特許第6333637号(P6333637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333637
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】水圧調整弁を備えた噴流式マンガン
(51)【国際特許分類】
   A01K 80/00 20060101AFI20180521BHJP
   A01K 61/50 20170101ALI20180521BHJP
【FI】
   A01K80/00
   A01K61/50
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-123898(P2014-123898)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-2031(P2016-2031A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】300021002
【氏名又は名称】株式会社森機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】森 光典
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−164469(JP,U)
【文献】 実開昭53−032195(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0160655(US,A1)
【文献】 米国特許第03862502(US,A)
【文献】 実公昭47−028292(JP,Y1)
【文献】 特表昭62−501822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 80/00
A01K 61/50
A01K 73/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底を移動しながら噴流を用いて海底の砂泥を掘り起こし砂泥に潜む貝を袋網内に捕獲する、噴流式マンガンであって、
機体と、前記機体に取り付けられ、前記機体の進行方向に対して横方向に延びる第1の噴流パイプと、前記機体に取り付けられ、前記進行方向に対して横方向に延びる第2の噴流パイプと、前記第1の噴流パイプと前記第2の噴流パイプとを連通する連結ホースと、を備え、
前記第1の噴流パイプは、高圧水の供給を受けるための送水ホース接続部と、前記連結ホースを接続するための連結ホース接続部と、前記高圧水を海底に向けて噴射するための複数の噴射口と、を有し、
前記第2の噴流パイプは、前記連結ホースを接続するための連結ホース接続部と、前記高圧水を袋網の入口に向けて噴射するための複数の噴射口と、前記連結ホース接続部に対して径方向反対側から前記第2の噴流パイプを貫通するように挿入された水圧調整弁と、を有し
前記水圧調整弁の挿入量を調整することによって、前記連結ホース接続部と前記水圧調整弁との間に形成される高圧水の流路の開度が調節され、それにより前記第1の噴流パイプ内と前記第2の噴流パイプ内との圧力バランスが調整される
ことを特徴とする、噴流式マンガン。
【請求項2】
前記水圧調整弁は、前記第2の噴流パイプの前記連結ホース接続部に対して径方向反対側に設けられためねじ部材と、前記めねじ部材に螺合するおねじ部材とを含み、前記めねじ部材及び前記第2の噴流パイプの開口部を貫通するように挿入された前記おねじ部材の挿入量を調節することによって、前記連結ホース接続部と前記おねじ部材との間に形成される高圧水の流路の開度が調節されるように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載の噴流式マンガン。
【請求項3】
前記おねじ部材の挿入側の先端は、弁加工され、前記第2の噴流パイプ内部における前記連結ホース接続部の根元側の端部は、前記おねじ部材の弁加工された前記先端に適合するように弁座加工されていることを特徴とする、請求項2に記載の噴流式マンガン。
【請求項4】
前記第1の噴流パイプの連結ホース接続部は、前記第1の噴流パイプの長さ方向中央に設けられ、前記第1の噴流パイプの噴射口は、前記第1の噴流パイプの長さ方向中央から両側に対称に、前記第1の噴流パイプの長さ方向中央から遠ざかるに従って隣り合う噴射口同士の間隔が狭くなるように設けられたことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の噴流式マンガン。
