(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サワー種が、ワイセラ属、ペディオコッカス属およびロイコノストック属からなる群より選択される1種以上の乳酸菌による乳酸発酵によって得られるサワー種である、請求項3に記載のパン生地の物性改良剤。
酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸をベーカーズパーセントで合計0.025〜0.5質量%、ならびにデキストランをベーカーズパーセントで0.025〜1.5質量%含んでなる、パン生地。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸と、デキストランとを、特定の濃度で組み合わせることにより、食品、特にパンなどの穀類含有食品の物性を好適に改良できることを予想外にも見出した。また、これらの組み合わせをパン生地に添加することで、添加しないものに比べて、やわらかさ、しっとりさ、および口内でのダマのできにくさや、くっつきにくさがより良好なパンを製造することに成功した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、食品の物性を改良することができる食品物性改良剤、具体的には、食品、特にパンなどの穀類含有食品のやわらかさ、しっとりさ、および口溶けの良さ(口内でのダマのできにくさや、くっつきにくさ)、歯切れの良さを改良できる食品物性改良剤を提供すること、および物性が改良された食品を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸を合計0.5〜5質量%、ならびにデキストランを0.5〜15質量%含んでなる、食品物性改良剤。
(2) デキストランの平均分子量が60,000〜4,000,000である、(1)の食品物性改良剤。
(3) サワー種を含んでなる、(1)または(2)の食品物性改良剤。
(4) サワー種が、ワイセラ属、ペディオコッカス属およびロイコノストック属からなる群より選択される1種以上の乳酸菌による乳酸発酵によって得られるサワー種である、(3)の食品物性改良剤。
(5) (1)〜(4)のいずれか一つの食品物性改良剤を添加してなる、食品用生地。
(6) 酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸をベーカーズパーセントで合計0.025〜0.5質量%、ならびにデキストランをベーカーズパーセントで0.025〜1.5質量%含んでなる、食品用生地。
(7) (5)または(6)に記載の生地を、加熱して得られる、食品。
(8) (1)〜(4)のいずれか一つの食品物性改良剤を、食品に添加する工程を含む、物性が改良さたれ食品の製造方法。
(9) (1)〜(4)のいずれか一つの食品物性改良剤を、食品に添加することを特徴とする、食品の物性改良方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品の物性を改良することができる食品物性改良剤、具体的には、食品、特にパンなどの穀類含有食品のやわらかさ、しっとりさ、および口溶けの良さ(口内でのダマのできにくさや、くっつきにくさ)、歯切れの良さを改良できる食品物性改良剤を提供すること、および物性が改良された食品を提供することができる。
【0013】
食品物性改良剤
本発明の食品物性改良剤は、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸を合計0.5〜5質量%、ならびにデキストランを0.5〜15質量%含んでなる。
【0014】
本発明で用いられる有機酸は、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機酸は、高い食感改良効果が得られる点から、好ましくは酢酸またはコハク酸であり、より好ましくは酢酸である。有機酸は、遊離酸であっても、ナトリウム塩やカリウム塩などの塩であってもよい。また、有機酸は、合成品であっても、後述する乳酸菌により生成されたものであってもよい。
【0015】
本発明で用いられるデキストランは、スクロースを含有した培地で乳酸菌を発酵させて得られたデキストランを分画または精製した粉末状のデキストランや、小麦粉基質内で乳酸菌を発酵させた液状のデキストランなどの市販品であっても、デキストラン産生乳酸菌を培養したものであってもよい。好ましくは、後述する乳酸菌により生成されたものである。
【0016】
本発明で用いられるデキストランは、質量平均分子量(Mw:平均分子量)が、好ましくは60,000〜4,000,000、より好ましくは60,000〜3,000,000、さらに好ましくは1,000,000〜3,000,000のものである。
【0017】
ここで、デキストランの平均分子量は、液体クロマトグラフィーを用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0018】
本発明の一つの態様によれば、本発明の食品物性改良剤は、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸と、デキストランとを、特定の濃度で、混合などすることにより得られる組み合わせ(混合物)として調製することができる。
【0019】
本発明の食品物性改良剤に含まれる、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸の合計濃度は、0.5〜5質量%が望ましく、好ましくは0.5〜4質量%、より好ましくは0.7〜4質量%、さらに好ましくは0.8〜3質量%である。
【0020】
ここで、本発明の食品物性改良剤中の酢酸、フマル酸およびコハク酸の濃度は、キャピラリー電気泳動法または高速液体クロマトグラフィー法により測定することができる。フマル酸およびコハク酸の濃度は、酢酸の濃度の測定方法に準じて測定することができる。
