特許第6333480号(P6333480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000002
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000003
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000004
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000005
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000006
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000007
  • 特許6333480-超指向性音響装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6333480
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】超指向性音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   H04R3/00 320
   H04R3/00 330
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-524491(P2017-524491)
(86)(22)【出願日】2017年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2017002969
【審査請求日】2017年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123434
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 英昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100188880
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 辰哉
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【弁理士】
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊治
【審査官】 北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−239047(JP,A)
【文献】 特開2015−035820(JP,A)
【文献】 特開2012−217041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波信号を生成する搬送波生成部と、
前記搬送波生成部により生成された搬送波信号をオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する変調部と、
前記搬送波生成部により生成された搬送波信号と前記変調部により生成された変調波信号とを加算する加算部と、
前記加算部により加算された信号を放射する第1超音波エミッタと、
前記第1超音波エミッタにおける軸心上且つ放射面の前方に配置され、前記搬送波生成部により生成された搬送波信号を当該第1超音波エミッタの放射方向と同一方向に放射する第2超音波エミッタとを備え、
前記第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相は、前記第1超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相である
ことを特徴とする超指向性音響装置。
【請求項2】
前記第1,2超音波エミッタの放射方向における当該第1,2超音波エミッタ間の距離は、当該第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相が、当該第1超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相となる距離である
ことを特徴とする請求項1記載の超指向性音響装置。
【請求項3】
前記第2超音波エミッタの前段に設けられ、前記第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相が、前記第1超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号と重なる領域において、当該第1超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相となるように、前記搬送波生成部により生成された搬送波信号の位相をシフトする位相シフタを備え、
前記第2超音波エミッタは、前記位相シフタにより位相がシフトされた搬送波信号を放射する
ことを特徴とする請求項1記載の超指向性音響装置。
【請求項4】
前記第2超音波エミッタは、前記第1超音波エミッタにより放射される信号の当該第2超音波エミッタの配置位置上での放射範囲より大きい開口部を有する
ことを特徴とする請求項1記載の超指向性音響装置。
【請求項5】
前記搬送波生成部は、同一の搬送波信号を生成する第1,2搬送波生成部から成り、
前記変調部は、前記第1搬送波生成部により生成された搬送波信号をオーディオ信号で変調した変調波信号を生成し、
前記第2超音波エミッタは、前記第2搬送波生成部により生成された搬送波信号を放射する
