(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333674
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】リサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物の再生方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/00 20060101AFI20180521BHJP
B29C 71/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B29B17/00ZAB
B29C71/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-177310(P2014-177310)
(22)【出願日】2014年9月1日
(65)【公開番号】特開2016-49736(P2016-49736A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】中野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】石黒 桂二
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−171808(JP,U)
【文献】
特開2002−105742(JP,A)
【文献】
特開平11−070524(JP,A)
【文献】
特開2006−327189(JP,A)
【文献】
木村駿一、冨永亜矢、中野涼子、関口博史、八尾滋、高取永一,ポストコンシューマーリサイクルポリエチレン樹脂の高度再生技術,Polymer Preprints, Japan,日本,2013年,Vol.62, No.2,p.4989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00−11/14、
B29B13/00−15/06、
B29B17/00−17/04、
B29C31/00−31/10、
B29C37/00−37/04、
B29C71/00−71/04、
C08J7/00−7/02、
C08J7/12−7/18、
C08J11/00−11/28、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物の再生方法であって、
リサイクルポリオレフィン(1)と、前記リサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)とを含有し、リサイクルポリオレフィン(1)としてポリプロピレンを含有し、リサイクルポリオレフィン(2)としてポリエチレンを含有し、リサイクルポリオレフィン(1)とリサイクルポリオレフィン(2)との重量換算の混合比率(リサイクルポリオレフィン(1):リサイクルポリオレフィン(2))が、99.5:0.5〜55:45である熱可塑性樹脂組成物を溶融し製品形状の溶融樹脂組成物とする溶融成形工程と、
前記溶融成形工程により製品形状とされた溶融樹脂組成物を、−5℃〜25℃の液体に接触させる急冷工程とを有することで熱可塑性樹脂組成物の成形品を製造することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
【請求項2】
前記リサイクルポリオレフィンが、化学劣化したリサイクルポリオレフィンである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4−付加ブタジエンユニット由来物、ポリエチレンテレフタレート由来物およびプラスチックからなる群から選択される少なくとも1以上の成分を含有する請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
【請求項4】
前記急冷工程の接触が、前記液体に10秒以上浸漬させるものである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法によって製造される熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコンシューマポリオレフィンや包装容器等の成形品として利用されるなどしたプラスチックから回収されたリサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物とその再生方法に関する。特に、ポリオレフィンとして、ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂組成物およびその再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然資源の枯渇や、廃棄物の増加に伴う環境負荷の増大に対して、循環型社会形成基本法が制定されるなど、3Rと呼ばれるような、リデュース、リユース、リサイクルが重要となっている。