(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固定環は、前記第1環状部材と前記回転環との間で前記固定環を構成する複数の分割体同士が軸方向に位置決めされた状態で、これら複数の分割体が前記第1固定部材により固定されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
前記回転環は、前記固定環と前記第2環状部材との間で前記回転環を構成する複数の分割体同士が軸方向に位置決めされた状態で、これら複数の分割体が前記第2固定部材により固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のメカニカルシール。
前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材は、ハウジング及び回転軸に装着されていない状態において、連結部材により、互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材が連結部材により互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化された状態で、ハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、
前記固定環及び前記回転環は、前記第1環状部材及び前記第2環状部材がハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、連結部材が取り外された後に、前記第1固定部材及び前記第2固定部材によってそれぞれの複数の分割体が固定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
前記固定環を構成する複数の分割体が前記第1固定部材によって仮固定され、かつ前記回転環を構成する複数の分割体が前記第2固定部材によって仮固定された状態で、前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材が連結部材により互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化され、
該一体化された状態で、前記第1環状部材及び前記第2環状部材が、ハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、その後、前記固定環を構成する複数の分割体が前記第1固定部材によって改めて固定され、かつ、前記回転環を構成する複数の分割体が前記第2固定部材によって改めて固定されることを特徴とする請求項5に記載のメカニカルシール。
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、複数の前記ボルトで連結できるように、前記貫通孔または切欠き部と前記ボルト穴をそれぞれ複数有することを特徴とする請求項8に記載のメカニカルシール。
前記固定環及び前記回転環のそれぞれの分割面が軸方向に見たときに互いに重ならない位置において、前記固定環は前記第1環状部材に対する回転が規定され、前記回転環は前記第2環状部材に対する回転が規制されるように構成されており、
複数の前記貫通孔または切欠き部と複数の前記ボルト穴は、軸方向に見たときにそれぞれ非対称的に配置されていることを特徴とする請求項9に記載のメカニカルシール。
前記第1固定部材及び前記第2固定部材は、前記固定環及び前記回転環の外周面に周長を縮めて巻き付くことによって複数の分割体の外周面を締め付けることが可能なバンド部材であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、シールリング(固定環、回転環)を構成する複数の分割体の位置決め精度の向上を図ったメカニカルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、
ハウジングに対して回転可能に設けられた回転軸を囲むようにハウジングに取り付けられる第1環状部材と、
複数の分割体を組み合わせることで環状に構成されるとともに、回転軸を囲むように前記第1環状部材に取り付けられる固定環と、
前記固定環を構成する複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する第1固定部材と、
回転軸の外周に取り付けられる第2環状部材と、
複数の分割体を組み合わせることで環状に構成されるとともに、前記固定環に対して軸方向に密着して回転軸を囲む環状の摺動シール面を形成するように前記第2環状部材に取り付けられる回転環と、
前記回転環を構成する複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する第2固定部材と、
を備えるメカニカルシールにおいて、
