(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
端部に外歯スプラインを有するクランク軸と、該クランク軸を支持するキャリヤと、前記外歯スプラインに連結される内歯スプラインを有するクランク軸歯車と、を備えた偏心揺動型の減速装置であって、
前記クランク軸の前記外歯スプラインが形成された端部は、前記キャリヤから軸方向に突出し、
前記外歯スプラインは、前記キャリヤ側の端部に斜面部を有し、
前記クランク軸歯車は、前記外歯スプラインの斜面部に当接することにより、軸方向キャリヤ側への移動が規制され、かつ
前記外歯スプラインの斜面部の終端は、前記キャリヤの前記クランク軸歯車側の軸方向端面よりも軸方向外側に位置している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
端部に外歯スプラインを有するクランク軸と、該クランク軸を支持するキャリヤと、前記外歯スプラインに連結される内歯スプラインを有するクランク軸歯車と、を備えた偏心揺動型の減速装置であって、
前記クランク軸の前記外歯スプラインが形成された端部は、前記キャリヤから軸方向に突出し、
前記外歯スプラインの軸方向端部側の外径を、軸方向キャリヤ側の外径よりも小さくして段部を形成し、
該段部により、前記クランク軸歯車の軸方向キャリヤ側への移動を規制し、
前記段部と、前記キャリヤの軸方向端面とが、軸方向に離れており、
前記クランク軸歯車の反キャリヤ側端面及び前記クランク軸の端面と軸方向に対向するキャリヤ側端面を有する押え部材を備え、
前記押え部材のキャリヤ側端面と前記クランク軸の端面との間には隙間が設けられ、
前記押え部材は、前記クランク軸歯車を反キャリヤ側から押さえた状態で前記クランク軸に結合される
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
端部に外歯スプラインを有するクランク軸と、該クランク軸を支持するキャリヤと、前記外歯スプラインに連結される内歯スプラインを有するクランク軸歯車と、を備えた偏心揺動型の減速装置の前記クランク軸歯車の組み込み方法であって、
前記クランク軸の前記外歯スプラインが形成された端部は、前記キャリヤから軸方向に突出し、
前記外歯スプラインは、前記キャリヤ側の端部に斜面部を有しており、かつ
前記クランク軸歯車の前記内歯スプラインの軸方向両端に形状の異なる面取り部を形成する工程と、
前記クランク軸の端部から前記クランク軸歯車を組み込み、該クランク軸歯車を、前記外歯スプラインの斜面部に当接させる工程と、
前記クランク軸歯車の軸方向位置が、所定の基準を満たさなかった場合に、該クランク軸歯車の前記キャリヤに対する軸方向対向面を反転させて、クランク軸歯車を組み込み直す工程と、
を含むことを特徴とする偏心揺動型の減速装置のクランク軸歯車の組み込み方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置10の全体断面図、
図2は、
図1の要部断面図である。
【0016】
先ず、この減速装置10の全体構成から説明する。
【0017】
減速装置10は、振り分けタイプと称される偏心揺動型の減速装置である。この減速装置10は、第1、第2外歯歯車12、13、内歯歯車14、および内歯歯車14の軸心C14からオフセットした位置に配置された複数のクランク軸16を備える。各クランク軸16は、クランク軸歯車18によって同期して駆動され、これにより第1、第2外歯歯車12、13を揺動させながら内歯歯車14に内接噛合させている。
【0019】
減速装置10は、図示せぬ入力軸に設けられた入力歯車と噛合うクランク軸歯車18を、複数(この例では3個:
図1では1個のみ図示)備えている。
【0020】
各クランク軸歯車18は、クランク軸16とスプライン連結されている(スプライン連結構造については、後に詳述)。クランク軸16は、内歯歯車14の軸心C14からR16だけオフセットした位置に、複数(この例では3本:
図1では1本のみ図示)、円周方向に120度の間隔で配置されている。
【0021】
各クランク軸16には、軸方向同位置に、該クランク軸16の軸心C16に対して偏心した外周を有する第1偏心部24が形成されている。また、該第1偏心部24と隣接してそれぞれのクランク軸16の軸方向同位置に、軸心C16に対して偏心した外周を有する第2偏心部26が形成されている。各クランク軸16の第1偏心部24同士、および第2偏心部26同士は、偏心位相が揃えられている。第1偏心部24と第2偏心部26の偏心位相差は、この例では180度である(互いに離反する方向に偏心している)。