【0021】
酢酸濃度は、キャピラリー電気泳動法の場合は、例えば、イオン交換水にて5倍希釈したサンプル(食品物性改良剤)水溶液を、0.45μmメンブランフィルターを通した後、キャピラリー電気泳動装置(機種名:ヒューレットパッカード 3D CE(HEWLETT PACKARD 3D CE)、アジレントテクノロジー社製(Agilent Technologies Innovating the HP way))において、キャピラリーとして50μm×104cm、全長112.5cmのフューズドシリカ(Fused silica)、緩衝液としてアジレント・プレーティング・バス・バッファ(Agilent Plating Bath Buffer)を用いて、キャピラリー温度が15℃、電圧がネガティブ30kV、測定波長が350.20nm(対照230.10nm)の条件下で測定することにより求めることができる。
【0022】
酢酸濃度は、高速液体クロマトグラフィー法の場合は、例えば、イオン交換水にて5倍希釈したサンプル(食品物性改良剤)水溶液を、遠心分離(10000rpm、5分間)し、上清を1mL分取した後、20%スルホサリチル酸を20μL加えて攪拌し、0.45μmフィルターを通した後、分析用サンプルとして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、下記の条件で有機酸分析を行うことにより得ることができる。
【0023】
カラム:Organic Acid Column(7.8×300mm) Waters
カラム温度:40℃
溶媒:A緩衝相(p‐トルエンスルホン酸9.51gを蒸留水100mLにメスアップ)、B移動相 (p‐トルエンスルホン酸9.51g、Bis‐Tris 41.85g、EDTA‐2Na 0.29gを蒸留水100mLにメスアップ)
流速:A、Bともに0.8mL/分間
検出器:RI検出器
【0024】
本発明の食品物性改良剤に含まれるデキストラン濃度は、0.5〜15質量%が望ましく、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.6〜10質量%、さらに好ましくは0.6〜7質量%である。
【0025】
ここで、本発明の食品物性改良剤中のデキストラン濃度は、食品物性改良剤から澱粉やオリゴ糖などを遠心分離などの手段を用いて除き、デキストラナーゼで特異的に酵素分解・生成されたグルコース量を測定することにより求めることができる。
【0026】
具体的には、以下の方法で測定することができる。
凍結乾燥させた食品物性改良剤1gをサンプル(食品物性改良剤)として50mL容遠沈管に秤量し、50容量%エタノール10mLを遠沈管に注加し、撹拌した後、100℃、5分間煮沸し、氷冷水で冷却する操作を2回行い20〜28℃になるように調製する。得られた溶液を、遠心分離(3000rpm、10分間)し、沈殿物を回収する。50容量%エタノール20mLを注加し、撹拌した後、100℃、5分間煮沸し、遠心分離(3000rpm、10分間)し、沈殿物を回収する。沈殿物にクエン酸緩衝液20mLを注加し、100℃、5分間煮沸後、遠心分離(3000rpm、10分間)し、2本の試験管に上清を2等分して回収する。このようにして得られた精製サンプルに、グルコシダーゼ溶液2.5mLを加えたものをA液とし、デキストラナーゼとグルコシダーゼ混液2.5mLを加えたものをB液として、それぞれ30℃、48時間酵素反応する。反応が終了した後、サンプル中に含まれるグルコース量をグルコースキットCIIテストワコー(和光純薬工業株式会社製)で定量する。下記の式に当てはめ、デキストラン量(質量%)を換算する。
【0027】
食品物性改良剤中のデキストラン量(質量%)
={(B液のグルコース質量−A液のグルコース質量)×10×0.9×2/500}×100
【0028】
本発明の食品物性改良剤に含まれる、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸の合計濃度と、デキストランの濃度とは、有機酸が、0.5〜5質量%、好ましくは0.5〜4質量%、より好ましくは0.7〜4質量%、さらに好ましくは0.8〜3質量%であり、かつ、デキストランが、0.5〜15質量%、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.6〜10質量%、さらに好ましくは、0.6〜7質量%である。
【0029】
本発明の食品物性改良剤は、デキストラン100質量部に対して、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸を、該有機酸の合計量として、3〜1000質量部、好ましくは5〜800質量部、より好ましくは7〜240質量部、さらに好ましくは11〜180質量部、さらにより好ましくは20〜100質量部、特に好ましくは30〜100質量部、最も好ましくは50〜100質量部、含んでなる。
【0030】
本発明の一つの態様によれば、本発明の食品物性改良剤は、サワー種に、所望の濃度となるように、必要に応じて、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸および/またはデキストランを添加し、混合物として調製することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、本発明の食品物性改良剤は、サワー種を含んでなる。
【0031】
具体的には、本発明の食品物性改良剤は、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸を含むサワー種に、所望の濃度となるように、デキストランと、必要に応じてこれら1種以上の有機酸とを添加して調製してもよいし、あるいは、デキストランを含むサワー種に、所望の濃度となるように、これら1種以上の有機酸と、必要に応じてデキストランとを添加して調製してもよい。または、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸とデキストランとを両方含むサワー種を、そのまま本発明の食品物性改良剤として用いてもよいし、もしくは所望の濃度となるようにこれら1種以上の有機酸および/またはデキストランとをさらに添加して調製してもよい。
