特許第6333666号(P6333666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333666
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】電子写真用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   G03G9/08 321
   G03G9/08 325
   G03G9/08 331
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-170185(P2014-170185)
(22)【出願日】2014年8月25日
(65)【公開番号】特開2016-45394(P2016-45394A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】家 真知子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友秀
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
【審査官】 倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−080112(JP,A)
【文献】 特開2008−224976(JP,A)
【文献】 特開2015−106079(JP,A)
【文献】 特開2008−015230(JP,A)
【文献】 特開2011−053494(JP,A)
【文献】 特開2013−109237(JP,A)
【文献】 特開2011−059418(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0166121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G9/00−9/10;9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)、結晶性樹脂(B)及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で重合する工程を含む方法により得られる、スチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)を含有する結着樹脂及び着色剤を含有する電子写真用トナーであって、
前記結晶性樹脂(B)が、炭素数2以上8以下の脂肪族ジオールAと炭素数9以上14以下の脂肪族ジオールBを30/70以上70/30以下のモル比(脂肪族ジオールA/脂肪族ジオールB)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分を含む原料モノマーを重縮合して得られるポリエステル樹脂部分(B1)と、スチレンを含む原料モノマーを付加重合して得られる付加重合系樹脂部分(B2)を有する複合樹脂である、
電子写真用トナー。
【請求項2】
結晶性樹脂(B)において、ポリエステル樹脂部分(B1)と付加重合系樹脂部分(B2)の質量比(ポリエステル樹脂部分(B1)/付加重合系樹脂部分(B2))が60/40以上である、請求項記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
ポリエステル樹脂部分(B1)のカルボン酸成分が、炭素数8以上16以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有する、請求項1又は2記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーが、炭素数8以上22以下の1価のアルコール及び炭素数8以上22以下の1価のカルボン酸化合物の少なくともいずれかを含有する、請求項1〜いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項5】
結晶性樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計値が、2.5mgKOH/g以上25mgKOH/g以下である、請求項1〜いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項6】
結晶性樹脂(B)の含有量が、結着樹脂中、1質量%以上20質量%以下である、請求項1〜いずれか記載の電子写真用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式を用いるプリンター、コピー機においても、少ない消費電力での印字、CO2排出量削減を念頭においた開発が行われており、例えば、特許文献1には、結晶性樹脂を添加して低温定着性能を向上させたトナーにおいて、充分な低温定着性能を有し、かつ現像工程の高速化に対応することを課題として、スチレンアクリル系樹脂を主成分とする結着樹脂、着色剤及び結晶性樹脂を含有するトナー粒子の製造方法であって、樹脂粒子を製造した後に、該樹脂粒子を水系媒体中において、該結着樹脂の中間点ガラス転移温度以上、該結晶性樹脂の融解開始温度以下の温度で0.5時間以上加熱保持する工程を含むことを特徴とするトナー粒子の製造方法が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献2には、トナーの低温定着性に優れるとともに、画像の光沢性及び耐フィルミング性に優れたトナーを得ることができるトナー用結晶性樹脂として、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸を含有したカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂成分とスチレン系樹脂成分とを含む複合樹脂からなる、トナー用結晶性樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−80112号公報
【特許文献2】特開2010−139659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トナーの結着樹脂として、スチレンアクリル樹脂はポリエステル樹脂に比べると低温定着性で劣るため、印字時に電力を要するという課題がある。かかる課題に対して、前記特許文献1では、結晶性ポリエステルを併用することが有効であると報告されているが、重合性単量体組成物を水系媒体中で重合する工程を含む方法により得られる電子写真用トナーの場合、トナーの保存性、特に高温環境下での保存性(耐熱保存性)の観点から、結晶性ポリエステルを内包するためには、長鎖の脂肪族ジオールを用いて、結晶性ポリエステルのSP値を、スチレンアクリル樹脂のSP値より低くすることが考えられる。
【0006】
しかし、両樹脂のSP値が離れるためか、結晶性ポリエステルの分散性が低下し、定着時に、結晶性ポリエステルが先に溶融し、スチレンアクリル樹脂が溶融しにくくなり、十分な低温定着性を発揮することができない。
【0007】
また、トナーが結晶性ポリエステルを含有していると、定着後に結晶性ポリエステルが成長し、定着画像の耐擦過性が低下することがある。
【0008】
また、重合性単量体組成物の重合によりトナー粒子を形成する場合、粒子の合一により、トナー粒子の円形度が低くなると、トナー粒子が現像ローラーを通るときに割れやすく、トナーの飛散量が増加する原因となる。
【0009】
本発明は、低温定着性と耐熱保存性に優れ、さらに定着画像の耐擦過性が向上し、トナー飛散を低減することができる電子写真用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)、結晶性樹脂(B)及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で重合する工程を含む方法により得られる、スチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)を含有する結着樹脂及び着色剤を含有する電子写真用トナーであって、