ことを特徴とする請求項1記載の超指向性音響装置。
【請求項6】
搬送波信号を生成する搬送波生成部と、
前記搬送波生成部により生成された搬送波信号をオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する変調部と、
前記搬送波生成部により生成された搬送波信号と前記変調部により生成された変調波信号とを分離した状態で放射する第1超音波エミッタと、
前記第1超音波エミッタにおける軸心上且つ放射面の前方に配置され、前記搬送波生成部により生成された搬送波信号を当該第1超音波エミッタの放射方向と同一方向に放射する第2超音波エミッタとを備え、
前記第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相は、前記第1超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相に対して逆相である
ことを特徴とする超指向性音響装置。
【請求項7】
前記第1,2超音波エミッタの放射方向における当該第1,2超音波エミッタ間の距離は、当該第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相が、当該第1超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相に対して逆相となる距離である
ことを特徴とする請求項6記載の超指向性音響装置。
【請求項8】
前記第2超音波エミッタの前段に設けられ、前記第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相が、前記第1超音波エミッタにより放射された搬送波信号と重なる領域において、当該第1超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相に対して逆相となるように、前記搬送波生成部により生成された搬送波信号の位相をシフトする位相シフタを備え、
前記第2超音波エミッタは、前記位相シフタにより位相がシフトされた搬送波信号を放射する
ことを特徴とする請求項6記載の超指向性音響装置。
【請求項9】
前記第2超音波エミッタは、前記第1超音波エミッタにより放射される信号の当該第2超音波エミッタの配置位置上での放射範囲より大きい開口部を有する
ことを特徴とする請求項6記載の超指向性音響装置。
【請求項10】
前記搬送波生成部は、同一の搬送波信号を生成する第1,2搬送波生成部から成り、
前記変調部は、前記第1搬送波生成部により生成された搬送波信号をオーディオ信号で変調した変調波信号を生成し、
前記第2超音波エミッタは、前記第2搬送波生成部により生成された搬送波信号を放射する
ことを特徴とする請求項6記載の超指向性音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波帯域の搬送波信号を用いて可聴音を狭いエリアに放射する超指向性音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超指向性音響装置は、超音波帯域の搬送波信号を可聴音であるオーディオ信号で振幅変調した変調波信号と、当該搬送波信号とを加算して、超音波エミッタから放射する。これにより、空気中で、搬送波信号と変調波信号との非線形相互作用で、搬送波信号と変調波信号との差音が生じ、可聴音が自己復調される。
【0003】
この超指向性音響装置では、例えば図7に示すような音圧レベルの伝搬特性を有している。図7において、横軸は超音波エミッタからの距離を示し、縦軸は音圧レベルを示している。また、細線は超音波エミッタにより放射された信号に含まれる変調波信号を示し、破線は超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号を示し、太線は自己復調された可聴音(搬送波信号と変調波信号との差音)を示している。
図7に示すように、超音波エミッタから近い領域では、搬送波信号と変調波信号との非線形相互作用が強く、また、信号の伝搬による蓄積効果によって、自己復調される可聴音の音圧レベルは上昇していく。そして、超音波エミッタにより放射される信号の周波数及び振動半径で決まるレイリー長さの半分程度の伝搬距離で可聴音の音圧レベルは最大となる。その後、さらに伝搬距離が長くなると、搬送波信号及び変調波信号が音波吸収及び球面拡散によって減衰して非線形性が弱くなり、自己復調される可聴音の音圧レベルは低下していく。
【0004】
このとき、差音の生成過程を空間的に眺めると、超音波帯域の搬送波信号及び変調波信号の狭いビーム幅で差音の仮想音源が伝搬方向に分布するため、狭いビーム状の音場(可聴領域)が得られる(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
このように、従来の超指向性音響装置では、狭いビーム状の音場が得られる。しかしながら、ビームは遠方まで届くため、超指向性音響装置の遠方でも音が聞こえ、また、室内では壁又は天井等による反射音が生じる。よって、従来の超指向性音響装置では、ある特定の領域だけに音を伝達することは困難である。
【0006】
そこで、搬送波信号と変調波信号とを互いに放射方向が異なる2つの超音波エミッタから分離して放射し、放射された搬送波信号と変調波信号とが重なる領域のみで可聴音を自己復調させる方法が提案されている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鎌倉友男著、非線形音響学の基礎、2010年7月発行