【0032】
ここで、サワー種とは、サワードウ(sourdough)とも呼ばれ、製パンや製菓において原料として好適に使用されている発酵物を意味する。伝統的なサワー種は、穀物や果実等に付着している酵母や複数の乳酸菌を利用して作られる植物原料由来の発酵物である。
【0033】
本発明で用いられるサワー種とは、穀粉または該穀粉の酵素処理物と、酵母または乳酸菌と、水との混合物を、発酵させて得られた培養物および発酵物を意味する。サワー種は液状であっても、ペースト状であっても、生地状であっても、あるいは固形状であってもよい。本発明で用いられるサワー種は、好ましくは、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸および/またはデキストランを生成することができる酵母または乳酸菌の培養液および発酵物、すなわち、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸および/またはデキストランを含んでなるサワー種である。
【0034】
具体的には、本発明で用いられるサワー種は、穀粉または該穀粉の酵素処理物を原料に、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸および/またはデキストラン生成能を有する乳酸菌を添加し、さらに必要に応じて水を加え、pH4.5以下、15〜40℃(好ましくは25〜35℃)で、3時間〜5日間(好ましくは12〜72時間)静置もしくは攪拌培養することにより得られる発酵物が挙げられる。ここで、乳酸菌は、1種を単独で培養してもよく、また2種以上を組み合わせて共培養してもよい。また、酵母などの微生物を適宜、共培養してもよい。
【0035】
ここで穀粉は、小麦、米、大麦、ライ麦などの穀類から得られる粉、またはこれらの組み合わせ(混合物)を意味する。好ましくは小麦粉であり、強力粉、準強力粉、中力粉および薄力粉が包含される。
【0036】
穀粉の酵素処理物は、例えば、穀粉を、アミラーゼやプロテアーゼで処理したものが挙げられる。
【0037】
酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸および/またはデキストラン生成能を有する乳酸菌は特に制限されないが、例えば、ワイセラ(Weicella)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、が挙げられる。ワイセラ属としては、例えば、
W. confusa、ペディオコッカス属としては、例えば、
Ped. pentosaceus、が挙げられる。これらの中でも、デキストラン生成能が高い点で、ワイセラ属が好ましく、
W. confusaがより好ましい。
【0038】
本発明で用いられるサワー種は、好ましくは乳酸菌による乳酸発酵により得られるサワー種であり、より好ましくはワイセラ属、ペディオコッカス属およびロイコノストック属からなる群より選択される1種以上の乳酸菌による乳酸発酵によって得られるサワー種である。すなわち、本発明の一つの態様によれば、本発明の食品物性改良剤は、乳酸菌発酵物を含んでなる。
【0039】
この乳酸菌発酵物を含有する食品物性改良剤は、本発明の食品物性改良剤の食感改良効果に加えて、より高い風味改良効果も得ることができる。
【0040】
本発明のサワー種は、原料としての穀粉またはその酵素処理物以外に、必要に応じて、スクロース、グルコースなどの炭素源;アンモニウム塩、硝酸塩、カゼイン分解物などの窒素源;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅などの無機物;パントテン酸、ビオチン、サイアミン、ニコチン酸などのビタミン類;アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸;クエン酸以外の有機酸などを添加し、乳酸菌による発酵に供してもよい。
【0041】
本発明で用いられるサワー種は、デキストラン以外の細胞外多糖をさらに含んでいてもよい。デキストラン以外の細胞外多糖とは、たとえば、乳酸菌などの微生物が細胞外に放出する、グルコースを主体にした高分子多糖類を意味し、高分子多糖類には、一部フルクトースが含まれた状態で、1,6結合、1,3結合、または1,4結合した高分子の多糖なども含まれる。例えば、フルクタン、ロイテラン、オルタルナンが挙げられる。
【0042】
本発明のサワー種中のデキストラン以外の細胞外多糖の濃度は、本発明の所望の食品物性改良効果を得られる限り、適宜調整することができる。
【0043】
ここで、サワー種中の細胞外多糖の濃度は、乳酸菌培養前サンプルと培養後サンプルから、澱粉やオリゴ糖などを除き、凍結乾燥した後、秤量し、培養後サンプルの質量と培養前サンプルの質量の差として検出し、算出することができる。
【0044】
具体的には、以下の方法で測定することができる。
食品物性改良剤の培養前後サンプル5gを50mL容遠沈管に秤量し、100容量%エタノール5mLを遠沈管に注加し、撹拌した後、100℃、5分間煮沸し、氷冷水で冷却する操作を2回行う。ついで遠心分離(3000rpm、10分)し、沈殿物を回収する。得られた沈殿物を再度凍結乾燥し、秤量した後、以下の式から食品物性改良剤中の細胞外多糖濃度を求める。
【0045】
食品物性改良剤中の細胞外多糖濃度(%)
={(培養後サンプルの質量−培養前サンプルの質量)/5}×100
【0046】
