(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞等の生体試料は、略透明である。このため、完全に焦点が合う合焦点位置では、
図15のように、細胞と周囲との輝度差が小さくなり、細胞が見えにくくなる。一方、カメラの焦点位置を、合焦点位置から若干近距離側(カメラに近づく方向)にずらすと、
図16のように、細胞の内部が周囲よりも白く、かつ、細胞の輪郭が黒く見える、いわゆる「白色ピント」の状態となる。また、カメラの焦点位置を、合焦点位置から若干遠距離側(カメラから遠ざかる方向)にずらすと、
図17のように、細胞の内部が周囲よりも黒く、かつ、細胞の輪郭が白く見える、いわゆる「黒色ピント」の状態となる。
【0005】
細胞を撮影する装置においては、複数の撮影画像から、白色ピントに揃えた全焦点画像や、黒色ピントに揃えた全焦点画像を生成したいという要求がある。しかしながら、上述の通り、白色ピントおよび黒色ピントは、細胞の内部と輪郭とで輝度傾向が反転する。このため、複数の撮影画像から、白色ピントまたは黒色ピントの状態となっている画素を、コンピュータにより自動的に抽出することが、非常に難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、複数の撮影画像から、所望のピントの状態に揃えた合成画像を、精度よく生成できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、複数の撮影画像に基づいて合成画像を生成する画像処理方法であって、a)焦点位置を光軸に沿って変化させつつ対象物を撮影することにより、複数の撮影画像を取得する工程と、b)前記複数の撮影画像の各々について、所定のエリア毎に、
第1鮮鋭度および第2鮮鋭度それぞれを算出する工程と、c)前記複数の撮影画像の互いに対応するエリアの中から、前記
第1鮮鋭度が極大となる
第1エリア、
および、前記第2鮮鋭度が極大となる第2エリア、それぞれを選出する工程と、d)前記工程c)において選出された
第1エリアおよび第2エリアの位置
関係が
、正常であるか否かを判定し、
正常でない場合には、選出された
第1エリアおよび第2エリア
の少なくとも一方を変更する工程と、e)前記工程c)および前記工程d)において選出および変更されたエリアの輝度値を組み合わせて、合成画像を生成する工程と、を有する。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の画像処理方法であって、前記エリアは、1画素である。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明の画像処理方法であって、前記工程b)では、前記画素毎に、第1鮮鋭度および第2鮮鋭度を算出し、前記工程c)は、c1)前記複数の撮影画像の互いに対応する画素の中から、前記第1鮮鋭度が極大となる画素を、第1候補として選出する工程と、c2)前記複数の撮影画像の互いに対応する画素の中から、前記第2鮮鋭度が極大となる画素を、第2候補として選出する工程と、を含み、前記工程d)は、d1)前記工程c1)において選出された画素が属する撮影画像と、前記工程c2)において選出された画素が属する撮影画像との関係が、正常であるか否かを判断する工程と、d2)前記工程d1)において、正常でないと判断された場合に、前記第1候補または前記第2候補を、他の撮影画像に属する画素に変更する工程と、を含む。
【0010】
本願の第4発明は、第3発明の画像処理方法であって、前記工程e)では、前記第1候補の画素の輝度値を組み合わせて、第1合成画像を生成する。
【0011】
本願の第5発明は、第3発明の画像処理方法であって、前記工程e)では、前記第2候補の画素の輝度値を組み合わせて、第2合成画像を生成する。
【0012】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の画像処理方法であって、前記対象物は細胞である。
【0013】
本願の第7発明は、複数の撮影画像に基づいて合成画像を生成する画像処理装置であって、焦点位置を光軸に沿って変化させつつ対象物を撮影することにより取得された複数の撮影画像を記憶する画像記憶部と、前記複数の撮影画像の各々について、所定のエリア毎に
第1鮮鋭度および第2鮮鋭度それぞれを算出する鮮鋭度算出部と、前記複数の撮影画像の互いに対応するエリアの中から、前記
第1鮮鋭度が極大となる
第1エリア、
および、前記第2鮮鋭度が極大となる第2エリア、それぞれを選出するとともに、選出された