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、前記固定環及び前記回転環を前記摺動シール面を形成した状態で軸方向に挟持するとともに、前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材の軸方向の位置決めと、前記第1環状部材及び前記第2環状部材の周方向の位置決めと、がなされた状態が保持されるように、連結部材によって互いに固定可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1環状部材及び第2環状部材を連結部材によって固定することで、第1環状部材、固定環、回転環、第2環状部材が軸方向に位置決めされた状態で保持され、固定環、回転環を構成する分割体も軸方向に位置決めされた状態で保持される。したがって、この状態で各構成のハウジングまたは回転軸への取り付けを行うことで、軸方向の位置ずれを抑制しながらメカニカルシールの各構成部材を容易に精度よく組み立てることが可能となる。
【0009】
前記固定環は、前記第1環状部材と前記回転環との間で前記固定環を構成する複数の分割体同士が軸方向に位置決めされた状態で、これら複数の分割体が前記第1固定部材により固定されるとよい。
同様に、前記回転環は、前記固定環と前記第2環状部材との間で前記回転環を構成する複数の分割体同士が軸方向に位置決めされた状態で、これら複数の分割体が前記第2固定部材により固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のメカニカルシール。
【0010】
これにより、固定環、回転環を構成する複数の分割体の固定部材による固定を、軸方向の位置ずれを抑制して、精度よく行うことができる。
【0011】
前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材は、ハウジング及び回転軸に装着されていない状態において、連結部材により、互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化可能に構成されているとよい。
【0012】
これにより、メカニカルシールをカートリッジ化することができる。したがって、メカニカルシールの装着作業における取り回し性の向上を図ることができる。
【0013】
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材が連結部材により互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化された状態で、ハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、
前記固定環及び前記回転環は、前記第1環状部材及び前記第2環状部材がハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、連結部材が取り外された後に、前記第1固定部材及び前記第2固定部材によってそれぞれの複数の分割体が固定されるとよい。
【0014】
連結部材により第1環状部材、固定環、回転環、第2環状部材を一体化した状態で、初めに第1環状部材と第2環状部材の固定を行うことで、連結部材を取り外しても、各構成部材の軸方向の位置決め状態が保持される。すなわち、固定環、回転環は、固定された第1環状部材と第2環状部材との間で、軸方向に位置決めされた状態が保持される。したがって、固定部材による固定環、回転環の固定を連結部材を取り外してから行うことが可能となり、作業性の向上を図ることができる。
【0015】
前記固定環を構成する複数の分割体が前記第1固定部材によって仮固定され、かつ前記回転環を構成する複数の分割体が前記第2固定部材によって仮固定された状態で、前記第1環状部材、前記固定環、前記回転環及び前記第2環状部材が連結部材により互いに軸方向に位置決めされた状態を保持して一体化され、
該一体化された状態で、前記第1環状部材及び前記第2環状部材が、ハウジング及び回転軸にそれぞれ固定され、その後、前記固定環を構成する複数の分割体が前記第1固定部材によって改めて固定され、かつ、前記回転環を構成する複数の分割体が前記第2固定部材によって改めて固定されるとよい。
【0016】
固定環、回転環を構成する複数の分割体をそれぞれの固定部材で予め仮固定しておくことで、連結部材による第1環状部材、固定環、回転環、第2環状部材の一体化作業がしやすくなる。
【0017】
前記固定環及び前記回転環は、軸方向に見たときに、それぞれの分割面が互いに重ならないとよい。
【0018】
軸方向に位置決めする際に、固定環と回転環とが互いに当接する摺動シール面において固定環と回転環の分割面同士が重なって軸方向に当接すると、複数の分割体の間に軸方向に位置ずれを生じるおそれがある。固定環と回転環のそれぞれの分割面が互いに重ならないように構成することで、そのような位置ずれを抑制することができる。
【0019】
前記連結部材は、ボルトであり、
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、いずれか一方が、前記ボルトを挿通可能な貫通孔または切欠き部を有し、他方が、前記ボルトが螺合可能なボルト穴を有するとよい。
【0020】
かかる構成によれば、各構成部材の互いの位置決め、一体化を、ボルトの締め付け、すなわち、ボルトを貫通孔または切り欠き部に挿通するとともにボルト穴に螺合させることにより、容易に行うことができる。