【0022】
各クランク軸16の第1偏心部24の外周には、第1ころ28を介して第1外歯歯車12が組み込まれている。各クランク軸16の第2偏心部26の外周には、第2ころ30を介して第2外歯歯車13が組み込まれている。
【0023】
これにより、3本のクランク軸16上の第1偏心部24が同期して回転することで第1外歯歯車12を揺動させ、同様に、3本のクランク軸16上の第2偏心部26が同期して回転することで第2外歯歯車13を揺動させることができる。
【0024】
第1外歯歯車12および第2外歯歯車13の軸方向両側には、第1キャリヤ36および第2キャリヤ38が配置されている。各クランク軸16は、正面合わせで組み込まれた一対の円錐ころ軸受40、42を介して第1キャリヤ36および第2キャリヤ38に支持されている。第1キャリヤ36および第2キャリヤ38は、背面合わせで組み込まれた一対の円錐ころ軸受44、46を介してケーシング52に支持されている。
【0025】
なお、第2キャリヤ38からは、キャリヤピン48が一体的に突出されている。キャリヤピン48は、第1外歯歯車12および第2外歯歯車13を非接触で貫通している。第1キャリヤ36と第2キャリヤ38は、キャリヤピン48を介して連結ボルト50により連結・一体化されている。
【0026】
第1外歯歯車12および第2外歯歯車13は、内歯歯車14に内接噛合している。内歯歯車14は、この実施形態では、ケーシング52と一体化された内歯歯車本体14Aと、該内歯歯車本体14Aに回転自在に組み込まれ、該内歯歯車14の内歯を構成するピン部材14Bとで構成されている。内歯歯車14の歯数(ピン部材14Bの本数)は、第1外歯歯車12および第2外歯歯車13の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0027】
本実施形態では、ケーシング52にはボルト(ボルト孔54のみ図示)を介してロボットの第1アーム(図示略)が連結される。また、第2キャリヤ38にはボルト(タップ穴56のみ図示)を介してロボットの第2アーム(図示略)が連結される。なお、ケーシング52と第2キャリヤ38との間には、オイルシール58が配置されている。
【0028】
次に、主に
図2を参照して、クランク軸歯車18とクランク軸16の連結部の構造について、詳細に説明する。なお、
図2を含め、各図面においては、技術的特徴の理解を容易にするため、面取り部の形状の違いなどを、誇張して描いている。
【0029】
クランク軸16は、第1キャリヤ36から軸方向外側(減速装置10の第1外歯歯車12から軸方向に離れる側:この例では反第1外歯歯車側)に突出している。この第1キャリヤ36から突出されたクランク軸16の軸方向端部16Aの外周に、外歯スプライン60が形成されている。
【0030】
一方、クランク軸歯車18は、径方向中央に貫通孔18Pを有し、該貫通孔18Pの内周に、外歯スプライン60と噛合する(外歯スプライン60に連結される)内歯スプライン62が形成されている。クランク軸16とクランク軸歯車18は、この外歯スプライン60と内歯スプライン62の噛合によって、回転方向に動力伝達可能に連結されている。
【0031】
外歯スプライン60は、クランク軸16の軸方向端部16Aから第1キャリヤ36側に向かうに従って、第1の特定の位置60Sまでは形成深さ(外歯スプライン60の歯丈)が均一であり、第1の特定の位置60Sから徐々に形成深さが浅くなり(歯丈が小さくなっており)、第2の特定の位置60Eで形成深さが零となっている。ここでは、以降、この外歯スプライン60の形成深さが徐々に浅くなっていく部分を「斜面部60A」、形成深さが浅くなり始める第1の特定の位置60Sを、「斜面部60Aの始端60S」、形成深さが零となる第2の特定の位置60Eを、「斜面部60Aの終端60E」と称することにする。つまり、外歯スプライン60は、当該外歯スプライン60の第1キャリヤ36側の端部(始端60S〜終端60Eの間の領域)に斜面部60Aを有している。
【0032】