前記第1エリアおよび前記第2エリアの位置
関係が、
正常であるか否かを判定し、
正常でない場合には、選出された
第1エリアおよび第2エリアの少なくとも一方を変更するピント位置判定部と、前記ピント位置判定部において選出および変更されたエリアの輝度値を組み合わせて、合成画像を生成する合成画像生成部と、を有する。
【0014】
本願の第8発明は、第7発明の画像処理装置であって、前記エリアは、1画素である。
【0015】
本願の第9発明は、第8発明の画像処理装置であって、前記鮮鋭度算出部は、前記画素毎に、第1鮮鋭度および第2鮮鋭度を算出し、前記ピント位置判定部は、1)前記複数の撮影画像の互いに対応する画素の中から、前記第1鮮鋭度が極大となる画素を、第1候補として選出する工程と、2)前記複数の撮影画像の互いに対応する画素の中から、前記第2鮮鋭度が極大となる画素を、第2候補として選出する工程と、3)前記工程1)において選出された画素が属する撮影画像と、前記工程c2)において選出された画素が属する撮影画像との関係が、正常であるか否かを判断する工程と、4)前記工程3)において、正常でないと判断された場合に、前記第1候補または前記第2候補を、他の撮影画素に属する画素に変更する工程と、を実行する。
【0016】
本願の第10発明は、第9発明の画像処理装置であって、前記合成画像生成部は、前記第1候補の画素の輝度値を組み合わせて、第1合成画像を生成する。
【0017】
本願の第11発明は、第9発明の画像処理装置であって、前記合成画像生成部は、前記第2候補の画素の輝度値を組み合わせて、第2合成画像を生成する。
【0018】
本願の第12発明は、第7発明から第11発明までのいずれか1発明の画像処理装置であって、前記対象物は細胞である。
【0019】
本願の第13発明は、撮像装置であって、請求項7から請求項12までのいずれか1項に記載の画像処理装置と、前記対象物を撮影するカメラと、前記対象物に向けて光を照射する投光部と、前記カメラの焦点位置を光軸に沿って変化させる移動機構と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
本願の第1発明〜第13発明によれば、複数の撮影画像から、撮影対象物を所望のピントの状態に揃えた合成画像を、精度よく生成できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<1.撮像装置の構成>
図1は、撮像装置1にセットされるウェルプレート9の一例を示す斜視図である。ウェルプレート9は、複数のウェル(窪部)91を有する略板状の試料容器である。ウェルプレート9の材料には、例えば、光を透過する透明な樹脂が使用される。
図1に示すように、複数のウェル91は、ウェルプレート9の上面に、規則的に配列されている。各ウェル91内には、培養液92とともに、撮影対象物となる複数の細胞93が保持される。なお、上面視におけるウェル91の形状は、
図1のような円形であってもよく、矩形等の他の形状であってもよい。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係る撮像装置1の構成を示した図である。この撮像装置1は、ウェルプレート9内の複数の細胞93を、カメラ40の焦点位置を変化させつつ複数回撮影して、観察用の合成画像(全焦点画像)を生成する装置である。
【0025】
撮像装置1は、例えば、医薬品の研究開発分野において、医薬品の候補となる化合物を絞り込むスクリーニング工程に、使用される。スクリーニング工程の担当者は、ウェルプレート9の複数のウェル91に、濃度や組成の異なる化合物を添加する。そして、撮像装置1において、ウェルプレート9の各ウェル91内の細胞93の画像を取得する。その後、得られた画像に基づいて、細胞93の培養状態を比較・分析することにより、培養液92に添加された化合物の効用を検証する。
【0026】
ただし、撮像装置1は、IPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞の研究・開発において、細胞の分化などを観察するために用いられてもよい。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の撮像装置1は、ステージ10、投光部20、投光部移動機構30、カメラ40、焦点移動機構50、カメラ移動機構60、および制御部70を備えている。
【0028】