上記調製方法により得られる混合物は、そのまま食品物性改良剤として用いてもよいし、濃縮処理、熱風処理、熱風乾燥、蒸気乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の乾燥処理、分離精製処理、脱色処理などに供して、濃縮物や乾燥物などにしたものを食品物性改良剤として用いてもよい。
【0047】
サワー種を含んでなる混合物の場合には、加熱、食塩濃度の調整、pH調整、またはそれらの組み合わせにより、乳酸菌の活性を失活させたものを用いることが好ましい。乳酸菌を失活させる方法は、対象となるサワー種の量や乳酸菌の種類などにより適宜選択できるが、例えば、食塩濃度の調整とpH調整の組み合わせを用いる場合は、食塩濃度を5質量%、かつ、pHを4.1以下、好ましくはpHを3.7以下、より好ましくはpHを3.2以下にすることで行うことができる。
【0048】
本発明の食品物性改良剤は、液状であってもよいし、ペースト状であってもよいし、固形状であってもよい。固形状の場合は、粉体であってもよいし、粒状であってもよいし、カプセル状であってもよいし、ブロック状であってもよい。液状の場合は、溶媒は、水であってもよいし、アルコール(例えば、エチルアルコール)などの有機溶媒であってもよいし、液糖などの液状の物質を用いてもよい。
【0049】
本発明の食品物性改良剤は、必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどの無機塩類;イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどの核酸;乳酸、プロピオン酸などの有機酸;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類;エタノール、グリセロールなどのアルコール;ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖などの糖類;アラビアガム、アルギン酸、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、タマリンドガム、ペクチンなどの増粘多糖類;デキストリン、各種澱粉などの賦形剤、アミノ酸、乳化剤、香料、油脂類、酸化防止剤、保存料および機能性素材などの他の成分を、さらに含んでいてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
用途(食品物性改良効果)
本発明の食品物性改良剤は、食品に添加することにより、食品の物性を改良させることができる。また、本発明の食品物性改良剤は、風味改良剤としても用いることができる。さらに、本発明の食品物性改良剤は、好ましくは食品食感改良剤であり、より好ましくは穀類含有食品(好ましくは、パン)食感改良剤である。
【0051】
本明細書において「食感改良効果」とは、食品、例えば、パンなどの穀類含有食品の「やわらかさ」、「しっとりさ」、および「口溶けの良さ(口内でのダマのできにくさ、くっつきにくさ)」「歯切れの良さ」などパンにとって良好な食感を、所望の食感に改善、改質または向上したり、所望のレベルに増強したりすることを意味する。
【0052】
本明細書において「風味改良効果」とは、食品、例えば、パンなどの穀類含有食品の「甘い香り」、「酸臭」、「アルコール臭」、「呈味」などの風味を、所望の風味に改善、改質または向上したり、所望のレベルに増強したりすることを意味する。
【0053】
本発明の一つの態様によれば、食品物性改良剤を食品に添加することを含む、食品の物性改良方法が提供され、好ましくは食品食感改良剤を食品に添加することを含む、食品の食感改良方法が提供され、より好ましくは穀類含有食品(好ましくは、パン)食感改良剤を穀類含有食品(好ましくは、パン)に添加することを含む、穀類含有食品(好ましくは、パン)の食感改良方法が提供される。
また、本発明のもう一つの態様によれば、本発明の食品の物性改良方法により物性が改良された、食品が提供される。さらに、本発明の別の態様によれば、食品物性改良剤を食品に添加する工程を含む、物性の改良された食品の製造方法が提供され、好ましくは食品食感改良剤を食品に添加する工程を含む、食感が改良された食品の製造方法が提供され、より好ましくは穀類含有食品(好ましくは、パン)の食感改良剤を穀類含有食品(好ましくは、パン)に添加することを含む、食感が改良された穀類含有食品(好ましくは、パン)の製造方法が提供される。
【0054】
本発明の食品物性改良剤を、食品に添加する方法は、特に限定されない。例えば、食品を製造する際に原材料の一部として添加してもよいし、他の原材料と混合させてから添加してもよい。添加する時期は、特に限定されず、好ましくは、食品によく混合できる点で、原材料の混合前または混合中に添加することである。
【0055】
本発明の物性改良剤を食品に添加する量は、特に限定されず、食品の種類、性質に応じて当業者が適宜選択できる。添加量は、例えば、ベーカーズパーセントで、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは1〜7質量%である。ここで、ベーカーズパーセントとは、穀粉生地における配合量を示す方法として一般的に使用されているものであり、配合した穀粉の総質量を100%とした場合の、その他の各材料の質量比(%)を意味する。ベーカーズパーセントは対粉パーセントとも呼ばれる。
【0056】
本発明の食品物性改良剤の添加される食品としては、物性改良が望まれる食品であれば特に限定されず、好ましくは加熱して製造する食品であり、より好ましくは焼成、油調または蒸成などの加熱工程のある穀類含有食品が挙げられる。加熱工程のある穀類含有食品とは、例えば小麦粉などの穀類を主原料として含有し、その食品の製造方法において加熱工程が含まれる食品であり、例えば、パン(菓子パン含む)、菓子類および麺類が挙げられる。加熱工程のある穀類含有食品は、好ましくはパンおよび菓子類、より好ましくはパン、さらに好ましくは発酵パンである。
【0057】
