(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333077
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】トルクレンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 23/143 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
B25B23/143
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-118376(P2014-118376)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-231639(P2015-231639A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151690
【氏名又は名称】株式会社東日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】辻 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聖司
(72)【発明者】
【氏名】濱野 幹也
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3048560(JP,B1)
【文献】
特開平8−290367(JP,A)
【文献】
特公平7−22903(JP,B2)
【文献】
特開昭58−211868(JP,A)
【文献】
特公昭51−36520(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/143
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材を設定トルク値で締め付けるトルクレンチであって、
前記締結部材に締付力を伝達するヘッド部と、
前記ヘッド部を先端に固定したヘッドシャフト部と、
前記ヘッドシャフト部の後端部に一体に設けられた固定リンク部材と、前記固定リンク部材の前後方向に配置した前トグルリンク部材および後トグルリンク部材と、前記前トグルリンク部材および前記後トグルリンク部材に連結されて4節リンクを形成する可動リンク部材と、前記可動リンク部材を付勢するトルク値設定用ばねとを有するトグル機構と、
前記締結部材を締め付けるための手力が作用し、前記可動リンク部材に前記手力を伝達するグリップ部と、
を有し、
前記グリップ部は、前記可動リンク部材に対して前後方向に相対移動可能であって、前記グリップ部の後端部が前記後トグルリンク部材と前記可動リンク部材とが連結される後連結点よりも後方位置まで延びていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
前記トルク値設定用ばねは、前記後連結点よりも後方位置に配置され、前記可動リンク部材を前記固定リンク部材に対して後方側に向けて付勢することを特徴とする請求項1に記載のトルクレンチ。
【請求項3】
前記固定リンク部材は、筒形状に形成された第1筒部をなし、前記可動リンク部材は筒形状に形成された第2筒部をなしていて、前記第2筒部は前記第1筒部内に配置され、前記第2筒部の後端部は前記第1筒部の後端よりも後方に延出され、前記第2筒部の後端部に前記グリップ部の後端部が前後方向に沿って移動可能に装着されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトルクレンチ。
【請求項4】
前記グリップ部の前端部に、前記第1筒部を通して前記第2筒部に当接し、前記グリップ部の下動動作に従って前記第2筒部を押下げる押下げピンを有することを特徴とする請求項3に記載のトルクレンチ。
【請求項5】
前記トグル機構の待機状態において、前記固定リンク部材に対する前記前トグルリンク部材および前記後トグルリンク部材がそれぞれ前連結点および後連結点を介してなす角度をそれぞれα1、α2とし、前記締結部材の締付中心と前記前連結点との距離をL、前記前連結点と前記後連結点との距離をSとすると、
cotα2={(L+S)/L}cotα2
を満足する角度にα1、α2を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のトルクレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付時の把持位置に影響されることなく所定のトルク値でボルト等の締結部材を締め付けることができるトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