ステージ10は、ウェルプレート9を保持する載置台である。撮像装置1内におけるステージ10の位置は、少なくとも撮影時には固定される。ステージ10の中央には、上下に貫通する矩形の開口部11が設けられている。また、ステージ10は、開口部11の縁に、環状の支持面12を有する。ウェルプレート9は、開口部11に嵌め込まれるとともに、支持面12によって水平に支持される。したがって、各ウェル91の上部および下部は、ステージ10に塞がれることなく露出する。
【0029】
投光部20は、ステージ10に保持されたウェルプレート9の上方に配置されている。投光部20は、LED等の光源を有する。後述する撮影時には、投光部20内の光源が発光する。これにより、投光部20から下方へ向けて、光が照射される。なお、投光部20は、カメラ40とは反対側からウェルプレート9に向けて、光を照射するものであればよい。したがって、投光部20の光源自体は、ウェルプレート9の上方から外れた位置に配置され、ミラー等の光学系を介して、ウェルプレート9に光が照射される構成であってもよい。
【0030】
投光部移動機構30は、ステージ10に保持されたウェルプレート9の上面に沿って、投光部20を水平に移動させる機構である。投光部移動機構30には、例えば、モータの回転運動をボールねじを介して直進運動に変換する機構が用いられる。撮像装置1は、投光部移動機構30を動作させることにより、各ウェル91の上方位置に、投光部20を配置することができる。なお、
図2では、投光部20の移動方向として、矢印A1の1方向のみが示されている。しかしながら、投光部移動機構30は、投光部20を、ウェルプレート9の上面に沿って2方向(
図2中の左右方向および奥行き方向)に移動させるものであってもよい。
【0031】
カメラ40は、ステージ10に保持されたウェルプレート9の下方に配置されている。カメラ40は、レンズ等の光学系41と、CCDやCMOS等の撮像素子42とを有する。後述する撮影時には、投光部20からウェルプレート9の一部分へ向けて光を照射しつつ、カメラ40が、ウェルプレート9の当該一部分を撮影する。これにより、ウェルプレート9内の細胞93の画像を、デジタルデータとして取得することができる。取得された撮影画像は、カメラ40から制御部70へ入力される。
【0032】
焦点移動機構50は、カメラ40の焦点位置を変化させる機構である。本実施形態の焦点移動機構50は、カメラ40の光学系41に含まれる一部の光学部品を移動させる。これにより、カメラ40の焦点位置を光軸に沿って変化させる。焦点移動機構50は、ウェルプレート9内の細胞93の付近において、カメラ40の焦点位置を、上下に細かく変化させることができる。焦点移動機構50には、例えば、小型のモータが用いられる。
【0033】
カメラ移動機構60は、カメラ40の姿勢を維持しつつ、カメラ40の水平方向の位置を変化させる機構である。カメラ移動機構60は、カメラ40および焦点移動機構50を、一体として水平に移動させる。カメラ移動機構60には、例えば、モータの回転運動をボールねじを介して直進運動に変換する機構が用いられる。撮像装置1は、カメラ移動機構60を動作させることにより、各ウェル91の下方位置に、カメラ40を配置することができる。なお、
図2では、カメラ移動機構60によるカメラ40の移動方向として、矢印A2の1方向のみが示されている。しかしながら、カメラ移動機構60は、カメラ40を、ウェルプレート9の下面に沿って2方向(
図2中の左右方向および奥行き方向)に移動させるものであってもよい。
【0034】
なお、上述した投光部移動機構30と、カメラ移動機構60とは、同期駆動される。これにより、投光部20とカメラ40とは、上面視において、常に同じ位置に配置される。すなわち、投光部20とカメラ40とは、同じ向きに同じ距離だけ移動し、あるウェル91の下方位置にカメラ40が配置されたときには、必ず、そのウェル91の上方位置に投光部20が配置される。
【0035】
制御部70は、例えば、コンピュータにより構成される。制御部70は、撮像装置1内の各部を動作制御する制御装置としての機能と、カメラ40から入力された複数の撮影画像に基づいて合成画像を生成する画像処理装置としての機能と、を有する。
図3は、制御部70と、撮像装置1内の各部との接続を示したブロック図である。
図3に示すように、制御部70は、上述した投光部20、投光部移動機構30、カメラ40、焦点移動機構50、およびカメラ移動機構60と、それぞれ通信可能に接続されている。
【0036】
また、
図2中に概念的に示したように、制御部70は、CPU等のプロセッサ701、RAM等のメモリ702、およびハードディスクドライブ等の記憶部703を有する。記憶部703内には、撮像装置1内の各部を動作制御するための制御プログラムP1と、カメラ40から入力された複数の撮影画像に基づいて合成画像を生成するための画像処理プログラムP2と、が記憶されている。