食品が加熱して製造する食品である場合、本発明の食品物性改良剤は、加熱する前の生地に添加してもよい。すなわち、本発明の一つの態様によれば、本発明の食品用生地は、本発明の食品物性改良剤を添加してなる。生地に本発明の食品物性改良剤を添加することで、生地の物性を改良することができ、具体的には、生地の伸展性を良好にすることや、加熱後の食品、例えばパンのボリューム感を向上することができる。したがって、本発明の食品物性改良剤は、生地改良剤として用いることができる。ここで、生地の伸展性については、例えば、ベンチタイム後の食品用生地を、製パン用のモルダーに供しその際の生地の長さを測定し、評価することができ、他に、エクステンソグラフなどを用いて、測定することができる。
【0058】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の食品用生地は、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸をベーカーズパーセントで合計0.025〜0.5質量%、ならびにデキストランをベーカーズパーセントで0.025〜1.5質量%含んでなり、より好ましくは、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸をベーカーズパーセントで合計0.025〜0.35質量%、ならびにデキストランをベーカーズパーセントで0.025〜1質量%含んでなり、さらに好ましくは、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸をベーカーズパーセントで合計0.05〜0.35質量%、ならびにデキストランをベーカーズパーセントで0.05〜1質量%含んでなる。
【0059】
本発明の食品用生地は、好ましくは、生地を発酵処理に付すことにより得られるものである。発酵処理により、やわらかさ、しっとりさ、および口内でのダマのできにくさ、くっつきにくさがより改良された食品を調製することができる。
【0060】
本発明の一つの態様によれば、本発明の食品は、本発明の生地を焼成、油調または蒸成など加熱して得られる。このような食品としては、具体的には、焼成パン、ナン、パイ、ピザ、ケーキ、ホットケーキ、クッキー、クラッカーなどのベイクド製品(焼成製品)、揚げパン、揚げドーナッツなどの油調製品、蒸しパン、まんじゅうなどの蒸成製品が挙げられ、これら以外に、茹でパン(例えば、クネドリーキ)、麺類(例えば、パスタ)などの茹でた食品、電子レンジ等の電磁波を用いた加熱製品、およびこれらの方法に準ずる調理法を用いた製品、ならびにこれらの調理法の組み合わせを用いた製品(例えば、ベーグル)も包含される。
【0061】
以下、食品の例として発酵パンの一つである食パンを挙げ、その製造法を例示する。
【0062】
本発明の食パンの製造方法としては、パン生地に本発明の食品物性改良剤を添加する以外は、通常の発酵パンの製造方法が用いられる。
【0063】
発酵パンの製造方法は、特に限定されず、代表的な方法として、ストレート法と中種法とが挙げられる。
【0064】
ストレート法は、製パン用穀粉生地(以下、パン生地ともいう)の全ての原料を最初に一度に混ぜて生地を作り発酵させる方法である。具体的には、パン生地の全原料をミキシングした後、25〜30℃で発酵させ、分割、ベンチを行い、成型、型詰め、ホイロ(25〜42℃)を経た後、焼成(170〜240℃)する方法である。
【0065】
中種法は、2工程に分けて発酵させる方法であり、まず穀粉の一部に酵母および水を加えて中種を作って発酵させ、発酵させた中種に残りのパン生地の原料を合わせて発酵させる方法である。具体的には、使用する穀粉の全量の30〜100質量%の穀粉、酵母、イーストフード等に水を加えミキシングして中種を得て、該中種を25〜35℃で1〜5時間発酵させ、残りのパン生地の原料を追加し、ミキシング(本捏)、フロアータイム、分割、ベンチタイムを行い、成型、型詰めする。ホイロ(25〜42℃)を経た後、焼成(170〜240℃)する方法である。
【0066】
パン生地の原料としては、穀粉(通常、小麦粉)に、酵母、食塩、水、必要に応じて砂糖、脱脂粉乳、卵、イーストフード、ショートニング、バター等を用いる。
【0067】
本発明の食品物性改良剤の添加は、焼成、油調、蒸成などの加熱する前であれば、パン製造工程のいずれの時期であってもよい。例えば、ストレート法の場合は、食品物性改良剤を、パン生地の原料中に添加してパン生地を調製してもよいし、パン生地の原料を全て混合した後のミキシング時に添加してもよい。中種法の場合は、食品物性改良剤を、中種を作製する原料中に添加してもよいし、中種のミキシング時に添加してもよいし、あるいは中種作製後本捏時にパン生地に添加してもよい。
【0068】
また、本発明の別の態様によれば、本発明の食品の物性改良方法および食品の製造方法は、本発明の食品物性改良剤の含有物である、酢酸、フマル酸およびコハク酸からなる群から選択される1種以上の有機酸と、デキストランと、場合によりサワー種とを、事前に組み合わせずに(混合せずに)、食品に添加することを含んでなる方法であってもよい。
さらに、本発明の食品物性改良剤に含まれていてもよい他の成分を、さらに添加することを含んでなる方法であってもよい。
【0069】
これら含有物の食品への添加は、これらの含有物を、食品に、順序に関係なく随時添加してもよいし、同時に添加してもよい。例えば、食品が加熱工程のある穀類含有食品の場合は、所望のベーカーズパーセントで本発明に用いる有機酸とデキストランが含まれるように、生地原料に本発明の有機酸を添加しその後残りの含有物を添加する方法であってもよいし、これら含有物のそれぞれを添加した生地を混合する方法であってもよい。これら含有物の食品への添加時期は、上記食品物性改良剤を添加する場合と同様に、加熱する前であれば、いずれの時期であってもよい。
【0070】
