(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333704
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】外部電源カソード防食装置
(51)【国際特許分類】
C23F 13/20 20060101AFI20180521BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20180521BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C23F13/20 A
C23F13/02 B
C23F13/02 J
H02M3/28 P
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-228200(P2014-228200)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-89252(P2016-89252A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】梶山 文夫
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−053968(JP,U)
【文献】
特開2004−080842(JP,A)
【文献】
特開2004−250779(JP,A)
【文献】
特開2014−159621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源装置を備え、電解質中に存在する防食対象の金属構造物をカソードとし、電解質中に配置したアノードから前記金属構造物に対して防食電流を発生させる外部電源カソード防食装置であって、
前記外部電源装置は、商用交流電源の交流電圧を整流する第1整流回路と、該第1整流回路によって整流された電圧を平滑化する平滑回路と、該平滑回路によって平滑化された電圧をチョッパ制御するスイッチング回路と、該スイッチング回路によってオン・オフされた電圧が一次側に入力される変圧回路と、該変圧回路の2次側電圧を整流する第2整流回路と、該第2整流回路によって整流された電圧から直流電圧を得るLC回路と、前記スイッチング回路のデューティ比を制御するPWM回路と、前記LC回路の出力電圧と前記LC回路のアノード側出力の出力電流が入力され、前記出力電圧と前記出力電流とで求められる総回路抵抗によって、前記スイッチング回路のデューティ比を制御するための帰還電圧を調整する演算処理装置を備え、
前記帰還電圧の調整によって、前記カソードと前記アノード間に印加する前記LC回路の出力電圧を制御することを特徴とする外部電源カソード防食装置。
【請求項2】
前記LC回路のアノード側出力にアノード流入電流防止手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の外部電源カソード防食装置。
【請求項3】
前記演算処理装置は、前記金属構造物の対電解質電位とクーポン電流密度の一方又は両方に基づいて前記帰還電圧を調整することで、前記カソードと前記アノード間に印加する前記LC回路の出力電圧を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の外部電源カソード防食装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード防食対象に対して直流の防食電流を発生させる外部電源カソード防食装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部電源カソード防食装置は、外部電源を用いて、電解質中に設けた電極をアノードとし電解質中に存在する防食対象の金属構造物をカソードとして、アノードから電解質中に防食電流を発生させ、電解質中の金属構造物をカソード防食するものである。この外部電源カソード防食装置は、カソード防食される金属構造物の対電解質電位や金属構造物に接続されたクーポンに流入するクーポン電流を計測して、計測された対電解質電位が防食電位よりマイナス側になるように、或いは計測されたクーポン電流によって求められるクーポン電流密度がカソード防食基準に合格するように、外部電源の出力電圧が制御されている。
【0003】
このような外部電源カソード防食装置の外部電源には、商用交流電源から得られる直流電源が用いられている。下記特許文献1に記載された従来技術は、交流電源を変圧回路で変圧し、その出力を整流回路,平滑回路によって直流電圧に変え、その直流電圧をスイッチング回路でオン・オフ制御し、スイッチングオン時間と設定周波数におけるスイッチング周期との比であるデューティ比を調整することで出力調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−152346号公報