前記結晶性樹脂(B)が、炭素数2以上8以下の脂肪族ジオールAと炭素数9以上14以下の脂肪族ジオールBを30/70以上70/30以下のモル比(脂肪族ジオールA/脂肪族ジオールB)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分を含む原料モノマーを重縮合して得られるポリエステル樹脂部分(B1)を含む樹脂である、
電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子写真用トナーは、低温定着性と耐熱保存性に優れ、さらに定着画像の耐擦過性が向上し、トナー飛散を低減することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂としてスチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)を含有するものであり、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)、結晶性樹脂(B)及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で重合して得られるものであるが、結晶性樹脂(B)が、炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜14の脂肪族ジオールBを併用したアルコール成分とカルボン酸成分を含む原料モノマーを重縮合して得られるポリエステル樹脂部分(B1)を含む樹脂である。本発明では、結晶性樹脂(B)がスチレンアクリル樹脂中に微分散して内包されているため、低温定着性と耐熱保存性を両立できるだけでなく、トナーの飛散量を低減し、定着画像の耐擦過性にも優れる。
【0013】
重合性単量体組成物の重合時に、結晶性ポリエステルが内包されていると、粒子の合一が抑制され、トナー粒子の円形度が高くなる。トナー粒子の円形度が高いと、トナー粒子が現像ローラーを通るときに割れにくく、トナーの飛散量を低減することができ、機械内部の汚染を抑制できると考えられる。
また、結晶性ポリエステルが微分散されていると、定着画像において、結晶性ポリエステルが成長し難く、定着画像の耐擦過性が向上すると考えられる。
【0014】
(スチレンアクリル樹脂(A))
本発明において、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)としては、スチレン化合物及びアルキル(メタ)アクリレートを含む、公知のラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。
【0015】
スチレン化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0016】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマル又はイソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマル、イソ又はターシャリーブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、アルキル(メタ)アクリレートとは、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの混合物のアルキルエステルを意味する。
【0017】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、低温定着性の観点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上がさらに好ましい。また、耐熱保存性の観点から、12以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、4以下がさらに好ましい。これらの観点から、アルキル(メタ)アクリレートとしては、ブチルアクリレートが好ましく、n-ブチルアクリレートがより好ましい。
【0018】
他のラジカル重合性単量体としては、酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。
【0019】
また、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)は、耐高温オフセット性の改善を目的として、少量の多官能性単量体を含有していてもよい。多官能性単量体としては、2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物等が挙げられる。2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート等の二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物等が挙げられる。
【0020】
スチレン化合物の含有量は、原料モノマー(a)中、耐熱保存性の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上がさらに好ましい。また、低温定着性の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、88質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、原料モノマー(a)中、低温定着性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、耐熱保存性の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
(結晶性樹脂(B))
結晶性樹脂(B)は、アルコール成分とカルボン酸成分を含む原料モノマーを重縮合して得られるポリエステル樹脂部分(B1)を含む樹脂である
【0023】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0024】
ポリエステル樹脂部分(B1)のアルコール成分は、炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜14の脂肪族ジオールBを含有する。ポリエステル樹脂部分(B1)は、2種の鎖長の異なる脂肪族ジオールを用いているため、スチレンアクリル樹脂(A)中の結晶性樹脂(B)の結晶の成長が抑制され、結晶が微分散された状態になると考えられる。これにより、結晶の融点が低下して、低温定着性が向上すると考えられる。
【0025】
脂肪族ジオールAの炭素数は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、2以上であり、4以上が好ましく、6以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、8以下であり、6以下が好ましい。
【0026】
脂肪族ジオールAとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられ、1種であっても、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、定着性及び定着画像の耐擦過性の観点から、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましく、1,6-ヘキサンジオールがさらに好ましい。
【0027】
脂肪族ジオールBの炭素数は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減するの観点から、9以上であり、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、14以下であり、12以下が好ましい。
【0028】
なお、脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBとの炭素数の差は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましい。また、同様の観点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0029】