【0021】
前記第1環状部材及び前記第2環状部材は、複数の前記ボルトで連結できるように、前記貫通孔または切欠き部と前記ボルト穴をそれぞれ複数有するとよい。
【0022】
複数のボルトで第1環状部材、固定環、回転環、第2環状部材を一体化できるように構成することで、第1環状部材、固定環、回転環、第2環状部材の一体性を高めることができる。
【0023】
前記固定環及び前記回転環のそれぞれの分割面が軸方向に見たときに互いに重ならない位置において、前記固定環は前記第1環状部材に対する回転が規定され、前記回転環は前記第2環状部材に対する回転が規制されるように構成されており、
複数の前記貫通孔または切欠き部と複数の前記ボルト穴は、軸方向に見たときにそれぞれ非対称的に配置されているとよい。
【0024】
例えば、複数のボルト穴が対称的に配置されている場合、その配置の仕方によっては、固定環及び回転環のそれぞれの分割面が重なる場合のボルト穴の配置と、重ならない場合のボルト穴の配置とが同じ配置になることが考えられる。その場合、第1環状部材、第2環状部材を周方向の相対位置(相対位相)を誤って装着して分割面が互いに重なった状態で組み付けてしまう可能性がある。そこで、複数のボルト穴を非対称的に配置することで、正しい相対位置でないと組み付けられないようにし、第1環状部材、第2環状部材の誤装着を抑制することができる。
【0025】
前記第1固定部材及び前記第2固定部材は、前記固定環及び前記回転環の外周面に周長を縮めて巻き付くことによって複数の分割体の外周面を締め付けることが可能なバンド部材であるとよい。
【0026】
かかるバンド部材によれば、複数の分割体の外周面を全周に渡って略均一な力で締め付けることができる。したがって、複数の分割体の間に段差が生じるのを抑制しつつ複数の分割体を固定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、シールリング(固定環、回転環)を構成する複数の分割体の位置決め精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0030】
(実施例)
図1〜
図6を参照して、本発明の実施例に係るメカニカルシールについて説明する。
【0031】
<メカニカルシール>
図1を参照して、本発明の実施例に係るメカニカルシールの全体構成等について説明する。
図1は、本発明の実施例に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。なお、
図1中のメカニカルシールは、回転軸の中心軸線を含む面で切断した断面を示している。
【0032】
本実施例に係るメカニカルシール100は、固定環ユニット200と回転環ユニット300を備えたアウトサイドシールである。すなわち、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間に封止されている密封対象流体側(A)の密封対象流体が、内周側から外周側(B)に漏れるのをメカニカルシール100によって防ぐものである。また、本実施例に係るメカニカルシール100は静止形のシールであり、固定環ユニット200側にスプリングなどの作動部が備えられている。
【0033】
固定環ユニット200は、ハウジング600に取り付けられる第1環状部材としてのスタッフィングボックス210と、環状のシールリングとしての固定環220と、第1固定部材としてのホースバンド230とを備えている。固定環220は、複数の分割体(以下、適宜、分割体220A、220Bと称する)に分割された構成となっている。これら複数の分割体220A、220Bの外周面をホースバンド230によって締め付けることで、これら複数の分割体220A、220Bが固定される。なお、「軸線方向(軸方向)」とは、回転軸500の軸線方向を意味する。以下、同様である。
【0034】
このように構成される固定環ユニット200は、ハウジング600に取り付けられる。すなわち、スタッフィングボックス210が、ボルト610によりハウジング600の軸孔開口部回りの端面に、回転軸500を囲むように固定されるとともに、固定環220が、回転軸500を囲むようにスタッフィングボックス210に取り付けられる。
【0035】
スタッフィングボックス210と固定環220は、スタッフィングボックス210の端面に設けられたピン211が、固定環220に設けられた凹部221に挿入されており、ピン211と凹部221の係合によって互いに回転方向(周方向)の相対移動を規制する構成となっている。また、固定環220には、付勢部材としてのスプリング240が装着されるスプリング穴222が設けられている。スプリング穴222に装着されたスプリング240は、スプリング穴222の底部とスタッフィングボックス210の端面との間で軸方向に圧縮されることで、スタッフィングボックス210と固定環220との間に軸方向の付勢力を発生させる。すなわち、固定環220は、スタッフィングボックス210に対して、回転方向については、ピン211によって移動しないように規制されるが、軸方向については移動可能に構成されている。さらに、固定環220は、スプリング240により、スタッフィングボックス210から離れる方向(回転環320に向かう方向)に弾性力を受ける構成となっている。なお、ピン211と凹部221による回り止め部、スプリング穴222とスプリング240による付勢部は、それぞれ設ける数は1つに限られるものではなく複数設けてよい。その場合の配置は、周方向に等間隔とするのが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0036】