【請求項5】
前記第2の噴流パイプが備える噴射口の数は、前記第1の噴流パイプが備える噴射口の数より少ないことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の噴流式マンガン。
【請求項6】
前記第1の噴流パイプ及び前記第2の噴流パイプが備える噴射口のそれぞれは、ノズル形状を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の噴流式マンガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝を捕獲するために用いられるマンガンと呼ばれる漁具のうち、噴流を用いて海底を掘り起こす噴流式マンガンに関する。より具体的には、本発明は、前後一対の噴流パイプを備え、第1の噴流パイプ内と第2の噴流パイプ内との圧力バランスを調整するための水圧調整弁をさらに備える噴流式マンガンに関する。
【背景技術】
【0002】
マンガンと呼ばれる漁具にロープを取り付けて海底に沈め、船で曳くことによって、マンガンを海底に沿って移動させながら砂泥を掘り起こさせ、砂泥に潜む貝をマンガンが備える袋網に捕獲する漁法が、従来行われている。マンガンは「桁網」又は「八尺」などとも呼ばれる。
【0003】
従来型のマンガンは、底部に設けられた熊手状の爪で海底の砂泥を掘り起こしながら海底を移動する。しかし、こうした従来型のマンガンには、爪が砂泥から抵抗を受けるために大きな牽引力を要するという問題がある。そこで、海底の砂泥を爪で掘り起こす前に予め、又は爪で掘り起こす代わりに、高圧水を海底に向けて噴射することによって生じた噴流で海底の砂泥を掘り起こすように構成されたマンガンが開発されている。こうしたマンガンは「噴流式マンガン」と呼ばれる。噴流式マンガンは、従来型のマンガンが備えるような熊手状の爪を備えたものと備えないものとが存在するが、備えたものがより一般的である。噴流式マンガンは、例えば北海道沿岸においては、ホッキガイ、バカガイ、サラガイなどを捕獲するために用いられる。
【0004】
噴流式マンガンが海底に向けて噴射する高圧水は、一般的には、マンガンを曳く船に備えられたポンプで海水に与圧して作られる。ポンプで作られた高圧水は、船とマンガンとを接続する送水ホースを通してマンガンに供給される。噴流式マンガンは、複数の噴射口が設けられた噴流パイプを備え、送水ホースから噴流パイプ内に供給された高圧水を噴流パイプの噴射口から海底に向け噴射して噴流を生じ、それによって海底の砂泥を掘り起こすように構成されたものが一般的である。特許文献1(実開昭57−182670号公報)は、このような構成の噴流式マンガンの一形態を開示する。
【0005】
海底の砂泥を掘り起こすための噴流を生ずる上述の噴流パイプの他に、掘り起こした砂泥に潜む貝を砂泥と分離してマンガン最後部に備えられた袋網に導くための噴流を生ずる別の噴流パイプを、上述の噴流パイプと袋網との間に備えるように構成された噴流式マンガンも開発されている。本明細書においては、このような構成の噴流式マンガンにおける前者の噴流パイプを第1の噴流パイプ、後者の噴流パイプを第2の噴流パイプと呼ぶ。特許文献2(実開昭57−15172号公報)及び特許文献3(実開昭58−164469号公報)は、それぞれ、第1の噴流パイプ及び第2の噴流パイプを備える噴流式マンガンの一形態を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭58−182670号公報
【特許文献2】実開昭57−15172号公報
【特許文献3】実開昭58−164469号公報
【特許文献4】登録実用新案第3138739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の噴流パイプが生ずる噴流の強さは、第1の噴流パイプ内の圧力に依存する。そのため、海底の硬さ、深さ、捕獲対象となる貝の種類などの条件に応じて、海底を掘り起こすための噴流が適切な強さとなるように第1の噴流パイプ内の圧力を調節する必要がある。例えば、大型貝であるホッキガイは砂泥に深く潜るので、掘り出すためには圧力を高くする必要がある。ポンプの出力を上げれば高い圧力を得ることができるが、その分燃費が悪化するため、ポンプは出来る限り低出力で使うことが望ましい。
【0008】