プラスチック製品はその廃棄物の発生量が膨大であり、廃棄プラスチックをどう有効にリサイクルするかが重要となっている。しかしながら、包装用容器等に利用され、消費量も多い代表的なプラスチックであるポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、リサイクルプラスチックとして使用すると、バージン品の特性と比べて破断強度や伸度などの力学特性が著しく低下することが知られており、多くの場合、サーマルリサイクルされ、焼却処分されているか、あるいは埋め立て処分されている。またマテリアルリサイクルする場合もパレットや擬木等の限定的な用途のみであった。これは製品として市場に流通し消費されたプラスチックは酸素や光、熱等により化学劣化して、力学特性を復元することができないため、容器等の靱性が必要な成形体とすることができないと考えられていたためである。
【0003】
一方で、プラスチックの再利用にあたっては、市場流通・消費品のように化学劣化が起こったもののみならず、工場等の成形工程で廃棄品や不良品として生じるプレコンシューマ品の再利用も重要な課題である。ポリオレフィン系の樹脂は熱可塑性樹脂であり、一般的に溶融成形法で成形されているが、その溶融成形による熱履歴の影響等により物性が大きく変化するものと考えられており、一旦成形加工されたものは酸化等の化学変化が起こる前であるにも関わらず、一定の靱性が求められる用途には再利用できないと考えられてきたことによる。よって、長期利用されることによる化学劣化が生じていない、成形加工工程で生じるプレコンシューマ品であっても、熱履歴を受けている以上、靱性を改善することはできないと考えられその再利用用途は極めて限定されていた。また、プレコンシューマ品であっても、ポリプロピレンとポリエチレンを組み合わせて成形品を成形したときの廃棄物や、廃棄物として回収する際に複数のポリオレフィン系樹脂が混合されたりと、プレコンシューマ品をリサイクルするにあたっては、純度が下がったものとなるが、これらは純度が低下している分、混合プラスチック間の境界層などに応力が集中しやすくなるなどし、力学特性が低下する可能性があった。
【0004】
このようなプレコンシューマ品を再利用する技術として、バージン品を用いた成形加工とは異なる熱処理を行うことで、その靱性を改善することができることが開示されている(非特許文献1、2)。これらにおいては、純度が高いホモポリマーのプレコンシューマ品を用いて、溶融成形時の熱処理時間を長めに設定したり、溶融成形加工後速やかに氷水を用いて急冷したりすることが開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、廃棄されたポリプロピレン系樹脂製品を粉砕後、分別回収されたポリプロピレン系樹脂廃材を用いた再生成形体と、その再生方法が開示されている。これは、高い結晶度のポリプロピレンを配合することで性能を回復させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3731009号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Aya Tominaga et al.,“Advance Processing Technology for Recycling Plastics”, Polymer Preprints, Japan Vol.62, No.1, pp.2023, 2013
【非特許文献2】木村俊一等,「ポストコンシューマーリサイクルプリエチレン樹脂の高度再生技術」,Polymer Preprints, Japan Vol.62, No.2, pp.4989, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
包装用容器等に汎用されているポリプロピレンの樹脂を再利用する方法として、前述の非特許文献1や2に開示されているように単一系から取得したプレコンシューマ品のように、比較的バージン品に近い純度が高いものであれば、靱性等を再生できることが開示されている。しかしながら、これらはあくまで単独のポリプロピレンのプレコンシューマ品に関するものであり、化学劣化が生じていない樹脂に関し、異物が少なく、単独樹脂の純度が高いものの時の知見であった。しかし、例えプレコンシューマ品であっても他の樹脂が混入する可能性があり、純度が高いプレコンシューマポリオレフィンとして回収することなく、より簡便に行うことができるリサイクル方法が求められている。
【0009】
