特許第6333229号(P6333229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6333229-固定シンカーを有する横編機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333229
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】固定シンカーを有する横編機
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/06 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   D04B15/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-218212(P2015-218212)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-89027(P2017-89027A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】宮井 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】戸口 久寿
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第19505099(DE,A1)
【文献】 特表平03−504991(JP,A)
【文献】 特開平11−061604(JP,A)
【文献】 特開平03−232823(JP,A)
【文献】 特開2015−132026(JP,A)
【文献】 特許第4348286(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 3/00−19/00
D04B23/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針床の先端部に並設され、かつ尾端に嵌め込み部を有して長手方向中途部が屈曲された本体部の先端より頭部が歯口側に向かって突出する固定シンカーを有し、
前記本体部の並設方向に延びるワイヤーの軸回りに当該本体部のシンカー先端側支持部を支持しかつそのワイヤーの軸回りに前記頭部を歯口中心に対する接離方向へ揺動させる針床先端側支持部が前記針床の先端部に設けられているとともに、前記針床先端側支持部にシンカー先端側支持部を支持した状態で前記本体部の屈曲部分を撓ませた際のばね力によって前記本体部の尾端の嵌め込み部を底面及び先端側面に対しスナップフィットにより装着させるスナップフィット用凹部が前記針床の先端部の下面に凹設された横編機において、
前記針床の先端部には、前記本体部側に向かって開口し、かつ当該本体部の並設方向から挿通される線状材を支持する線状材用支持部が設けられており、
前記線状材を前記線状材用支持部に挿通した際に当該線状材と当接する前記本体部の屈曲部分よりも先端側の当接部分を歯口中心側へ押圧して前記頭部を前記ワイヤーの軸回りに歯口中心から離反する方向へ揺動させることを特徴とする固定シンカーを有する横編機。
【請求項2】
前記線状材用支持部と前記針床先端側支持部とは、前記針床の先端部において前記歯口側に向かってそれぞれ開口し、当該両支持部の支持面同士が互いに平行となっていることを特徴とする請求項1に記載の固定シンカーを有する横編機。
【請求項3】
前記嵌め込み部は、前記スナップフィット用凹部の底面及び先端側面に対しそれぞれ点接触する円弧状部分を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定シンカーを有する横編機。
【請求項4】
前記本体部の屈曲部分から前記嵌め込み部までの間には、その屈曲部分から嵌め込み部に近付くに従い上下方向の厚みが小さくなるようにテーパーが付けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固定シンカーを有する横編機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定シンカーを有する横編機に関し、詳しくは、固定シンカーの取付精度の向上を図る対策に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、図3に示すように、横編機1の針床11の先端部に固定シンカー2が複数並設され、この各固定シンカー2に、尾端に嵌め込み部23を有して長手方向中途部が高さ方向へ屈曲する本体部21と、本体部21の先端側のシンカー先端側支持部25より歯口G側に突出する頭部22とを備えたものは知られている(特許文献1参照)。