【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るピストンリング表面用ダイヤモンドライクカーボンコーティング層は、下から上への順に下地層、勾配層、及びCr、Si、Tiのいずれか1種又は2種以上であるドープ元素をドープしたダイヤモンドライクカーボンコーティング層である振幅調整層であり、振幅調整層において、前記ドープ元素の含有量が振幅調整層の厚みに伴って正弦波で周期的に変化するものである。
【0011】
振幅調整層において、前記正弦波のバレーに対応するドープ元素の含有量は3〜5at%であり、前記正弦波のピークに対応するドープ元素の含有量は9〜11at%であり、
振幅調整層において、前記正弦波のバレーに対応するドープ元素の含有量は4.0at%(原子数百分率含有量)であり、前記正弦波のピークに対応するドープ元素の含有量は10.0at%であり、
好ましくは、前記正弦波の変動周期は20〜50であり、例えば、25〜45、30〜40又は35であり、
好ましくは、前記正弦波の各変動周期に対応する振幅調整層の厚みは0.5〜0.8μmであり、
好ましくは、前記振幅調整層にはサブマイクロメートルレベルの微結晶の結晶性分布を有し、
好ましくは、前記サブ微結晶の粒径は0.2〜0.5μmであり、
好ましくは、前記下地層はCr層、Si層、Ti層のいずれか1種又は2種以上であり、すなわち、下地層は単一層であっても、複合層であってもよく、
好ましくは、前記勾配層はCr
xC層、Si
xC層、Ti
xC層のいずれか1種又は2種以上であり、x=0.5〜1.5を満たし、
好ましくは、前記ダイヤモンドライクカーボンコーティング層の厚みは10〜30μmであり、例えば、13〜26μm、15〜25μm又は20μmであり、
好ましくは、前記下地層の厚みは0.2〜1μmであり、例えば、具体的には、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm又は0.9μmであってもよく、
好ましくは、前記勾配層の厚みは0.5〜2μmであり、例えば、具体的には、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm又は1.9μmであってもよく、
好ましくは、前記振幅調整層の厚みは9.3〜27μmであり、例えば、10〜25μm、15〜20μmである。
【0012】
本発明に係るピストンリングは、表面に上記のダイヤモンドライクカーボンコーティング層を有するピストンリングである。
【0013】
本発明に係るピストンリング表面用ダイヤモンドライクカーボンコーティング層の製造プロセスは、PECVD装置で行われ、コーティング対象となるピストンリングを半密閉装置内に置き、前記半密閉装置をPECVD装置の真空室内に置き、
(1)前記コーティング対象となるピストンリング表面に下地層を形成する工程と、
(2)前記下地層に勾配層を形成する工程と、
(3)直流パルス電源を入れ、半密閉装置及びコーティング対象となるピストンリングにそれぞれ負のバイアス電圧を印加し、Ar、ケイ素源、必要に応じてC
2H
2を導入し、前記ケイ素源の流量を正弦波で周期的に変化させるように、最終的に勾配層に振幅調整層を形成する工程と、を含む製造プロセスである。
【0014】
工程(3)において、前記ケイ素源の流量の正弦波のバレーに対応するケイ素源の流量は20〜50sccm(標準ml/分)、前記ケイ素源の流量の正弦波のピークに対応するケイ素源の流量は90〜160sccmであり、具体的には、前記ケイ素源の流量の正弦波のバレーに対応するケイ素源の流量は、21sccm、25sccm、30sccm、34sccm、35sccm、40sccm、42sccm、45sccm又は48sccmであってもよく、前記ケイ素源の流量の正弦波のピークに対応するケイ素源の流量は、具体的には、95sccm、100sccm、105sccm、110sccm、115sccm、120sccm、125sccm、130sccm、135sccm、140sccm、145sccm、150sccm又は155sccmであってもよく、
好ましくは、前記ケイ素源の流量の正弦波の変動周期は20〜50であり、例えば、25〜45、30〜40又は35であり、
好ましくは、前記ケイ素源の流量の正弦波の各変動周期は5〜30minであり、例えば、8〜26min、10〜25min、13〜22min、15〜20min又は18minであり、
好ましくは、前記ケイ素源はSiH