また、市場流通し消費された後の廃棄プラスチックは、化学劣化が生じ、必然的に異物が混入されやすく、種々のポリオレフィン系樹脂やその他の樹脂も混入する可能性がある。このような市場流通品を再利用するには、プレコンシューマ品以上に、力学特性が低下する要素が多くあるため、解決が困難な課題と考えられ、これまで十分な検討がされていなかった。特許文献1は高結晶性のポリプロピレンを混合することで廃棄プラスチックの性能を回復させようとするものだが、他の成分が混ざった時にその回復効果が限定的であったり、廃棄プラスチックに対して相当量のバージン品の高結晶性ポリオレフィンを準備する必要があるため、リサイクル法としては採用しにくいものであった。本発明は、複数のポリオレフィンが混合されていても採用することができる樹脂組成物の再生方法を提供するものであり、さらに市場流通等することで、化学劣化が生じてしまった樹脂組成物を用いても、バージン品に相当するような樹脂組成物を再生する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> リサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物の再生方法であって、リサイクルポリオレフィン(1)と、前記リサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融し製品形状の溶融樹脂組成物とする溶融成形工程と、前記溶融成形工程により製品形状とされた溶融樹脂組成物を急冷する急冷工程とを有することで熱可塑性樹脂組成物の成形品を製造する熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
<2> 前記急冷工程が、−5℃〜25℃の液体による急冷である前記<1>記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
<3> 前記熱可塑性樹脂組成物における、リサイクルポリオレフィン(1)とリサイクルポリオレフィン(2)との重量換算の混合比率(リサイクルポリオレフィン(1):リサイクルポリオレフィン(2))が、99.5:0.5〜55:45である前記<1>または<2>記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
<4> 前記熱可塑性樹脂組成物が、リサイクルポリオレフィン(1)としてポリプロピレンを含有し、リサイクルポリオレフィン(2)としてポリエチレンを含有する前記<3>記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法
<5> 前記リサイクルポリオレフィンが、化学劣化したリサイクルポリオレフィンである前記<1>〜<4>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
<6> 前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4−付加ブタジエンユニット由来物、ポリエチレンテレフタレート由来物およびプラスチックからなる群から選択される少なくとも1以上の成分を含有する前記<1>〜<5>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法。
<7> 前記<1>〜<6>記載の熱可塑性樹脂組成物の再生方法によって製造される熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のリサイクルポリオレフィンが混合されている熱可塑性樹脂組成物を再生することができ、さらに市場流通等することで、化学劣化が生じてしまった樹脂組成物を用いても、バージン品に相当するような樹脂組成物として再生することができる方法を提供するものである。この方法で再生された樹脂組成物は、特に破断強度や、破断伸度といった靱性を容器等に実用可能なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明により再生されたリサイクルポリオレフィンを含有する成形シートについて引張試験を行った結果を示す図である。
【
図2】本発明により再生されたリサイクルポリオレフィンを含有する成形シートについて引張試験を行った結果を示す図である。
【
図3】従来技術により成形されたリサイクルポリオレフィンを含有する成形シートについて引張試験を行った結果を示す図である。
【
図4】従来技術により成形されたリサイクルポリオレフィンを含有する成形シートについて引張試験を行った結果を示す図である。
【
図5】従来技術により成形されたバージンポリプロピレンの成形シートについて引張試験を行った結果を示す図である。
【
図6】引張試験後の成形シートの状態を示す図である。
【
図7】溶融成形温度および冷却工程の違いによる成形シートについて引張試験を行ったときの破断エネルギーを示す図である。
【
図8】溶融成形温度および冷却工程の違いによる成形シートについて引張試験を行ったときの破断伸びを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0015】
