(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333243
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】高性能SCR触媒システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/94 20060101AFI20180521BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20180521BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20180521BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B01D53/94 280
B01D53/94 222
B01J23/10 AZAB
F01N3/08 B
F01N3/24 C
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-517174(P2015-517174)
(86)(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公表番号】特表2015-525130(P2015-525130A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】KR2013005003
(87)【国際公開番号】WO2013187633
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年4月26日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0062413
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514079170
【氏名又は名称】ヒソン カタリスツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100127579
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】ヒョンシク・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ウンソク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヌンギュン・アン
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−511691(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/030127(WO,A1)
【文献】
特開2003−314254(JP,A)
【文献】
特表2007−527314(JP,A)
【文献】
特開2004−321851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
B01J21/00−38/74
F01N3/08
F01N3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルの排気ガス処理のためのSCR触媒システムにおいて、SOF成分を除去する触媒活性物質を有するSOF除去触媒モジュールがディーゼルエンジンの後段に付けられ、その下流にSCR触媒活性物質を有するSCR触媒モジュールを装着して窒素酸化物を効率的に除去することができ、
SOF成分を除去する触媒活性物質の結束力および担体の付着力増進のために、シリカ、ジルコニア、アルミナ酸化物が含まれ、
SOF成分を除去する触媒活性物質が、セリアであり、かつ、白金を含まないことを特徴とする窒素酸化物を除去するための高性能なSCR触媒システム。
【請求項2】
SCR触媒活性物質が、酸化チタン(TiO2)、タングステン酸化物(WO3)、または酸化モリブデン(MoO3)がバナジウムに添加されたバナジウム系列、ゼオライト系列および卑金属(base metal)酸化物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の高性能なSCR触媒システム。
【請求項3】
SOF成分を除去する触媒活性物質またはSCR触媒活性物質は、ハニカム型担体の内壁に塗布されていることを特徴とする、請求項1に記載の高性能なSCR触媒システム。
【請求項4】
担体が、コーディエライト、炭化ケイ素、コーディエライト−α−アルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュミン、アルミナ−シリカ−マグネシア、珪酸ジルコン、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト、またはα−アルミナ、アルミノシリケートからなることを特徴とする、請求項3に記載の高性能なSCR触媒システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能なSCR触媒構造体に関するものであり、より詳細には溶解性有機物質(SOF, Soluble Organic Fraction)を大量に排出する船舶エンジンの排気ガス処理において適用できるSCR触媒システムにおいて、SOF成分を除去する触媒モジュールがエンジン後段に付けられ、その下流にSCR触媒モジュールを装着して窒素酸化物を効率的に除去することができる高性能なSCR触媒システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の環境規制強化によって、船舶のディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物を制御するための選択的触媒還元(SCR; selective catalytic reduction)システムが活用されている。