(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333665
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ローカバー運搬台車
(51)【国際特許分類】
B62B 5/00 20060101AFI20180521BHJP
B62B 3/10 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B62B5/00 F
B62B3/10 D
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-165826(P2014-165826)
(22)【出願日】2014年8月18日
(65)【公開番号】特開2016-41535(P2016-41535A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−252065(JP,A)
【文献】
特開平06−032443(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102012013217(DE,A1)
【文献】
実開昭51−061659(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 5/00
B62B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並行となるように固定された水平方向に長尺な一対の固定フレームと、
前記一対の固定フレームの間に、一対の固定フレームと並行となるように配置された水平方向に長尺な移動フレームと、
前記一対の固定フレームの一方と前記移動フレームの間に弛んで垂れ下がった状態で掛け渡されたローカバー積載用布地と、
前記移動フレームを、前記一方の固定フレームに対して接近および離間する方向に移動自在に支持して任意の位置で固定する位置調整手段とを備えていることを特徴とするローカバー運搬台車。
【請求項2】
前記ローカバー積載用布地が垂れ下がったときの前記ローカバー積載用布地の最上点から最下点までの弛み距離が、230〜450mmの範囲にされ、前記一方の固定フレームに対して前記移動フレームの接近および離間する移動距離の範囲が、0mmよりも大きく70mm以下にされていることを特徴とする請求項1に記載のローカバー運搬台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形されたローカバーを加硫工程に運搬するために使用されるローカバー運搬台車に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製造工程では、ローカバー成形工程において成形されたローカバーは、その後、成形されたローカバーの内面に離型剤等を塗布する内部ペイント塗布工程を経て、加硫工程に送られて製品タイヤとされる。
【0003】
このとき、成形工程から加硫工程に至るまでには、通常、1時間から20時間程度を必要としており、この工程間におけるローカバーの搬送に際しては、同一種のローカバーを複数本纏めて加硫プレスまで運搬することができるラック状のローカバー運搬台車が使用されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
このようなローカバー運搬台車の一例を
図5に示す。
図5に示すように、ローカバー運搬台車は、基本的に、互いに対向して配置された1対の長尺のフレーム53、54と、フレーム53、54間に中央部が弛んで垂れ下がった状態で掛け渡されたローカバー積載用布地55とにより構成されている。なお、
図5において、51は車輪であり、52はフレーム53、54を支持する脚部である。
【0005】
ローカバー積載用布地55の上にローカバーTが積載されると、ローカバーTの重量により下部がローカバー積載用布地55に沈み込み、複数のローカバーTを揺らすことなく安定して運搬することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004―359448号公報
【特許文献2】特開平06―238770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のローカバー運搬台車は、安定して運搬することができるローカバーTの外径が限られており、外径の大きなローカバーTを運搬しようとすると、ローカバーTが揺れてフレーム53、54に接触してローカバーTの表面にへこみや傷のダメージが発生して、加硫後のタイヤに痕が残る恐れがあった。
【0008】
一方、外径の小さなローカバーTを運搬しようとすると、ローカバーTがローカバー積載用布地55に深く沈み込んでしまい、ローカバー積載用布地55の接触部分からローカバーTが受ける圧力が強くなるため、ローカバーTが偏心する恐れがある。偏心したローカバーを加硫しようとすると、ローカバーTがプレス用の金型に斜めに挿入されて上下非対称に加硫されてしまい、ツイストが発生してディフェクトとなる恐れがあった。
【0009】
そこで、本発明は、ローカバーの外径に影響されることなく、常に、複数のローカバーを揺らすことなく安定して運搬することができるローカバー運搬台車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、