また、固定環220は、回転軸500の外周面と、これに対向するスタッフィングボックス210の内周面との間に延びる円筒状の延出部を有しており、その延出部の外周に環状溝223が形成されている。この環状溝223に装着されるOリングO1により、スタッフィングボックス210の内周面と固定環220の延出部の外周面との間の環状隙間が封止される。
【0037】
回転環ユニット300は、回転軸500の外周に固定される第2環状部材としてのカラー310と、環状のシールリングとしての回転環320と、第2固定部材としてのホースバンド330とを備えている。回転環320も、固定環220と同様、複数の分割体(以下、適宜、分割体320A、320Bと称する)に分割された構成となっている。これら複数の分割体320A、320Bの外周面をホースバンド330によって締め付けることで、これら複数の分割体320A、320Bが固定される。
【0038】
このように構成される回転環ユニット300は、回転軸500に取り付けられる。すなわち、カラー310が、回転軸500の外周に固定されるとともに、回転環320が、カラー310と固定環ユニット200の固定環220との間で回転軸500の外周を囲むように取り付けられる。
【0039】
カラー310と回転環320は、カラー310の端面に設けられたピン311が、回転環320に設けられた凹部321に挿入されており、ピン311と凹部321の係合によって互いに回転方向の相対移動を規制する構成となっている。なお、ピン311と凹部321による回り止め部の設ける数は1つに限られるものではなく複数設けてよい。その場合の配置は、周方向に等間隔とするのが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0040】
また、カラー310も2つに分割された分割体により構成されており、これら2つの分割体はボルト312によって固定される。これにより、分割体同士が固定されることで環状のカラー310が構成される。また、カラー310は、セットスクリュ313によって回転軸500に固定される。また、回転環320の内周側には段差部322が形成されており、この段差部322にOリングO2が装着されることで、回転軸500の外周面と回転環320の内周面との間の環状隙間が封止される。
【0041】
固定環ユニット200の固定環220と回転環ユニット300の回転環320は、互いに対向する環状の端面をそれぞれ有しており(シール端面224、シール端面324)、これら端面が軸方向に当接することにより、環状の摺動シール面を形成する。上記の通り、スプリング240によって、固定環220は回転環320に向かって付勢されるので、固定環220のシール端面224と、回転環320のシール端面324とが離れてしまうことはない。なお、固定環220のシール端面224と回転環320のシール端面324とはいずれも先端に向かうにつれて先細りする構成となっている。
【0042】
以上のように構成されるメカニカルシール100によれば、回転軸500の回転に伴って回転環ユニット300も回転し、回転環320のシール端面324と固定環220のシール端面224とが密着した状態を保ちながら摺動する。従って、密封対象流体の外周側(B)への漏れを抑制することができる。
【0043】
<シールリング(固定環及び回転環)>
図2及び
図3を参照して、本実施例に係るメカニカルシール100を構成するシールリング(固定環220及び回転環320)について説明する。
図2は、固定環220を軸方向に見た模式的平面図であり、
図1において矢印A方向に固定環220を見た図に相当する。
図3は、回転環320を軸方向に見た模式的平面図であり、
図1において矢印B方向に回転環320を見た図に相当する。
【0044】
固定環220及び回転環320は、装着性の観点(必要性)から、いずれも2つの分割体を組み合わせることによって環状の部材となる二つ割構造である。つまり、本実施例に係るメカニカルシール100においては、分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを採用している。
【0045】
固定環220及び回転環320は、SiCやアルミナなどのセラミックス(塑性材料)によって構成される。そして、この固定環220及び回転環320は、それぞれ、例えば、環状の部材を引っ張ることによって2つに分割した2つの分割体から構成される(分割体220A、220B及び分割体320A、320B)。本実施例においては、環状の部材を2つに分割し易くするために、それぞれ内周側に2つの切欠きが設けられている(切欠き225及び切欠き325)。従って、
図2及び
図3において、2つの切欠きの対向方向と直交する方向で左右に環状の部材を引っ張ることで、それぞれ、切欠きが設けられた部分が割れて、2つの分割体が得られる。