斜面部60Aの終端60Eは、第1キャリヤ36の軸方向端面(軸方向外側端面:軸方向反第1外歯歯車側の端面)36Aよりも、L(36A−60E)だけ軸方向外側に位置している。つまり、斜面部60A(の終端60E)は、径方向から見て第1キャリヤ36と重なっておらず、外歯スプライン60の斜面部60Aの終端60Eと、第1キャリヤ36は、軸方向にL(36A−60E)だけ離れている。したがって、クランク軸歯車18の第1キャリヤ36側の軸方向端面18E2と第1キャリヤ36の軸方向端面36Aは、寸法L(36A−60E)よりも、さらに大きく離れている。
【0033】
なお、斜面部60Aは、本実施形態では、軸方向断面が曲線状に形成されている。しかし、斜面部の軸方向断面は、これに限定されず、例えば、直線状に形成してもよく、直線と直線の組み合わせ、あるいは、直線と曲線の組み合わせで構成してもよい。
【0034】
図3(A)は、
図2のクランク軸16の斜面部60Aの近傍の要部拡大断面図である。
【0035】
この実施形態では、クランク軸歯車18の内歯スプライン62の軸方向両端に第1面取り部18Aおよび第2面取り部18Bがそれぞれ形成されている。
【0036】
クランク軸16は、第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの下端18B1が、クランク軸16の外歯スプライン60の斜面部60Aに当接している。つまり、クランク軸歯車18は、該斜面部60Aの始端60Sと終端60Eの間の特定の「当接位置60C」において第2面取り部18Bの下端18B1でクランク軸16と当接している。この当接により、クランク軸歯車18の軸方向第1キャリヤ36側の移動が規制されている。
【0037】
この実施形態では、第1面取り部18Aおよび第2面取り部18Bは、それぞれ軸に対して45度の角度で直線状に形成した構成とされている。ただし、第1面取り部18Aと第2面取り部18Bは、この実施形態では、形状が異なっている(相似ではあるが合同ではない)。具体的には、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部18Aより小さい。
【0038】
ここで、面取り部の大小は、該面取り部が外歯スプライン60の斜面部60Aと当接した状態における、クランク軸歯車18と第1キャリヤ36との間の距離に依存して決定される。具体的には、クランク軸歯車18と第1キャリヤ36との間の距離が大きいほど、面取り部は小さい。より具体的には、例えば、本実施形態のように、面取り部18Bの下端18B1が斜面部60Aと当接するときは、面取り部の軸方向範囲の大小が面取り部の大小と一致し、後述する
図5(A)の実施形態のように面取り部74Bの上端74B1が斜面部70Aと当接するときは、面取り部の径方向範囲の大小が面取り部の大小と一致する。
【0039】
本実施形態では、クランク軸歯車18は、第2面取り部18Bの下端18B1でクランク軸16の斜面部60Aと当接しており、かつ、第1面取り部18Aの軸方向範囲は、L18A、第2面取り部18Bの軸方向範囲は、L18Bであり、L18B<L18Aである。つまり、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部18Aよりも小さい。
【0040】
なお、この実施形態では、クランク軸歯車18の組み付け時において、クランク軸16の外歯スプライン60とクランク軸歯車18の内歯スプライン62は、周方向に当接せずに軸方向に当接する構成とされている。つまり、
図4(B)に示されるように、クランク軸16の外歯スプライン60とクランク軸歯車18の内歯スプライン62は、当接位置60Cにおいて、軸方向には当接している。しかし、
図4(A)に示されるように、該外歯スプライン60と内歯スプライン62は、周方向には当接しておらず、隙間δ62が存在している。これは、クランク軸歯車18を、クランク軸16に組み込んだときに、クランク軸16の外歯スプライン60とクランク軸歯車18の内歯スプライン62は、周方向に当接するよりも先に軸方向に当接するように構成されていることを意味している。なお、クランク軸歯車18の回転時においては、当然、クランク軸16の外歯スプライン60とクランク軸歯車18の内歯スプライン62は、周方向に当接して動力伝達がなされる。
【0041】
なお、この隙間δ62は、例えば、
図4(A)において想像線で示されるように、クランク軸歯車18の内歯スプライン62の端部周辺を周方向に細く形成する(クラウニングを形成する)ことによって、δ62Cにまでより大きく確保することができる(δ62C>δ62)。
【0042】
クランク軸16の軸方向端部16Aには、止め輪溝16Bが形成されており、該止め輪溝16Bに止め輪66が係止されている。クランク軸歯車18の反キャリヤ側の軸方向端面18E1は、この止め輪66と当接している。