互いに並行となるように固定された水平方向に長尺な一対の固定フレームと、
前記一対の固定フレームの間に、一対の固定フレームと並行となるように配置された水平方向に長尺な移動フレームと、
前記一対の固定フレームの一方と前記移動フレームの間に弛んで垂れ下がった状態で掛け渡されたローカバー積載用布地と、
前記移動フレームを、前記一方の固定フレームに対して接近および離間する方向に移動自在に支持して任意の位置で固定する位置調整手段とを備えていることを特徴とするローカバー運搬台車である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記ローカバー積載用布地が垂れ下がったときの前記ローカバー積載用布地の最上点から最下点までの弛み距離が、230〜450mmの範囲にされ、前記一方の固定フレームに対して前記移動フレームの接近および離間する移動距離の範囲が、0mmよりも大きく70mm以下にされていることを特徴とする請求項1に記載のローカバー運搬台車である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ローカバーの外径に影響されることなく、常に、複数のローカバーを揺らすことなく安定して運搬することができるローカバー運搬台車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るローカバー運搬台車の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るローカバー運搬台車の一部を拡大した図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るローカバー運搬台車の一部を拡大した図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るローカバー運搬台車のローカバー積載用の布地の弛み距離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は本実施の形態に係るローカバー運搬台車の斜視図、
図2および
図3は本実施の形態に係るローカバー運搬台車の一部を拡大した図である。
【0016】
1.ローカバー運搬台車
(1)概要
図1に示すように、ローカバー運搬台車Aは、上段部と下段部からなる2段式となっている。上段部および下段部のいずれも、それぞれの脚部1に一対のサイドフレーム4、5が対向するように掛け渡されている。
【0017】
サイドフレーム4、5の一端には、長尺な一対の固定フレーム2、3が互いに並行になるように水平方向に取り付けられており、サイドフレーム4、5と固定フレーム2、3により枠体が形成されている。なお、それぞれの脚部1には車輪が取り付けられている。
【0018】
そして、本実施の形態では、一対の固定フレーム2、3の間に、一対の固定フレーム2、3と並行になるように配置された水平方向に長尺な移動フレーム3Aと、一方の固定フレーム2と移動フレーム3Aの間に弛んで垂れ下がった状態で掛け渡されたローカバー積載用布地6とを備えている。
【0019】
(2)調整手段
また、本実施の形態においては、移動フレーム3Aを一方の固定フレーム2に対して接近および離間する方向に移動可能に支持して任意の位置で固定する位置調整手段7を備えている。
図1に示すように、位置調整手段7は、一対のサイドフレーム4、5に形成された長孔9と蝶ネジ10と、移動フレーム3Aに形成されたネジ棒11とから構成されている。
【0020】
図1および
図3に示すように、ネジ棒11は、移動フレーム3Aの両端に形成されており、移動フレーム3Aのネジ棒11がサイドフレーム4、5の長孔9に挿通されることにより、移動フレーム3Aが一対の固定フレーム2、3と並行になるようにサイドフレーム4、5間に取り付けられる。
【0021】
蝶ネジ10は、移動フレーム3Aの両端のネジ棒11に螺合されており、蝶ネジ10を緩めることにより、
図2に示すように、移動フレーム3Aを長孔9に沿ってスライドさせて移動フレーム3Aを固定フレーム2に対して接近および離間させることができる。
【0022】
本実施の形態では、上記のように移動フレーム3Aをスライドさせることにより、ローカバー積載用布地6の弛み距離を調整することができる。そして、蝶ネジ10を締め付けることにより、所定の弛み距離が設定された状態で移動フレーム3Aが固定される。
【0023】
図4は本実施の形態に係るローカバー運搬台車Aのローカバー積載用布地6の弛み距離を示す図である。
図4中の符号LはローカバーTの弛み距離、即ち、ローカバーTが積載されていないときのローカバー積載用布地6の最上点から最下点までの弛み距離を指す。
【0024】
上記したように、本実施の形態に係るローカバー運搬台車は、位置調整手段7により、移動フレーム3Aを固定フレーム2に対して接近および離間させることにより、弛み距離Lを適宜設定することができる。
【0025】
この弛み距離Lを、積載するローカバーTの外径(曲率)に合わせて適切に設定することにより、積載するローカバーTの外径の大小にかかわらず、ローカバーTをローカバー積載用布地6に適度に沈み込ませることができるため、ローカバーを揺らすことなく安定した状態で運搬することができる。