【0037】
図4は、制御部70内において実現される機能を、概念的に示したブロック図である。
図4に示すように、制御部70は、撮像制御部71と画像処理部72とを有する。撮像制御部71は、制御プログラムP1に従って、投光部20、投光部移動機構30、カメラ40、焦点移動機構50、およびカメラ移動機構60を動作制御する。これにより、ウェルプレート9の各ウェル91に保持された細胞93の撮影処理が進行する。画像処理部72は、カメラ40から入力された複数の撮影画像を、画像処理プログラムP2に従って処理することにより、合成画像を生成する。
【0038】
また、
図4に示すように、画像処理部72は、画像記憶部721、鮮鋭度算出部722、ピント位置判定部723、および合成画像生成部724を有する。これらの各部が行う具体的な処理については、後述する。
【0039】
<2.撮影処理について>
続いて、上述した撮像装置1の動作について、説明する。
図5は、撮像装置1おける撮影処理の流れを示したフローチャートである。
【0040】
撮像装置1のステージ10に、ウェルプレート9がセットされて、制御部70に動作開始の指示が入力されると、制御部70の撮像制御部71は、まず、焦点移動機構50を動作させる。これにより、カメラ40の焦点位置を、所定の高さに合わせる(ステップS1)。
図6は、1つのウェル91の断面図である。
図6に示すように、本実施形態では、カメラ40の焦点位置を6段階(第1焦点位置H1〜第6焦点位置H6)に変更できるものとする。撮影処理の開始時には、まず、最も低い第1焦点位置H1に、カメラ40の焦点を合わせる。
【0041】
次に、制御部70は、投光部移動機構30およびカメラ移動機構60を、動作させる。これにより、投光部20およびカメラ40を、撮影すべきウェル91の上下に移動させる(ステップS2)。そして、制御部70は、投光部20およびカメラ40を動作させて、当該ウェル91内に保持された細胞93を撮影する(ステップS3)。すなわち、投光部20から下方へ向けて光を照射しつつ、カメラ40による撮影を行う。これにより、当該ウェル91内に保持された細胞93の、第1焦点位置H1における撮影画像が得られる。
【0042】
続いて、制御部70は、撮影対象となる次のウェル91があるか否かを判断する(ステップS4)。次のウェル91がある場合には(ステップS4においてyes)、投光部移動機構30およびカメラ移動機構60を、動作させる。これにより、投光部20およびカメラ40を、次のウェル91の上下に移動させる(ステップS2)。そして、制御部70は、投光部20およびカメラ40を動作させて、当該ウェル91内に保持された細胞93を撮影する(ステップS3)。
【0043】
このように、制御部70は、投光部20およびカメラ40の移動(ステップS2)と、撮影(ステップS3)とを繰り返す。これにより、ウェルプレート9の撮影対象となる全てのウェル91について、第1焦点位置H1における撮影画像を取得する。
【0044】
やがて、未撮影のウェル91が無くなると(ステップS4においてno)、制御部70は、カメラ40の焦点位置を変更するか否かを判断する(ステップS5)。ここでは、6つの焦点位置H1〜H6のうち、まだ撮影を行っていない焦点位置が残っていれば、カメラ40の焦点位置を変更すべきと判断する(ステップS5においてyes)。例えば、第1焦点位置H1における撮影処理が終了すると、制御部70は、次の焦点位置である第2焦点位置H2に、カメラ40の焦点位置を変更すべきと判断する。
【0045】
カメラ40の焦点位置を変更する場合、制御部70は、焦点移動機構50を動作させて、カメラ40の焦点位置を、変更すべき位置に移動させる(ステップS1)。そして、上述したステップS2〜S4の処理を繰り返す。これにより、ウェルプレート9の各ウェル91について、変更後の焦点位置における細胞93の撮影画像を取得する。
【0046】
以上のように、制御部70は、カメラ40の焦点位置の変更(ステップS1)と、複数のウェル91についての撮影画像の取得(ステップS2〜S4)とを繰り返す。これにより、ウェルプレート9の複数のウェル91のそれぞれについて、6つの焦点位置H1〜H6で撮影された6つの撮影画像が得られる。
【0047】
<3.画像処理について>
続いて、カメラ40から入力された複数の撮影画像に基づいて、合成画像を生成するための画像処理について説明する。
【0048】
図7は、