トルクレンチは、ボルト等の頭部に係合するソケットを角軸に連結したヘッド部と、前記ヘッド部を取り付けたパイプ状のレバー部とを有し、前記レバー部の後端部にはボルト締め作業者が把持するグリップ部が設けられている。前記グリップ部には、手力線が形成されていて、作業者はこの手力線に手を合わせるようにしてグリップ部を把持する。
【0003】
作業者の把持位置がこの手力線からずれても、設定トルクでの締め付けができるトルクレンチが提案されている(特許文献1)。
【0004】
従来のこのようなトルクレンチの原理を、
図5を参照して簡単に説明する。ヘッドシャフト1の先端にヘッド2が固定され、ヘッドシャフト1の後端に筒状のハンドル部3がリンク部材(不図示)を介して連結される。ハンドル部3内には、トグル機構を用いた4節リンク構成のトルクリミッタ4が配置される。トルクリミッタ4は、ヘッドシャフト1に対し、第1リンク部材5と第2リンク部材6の一端がピン7a、7bを介して回転自在に連結され、第1リンク部材5と第2リンク部材6の他端をピン7c、7eを介してスライドリンク部材9により連結している。ヘッドシャフト1とスライドリンク部材9との間には、トルク値設定用のスプリング10が配置され、スプリング10のバネ力Fによりスライドリンク部材9をハンドル部3の内周面に当接させている。
【0005】
スライドリンク部材9がハンドル部3の内周面に当接した状態はトルクリミッタ4が作動していないスタンバイ状態で、このスタンバイ状態で締結部材の締め付けを開始する。また、スタンバイ状態において、第1リンク部材5と第2リンク部材6がヘッドシャフト1となす角(後方に向けて傾斜)をα1、α2とする。
【0006】
ここで、締結部材2の軸心とピン7cとの間の距離をL、ピン7cとピン7dとの間の距離をSとし、締め付け力Pが加わる位置は、ピン7cからS1、ピン7dからS2とする。
【0007】
締付力Pが加わると、ハンドル部3を介してスライドリンク部材9には、ピン7c、7dに反力P1、P2が発生し、スプリング10のバネ力Fに対して反力F1,F2が発生する。反力F1とF2との和がバネ力Fに達すると、ハンドル部3と共にスライドリンク部材9が図中、下方向に移動しながら後方に移動し、トルクリミッタ4が動作する。
【0008】
締結部材2の軸回りにおけるトルクをTとすると、
T=P・(L+S1)・・・・・(式1)
P、P2が作用するピン7c回りのモーメントの和は、
P・S1−P2S=0
より、
P2=P・(S1/S)・・・・(式2)
P、P1が作用するピン7d回りのモーメントの和は、
P1・S−P・S2=0
より、
P1=P・(S2/S)・・・・(式3)
ピン7cに作用する水平方向の力をF1、ピン7dに作用する水平方向の力をF2とすると、
(P1/F1)=tanα1より、F1=P1・cotα1・・・(式4)
(P2/F2)=tanα2より、F2=P2・cotα2・・・(式5)
式4、式5は式2、式3より、
F1=P・(S2/S)・cotα1・・・(式4´)
F2=P・(S1/S)・cotα2・・・(式5´)
一方、水平方向の力は、
F=F1+F2 であり、
F=P・(S2/S)・cotα1+P・(S1/S)・cotα2・・・(式6)
となり、さらに、
F=(P/S){S2・cotα1+S1・cotα2}・・・(式6´)
となる。式6´より、
P=S・F/(S2・cotα1+S1・cotα2)・・・(式6´´)
ここで、式1に式6´´を代入すると、
T=S・(L+S1)・F/(S2・cotα1+S1・cotα2)・・・(式7)
となる。
【0009】
今、S1=0、すなわち締付力Pが作用する位置を距離Lの位置とすると、S2=Sとなり、
T=L・F/cotα1・・・(式8)
また、S1=Sとすると、S2=0となり
T=S・(L+S)・F/(S・cotα2)・・・(式9)
となる。
【0010】
式8と式9より、
L・F/cotα1=S・(L+S)・F/S・cotα2であり、
これを整理すると、
cotα2={(L+S)/L}cotα1・・・・(式10)
が得られる。
【0011】
式9に式10を代入すると、
T=L・F/cotα1・・・・(式11)
が得られる。
【0012】
すなわち、式10を満足するように、2組のトグルリンクの設定角度α1、α2を設定すると、式11に示すように、締付力Pの位置S1,S2が変化しても、作動トルクTは変化しないことになる。