【特許文献2】特開2004−250779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、防食対象の金属構造物は電気抵抗率の高いプラスチックコーティングで覆われており、これによって、外部電源カソード防食装置のアノードから出力される防食電流は、数十mAから10A程度に微小化する傾向にある。このため、防食電流を高精度で制御するには、リップル率の低い直流電流をアノードから出力する外部電源が求められる。
【0006】
また、近年、プラスチックコーティングパイプラインが高圧交流送電線や交流電気鉄道輸送路と並行して埋設されているケースが増大しており、このようなパイプラインの交流腐食対策として、上記の特許文献2に記載されるような、パイプラインと低接地物との間にコンデンサーを内蔵する交流誘導低減器を設置する措置が講じられることがある。このようなパイプラインにリップル率の高い防食電流が流入すると、リップル電流がコンデンサーを通過するため、パイプラインに流入すべき防食電流が一部ロスになる。防食電流を有効にパイプラインに流入させるためにもリップル率の低い直流電流をアノードから出力する外部電源が求められる。
【0007】
また、このように防食電流が微小化する一方で、都市部の地中に埋設されている金属構造物は、直流電気鉄道車両のレール漏れ電流など、時間変動の大きい迷走電流の影響を受けて、金属構造物の対電解質電位やクーポン流入電流密度が頻繁に変化する環境に曝されているので、これに応じて防食電流を高速且つ高精度に制御することが求められている。
【0008】
また、外部電源カソード防食装置のアノードは、防食電流を効率的に出力するために周囲にバックフィルとして黒鉛粉末とコークス粉末を充填して設置されるのが一般的である。これによってアノードの接地抵抗は低くなっており、防食電流の出力を微小化して稼働する状況下では、迷走電流がアノードに流入する可能性や、アノードに落雷があった場合に雷電流が流入して外部電源装置が損傷する可能性があった。
【0009】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものであり、外部電源カソード防食装置において、商用交流電源からリップル率の低い直流電流を出力することで、微小化した防食電流を高速且つ高精度に制御すること、接地抵抗の低いアノードから流入する迷走電流や雷電流を防止すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明は
、以下の構成を備える。
外部電源装置を備え、電解質中に存在する防食対象の金属構造物をカソードとし、電解質中に配置したアノードから前記金属構造物に対して防食電流を発生させる外部電源カソード防食装置であって、前記外部電源装置は、商用交流電源の交流電圧を整流する第1整流回路と、該第1整流回路によって整流された電圧を平滑化する平滑回路と、該平滑回路によって平滑化された電圧をチョッパ制御するスイッチング回路と、該スイッチング回路によってオン・オフされた電圧が一次側に入力される変圧回路と、該変圧回路の2次側電圧を整流する第2整流回路と、該第2整流回路によって整流された電圧から直流電圧を得るLC回路と
、前記スイッチング回路のデューティ比を制御するPWM回路と
、前記LC回路の出力電圧と前記LC回路のアノード側出力の出力電流が入力され、前記出力電圧と前記出力電流とで求められる総回路抵抗によって、前記スイッチング回路のデューティ比を制御するための帰還電圧を調整する演算処理装置を備え、前記帰還電圧の調整によって、前記カソードと前記アノード間に印加する前記LC回路の出力電圧を制御することを特徴とする外部電源カソード防食装置。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を備えた外部電源カソード防食装置は、商用交流電源からリップル率の低い直流電流を出力して、微小化した防食電流を高速且つ高精度に制御することができ、接地抵抗の低いアノードから流入する迷走電流や雷電流を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る外部電源カソード防食装置の全体構成を示した説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る外部電源カソード防食装置における外部電源装置の回路構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る外部電源カソード防食装置の全体構成を示した説明図である。ここでは、防食対象の金属構造物を電解質である土壌に埋設されたパイプラインとして説明するが、特にこれに限定されるものではない。
【0014】