これらの方法に用いる、本発明に用いられる有機酸、デキストラン、サワー種および他の成分の種類や条件、および食品への添加方法や添加量等は、本発明の食品物性改良剤を食品に添加する方法の記述に準じることができる。またこれらの方法による効果は、本発明の食品物性改良剤を添加した場合に生じる効果に準ずる。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
例1:中種法(1)
(1)食品物性改良剤の調製
薄力粉(商品名:エンゼル、東京製粉製)2000gに水2000gを加えて小麦粉液を得た。
【0073】
下記表1の配合量で、試験液1、試験液2および比較液1を調製した。具体的には、小麦粉液に、食塩、デキストラン、氷酢酸(キシダ化学株式会社製、以下同じ)を随時添加し、混合して調製した。デキストランは、平均分子量(Mw)が1,500,000〜2,800,000(シグマアルドリッチ製)のものを用いた。
【0074】
得られたサンプルは、pHを、ガラス電極法を用いて測定した。また、酢酸量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて有機酸分析を行うことにより測定した。具体的には、イオン交換水にて5倍希釈した試験液または比較液を、遠心分離(10000rpm、5分間)し、上清を1mL分取した後、20%スルホサリチル酸を20μL加えて攪拌し、0.45μmフィルターを通して、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0075】
カラム:Organic Acid Column(7.8×300mm) Waters
カラム温度:40℃
溶媒:A緩衝相(p‐トルエンスルホン酸9.51gを蒸留水100mLにメスアップ)、B移動相 (p‐トルエンスルホン酸9.51g、Bis‐Tris 41.85g、EDTA‐2Na 0.29gを蒸留水100mLにメスアップ)
流速:A、Bともに0.8mL/分間
検出器:RI検出器
【0076】
【表1】
【0077】
(2)生地および食パンの調製
下記表2に記載の配合量および表3の製造工程にしたがって、中種生地および本捏生地を調製後、食パンを調製した。
【0078】
具体的には、小麦粉(強力粉)、イースト(ダイヤイースト、キリン協和フーズ株式会社製、以下同じ)、イーストフード(パンダイヤC500、キリン協和フーズ株式会社製、以下同じ)および水を混捏(ミキシング)して、中種生地を得た。この中種生地に、小麦粉(強力粉)、食塩、グラニュー糖、脱脂粉乳、および試験液1、試験液2または比較液1を添加して7分間(低速3分間、中速3分間、高速1分間)、混捏した。さらに、ショートニングを添加し、捏上温度が27℃となるように混捏して、本捏生地を得た。
【0079】
得られた本捏生地は、28℃で20分間フロアータイムをとった後、220gずつ分割し、20分間ベンチタイムをとり、それぞれをプルマン型に入れて成型した。成型した生地は、38℃、湿度85%の条件下で、50分間、最終発酵を行った。その後、リールオーブンを用いて、220℃で30分間焼成し、食パンを調製した(試験区1、試験区2および比較区1)。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
得られた食パン(試験区1、試験区2および比較区1)について、官能評価を行った。また、それぞれ食パンをベンチタイム後に製パン用のモルダーに供した際の長さを測定、比較し、本捏生地について、生地伸展性の評価も行った。
【0083】
さらに、パン生地pHとして、焼成後のパン生地に、生地の5倍質量の水を加え、ホモジナイズして得た混濁液のpHを、ガラス電極法を用いて測定した。
【0084】
(3)官能評価
官能評価は訓練を受けた専門パネラー10人で行い、調製したパンの「甘い香り」、「アルコール臭」、「酸臭」、「呈味」、「やわらかさ」、「歯切れ」、「しっとりさ」、「口溶け」の項目について、下記のとおりに評価し、その平均値を示した。官能評価は焼成後24時間経過後に行った。
【0085】
(官能試験の評価基準)
「甘い香り」、「アルコール臭」、「酸臭」、「呈味」を強度として表現し、以下の判断基準で、7点評価法により評価した。
7:非常に強い
6:強い
5:やや強い
4:強くも弱くもない(中間)
3:やや弱い
2:弱い
1:非常に弱い
【0086】
「やわらかさ」、「歯切れ」、「しっとりさ」、「口溶け」を強度として表現し、以下の判断基準で、7点評価法により評価した。
7:非常に好ましい
6:好ましい
5:やや好ましい
4:好ましくも好ましくなくもない(中間)
3:やや好ましくない
2:好ましくない
1:非常に好ましくない
【0087】
官能評価の結果(平均値)を表4に示す。
【0088】
(4)生地伸展性の評価
生地伸展性に関しては、本捏生地の伸展性が非常に良いものを「++」、良いものを、「+」、悪いものを「−」、どちらともいえないものを「±」で示した。生地伸展性の評価の結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4に示すように、比較区1と比べて、試験区1および試験区2において、特に「やわらかさ」と「しっとりさ」において食感改良の効果が見られた。
【0091】
例2:中種法(2):有機酸の種類
(1)食品物性改良剤の調製
強力粉(商品名:カメリヤ、日清製粉株式会社より入手)1kgに水1kgを加え、さらに乳酸菌スターター(TKスターター、パシフィック洋行株式会社より入手)50gを添加した。混合物を28℃で、20時間発酵させたものを、サワー種とした。得られたサワー種のpHは3.85であり、乳酸量は8597ppmであり、酢酸量は1094ppmであった。
【0092】
乳酸量は高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0093】