【0043】
次に、この偏心揺動型の減速装置10の作用を設明する。
【0044】
始めに、減速装置10の減速作用から説明する。
【0045】
図示せぬ入力歯車が回転すると、該入力歯車と同時に噛合している3個のクランク軸歯車18が同一の方向に同一の回転速度で回転する。
【0046】
各クランク軸歯車18は、それぞれクランク軸歯車18の内歯スプライン62およびクランク軸16の外歯スプライン60の噛合を介して、クランク軸16と連結されている。そのため、3本のクランク軸16が入力歯車とクランク軸歯車18との歯数比に減速された状態で同一の方向に同一の回転速度で回転する。その結果、クランク軸16の軸方向同位置に形成された3個の第1偏心部24が同期して回転して第1外歯歯車12を揺動させると共に、クランク軸16の軸方向同位置にそれぞれ形成された3個の第2偏心部26が同期して回転して第2外歯歯車13を揺動させる。
【0047】
第1外歯歯車12および第2外歯歯車13は、それぞれ内歯歯車14に内接噛合しているため、各外歯歯車12、13が1回揺動する毎に、第1外歯歯車12および第2外歯歯車13は内歯歯車14に対して歯数差分(この実施形態では1歯分)円周方向の位相がずれる(自転する)。この自転は、各クランク軸16の内歯歯車14の軸心C14の周りの公転として第1キャリヤ36および第2キャリヤ38に伝達される。
【0048】
第1キャリヤ36および第2キャリヤ38は、第1キャリヤ36と一体化されたキャリヤピン48および連結ボルト50を介して互いに連結されている。これにより、ケーシング52に連結された第1アームに対して、第1キャリヤ36に連結された第2アームを相対的に回転させることができる。
【0049】
ここで、クランク軸歯車18とクランク軸16の連結部の周辺の作用について、詳細に説明する。
【0050】
本実施形態において、クランク軸歯車18をクランク軸16に組み込むときは、クランク軸歯車18の内歯スプライン62をクランク軸16の外歯スプライン60と噛合させ、そのままクランク軸歯車18を第1キャリヤ36側にスライドさせる。すると、クランク軸歯車18の内歯スプライン62は、クランク軸16の外歯スプライン60の斜面部60Aの特定の当接位置60Cにて外歯スプライン60の歯底と当接する(軸方向に当接する)。これにより、クランク軸歯車18の第1キャリヤ36側へのそれ以上の移動が規制される。
【0051】
そして、この状態で、止め輪溝16Bに止め輪66を嵌め込む。これにより、クランク軸歯車18の両方向の軸方向移動を規制することができる。
【0052】
本実施形態では、クランク軸16の外歯スプライン60の斜面部60Aの終端60Eと、第1キャリヤ36の軸方向端面36Aは、軸方向にL(36A−60E)だけ離れている(つまり、斜面部60Aは、第1キャリヤ36と径方向から見たときに重なっていない)。クランク軸歯車18とクランク軸16との当接位置60Cは、必ず斜面部60Aの始端60Sと終端60Eとの間に存在するため、ばらつきによって多少クランク軸歯車18の当接位置60Cが第1キャリヤ36側にずれたとしても、クランク軸歯車18と第1キャリヤ36とが位置的に干渉することはなく、クランク軸歯車18が第1キャリヤ36の軸方向端面36Aと接触するのを、確実に防止することができる。
【0053】
ここで、本実施形態では、クランク軸歯車18が組み付けられるときにおいて、クランク軸16の外歯スプライン60とクランク軸歯車18の内歯スプライン62は、周方向においてδ62(δ62C)の隙間を有して対向しており、周方向に当接せずに軸方向に当接している(
図4)。換言するならば、クランク軸歯車18を、クランク軸16に組み込むときに、外歯スプライン60と内歯スプライン62は、周方向に当接するよりも先に軸方向に当接するように構成されている。
【0054】
もし、外歯スプライン60および内歯スプライン62のピッチ(歯と歯の間の周方向の長さ)や歯厚のばらつき等によって、外歯スプライン60と内歯スプライン62が、周方向に先に当接してしまうと、クランク軸歯車18は、その時点でそれ以上軸方向第1キャリヤ36側に進めなくなり、3個のクランク軸歯車18の間で、当接位置60Cが軸方向に大きくばらついてしまう虞がある。しかし、本実施形態では、周方向には当接せず、必ず軸方向に当接するため、当接位置60Cのばらつきが小さい。
【0055】