本発明は、リサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物の再生方法であって、リサイクルポリオレフィン(1)と、前記リサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融し製品形状の溶融樹脂組成物とする溶融成形工程と、前記溶融成形工程により製品形状とされた溶融樹脂組成物を急冷する急冷工程とを有することで熱可塑性樹脂組成物の成形品を製造することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の再生方法を提供するものである。この方法で成形された樹脂組成物は、複数のポリオレフィンが混合されており、消費された廃棄プラスチック(いわゆるポストコンシューマ品)のように化学劣化したポリオレフィンを原料として用いても、バージン品に相当する力学特性を示す。特に、本発明によれば破断強度や、引張伸度といった靱性が低下してない成形品を得ることができる。ここでバージン品とは、石油原料から重合、ペレット化されて物性がほとんど変化していない原料ポリマーを指し、またその原料ポリマーから直接製造される成形品を指す。このバージン品は、溶融加工による熱履歴や化学劣化の影響をほとんど受けていないためそのポリマー本来の力学特性を示す。
【0016】
本発明の再生方法は、リサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物の再生方法に関する。ポリオレフィンとは、ポリエチレンやポリプロピレン等のように、1位に二重結合をもつα‐オレフィンの重合で得られる結晶性を有する高分子である。本発明において、リサイクルポリオレフィンとは、バージン品のペレットから成形品を成形する工程で生じる廃棄物や不良品のようなプレコンシューマ品や、成形品として市場流通し、消費された後の、容器包装リサイクルプラスチック(いわゆる「容リプラ」)のような廃棄プラスチックとして回収されるポリオレフィンの総称である。
【0017】
本発明において熱可塑性樹脂組成物として、リサイクルポリオレフィンであるリサイクルポリオレフィン(1)と、リサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を用いる。これらのリサイクルポリオレフィンは、リサイクルして得られるため、固体として収集される。また、これらの複数のリサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物とするために、それぞれのホモポリマーに近いリサイクルポリオレフィンを利用する場合、リサイクル品を常温で予備混合して用いることができる。または、リサイクル対象の成形品が複数のポリオレフィンを用いたものの場合、その成形品からリサイクルされた樹脂ははじめから複数のリサイクルポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物として回収される。また、リサイクル過程で混合される可能性があり、その他、適宜混合される物質として、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4−付加ブタジエンユニット由来物およびポリエチレンテレフタレート由来物、あるいはその他のプラスチックといったいわゆる不純物も、常温で混合された固体として収集される。このリサイクルポリオレフィン等を含有する熱可塑性樹脂組成物は、適宜粉砕混合しておきペレッターを用いて溶融混練し、予めペレットとしておくことができる。このペレットを、本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品の製造に用いる熱可塑性樹脂組成物として使用することができる。
【0018】
本発明は、リサイクルポリオレフィン(1)と、このリサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)とを含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。このポリオレフィン(1)とは異なるポリオレフィン(2)とは、そのポリオレフィンとしての主となるモノマー単位の基本骨格が異なる種のポリマーであることを指す。具体的には、リサイクルポリオレフィン(1)としてポリプロピレンを採用する場合、リサイクルポリオレフィン(2)としてはポリプロピレンとは異なるポリオレフィンであるポリエチレンなどを採用することができる。このようなプラスチックをリサイクルするにあたって、リサイクルの様々な工程では、複数のポリオレフィンが混合されやすい。本発明は、このような複数のポリオレフィンが混合されたものを用いて達成することができる。
【0019】