外部電源カソード防食装置1は、外部電源装置2とアノード3を備えており、外部電源装置2の一方の出力端子2Aが電解質である土壌中に存在するパイプラインPに電線L1を介して接続されており、外部電源装置2の他方の出力端子2BがパイプラインP近くの電解質中に配置したアノード3に電線L2を介して接続されている。また、外部電源装置2は、入力端子2C,2Dを備えており、その入力端子2C,2Dには商用交流電源ACが接続され、交流電圧が入力されている。
【0015】
パイプラインPは、電解質中に設置される照合電極4やクーポン5に電線L3,L4を介して接続されており、電線L3に接続された電圧計6によって計測される電圧値、或いは電線L4に接続された電流計7によって計測される電流値が演算処理装置8に入力され、演算処理装置8によって求められる管対地電位(対電解質電位)P/Sとクーポン電流密度Icが、外部電源装置2に入力されている。
【0016】
また、演算処理装置8は、無線又は有線の通信機能を備えており、この通信機能によって、遠隔地にある監視・制御センターに管対地電位P/S,クーポン電流密度Icを含む監視情報(後述する出力電圧V,出力電流I,総回路抵抗Rなど)を送信し、監視・制御センターからの制御信号を受信している。
【0017】
外部電源装置2は、カソードであるパイプラインPとアノード3との間に直流の出力電圧Vを印加して、アノード3から電解質中に発生される防食電流をパイプラインPに供給するものであり、
図2に示す回路構成を備えている。
【0018】
この外部電源装置2は、入力端子2C,2Dに入力される交流電圧を直流電圧に変換して、アノード3とパイプラインPに接続する出力端子2A,2Bから出力するものであり、ラインフィルタ10,突入電流防止回路11,第1整流回路12,力率改善回路13,平滑回路14,スイッチング回路15,変圧回路16,第2整流回路17,LC回路18を備えると共に、スイッチング回路15に出力電圧Vをフィードバックする帰還回路として、誤差増幅回路19,位相補償回路20,PWM回路21を備えている。
【0019】
このような外部電源装置2の基本動作を説明する。入力端子2C,2Dに入力される交流電圧は、ラインフィルタ10によってノイズが除去され、突入電流防止回路11を経て第1整流回路12にて極性反転の無い電圧に整流される。第1整流回路12としては、図のようなブリッジ型の全波整流回路を用いることができる。
【0020】
第1整流回路12によって整流された電圧は、力率改善回路13を経て平滑回路14にて平滑化され、平滑化された電圧はMOSFETなどのスイッチングトランジスタからなるスイッチング回路15のオン・オフ動作でチョッパ制御される。スイッチング回路15にてチョッピングされた電圧は高周波トランスからなる変圧回路16の一次側に入力され、変圧回路16の2次側電圧が一つのダイオードで構成される第2整流回路17で半波整流され、LC回路18を経て直流電圧として出力される。
【0021】
LC回路18の出力電圧Vは、出力電圧検出手段22によって検出され、A−Dコンバータ23を介して演算処理装置8に入力され、演算処理装置8から出力される帰還電圧Vfが帰還回路内の誤差増幅回路19に送られる。
【0022】
帰還回路内の誤差増幅回路19は演算処理装置8から送られてきた帰還電圧Vfと基準電圧Vrの差分を反転増幅して誤差信号を生成する。生成された誤差信号は、位相補償回路20により位相補償され、位相補償された誤差信号は、PWM回路21内のPWMコンパレータ21Cに供給される。PWMコンパレータ21Cは、位相補償された誤差信号と図示省略した三角波発振器から出力される三角波21aを比較して、PWM信号を生成する。生成されたPWM信号はスイッチング回路15に供給される。
【0023】
ここで位相補償された誤差信号が三角波21aより大きいときは、PWM信号はハイとなってスイッチング回路15がオンになり、位相補償された誤差信号が三角波21aより小さいときは、PWM信号はローとなってスイッチング回路15がオフとなるので、誤差信号の大小によってスイッチング回路15によるオン・オフのデューティ比が制御され、出力電圧Vを基準電圧Vrに一致させるフィードバック制御がなされる。
【0024】
誤差増幅回路19に帰還電圧Vfを送る演算処理装置8には、A−Dコンバータ23を介してLC回路18の出力電圧Vが入力されるだけでなく、電圧計6或いは電流計7で計測された計測値がA−Dコンバータ23を介して入力される。そして、演算処理装置8は、これらの計測値からパイプラインPの管対地電位P/S(対電解質電位)或いはクーポン電流密度Icを求め、管対地電位P/S又はクーポン電流密度Icに基づいて帰還電圧Vfを調整する。このように帰還電圧Vfを調整することで、計測された管対地電位P/Sやクーポン電流密度Icに応じて出力電圧Vを制御し、アノード3から発生する防食電流を適正に制御することができる。
【0025】