図6のウェル91において撮影された6つの撮影画像D1〜D6を示した図である。
図7の第1撮影画像D1〜第6撮影画像D6は、それぞれ、第1焦点位置H1〜第6焦点位置H6における撮影画像である。また、
図7の各撮影画像D1〜D6には、2つの細胞93が含まれている。以下では、
図7の各撮影画像D1〜D6中の左側の細胞93を第1細胞931と称し、右側の細胞93を第2細胞932と称する。
【0049】
本実施形態では、略透明な細胞93を撮影対象物としている。このため、細胞93に対して完全に焦点が合う合焦点位置では、細胞93の輝度と周囲の輝度とが近似する。
図7の例では、第1細胞931については、第4撮影画像D4において最も焦点が合っており、第2細胞932については、第3撮影画像D3において最も焦点が合っている。
【0050】
カメラ40の焦点位置を、合焦点位置から若干近距離側にずらすと、細胞93の内部が細胞93の外部よりも白く、かつ、細胞の輪郭が黒く見える、いわゆる「白色ピント」の状態となる。
図7の例では、第3撮影画像D3中の第1細胞931および第2撮影画像D2中の第2細胞932が、「白色ピント」の状態となっている。また、カメラ40の焦点位置を、合焦点位置から若干遠距離側にずらすと、細胞93の内部が細胞93の外部よりも黒く、かつ、細胞の輪郭が白く見える、いわゆる「黒色ピント」の状態となる。
図7の例では、第5撮影画像D5中の第1細胞931および第4撮影画像D4中の第2細胞932が、「黒色ピント」の状態となっている。
【0051】
「白色ピント」または「黒色ピント」の状態では、細胞93の内部の輝度と細胞93の外部の輝度との差が大きくなり、画像のコントラストも良好となる。特に、「白色ピント」の状態は、共焦点顕微鏡の観察画像に近く、細胞93の立体形状を把握しやすいという特長がある。一方、「黒色ピント」の状態は、細胞93の内部構造を観察しやすいという特長がある。細胞93の観察は、これらの「白色ピント」または「黒色ピント」の状態で行うことが好ましい。
【0052】
しかしながら、
図6のように、1つのウェル91に含まれる複数の細胞93の高さ(光軸方向の位置)が異なる場合、1つの撮影画像Dで、全ての細胞93を「白色ピント」または「黒色ピント」の状態とすることはできない。このため、この撮像装置1の制御部70は、複数の撮影画像D1〜D6に含まれる画素を組み合わせて、全ての細胞93を「白色ピント」または「黒色ピント」に揃えた合成画像を生成する。
【0053】
図8は、制御部70による合成画像の生成手順を示したフローチャートである。
【0054】
合成画像を生成するときには、まず、制御部70が、上述した撮影処理によって得られた複数の撮影画像D1〜D6を、画像記憶部721に記憶させる(ステップS6)。次に、制御部70の鮮鋭度算出部722が、複数の撮影画像D1〜D6のそれぞれについて、画素毎に、鮮鋭度Qを算出する(ステップS7)。
【0055】
鮮鋭度Qは、その画素付近における画像の明瞭さ(sharpness)を示す指標である。本実施形態では、鮮鋭度算出部722は、画素毎に、第1鮮鋭度Q1および第2鮮鋭度Q2の2種類の鮮鋭度Qを算出する。第1鮮鋭度Q1は、「白色ピント」の状態において極大となる傾向を示す指標である。第1鮮鋭度Q1には、例えば、その画素を中心とする一定の領域内における最大輝度が用いられる。第2鮮鋭度Q2は、「黒色ピント」の状態において極大となる傾向を示す指標である。第2鮮鋭度Q2には、例えば、その画素を中心とする一定の領域内における最小輝度が用いられる。
【0056】
ただし、鮮鋭度Qに、周辺画素の最大輝度および最小輝度に代えて、周辺画素の輝度の分散値、輝度変化量等のエッジ強度を示す値、画素そのものの輝度等の他の指標が用いられてもよい。
【0057】
各撮影画像Dの各画素について、第1鮮鋭度Q1および第2鮮鋭度Q2が算出されると、次に、制御部70のピント位置判定部723が、複数の撮影画像D1〜D6の対応する画素の間で、第1鮮鋭度Q1および第2鮮鋭度Q2を比較する。これにより、複数の撮影画像Dの互いに対応する画素の中で、「白色ピント」および「黒色ピント」に相当する画素を判定する(ステップS8)。
【0058】
図9は、ステップS8の詳細な手順を示したフローチャートである。以下では、複数の撮影画像D1〜D6の互いに対応する画素Pの集合を対応画素列PAと称する。
図10は、複数の撮影画像D1〜D6に含まれる対応画素列PAの例を、概念的に示した図である。
図11は、1つの対応画素列PAにおける各画素Pの第1鮮鋭度Q1の算出結果の例を示したグラフである。