脂肪族ジオールBとしては、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられ、1種であっても、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、トナーの低温定着性及び耐熱保存性の観点から、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオールが好ましく、1,12-ドデカンジオールがより好ましい。
【0030】
脂肪族ジオールA及びBの少なくとも一方が、好ましくは少なくとも脂肪族ジオールAが、より好ましくは両方が、樹脂の結晶性を高め、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有していることが好ましく、α,ω−直鎖アルカンジオールであることが好ましい。
【0031】
脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBのモル比(脂肪族ジオールA/脂肪族ジオールB)は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、70/30以下であり、65/35以下が好ましく、60/40以下がより好ましく、55/45以下がさらに好ましい。また、定着画像の耐擦過性を向上する観点から、30/70以上であり、35/65以上が好ましく、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、40/60以上がより好ましい。
【0032】
脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBの総量は、アルコール成分中、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0033】
脂肪族ジオールA及びB以外のアルコール成分としては、炭素数15以上の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0034】
ポリエステル樹脂部分(B1)のカルボン酸成分は、トナーの低温定着性の観点から、脂肪族ジカルボン酸化合物を含有していることが好ましい。
【0035】
脂肪族ジカルボン酸化合物における鎖状炭化水素基は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが直鎖であることが好ましく、また、鎖状炭化水素基は飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよいが、飽和炭化水素基が好ましい。脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。また、低温定着性の観点から、16以下が好ましく、14以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。
【0036】
炭素数8〜16の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、フマル酸(炭素数:4)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられる。本発明において、脂肪族カルボン酸化合物の炭素数にアルキルエステル部の炭素数は含まれない。
【0037】
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、100モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下がさらに好ましく、85モル%以下がさらに好ましい。
【0038】
他のカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物、炭素数2〜7の脂肪族ジカルボン酸化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸化合物等が挙げられる。
【0039】
ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーは、1価のアルコール及び1価のカルボン酸化合物の少なくともいずれかを含有していることが好ましい。即ち、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよく、本発明では、トナーの低温定着性の観点から、アルコール成分及びカルボン酸成分の両方に、それぞれ含有していてもよい。
【0040】
1価のアルコールと1価のカルボン酸化合物の炭素数は、トナーの低温定着性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、18以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させる観点から、22以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がさらに好ましい。
【0041】
1価のアルコール及び1価のカルボン酸化合物は、低温定着性の観点から、脂肪族が好ましい。ただし、後述する両反応性モノマーに用いられる、エチレン性不飽和基(反応性不飽和基)を有する化合物を除く。
【0042】
炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールとしては、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられ、これらのなかでは、ステアリルアルコールが好ましい。
【0043】
炭素数8〜22の1価の脂肪族カルボン酸化合物としては、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、これらのなかでは、ステアリン酸が好ましい。
【0044】
炭素数8〜22の1価のアルコールと炭素数8〜22の1価のカルボン酸化合物の総含有量は、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーである、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、トナーの低温定着性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、2モル%以上が好ましく、4モル%以上がより好ましく、6モル%以上がさらに好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させる観点から、20モル%以下が好ましく、18モル%以下がより好ましく、16モル%以下がさらに好ましく、14モル%以下がさらに好ましく、12モル%以下がさらに好ましい。
【0045】
重縮合に用いるカルボン酸成分とアルコール成分の当量モル比(COOH基/OH基)は、トナーの耐熱保存性の観点から、0.93以上が好ましく、0.98以上がより好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、1.10以下が好ましく、1.05以下がより好ましい。
【0046】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましく、耐スメア性の観点から、エステル化触媒とピロガロール化合物との存在下で行うことがより好ましい。
【0047】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫等が挙げられるが、本発明では、帯電性の観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物及びチタン化合物が好ましく、これらはそれぞれ単独で又は両者を併用して用いることができる。
【0048】
Sn−C結合を有していない錫触媒としては、上記の観点から、Sn−C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0049】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられる。