4及び/又はTMS(テトラメチルシラン)である。
【0015】
本発明に係るピストンリング表面用ダイヤモンドライクカーボンコーティング層の製造プロセスは、PECVD装置で行われ、コーティング対象となるピストンリングが半密閉装置内に置かれ、前記半密閉装置がPECVD装置の真空室内に置かれ、
(1)前記コーティング対象となるピストンリング表面に下地層を形成する工程と、
(2)前記下地層に勾配層を形成する工程と、
(3)直流パルス電源を入れ、半密閉装置とコーティング対象となるピストンリングにそれぞれ負のバイアス電圧を印加し、ArとC
2H
2を導入し、Crターゲット又はTiターゲットを起動させ、Crターゲット又はTiターゲットの陰極電流を正弦波で周期的に変化させるように制御し、最終的に勾配層に振幅調整層を形成する工程と、を含む製造プロセスである。
【0016】
工程(3)において、前記陰極電流の正弦波のバレーに対応する陰極電流は50〜60Aであり、前記陰極電流の正弦波のピークに対応する陰極電流は100〜125Aであり、前記陰極電流の正弦波のバレーに対応する陰極電流は、具体的には、51A、52A、53A、54A、55A、56A、57A、58A又は59Aであってもよく、前記陰極電流の正弦波のピークに対応する陰極電流は、具体的には、101A、102A、103A、104A、105A、106A、107A、108A、109A、110A、111A、112A、113A、114A、115A、116A、117A、118A、119A、120A、121A、122A、123A又は124Aであってもよく、
好ましくは、前記陰極電流の正弦波の変動周期は20〜50であり、例えば、25〜45、30〜40又は35であり、
好ましくは、前記陰極電流の正弦波の各変動周期は5〜30minであり、例えば、8〜26min、10〜25min、13〜22min、15〜20min又は18minである。
【0017】
工程(1)において、前記下地層はCr層、Ti層、Si層のいずれか1種又は2種以上であり、
好ましくは、前記Cr層又はTi層はそれぞれ補助陰極によってCr又はTiをスパッタリングして得られたものであり、
好ましくは、前記Cr層又はTi層の製造過程は、流量が350〜650sccmであるArを導入し、Crターゲット又はTiターゲットを起動させ、Crターゲット又はTiターゲットの陰極電流が110〜135Aとなるように制御し、補助陰極によるスパッタリングを利用してコーティング対象となるピストンリング表面にCr層又はTi層を堆積することであり、
Arの流量は、具体的には、380sccm、400sccm、420sccm、450sccm、460sccm、500sccm、420sccm、550sccm、570sccm、600sccm、620sccm又は630sccmであってもよく、陰極電流は、具体的には、115A、120A、122A、125A、128A、130A又は132Aであってもよく、
好ましくは、前記Si層はSiH
4を分解させてなるイオン状態によって得られたものであり、
好ましくは、前記Si層の製造過程は、流量が150〜200sccmであるArと流量が50〜70sccmであるSiH
4を導入し、高エネルギープラズマ放電によってコーティング対象となるピストンリング表面にSi層を反応時間25〜75min間かけて形成することである。
【0018】
Arの流量は、具体的には、152sccm、155sccm、160sccm、163sccm、165sccm、170sccm、175sccm、183sccm、185sccm、190sccm、195sccm又は198sccmであってもよく、SiH
4の流量は、具体的には、51sccm、52sccm、53sccm、54sccm、55sccm、56sccm、57sccm、58sccm、59sccm、60sccm、61sccm、62sccm、63sccm、64sccm、65sccm、66sccm、67sccm、68sccm又は69sccmであってもよく、
工程(2)において、前記勾配層はCr
xC層、Ti
xC層、Si
xC層のいずれか1種又は2種以上であり、x=0.5〜1.5を満たし、
好ましくは、前記Cr
xC層又はTi
xC層は、補助陰極によってCrターゲット又はTiターゲットとプロセス反応ガスであるC
2H
2、Arとをスパッタリングして得られたものであり、