得られたサワー種88gに、食塩5g、デキストラン(平均分子量2,000,000、シグマアルドリッチ製)5gを添加した後、有機酸として氷酢酸(酢酸)2gを添加して混合した。得られた混合物を、食品物性改良剤として得た(試験液3)。
【0094】
酢酸を、コハク酸およびフマル酸に置換する以外は試験液3と同様にして、試験液4および試験液5を得た。また、酢酸を乳酸およびクエン酸に置換する以外は試験例3と同様にして、比較液3および比較液4を得た。さらに、酢酸を水に置換する以外は試験液3と同様にして、比較液2を得た。
【0095】
得られた試験液および比較液の乳酸量、クエン酸量、酢酸量、フマル酸量およびコハク酸量を測定した。ここで、クエン酸量、フマル酸量およびコハク酸量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0096】
(2)生地および食パンの調製
下記表5に記載の配合量および上記表3の製造工程にしたがって、中種生地および本捏生地を調製して、食パンを調製した(試験区3〜5および比較区2〜4)。
【0097】
【表5】
【0098】
得られた食パン(試験区3〜5および比較区2〜4)について、生地pHの測定、ならびに上記例1(3)および(4)の方法にしたがって、官能評価および生地伸展性の評価を行った。結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示すように、官能評価において、「やわらかさ」や「しっとりさ」に関して、酢酸、フマル酸、コハク酸を含有した試験区3〜5に効果がみられ、特に酢酸、コハク酸を添加した試験区3および5において高い効果がみられた。
【0101】
例3:中種法(3):デキストラン単体と酢酸の併用
(1)食品物性改良剤の調製
強力粉(商品名:カメリヤ、日清製粉株式会社より入手)1kgに水1kgを加え、さらに乳酸菌スターター(TKスターター、パシフィック洋行株式会社より入手)50gを添加した。混合物を28℃で、20時間発酵させたものを、サワー種とした。得られたサワー種のpHは3.85であり、乳酸量は8597ppmであり、酢酸量は1094ppmであった。
【0102】
サワー種880gに、デキストラン(平均分子量1,500,000〜2,800,000、シグマアルドリッチ製)50gを添加した後、氷酢酸20g、食塩50gを加えて、混合した。得られた混合物を、サワー種を含有する食品物性改良剤(試験液6)として得た。
【0103】
また、比較液5として、水950gにデキストラン(平均分子量1,500,000〜2,800,000、シグマアルドリッチ製)50gを添加し、溶解したものを用いた。
【0104】
(2)生地および食パンの調製
下記表7に記載の配合量および例1の表3に記載の製造工程にしたがって、中種生地および本捏生地を調製後、食パンを調製した(比較区5および試験区6)。
【0105】
【表7】
【0106】
得られた食パン(比較区5および試験区6)について、生地pHの測定、ならびに上記例1の(3)および(4)の方法にしたがって、官能評価および生地伸展性の評価を行った。結果を表8に示す。
【0107】
【表8】
【0108】
表8に示すように、比較区5は生地の伸展性や食感などの評価が悪いのに対し、試験区6では生地の伸展性や調製されたパンの「やわらかさ」や「しっとりさ」などで良好な結果が得られた。
【0109】
例4:中種法(4):デキストランの分子量
(1)食品物性改良剤の調製
強力粉(商品名:カメリヤ、日清製粉株式会社より入手)1kgに水1kgを加え、さらに乳酸菌スターター(TKスターター、パシフィック洋行株式会社より入手)50gを添加した。混合物を28℃で、20時間発酵させたものを、サワー種とした。得られたサワー種のpHは3.85であり、乳酸量は8597ppmであり、酢酸量は1094ppmであった。
【0110】
サワー種890gに、氷酢酸10g、食塩50gを加えた後、平均分子量の異なる各種デキストラン50gを添加して混合した。得られた混合物を、食品物性改良剤として得た(試験液7〜9)。各種デキストランとしては、平均分子量60,000のデキストラン(和光純薬工業株式会社製)(試験液7)、平均分子量200,000〜300,000のデキストラン(和光純薬工業株式会社製)(試験液8)、および平均分子量1,500,000〜2,800,000のデキストラン(シグマアルドリッチ製)(試験液9)を用いた。
【0111】
また、比較液6として、サワー種940gに、氷酢酸10g、食塩50gを加えたものを用いた。
【0112】
(2)生地および食パンの調製
下記表9に記載の配合量および上記表3の製造工程にしたがって、中種生地および本捏生地を調製後、食パンを調製した(試験区7〜9、比較区6および無添加区1)。
【0113】
【表9】
【0114】
得られた食パン(試験区7〜9、比較区6および無添加区1)について、生地pHの測定、ならびに例1の(3)および(4)の方法にしたがって、官能評価および生地伸展性の評価を行った。結果を表10に示す。
【0115】
【表10】
【0116】
表10に示すように、無添加区1および比較区6と比べ、試験区7〜9のパンは、「やわらかさ」や「しっとりさ」などで高い効果がみられた。特に、試験区9において食感などが優れていた。
【0117】
例5:ストレート法
上記例4で調製した試験液7〜9および比較液6を用いて、下記表11に記載の配合量および表12の製造工程にしたがって、本捏生地を調製して、食パンを調製した。
【0118】
得られた本捏生地は、27℃で60分間フロアータイムをとった後、220gずつ分割し、20分間ベンチタイムをとり、それぞれをプルマン型に入れて成型した。成型した生地は、38℃、湿度85%の条件下で、60分間、最終発酵を行った。その後、リールオーブンを用いて、220℃で30分間焼成し、食パンを調製した(試験区10〜12および比較区7、および無添加区2)。
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