SCRシステムは、船舶用エンジンの窒素酸化物排出量の削減に活用されている。前記のシステムでは、触媒が装着された経路を通過する排気ガスの流れにアンモニアが噴射される。アンモニアは、排気ガスに含まれる多量の窒素酸化物を還元して水と窒素に変換する。SCRシステムに用いられる脱窒素酸化物触媒は高価であるため、排気ガス/アンモニア/触媒反応の化学量論を制御できることが好ましい。このような脱窒素酸化物のような触媒活性物質は、耐火無機材料または金属材質の担体に支持される。SCRシステムに用いられる触媒は、製造方法によって押出し型SCR触媒およびコーティング型SCR触媒に大別することができ、触媒活性物質および担体を含み、排気ガスの圧力降下を防ぐために通常ハニカム型構造に製作される。このようなSCR触媒は、通常船舶のエンジン後段に装着されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、船舶用エンジンの燃費改善のために、燃費の面で最も優れたターボチャージャー装着エンジンが船舶に適用されることが増加している。このように、ターボチャージャー装着エンジンの後段にSCR触媒を装着する場合、触媒入口の温度がSCR触媒作用の最適温度に及ばない230度程度で、SCR活性が保障されず、船舶用ディーゼルエンジンから放出される炭素、硫酸塩、水などの粘着性液体混合物のSOF成分がSCR触媒の表面に累積する場合は、SCR触媒活性が低下するのみならず過量のSOFが触媒に流入する場合、ハニカム型担体チャネルが詰まる現象が発生している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、船舶用ディーゼルエンジン、特にターボチャージャー装着エンジンの排気ガス処理において適用されるSCR触媒システムの問題を解決するために提供されるもので、SOF成分を除去する触媒モジュールがエンジン後段に付けられ、その下流にSCR触媒モジュールを装着して窒素酸化物を効率的に除去することができる高性能なSCR触媒システムに関するものである。
【0005】
また、本発明は、船舶用ディーゼルエンジン、特にターボチャージャー装着エンジンの排気ガス処理において適用されるSCR触媒システムの問題を解決するために、SOF除去触媒成分がSCR触媒物質の上層に一体に形成されたSCRモジュールからなる高性能SCR触媒システムに関するものである。
【0006】
本発明によるSCR触媒システムにおいてSOF成分を除去する触媒活性物質は、セリア;またはセリア複合酸化物;またはセリアを含む混合物であり、触媒活性物質の結束力と担体の付着力強化のためにシリカ、ジルコニアおよび/またはアルミナ酸化物を含み得る。SOF成分を除去する触媒活性物質は、担体の内部に沈積したり、担体の内壁に塗布することができる。前記のセリア複合酸化物は、セリアを含有する酸化物複合体であり、10〜20重量部のセリアを有することができる。
【0007】
本発明のSOF成分除去モジュールにおいて、担体はハニカム型構造に形成され、コーディエライト、炭化ケイ素、コーディエライト−α−アルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュミン、アルミナ−シリカ−マグネシア、珪酸ジルコン、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト、α−アルミナ、アルミノシリケートなどから成り得、コーディエライトが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0008】
一方、本発明によるSCR触媒システムにおいてSOF除去モジュールの下流には、SCR触媒モジュールを続けて装着することができる。SCR触媒モジュールにおいて、担体の内部に沈積させたり、塗布する触媒活性物質は、酸化チタン(TiO
2)、タングステン酸化物(WO
3)、または酸化モリブデン(MoO
3)がバナジウム添加されたバナジウム系列、ゼオライト系列または卑金属(base metal)の酸化物であり得るが、これらに限定されない。
【0009】
また、本発明による高性能SCR触媒システムのSOF成分を除去する触媒活性物質は、SCR触媒の上層に積層することができ、これによりSCR触媒モジュールはSOF除去活性機能を伴うことになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるSCR触媒システムは、船舶用ディーゼルエンジン、特にターボチャージャー装着エンジンの後段に適用され、200℃以下の比較的低温でSOF成分を分解することにより、粘着性液体混合物であるSOF成分がSCR触媒の表面に累積してSCR触媒の活性を減少させ、SOF成分の粘着性によってハニカム型担体チャネルが詰まる問題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の船舶用ディーゼルエンジンに適用されるSCR触媒システムおよび、本発明によって具現されるSCR触媒システムの概略構成図である。
【
図2】本発明によるSOF除去触媒および、一般的な酸化触媒の溶解性有機物質(SOF)除去性能評価測定の結果グラフである。
【0012】
本発明は、SOF成分を除去する触媒モジュールがエンジン後段に付けられ、その下流にSCR触媒モジュールを装着して船舶などに適用されるディーゼルエンジンから放出される窒素酸化物を除去するための高性能なSCR触媒システムに関するものである。
【0013】
本発明で用いられる用語の「下流」とは、エンジンを基準に排気ガスの流れの方向を示す語である。「モジュール」とは、1つの機能を遂行するための最小単位の装置を意味するもので、例えば、「SCR触媒モジュール」とは、ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物を除去するためにSCR機能を遂行するための触媒装置を意味するものであり、「SOF除去モジュール」とは、ディーゼルエンジンから排出される炭素、硫酸塩、水などの粘着性液状混合物であるSOF成分を除去するためのモジュールを意味するものである。モジュールは、担体および触媒活性物質で構成され、触媒活性物質は担体の内壁にコーティングするか、または担体の内部に沈積させることができる。