また、針床11の先端部には、本体部21の並設方向に延びるワイヤー31の軸m回りにシンカー先端側支持部25を支持して頭部22を歯口中心Gaに対して接離方向へ揺動させる針床先端側支持部12と、ワイヤー31の軸m回りにシンカー先端側支持部25が支持された状態で本体部21の屈曲部分24を高さ方向へ撓ませた際のばね力によって本体部21の尾端の嵌め込み部23をスナップフィットにより装着させるスナップフィット用凹部13とが設けられている。この場合、本体部21の長手方向中途部が屈曲する高さ方向は、スナップフィット用凹部13に対する嵌め込み部23の装着方向と一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4348286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スナップフィット用凹部13は、針床11の先端部の下面に凹設され、本体部21の屈曲部分24を撓ませた際のばね力によって、嵌め込み部23を底面131及び先端側面132に対し当接させている。その場合、針床11及び固定シンカー2の加工精度が共に許容公差範囲内であっても、先端側面132に対する嵌め込み部23の当たり加減に差が生じている。
【0005】
このとき、先端側面132に対する嵌め込み部23の当たり加減の強弱によって、予め設計上において定められた基準位置に対し頭部22の位置がばらついてしまう。この固定シンカー2の頭部22の位置は、前後の針床11を取り付ける際に基準となるため、より高い精度が要求されている。
【0006】
本発明の目的は、前後の針床を取り付ける際に基準となる頭部の位置を基準位置に対し高い精度で近付けることができる固定シンカーを有する横編機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、針床の先端部に並設され、かつ尾端に嵌め込み部を有して長手方向中途部が屈曲された本体部の先端より頭部が歯口側に向かって突出する固定シンカーを有している。更に、前記本体部の並設方向に延びるワイヤーの軸回りに当該本体部のシンカー先端側支持部を支持しかつそのワイヤーの軸回りに前記頭部を歯口中心に対する接離方向へ揺動させる針床先端側支持部を前記針床の先端部に設けるとともに、前記針床先端側支持部にシンカー先端側支持部を支持した状態で前記本体部の屈曲部分を撓ませた際のばね力によって前記本体部の尾端の嵌め込み部を底面及び先端側面に対しスナップフィットにより装着させるスナップフィット用凹部を前記針床の先端部の下面に凹設した横編機を前提とする。そして、前記針床の先端部に、前記本体部に向かって開口し、かつ当該本体部の並設方向から挿通される線状材を支持する線状材用支持部を設け、前記線状材を前記線状材用支持部に挿通した際に当該線状材と当接する前記本体部の屈曲部分よりも先端側の当接部分を歯口中心側へ押圧して前記頭部を前記ワイヤーの軸回りに歯口中心から離反する方向へ揺動させることを特徴としている。
【0008】
また、前記線状材用支持部と前記針床先端側支持部とを、前記針床の先端部において前記歯口側に向かってそれぞれ開口させ、当該両支持部の支持面同士を互いに平行とすることがこのましい。
【0009】
また、前記嵌め込み部に、前記スナップフィット用凹部の底面及び先端側面に対しそれぞれ点接触する円弧状部分を備えることがこのましい。
【0010】
更に、前記本体部の屈曲部分から前記嵌め込み部までの間に、その屈曲部分から嵌め込み部に近付くに従い上下方向の厚みが小さくなるようにテーパーを付けることがこのましい。
【発明の効果】
【0011】
針床の線状材用支持部に挿通した線状材と当接する本体部の当接部分を線状材で歯口中心側へ押圧することで、ワイヤーの軸回りに頭部が歯口中心から離反する方向へ揺動し、基準位置に対して頭部の位置が安定する。これにより、前後の針床を取り付ける際に基準となる頭部の位置を基準位置に対して高い精度で近付けることができる。
【0012】
また、針床の先端部において線状材用支持部及び先端側支持部をそれぞれ歯口側に向かって開口させ、当該両支持部の支持面同士を互いに平行とすることで、線状材用支持部と先端側支持部とをそれぞれ支持面に沿って歯口側から加工することができ、線状材用支持部及び先端側支持部の加工精度を向上させることができる。
【0013】