また、この実施形態では、クランク軸歯車18の内歯スプライン62の軸方向両端に形状の異なる第1面取り部18Aと第2面取り部18Bとがそれぞれ形成されている。そして、第2面取り部18Bの下端18B1がクランク軸16の斜面部60Aと当接すると共に、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部18Aより小さく形成されている。
【0056】
この作用を、
図3を参照しつつ、適宜、クランク軸歯車18の組み込み方法に言及しながら詳細に説明する。
【0057】
先ず、本実施形態では、クランク軸16の第2面取り部18Bの「下端18B1」がクランク軸16の斜面部60Aと当接している。この当接態様は、後述する「上端」が当接する当接態様と比較して、傾斜がより緩やかな斜面部60Aの始端60Sの近くに当接位置60Cを配置する設計がし易く、斜面部60Aとクランク軸歯車18との当接部分の接触面積をより大きく確保する設計が容易である。そのため、当接部分が損傷しにくく、クランク軸歯車18が経時的にがたついてくるのをより低減することができる。
【0058】
次に、本実施形態では、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部18Aより小さく形成されている。より具体的には、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部18Bの軸方向範囲L18Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部18Aの軸方向範囲L18Aより小さく形成されている。
【0059】
ここで、
図3(B)は、軸方向第1キャリヤ36側に軸方向範囲L18Aの大きな第1面取り部18Aを位置させたときに、クランク軸歯車18の軸方向位置が変化する様子を、比較して示している。
【0060】
図3(A)と
図3(B)の比較から明らかなように、
図3(A)の組み込み態様は、
図3(B)の組み込み態様より、クランク軸歯車18を、外歯スプライン60の斜面部60Aに当接させたときに、より止め輪66に近い側(軸方向反第1キャリヤ36側)にクランク軸歯車18を位置決めすることができることが分かる。
【0061】
これにより、事実上、大半の減速装置10のクランク軸歯車18を、止め輪66との間に、隙間が殆ど存在しない状態(がたのない状態)で、クランク軸16に組付けることができる。
【0062】
そして、万一、ばらつきによって、クランク軸歯車18の斜面部60Aにおける当接位置60Cが、所定の基準を満たさず(当接位置60Cが軸方向反第1キャリヤ36側にずれ)、止め輪66が嵌められないようなときがあった場合には、
図3(B)に示されるように、クランク軸歯車18の第1キャリヤ36に対する軸方向対向面18E2を18E1に反転させて(軸方向範囲L18Aの大きな第1面取り部18Aを第1キャリヤ36側に向けて)クランク軸歯車18を組み込み直すようにする。
【0063】
これにより、クランク軸歯車18の当接位置60Cは同一でも、該当接位置60Cから軸方向端面18E1までの寸法(軸方向範囲)L18Aの大きさが大きい分、クランク軸歯車18の軸方向位置を、より第1キャリヤ36側にシフトさせることができる。換言するならば、止め輪66とクランク軸歯車18との間にδ(66−18)だけ、組付けの余裕代を確保することができる。その結果、結局、殆どの減速装置10において、がたが小さい状態で、クランク軸16を組み込むことが可能となる。
【0064】
図5(A)に、本発明の他の実施形態の一例(他の当接態様の一例)を示す。
【0065】
図5(A)の実施形態では、クランク軸歯車74の第2面取り部74Bの「上端74B1」がクランク軸72と当接するように構成している。第1面取り部74Aおよび第2面取り部74Bは、軸方向断面を、それぞれ軸に対して約20度の角度で直線状に形成した構成とされている。
図5(A)の実施形態においても、第1面取り部74Aと第2面取り部74Bは、形状が異なっており(相似ではあるが合同ではなく)、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部74Bの方が軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部74Aより小さい。
【0066】