従来の噴流式マンガンでは、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとの間を一定径のホースで繋いでいたため、ポンプの出力を上げると、出力の上昇割合に比例して両噴流パイプとも内部の圧力が上昇していた。しかし、第2の噴流パイプが生ずる、掘り出した貝を袋網に移送するための噴流は、第1の噴流パイプが生ずる噴流ほどの強さを必要とせず、特に第1の噴流パイプが生ずる噴流を強めるために圧力を高めたときには、第2の噴流パイプの噴射口から無駄な海水が大量に流出することになる。そのため、第2の噴流パイプに送られる高圧水の圧力を抑え、相対的に第1の噴流パイプ内の圧力を高めるようにすれば、ポンプの出力を抑え、燃費の改善が可能となる。
【0009】
しかし、圧力バランスを第1の噴流パイプ側に極端に偏らせると、第2の噴流パイプが生ずる噴流の強さが不足し、その結果、掘り上げた貝から砂泥が分離せずに、一緒に袋網に入る恐れがある。そのため、単純に圧力バランスを第1の噴流パイプ側に偏らせた構造とするのではなく、海底の硬さ、深さ等の条件によって圧力バランスを微調整できるようにする必要がある。
【0010】
こうした微調整は、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとの間に水圧調整弁を設ければ可能となるが、簡単に外部に市販の水道用バルブを付けるようなことは好ましくない。海底には、砂ばかりでなく、岩石や、過去に投入した魚礁、コンクリートブロック等も有り、噴流式マンガンそのものが壊れることもあるほど過酷な環境であるため、こうした水道用バルブを無防備に外部に設置することはできない。また、バルブが壊れるのを防ぐためのガードを設けても、その取り付け方によってはロープやホースが絡むこととなり、やはり好ましくない。特許文献3(実開昭58−164469号公報)に開示される噴流式マンガンにおいては、噴水パイプ2と噴水パイプ3とを繋ぐホース23の一端側に調量コック部24が設けられるが、無防備に設けられた調量コック部24に海底の障害物が当たることによって破損する危険性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するためには、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとを接続する連結ホースのいずれかの付け根に水圧調整弁を設ければよい。ところで、海底を掘る噴流を生ずるための第1の噴流パイプにおいては、内部の圧力が左右で等しくなることが重要である。圧力が左右で異なると、海底の掘りの深さが左右で異なることとなり、その結果、櫛状爪部がより強い抵抗を受ける掘りの浅い側に機体の進行の向きが曲がってしまい、直進することができないからである。このため、第1の噴流パイプにおいて、高圧水の供給を受けるための送水ホース接続部と、連結ホースを接続するための連結ホース接続部とは、いずれも第1の噴流パイプの長さ方向中央に設けられることが好ましい。しかし、このように構成された噴流式マンガンにおいては、連結ホースの第1の噴流パイプ側付け根には、送水ホース接続部があるため、水圧調整弁を設けることが困難である。そこで、本発明の発明者は、試しに、第1の噴流パイプの中央ではなく、中央から右側に100mmずれた位置に連結ホース接続部及び水圧調整弁を設け、第1の噴流パイプの左右両端の噴射口における圧力を圧力計で測定する実験を行った。その結果、右側が左側に比べて有意に低圧となり、実用上好ましくない構成であることが判明した。従って、連結ホースの第1のパイプ側の付け根に水圧調整弁を設けることは、技術的には可能であっても、実用上の観点から困難である。
【0012】
そこで、本発明においては、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとを接続する連結ホースの第2のパイプ側の付け根に水圧調整弁を設けることによって、上述の課題を解決する。
【0013】
本発明は、第1の態様において、海底を移動しながら噴流を用いて海底の砂泥を掘り起こし砂泥に潜む貝を袋網内に捕獲する、噴流式マンガンを提供する。本噴流式マンガンは、機体と、機体に取り付けられ、機体の進行方向に対して横方向に延びる第1の噴流パイプと、機体に取り付けられ、進行方向に対して横方向に延びる第2の噴流パイプと、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとに連通する連結ホースと、を備える。第1の噴流パイプは、高圧水の供給を受けるための送水ホース接続部と、連結ホースを接続するための連結ホース接続部と、高圧水を海底に向けて噴射するための複数の噴射口と、を有する。第2の噴流パイプは、連結ホースを接続するための連結ホース接続部と、高圧水を袋網の入口に向けて噴射するための複数の噴射口と、連結ホースから流入する高圧水の流路の開度を調節することによって第1の噴流パイプ内と第2の噴流パイプ内との圧力バランスを調整するための水圧調整弁と、を有する。