前記リサイクルポリオレフィン(1)と、リサイクルポリオレフィン(2)との混合比率は、それらの重量比率として、リサイクルポリオレフィン(1):リサイクルポリオレフィン(2)が、99.5:0.5〜55:45であることが好ましい。より好ましくは、90:10〜70:30であり、更に好ましくは90:10〜80:20である。このような比率のとき、本発明により物性が再生された熱可塑性樹脂組成物を得やすく、バージン品に相当し、種々の用途に利用しやすいものを得やすい。この混合比率は、リサイクルポリオレフィン(1)としてポリプロピレンを採用する場合もポリエチレンを採用する場合も、前述したような比率とすることが好ましく、すなわち、いずれかのポリオレフィンが他のポリオレフィンよりも多い比率となっていることが好ましい。これは、ポリオレフィン(1)とポリオレフィン(2)とは、その混合物である熱可塑性樹脂組成物を用いて製造される成形品としたときのミクロな状態として、海島構造をとっていると考えられることに基づく。すなわち、混合比率が多い方のポリオレフィンが海側、少ない方のポリオレフィンが島側となり、特に海側構造のポリオレフィンの結晶化等による結合力が、成形品全体にわたって働くことで、成形品全体としての力学特性を維持することに大きく寄与していると考えられるためである。
【0020】
化学劣化したポリオレフィンとは、バージン品等の樹脂を用いて製造された樹脂成形品が、市場に流通し、使用されることで、酸化劣化したり、紫外線等の光により劣化したりすることで、そのポリオレフィンとしての化学的特性や分子量が変化したものである。より具体的には、ポリオレフィンは一定期間、包装容器等の成形品として使用に供されることで、熱酸化や光酸化、加水分解等によって、カルボニル基が生じたり、分子量の低下が生じる。このような樹脂を含有すると、一般的には靱性等の力学特性が著しく低下し、成形品として利用できる範囲が制限されると考えられてきたが、本発明によって、このような化学劣化したポリオレフィンを含有していても、靱性が求められる用途にも使用することができる成形品を提供することができる。これは、すなわち、ポリオレフィン系樹脂を含有する廃プラスチックを広範囲で再利用できることにつながる。
【0021】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、さらに、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4−付加ブタジエンユニット由来物、ポリエチレンテレフタレート由来物、およぼプラスチックからなる群から選択される少なくとも1以上の成分を含有することができる。なお、この成分としてのプラスチックは、リサイクルポリオレフィン(1)およびリサイクルポリオレフィン(2)以外の、その他のプラスチックである。これらの成分は、リサイクルプラスチックにおいては、いわゆる不純物として混合されてしまいやすく、一般的にはこれらを取り除き純度を高めることが検討されるものである。本発明においては、これらの成分が含まれた熱可塑性樹脂組成物としても、再生して使用することができる。熱可塑性樹脂組成物全体における、リサイクルポリオレフィンとこれらの成分(不純物)との混合比率は、力学特性等が再生される範囲において任意である。本発明により力学特性等が再生される主たる要因は、リサイクルポリオレフィンの再生によることを考慮すると、リサイクルポリオレフィン:これらの成分(不純物)が、重量比で99.5:0.5〜55:45であることが好ましく、99:1〜80:20であることがより好ましい。このような範囲であれば、バージン品で使用される多くの用途に利用することができる。なお、ペレット化された熱可塑性樹脂組成物等における、各種ポリオレフィンや不純物等の成分組成(各成分の含有量)は、ペレットを冷凍粉砕した後、冷凍粉砕試料をテトラクロロエタンに溶解し、ポリジメチルシロキサン等の内部標準物質を用いて、
1H−NMR測定の内部標準法により可溶分の成分組成を算出したり、不溶分含有量を求めることで分析することができる。
【0022】
本発明の樹脂紙組成物はリサイクルポリオレフィンを含有し、このリサイクルポリオレフィンは熱可塑性を示すため、これを含有する樹脂組成物全体としても熱可塑性を示す。この熱可塑性を示す熱可塑性樹脂組成物を用いて、溶融成形することで、その成形品として種々の用途に適した形状に成形し熱可塑性樹脂組成物を製造するものである。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の再生方法により、熱可塑性樹脂組成物の成形品を製造する。すなわち、この成形品を形成する熱可塑性樹脂組成物はその力学特性が再生されたものとなっている。この成形品の形状としては、シートやフィルムのような包装用容器や、各種台所用品や、浴室用品、文具用品、玩具、楽器、家電機器等の、一般的なバージン品のポリオレフィン系の樹脂により成形される樹脂成形品全般を対象とすることができる。再生後の樹脂組成物はペレット状としておくこともできる。特に、再生後の製品形状として次の用途の熱可塑性樹脂成形品の形状としておくことで、その熱可塑性樹脂成形品として力学特性等が再生されたものとして使用しやすくなる。