より具体的には、クランク軸歯車74は、第2面取り部74Bの上端74B1でクランク軸72と当接しており、かつ、第1面取り部74Aの径方向範囲はR74A、第2面取り部74Bの径方向範囲は、R74Bであり、R74A>R74Bである。つまり、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部74Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部74Aより小さい。
【0067】
この
図5(A)の実施形態では、クランク軸歯車74の第2面取り部74Bの「上端」がクランク軸72の斜面部70Aと当接している。この当接態様は、前述した「下端」が当接する当接態様と比較して、傾斜がより大きい斜面部70Aの終端70Eの近くに当接位置70C1を配置する設計がし易く、当接位置70C1の軸方向のばらつきが小さな設計が容易である。そのため、止め輪66との間に大きな隙間の生じにくい組み込みが可能である。
【0068】
また、この
図5(A)の実施形態でも、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部74Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部74Aより小さく形成されている。より具体的には、軸方向第1キャリヤ36側の第2面取り部74Bの径方向範囲R74Bの方が、軸方向反第1キャリヤ36側の第1面取り部74Aの径方向範囲R74Aより小さく形成されている。
図5(B)は、軸方向第1キャリヤ36側に径方向範囲R74Aの大きな第1面取り部74Aを位置させたときに、クランク軸歯車74の軸方向位置が変化する様子を、比較して示している。
【0069】
図5(A)と
図5(B)の比較から明らかなように、
図5(A)の組み込み態様は、
図5(B)の組み込み態様より、クランク軸歯車74を、外歯スプライン70の斜面部70Aに当接させたときに、第1面取り部74Aの径方向範囲R74Aと第2面取り部74Bの径方向範囲R74Bが異なる分、より止め輪66に近い側(軸方向反第1キャリヤ36側)にクランク軸歯車74を位置決めすることができる。
【0070】
したがって、
図5(A)の組み込み態様により、事実上、大半の減速装置10のクランク軸歯車74を、止め輪66との間に、隙間が殆ど存在しない状態(がたのない状態)で、クランク軸72に組付けることができる。
【0071】
そして、万一、ばらつきによって、クランク軸歯車74の斜面部70Aにおける当接位置70C1が、所定の基準を満たさず(当接位置70C1が軸方向反第1キャリヤ36側にずれ)、止め輪66が嵌められないようなときがあった場合には、
図5(B)に示されるように、クランク軸歯車74の第1キャリヤ36に対する軸方向対向面74E2を74E1に反転させて(径方向範囲R74Aの大きな第1面取り部74Aを第1キャリヤ36側に向けて)クランク軸歯車74を組み込み直すようにする。
【0072】
これにより、クランク軸歯車74の当接位置70C1を、よりキャリヤ側の当接位置70C2にシフトさせることができる。換言するならば、この
図5の実施形態においても、止め輪66とクランク軸歯車74との間にδ(66−74)の分だけ、組付けの余裕代を確保することができる。その結果、殆どの減速装置10において、がたが小さい状態で、クランク軸72を組み込むことが可能となる。
【0073】
なお、上記実施形態においては、面取り部の軸方向断面を、軸に対して45度、あるいは20度の角度の単一の直線状の形状で構成していた。しかし、面取り部の形状は、必ずしもこれに限定されず、単一の直線以外の形状で構成してもよい。例えば、円弧状に形成してもよく、複数の直線を繋げた形状(多角形状)で構成してもよい。さらには、当接位置近傍の外歯スプラインの歯底の形状に沿わせた形状で構成してもよい。この構成は、当接位置近傍の内歯スプラインと外歯スプラインの接触面積を増大させることができ、経時的にクランク軸歯車ががたついてくるのを抑制できる点で有益である。
【0074】
面取り部の軸方向断面をこのような単一の直線以外の形状で構成した場合、面取り部の上端および下端以外の部位(上端と下端の間の部位)に当接位置が存在するように設計することもできる。
【0075】