また、スナップフィット用凹部の底面及び先端側面に対し嵌め込み部を円弧状部分によってそれぞれ点接触させることで、嵌め込み部をスナップフィット用凹部の底面及び先端側面に対しそれぞれ精度よく当接させることができる。
【0014】
更に、本体部の屈曲部分から嵌め込み部までの間に、嵌め込み部に近付くに従い上下方向の厚みが小さくなるようにテーパーを付けることで、屈曲部分に作用する応力が本体部の屈曲部分から嵌め込み部までの間にも分散され、屈曲部分に対する応力集中を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る固定シンカーを有する横編機の一方の針床の先端部付近を編針の進退方向が略水平となる状態で側方から見た断面図である。
図2図1の固定シンカーをスナップフィット用凹部にスナップフィットにより装着する前の状態を示す側面図である。
図3】従来例に係る固定シンカーを有する横編機の一方の針床の先端部付近を編針の進退方向が略水平となる状態で側方から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係る固定シンカーを有する横編機の一方の針床の先端部付近を編針の進退方向が略水平となる状態で側方から見た断面図、図2は固定シンカーをスナップフィット用凹部にスナップフィットにより装着する前の状態を示す側面図をそれぞれ示している。
【0018】
図1及び図2において、横編機1は、前後一対の針床11(一方のみ示す)を備え、前後の針床11間での編目の目移しを可能としている。この針床11の先端部には、長手方向中途部が高さ方向へ屈曲された本体部21の先端より頭部22が突出する固定シンカー2(図では1つのみ示す)が複数並設されている。各固定シンカー2の本体部21の尾端には、略矩形状の嵌め込み部23が設けられている。この場合、歯口中心Gaは、前後の針床11間の中間位置を鉛直方向に延びている。
【0019】
針床11の先端部には、各固定シンカー2の本体部21の先端を支持する針床先端側支持部12が設けられている。この針床先端側支持部12は、上方及び歯口G側に向かってそれぞれ開口する断面略L字状の切欠によって構成されている。また、針床先端側支持部12は、針床11の先端部において当該針床11の底面と略平行に歯口G側に向かって延びる支持面121を有している。一方、本体部21の先端には、尾端側(図1及び図2では左側)に断面形状が開口するシンカー先端側支持部25が設けられている。そして、針床先端側支持部12には、各固定シンカー2の本体部21の並設方向(紙面手前奥方向)に延びる断面円形状の第1ワイヤー31が挿通され、この第1ワイヤー31の軸m回りにシンカー先端側支持部25が支持されて頭部22を歯口中心Gaに対して接離方向へ揺動可能としている。このとき、頭部22は、各固定シンカー2の本体部21の並設方向に延びる断面円形状の第2ワイヤー32が挿通された状態で、第1ワイヤー31の軸m回りの歯口中心Gaに対する接離方向への揺動が許容されている。
【0020】
また、針床11の先端部の下面には、針床先端側支持部12に第1ワイヤー31を介してシンカー先端側支持部25が支持された本体部21の嵌め込み部23をスナップフィットにより装着するスナップフィット用凹部13が設けられている。スナップフィット用凹部13は、底面131と、この底面131の先端及び尾端に連続する先端側面132及び尾端側面133とを備えている。また、嵌め込み部23は、針床先端側支持部12にシンカー先端側支持部25が第1ワイヤー31を介して支持された状態で屈曲部分24を撓ませた際のばね力によってスナップフィット用凹部13の底面131と先端側面132とにスナップフィットにより装着される。また、嵌め込み部23の略中心部には、各固定シンカー2の本体部21の並設方向に延びる断面円形状の第3ワイヤー33が挿通されている。
【0021】
更に、本体部21の屈曲部分24よりもシンカー先端側支持部25側に位置する針床11の先端部の下面には、本体部21の並設方向から挿通される断面円形状の線状材34を支持する線状材用支持部14が設けられている。この線状材用支持部14は、本体部21側に向かって開口するように下方及び歯口G側に向かってそれぞれ開口する断面略L字状の切欠によって構成されている。この場合、第1〜第3ワイヤー31〜33及び線状材34は、鋼線や高強度な樹脂、又は繊維強化複合材料などでもよい。
【0022】