【0026】
2.本実施の形態の効果
本実施の形態によれば、積載するローカバーTの外径に応じて、移動フレーム3Aを固定フレーム2に対して接近および離間させてローカバー積載用布地6の弛み距離を調整することにより、ローカバーTをローカバー積載用布地6に適度に沈み込ませた状態で積載させることができる。
【0027】
この結果、ローカバーTの外径に影響されることなく、常に、複数のローカバーを揺らすことなく安定して運搬することができるため、ローカバーTが固定フレーム2、移動フレーム3Aに接触してへこみや傷のダメージが発生することを適切に防止することができる。
【0028】
また、ローカバーTをローカバー積載用布地6に適度に沈み込ませた状態で積載させることができるため、ローカバーTがローカバー積載用布地6から強い圧力を受けることを抑制して、積載されたローカバーの偏心を適切に防止することができる。このため、ローカバーの偏心によるツイストの発生を抑制して、ディフェクトを防止することができる。
【0029】
なお、弛み距離Lは、ローカバーTのダメージや偏心によるツイストをより適切に防止するという観点から、230mm以上450mm以下に設定されており、移動フレーム3Aの移動距離が0mmよりも大きく70mm以下に設定されていることが好ましい。
【0030】
そして、本実施の形態に係るローカバー運搬台車は、2輪車用ローカバーの運搬に適用した場合、特に顕著な効果を発揮する。
【実施例】
【0031】
(1)本実施の形態のローカバー運搬台車に外径の異なる2種類の2輪車用のローカバーを積載して30mの距離を100本運搬した。このとき、移動フレームの移動距離およびローカバー積載用布地の弛み距離を、表1および表2に示すように変化させた。
【0032】
なお、表1では、径の大きなタイヤ、即ち、タイヤ(ローカバー)サイズ:120/70R17(ローカバー重量:4.0kg、ローカバー外径:600mm)のローカバーを運搬した。そして、表2では、径の小さなタイヤ、即ち、タイヤ(ローカバー)サイズ:3.00−8(ローカバー重量:1.5kg、ローカバー外径:360mm)のローカバーを運搬した。
【0033】
(2)評価方法および評価基準
運搬後の各ローカバーについて、以下の評価を行った。
【0034】
(a)ツイスト
ローカバーの偏心により加硫工程でローカバーがプレス用の金型に対して斜めに挿入され上下非対称に加硫される問題の発生を観察し、その頻度に応じて、「良」、「可」、「不可」と評価した。
【0035】
(b)ダメージ
ローカバーとフレームとの接触によりローカバーの表面にへこみや傷が発生し加硫後のタイヤに痕が残る問題の発生を観察し、その頻度に応じて、「良」、「可」、「不可」と評価した。
【0036】
なお、上記における各評価基準は以下の3段階である。
良 :全数問題無し
可 :3%以内で問題発生
不可:3%以上で問題発生
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1の実施例1−1〜1−4、表2の実施例2−1〜2−4より、ローカバーの外径に応じて弛み距離Lを230〜450mmに設定することにより、ローカバーの表面のへこみや傷および加硫後のタイヤの痕の発生を防止することができる。即ち、ローカバーの外径の大小にかかわらず、ローカバーをローカバー運搬台車に積載して揺らすことなく安定状態で運搬することができることが確認できた。
【0040】
また、表1の比較例1、表2の比較例2より、移動フレームを移動させない従来例と同じローカバー運搬台車においては、ローカバー積載用布地の弛み距離が150mm以下の場合、外径400mm以下のローカバーは、運搬中に周方向に揺れて不安定となり、移動フレームや固定フレームに接触してダメージを受けることが分かった。
【0041】
また、表2の実施例2−5〜2−7より、外形が小さなローカバーであると、ローカバー積載用布地の弛み距離が470mm以上の場合、ローカバー積載用の布地に深く沈み込むため、ローカバー積載用布地の接触部分から受ける圧力が大きくなって偏心し、加硫工程ではローカバーがプレス用の金型に斜め挿入されて上下非対称に加硫され、ツイストが発生してディフェクトとなった。
【0042】
さらに、表1の実施例1−5〜1−7より、外形が大きなローカバーであると、ローカバー積載用布地の弛み距離が470mm以上の場合、ローカバー積載用布地の接触部分から受ける圧力が大きくなって偏心する傾向にあり、弛み距離が550mm以上になると、偏心して、ツイストが発生してディフェクトとなった。
【0043】
以上の結果より、ローカバー積載用布地の弛み距離は230〜450mmに設定することが好ましく、また移動フレームの移動距離は0mmよりも大きく70mm以下に設定することが好ましいことが確認できた。
【0044】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0045】
1、52 脚部
2、3 固定フレーム
4、5 サイドフレーム
3A 移動フレーム
6、55 ローカバー積載用布地
7 位置調整手段
9 長孔
10 蝶ネジ
11 ネジ棒
51 車輪
53、54 フレーム
A ローカバー運搬台車
L 弛み距離
T ローカバー