【0014】
本発明の一実施形態においては、水圧調整弁は、第2の噴流パイプの連結ホース接続部に対して第2の噴流パイプの径方向反対側に設けられためねじ部材と、めねじ部材に螺合するおねじ部材とを含み、めねじ部材及び第2の噴流パイプの開口部を貫通するように挿入されたおねじ部材の挿入量を調節することによって、連結ホース接続部とおねじ部材との間に形成される高圧水の流路の開度が調節されるように構成されることが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態においては、おねじ部材の挿入側の先端は、弁加工され、第2の噴流パイプ内部における連結ホース接続部の根元側の端部は、おねじ部材の弁加工された先端に適合するように弁座加工されていることが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態においては、第1の噴流パイプの連結ホース接続部は、第1の噴流パイプの長さ方向中央に設けられ、第1の噴流パイプの噴射口は、第1の噴流パイプの長さ方向中央から両側に対称に、第1の噴流パイプの長さ方向中央から遠ざかるに従って隣り合う噴射口同士の間隔が狭くなるように設けられることが好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態においては、第2の噴流パイプが備える噴射口の数は、第1の噴流パイプが備える噴射口の数より少ないことが好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態においては、第1の噴流パイプ及び第2の噴流パイプが備える噴射口のそれぞれは、ノズル形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海底の硬さなどの条件に応じて水圧調整弁を調節することによって、第1の噴流パイプ内と第2の噴流パイプ内との圧力バランスを調整することができる。これによって、第1の噴流パイプ内の圧力を高めた場合においても、第2の噴流パイプから過剰な量の高圧水が噴出するのを防止することができ、ポンプの出力を必要以上に高める必要がなくなるため、燃費を向上させることができる。
【0020】
また、本発明によれば、水圧調整弁は、第1の噴流パイプでも連結ホースでもなく、第2の噴流パイプの、連結パイプ接続部に対して径方向反対側に設けられるため、機体の進行方向に対して後方に向けて突出する形となる。さらに、後述される一実施形態のように、水圧調整弁を構成する部材のうち第2の噴流パイプから突出する部分を単純かつコンパクトな形状とすることもできる。これによって、水圧調整弁に送水ホースやロープが絡まったり、水圧調整弁が海底の岩石や投棄物に当たって破損したりする可能性を小さくすることができる。
【0021】
さらに、本発明の一実施形態によれば、第1の噴流パイプの長さ方向中央と第2の噴流パイプの長さ方向中央とが1本の連結ホースによって接続されるため、第1の噴流パイプ内部の圧力が左右で等しくなる。第1の噴流パイプの中心からずれた位置に連結ホースを接続するのが実用上好ましくないことは、既に述べた通りである。また、詳しくは後述するが、第1の噴流パイプと第2の噴流パイプとを左右2本の連結ホースで接続した場合には、2本の連結ホースに対応して2つの水圧調整弁をそれぞれ独立に設ける必要があり、その結果、2つの水圧調整弁の開度の差によって第1の噴流パイプ内部に左右の圧力の差が生ずることを避けられない。従って、第1の噴流パイプの長さ方向中央と第2の噴流パイプの長さ方向中央とが1本の連結ホースによって接続される構成は、水圧調整弁を備える噴流式マンガンにおいては、特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る噴流式マンガンを模式的に示す平面図(a)及び側面図(b)である。
図2】(a)は、図1に示される噴流式マンガンの構成要素のうち第1の噴流パイプ、第2の噴流パイプ、連結ホース及び水圧調整弁を、2つの噴流パイプの軸方向に直交し連結ホースと交わる面で切断した断面を模式的に示す図である。(b)は、(a)に示される断面のうち水圧調整弁を構成する部分を、おねじ部材をめねじ部材から取り外した状態において模式的に示す図である。