【非特許文献2】松井唯 他著、キャリア波と側帯波の分離放射によるオーディオスポット形成、電子情報通信学会論文誌 A Vol.J97-A No.4 pp.304-312 2014年4月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に開示された方法では、搬送波信号と変調波信号とが重なる領域が超音波エミッタから離れており、非線形相互作用が弱い領域で可聴音が自己復調される。また、非特許文献2に開示された方法では、非線形相互作用が生じる領域が短い。そのため、自己復調された可聴音の音圧レベルが小さくなるという課題があった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、搬送波信号と変調波信号とを同一方向に放射し、当該放射方向における任意距離から遠方での可聴音の音圧レベルを低下させる超指向性音響装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る超指向性音響装置は、搬送波信号を生成する搬送波生成部と、搬送波生成部により生成された搬送波信号をオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する変調部と、搬送波生成部により生成された搬送波信号と変調部により生成された変調波信号とを加算する加算部と、加算部により加算された信号を放射する第1超音波エミッタと、第1超音波エミッタにおける軸心上且つ放射面の前方に配置され、搬送波生成部により生成された搬送波信号を当該第1超音波エミッタの放射方向と同一方向に放射する第2超音波エミッタとを備え、第2超音波エミッタにより放射された搬送波信号の位相は、第1超音波エミッタにより放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、上記のように構成したので、搬送波信号と変調波信号とを同一方向に放射し、当該放射方向における任意距離から遠方での可聴音の音圧レベルを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態1に係る超指向性音響装置の概略構成例を示すブロック図である。
図2図2A図2Bは、この発明の実施の形態1における超音波エミッタの形状及び配置の一例を示す図であり、図2Aは側面図であり、図2Bは正面図である。
図3】この発明の実施の形態1に係る超指向性音響装置の動作例を示すフローチャートである。
図4】この発明の実施の形態1に係る超指向性音響装置における音圧レベルの伝搬特性の一例を示すグラフである。
図5】この発明の実施の形態1に係る超指向性音響装置の別の概略構成例を示すブロック図である。
図6】この発明の実施の形態2に係る超指向性音響装置の概略構成例を示すブロック図である。
図7】従来の超指向性音響装置における音圧レベルの伝搬特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る超指向性音響装置の概略構成例を示すブロック図である。
超指向性音響装置は、図1に示すように、変調器1、増幅部2、超音波エミッタ(第1超音波エミッタ)3、ゲイン調整部4、増幅部5及び超音波エミッタ(第2超音波エミッタ)6を備えている。また、変調器1は、搬送波生成部7、変調部8及び加算部9を備えている。
【0014】
搬送波生成部7は、超音波帯域の搬送波信号を生成する。この搬送波生成部7により生成された搬送波信号は、変調部8、加算部9、及び変調器1の出力部101を介してゲイン調整部4に出力される。
【0015】
変調部8は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号を、外部から入力された可聴音であるオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する。この変調部8として、SSB(Single SideBand)変調を行うSSB変調部又はDSB(Double SideBand)変調を行うDSB変調部が用いられる。この変調部8により生成された変調波信号は、加算部9に出力される。
【0016】
加算部9は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号と、変調部8により生成された変調波信号とを加算する。この加算部9により搬送波信号と変調波信号とが加算された信号は、変調器1の出力部102を介して増幅部2に出力される。
【0017】
増幅部2は、加算部9により搬送波信号と変調波信号とが加算された信号を増幅する。この際、増幅部2は、超音波エミッタ3を駆動することが可能なレベルまで上記信号を増幅する。この増幅部2により増幅された信号は、超音波エミッタ3に出力される。
【0018】
超音波エミッタ3は、増幅部2により増幅された信号を空気中に放射する。この超音波エミッタ3は、複数の超音波エミッタ素子301(図2参照)から成る。
【0019】
ゲイン調整部4は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号のゲイン(振幅)を調整する。この際、ゲイン調整部4は、超音波エミッタ6から放射される搬送波信号が、超音波エミッタ3から放射される信号に含まれる搬送波信号の音圧レベルを低減するのに適した音圧レベルとなるように、ゲイン調整を行う。このゲイン調整部4によりゲインが調整された搬送波信号は、増幅部5に出力される。
【0020】
増幅部5は、ゲイン調整部4によりゲインが調整された搬送波信号を増幅する。この際、増幅部5は、超音波エミッタ6を駆動することが可能なレベルまで上記搬送波信号を増幅する。この増幅部5により増幅された信号は、超音波エミッタ6に出力される。