【0046】
<ホースバンド>
図4を参照して、本実施例における固定部材としてのホースバンド230、330について説明する。
図4は、ホースバンドの構成を説明する模式図であり、(a)は、ホースバンドの模式的側面図であり、(b)において矢印D方向に見た図に相当し、(b)は、ホースバンドの模式的平面図であり、(a)において矢印E方向に見た図に相当する。なお、第1固定部材としてのホースバンド230と、第2固定部材としてのホールバンド330は、互いに同一の構成であり、ここでは、主にホースバンド230について説明する。
【0047】
ホースバンド230(330)は、金属又は樹脂製のバンド部材であり、固定環220(回転環320)の外周面に巻き付けられる帯状のバンド231(331)と、バンド231の周長を調整するための締め付けボルト232(332)と、を有する。環状に巻かれたバンド231の外周面には、締め付けボルト232に設けられた不図示のねじ部(雄ねじ部)と噛み合うねじ部(平面上に形成されたねじ山状の凸部または凹部)233(333)が形成されている。ホースバンド230は、締め付けボルト232を回転させる(締め付ける)と、締め付けボルト232のねじ部とバンド231のねじ部233との噛み合いにより、バンド231の周長が変化する(周長を縮める)ように構成されている。
【0048】
固定環220(回転環320)は、分割体220A(320A)と分割体220B(320B)の軸線方向の位置決めがなされた状態で、これら分割体220Aと分割体220Bの外周面が、上述のように構成されたホースバンド230(330)によって締め付けられる。ホースバンド230は、分割体220Aと分割体220Bの外周面に対してバンド231の周長を縮めて(縮径して)巻き付くことにより、分割体220Aと分割体220Bから構成される固定環220の外周面を、全周に渡ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができる。
【0049】
<連結部材>
図1及び
図5を参照して、本実施例における連結部材としてのセット用ボルト400について説明する。
図5は、カラー310を軸方向に見た模式的平面図であり、
図1において矢印C方向にカラー310を見た図に相当する。
【0050】
セット用ボルト400は、メカニカルシールの組み立てに際して、スタッフィングボックス210、固定環220、回転環320、カラー310を軸方向に位置決めし、その状態を保持するために用いられる。セット用ボルト400は、メカニカルシールの組み立て時のみ使用され、メカニカルシールの使用時には取り外されるものである。
【0051】
カラー310には、セット用ボルト400が挿通される貫通孔314が設けられており、スタッフィングボックス210には、セット用ボルト400の先端側がねじ込まれるボルト穴212が設けられている。スプリング240やOリングO1、O2が所定の取り付け位置に取り付けられ、ホースバンド230、330でそれぞれ仮止めされた固定環220、回転環320と、スタッフィングボックス210、カラー310が上述した所定の配置で軸方向に配置された状態で、セット用ボルト400は、貫通孔314に挿通されるとともに、先端側がボルト穴212にねじ込まれる。
【0052】
スタッフィングボックス210とカラー310は、セット用ボルト400を介して連結されることにより、互いに固定された状態となり、回転方向(周方向)の互いの相対移動が規制される。さらに、ピン211、311によってスタッフィングボックス210とカラー310にそれぞれ回り止めされた固定環220、回転環320も、回転方向の互いの相対移動が規制され、互いに固定された状態となる。すなわち、セット用ボルト400を取り付けることにより、スタッフィングボックス210とカラー310、さらに、固定環220と回転環320の回転方向の相対位置が決められることになる。
【0053】
また、スタッフィングボックス210とカラー310との間で挟持されるように配置される固定環220、スプリング240、回転環320、OリングO1、O2は、セット用ボルト400によってスタッフィングボックス210とカラー310が固定されることにより、軸方向の位置決め状態が維持される。また、セット用ボルト400は、ねじ込み量をスプリング240の付勢力に抗して調整することで、スタッフィングボックス210、固定環220、回転環320、カラー310の軸方向の相対位置を調整することができる。すなわち、セット用ボルト400を取り付けることにより、スタッフィングボックス210、固定環220、回転環320、カラー310の軸方向の相対位置が決められることになる。
【0054】
すなわち、メカニカルシール100を構成する各部材は、セット用ボルト400が締め付けられることによって、互いの軸方向の位置決めと回転方向の位置決めが同時になされ、一体化される。
【0055】
図5に示すように、カラー310には貫通孔314が複数設けられており、これに対応して、スタッフィングボックス210に設けられるボルト穴212も複数設けられている。すなわち、本実施例に係るメカニカルシール100は、各構成部材が複数本のセット用ボルト400によって互いに位置決め、一体化される。なお、複数の貫通孔314、ボルト穴212の配置は、