好ましくは、前記Crターゲット又はTiターゲットの陰極電流は100〜125Aであり、陰極電流は、具体的には、105A、106A、110A、112A、115A、120A又は123Aであってもよく、
好ましくは、Cr
xC層又はTi
xC層を製造する時、C
2H
2の流量は70〜100sccmであり、具体的には、73sccm、75sccm、78sccm、80sccm、82sccm、85sccm、87sccm、90sccm、93sccm、95sccm又は97sccmであってもよい。
【0019】
好ましくは、Cr
xC層又はTi
xC層を製造する時、Arの流量は、150〜200sccmであり、具体的には、152sccm、155sccm、160sccm、163sccm、165sccm、170sccm、175sccm、183sccm、185sccm、190sccm、195sccm又は198sccmであってもよく、
好ましくは、前記Si
xC層は、SiH
4とC
2H
2、Arの混合プラズマ放電によって得られたものであり、
好ましくは、SiH
4の流量を0から60sccmまで徐々に増大させるように制御し、
好ましくは、Si
xC層を製造する時、C
2H
2の流量は、80〜120sccmであり、具体的には、83sccm、85sccm、88sccm、90sccm、92sccm、95sccm、97sccm、100sccm、103sccm、105sccm、108sccm、110sccm、112sccm、115sccm又は117sccmであってもよい。
【0020】
好ましくは、Si
xC層を製造する時、Arの流量は、150〜200sccmであり、具体的には、152sccm、155sccm、160sccm、163sccm、165sccm、170sccm、175sccm、183sccm、185sccm、190sccm、195sccm又は198sccmであってもよい。
【0021】
工程(3)において、半密閉装置に印加される負のバイアス電圧は−1200〜−1800Vであり、前記コーティング対象となるピストンリングに印加される負のバイアス電圧と半密閉装置に印加される負のバイアス電圧との差は−200〜500Vであり、すなわち、コーティング対象となるピストンリングに印加される負のバイアス電圧を第2の負のバイアス電圧、半密閉装置に印加される負のバイアス電圧を第1の負のバイアス電圧とすると、第2の負のバイアス電圧−第1の負のバイアス電圧=−200〜500Vを満たし、
好ましくは、工程(3)において、Arの流量は150〜200sccm、C
2H
2の流量は80〜120sccmであり、Arの流量は、具体的には、152sccm、155sccm、160sccm、163sccm、165sccm、170sccm、175sccm、183sccm、185sccm、190sccm、195sccm又は198sccmであってもよく、C
2H
2の流量は、具体的には、83sccm、85sccm、88sccm、90sccm、92sccm、95sccm、97sccm、100sccm、103sccm、105sccm、108sccm、110sccm、112sccm、115sccm又は117sccmであってもよい。
【0022】
好ましくは、工程(1)の前に、さらに、コーティング対象となるピストンリング表面をクリーン処理する工程(1a)を含み、
好ましくは、コーティング対象となるピストンリング表面をクリーン処理する操作は、純度が99.99%であるArを流量50〜100sccmで導入し、前記半密閉装置に負のバイアス電圧を−800〜−2000V印加し、コーティング対象となるピストンリングに印加される負のバイアス電圧と半密閉装置に印加される負のバイアス電圧との差を−100〜−200Vにして、すなわち、コーティング対象となるピストンリングに印加される負のバイアス電圧を第2の負のバイアス電圧、半密閉装置に印加される負のバイアス電圧を第1の負のバイアス電圧とすると、第2の負のバイアス電圧−第1の負のバイアス電圧=−100〜−200Vを満たし、Arイオン衝撃によってコーティング対象となるピストンリング表面を15〜40min洗浄し、きれいに洗浄したコーティング対象となるピストンリングを得ることである。
【0023】
本発明に係る半密閉装置は、簡単に言えば不完全密閉型の反応装置であり、反応時、具体的には、真空室内に置き、反応性気体を半密閉装置にある欠けから充填することで、半密閉装置内に置かれるピストンリングを反応性気体の環境内に置く。半密閉装置は、筒状であっても、フレーム式であってもよく、半密閉を満たすものであればよい。