(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333192
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】熱電材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/16 20060101AFI20180521BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20180521BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20180521BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20180521BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
H01L35/16
H01L35/34
C22C28/00 B
B22F9/24 Z
B22F1/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-30535(P2015-30535)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-152388(P2016-152388A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】片岡 朋治
(72)【発明者】
【氏名】広納 慎介
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】服部 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大川内 義徳
【審査官】
鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−243729(JP,A)
【文献】
特開2013−118372(JP,A)
【文献】
特開2011−192914(JP,A)
【文献】
国際公開第99/054941(WO,A1)
【文献】
特開2005−243662(JP,A)
【文献】
特開2002−246662(JP,A)
【文献】
特開平09−275228(JP,A)
【文献】
特開2013−254924(JP,A)
【文献】
特開2008−108795(JP,A)
【文献】
特開2002−232026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/16
H01L 35/00−37/04
C22C 5/00−25/00
C22C 27/00−28/00
C22C 30/00−30/06
C22C 35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi、Te、Se及びSbを液相中で還元して、複合粒子を形成する液相還元工程;及び
液相還元工程で得られた複合粒子を水熱処理して、熱電材料を形成する水熱処理工程;を含み、
液相還元工程におけるSbの量が、Bi、Te、Se及びSbの合計量に対して、3.3mol%以下である、n型熱電材料の製造方法。
【請求項2】
水熱処理を4〜16時間行う、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中で熱電材料、特にn型熱電材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電材料は、熱エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換することのできる材料である。様々な熱電材料及びその製造方法が報告されている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1は、Bi
2−xSb
xTe
3−ySe
y(0≦x≦2,0≦y≦3)によって表される合金を粉砕し、酸化雰囲気下に暴露し、次に還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で焼成することを含む、熱電材料の製造方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、酸素親和性元素(アルカリ金属又はアルカリ土類金属)と熱電材料構成元素を、メカニカルアロイング法を用いて微粒子状態で混合することを含む、熱電材料の製造方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、Bi及びTe並びに過剰量のSb(脱酸剤)の単体元素粉末を真空又は不活性雰囲気下で混合し、大気雰囲気下でプレスによる予備成形体の形成及びその加圧焼結を行うことを含む、熱電材料の製造方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、Bi及びTe並びに過剰量のSbを溶解し、還元し、水熱処理することを含む、熱電材料の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−22565号公報
【特許文献2】特開2006−237461号公報
【特許文献3】特開平9−275228号公報
【特許文献4】特開2013−254924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、合金の粉砕時における表面酸化が問題となる。そのため、その後に還元雰囲気下で熱処理することが知られている。しかし、表面酸化を防止するために雰囲気を厳密に管理したり、還元雰囲気下での熱処理工程を追加すると、コストが増加してしまう。
【0009】
特許文献2では、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を酸素親和性元素として使用しているが、これらの元素は水やアルコール等の溶媒と容易に反応し、酸化してしまう。そのため、特許文献2の方法を液相中で実施することはできない。
【0010】
特許文献3では、脱酸剤としてのSbを粗大な粒子として使用している。ここで、特許文献3の方法を液相法に適用しても、十分な耐酸化性能を得ることはできない。実際、液相中に粗大なSb粒子を添加しても、予備成形体の形成及びその加圧焼結を大気雰囲気下で行うと熱電材料が酸化することが確認されている。この理由としては、液相法の場合、得られる熱電材料の粒径が非常に小さく、酸化されうる表面の割合が多いことが推測される(特許文献3の方法による粒径は約100μmであり、液相法による粒径は約10nmである)。
【0011】
特許文献3及び4では、過剰量のSbを使用している。しかし、n型熱電材料に多量のSbを含有させるとp型熱電材料となる虞がある。
【0012】
本発明が対象とするn型熱電材料(Bi
2(Te,Se)
3系材料)は、酸化の影響を受けやすく、各製造工程を不活性雰囲気下で実施しても酸化してしまう(以下の比較例1を参照)。この原因は、各製造工程間(例えば輸送)における瞬間的な大気暴露にあると推測される。それ故、n型熱電材料の製造においては、不活性雰囲気を極めて高度に制御することが要求されており、このままでは実用化に耐えることはできなかった。
【0013】
本発明は、耐酸化性能を有する熱電材料、特にn型熱電材料を液相中で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意検討した結果、Bi、Te及びSe並びに所定の量のSbを液相中で還元し、水熱処理することにより、耐酸化性能を有するn型熱電材料が得られることを見出した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐酸化性能を有するn型熱電材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、液相還元工程及び水熱処理工程を含む熱電材料、特にn型熱電材料の製造方法に関する。n型熱電材料は、例えばBi