【0014】
船舶用ディーゼルエンジンから排出される排気ガスが、1つまたはそれ以上の触媒モジュールを経由しても圧力降下が最小になるように、担体はハニカム型の形態に構成することが好ましい。蜂の巣型またはハニカム型形態の構造は、この分野の当業者に良く知られているが、概略的に記述すると、担体の流入前面または排出後面から延長された並列のガス流動通路を有し、前記の通路は、前面と後面が開放され、ガスが流入する前面から排出される後面まで実質的に直線の開放通路、つまりチャネルを有し、これらのチャネルは薄い内壁によって形成される。
【0015】
本発明によるSCR触媒およびSOF除去触媒の担体は、セラミック材質からなり、コーディエライト、炭化ケイ素、コーディエライト−α−アルミナ、窒化ケイ素、アルミナ−シリカ−マグネシア、珪酸ジルコン、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト、α−アルミナ、アルミノシリケートなどから成り得、コーディエライトが好ましい。触媒活性物質は、担体の多孔度によって空隙に沈積したり内壁にコーティングされる。SCRの触媒活性物質は、酸化チタン(TiO
2)、タングステン酸化物(WO
3)、または酸化モリブデン(MoO
3)がバナジウムに添加されたバナジウムの系列、またはゼオライト系列または卑金属(base metal)の酸化物であり得るが、これらに限定されない。一方、SOF成分を除去する触媒活性物質は、10〜20重量部のセリアを含有する酸化物複合体であり、触媒活性物質の結束力と担体の付着力増進のためにシリカ、ジルコニアおよび/またはアルミナ酸化物を含有することができる。前記の酸化物複合体において、セリアが10重量部以下で適用されると、SOF成分の分解が十分ではなく、下流のSCR触媒モジュールのチャネルが詰まる現象が発生し、20重量部以上添加すると、SOF成分の分解熱が過大になって下流のSCR触媒モジュールの最適機能温度を超過し得る。
【0016】
本発明のSOF成分除去用触媒またはSCR触媒モジュールの製造方法は、従来のSCR触媒の製造方法と異ならないが、簡略に記述すると、担体の内壁に厚薄にコーティング層が形成され得る触媒活性スラリーを定量して、触媒活性物質がすべて担体の内壁にコーティングされるよう、セラミック担体をスラリーに浸漬した後に焼成する。触媒活性物質の定量コーティング方法は、本出願人が2011年09月29日に出願した韓国特許出願番号第10−2011−0098682号(触媒支持体定量コーティング装置および方法)によって達成することができ、前記の先出願は本発明の参照として含まれる。
【0017】
一方、前記のような複数のモジュールでSCR触媒システムを構成する以外に、本発明は、SOF成分を除去する触媒活性物質をSCR触媒活性物質の上層に一体に形成したSCRモジュールを構成することができる。
【0018】
以下、本発明によるSCR触媒システムを図を参照して説明する。
【0019】
本発明は、セリアを含む酸化物複合体が、ディーゼルエンジンの排気ガスに多量に含まれた溶解性有機物質(SOF)を効率的に除去することを確認した。SOFは、粘着特性がありSCR触媒モジュールに形成されたチャネルを詰まらせ得るのみならず、究極的には、SCR触媒の活性を低下させ得る成分である。
図2は、本発明によるSOF除去触媒および通常の酸化触媒のSOF除去性能評価測定の結果グラフである。驚いたことに15重量部のセリアを含みシリカ、ジルコニアおよびアルミナからなる酸化物複合体(OSCと表記する)は、典型的な酸化触媒(Pt/Al
2O
3)と比較して低い温度でSOF成分を除去している。
図2は、示差走査熱量計(DSC)で、対象となる触媒にSOFの代わりに潤滑油および炭素粉末を塗布した後、室温から900℃まで温度を上げて、空気の流動速度は400cc/分で行なった。
図2から確認できるように、OSC成分は200℃以下で発熱する一方、典型的な酸化触媒は300℃に到達してはじめてSOF成分を分解した。したがって、セリアを含みシリカ、ジルコニアおよびアルミナからなる酸化物複合体は、船舶用ディーゼルエンジン、特にターボチャージャー装着エンジンの後段に適用され比較的低温でSOF成分を分解することにより、粘着性液体の混合物であるSOF成分がSCR触媒に累積してSCR触媒の活性を減少させ、SOF成分の粘着性によってハニカム型担体のチャネルが詰まる問題を解決することができる。このような分解発熱によってSCR触媒がバナジウム(V
2O
5)系列の場合、最適温度の300〜450℃、ゼオライト系列の場合、最適温度の350〜600℃に迅速に上昇して、最適な機能が実行され得るのである。
図1は、従来の船舶用ディーゼルエンジンに適用されるSCR触媒システムおよび、本発明によって具現されるSCR触媒システムの概略を示した図である。
図1から明白に分かるように、本発明によるSCR触媒システムは、SOF成分を除去する触媒モジュールがエンジン特にターボチャージャー装着エンジンの後段に付けられ、その下流にSCR触媒モジュールを装着して窒素酸化物を効率的に除去することができ、これは従来のSCR触媒システムと対比される。ただし、このような多重のモジュールによってのみ、本発明の目的が達成されるのではない。図には示していないが、本発明は、船舶用ディーゼルエンジン、特にターボチャージャー装着エンジンの排気ガス処理において適用されるSCR触媒システムの問題を解決するために、前記のSOF除去触媒成分を前記のSCR触媒物質の上層に一体に形成することができる。このような場合は、一体化したSCR触媒モジュールをエンジンの下段に直接装着することができる。一体化した触媒モジュールを製造する方法は、当業者に自明である。