【0013】
このようなトルクレンチにおいて、締付力Pが加わる位置がピン7cとピン7dとの間とすると、トルクリミッタ4の周りを把持することになるので、ハンドル部3の外径が大きくなり、把持し難い傾向にある。このため、
図5に示すように、トルクリミッタ4よりも後方に締付力P´が加わる位置を設定することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭51−036520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、手力の加えることができる位置を幅広く設定できるトルクレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的を実現する第1の構成は、締結部材を設定トルク値で締め付けるトルクレンチに関する。
【0017】
このトルクレンチは、前記締結部材に締付力を伝達するヘッド部と、前記ヘッド部を先端に固定したヘッドシャフト部と、前記ヘッドシャフト部の後端部に一体に設けられた固定リンク部材と、前記固定リンク部材の前後方向に配置した前トグルリンク部材および後トグルリンク部材と、前記前
トグルリンク部材および前記後
トグルリンク部材に連結されて4節リンクを形成する可動リンク部材と、前記可動リンク部材を付勢するトルク値設定用ばねとを有するトグル機構と、前記締結部材を締め付けるための手力が作用し、前記可動リンク部材に前記手力を伝達するグリップ部と、を有し、前記グリップ部は、前記可動リンク部材に対して前後方向に相対移動可能であって、前記グリップ部の後端部が前記後トグルリンク部材と前記可動リンク部材とが連結される後連結点よりも後方位置まで延びている。
【0018】
本発明の目的を実現する第2の構成は、上記した第1の構成において、前記トルク値設定用ばねは、前記後連結点よりも後方位置に配置され、前記可動リンク部材を前記固定リンク部材に対して後方側に向けて付勢する。
【0019】
本発明の目的を実現する第3の構成は、上記したいずれかの構成において、前記固定リンク部材は、筒形状に形成された第1筒部をなし、前記可動リンク部材は筒形状に形成された第2筒部をなしていて、前記第2筒部は前記第1筒部内に配置され、前記第2筒部の後端部は前記第1筒部の後端よりも後方に延出され、前記第2筒部の後端部に前記グリップ部の後端部が前後方向に沿って移動可能に装着されている。
【0020】
本発明の目的を実現する第4の構成は、上記第3の構成において、前記グリップ部の前端部に、前記第1筒部を通して前記第2筒部に当接し、前記グリップ部の下動動作に従って前記第2筒部を押下げる押下げピンを有する。
【0021】
本発明の目的を実現する第5の構成は、上記いずれかの構成において、前記トグル機構の待機状態において、前記固定リンク部材に対する前記前トグルリンク部材および
前記後
トグルリンク部材がそれぞれ前連結点および後連結点を介してなす角度をそれぞれα1、α2とし、
前記締結部材の締付中心と前記前連結点との距離をL、前記前連結点と前記後連結点との距離をSとすると、
cotα2={(L+S)/L}cotα2
を満足する角度にα1、α2を設定する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1、5に係る発明によれば、グリップ部を握って締結部材を締め付ける際、トグル機構の配置位置よりも後方の任意の位置に手力を加えても設定トルク値でトグル機構を作動させることができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、トグル機構の作動時に可動リンク部材を前方に向けて移動させることができ、トグル機構の前方スペースを有効に利用することができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、トグル機構をシンプルな構成とすることができる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、例えばグリップ部の前部を握って締め付けても、設定トルク値で締結部材を締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明によるトルクレンチの実施形態を示す外観図。
【
図2】
図1のトルクレンチにおけるトルクリミッタを示す図。
【
図3】
図2のトルクリミッタの作動原理を説明する図。
【