図3図1に示される噴流式マンガンを用いて採貝漁を行う方法の一例を示す模式図である。
図4図1に示される噴流式マンガンが貝を捕獲する仕組みを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態に係る噴流式マンガンについて、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る噴流式マンガンの構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る噴流式マンガン1を模式的に示す平面図(a)及び側面図(b)である。本図において、左が噴流式マンガン1の進行方向、即ち前方である。噴流式マンガン1は、機体2と、機体2に取り付けられた第1の噴流パイプ3及び第2の噴流パイプ4と、第1の噴流パイプ3及び第2の噴流パイプ4に取り付けられた連結ホース6と、機体2に取り付けられた爪71、71、…を備える櫛状爪部7と、機体2の最後部に取り付けられた袋網8と、を備える。
【0025】
第1の噴流パイプ3は、内部の高圧水Wを海底に向けて噴射することによって、海底を掘り起こすための噴流である第1の噴流W3を生ずるパイプである。第1の噴流パイプ3は、図1(a)に示されるように、複数の噴射口31、31、…と、連結ホース6を接続するための連結ホース接続部32と、高圧水Wの供給を受けるための送水ホース接続部33と、を備える。噴射口31は、第1の噴流パイプ3の側面下部に複数設けられる。噴射口31から海底に向けて噴射される高圧水Wによって生ずる第1の噴流W3の指向性を高めるために、噴射口31のそれぞれは、ノズル形状であることが好ましいが、第1の噴流パイプ3の下部に単に開口を設けるだけでもよい。
【0026】
第1の噴流パイプ3内の圧力を左右で等しくするために、送水ホース接続部33は、第1の噴流パイプ3の長さ方向中央に設けられることが好ましい。さらに、隣り合う噴射口31同士の間隔は、第1の噴流パイプ3の中央付近で広く、端に行くに従って狭くなるように設けられることが好ましい。これは、高圧水Wの供給を受ける送水ホース接続部33の付近である第1の噴流パイプ3の中央付近は圧力が高く、端に行くに従って圧力が低くなるため、噴射口31を等間隔に設けた場合には、第1の噴流パイプ3の中央付近において海底が必要以上に深く掘れ、両端において掘りが浅くなりすぎるためである。隣り合う噴射口31同士の間隔が中央付近で広く、端に行くに従って狭くなるように噴射口31を設けることによって、これを補正することができる。
【0027】
連結ホース接続部32もまた、第1の噴流パイプ3の長さ方向中央に設けられることが好ましい。前出の特許文献3に開示される噴流式マンガンにおいては、噴水パイプ2と噴水パイプ3との間が左右2本のホース23,23によって接続されているが、この構成においては、噴水パイプ2の中央付近より圧力の低い両端の圧力がますます低くなり、両端において海底の掘りが浅くなりすぎることとなる。すると、櫛状部材9が受ける抵抗が大きくなるので、マンガンの速度が低下し、1日に曳くことができる回数が減ることとなる。また、海底の浅く掘られた部分においては、櫛状部材9が固い地盤にいる貝を無理に掘り起こすことになるため、貝が割れやすくなるという問題もある。さらに、2本のホース23,23のそれぞれに調量コック部24が設けられているが、この構成では、左右2つの調量コック部24はそれぞれ独立しているため、開度にどうしても差が生ずる。左右の調量コック部24の開度の差は、その差がたとえ僅かであったとしても、海底を掘る噴水パイプ2内における左右の圧力に差をもたらすため、海底の掘りの深さが左右で異なることとなる。その結果、櫛状部材9が海底から受ける抵抗が左右で異なることとなるので、機体1は、より強い抵抗を受ける掘りの浅い側に曲がりながら前進し、ある程度進むと跳ねて元の向きに戻るという動作を繰り返すことになる。このような噴流式マンガンは、実用に耐え得るものではない。
【0028】
本発明の一実施形態に係る噴流式マンガン1の説明に戻る。第1の噴流パイプ3は、噴流式マンガン1を海底に設置したときに海底面に対して平行となり、かつ機体2の移動の向きに対して概ね直交するように、閉じた両端部で機体2に取り付けられる。特に連結パイプ6として可撓性を有するパイプを用いる場合には、第1の噴流W3の向きを調節できるようにするために、第1の噴流パイプ3は、周方向に回転可能に機体2に取り付けられ、両端部の一方又は両方に、第1の噴流パイプ3の周方向の向きを調節するための調節機構34(図示せず)が備えられることが好ましい。