【0021】
超音波エミッタ6は、超音波エミッタ3における軸心上且つ放射面の前方に配置され、増幅部5により増幅された搬送波信号を空気中に放射する。なお、超音波エミッタ6は、超音波エミッタ3における放射方向と同一方向に放射を行う。この超音波エミッタ6は、複数の超音波エミッタ素子601(図2参照)から成る。
また、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相は、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相である。
【0022】
次に、超音波エミッタ3,6の形状及び配置の一例について、図2を参照しながら説明する。図2Aは超音波エミッタ3,6の側面図を示し、図2Bは超音波エミッタ3,6の正面図を示している。なお図2Aでは、超音波エミッタ6の断面を図示し、超音波エミッタ素子601は一部のみを図示している。
超音波エミッタ3は、従来の超指向性音響装置で用いられている超音波エミッタと同様である。一方、超音波エミッタ6は、図2に示すように、超音波エミッタ3の軸心上且つ放射面の前方に配置されている。
また、超音波エミッタ6は、超音波エミッタ3との対向箇所に、開口部602を有している。この開口部602は、超音波エミッタ3により放射される信号の超音波エミッタ6の配置位置上での放射範囲より大きく構成されている。なお、超音波エミッタ3により放射される信号の半減角度(放射角度)は、当該信号の周波数及び振動半径で決まる。
【0023】
また図2では、超音波エミッタ3,6の放射方向における超音波エミッタ3,6間の距離が、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相が、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相となる距離とされている。
例えば、搬送波信号の周波数を40[kHz]とした場合、超音波エミッタ3,6により放射される搬送波信号が同相から逆相となる距離は、音速÷搬送波信号の周波数÷2≒4[mm]である。よって、この場合には、超音波エミッタ6を超音波エミッタ3から所望の距離離した後、更に約4[mm]の範囲内で超音波エミッタ3,6間の距離を調整することで、最適な位相関係を得ることができる。
【0024】
次に、実施の形態1に係る超指向性音響装置の動作例について、図3を参照しながら説明する。
実施の形態1に係る超指向性音響装置では、図3に示すように、まず、搬送波生成部7が、超音波帯域の搬送波信号を生成する(ステップST1)。
次いで、変調部8が、搬送波生成部7により生成された搬送波信号を、外部から入力された可聴音であるオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する(ステップST2)。
次いで、加算部9は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号と、変調部8により生成された変調波信号とを加算する(ステップST3)。
【0025】
次いで、増幅部2は、加算部9により搬送波信号と変調波信号とが加算された信号を増幅する(ステップST4)。
次いで、超音波エミッタ3は、増幅部2により増幅された信号を空気中に放射する(ステップST5)。その後、超音波エミッタ3により放射された信号(搬送波信号及び変調波信号)は、空気中で可聴音に自己復調し、ビーム状の音場を形成する。
【0026】
一方、ゲイン調整部4は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号のゲインを調整する(ステップST6)。
次いで、増幅部5は、ゲイン調整部4によりゲインが調整された信号を増幅する(ステップST7)。
次いで、超音波エミッタ6は、増幅部5により増幅された信号を空気中に放射する(ステップST8)。その後、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号と、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号とが、重なる領域で合成され、可聴音の音圧レベルが低下する。
【0027】
次に、実施の形態1に係る超指向性音響装置の効果について、図4を参照しながら説明する。図4において、横軸は超音波エミッタ3からの距離を示し、縦軸は音圧レベルを示している。また、符号401は、超音波エミッタ6の配置位置を示している。また、細線は超音波エミッタ3から放射された信号に含まれる変調波信号を示し、破線は超音波エミッタ3から放射された信号に含まれる搬送波信号を示し、太線は自己復調された可聴音(搬送波信号と変調波信号との差音)を示している。なお図4に示す搬送波信号は、超音波エミッタ6の配置位置より遠方では、超音波エミッタ3から放射された信号に含まれる搬送波信号と、超音波エミッタ6から放射された逆相である搬送波信号とが空気中で合成された信号となっている。
図4に示すように、超音波エミッタ3から近い領域では、搬送波信号と変調波信号との非線形相互作用が強く、また、信号の伝搬による蓄積効果によって、自己復調される可聴音の音圧レベルは上昇していく。そして、超音波エミッタ3により放射される信号の周波数及び振動半径で決まるレイリー長さの半分程度の伝搬距離で可聴音の音圧レベルは最大となる。その後、さらに伝搬距離が長くなると、搬送波信号及び変調波信号が音波吸収及び球面拡散によって減衰して非線形性が弱くなり、自己復調される可聴音の音圧レベルは低下していく。
【0028】