図4】締付力の作用位置と、締付力とトルクとの関係を説明する図。
【
図5】従来のトルクレンチにおけるトルクリミッタの作動原理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に示す実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は本発明によるトルクレンチの実施形態を示す外観図、
図2(a)は
図1のトルクレンチにおけるトルクリミッタを示す図、(b)は(a)のA−A矢視断面図である。
【0029】
トルクレンチ1は、ヘッド部2と、ヘッドシャフト部3と、4節リンク構成のトグル機構を備えたトルクリミッタ部4と、グリップ部7とを有する。
【0030】
ヘッド部2は、ヘッド本体部20に対して角軸部21が一方向に回転可能に取り付けられる。
【0031】
ヘッドシャフト部3は、中空のシャフト部30の先端部に取り付け軸部31が固定されている。取り付け軸部31には、ヘッド本体部20の根元部22が差し込まれる。取り付け軸部31の外周部には、周方向に90度の角度範囲にわたって溝部32が形成されている。ヘッド本体部20の根元部22には、溝部32に係合する係合軸部(不図示)が例えばねじ込まれている。したがって、ヘッド部2はヘッドシャフト部3に対し、軸周りに90度の範囲にわたって回動可能となっている。
【0032】
トルクリミッタ部4は、固定リンク部材をなす中空形状の第1筒部41、前記第固定リンク部材に対して移動する可動リンク部材をなす中空形状の第2筒部42を有する。第1筒部41は、絞り加工等により、先端部側から後端部側にわたり、円筒形状から長方形状に形成され、円筒形状の第1円筒部41aがシャフト部30の後端部に固定され、長方形状の第1矩形筒部41b内に後述する第2矩形筒部42aが配置される。
【0033】
第2筒部42は、絞り加工等により、先端部側から後端部側にわたり、長方形状から円筒形状に形成され、長方形状の第2矩形筒部42aが第1矩形筒部41b内に配置される。なお、第1筒部41の第1矩形筒部41bの後端は、第2筒部42の第1矩形筒部42aの後端部まで延びている。
【0034】
ここで、互いに直交する3軸をX軸、Y軸、Z軸とし、トルクレンチ1の長手方向をX軸、
図2(b)に示すように第1矩形筒部41b、第2矩形筒部42aの短辺方向をY軸、第1矩形筒部41b、第2矩形筒部42aの長辺方向をZ軸とする。第1筒部41のX軸方向の軸線X1と第2筒部42のX軸方向の軸線X2は、Y軸方向では重なるが、Z軸方向では相対的に移動する。
【0035】
第1筒部41と第2筒部42は、第1トグルリンク部材43と第2トグルリンク部材44にそれぞれ連結ピン45a〜45dを介して連結され、4節リンク機構を構成する。第1トグルリンク部材43と第2トグルリンク部材44とはX軸方向に沿って所定の距離を隔てて配置される。第1トグルリンク部材43と第2トグルリンク部材44は、第2筒部42内に配置され、一端部側が第2筒部42の対向する長辺側壁部に固定される連結ピン45a、45cに回転自在に軸支される。第1トグルリンク部材43と第2トグルリンク部材44の他端部側は、第1筒部41の対向する長辺側壁部に固定される連結ピン45b、45dに回転自在に軸支される。
【0036】
本実施形態において、X−Z平面内での第1筒部41と第2筒部42の相対的移動を許容するために、第2筒部42には、連結ピン45b、45dとの干渉を避ける切欠部46が形成されている。
【0037】
第2筒部42の第2矩形筒部42aには、第1ストッパピン47aと第2ストッパピン47bがX軸方向に所定の距離を隔てて配置される。第1ストッパピン47aと第2ストッパピン47bは、Z軸方向に沿って互いに反対方向に向け第2矩形筒部42aの短辺側壁部を貫通している。第1ストッパピン47aと第2ストッパピン47bは、第2矩形筒部42a内に固定されたストッパピン取り付け体48に螺着される。第2矩形筒部42aの短辺側壁部には、第1ストッパピン47aと第2ストッパピン47bの突出側と反対側に第2作業孔49aが形成され、この第2作業孔49aを通して治具(不図示)を差し込んで第1ストッパピン47a、第2ストッパピン47bの後端部に係合させる。そして、第1ストッパピン47aと第2ストッパピン47bを回して螺出入させ、第1筒部41と第2筒部42とのZ軸方向における相対的な位置についての位置決めを行う。
【0038】