図12は、1つの対応画素列PAにおける各画素Pの第2鮮鋭度Q2の算出結果の例を示したグラフである。
【0059】
ステップS8では、まず、ピント位置判定部723が、複数の撮影画像D1〜D6の対応画素列PA毎に、第1鮮鋭度Q1が最も高い画素Pを選出する(ステップS81)。
図11の例では、対応画素列PAの第3撮影画像D3に属する画素Pが、第1鮮鋭度Q1が最も高い画素Pとして選出される。そして、ピント位置判定部723は、選出された画素Pを、「白色ピント」に相当する画素の候補(第1候補)とする。
【0060】
また、ピント位置判定部723は、複数の撮影画像D1〜D6の対応画素列PA毎に、第2鮮鋭度Q2が最も高い画素Pを選出する(ステップS82)。
図12の例では、対応画素列PAの第3撮影画像D3に属する画素Pが、第2鮮鋭度Q2が最も高い画素Pとして選出される。そして、ピント位置判定部723は、選出された画素Pを、「黒色ピント」に相当する画素の候補(第2候補)とする。
【0061】
続いて、ピント位置判定部723は、「白色ピント」の候補とされた画素Pが属する撮影画像の番号(以下、「第1画像参照値N1」と称する)と、黒色ピントの候補とされた画素Pが属する撮影画像の番号(以下、「第2画像参照値N2」と称する)とを比較する。そして、第1画像参照値N1よりも第2画像参照値N2が大きいか否かを判定する(ステップS83)。
【0062】
撮影画像の番号である画像参照値Nは、本実施形態では、遠距離側ほど大きくなる。また、「黒色ピント」は「白色ピント」よりも遠距離側において生じる。したがって、第1画像参照値N1よりも第2画像参照値N2が大きい場合(ステップS83においてyesの場合)は、「黒色ピント」と「白色ピント」との位置関係が、正常と判断される。したがって、ピント位置判定部723は、上記のステップS81において第1候補とされた画素Pを、「白色ピント」に相当する画素として決定し、上記のステップS82において第2候補とされた画素Pを、「黒色ピント」に相当する画素として決定する(ステップS84)。
【0063】
一方、第2画像参照値N2が、第1画像参照値N1と同一またはそれよりも小さい場合(ステップS83においてnoの場合)には、「黒色ピント」と「白色ピント」との位置関係が正常でないと判断される。この場合、ピント位置判定部723は、「白色ピント」に相当する画素の候補と、黒色ピントに相当する画素の候補との、少なくとも一方を、他の撮影画像に属する画素Pに変更する(ステップS85)。
【0064】
図11および
図12の例では、第1画像参照値N1と第2画像参照値N2とが、いずれも3となる。このため、ステップS85において、画素Pの候補が変更される。具体的には、
図11中の白抜き矢印のように、「白色ピント」に相当する画素の候補として最初に選出された画素Pよりも近距離側で、第1鮮鋭度Q1が極大となる画素Pがあるか否かを探索する。また、
図12中の白抜き矢印のように、「黒色ピント」に相当する画素の候補として最初に選出された画素Pよりも遠距離側で、第2鮮鋭度Q2が極大となる画素Pがあるか否かを探索する。そして、該当する画素Pがあれば、当該画素Pを、「白色ピント」に相当する画素、または「黒色ピント」に相当する画素の候補として、再設定する。
【0065】
図12の例では、「黒色ピント」に相当する画素の候補として最初に選出された画素P(N2=3)よりも遠距離側に、第2鮮鋭度Q2が極大となる画素P(N2=5)が存在する。したがって、第5撮影画像D5に属する当該画素Pを、「黒色ピント」に相当する画素Pの候補として再設定する。
【0066】
その後、ピント位置判定部723は、第1画像参照値N1よりも第2画像参照値N2が大きいか否かを、再度判定する(ステップS83)。そして、第1画像参照値N1よりも第2画像参照値N2が大きければ、上記のステップS85において候補とされた画素Pを、「白色ピント」および「黒色ピント」に相当する画素として決定する(ステップS84)。
【0067】
ピント位置判定部723は、以上のステップS81〜S85の処理を、複数の撮影画像D1〜D6に含まれる全ての対応画素列PAについて、実行する。これにより、対応画素列PA毎に、「白色ピント」に相当する画素Pと、「黒色ピント」に相当する画素Pとが、決定される。すなわち、対応画素列PAごとに、第1画像参照値N1と第2画像参照値N2とが、決定される。
【0068】
図8に戻る。ステップS8の処理が終了すると、制御部70の合成画像生成部724は、合成画像を生成する(ステップS9)。ここでは、ステップS8において選出および変更された画素Pの輝度値を組み合わせて、「白色ピント」に揃えた第1合成画像と、「黒色ピント」に揃えた第2合成画像とを生成する。