2(Te,Se)
3±x(x=0〜1)で表すことができる。
【0018】
<液相還元工程>
液相還元工程は、Bi(ビスマス)、Te(テルル)、Se(セレン)及びSb(アンチモン)を液相中で還元して、複合粒子を形成する工程である。
【0019】
Sbの量は、Bi、Te、Se及びSbの合計量に対して、3.3mol%以下である。この量のSbを使用することにより、n型熱電材料の性能を維持し、当該熱電材料の酸化を抑制し、且つ当該熱電材料のキャリア濃度を低く維持することができる。
【0020】
Sbの量の下限は、0mol%でなければ特に限定されないが、例えば、0.01mol%、0.1mol%、0.5mol%、1.0mol%、1.5mol%、2.0mol%等を例示することができる。
【0021】
Bi、Te、Se及びSbの原料は、液相に溶解するものであればよい。例えば、Bi、Te、Se及びSbの塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を例示することができる。
【0022】
液相を構成する溶媒は、特に限定されないが、水及び有機溶媒等を例示することができる。有機溶媒としては、アルコール、アミド、ケトン等を例示することができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等を例示することができる。アミドとしては、アセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を例示することができる。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等を例示することができる。
【0023】
液相中の還元のために使用される還元剤は、特に限定されないが、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH
4)、水素化ホウ素カリウム(KBH
4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、水素化ジイソブチルアルミニウム([(CH
3)
2CHCH
2]
2AlH)、ヒドラジン(N
2H
4)、フェニルヒドラジン(PhHNNH
2)等を例示することができる。
【0024】
液相還元工程は不活性雰囲気下(窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等)で実施することが好ましい。
【0025】
<水熱処理工程>
水熱処理工程は、液相還元工程で得られた複合粒子を水熱処理して、熱電材料を形成する工程である。
【0026】
水熱処理の温度は、特に限定されないが、100〜400℃、150〜350℃、200〜300℃等を例示することができる。
【0027】
水熱処理の時間は、特に限定されないが、4〜16時間、6〜14時間、8〜12時間等を例示することができる。
【0028】
<乾燥工程>
本発明の製造方法は、更に乾燥工程を含んでいてもよい。乾燥工程は、水熱処理工程で製造された熱電材料の粉末を乾燥する工程である。乾燥工程は不活性雰囲気下(窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等)で実施することが好ましい。
【0029】
<バルク化処理工程>
本発明の製造方法は、更にバルク化処理工程を含んでいてもよい。バルク化処理工程は、水熱処理工程で製造された熱電材料の粉末、又は乾燥工程で乾燥された熱電材料の粉末をバルク化する工程である。バルク化処理の方法は、特に限定されないが、熱電材料の粉末を圧粉形成し、放電プラズマ焼結する方法を例示することができる。
【0030】
放電プラズマ焼結の温度は、特に限定されないが、300〜500℃、350〜450℃等を例示することができる。
【0031】
放電プラズマ焼結の時間は、特に限定されないが、5〜60分、5〜40分、5〜20分等を例示することができる。
【0032】
放電プラズマ焼結の圧力は、特に限定されないが、20〜80MPa、30〜70MPa、40〜60MPa等を例示することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例、参考例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0034】
<熱電材料の製造及びその特性測定>
[実施例1]
(1)原料溶液の調製
塩化ビスマス(14.27g)、塩化テルル(17.99g)、塩化セレン(0.25g)、及び塩化アンチモン(Bi、Te、Se及びSbの合計量に対してSbの量が2.0mol%となる量)をエタノール(1700ml)に溶解させて、原料溶液を調製した。
【0035】
(2)還元剤溶液の調製
水素化ホウ素ナトリウム(19.58g)をエタノール(1700ml)に溶解させて、還元剤溶液を調製した。
【0036】
(3)液相還元
窒素雰囲気下で還元剤溶液を原料溶液に滴下して、複合粒子を形成した。複合粒子は水及びエタノールで洗浄した。ここで、ナノ粒子を導入することで分散相が形成され、材料の性能が向上する。
【0037】
(4)水熱処理
複合粒子をエタノール(200ml)と混合し、水熱処理(10時間、240℃)して、熱電材料の粉末を得た。熱電材料の粉末はエタノールで洗浄した。
【0038】
(5)乾燥
熱電材料の粉末を不活性雰囲気下で乾燥した。
【0039】
(6)バルク化処理
乾燥させた熱電材料の粉末を圧粉成形し、放電プラズマ焼結(10分間、400℃、50MPa)によりバルク化した。
【0040】
(7)特性測定
X線回折装置(株式会社リガク製、水平型X線回折装置SmartLab)を用いて、酸化物の有無を測定した。
【0041】
Resi−test9340DC(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、キャリア濃度を測定した。
【0042】
[参考例1]
実施例1の「(1)原料溶液の調製」におけるSbの量を3.9mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0043】
[参考例2]
実施例1の「(1)原料溶液の調製」におけるSbの量を5.7mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0044】
[比較例1]
実施例1の「(1)原料溶液の調製」において塩化アンチモンを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0045】
<結果>
Sbの量が増加するにつれて、熱電材料の代わりに酸化されたSbの酸化物相が確認された。
【0046】
Sbの量が増加するにつれて、キャリア濃度が低下したが、一定の量を超えると、逆にキャリア濃度が上昇した(
図1)。キャリア濃度の上昇は、Sbが酸化されずに熱電材料内に合金化されることが原因であると推測される。
【0047】
上述の通り、液相法を利用する本発明によって得られる熱電材料の表面積は大きく、酸化の影響を受けやすいため、酸化を抑制するためにSbを多量に使用することが予測される。しかし、キャリア濃度の観点から、Sbの量は3.3mol%以下であることが好ましい。
【0048】
キャリア濃度を増加させることなく、少量のSbで効果的に酸化を抑制できる理由は、Sbが他の元素よりも還元されにくく、液相における熱電材料粒子の合成時にSbがin−situで合成されるため、熱電材料粒子の表面にSbが薄い保護膜のように形成されることによると推測される。
【0049】
なお、キャリア濃度を測定する際に、電子及び正孔の数を測定した結果、実施例、参考例及び比較例で製造された熱電材料はいずれもn型熱電材料であった。