第2ストッパピン47bが第1筒部41の第1矩形筒部41bの第1短辺側壁部41cに当接する状態がトグル機構の非作動状態であり、第1ストッパピン47aが第1筒部41の第1矩形筒部41bの第2短辺側壁部41dに当接する状態がトグル機構の作動状態である。なお、第1矩形筒部41bの第1短辺側壁部41cと第2短辺側壁部41dには、第2作業孔49aに臨む第1作業孔49bが形成され、前記治具がこの第1作業孔49bから第2作業孔49aに差し込まれる。
【0039】
本実施形態において、第2筒部42を可動側とし、第1筒部41を固定側に設定し、トグル機構が動作すると、
図2において、第2筒部42を第1筒部41に対してX軸方向前方に移動しつつZ軸方向下方に移動させる。
【0040】
第2筒部42の第2円筒部42b内には、コイルスプリングで構成されるトルク値設定用のばね50、トルク値調整用ネジ軸51、ネジ軸51を軸方向移動不能で、軸周りに回転可能に支持する支持部材52、ネジ軸51に螺合し、ネジ軸51の軸周りの回転によりX軸方向に直進移動するナット部材53、X軸方向に移動自在なバネ受け部材54、バネ受け部材54と第1筒部41をX軸方向に沿って連結する連結棒55を有する。バネ受け部材54の後方にナット部材53が配置され、バネ受け部材54とナット部材53との間にトルク値設定用ばね50が弾装されている。
【0041】
連結棒55は、後端側がバネ受け部材54に連結ピン56aを介して連結され、先端側が、連結ピン56bを介して第1筒部41に連結される。第2矩形筒部42aの対向する長辺側壁部には連結ピン56bの周りに、連結ピン56bよりも十分大径の逃げ孔部57が形成され、第1筒部41と第2筒部42との相対移動の際に、連結ピン56bが第2矩形筒部42aと干渉しないようにしている。
【0042】
トルク値設定用ばね50のバネ力は、連結棒55を介して第1筒部41に伝達される。トルク値設定用ばね50のバネ力をFとし、バネ力Fは第1筒部41をX軸方向の前方に向け付勢する。
【0043】
一方、第1トグルリンク部材43の連結ピン45aは連結ピン45bよりも前方に位置し、同様に第2トグルリンク部材44の連結ピン45cは連結ピン45dよりも前方に位置する。そして、トグル機構の非作動状態において、第1トグルリンク部材43と第2トグルリンク部材44は、第1筒部41に対し、X軸方向に対して傾斜角度α1、α2(α1≠α2)を有して保持される。
【0044】
グリップ部7は、第2筒部42の第2円筒部42bの外周を覆う円筒状のグリップ本体部70と、第1筒部41の第2矩形筒部41bの外周を覆う扁平状のカバー部71とを有する。グリップ本体部70は、トグル機構の連結ピン45a〜45dよりもX軸方向後方に位置する。
【0045】
グリップ部7は、グリップ本体部70に対し第2円筒部42bがX軸方向にスライド可能とし、カバー部71が第1円筒部41aに対してZ軸方向に移動可能とする。グリップ本体部70の内側には、ローラ部72が設けられる。ローラ部72は第2円筒部42bの外周面に摺接する。グリップ部7には、手力線70aが表示される。
【0046】
カバー部71は、トグル機構の動作の際に、第1筒部41に対し第2筒部42と共にZ軸方向への移動を許容するために、第1矩形筒部41bの外周に対し、Z軸方向に隙間h1、h2を有する。
【0047】
また、カバー部71に手を当てて下方に押し下げるような使用方法の場合、カバー部71の押下げ力を押下げピン74を介して第1筒部41に伝達する。押下げピン74の上端は、端部がカバー部71の内周側に設けた差し込み穴75に差し込まれる。押下げピン74は、第2矩形筒部42aの下側の短辺側壁部59aに下端が固定され、第2矩形筒部42aの上側の短辺側壁部59bに形成した第1貫通孔60aを貫通する。さらに、第1貫通孔60aを貫通した押下げピン74は、第1矩形筒部41bの第1短辺側壁部41cに形成した第2貫通孔60bを貫通し、カバー部71の差し込み穴75に差し込まれる。なお、第2貫通孔60bは、グリップ部7が第2筒部42と共に移動する際、押下げピン74との干渉を避ける内径に形成されている。また、カバー部71の後方の下端部には、Y軸方向にガイドピン76がカバー部71に固定されている。第1矩形筒部41bの後端部には、ガイドピン76が係合する逆U字形状のガイド溝部61が形成される。
【0048】
したがって、カバー部71は、ガイドピン76がガイド溝部61にガイドされることにより、トグル機構の動作時にZ軸方向に沿って移動する。その際、カバー部71の差し込み穴75は押下げピン74の先端部に当接し、押下げピン74を押下げる。
【0049】
上記した構成のトルクレンチ1により、ボルト等の締結部材を所定のトルクで締め付けるために、作業者はグリップ部7のグリップ本体部70を握り、締付力P´で手前側に引く。この場合、手力線70aに合せて握る必要はない。