図5に示すように、周方向に等間隔、あるいは、回転軸中心に関して対称的な配置とするのが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、貫通孔314、ボルト穴212の組数も、
図5に示すように、4組である必要はない。すなわち、セット用ボルト400の本数も、本実施例のように4本に限られるものではない。
【0056】
<メカニカルシールの組み立て>
本実施例に係るメカニカルシール100の組み立ては、あらかじめ各構成部材をセット用ボルト400によって一体化、すなわちカートリッジ化しておき、そのカートリッジを回転軸500及びハウジング600へ組み付けることにより行う。
【0057】
具体的には、まず、固定環220、回転環320の各分割体をホースバンド230、330で仮止め(仮固定)して、固定環220、回転環320を形成する。このときのそれぞれの分割体同士の軸方向、径方向の位置決めは、この後のカートリッジ化において他の構成部材との組み付けに支障がなければ、精度は高くなくてもよい。
【0058】
そして、ホースバンド230、330によって仮止めされた固定環220、回転環320を含めたメカニカルシール100の各構成部材を、上述の所定の配置で配置した状態で、セット用ボルト400を取り付けてカートリッジ化する。このとき、
図2、
図3に示すように、固定環220と回転環320は、それぞれの分割体同士の当接面(割面)が、軸方向に見たときに、互いに重ならない周方向の相対位置(相対位相)で位置決めされる。本実施例では、固定環220の分割面と回転環320の分割面を軸方向に見て互いに90°ずらした配置としているが、ずらす量は特に限定されるものではない。
【0059】
そして、カートリッジ化した各構成部材を、回転軸500及びハウジング600における所定の装着位置に一体的に仮組みする。そして、セット用ボルト400を取り付けたまま(カートリッジの状態のまま)、各構成部材の回転軸500及びハウジング600に対する回転方向(周方向)の所望の位置を合わせ、ボルト610を締めてスタッフィングボックス210をハウジング600に固定する。これにより、各構成部材の回転軸500及びハウジング600に対する回転方向(周方向)の位置決めが完了する。
【0060】
そして、セット用ボルト400のねじ込み量を調整して、スタッフィングボックス210を除く各構成部材の回転軸500及びハウジング600に対する軸方向の位置決めを行う。なお、軸方向の位置決めは、カートリッジを回転軸500及びハウジング600に組み付ける前にあらかじめ行って、カートリッジを回転軸500及びハウジング600へ組み付けた後は、回転方向の位置決めのみを行うようにしてもよい。
【0061】
そして、セット用ボルト400を取り付けたまま、セットスクリュ313を締めてカラー310を回転軸500に固定する。これにより、スタッフィングボックス210とカラー310の組み付けが完了するとともに、スタッフィングボックス210とカラー310に挟まれ、ピン211、311によって回り止めされた固定環220、回転環320の軸方向及び回転方向の位置決めが完了する。
【0062】
そして、セット用ボルト400をスタッフィングボックス210とカラー310から取り外す。固定環220、回転環320の各分割体は、位置決め固定されたスタッフィングボックス210とカラー310によって挟持された状態となっていることから、セット用ボルト400が取り外されても軸方向及び回転方向に位置ずれを生じることが抑制される。
【0063】
そして、最後に、ホースバンド230、330を締め直して、固定環220、回転環320の各分割体を完全に固定する。環状に組み合わされた各分割体は、軸方向及び回転方向に位置決めされた状態で、ホースバンド230、330により、全周に渡ってほぼ均一な締め付け力で締め付けられる。したがって、各分割体は、軸方向、回転方向、径方向のいずれの方向に対しても位置ずれを生じることなくホースバンド230、330によって固定することができる。
【0064】
以上でメカニカルシール100の組み立てが完了する。
【0065】
<本実施例に係るメカニカルシールの優れた点>
本発明によれば、スタッフィングボックス210とカラー310をセット用ボルト400で固定することにより、スタッフィングボックス210、固定環220、回転環320、カラー310を、組み付け時における所定の配置で軸方向及び回転方向に位置決めした状態で保持することができる。したがって、この状態で各構成部材のハウジング600または回転軸500への取り付けを行うことで、メカニカルシール100を容易に精度よく組み立てることが可能となる。
【0066】
また、セット用ボルト400による固定により、固定環220、回転環320を構成する各分割体も軸方向及び回転方向に位置決めされた状態で保持される。したがって、この状態でホースバンド230、330により固定環220、回転環320を固定することで、固定環220、回転環320を構成する複数の各分割体を、軸方向及び回転方向の位置ずれを抑制して、精度よく固定することができる。
【0067】