【0050】
チタン化合物としては、Ti-O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0051】
Ti-O結合を有するチタン化合物としては、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)(C37O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6153N)3(C37O)〕等が挙げられる。
【0052】
上記チタン化合物及び錫(II)化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜1.0質量部が好ましく、0.1〜0.6質量部がより好ましい。
【0054】
また、ピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物であり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2',3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられる。
【0055】
重縮合反応におけるピロガロール化合物の存在量は、重縮合反応に供される原料モノマー100質量部に対して、0.001〜1.0質量部が好ましく、0.005〜0.4質量部がより好ましく、0.01〜0.2質量部がさらに好ましい。
【0056】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の質量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、樹脂の耐久性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0057】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、例えば、エステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、120〜230℃が好ましい。具体的には、例えば樹脂の強度を上げるために全モノマーを一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価のモノマーを先ず反応させた後、3価以上のモノマーを添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応促進させてもよい。
【0058】
本発明において、結晶性樹脂(B)は、ポリエステル樹脂部分(B1)を60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましいが、さらに、ポリエステル樹脂部分(B1)以外の樹脂部分を含む複合樹脂であってもよい。本発明では、トナーの低温定着性及び定着画像の耐擦過性の観点から、ポリエステル樹脂部分(B1)と、スチレンを含む原料モノマーを付加重合して得られる付加重合系樹脂部分(B2)を有する複合樹脂が好ましい。
【0059】
付加重合系樹脂部分(B2)は、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、スチレン系樹脂が好ましい。
【0060】
従って、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーとしては、スチレン化合物を含む公知のラジカル重合性単量体を用いることができる。
【0061】
スチレン化合物としては、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、スチレンが好ましい。かかる観点から、スチレン化合物の含有量は、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー中、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質100質量%がさらに好ましい。
【0062】
スチレン化合物以外のラジカル重合性単量体としては、炭素数1〜12のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。スチレン化合物、アルキル(メタ)アクリレート及び他のラジカル性重合単量体の具体例は、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)と同じである。
【0063】
また、スチレン系樹脂の原料モノマーは、本発明の効果を損なわない限り、耐高温オフセット性の改善を目的として、少量の多官能性単量体を含有していてもよい。
【0064】
付加重合系樹脂部分の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件としては、110〜200℃が好ましく、140〜170℃がより好ましい。
【0065】
また、付加重合反応は、必要に応じて、重合開始剤等の存在下で行ってもよい。重合開始剤としては、ジブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、付加重合系樹脂部分の原料モノマー100質量部に対して、4〜12質量部が好ましく、6〜10質量部がより好ましい。
【0066】
付加重合反応の際に有機溶媒を使用する場合、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。有機溶媒の使用量は、スチレン系樹脂部分の原料モノマー100質量部に対して、10〜50質量部程度が好ましい。
【0067】
このような複合樹脂は、例えば、(1)カルボキシ基や水酸基を有する付加重合系樹脂の存在下で、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーを重縮合させる方法(カルボキシ基や水酸基は後述する両反応性モノマーや連鎖移動剤など由来のものを用いることができる)、(2)反応性不飽和結合を有するポリエステル樹脂の存在下で、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーを付加重合させる方法等で得ることができる。
【0068】
上記複合樹脂は、トナーの低温定着性の観点から、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーと付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーに加えて、さらにポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーのいずれとも反応し得る、両反応性モノマーを用いて得られる樹脂(ハイブリッド樹脂)であることが好ましい。従って、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーを重合させて複合樹脂を得る際に、重縮合反応及び/又は付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましい。これにより、複合樹脂は、両反応性モノマー由来の構成単位を介してポリエステル樹脂部分(B1)と付加重合系樹脂部分(B2)とが結合した樹脂(ハイブリッド樹脂)となり、ポリエステル樹脂部分(B1)と付加重合系樹脂部分(B2)とがより微細に、かつ均一に分散したものとなる。
【0069】
これらから、複合樹脂は、(イ)炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜14の脂肪族ジオールBを含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを含む、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマー、(ロ)付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー、及び(ハ)ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーのいずれとも反応し得る両反応性モノマーを重合させることにより得られるハイブリッド樹脂であることが好ましい。