【0050】
締付力P´は、グリップ本体部70から第2筒部42に伝達され、第1
トグルリンク部材43と第2
トグルリンク部材44及び連結ピン45a〜45dを介して第1筒部41に伝達される。さらに、シャフト部30に固定されるヘッド部2を介してボルト等の締結部材に締付力が伝達される。第1筒部41から見てトルク値設定用ばね50は、第2筒部42をX軸方向後方に向けて付勢する。
【0051】
したがって、締付力P´がトルク値設定用ばね50で設定するバネ力Fに達すると、第2筒部42は、連結ピン45b、45dを支点とし、第1トグルリンク部材43および第2トグルリンク部材44を介してX軸方向前方に移動しつつ、Z軸方向下方に移動する。そして、第1ストッパピン47aが第1矩形筒部41bの第2短辺側壁部41dに当接するまで第2筒部42が移動する。したがって、トルクレンチ1の操作者は、締付力の急激な変動を感じ取り、設定したトルク値による締結部材の締め付けが完了したものと判断する。
【0052】
次に、締付力P´の作用位置が締付トルクに影響しないことを
図3を参照して説明するが、その前に、トルクレンチにより締結部材2をトルク値Tで締め付ける場合、締付力を作用する長さ(有効長)が変わると、締付力も変わることを
図4を参照して説明する。
【0053】
図4は、締結部材2をトルクTで締め付ける場合、締付力Pが有効長Lの位置に作用する場合と締付力P´が有効長L´(L<L´)の位置に作用する場合を示すものである。作業者が同じトルクTで締結部材2を締め付ける場合でも、有効長が短いと締付力Pが大きく、有効長が長いと締付力P´(P´<P)は小さくなる。
【0054】
すなわち、どの位置に締付力が作用しても、Tが一定となるように、有効長の長さに応じて適切な締付力が作用することになる。
【0055】
図3において、締結部材2の締付中心Oと連結ピン45bとの距離をL、連結ピン45bと連結ピン45dとの距離をSとする(なお、連結ピン45aと連結ピン45c間の距離も略Sである)。また、連結ピン45cと連結ピン45cよりも後方の締付力P´の作用点Qの距離をS2、連結ピン45aと作用点Q間の距離をS1、締結部材2の締め付け中心Oと作用点Qの距離をLxとする。
【0056】
式2および式3より、P2=P(S1/S)、P1=P(S2/S)である。
図5に示すように、締付力Pの作用点Qが、反力P1と反力P2が生じる点の間に存在するときは、S1+S2=Sより、0<(S1/S)<1、0<(S2/S)<1である。
【0057】
一方、
図3において、連結ピン45aの回りのモーメントの和は、時計回り方向を正とすると、
P´・S1−P2・S=0
P2=(S1/S)P´・・・(式21)
連結ピン45cの回りのモーメントの和は、
P´・S2+P1・S=0
P1=−(S2/S)P´・・・(式22)
となる。
【0058】
すなわち、
図5に示すように、締付力Pの作用点Qが反力P1と反力P2の生じる点の間に存在する場合と、本実施形態のように、締付力P´の作用点Qが連結ピン45cよりも後方に存在する場合では、反力P1が正であるか負であるかが相違するだけである。
【0059】
したがって、式10より、
cotα2={(L+S)/L}cotα1
を満たすようなα1、α2を設定すれば、トグル機構で構成されたトルクリミッタ4が作動するときのトルク値Tは、締付力Pの作用点Qが反力P1と反力P2の生じる点の間に存在する場合と、本実施形態のように、締付力P´の作用点Qが連結ピン45cよりも後方に存在する場合でも一定となる。そして、式11より、設定トルク値Tと、トルク値設定用のばね50のバネ力Fとの関係は、
T=L・F/cotα1
で与えられ、バネ力Fは締付力の作用点Qの位置に無関係に設定される。
【0060】
実施例
L=510mm、S=80mm、α2=45°(cot45°=1)とすると、
cotα1={L/(L+S)}・cotα2より、
cotα1={510/(510+80)}・cot45°
=0.8644
となり、α1=49.16°となる。
【0061】
式9より、F=T/(L+S)であるから、設定トルク値Tを280×10
3N・mとすると、トルク値設定用のばね50のバネ力Fは、475Nとなる。
【符号の説明】
【0062】
1 トルクレンチ
3 ヘッド部
4 トルクリミッタ部
41 第1筒部 42 第2筒部
43 第1トグルリンク部材 44 第2トグルリンク部材
45a〜45d 連結ピン 50 トルク値設定用ばね
7 グリップ部