また、本実施例によれば、スタッフィングボックス210とカラー310をセット用ボルト400で固定することにより、回転軸500またはハウジング600に取り付けられていない状態において、メカニカルシール100の各構成部材を一体化(カートリッジ化)することができる。したがって、メカニカルシール100の装着作業における取り回し性が向上される。
【0068】
また、メカニカルシール100の組み立てに際しては、セット用ボルト400により各構成部材を一体化した状態で、まず初めにスタッフィングボックス210とカラー310のハウジング600または回転軸500への固定を行うことで、セット用ボルト400を取り外しても、各構成部材の軸方向及び回転方向の位置決め状態が保持される。すなわち、固定環220、回転環320は、ハウジング600または回転軸500に固定されたスタッフィングボックス210とカラー310との間で、軸方向及び回転方向に位置決めされた状態が保持される。したがって、セット用ボルト400による固定環220、回転環320の固定をセット用ボルト400を取り外してから行うことが可能となり、セット用ボルト400が組み立て作業の邪魔になることがなくなり、作業性を向上させることができる。
【0069】
また、本実施例によれば、各構成部材の位置決め固定、一体化を、セット用ボルト400を貫通孔314に挿通させボルト穴212に螺合させるだけの作業により容易に行うことができる。したがって、メカニカルシール100の組立作業の作業性を向上させることができる。
【0070】
また、本実施例によれば、固定環220と回転環320は、セット用ボルト400の取付によって、それぞれの分割面の周方向の位置(位相)が軸方向に見たときに互いに重ならない状態で互いに位置決めされるように構成されている。すなわち、各構成部材を軸方向に位置決めする際に、摺動シール面において固定環220と回転環320の分割面同士が重なって軸方向に当接すると、複数の分割体の間に軸方向に位置ずれを生じるおそれがある。本実施例のように固定環220と回転環320のそれぞれの分割面が互いに重ならないように構成することで、そのような位置ずれを抑制することができる。
【0071】
また、本実施例においては、複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する固定部材として、ホースバンドを採用した。このように、固定部材としてホースバンドを採用することにより、複数の分割体から構成されるシールリングの外周面を、全周に渡ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができる。また、ホースバンドの場合には、クランプリング等に比べて径方向に対する寸法を小さく設定できる。ただし、本発明においては、上記の固定部材としては、ホースバンドに限らずクランプリングなどの公知の固定部材を採用してもよい。
【0072】
以上により、本実施例によれば、複数の分割体の軸線方向の位置決めと、径方向の位置決めの両方を精度よく行うことが可能となる。
【0073】
なお、本実施例においては、シールリングを自然二つ割としているため、割面同士がかみ合って、ずれ難いという利点もある。また、本実施例においては、アウトサイドシールであることから、メカニカルシール100を構成する各種部材は大気側に露出している。従って、メカニカルシール100の設置(組立)が容易である。
【0074】
(その他)
本実施例においては、シールリング(固定環220,回転環320)が2つの分割体から構成される場合を示した。しかしながら、本発明は、シールリングが3つ以上の分割体から構成される場合にも適用可能である。
【0075】
また、カラー310におけるセット用ボルト400の被取付部として、貫通孔314に変えて、
図6に示すような切り欠き315を採用してもよい。
図6は、本実施例におけるカラー310の変形例を軸方向に見た模式的平面図であり、
図1において矢印C方向にカラー310を見た図に相当する。
【0076】
さらに、
図6に示すように、切り欠き315の周方向の配置を、軸方向に見たときに回転軸中心に関して非対称に配置し、ボルト穴212についても同様に非対称に配置すると好適である。貫通孔314を採用する場合も同様である。例えば、複数のボルト穴212及び貫通孔314(切り欠き315)のセットが対称的に配置されている場合、その配置の仕方によっては、固定環220及び回転環320のそれぞれの分割面が重なる場合のボルト穴212及び貫通孔314の配置と、重ならない場合のボルト穴212及び貫通孔314の配置とが同じになる場合が考えられる。その場合、スタッフィングボックス210とカラー310の周方向の相対位置(位相)を誤って装着してしまい、分割面が重なった状態で組み付けてしまうことが考えられる。そこで、複数のボルト穴212及び貫通孔314のセットを非対称的に配置することで、正しい相対位置でないと組み付けられないように構成し、スタッフィングボックス210とカラー310の誤装着を抑制することができる。なお、
図6に示した切り欠き315の配置はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。