一方、実施の形態1に係る超指向性音響装置では、超音波エミッタ3における放射面の前方に配置された超音波エミッタ6が、超音波エミッタ3と同一の放射方向に、搬送波信号のみを放射している。
ここで、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相は、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相となっている。よって、超音波エミッタ3により放射された信号と、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号とが重なる領域では、搬送波信号の少なくとも一部がキャンセルされる。その結果、図4に示すように、搬送波信号の音圧レベルが急激に低下し、搬送波信号と変調波信号との非線形相互作用が弱まるため、可聴音の音圧レベルが急激に低下する。よって、伝搬方向における任意距離から遠方での可聴音の音圧レベルを低下させることができる。
【0029】
なお、実施の形態1に係る超指向性音響装置では、超音波エミッタ3における放射面の前方に超音波エミッタ6を配置している。そのため、超音波エミッタ3により放射された信号に対し、超音波エミッタ6(の筐体)が障害となる恐れがある。すなわち、超音波エミッタ3による放射された信号が超音波エミッタ6で反射してしまうと、その信号の音圧レベルが低下して自己復調が弱まり、必要とされる領域での可聴音の音圧レベルが低下してしまう。そこで、超音波エミッタ6では、超音波エミッタ3との対向箇所に開口部602を設けている。この開口部602により、超音波エミッタ3により放射された信号が超音波エミッタ6で反射されることを防ぐことができる。
【0030】
なお上記では、超音波エミッタ3,6の放射方向における超音波エミッタ3,6間の距離によって、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相を、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相とする場合を示した。しかしながら、これに限らず、位相シフタを用いて、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相を、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号と重なる領域において、当該超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相としてもよい。位相シフタは、超音波エミッタ6の前段(具体的には、ゲイン調整部4と増幅部5との間)に設けられ、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相が、超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号と重なる領域において、当該超音波エミッタ3により放射された信号に含まれる搬送波信号の位相に対して逆相となるように、搬送波信号の位相をシフトする。
【0031】
また上記では、超音波エミッタ6により放射される信号が搬送波信号であるとした。搬送波信号は、周波数が固定されているため、周波数による位相変動がない。よって、超指向性音響装置の安定した動作が期待できる。
一方、仮に、超音波エミッタ6により放射される信号が、変調波信号、又は、搬送波信号と変調波信号とを加算した信号とした場合には、広い周波数範囲を持つオーディオ信号を利用することになる。そのため、位相が周波数によって変動する。その結果、超音波エミッタ3により放射された信号と超音波エミッタ6により放射された信号とが重なる領域での合成音では、櫛形フィルタのようなピーク及びデップの多い周波数特性となる。よって、この場合には、超指向性音響装置の安定した動作は期待できない。
【0032】
また上記では、搬送波生成部7を変調器1の内部に設けた場合を示した。しかしながら、これに限らず、搬送波生成部7を変調器1の外部に設けてもよく、同様の効果が得られる。
また上記では、単一の搬送波生成部7を用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、例えば図5に示すように、搬送波生成部7を、超音波エミッタ3用の搬送波生成部(第1搬送波生成部)7aと超音波エミッタ6用の搬送波生成部(第2搬送波生成部)7bとに分割してもよい。この場合、搬送部生成部7aにより生成される搬送波信号と搬送波生成部7bにより生成される搬送波信号の周波数及び波形は同一である必要がある。
【0033】
以上のように、この実施の形態1によれば、搬送波信号を生成する搬送波生成部7と、搬送波生成部7により生成された搬送波信号をオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する変調部8と、搬送波生成部7により生成された搬送波信号と変調部8により生成された変調波信号とを加算する加算部9と、加算部9により加算された信号を放射する超音波エミッタ3と、超音波エミッタ3における軸心上且つ放射面の前方に配置され、搬送波生成部7により生成された搬送波信号を当該超音波エミッタ3の放射方向と同一方向に放射する超音波エミッタ6とを備え、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号の位相は、超音波エミッタ3により放射された超音波信号の位相に対して逆相であるように構成したので、搬送波信号と変調波信号とを同一方向に放射し、当該放射方向における任意距離から遠方での可聴音の音圧レベルを低下させることができる。
【0034】
実施の形態2.