【0070】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。但し、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等の多価カルボン酸は、重縮合系のモノマーとして機能する場合がある。
【0071】
両反応性モノマーの使用量は、付加重合系樹脂部分(B2)とポリエステル樹脂部分(B1)との分散性を高め、トナーの低温定着性の向上の観点から、ポリエステル樹脂部分(B1)のアルコール成分の合計100モルに対して、1〜20モル[(両反応性モノマーのモル/ポリエステル樹脂部分(B1)のアルコール成分の合計モル)×100]が好ましく、2〜15モルがより好ましく、2〜10モルがさらに好ましく、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーの合計100モルに対して、2〜25モル[(両反応性モノマーのモル/付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーの合計モル)×100]が好ましく、3〜15モルがより好ましい。
【0072】
複合樹脂は、具体的には、以下の方法により製造することが好ましい。両反応性モノマーは、トナーの光沢性を高める観点から、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーとともに付加重合反応に用いることが好ましい。
【0073】
(i) ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)の後に、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)を行う方法
この方法では、重縮合反応に適した反応温度条件下で工程(A)を行い、反応温度を低下させ、付加重合反応に適した温度条件下で工程(B)を行う。付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー及び両反応性モノマーは、付加重合反応に適した温度で反応系内に添加にすることが好ましい。両反応性モノマーは付加重合反応と共にポリエステル樹脂部分(B1)とも反応する。
最初の工程(A)でポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーの一部を用い、工程(B)の後に、残りの原料モノマーを反応系に添加し、再度反応温度を上昇させ、工程(A)の重縮合反応や両反応性モノマーとの反応をさらに進めることもできる。
【0074】
(ii) 付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)の後に、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)を行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(B)を行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、工程(A)の重縮合反応を行う。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーは、付加重合反応時に反応系内に存在してもよく、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に添加してもよい。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加することで調節できる。
【0075】
(iii) ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)と付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)とを並行して行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて架橋剤となる3価以上のポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応をさらに行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
【0076】
上記(i)の方法においては、重縮合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合したポリエステル樹脂を用いてもよい。上記(iii)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、ポリエステル樹脂部分(B1)の原料モノマーを含有した混合物中に、付加重合系樹脂部分(B2)の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
【0077】
上記(i)〜(iii)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
【0078】
複合樹脂において、ポリエステル樹脂部分(B1)と付加重合系樹脂部分(B2)の質量比(ポリエステル樹脂部分(B1)/付加重合系樹脂部分(B2))は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、60/40以上が好ましく、65/35以上がより好ましく、70/30以上がさらに好ましく、80/20以上がさらに好ましく、85/15以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、98/2以下が好ましく、95/5以下がより好ましい。
なお、ポリエステル樹脂部分(B1)と付加重合系樹脂部分(B2)の質量比はそれぞれの合計量の比から算出する。後述の両反応性モノマーは、ポリエステル樹脂部分(B1)に含める。ポリエステル樹脂部分(B1)の質量には、ポリエステル樹脂部分の原料モノマーの合計量から、縮合反応時の脱水量を除去した値を用い、また、付加重合系樹脂部分(B2)の質量には、付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び重合開始剤の合計量を用いる。
【0079】
結晶性樹脂(B)の軟化点は、トナーの耐熱保存性の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0080】
また、結晶性樹脂(B)の融点は、トナーの耐熱保存性の観点から、65℃以上が好ましく、67℃以上好ましく、68℃以上がさらに好ましい。また、低温定着性の観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0081】
結晶性樹脂(B)の酸価は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、0.1mgKOH/g以上が好ましく、0.5mgKOH/g以上がより好ましく、1.0mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、結晶性樹脂の親水性を低下させ、内包化により、トナーの耐熱保存性、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、15mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以下がより好ましく、5mgKOH/g以下がさらに好ましく、3mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0082】