得られた食パン(試験区10〜12、比較区7および無添加区2)について、上記例1(3)および(4)の方法にしたがって、官能評価および生地伸展性試験を行った。結果を表13に示す。
【0122】
【表13】
【0123】
表13に示すように、ストレート法においても、無添加区2や比較区7に比べ、試験区10は「歯切れ」と「口どけ」において良好結果がみられ、試験区11および12では、パンの「やわらかさ」、「しっとりさ」、「歯切れ」、「口どけ」で良好な結果が得られた。特に、試験区12は食感などが優れていた。
【0124】
例6:中種法(5)
(1)サワー種のスクリーニング
サワー種を、下記の方法で細胞外多糖生成能の有無によってスクリーニングした。
【0125】
サワー種の調製
ライ麦粉(商品名:アーレファイン、日清製粉株式会社製)100gに、モルト(商品名:ユーロモルト、日仏商事株式会社より入手)4g、水120gを添加・混捏し、28℃で、24時間培養した。培養後の発酵生地(サワー種1日目とする)100gに、小麦粉(商品名:ラ・トラディション・フランセーズ、奥本製粉株式会社より入手)100g、水100gを添加・混捏し、28℃で、24時間培養した。得られた発酵生地に対して、同作業をサワー種6日目が得られるまで繰り返し、サワー種1日目から6日目までの各サワー種を、乳酸菌の各サンプルとして得た。
【0126】
細胞外多糖の生成能の有無によるスクリーニング
サワー種1日目から6日目までの各サンプルを、0.85%生理食塩水で段階希釈し、下記のk−MRS寒天培地とBCP寒天培地(商品名:BCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」、日水製薬株式会社製)とを用いて、28℃、48時間培養した。
【0127】
k−MRS寒天培地およびBCP寒天培地上に形成されたコロニーについて細胞外多糖の生成能を調べるため、下記の寒天培地Aに各菌を穿刺培養し、28℃、24時間培養した。培養後、目視により菌体外多糖の生成を確認して、細胞外多糖の生成能を有するサンプル(乳酸菌)をスクリーニングした。
【0128】
k−MRS寒天培地として、ペプトン(商品名:プロテオースペプトンNo.3、ベクトン・ディッキンソン製)10g、肉エキス(商品名:和光肉エキス,エールリッヒ、和光純薬工業株式会社製)2g、酵母エキス(商品名:バクトイーストエキストラクト、ベクトン・ディッキンソン製)7g、グルコース(キシダ化学株式会社製)7g、マルトース(キシダ化学株式会社製)7g、フルクトース(キシダ化学株式会社製)7g、グルコン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2g、Tween80(和光純薬工業株式会社製)1g、リン酸水素二カリウム(キシダ化学株式会社製)2.5g、酢酸ナトリウム無水(キシダ化学株式会社製)5g、クエン酸二アンモニウム(キシダ化学株式会社製)5g、硫酸マグネシウム7水和物(キシダ化学株式会社製)200mg、硫酸マンガン水和物(関東化学株式会社製)50mg、L−システイン(ナカライテスク株式会社製)0.5g、寒天(商品名:伊那寒天S−6、伊那食品工業株式会社製)20gをそれぞれ秤量し、水1000mLに溶解後、オートクレーブで121℃、15分滅菌したものを用いた。
【0129】
寒天培地Aとして、スクロース(キシダ化学株式会社製)20g、酵母エキス20g、ペプトン(商品名:バクトペプトン、ベクトン・ディッキンソン製)10g、酢酸ナトリウム三水和物(キシダ化学株式会社製)5g、硫酸マグネシウム200mg、硫酸マンガン10mg、硫酸鉄(関東化学株式会社製)10mg、塩化ナトリウム(キシダ化学株式会社製)10mg、Tween80 500mg、寒天12gをそれぞれ秤量し、水1000mLに溶解後、121℃・15分滅菌したものを用いた。
【0130】
(2)生地および食パンの調製
スクリーニングにより得られた、細胞外多糖生成能を有する
Weicella confusaの乳酸菌株を、下記のMRS培地に植菌し、28℃、24時間の前培養を行い、前培養液を得た。
【0131】
MRS液体培地として、ペプトン(商品名:プロテオースペプトンNo.3、ベクトン・ディッキンソン製)10g、肉エキス(商品名:和光肉エキス,エールリッヒ、和光純薬工業株式会社製)10g、酵母エキス(商品名:バクトイーストエキストラクト、ベクトン・ディッキンソン製)5g、グルコース(キシダ化学株式会社製)20g、Tween80(和光純薬工業株式会社製)1g、リン酸水素二カリウム(キシダ化学株式会社製)2g、酢酸ナトリウム無水(キシダ化学株式会社製)5g、クエン酸二アンモニウム(キシダ化学株式会社製)2g、硫酸マグネシウム7水和物(キシダ化学株式会社製)0.58g、硫酸マンガン水和物(関東化学株式会社製)0.28g、寒天(商品名:伊那寒天S−6、伊那食品工業株式会社製)15gをそれぞれ秤量し、水1000mLに溶解後、オートクレーブで121℃、15分滅菌したものを用いた。
【0132】
小麦粉(強力粉)(商品名:エンゼル、東京製粉株式会社製)680gに、水800g、スクロース220g、および前培養液100gを添加した。得られた混合液は、炭酸ナトリウムを用いてpH7.0に調整した。混合液を28℃で、24時間発酵させた。
【0133】
発酵させた混合液に、食塩100g、氷酢酸20gを添加し、食品用改良剤(試験液13)を得た。
【0134】
表14に記載の配合量および上記表3の製造工程にしたがって、中種生地および本捏生地を調製して、食パンを調製した(試験区13)。
【0135】
【表14】
【0136】
得られた食パン(試験区13)について、例1(3)の方法にしたがって、官能評価を行った。結果を表15に示す。
【0137】
【表15】
【0138】
表15に示すように、試験区13において、呈味、しっとりさ、口溶けの効果が非常に好ましくなっていた。