【0029】
第2の噴流パイプ4は、内部の高圧水Wを櫛状爪部7及び袋網8に向けて噴射することによって、海底から掘り出されて櫛状爪部7上にある貝Sを砂泥と分離しながら袋網8に導くための噴流である第2の噴流W4を生ずるパイプである。第2の噴流パイプ4は、図1(a)に示されるように、複数の噴射口41、41、…と、連結ホース接続部42とを備える点で第1の噴流パイプ3に類似するが、連結ホース接続部42以外のホース接続部を備えず、代わりに水圧調整弁5をさらに備える点で異なる。噴射口41は、第2の噴流パイプ4の側面に複数設けられる。噴射口41から後方に向けて噴射される高圧水Wによって生ずる第2の噴流W4の指向性を高めるために、噴射口41のそれぞれは、ノズル形状であることが好ましいが、第2の噴流パイプ4の側面に単に開口を設けるだけでもよい。第2の噴流パイプが生ずる噴流W4は、第1の噴流パイプが生ずる噴流W3とは異なり、掘り出された貝Sを袋網8に送り込む程度の強さで足りるため、第2の噴流パイプ4が備える噴射口41の数は、第1の噴流パイプ3が備える噴射口31の数より少なくすることが好ましく、噴射口41は、ほぼ等間隔に設けられることが好ましい。連結ホース接続部42は、第1の噴流パイプ3が備える連結ホース接続部32の位置に対応する位置に設けられることが好ましい。第2の噴流パイプ4は、噴流式マンガン1の移動の向きに対して第1の噴流パイプ3より後方の位置において、第1の噴流パイプ3と概ね平行に、閉じた両端部で機体2に取り付けられる。
【0030】
第2の噴流パイプ4は、第2の噴流パイプ4内に供給される高圧水Wの流路の開度を調節することによって第1の噴流パイプ3内と第2の噴流パイプ4内との圧力バランスを調整するための水圧調整弁5をさらに備える。水圧調整弁5は、第2の噴流パイプ4に設けられためねじ部材52と、めねじ部材52に螺合するおねじ部材51と、第2の噴流パイプ4の連結ホース接続部42の根元側端部42Aとで構成される。水圧調整弁5についての詳細は後述する。
【0031】
連結ホース6は、第1の噴流パイプ3と第2の噴流パイプ4とに連通し、高圧水Wを第1の噴流パイプ3内から第2の噴流パイプ4内に供給する。連結ホース6の一端は第1の噴流パイプ3の連結ホース接続部32に接続され、他端は第2の噴流パイプ4の連結ホース接続部42に接続される。送水ホース接続部33から第1の噴流パイプ3内に供給された高圧水Wは、一部が第1の噴流パイプ3の噴射口31、31、…から噴射されて第1の噴流W3を生じ、残りが連結ホース6及び水圧調整弁5を通じて第2の噴流パイプ4内に供給され、第2の噴流パイプ4の噴射口41、41、…から噴射されて第2の噴流W4を生ずることになる。
【0032】
櫛状爪部7は、機体2の最後部から前下方に向けて取り付けられた複数の爪71、71、…で構成される。爪71は、図1(b)に示されるように、長さ方向中央付近で屈曲させて略への字形とすることが好ましい。図には示さないが、櫛状爪部7は、複数の爪71を幾つかの棒状部材で水平に接続することによって格子状の部材としてもよく、そうすることによって、爪71のそれぞれが横方向に曲がって隣合う爪71同士の間隔が不均一になることを抑制することができる。
【0033】
袋網8は、掘り出した貝Sを内部に捕獲するための袋状の網である。第1の噴流パイプ3が生ずる第1の噴流W3及び柵状爪部7の爪71、71、…によって海底から掘り出された貝Sは、第2の噴流パイプ4が生ずる第2の噴流W4によって砂泥と分離されながら、袋網8内に導かれる。袋網8の構造、材質、大きさなどは、当業者が一般の噴流式マンガンに用いるものでよい。
【0034】
機体2、第1の噴流パイプ3、第2の噴流パイプ4、及び爪71は、いずれも金属製であることが好ましく、さらには、耐食性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304)であることがより好ましいが、噴流式マンガン一般に要求される剛性及び耐久性を有する材質であればよい。また、連結ホース6は、可撓性を有するゴムから成る、いわゆるゴムホースであることが好ましいが、可撓性の有無にかかわらず、一定の耐圧性を有するホース又はパイプであればよい。
【0035】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る噴流式マンガンの水圧調整弁について説明する。図2(a)は、噴流式マンガン1の構成要素のうち第1の噴流パイプ3、第2の噴流パイプ4、連結ホース6及び水圧調整弁5を、2つの噴流パイプ3,4の軸方向に直交し連結ホース6と交わる面で切断した断面を模式的に示す図である。図2(b)は、図2(a)に示される断面のうち水圧調整弁5を構成する部分を、おねじ部材51をめねじ部材52から取り外した状態において模式的に示す図である。
