倒は、支持脚の切換時のエネルギー損失によって軌道エネルギーが負になり発生するものと考えられる。このため、転倒を回避するためには、不足するエネルギーを補って、E=0にする必要がある。このため、式5に示すようにkを設定する。
【0040】
以上により、歩行者の重心に対してkyの力を加えることによって軌道エネルギーを補完し、歩行者の転倒を防止することができると考えられる。
【0041】
そこで、タンデムスタンス状態によって歩行者の転倒を防止するために必要な歩行支援装置の引張力は以下のようにして求めることができる。
歩行者がタンデムスタンス状態における歩行支援装置は、
図5に示すように、x軸方向への力F
x、y軸方向への力F
y、及びz軸周りのトルクτを発生させることができる。x軸方向への力F
x、y軸方向への力F
y、及びz軸周りのトルクτは式6で表すことができる。ここで、F
0,F
1,F
2は各オムニホイール31による駆動力を表し、Rは台座部30の中心とオムニホイール31との距離を表す。
【0043】
歩行者がタンデムスタンス状態に陥った際、
図6に示すように、式7に示す引張力を発生させることで不足している軌道エネルギーを補い転倒の防止を図る。歩行支援装置が発生させた引張力は使用者の重心に直接作用するものと仮定する。なお、実際の歩行では不足しているエネルギーを全て補完せずとも、その一部を補うだけで残りの不足分を歩行者が自力で賄えることが経験的に判明している。このため発生させる引張力にはゲインk
gをかけることで補正を行う。この値は事前の実験によって経験的に設定される。
【0045】
式5、式7を導出するに当たり、歩行者の重心位置yは式8を用いて導出する。ここでy
RLは右足のy軸方向の位置、y
LLは左足のy軸方向の位置、y
FLはタンデムスタンス状態の前側に位置する足のy軸方向の位置である。また、歩行者の重心位置は両足位置の中点に位置すると仮定している。
【0047】
歩行者がタンデムスタンス状態に陥っているかどうかの判定は、式9によって行う。ここで、x
Rlは右足のx軸方向の位置、x
LLは左足のx行く方向の位置、dは左右の足の間の距離である。
【0049】
d<0の時、歩行者はタンデムスタンスに陥っているとみなす。そして、歩行支援装置は式7の引張力を発生させて歩行者の転倒防止を図る。
【0050】
次に、この歩行支援装置が歩行者のタンデムスタンス状態の転倒を防止することができるかを検証した歩行実験を説明する。
実験内容は、健常者である1名の被験者が歩行支援装置を利用して歩行し、およそ8秒経過後に意図的にタンデムスタンス状態を発生させるというものである。タンデムスタンス状態における歩行支援装置と歩行者の動作を記録し、歩行支援装置が式7で示される引張力を発生させる場合と発生させない場合との結果の違いを比較した。実験は室内の特に障害物の内平らな床面上で行われた。実験の際のパラメータ設定を表1に示す。
【0052】
歩行実験の結果、
図7(A)に示すように、0秒〜8秒の間、被験者が歩行支援装置から受ける引張力が負になっている。これは、通常歩行時、被験者が歩行支援装置を押しているためである。およそ8.0秒〜9.5秒の間、歩行支援装置は引張力を発生させている。また、歩行支援装置の引張力によって、被験者の軌道エネルギーの一部が保管され(
図7(B)参照)、重心位置が0に収束している(
図7(C)参照)。被験者がタンデムスタンス状態に陥り、歩行支援装置が引張力を発生させた状態を
図7に示す。
【0053】
一方、歩行支援装置が引張力を発生させなかった場合、軌道エネルギーは補完されず(
図7(B)参照)、重心位置が0に収束していない(
図7(C)参照)。この実験では被験者は健常者であったため実際に転倒することはなかったが高齢者の場合、重心位置が後方に位置したままでは身体を支えきれず転倒するおそれがある。
【0054】
この実験結果から、歩行支援装置を利用して歩行する歩行者がタンデムスタンス状態に陥った際に倒立振子モデルに基づいた引張力を歩行支援装置が発生させることで、不足している軌道エネルギーを補い、重心が歩行者の後方に位置することによる転倒を防止することができる。
【0055】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、転倒前状態をタンデムスタンス状態としたが、タンデムスタンス状態以外の転倒前状態でも歩行支援装置によって転倒を防止することができる。
(2)実施例1では、検知装置が膝下の両脚の位置を検知し、この検知に基づいて両足の接地位置を特定したが、検知装置が直接的の両足の接地位置を検知してもよい。
(3)実施例1では、歩行支援装置の杖部と台座部とをユニバーサルジョイントで連結したが、ユニバーサルジョイントで連結せず、杖部の傾きを制御しなくてもよい。
(4)実施例1では、杖部に力覚センサーを介装させたが、力覚センサーを介装させなくてもよい。
(5)実施例1では、駆動部を有する移動機構として台座部にオムニホイールを搭載したが、他の移動機構であってもよい。