また、面取り部は、必ずしも軸方向両端に形成する必要はなく、片側の端部にのみ形成してもよい。また、全く形成しなくてもよい。両端に形成する場合であっても、(相似を含めて)必ずしも形状を異ならせる必要はなく、同一の形状(合同の形状)で構成してもよい。また、軸方向一方側の面取り部がクランク軸と当接する位置と、軸方向他方側の面取り部がクランク軸と当接する位置が異なっていてもよい。例えば、クランク軸歯車の軸方向一方側の面取り部は、該面取り部の上端でクランク軸と当接し、軸方向他方側の面取り部は、該面取り部の下端でクランク軸と当接するような構成としてもよい。もちろん、いずれか一方、または双方の面取り部が、該面取り部の上端と下端の間で当接するように構成してもよい。
【0076】
図6に、本発明のさらに他の実施形態の一例を示す。
【0077】
この
図6の構成では、クランク軸歯車18の軸方向反キャリヤ側への移動を規制する抜け止め部材として、カラー80を有している。カラー80は、外歯スプライン60の外周に締まり嵌めにて外嵌している。
【0078】
カラー80の軸方向端部、特に内周の軸方向端部には、組み込み時のガイドとなる第1ガイド用面取り部80Gが形成されている。クランク軸16の端部外周には、第2ガイド用面取り部16Gが形成されている。カラー80は、第1ガイド用面取り部80Gを、クランク軸16の第2ガイド用面取り部16Gに沿わせながら、軸方向第1キャリヤ36側に押し込むことによって、クランク軸16に外嵌する。
【0079】
これまでの実施形態は、ばらつきの関係で、ときに止め輪66を止め輪溝16Bに嵌め込むのが困難となったり、逆に、止め輪66とクランク軸歯車18との間に隙間が発生してクランク軸歯車18に、がたつきが発生してしまうことがあり得る。既に説明したように、この不具合は、クランク軸歯車の軸方向両端に形成する面取り部の大きさを異ならせることにより、ある程度解消できるが、完全には解消できないことがある。
【0080】
これに対し、
図6の構成例では、カラー80をクランク軸歯車18の反キャリヤ側の軸方向端面18E1に当接するまで押し込むことができる。このため、当接位置60Cのばらつきの如何に関わらす、クランク軸歯車18を当接位置60Cとカラー80との間で、がたつくことなく位置決めすることができる。
【0081】
カラー80は、締まり嵌めでクランク軸16の外周に外嵌され、押し込みの完了と共に、そのままクランク軸16上で固定されるため、止め輪溝16Bの形成工程も不要であり、構造が簡単で低コストである。その他の構成は、先の
図1および
図2の実施形態で説明した構成と同様であるため、先の実施形態と同一の符号を
図6中で付すに止め、重複説明を省略する。
【0082】
なお、この実施形態においても、
図3、
図5を用いて説明した面取り部の大きさを異ならせる手法は、例えば、クランク軸歯車18の軸方向位置等を、より厳密に特定したいとき等において有効である。
図6においては、この点を考慮して、軸方向両端の第1、第2面取り部18A、18Bの大きさを敢えて異ならせている。しかし、面取り部の大きさは、同一であってもよい。
【0083】
図7に、本発明のさらに他の実施形態の一例を示す。
【0084】
この
図7の実施形態においては、クランク軸歯車18の軸方向反キャリヤ側への移動を規制する抜け止め部材として、円板状の押え板87を有している。押え板87は、クランク軸85の端面85Eにねじ89により結合されている。
【0085】
押え板87の外径d87は、クランク軸歯車18の内歯スプライン62の歯先円径D62よりも大きい。より具体的には、この実施形態では、クランク軸歯車18の内歯スプライン62の軸方向反キャリヤ側に第1面取り部18Aが形成されているため、押え板87の外径d87は、該第1面取り部18Aの上端の径d18Aよりもさらに大きい。
【0086】
そして、この実施形態では、クランク軸歯車18の軸方向反キャリヤ側の端面18E1は、クランク軸歯車18が斜面部88Aの当接位置88Cに当接したときに、クランク軸85の端面85Eよりも軸方向反キャリヤ側に突出幅δ(85E−18E1)だけ突出している。つまり、突出幅δ(85E−18E1)だけクランク軸85の端面85Eよりも突出するように外歯スプライン88の形状や寸法が設定されている。そのため、押え板87をクランク軸85の端面85Eにねじ89により結合することにより、押え板87の軸方向第1キャリヤ36側の端面87Eを、ばらつきの如何に関わらず、クランク軸歯車18の反キャリヤ側の端面18E1に当接させることができる。
【0087】