結晶性樹脂(B)の水酸基価は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、0.5mgKOH/g以上が好ましく、1mgKOH/g以上がより好ましく、2mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、結晶性樹脂の親水性を低下させ、内包化により、トナーの耐熱保存性、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、20mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以下がより好ましく、10mgKOH/g以下がさらに好ましく、7mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0083】
結晶性樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計値は、結晶性樹脂の親水性を低下させ、内包化により、トナーの耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、25mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましく、15mgKOH/g以下がさらに好ましく、12mgKOH/g以下がさらに好ましい。また、樹脂を低分子量化し、トナーの低温定着性を向上させる観点から、2.5mgKOH/g以上が好ましく、3.0mgKOH/g以上がより好ましく、4.0mgKOH/g以上がさらに好ましい。
【0084】
結晶性樹脂の軟化点、融点及び酸価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0085】
結晶性樹脂(B)の含有量は、結着樹脂中、トナーの低温定着性の観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、13質量%以下がさらに好ましい。
【0086】
スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)と前記結晶性樹脂(B)の質量比((a)/(B))は、トナーの耐熱保存性、定着画像の耐擦過性を向上させ、トナーの飛散量を低減する観点から、80/20以上が好ましく、85/15以上がより好ましく、87/13以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、99/1以下が好ましく、97/3以下がより好ましく、92/8以下がさらに好ましい。
【0087】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)と結晶性樹脂(B)の総量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0088】
本発明のトナーは、懸濁重合法により得られるものであり、結着樹脂として、スチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)を含有する。懸濁重合法により、トナー粒子を製造することで、スチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とが相溶せず境界を有する構造に制御することができる。
【0089】
懸濁重合法による本発明のトナーは、具体的には、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)、結晶性樹脂(B)及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で重合する工程を含む方法により得られる。
【0090】
重合性単量組成物には、前記のスチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)以外の公知のトナー用結着樹脂が含まれていてもよい。即ち、本発明のトナーは、結着樹脂として、本発明の効果を損なわない範囲で、前記のスチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)以外の公知のトナー用結着樹脂、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が併用されていてもよいが、スチレンアクリル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)の総含有量は、結着樹脂中、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。
【0091】
また、重合性単量体組成物には、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0092】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0093】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0094】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0095】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0096】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0097】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0098】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0099】
重合性単量体組成物は、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)に、結晶性樹脂(B)及び着色剤と、必要に応じて、離型剤、荷電制御剤等の添加剤を混合し、加熱等により、結晶性樹脂(B)に溶解させて調製することが好ましい。連鎖移動剤や可塑剤や油剤を添加してもよい。
【0100】
水系媒体は、水を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含有するものである。水単独でもよいが、水と混和可能な溶剤を併用することもできる。水と混和可能な溶剤としては、アルコール(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等)、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、セルソルブ(登録商標)類(メチルセルソルブ等)、低級ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)等が挙げられる。
【0101】
水系媒体量は、トナー粒子の粒径制御の観点から、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)の3質量倍以上が好ましく、5質量倍以上がより好ましく、生産性の観点から、10質量倍以下が好ましく、8質量倍以下がより好ましい。
【0102】
重合性単量体組成物を、水系媒体と混合し、撹拌して懸濁液とした後、スチレンアクリル樹脂(A)の原料モノマー(a)を重合することが好ましい。
【0103】
重合性単量体組成物と水系媒体の撹拌には、ホモミキサー、高速攪拌機、超音波分散機等の高速分散機を用いることができ、これにより、重合性単量体を水系媒体中に均一に分散させ、容易に懸濁液を調製することができる。
【0104】
重合性単量体組成物と水系媒体の撹拌は、窒素雰囲気下、50〜90℃程度の加熱条件下で行うことが好ましい。
【0105】
原料モノマー(a)の重合は、懸濁液中の重合性単量体組成物の粒子が粒子状態を維持し、かつ粒子の浮遊や沈降が生じることがないよう、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0106】
重合は、分散安定剤の存在下で行うことが好ましく、分散安定剤は、予め水系媒体に添加しておくことが好ましい。
【0107】
分散安定剤としては、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、一般的な界面活性剤等が挙げられる。分散安定剤の量は、原料モノマー(a)100質量部に対し、0.1〜30質量部であることが好ましい。なお、一般的な界面活性剤の具体例としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0108】