また、線状材用支持部14は、針床11の先端部において当該針床11の底面と略平行に歯口G側に向かって延びる支持面141を有している。この支持面141と、針床先端側支持部12の支持面121とは、互いに平行となっている。これにより、針床先端側支持部12及び線状材用支持部14を同時又は個別にそれぞれ支持面121,141に沿って同じ歯口G側から加工することができ、針床先端側支持部12及び線状材用支持部14の加工精度を向上させることができる。
【0023】
そして、線状材34を線状材用支持部14の角部に挿通した際に当該線状材34と当接する本体部21の屈曲部分24よりもシンカー先端側支持部25側の当接部分27を歯口中心Ga側(図1に実線で示す矢印方向)へ押圧して屈曲部分24の撓みを抑制し、頭部22を第1ワイヤー31の軸m回りに歯口中心Gaから離反する方向(図1に実線で示す矢印方向)へ揺動させることで、基準位置に対して頭部22の位置を安定させている。これにより、前後の針床11を取り付ける際に基準となる頭部22の位置を基準位置に対して高い精度で近付けることができる。
【0024】
このとき、線状材34としては、例えば0.9mmを基準にして±0.02mm毎に径を異ならせた複数種類のものが用意されている。そして、嵌め込み部23をスナップフィットにより装着させた際に第1ワイヤー31の軸m回りに傾いて基準位置よりも歯口中心Ga側へ近付く頭部22を、当接部分27の歯口中心Ga側への押圧によって第1ワイヤー31の軸m回りに歯口中心Gaから離反する方向へ揺動させて基準位置に近付けるための線状材34が複数種類の中から選択される。
【0025】
また、嵌め込み部23は、スナップフィット用凹部13の底面131と先端側面132との角部に対応する角部より突設され、かつスナップフィット用凹部13への嵌め込み時にその底面131及び先端側面132に対しそれぞれ点接触する円弧状部分26を備えている。これにより、嵌め込み部23をスナップフィット用凹部13の底面131及び先端側面132に対しそれぞれ精度よく当接させることができる。
【0026】
更に、本体部21の屈曲部分24から嵌め込み部23までの間の上面には、その屈曲部分24から嵌め込み部23に近付くに従い上下方向の厚みが若干小さくなるように僅かにテーパーが付けられている。この本体部21の屈曲部分24から嵌め込み部23までの間のテーパー率は、例えば50mmあたりの高さ方向の寸法が1〜2mm小さくなるように1/50〜2/50程度に設定されている。これにより、屈曲部分24を撓ませた際に当該屈曲部分24に作用する応力が本体部21の屈曲部分24から嵌め込み部23までの間にも分散され、屈曲部分24に対する応力集中を回避することができる。なお、屈曲部分24から嵌め込み部23までの間での上面のみに限らず、嵌め込み部23側(尾端側)に近付くに従い上下方向の厚みが若干小さくなるように下面のみ又は上下両面共に僅かなテーパーが付けられていてもよい。また、本体部21の屈曲部分24から嵌め込み部23までの間のテーパー率は、1/50〜2/50程度に限定されるものではなく、固定シンカーの材質や屈曲部分へ作用する応力値などに応じてテーパー率を設定すればよい。
【0027】
ところで、針床11及び固定シンカー2の加工精度が共に許容公差範囲内であっても、先端側面132に対する嵌め込み部23の当たり具合が強くなる傾向となるように予め設定していてもよい。このとき、先端側面132に対する嵌め込み部23の強い当たり具合によって、本体部21が尾端側へ強く引き寄せられ、頭部22が第1ワイヤー31の軸m回りに傾いて基準位置よりも歯口中心Ga側へ近付く傾向となっている。このため、線状材34を線状材用支持部14の角部に挿通すれば、歯口中心Ga側へ近付く頭部22を第1ワイヤー31の軸m回りに歯口中心Gaから離反する方向へ円滑に揺動させて、頭部22の位置を基準位置に対してより高い精度で近付けることができる。
【0028】
なお、前記実施の形態では、前後一対の針床11を備えた横編機1に用いられる固定シンカー2について述べたが、前後の少なくとも一方に上下二段の針床を備えた横編機に用いられる固定シンカーに適用されていてもよい。また、針床の先端部の編針間において可動シンカーと共に複数並設される固定シンカーに適用されていてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 横編機
11 針床
12 針床先端側支持部
121 支持面
13 スナップフィット用凹部
131 底面
132 先端側面
14 線状材用支持部
141 支持面
2 固定シンカー
21 本体部
22 頭部
23 嵌め込み部
24 屈曲部分
25 シンカー先端側支持部
26 円弧状部分
27 当接部分
31 第1ワイヤー(ワイヤー)
34 線状材
G 歯口
Ga 歯口中心
m 軸
図1
図2
図3