【0024】
本発明の樹脂組成物の再生方法は、リサイクルポリオレフィン(1)と、前記リサイクルポリオレフィン(1)とは異なるリサイクルポリオレフィン(2)と、さらに適宜、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4−付加ブタジエンユニット由来物およびポリエチレンテレフタレート由来物、あるいはその他のプラスチックからなる群から選択される少なくとも1以上の成分とを含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融成形し製品形状の溶融樹脂組成物とする溶融成形工程を有する。この溶融成形工程により、本発明により再生される熱可塑性樹脂成形品としての基本的な形状の成形が行われる。
【0025】
溶融成形工程としては、プレス加工や、射出成形、押出成形等の熱可塑性樹脂組成物の成形方法を、適宜、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品として成形する形状に適したものを採用することができる。また、各種成形時に係るシリンダや金型等にかかる成形圧力等によって成形される。
【0026】
本発明の再生方法は、混合されたリサイクルポリオレフィンを含有する溶融熱可塑性樹脂組成物を溶融成形し加熱成形品とする溶融成形工程を有する。この溶融成形温度は、リサイクルポリオレフィンの混合比率や、その他添加される物質量等に応じて、樹脂成形に適した範囲で適宜設定される。一般的には、溶融される溶融熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度や、溶融温度、成形体の形状、成形工程でかかる圧力等を考慮して設定される。例えば、ポリオレフィン(1)としてポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(2)としてポリエチレン(PE)を採用したとき、これらの重量換算の混合比率が、リサイクルポリオレフィン(1):リサイクルポリオレフィン(2)が99.5:0.5〜55:45程度の場合、170℃〜220℃程度の温度で設定され、好ましくは180℃〜210℃の範囲で設定される。また、成形までの加熱時間をバージン品のポリオレフィンを同比率で混合したときよりも、20%〜2000%長めに設定し、過去の熱履歴を解消することが好ましい。また、この溶融成形工程で、固体として予備混合されたり、ペレット化されたものに、さらに加熱溶融状態で押し出し機等による成形圧力が加わることでより均質に混合されると考えられる。
【0027】
本発明の再生方法は、前期溶融成形工程により溶融された溶融樹脂組成物を急冷する急冷工程を有することを特徴とする。一般的に、バージン品の成形においては溶融工程を経て成形体の形状とされたものは徐冷される。これは、バージン品のポリオレフィンを用いて成形した場合、徐冷によっても十分な力学特性を示すためである。しかしながら、リサイクルポリオレフィンを用いた場合、徐冷により得られるものは著しく力学特性が低下する。本発明においては、この溶融工程を経て蓄熱状態にある溶融樹脂組成物を、急冷することで樹脂組成物(成形品)の力学特性を向上させる。
【0028】
この急冷は、具体的には、−5℃〜25℃の範囲の媒体に、溶融
工程後の溶融樹脂組成物を直ちに積極的に接させるものである。急冷させるために溶融樹脂組成物に接する媒体は、気体(冷温の風を吹き付ける等)、固体等を用いて行ってもよいが、液体を用いて行うことが好ましい。より好ましい媒体としては、熱容量や安定性といった点から水を主とするものが最も好ましい。また、その温度は0℃〜20℃がより好ましい。なお、水等の液体を用いて急冷した後の樹脂は、その液体を適宜拭き取ったり、乾燥させたりして除去することで、最終的な熱可塑性樹脂組成物を得る。
【0029】
本発明の再生方法により、この急冷工程を経た熱可塑性樹脂組成物は、その力学特性を中心とした物性が、再生されたものとなる。この再生される物性としては、代表的なものとして、引張試験で評価される引張伸度や、引張試験を行った時の破断時の応力(破断強度)、破断するまでの応力と引張伸度から求められる破断エネルギー等が挙げられる。これらの特性は、靱性の指標となるものであり、これらはリサイクルプラスチックを用いた熱可塑性樹脂組成物やその成形品では著しく低下する。本発明では、これらを再生することができ、これによりリサイクルポリオレフィンを主たる物質として含有していても、多用途に利用することができる。なお、再生する物性は、用途に応じて適宜変更することができ、その物性は溶融工程の溶融温度や時間、原料の混合比率、急冷工程の温度や媒体等により調整することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
[評価項目]
[引張試験]