【0069】
第1合成画像は、例えば、複数の撮影画像D1〜D6の複数の対応画素列PAから、「白色ピント」に相当する第1候補の画素のみを抜き出し、それらの画素の輝度値を配列することによって、生成される。その結果、
図13のように、「白色ピント」に揃えた第1合成画像Dwが得られる。第2合成画像は、例えば、複数の撮影画像D1〜D6の複数の対応画素列PAから、「黒色ピント」に相当する画素のみを抜き出し、それらの画素の輝度値を配列することによって、生成される。その結果、
図14のように、「黒色ピント」に揃えた第2合成画像Dbが得られる。
【0070】
ただし、合成画像生成部724は、ステップS8において算出された対応画素列PAごとの画像参照値N1,N2を用いて、より複雑な画像処理を行うことによって、第1合成画像Dwおよび第2合成画像Dbを生成してもよい。
【0071】
このように、本実施形態の画像処理方法では、複数の撮影画像D1〜D6の画素P毎に、鮮鋭度Q1,Q2を算出する。そして、対応画素列PA毎に、「白色ピント」に相当する画素Pと、「黒色ピント」に相当する画素Pとを、一旦選出する。その後、選出された画素Pの位置関係が、所定の条件に合致していない場合には、「白色ピント」に相当する画素と「黒色ピント」に相当する画素との少なくとも一方を変更する。そして、変更後の画素を組み合わせて、合成画像を生成する。このため、「白色ピント」に揃えた第1合成画像Dwと、「黒色ピント」に揃えた第2合成画像Dbとを、精度よく生成できる。
【0072】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0073】
上記の実施形態では、複数の撮影画像D1〜D6の各々について、1画素毎に第1
鮮鋭度Q1および第2鮮鋭度Q2を算出していた。しかしながら、第1鮮鋭度Q1および第2鮮鋭度Q2の算出は、複数の画素で構成されるエリア毎に行ってもよい。その場合、第1候補および第2候補の選出も、エリア単位で行えばよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、観察対象となる細胞93が、ウェルプレート9の複数のウェル91内に保持されていた。しかしながら、細胞93は、ウェルプレート9以外の容器に保持されていてもよい。例えば、細胞93は、シャーレ内に保持されていてもよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、単体の細胞93を撮影対象物としていた。しかしながら、撮影対象物は、複数の細胞が立体的に集合した細胞集塊(スフェロイド)であってもよい。また、撮影対象物は、細胞以外の略透明な試料であってもよい。
【0076】
また、上記の実施形態では、撮影対象物の上方に投光部20が配置され、撮影対象物の下方にカメラ40が配置されていた。しかしながら、撮影対象物の下方に投光部20が配置され、撮影対象物の上方にカメラ40が配置されていてもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、カメラ40の光学系41に含まれる一部の光学部品を移動させることにより、カメラ40の焦点位置を変化させていた。しかしながら、カメラ40全体を昇降移動させることにより、ウェル91内におけるカメラ40の焦点位置を、光軸に沿って変化させてもよい。また、撮影対象物を保持する容器を昇降移動させることにより、容器に対するカメラ40の焦点位置を、相対的に変化させてもよい。すなわち、本発明における「移動機構」は、カメラ40全体または容器を移動させる機構であってもよい。
【0078】
また、上記の実施形態では、細胞93を保持する容器の位置が固定され、投光部20およびカメラ40が水平方向に移動していた。しかしながら、投光部20およびカメラ40の位置を固定して、容器を水平方向に移動させてもよい。ただし、撮影の途中で培養液92中の細胞93が変化すると、複数の撮影画像の間で、細胞93の位置がずれやすい。このため、上記の実施形態のように、容器の位置は、固定されていることが好ましい。
【0079】
また、上記の実施形態では、カメラ40の焦点位置が6段階に変更可能であり、各ウェル91について、6つの撮影画像D1〜D6を取得していた。しかしながら、ウェル91毎の撮影画像の数は、2〜5つであってもよく、7つ以上であってもよい。
【0080】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。