つまり、クランク軸歯車18の斜面部88Aにおける当接位置88Cが軸方向にばらついても、押え板87を、クランク軸85の端面85Eと干渉することなく、確実にクランク軸歯車18の軸方向端面18E1に当接させることができ、クランク軸歯車18の軸方向反キャリヤ側への移動を規制することができる。したがって、この実施形態の構成によっても、がたつきのない状態で、安定してクランク軸歯車18を軸方向に位置決めすることができる。
【0088】
また、先の実施形態と同様に、斜面部88Aの終端88Eと第1キャリヤ36の軸方向端面36Aとの間に寸法L(36A−88E)を確保できているため、第1キャリヤ36とクランク軸歯車18との干渉も防止できる。その他の構成・作用は、先の
図1、
図2の実施形態と同様である。
【0089】
図8に、本発明のさらに他の実施形態の一例を示す。
【0090】
これまでの実施形態においては、クランク軸歯車を、外歯スプラインの斜面部に当接させることによって、軸方向キャリヤ側への移動を規制していた。
【0091】
これに対し、この実施形態では、外歯スプライン92の軸方向端部側の外径d92Eを、軸方向第1キャリヤ36側の外径d92よりも小さく形成して段部92Gを形成し、クランク軸歯車18を、該段部92Gに当接させることにより、クランク軸歯車18の軸方向第1キャリヤ36側への移動を規制している。
【0092】
具体的には、例えば、外歯スプライン92の軸方向第1キャリヤ36側の外径(外歯スプライン60の歯先円径)はd92であって大径部を構成しており、軸方向端部側の外径はd92Eであって小径部を構成している。そして、小径部を構成している軸方向端部側の外径d92Eが、大径部を構成している軸方向第1キャリヤ36側の外径d92より小さい(d92>d92E)。小径部と大径部の間に段部92Gが形成されており、該段部92Gは、軸方向と直交する面で構成されている。この軸方向と直交する面で構成された段部92Gに、クランク軸歯車18の第1キャリヤ36側の軸方向端面18E2が当接する。クランク軸90の外歯スプライン92は、段部92Gを跨いで第1キャリヤ36側にまで形成され、斜面部92Aの終端92Eは、段部92Gより第1キャリヤ36側に到達している。
【0093】
段部92Gと第1キャリヤ36の軸方向端面36Aとは、軸方向にL(36A−92G)だけ離れている。なお、この実施形態では、外歯スプライン92の斜面部92Aの終端92Eと、第1キャリヤ36の軸方向端面36Aは、軸方向にL(36A−92E)だけ離れている。ただし、この段部92Gを有する構成の場合、クランク軸歯車18は、必ず段部92Gによって位置決めされる。このため、段部92Gと第1キャリヤ36の軸方向端面36Aとが軸方向にL(36A−92G)だけ離れている限り、外歯スプライン92の斜面部92Aの終端92Eと第1キャリヤ36の軸方向端面36Aは、必ずしも軸方向に離れている必要はない。換言するならば、斜面部92Aの終端92Eが、第1キャリヤ36の軸方向端面36Aよりも減速装置10の第1外歯歯車12側に入り込んでいてもよい。
【0094】
また、この実施形態を具現するには、例えば、外径がd92のクランク軸90の端部を外径がd92Eとなるまで小さく切削した後に、外歯スプライン60を形成するようにすればよい。したがって、クランク軸90の端部の外径を小さくするという1工程を設けるだけで、ばらつきなくクランク軸歯車18を位置決めすることが可能である。
【0095】
また、同じ1工程でも、止め輪溝16Bを形成する構造(止め輪溝16Bが外歯スプライン60と交差する構造)と比較して、ばりが発生し難いというメリットも得られる。
【0096】
この
図8の実施形態によれば、特に、第1キャリヤ36の軸方向端面36Aとクランク軸歯車18の第1キャリヤ36側の軸方向端面18E2との間に余裕がないような場合であっても、最小の隙間のみを確保して、第1キャリヤ36と干渉することなく、クランク軸歯車18をクランク軸90に組付けることができる。
【0097】
なお、上記実施形態においては、外歯歯車を揺動させるための偏心部を有するクランク軸が、内歯歯車の軸心からオフセットされた位置に複数設けられた、いわゆる振り分け型と称される偏心揺動型の減速装置に本発明が適用されていた。しかし、偏心揺動型の減速装置としては、外歯歯車を揺動させるための偏心部を有するクランク軸が、内歯歯車の軸心位置に一本のみ設けられた、いわゆるセンタクランク型と称される減速装置も公知である。本発明は、該内歯歯車の軸心に一本のみ設けられたクランク軸に、クランク軸歯車を組み込む場合にも、同様に適用可能である。