株式会社東京試験機“Little Senstar LSC―02/30―2”を用いて、引張試験を行った。詳しい試験条件は以下のものである。引張試験によって得られた結果を用いて、応力−ひずみ曲線(S-S曲線)を作製し、破断伸度と伸張破壊エネルギー等の力学特性を求めた。
JIS K7113 2(1/3)号の試験片形状のフィルムを打ち抜いて試験片とした。
試験温度・湿度:21.6℃・67%RH
チャック間距離:30mm
伸張速度:5mm/min
【0032】
[原料]
・バージン品PP樹脂(VPP):射出成形用透明グレード品のポリプロピレンを使用した。
・リサイクルポリオレフィン含有樹脂(a):ポストコンシューマポリオレフィン系樹脂である、容器包装リサイクル樹脂ペレットを用いた。このペレットは、ポリオレフィン(1)としてポリプロピレン(PP)と、ポリオレフィン(2)としてポリエチレン(PE)とを、重量比でおよそ6:4の割合で含有している。なお、このリサイクルポリオレフィン含有樹脂(a)は不純物としてポリスチレンや、溶媒に不溶な無機物等を樹脂全体の8重量%含有している。また、この樹脂をペレット化する肯定で、ポリオレフィン(1)と、ポリオレフィン(2)と、その他不純物とが溶融成形されたものである。ただし、冷却工程を経ていないためこのペレットの段階では力学特性は再生していない樹脂である。
【0033】
[溶融工程]
各原料となる樹脂を、井元製作所製油圧加熱プレスを用いてプレス加工することでシート状に成形した。プレス温度および時間を変更して、溶融工程における熱履歴の影響を調べた。なお、シートとしての厚みがおよそ100μmとなるようにスペーサーを入れ、樹脂の仕込み量とプレス圧力を適宜設定した。
【0034】
[冷却工程(急冷)]
前記溶融工程により、シート状に成形された樹脂を、急冷する場合、プレス機から取り出した後、直ちに氷水(0℃)に浸漬させて冷却した。シート状のため、溶融熱可塑性樹脂組成物の成形品の全体が直ちに急冷されるため、冷却浸漬時間は任意の時間でよいが、十分に冷却されるようにおよそ10秒以上浸漬させた。
【0035】
[冷却工程(徐冷)]
前記溶融工程により、シート状に成形された樹脂を、徐冷する場合、プレス機から取り出した後、そのまま常温の空気中で静置し徐冷した。
【0036】
[実施例1、2]
前記リサイクルポリオレフィン含有樹脂(a)を原料として、前記溶融工程により溶融成形し、その後、冷却工程(急冷)を行うことでシート状の熱可塑性樹脂組成物を得た。この溶融工程における温度およびプレス時間については表1に示す。
【0037】
[比較例1、2]
前記リサイクルポリオレフィン含有樹脂(a)を原料として、前記溶融工程により溶融成形し、その後、冷却工程(徐冷)を行うことでシート状の熱可塑性樹脂組成物を得た。この溶融工程における温度およびプレス時間については表1に示す。
【0038】
[参考例1]
バージン品であるVPPを用いて、前記溶融工程によりシート状に溶融成形した後、前記冷却工程(徐冷)により、徐冷して得られるシートを製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1、2、比較例1、2、参考例1により成形されたシートから試験片を作成して引張試験を行った。引張試験によるS−Sカーブを
図1〜5に示す。なお、引張試験は各試験片について5回試験をおこない、適宜平均値を求めた。ここで
図1は実施例1の、
図2は実施例2の、
図3は比較例1の、
図4は比較例2の、
図5は参考例1のS−Sカーブである。
また、実施例1と比較例1の引張試験後の試験片を
図6に示す。S−Sカーブや、試験後のサンプルを見れば明らかなように、本発明により再生された熱可塑性樹脂組成物による成形シートは、その力学特性が再生されていた。なお、参考例1はポリプロピレン単独のポリマーによる成形品の物性のため、ヤング率等の力学特性は、ポリエチレン等を含有する実施例の力学特性よりも高い値となっている。
実施例1、2、比較例1、2、参考例1の引張試験の結果により求められた各力学特性値を表2に示す。これは、前述のように各試験片について5回試験を行った平均値である。
【0041】
【表2】
【0042】
破断エネルギー、破断伸びについて、シート成形温度、プレス時間を変更した際の、急冷によるものと、徐冷によるものとの比較を行った結果を
図7、8に示す。これらの試験片は、急冷については実施例1に、徐冷については比較例1に準じて作成した試験片を用いた評価結果である。
図7、8に示すように、本発明により再生された熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたシートは、一般的な方法でリサイクルプラスチックを用いて成形されたシートに比べ著しく優れた力学特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ポリオレフィン系のリサイクルプラスチックを再生利用可能となる。これにより、広範な用途でリサイクルプラスチックを使用することができ産業上有用である。