【0036】
図2(a)及び(b)に示されるように、水圧調整弁5は、第2の噴流パイプ4の連結ホース接続部42に対して径方向反対側に溶接されためねじ部材52と、めねじ部材52に螺合するおねじ部材51と、連結ホース接続部42の根元側端部42Aと、で構成される。おねじ部材51の外表面51Tと、めねじ部材52の内表面52Tとは、互いに螺合するように、それぞれがねじ加工されている。第2の噴流パイプ4は、めねじ部材52の孔の位置に対応する部分において、おねじ部材51が貫通できるように開口している。そこに、めねじ部材52に螺合させたおねじ部材51を挿入することによって、連結パイプ6から第2の噴流パイプ4内に流入する高圧水Wの流路の開度を調節する弁が構成される。おねじ部材51は、第2の噴流パイプ4に溶接されためねじ部材52に螺合しているため、レンチなどの工具を用いて回すことによって挿入量を調節することができる。おねじ部材51をより深く挿入すると、おねじ部材51の先端51Aと連結ホース接続部42の根元側端部42Aとの間の距離が縮まるため、弁の開度は小さくなり、その結果、第1の噴流パイプ3内の圧力はより高くなり、第2の噴流パイプ4内の圧力はより低くなる。反対に、おねじ部材51をより浅く調節すると、おねじ部材51の先端51Aと連結ホース接続部42の根元側端部42Aとの間の距離が広がるため、弁の開度は大きくなり、その結果、第1の噴流パイプ3内の圧力はより低くなり、第2の噴流パイプ内4の圧力はより高くなる。このように、弁の開度を調節することによって、第1の噴流パイプ3内と第2の噴流パイプ4内との圧力バランスを調整することができる。
【0037】
図2(b)に示されるように、連結ホース接続部42の内面側端面42Aは弁座加工され、それに対応するように、おねじ部材51の先端部51Aは弁加工される。レンチなどの工具を用いておねじ部材51を回すことができるように、おねじ部材51の後端部51Bには四角柱形状の突起が設けられている。
【0038】
次に、図3を参照して、本実施形態に係る噴流式マンガンを用いて採貝漁を行う方法の一例について説明する。漁の開始前において、噴流式マンガン1は、船91に積載され、送水ホース93及びロープ94によって船91と接続される。送水ホース93は、適切な耐圧性を有し、長さが例えば40m〜50mであるものを用いることができる。送水ホース93の一端は船91に備えられたポンプ92の吐水口に接続され、他端は噴流式マンガン1が備える第1の噴流パイプ3の送水ホース接続部33に接続される。ロープ94の一端は船91に固定され、他端は噴流式マンガン1の機体2に締結される。ロープ94は、船91が噴流式マンガン1を曳いたときに送水ホース93より先に伸張し、かつ送水ホース93が過度に弛まないような長さに調整される。さらに、船91は、アンカーロープ巻き機95を備える。アンカーロープ巻き機95にはアンカーロープ96の一端が接続され、アンカーロープ96の他端にはアンカー97が取り付けられる。
【0039】
漁の工程は次の通りである。まず、アンカーロープ96に取り付けられたアンカー97を海中に投げ込み、海底に設置する。次に、船91を後退又は前進させて、アンカー97との間でアンカーロープ96を伸張する。アンカーロープ96を伸張する長さは、例えば200mとすることができる。次に、噴流式マンガン1を海中に投入する。噴流式マンガン1が海底に着底した後で、ポンプ92を起動する。ポンプ92は、海水を汲み上げ、与圧して高圧水Wを作り、それを吐水口に接続された送水ホース93内に供給する。ポンプ92の吐水圧は、海底の硬さなどの条件に応じて調節することができ、例えば、0.5MPaに設定することができる。次に、アンカーロープ巻き機95を起動し、アンカーロープ96の巻き取りを開始する。巻き取りの速度は、例えば巻き取りの開始から終了までが30分〜40分となるような速度に調整することができる。図3に示されるように、アンカーロープ96を巻き取ることによって、船91は、アンカー97に向かって移動しながら、ロープ94を介して、噴流式マンガン1を海底に沿って図中の矢印の向きに曳く。このように、船91をスクリュー等によって推進させるのではなく、アンカーロープを巻き取る力用いて推進させることによって、噴流式マンガン1をゆっくりと安定した速度で曳くことが可能になる。巻き取りが終了したら、ポンプ92を停止し、噴流式マンガン1を船91上に引き揚げ、袋網8内に捕獲された貝Sを取り出した後、アンカー97の設置から、或いはアンカーロープ96の伸張から、貝Sまでの取出しまでの上述の工程を任意に繰り返すことができる。