重合の温度は、重合速度の観点から、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。また、重合速度及び水蒸散防止の観点から、95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下がさらに好ましい。
【0109】
重合の時間は、重合反応を終了する観点から、4時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましい。また、微粒子凝集抑制の観点から、20時間以下が好ましく、15時間以下がより好ましい。
【0110】
重合性単量体組成物の重合は、必要に応じて、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。
【0111】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の過酸化物系重合開始剤等が挙げられ、原料モノマー(a)に溶解するものが好ましい。
【0112】
重合開始剤は、重合性単量体組成物を調製する際に他の添加剤とともに混合してもよく、水系媒体中に懸濁させる直前に重合性単量体組成物中に混合してもよい。また、造粒中や造粒完了後、すなわち重合反応を開始する直前に、必要に応じて重合性単量体や他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。重合反応の終了は、原料モノマー(a)が、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上反応した時点とすることが好ましい。また、反応終了時の残存モノマー量は、生成したスチレンアクリル樹脂(A)に対して、5000ppm(wt/wt)以下であることが好ましい。
【0113】
重合後、常法により、残存モノマーを除去し、撹拌を続けながら室温まで冷却し、洗浄、乾燥することで、トナー粒子が得られる。
【0114】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましく、外添剤としては、無機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛が挙げられ、シリカが好ましい。
【0115】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0116】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0117】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。
【0118】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0119】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0120】
また、本発明のトナーは、トナー飛散を低減する観点から、粒度分布がシャープであり、円形度の高いことが好ましい。かかる観点から、トナーの粒度分布のCV値は、40以下が好ましく、33以下がより好ましい。また、トナーの円形度は、0.980以上が好ましく、0.985以上がより好ましい。
→追記致しました。
【0121】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0122】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0123】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」(島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0124】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却しそのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0125】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0126】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法により測定する。
【0127】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC210」(セイコー電子工業社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0128】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の数平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0129】
〔トナーの体積中位粒径(D50)及びCV値〕
トナーの体積中位粒径は、以下の条件で測定する。
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
・解析ソフト:マルチサイザーIIIバージョン 3.51(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を前記電解液に溶解させ、濃度5質量%の分散液を得る。
分散条件:分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:試料分散液を電解液100mLに加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒径分布から体積中位粒径(D50)を求める。
また、CV値(%)は下記式に従って算出する。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0130】
〔トナーの円形度〕
分散液の調製:5質量%ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン109P」(花王社製、HLB:13.6)水溶液5mlにトナー50mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させたのち、蒸留水20mlを添加し、さらに超音波分散機にて1分間分散させてトナーの分散液を調製する。
測定装置:フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(シスメックス社製)
対物レンズ:10倍
測定モード:HPF測定モード
測定個数:1000個
【0131】
〔樹脂の製造〕
結晶性樹脂の製造例1
表1〜4に示すアルコール成分を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、120℃に加熱した。120℃にて、表1〜4に示すカルボン酸成分を表1〜4に示す量の半分で添加し、さらに160℃まで加熱し、6時間反応させた。その後、表1〜4に示す付加重合系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。160℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、残りのカルボン酸成分を添加し、200℃まで8時間かけて昇温させた。その後、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを添加し、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて5時間反応させて、結晶性ハイブリッド樹脂(樹脂A〜L、N〜W、AB〜AE)を得た。
【0132】
〔樹脂の製造〕
結晶性樹脂の製造例2