また、LC回路18のアノード側出力配線には、シャント抵抗24が設けられており、外部電源装置2は、シャント抵抗24から出力電流Iを検出する出力電流検出手段25を備えている。そして、演算処理装置8には、出力電流検出手段25が検出する出力電流IがA−Dコンバータ23を介して入力されており、演算処理装置8は、入力された出力電流Iと出力電圧Vとから総回路抵抗Rを求めている。ここで、演算処理装置8から出力される帰還電圧Vfは、出力電流Iや総回路抵抗Rによっても適宜調整することができる。
【0026】
アノードと出力電流検出用のシャント抵抗24との間には、ファーストリカバリーダイオードからなるアノード流入電流防止手段26を挿入する。ファーストリカバリーダイオードは、高速で動作し、迷走電流や雷電流がアノードに流入して外部電源装置2の出力端子(出力プラス端子)2Bに対しアノードの電位が高くなってから逆流を阻止する作動時間が非常に短く、更に、この現象がおさまった後、順方向に復帰する時間が非常に短い。また、逆電圧が高い(例えば逆方向耐圧800V)ので、高い雷電圧がアノードと外部電源装置2に印加された場合にも、このファーストリカバリーダイオードが雷電流の流入を防止する。
【0027】
ここで、アノードから出力される直流電流のリップル率を低下させるためには、スイッチング回路15のスイッチング周波数を高くする必要があるが、高すぎるとスイッチング損失を誘起する。また、アナログ出力する出力電圧V、出力電流I、制御管対地電位P/Sのデータサンプリング周波数が10kHzであるので、これらを考慮してスイッチング周波数は100kHzとしている。
【0028】
このような回路構成を有する外部電源装置2を備えた外部電源カソード防食装置1によると、商用交流電源ACの交流電圧をまず整流して極性反転の無い電圧を得て、これを平滑化した後、スイッチング回路15で高周波に変換するので、変圧回路16の小型軽量化が可能になる。また、スイッチング回路15のオン・オフによるチョッパ制御を採用することで、低消費電力・高効率の稼働が可能になる。
【0029】
出力電圧Vを検出して演算処理装置8に入力し、演算処理装置8から出力される帰還電圧Vfに応じて、スイッチング回路15のデューティ比を高速制御するので、高速且つ高精度の出力電圧制御を行うことができる。
【0030】
スイッチング回路15と変圧回路16からなるスイッチングレギュレータの前段に第1整流回路12と平滑回路14を設け、前述したスイッチングレギュレータの後段に第2整流回路17とLC回路18を設けているので、低リップル率の直流電圧出力を任意の高さに降圧又は昇圧することができる。これによって、極性反転が無く安定した防食電流をアノード3から出力することができる。
【0031】
第1整流回路12と平滑回路14との間に挿入した力率改善回路13は、第1整流回路12を通じた全波整流時に入力された交流電源の電流波形と電圧波形の位相差による位相損失が最小になるように力率が調整される。この力率改善回路13を設けることで、スイッチング回路15によって発生する高調波電流を制限値より低くすることができる。
【0032】
更には、LC回路18のアノード側出力に、シャント抵抗24、アノード流入電流防止手段(ダイオード)26、アノード3を直列接続しているので、アノード3の負荷をシャント抵抗24から得られる出力電流Iによって直接的に評価することができる。アノード3には許容電流密度があり、一般に外部電源カソード防食装置1のアノードとして用いられる複合酸化物被覆電極の許容電流密度は100A/m
2以下であるが、シャント抵抗24から得られる出力電流Iによって出力電圧Vを制御することで、正確にアノード3の負荷を許容範囲内に収めることができる。
【0033】
このような外部電源装置2を備える外部電源カソード防食装置1は、商用交流電源ACからリップル率の低い直流電圧を得て、微小化した防食電流を高速且つ高精度に制御することができる。また、接地抵抗の低いアノード3から流入する迷走電流や雷電流をアノード流入電流防止手段26によって防止することができる。また、アノード3に接続する出力端子2Bの直前で出力電流Iを検出するので、アノード3の負荷を精度良く許容範囲内に収めることができる。
【符号の説明】
【0034】
1:外部電源カソード防食装置,
2:外部電源装置,2A,2B:出力端子,2C,2D:入力端子,
3:アノード,4:照合電極,5:クーポン,6:電圧計,7:電流計,
8:演算処理装置,
10:ラインフィルタ,11:突入電流防止回路,12:第1整流回路,
13:力率改善回路,14:平滑回路,15:スイッチング回路,
16:変圧回路,17:第2整流回路,18:LC回路,19:誤差増幅回路,
20:位相補償回路,
21:PWM回路,21a:三角波,21C:PWMコンパレータ,
22:出力電圧検出手段,23:A−Dコンバータ,24:シャント抵抗,
25:出力電流検出手段,26:アノード流入電流防止手段,
AC:交流電源,
P:パイプライン,V:出力電圧,I:出力電流,R:総回路抵抗,
P/S:管対地電位(対電解質電位),Ic:クーポン電流密度,
Vf:帰還電圧,Vr:基準電圧,
L1,L2,L3,L4:電線,