【0040】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る噴流式マンガンが貝を捕獲する仕組みについて説明する。上述のように、噴流式マンガン1は、海底に沿って図中の矢印の向きに曳かれ、高圧水Wが送水パイプ93を通じて第1の噴流パイプ3内に供給される。第1の噴流パイプ3内に供給された高圧水は、一部が噴射口31から海底に向けて噴射されて第1の噴流W3を生じ、残りが連結ホース6及び水圧調整弁5を通じて第2の噴流パイプ4内に供給され、噴射口41から櫛状爪部7に向けて噴射されて第2の噴流W4を生ずる。
【0041】
第1の噴流パイプから生ずる第1の噴流W3によって、海底の砂泥が掘り起こされて、砂泥内の貝Sが砂泥とともに掘り出される。掘り出された貝Sは、噴流式マンガン1の移動に伴って櫛状爪71に乗り、第2の噴流パイプ4から生ずる第2の噴流W4が来る位置に送られる。貝Sは、第2の噴流W4によって砂泥と分離され、貝Sのみが袋網8内に送り込まれる。
【0042】
噴流式マンガン1の使用者は、噴流式マンガン1が備える水圧調整弁5を地上又は船上において調節することによって、海底の硬さなどの条件に応じて、第1の噴流パイプ3内と第2の噴流パイプ4内との圧力バランスを調整することができる。第1の噴流W3は、海底の砂泥を掘り起こすための噴流であり、海底の硬さ等の条件に応じて適切な強さとなるように調節する必要がある。このため、噴流式マンガン1の使用者は、第1の噴流W3が適切な強さとなるように、ポンプ92の吐水圧を設定することになる。一方、第2の噴流W4は、貝を砂泥と分離させるための噴流であるため、第1の噴流W3ほどの強さを必要としないが、弱すぎると貝Sが砂泥と分離せずに一緒に袋網に入る恐れがある。このため、噴流式マンガン1の使用者は、第1の噴流W3ポンプ92の吐水圧に応じて、水圧調整弁5を調節し、第2の噴流W4が適切な強さとなるように、第1の噴流パイプ3内と第2の噴流パイプ4内との圧力バランスを調整することができる。
【0043】
[測定実験]
本発明の発明者は、自ら製作した本発明に係る噴流式マンガン1を用いて、水圧調整弁5を調整することによって第1の噴流パイプ3内及び第2の噴流パイプ4内の高圧水Wの水圧がどのように変化するかを測定する実験を行った。本実験においては、ポンプ92から吐出される圧力0.5MPaに設定された高圧水Wを、長さ40mの送水ホース93を介して第1の噴流パイプ3の送水ホース接続部33に供給し、水圧調整弁の開放度Aと第1の噴流パイプ3内及び第2の噴流パイプ4内の圧力との関係を測定した。水圧調整弁5の開放度Aは、おねじ部材51のめねじ部材52から突出している部分の長さ、即ち図2(a)に示されるAの長さによって表した。測定実験の結果を表1に示す。表1によれば、水圧調整弁5を調整することによって、第1の噴流パイプ3内と第2の噴流パイプ4内との圧力バランスを、所定の範囲内で自由に調整可能であることが示される。表1においては、水圧調整弁5の開放度Aは5mm刻みで示されているが、実際にはより微細に調節することが可能である。
【表1】
【0044】
本明細書においては本発明の一実施形態が説明されたが、当業者であれば、特許請求の範囲から逸脱することなく様々な変更がなされ、均等物がそれについての要素に代替され得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書に開示された一実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むものであることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 噴流式マンガン
2 機体
3 第1の噴流パイプ
31 噴射口
32 連結パイプ接続部
33 送水ホース接続部
4 第2の噴流パイプ
41 噴射口
42 連結パイプ接続部
5 水圧調整弁
51 おねじ部材
52 めねじ部材
6 連結ホース
7 櫛状爪部
71 櫛状爪
8 袋網
91 船
92 ポンプ
93 送水ホース
94 ロープ
95 アンカーロープ巻き機
96 アンカーロープ
97 アンカー
W 高圧水
W3 第1の噴流
W4 第2の噴流
S 貝
図1
図2
図3
図4