表2に示すアルコール成分及びカルボン酸成分を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、135℃から200℃まで10時間かけて昇温した後、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを加えて、1時間反応させた後、8kPaにて所定の酸価になるまで反応させて、結晶性ポリエステル(樹脂M)を得た。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
〔電子写真用トナーの製造〕
実施例1〜23及び比較例1〜5(実施例13は参考例である)
<水系媒体の調製>
イオン交換水375gに、10質量%リン酸三カルシウム水溶液「T.C.P.10U」(松尾薬品産業社製)250gを添加し、60℃に加温したのちに、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、10,000r/minにて撹拌し、水系媒体を調製した。
【0138】
<重合性単量体組成物の調製>
ガラスビーカーに、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーとして、スチレン85g及びn-ブチルアクリレート15g、表5に示す結晶性ポリエステル11.1g(結着樹脂中10質量%)、着色剤としてピグメントブルー15:3 10g、荷電制御剤としてサリチル酸アルミニウム「ボントロンE-88」(オリエント化学社製)2g、及び離型剤としてパラフィンワックス「HNP-9」(日本精蝋社製、融点:77℃)15gを混合した。60℃に加温し、均一に溶解させた。その後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)「V-65」(和光純薬工業社製)4gを滴下し、良く混合して重合性単量体組成物を調製した。
【0139】
<懸濁>
水系媒体に重合性単量体組成物を投入し、60℃、窒素ガスフロー下において、TK式ホモミキサー(特殊機化工業社製)で15分間撹拌した。
【0140】
<重合、後処理>
懸濁物をセパラブルフラスコに移し、70℃、200r/minで撹拌しながら8時間重合した。その後、80℃に昇温し、減圧下で残存モノマーを留去した。撹拌を続けながら20℃まで冷却し、系内のpHは1以下になるまで塩酸を入れた。洗浄、乾燥を経て体積中位粒径(D50)6.5μmのトナー粒子を得た。
【0141】
<外添工程>
トナー粒子100質量部に、外添剤として疎水性シリカ「アエロジル R-972」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、体積中位粒径(D50)6.5μmのトナーを得た。
【0142】
試験例1〔低温定着性〕
トナー3質量部と、スチレン・メチルメタクリレート樹脂被覆されたフェライト粉(関東電化工業製、平均粒子径100μm)97質量部とを混合して、二成分現像剤を得た。
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置に二成分現像剤を実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m2)]上に、トナー付着量が0.5mg/cm2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復こすり、こする前後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(こすり後/こすり前)が最初に70%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。結果を表5に示す。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れ、最低定着温度は、145℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましく、125℃以下がさらに好ましい。
【0143】
試験例2〔耐熱保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃及び相対湿度60%の環境で72時間保持した。
パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。
篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、式:
α=100-(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
に従って算出される値(α)をもとに、耐熱保存性を評価した。結果を表5に示す。値(α)が100に近いほど、耐熱保存性に優れ、値(α)は、50以上が好ましく、70以上がより好ましく、90以上がさらに好ましい。
【0144】
試験例3〔定着画像の耐擦過性〕
評価紙としてBusiness4200(秤量105g/m2、Xerox社製)を用い、トナーの載り量を0.50mg/cm2としたベタ画像を180℃に温調した定着器に通して定着させた。定着画像を、40℃・相対湿度80%の環境下にて1か月放置した。500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、放置後の定着画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、式:
画像濃度の低下率(%)=(1−(擦り後の反射濃度/擦り前の反射濃度))×100
から、画像濃度の低下率(%)を算出し、定着画像の耐擦過性を評価した。結果を表5に示す。画像濃度の低下率が低いほど、耐擦過性に優れ、低下率は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0145】
試験例4〔トナー飛散〕
非磁性一成分現像方式のプリンター「MICROLINE 5400」(沖データ社製)のイメージドラムユニット(ID-C4BC)を洗浄して、内部のトナーを除去し、感光体を外した後、トナー30gを封入した。現像機のみを外部治具にセットし、200r/minで1時間駆動を行った、駆動後、現像器の下部に設置したトレーに蓄積したトナー(飛散トナー)を回収し、その量(飛散量)を計測し、トナー飛散を評価した。結果を表5に示す。飛散量が少ないほど、トナー飛散が抑制されており、飛散量は、150mg以下が好ましく、100mg以下がより好ましく、50mg以下がさらに好ましい。
【0146】
【表5】
【0147】
実施例1〜23のトナーは、比較例1〜5のトナーと対比して、低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性が良好であり、トナーの飛散も抑制されていることが分かる。
脂肪族ジオールAが使用されていない結晶性樹脂を含む比較例1のトナー及び脂肪族ジオールAの使用量が少ない結晶性樹脂を含む比較例3のトナーは、定着画像の耐擦過性の低下が顕著であり、脂肪族ジオールBが使用されていない結晶性樹脂を含む比較例2のトナー及び脂肪族ジオールAの使用量が少ない結晶性樹脂を含む比較例4のトナーは、低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性が不十分であり、トナーの飛散量も多いことが分かる。
また、脂肪族ジオールAのみが用いられた結晶性樹脂と脂肪族ジオールBのみが用いられた結晶性樹脂が併用された比較例5のトナーは、低温定着性、耐熱保存性、及び定着画像の耐擦過性が不十分であり、トナーの飛散量も多いことから、脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBは、1つの樹脂の原料モノマーとして併用されることが重要であることが分かる。
比較例2、4、5のトナーは、粒度分布のCV値が大きく、円形度が低い、つまりはトナー形状にばらつきがあるため、現像時にトナー飛散量が多くなることから、脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBは、1つの樹脂の原料モノマーとして併用されることが重要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の電子写真用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるものである。