(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス基板の端面品質の向上や、加工ホイールの摩耗の抑制のため、加工液として水に代わるものが検討されている。しかしながら、ディスプレイ用ガラス基板の表面は、高い清浄性が求められる。加工液として水以外のものを用いると、加工液がガラス基板の表面に付着することにより品質に影響を与え、ディスプレイパネルの製造工程における歩留まりを低下させる原因となる。
【0007】
そこで本発明は、ディスプレイ用のガラス基板の表面品質への影響を抑え、かつ、ガラス基板の端面加工において、特に、ダイヤモンド砥粒を用いた加工において好適なディスプレイ用のガラス基板の製造方法、及び、加工液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法であって、
液晶ディスプレイ用のガラス基板の端面との接触位置に、水性又は水溶性ソリュブル系の薬液と水とからなる加工液を供給する供給工程と、
前記加工液が供給された前記ガラス基板の端面に対して加工ホイールを回転させることにより前記端面を加工する加工工程と、
前記加工工程の後、無機アルカリ系の洗浄剤を用いて前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程と、を備え、
前記
薬液は、スルホコハク酸塩
からなり、
前記加工液を前記ガラス基板の端面に接触させ、前記洗浄工程を行
った後に、純水洗浄を行い、
前記純水洗浄したときの前記ガラス基板の表面に残る有機物が1cm
2当たり5ng以下である、
ことを特徴とする。
【0009】
前記加工液の表面張力は、50mN/m未満である、ことが好ましい。
【0010】
前記ガラス基板の表面には、半導体素子またはカラーフィルタが形成される、ことが好ましい。
【0011】
前記加工ホイールは、メタル系ボンド材にダイヤモンド砥粒が分散された加工ホイールである、ことが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様は、液晶ディスプレイ用のガラス基板の端面に供給して、前記端面を加工する加工液であって、
水性又は水溶性ソリュブル系の薬液と水とからなり、
前記薬液はスルホコハク酸塩
からなり、
前記加工液を前記ガラス基板の端面に接触させ、
無機アルカリ系の洗浄剤を用いて前記ガラス基板を洗浄した後、純水洗浄したときの前記ガラス基板の表面に残る有機物が1cm
2当たり5ng以下である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ディスプレイ用のガラス基板の表面品質への影響を抑え、かつ、ガラス基板の端面の熱的損傷を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のガラス板の製造方法について本実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
[ガラス板の組成]
本実施形態で製造されるガラス板(ガラス基板)は、特に限定されないが、例えば、携帯電子機器等の電子機器の表示画面に用いるカバーガラスや、フラットディスプレイパネル等の表示装置の基板等に用いられる。
ガラス板の組成は特に限定されないが、例えば、以下の組成比率のガラス板に適用され得る。
(a)SiO
2:50〜70質量%、
(b)B2O
3:5〜18質量%、
(c)Al
2O
3:10〜25質量%、
(d)MgO:0〜10質量%、
(e)CaO:0〜20質量%、
(f)SrO:0〜20質量%、
(g)BaO:0〜10質量%、
(h)RO:5〜20質量%(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる、ガラス板に含有される全ての成分であり、少なくとも1種である)、
(i)R’
2O: 0.0質量%以上2.0質量%以下(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる、ガラス板に含有される全ての成分であり、少なくとも1種である)、
(j)酸化スズ、酸化鉄および酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を合計で0.05〜1.5質量%。
【0017】
[ガラス板の製造方法]
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程図である。本実施形態のガラス板の製造方法は、パネルディスプレイ用のガラス板の製造方法である。本実施形態のガラス板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、採板・切断工程(ST6)と、端面加工工程(ST7)と、洗浄工程(ST8)と、検査・梱包・出荷工程(ST9)と、を有する。出荷工程では、梱包工程でコンテナ等への箱詰めされた複数のガラス板の束が、納入先の業者に搬送される。
【0018】
図2は、熔解工程(ST1)〜採板・切断工程(ST6)を行う装置を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置200と、成形装置300と、採板装置400と、を有する。熔解装置200は、熔解槽201と、清澄槽202と、攪拌槽203と、ガラス供給管204,205,206と、を有する。ガラス供給管204は、熔解槽201と清澄槽202を接続し、ガラス供給管205は、清澄槽202と攪拌槽203を接続する。ガラス供給管206は、攪拌槽203と成形装置300とを接続する。
【0019】
熔解工程(ST1)では、熔解槽201内に供給されたガラス原料を、図示されない火焔および電極を用いた直接通電で加熱して熔解することで熔融ガラスMGを得る。
清澄工程(ST2)は、清澄槽202において行われ、ガラス供給管204を通って供給され熔融ガラスMGを清澄槽202内で加熱する。清澄槽202では、加熱された熔融ガラスMG中に含まれる気泡が、加熱された熔融ガラスMG中の清澄剤の還元反応で生じた酸素を吸収することにより成長し液面に浮上して放出される。その後、熔融ガラスMGを冷却する過程で生じる清澄剤の還元反応により気泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラスMG中に吸収されて気泡が消滅する。これにより清澄槽202は、熔融ガラスMGを清澄する。
均質化工程(ST3)では、ガラス供給管205を通って供給された熔融ガラスMGを、攪拌槽203がスターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。この後、ガラス供給管206を通して熔融ガラスMGが成形装置300に供給される。
【0020】
成形装置300では、成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)が行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスMGをシートガラスGに成形し、シートガラスGの流れを作る。本実施形態では、成形体310を用いたオーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST5)では、成形装置300は、成形されて流れるシートガラスGを引き伸ばし、かつ、一定の厚さを有し、かつ反り及び歪みが生じないように温度調整をしてシートガラスGを冷却する。
採板・切断工程(ST6)では、切断装置400が、成形装置300から供給されたシートガラスGを所定の長さに切断することで、板状のガラス板に採板する。採板されたガラス板はさらに、図示されないダイヤモンドカッターあるいはレーザ等により所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス板11が作製される。
なお、本実施形態の成形工程では、ダウンドロー法を用いるが、ダウンドロー法に限定されず、フロート法、ロールアウト法等を成形工程に用いることができる。
【0021】
次に、端面加工工程が行われる(ST7)。端面加工工程では、作製されたガラス板11に端面加工が施される。
図3は、端面加工工程を説明する図であり、ガラス板11の端面加工を行う端面加工処理ラインの装置配置を示す。ガラス板の端面加工処理ライン10には、第1面取り機12、第2面取り機14、コーナーカット機16、および反転機18と、が設けられ、第1面取り機12、反転機18、第2面取り機14、および、コーナーカット機16が、搬送経路の上流側から順に配置されている。
【0022】
図3に示すように、成形されたガラス板11を搬送しながら、研削ホイールあるいは研磨ホイールを回転させることによりガラス板の端面を研削、研磨する。具体的には、第1面取り機12において、矩形状のガラス板11の短辺の端面について、搬送経路の両側に設けられた、例えば研削用のダイヤモンドホイール12aを用いて研削が行われる。この後、搬送経路の両側に設けられた研磨ホイール12bを用いて研削されたガラス11の端面の研磨が行われる。ダイヤモンドホイール12aの砥粒には、例えば#400のダイヤモンド砥粒が用いられ、研磨ホイール12bの砥粒には、例えば#400のSiC砥粒が用いられる。研磨後、反転機18は、ガラス板11の向きを90度回転させて、搬送経路に沿ってガラス板11を第2面取り機14に搬送する。第2面取り機14において、矩形状のガラス板11の長辺の端面に対して、搬送経路の両側に設けた研削用ダイヤモンドホイール14aを用いて研削を行い、この後、搬送経路の両側に設けられた研磨ホイール14bを用いて研削されたガラス板11の端面の研磨が行われる。ダイヤモンドホイール14aの砥粒には、例えば#400のダイヤモンド砥粒が用いられ、研磨ホイール14bの砥粒には、例えば#400のSiC砥粒が用いられる。この後、コーナーカット機16にガラス板11は搬送され、コーナーカット用ダイヤモンドホイール16aを用いてガラス板11のコーナーが研削、研磨される。この場合、ガラス板11の搬送速度は、例えば5m/分とされて、ガラス板11の連続生産が行われる。コーナーカット用ダイヤモンドホイール16aの砥粒には、例えば#400のダイヤモンド砥粒が用いられる。ガラス板11の研削、研磨に用いるホイールには、メタル系ボンド材にダイヤモンド砥粒が分散されている。連続して研削、研磨を行うと、ダイヤモンド砥粒は発熱、摩耗し、摩耗した砥粒、ボンド材が、ホイールから剥離、脱落した際に、ホイール溝に詰まることにより、加工能力が低下する。このため、ガラス板11の端面の研削及び研磨では、研削用のダイヤモンドホイール14a、研磨ホイール14bと、ガラス板11とが接触する加工点には、加工液が供給される。
【0023】
次に、洗浄工程が行われる(ST8)。洗浄工程では、端面加工されたガラス板11を洗浄する。
図4は、洗浄工程を説明する図である。
図4に示されるように、端面が研削されたガラス板11の主表面が、洗浄液又は純水を用いて洗浄される。具体的には、複数の洗浄ブラシ30がガラスシート24の幅方向に沿って二列に並んだ洗浄装置が洗浄に用いられる。洗浄ブラシ30は例えば円形状をなしており、複数の繊維が円板状の基部に植毛されている。洗浄の際、洗浄ブラシ30は、隣接する洗浄ブラシ30と互いに反対方向に回転する。また、洗浄装置には、ガラス板11の幅方向に沿って、洗浄液又は純水をガラス板11上に供給する供給ノズル32が複数設けられている。洗浄液は界面活性剤を含んでいる。洗浄ブラシ30は、ガラス板11の両側の主表面の他にガラス板11の端面も洗浄する。
また、洗浄工程において、複数のガラス板11を図示されないカセットに収容し、洗浄液が収容された図示されない洗浄槽にガラス板11を浸漬して超音波による洗浄を行ってもよい。
【0024】
最後に、検査・梱包・出荷工程が行われる(ST9)。具体的には、ガラス板11に気泡、脈理、あるいは失透等の異常欠陥の有無が、図示されない欠陥検査装置を用いて検査された後、検査合格品のガラス板11が最終製品としてガラス板の束の形態で梱包され、図示されないコンテナに収納されて、トラック等の車両により、納入先に出荷される。
【0025】
このようなガラス板の製造方法において、ガラス板11の端面の研削及び研磨を行う端面加工工程(ST7)では、水性又は水溶性ソリュブル系の薬液を水に加えて形成される水系の加工液が用いられる。ここで、加工液に加えられる薬液は、非イオン系界面活性剤、及び、スルホコハク酸塩から選ばれた一種、又は、それらの組合せからなる。ここで、非イオン系界面活性剤としては、アルコールアミン類、グリコール類、エーテル類を用いることができる。アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アルカノールアミンを用いることができる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールを用いることができる。スルホコハク酸塩としては、例えば、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム液、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)スルホコハク酸二ナトリウム液を用いることができる。
【0026】
加工液に用いる水は、純水、超純水、又は、逆浸透膜によるフィルタ処理を行ったRO水を用いることができる。また、加工液に用いる水は、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施した純水であることが、ガラス板の表面を清浄に保つ点で好ましい。具体的には、フィルタを用いて微粒子等の異物を水から除去し、この後、活性炭を透過させて有機物を除去した後、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施すことが好ましい。イオン交換処理では、水に含まれるイオン性物質、例えば、塩素イオンやナトリウムイオン等を、イオン交換樹脂膜を用いて水から除去する。EDI処理では、イオン交換樹脂膜を用い、かつ電極に電位を与えて形成された電位勾配を利用して、水からイオン性物質をより精度良く除去する。さらに、逆浸透膜(RO膜)によるフィルタ処理では、イオン性物質、塩類、あるいは有機物を水から除去する。さらに、脱炭酸ガス処理では、脱炭酸ガス装置を用いて炭酸ガスを水から除去する。
【0027】
薬液が加えられた本実施形態の加工液は、表面張力が50mN/m未満であり、加工液をガラス基板の表面に接触させた後、純水洗浄したときのガラス表面に残る芳香族化合物が1cm
2当たり5ng以下である。このような加工液を用いて端面加工が行われる。ここで、表面張力は、例えば静的表面張力測定法、リング法、プレート法を用いた市販の表面張力計によって計測することができる。加工液の表面張力を50mN/m未満にするためには、加工液中の非イオン系界面活性剤の濃度を、例えば、0.3質量%以上にすることにより実現できる。また、純水洗浄したときのガラス表面に残る芳香族化合物が1cm
2当たり5ng以下にするためには、加工液中のスルホコハク酸塩の濃度を、例えば、0.01質量%以上にすることにより実現できる。
【0028】
また、加工液は、pHが8〜11になるようにpH調整されることが好ましく、pH8〜10であることがより好ましい。加工液のpH調整は、薬液に対して、例えば、アルカリ中和剤を添加すること、又は、無機アルカリを使用する際の濃度を調整することによって行われる。アルカリ中和剤としては、例えば、苛性ソーダ、生石灰、消石灰、石灰石、水酸化マグネシウム等を含む中和剤を用いることができる。
【0029】
加工液の表面張力を50mN/m未満とし、加工液のpHを8〜11に調整して使用することで、メタル系ボンド材にダイヤモンド砥粒を設けた研削加工ホイールを用いて、ディスプレイ用のガラス板の端面を連続加工しても、加工欠陥などの発生が抑えられ、ガラス基板の端面品質が良好に保たれる。これは、加工液の表面張力が50mN/m未満と小さい場合には、ガラス板と、研削ホイールや研磨ホイールとの接触抵抗が小さくなるため、研削ホイールや研磨ホイールを駆動する駆動モータの加工電流値の上昇を抑制することができる。このため、研削時の研削抵抗あるいは研磨時の研磨抵抗が抑制され、研削ホイールや研磨ホイールの砥粒が受ける熱あるいは力が低減される。このため、研削ホイールや研磨ホイールの寿命も長くなる。また、加工液のpHが8〜11の場合には、ガラス板は工液によっては侵食されないが、ガラス板の表面に付着している有機物は加工液により溶解されるため、洗浄時に有機物を容易に除去でき、ガラス板の洗浄性を高めることができる。
【0030】
また、加工液は、加工液をガラス基板の表面に接触させた後、純水洗浄したときのガラス板の表面に残る芳香族化合物が1cm
2当たり例えば5ng以下となるように調整されている。ここで、芳香族化合物は、環状不飽和有機化合物の一群であり、ガラス板の表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物、疎水性有機物である。ガラス板の純水洗浄後におけるガラス板の表面に付着している有機物の質量は、ガラス板表面1cm
2当たり10ng以下でもよく、5ng以下であることがより好ましくい。また、ガラス板のアルカリ系洗浄液洗浄後におけるガラス板の表面に付着している有機物の質量は、ガラス板表面1cm
2当たり0.15ng以下であることが好ましい。
水以外の液体を含む従来の加工液をディスプレイ用のガラス板の加工に用いると、ガラス板の表面の品質が変化し、洗浄工程によりガラス基板の表面を洗浄しても、パネル製造工程の歩留まり低下をもたらしていた。歩留まり低下の1つの要因として、水以外の液体を含む従来の加工液を用いた場合、ガラス板の表面へのブラックマトリックスの密着性が変化してしまい、例えば、ブラックマトリックスがガラス板の表面から剥離してしまうという問題が生じていた。特に、近年、ディスプレイの高精細化に伴い、ガラス板の表面に配置されるブラックマトリックスの線幅およびピッチが小さくなっているので、ガラス板の表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性のコントロールは、重要な問題である。また、ガラス板の表面に付着している特定の有機物が、ガラス板の表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因である可能性がある。一つには、界面活性剤に由来する有機物が、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因である可能性がある。また、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下に起因する有機物には、例えば、ガラス板の積層体に含まれる合紙に由来する有機物、及び、ガラス板の積層体の保管および搬送環境下における雰囲気中の有機物も含まれる可能性がある。このため、本実施形態の加工液は、表面張力が50mN/m未満であり、加工液をガラス基板の表面に接触させた後、純水洗浄したときのガラス表面に残る芳香族化合物が1cm
2当たり10ng以下になるよう調整されている。このように、本実施形態の加工液を用いることにより、ガラス基板の表面に半導体素子またはカラーフィルタを形成しても、密着性を維持できる。
【0031】
端面加工工程(ST7)が行われた後、
図4に示すようなガラス板を洗浄する洗浄工程(ST8)が行われる。本実施形態の加工液は、加工液中のスルホコハク酸塩の濃度等を設定することにより、ガラス板の洗浄後に、ガラス板の表面に付着している有機物の質量が、所定の値以下になるよう調整されている。ガラス板の純水洗浄後におけるガラス板の表面に付着している有機物の質量は、ガラス板表面1cm
2当たり10ng以下であり、ガラス板のアルカリ系洗浄液洗浄後におけるガラス板の表面に付着している有機物の質量は、ガラス板表面1cm
2当たり0.15ng以下である。ガラス板の表面に付着している有機物の質量は、ガラス板の洗浄方法によって異なるが、ガラス板の純水洗浄は、後述するアルカリ洗浄工程に含まれる純水洗浄と同様の洗浄であるため、ここでは、アルカリ洗浄について説明する。ガラス板のアルカリ洗浄工程は、第1洗浄工程、第2洗浄工程、及び、純水洗浄工程からなる。第1洗浄工程では、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラス板表面の洗浄が行われる。第2洗浄工程では、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いてガラス板表面の洗浄が行われる。ガラス板の洗浄方法は、枚葉洗浄、バッチ洗浄のどちらであってもよい。
【0032】
第1洗浄工程で用いられる無機アルカリ系の洗浄剤は、市販のガラスシート用洗浄液を水で希釈して得られた希釈液に、アルカリ成分を添加することで生成される。ガラス板用洗浄液としては、例えば、パーカーコーポレーション社製のPK−LCGシリーズ、あるいは、横浜油脂工業株式会社製のセミクリーンシリーズ等が用いられる。ガラスシート用洗浄液は、例えば、1wt%〜5wt%の濃度になるように、水で希釈される。希釈液のアルカリ成分の濃度は、水酸化カリウム(KOH)の濃度に換算して、例えば、0.02wt%〜0.15wt%である。洗浄剤を希釈するための水は、純水、超純水、RO水を用いることができる。
【0033】
ガラス板用の洗浄液の希釈液に、KOH、NaOH、ETDA−4Na、ETDA−4K、Na
4P
2O
7およびK
4P
2O
7からなる群から選択される1種以上のアルカリ成分が添加されて、第1洗浄工程で用いられる洗浄剤が生成される。この洗浄剤のアルカリ成分の濃度は、水酸化カリウム(KOH)の濃度に換算して、1wt%以上である。上記のアルカリ成分は、他のアルカリ成分と比較して、ガラスに対するエッチング性が高く、かつ、溶解性に優れている。特に、エッチング性、溶解性、および、ガラス板に形成される薄膜トランジスタに対する悪影響を防止する観点から、アルカリ成分としてKOHを単独で用いることが好ましい。また、KOHおよびNaOHは、他のアルカリ成分と比較して、排水処理の点で有利である。
【0034】
なお、第1洗浄工程で用いられる洗浄剤は、アルカリ成分の濃度が高いほど、ガラス板から異物を除去する洗浄力が強い。しかし、アルカリ成分の濃度が高すぎると、ガラス板の洗浄装置が腐食して、洗浄剤中に結晶が生成される等の問題が生じる。そのため、洗浄剤のアルカリ成分の濃度は10wt%を超えないことが好ましい。また、洗浄剤の取り扱いを容易にするために、洗浄剤のアルカリ成分の濃度は5wt%を超えないことがより好ましい。
【0035】
第2洗浄工程で用いられるTMAHの濃度は、0.1%〜2.38%であるが、好ましくは、0.25%〜1.5%であり、より好ましくは、0.35%〜1.0%である。
【0036】
第1洗浄工程、第2洗浄工程で用いられた洗浄剤、TMAHがガラス板に付着するため、純水洗浄工程では、ガラス板に純水を供給して洗浄することにより、付着物を除去する。純水洗浄工程で用いられる純水は、超純水、RO水でもよい。ガラス板を洗浄する方法は、公知の手法を用いることができ、また、特開2013−193892号公報、特開2014−52622号公報に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0037】
ディスプレイ用のガラス板の表面は、高い清浄性が求められ、加工液として水以外のものを用いると、加工液がガラス板の表面に付着することにより品質に影響を与え、ディスプレイパネルの製造工程における歩留まりを低下させる原因となる。しかし、本実施形態の加工液は、上記の洗浄方法により、ガラス板の表面から除去されるため、ガラス板の品質に影響を与えることはない。
【0038】
以上説明したように、本発明は、液晶ディスプレイ用のガラス板の端面の加工に用いて、ガラス表面に加工液が付着したとしても、ディスプレイ用のガラス板の品質に影響がない。具体的には、加工液がガラス表面に接触しても、純水洗浄等をすることにより、ガラス板の表面に芳香族加工物が残りにくい加工液を用いることで、ディスプレイ用途としてのガラス基板の表面品質を維持することができる。また、ガラス基板の表面に半導体素子またはカラーフィルタを形成しても、密着性を維持できる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
本実施形態の効果を調べるために、
図3に示す端面加工処理ライン10を用いて、本発明の加工液を用いてガラス板の端面を加工した。
【0041】
ガラス板として、以下のガラス組成のガラスを用いた。
SiO
2: 60質量%、
B
2O
3: 10質量%、
Al
2O
3: 19.8質量%、
CaO: 5質量%、
SrO: 5質量%、
SnO
2: 0.2質量%。
【0042】
加工条件は、ダイヤモンドホイール12aの砥粒は#600とした。ダイヤモンドホイール12aは、33m/秒の周速度で回転させ、1100mm×1300mmのサイズのガラス板を送り速度7m/分で搬送した。また、加工液の表面張力が50mN/m未満となるように、加工液中の非イオン系界面活性剤の濃度を調整した。ガラス板は、複数枚が連続的処理され、加工距離が1000mを超えるまで、連続的に端面加工を行った。また、ガラス基板11の端面の研削において、ダイヤモンドホイール12aを33m/秒の周速度を維持するためにダイヤモンドホイールの駆動に要するモータの加工電流値を測定したところ、加工枚数が増える(加工距離が長くなる)につれて、加工電流値が大きくなることなく、安定したグラフが得られることを確認した。
図5は、加工枚数が増えるにつれて、加工電流値が大きくなることを示した図である。同図に示すように、本発明の加工液を用いることで、ガラス基板の端面を連続加工しても、ダイヤモンド砥粒の熱による摩耗損失が小さいことが分かった。これは、加工により摩耗した砥粒、ボンド材が、ホイールから剥離、脱落した際に、ホイール溝に詰まることなく、流されていくためである。本発明の加工液を用いることにより、ホイール溝のドレッシングの頻度を低減する、又はドレッシングが不要となるため、加工ホイールによるガラス端面の総加工距離を伸ばすことができることが確認できた。
【0043】
本発明の加工液を用いたガラス板の端面加工と比較するために、比較例1として、水を用いた端面加工を行った。上記と同様の条件にて加工を行った結果、加工距離が300mを超えたところで、ガラス端面に加工欠陥が発生した。加工電流値は、加工スタート時から連続的に上昇し、加工欠陥が発生後も加工を続けたところ、加工負荷を示す加工電流値が急上昇したため加工を打ち切った。
【0044】
また、本発明の加工液を用いたガラス板の端面加工と比較するために、比較例2として、加工液の表面張力が50mN/m以上の加工液を用意した。上記と同様に連続加工を行った結果、加工距離が1000mに達するまでに、加工されたガラス板の端面において、加工欠陥が連続的または散発的に発生した。また、加工負荷を示す加工電流値も、加工スタート時から上昇することが確認された。
【0045】
比較例1、2では、端面の研削加工において、加工ホイールとガラス板との加工点まで加工液の浸透が不足し、その結果、連続加工を行うと、加工欠陥の発生、更には加工負荷電流値の上昇が生じた。この場合、加工ホイールの加工溝のドレッシング作業が必要になる。
【0046】
以上の結果から、本発明の加工液を用いてガラス板の端面加工を行うことにより、ホイール溝のドレッシングの頻度を低減する、又はドレッシングが不要となるため、加工ホイールによるガラス端面の総加工距離を伸ばすことができることが確認できた。
【0047】
(実施例3)
次に、加工されたガラス板の表面品質の確認を行うために、ガラス板上にブラックマトリックス樹脂のパターンを形成し、ブラックマトリックスの剥離および残渣の確認を行った。ガラス基板の表面に、膜厚1μm、かつ、線幅1μm〜15μmとなるようにブラックマトリックス樹脂を塗布してパターンを形成し、ガラス表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を判定した。その結果、本実施例で製造されたガラス基板の表面と、加工液に水を用いた場合におけるガラス基板の表面とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。さらに加工されたガラス板を、上記の洗浄工程ST8に投入し、ガラス板の表面の洗浄を行い、その後、ガラス板上にブラックマトリックス樹脂のパターンを形成し、ブラックマトリックスの剥離および残渣の確認を行った。
【0048】
その結果、本発明の加工液を用いた場合と、加工液として水を用いた場合とで、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。
【0049】
以上の結果から、本発明の加工液を用いることで、ガラスの表面品質に影響を与えることなく、ディスプレイ用のガラス板を製造することができることを確認した。
【0050】
以上、本発明のガラス板の製造方法、加工液について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。