実施の形態1では、加算部9を用いて電気信号で搬送波信号と変調波信号とを加算する場合を示した。それに対し、実施の形態2では、超音波エミッタ11で搬送波信号と変調波信号とを分離した状態で放射し、空気中で合成する場合を示す。
図6はこの発明の実施の形態2に係る超指向性音響装置の概略構成例を示すブロック図である。この図6に示す実施の形態2に係る超指向性音響装置では、図1に示す実施の形態1に係る超指向性音響装置に対し、加算部9を取除き、増幅部10を追加し、超音波エミッタ3を超音波エミッタ11に変更している。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0035】
なお、搬送波生成部7により生成された搬送波信号は、実施の形態1で示した機能部の他、変調器1の出力部103を介して増幅部10にも出力される。
増幅部10は、搬送波生成部7により生成された搬送波信号を増幅する。この際、増幅部10は、超音波エミッタ11を駆動することが可能なレベルまで上記搬送波信号を増幅する。この増幅部10により増幅された搬送波信号は、超音波エミッタ11に出力される。
【0036】
超音波エミッタ11は、増幅部10により増幅された搬送波信号と、増幅部2により増幅された変調波信号とを分離した状態で空気中に放射する。この超音波エミッタ11は、複数の超音波エミッタ素子(不図示)から成り、そのうち概ね半数の超音波エミッタ素子が搬送波信号を放射し、残りの概ね半数の超音波エミッタ素子が変調波信号を放射する。なお、搬送波信号を放射する超音波エミッタ素子と、変調波信号を放射する超音波エミッタ素子は、例えば交互に配置される。
なお、超音波エミッタ6,11の形状及び配置は、図2に示す実施の形態1における超音波エミッタ3,6の形状及び配置と同様であり、その説明を省略する。
【0037】
このように、超音波エミッタ11が搬送波信号と変調波信号とを分離した状態で放射することで、実施の形態1に対し、自己復調した可聴音の音圧レベルは若干低下するが、放射された搬送波信号及び変調波信号が、超音波エミッタ11が有する非線形特性の影響を受け難く、より指向性の鋭い可聴音の放射が可能となる。
また、電気信号で搬送波信号と変調波信号とを加算する場合には、混変調が生じる。一方、実施の形態2に係る超指向性音響装置では、上記混変調はなく、超音波エミッタ6により放射された搬送波信号との合成性もよいため、遠方での搬送波信号のキャンセル性能を上げやすくなる。
【0038】
また、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明に係る超指向性音響装置は、搬送波信号と変調波信号とを同一方向に放射し、当該放射方向における任意距離から遠方での可聴音の音圧レベルを低下させることができ、超音波帯域の搬送波信号を用いて可聴音を狭いエリアに放射する超指向性音響装置等に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0040】
1 変調器、2 増幅部、3 超音波エミッタ(第1超音波エミッタ)、4 ゲイン調整部、5 増幅部、6 超音波エミッタ(第2超音波エミッタ)、7,7a,7b 搬送波生成部、8 変調部、9 加算部、10 増幅部、11 超音波エミッタ、101〜103 出力部、301 超音波エミッタ素子、601 超音波エミッタ素子、602 開口部。
【要約】
搬送波信号を生成する搬送波生成部(7)と、搬送波生成部(7)により生成された搬送波信号をオーディオ信号で振幅変調した変調波信号を生成する変調部(8)と、搬送波生成部(7)により生成された搬送波信号と変調部(8)により生成された変調波信号とを加算する加算部(9)と、加算部(9)により加算された信号を放射する超音波エミッタ(3)と、超音波エミッタ(3)における軸心上且つ放射面の前方に配置され、搬送波生成部(7)により生成された搬送波信号を当該超音波エミッタ(3)の放射方向と同一方向に放射する超音波エミッタ(6)とを備え、超音波エミッタ(6)により放射された搬送波信号の位相は、超音波エミッタ(3)により放射された超音波信号の位相に対して逆相である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7