(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333904
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】噛み合い試験用マスタギヤ
(51)【国際特許分類】
G01M 13/02 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
G01M13/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-172867(P2016-172867)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-40581(P2018-40581A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中上 浩一
【審査官】
伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭41−18870(JP,B1)
【文献】
米国特許第4704799(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象のギヤと噛み合わせることで検査対象ギヤの加工精度を検査する噛み合い試験に用いられる噛み合い試験用マスタギヤにおいて、
上記検査対象ギヤの歯面形状における評価開始径であるインボリュート開始径に当接する歯先部分よりもさらに先端側に該検査対象ギヤの歯元に接触しない範囲で面取りされた形状の膨出部が形成されている
ことを特徴とする噛み合い試験用マスタギヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の噛み合い試験用マスタギヤにおいて、
上記膨出部の面取りは、丸面取りであり、
上記丸面取りの半径は、上記検査対象ギヤにおける上記インボリュート開始径と歯底との距離から、該歯底から最大検査可能位置までの距離を引いた大きさを基準とする
ことを特徴とする噛み合い試験用マスタギヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はすば歯車、平歯車、かさ歯車などの大量生産ラインの最終検査工程で行われる噛み合い試験で用いられる、噛み合い試験用マスタギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、噛み合い試験用マスタギヤに被検査対象の歯車を噛み合わせ、その面圧や変位の異常を検知することで、打痕の盛り上がり、歯振れ精度測定、OBD(オーバーボール径)等を検査することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−341927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、
図4に例示するように従来の噛み合い試験用マスタギヤ102を用いて噛み合い試験を行うと、検査対象ギヤ104のインボリュート開始端S1にマスタギヤ外径が接触する。通常、噛み合い試験用マスタギヤ102の歯先の先端面102cは、検査対象ギヤ104との干渉を避けるために、その一対のインボリュート開始端S1を直線状に結び平坦に成形されている。そして、マスタギヤ102の先端面102cと検査対象ギヤ104の歯底104aとの隙間H1が約1mm程度あるので、
図4でハッチングで示す非検知領域Aにおいては、前工程で歯元に残ったショットブラスト用のショット玉、切りくず等の異物や、前工程の加工工具破損による削り残りなどの歯元形状不良があっても、それを検知することができない、という問題がある。
【0005】
そして、検査対象ギヤ104の異常が検知されないまま実際に製品に組み込んで試運転したときに、噛み合い異常が発生することがある。そうすると、再び分解して異物等の特定をしなければならないという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で検査対象ギヤの歯元の奥の残留異物や歯元形状不良を確実に検知して品質の良い歯車を製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、噛み合い試験用マスタギヤの歯先先端に面取りが施された膨出部を設けた。
【0008】
具体的には、第1の発明では、
検査対象のギヤと噛み合わせることで検査対象ギヤの加工精度を検査する噛み合い試験に用いられる噛み合い試験用マスタギヤを前提とする。
【0009】
そして、上記噛み合い試験用マスタギヤにおいて、上記検査対象ギヤの歯面形状における評価開始径であるインボリュート開始径に当接する歯先部分よりもさらに先端側に該検査対象ギヤの歯元に接触しない範囲で面取りされた形状の膨出部が形成されている。
【0010】
上記の構成によると、噛み合い試験用マスタギヤの歯先を従来のものよりも検査対象ギヤの歯元に接触しないように面取りして膨出させているので、従来は検知できなかったさらに歯元の奥まで検知することができる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記膨出部の面取りは、丸面取りであり、
上記丸面取りの半径は、上記検査対象ギヤにおける上記インボリュート開始径と歯底との距離から、該歯底から最大検査可能位置までの距離を引いた大きさを基準とする。
【0012】
上記の構成によると、丸面取りの半径は、検査対象ギヤにおけるインボリュート開始径と歯底との距離から、歯底から最大検査可能位置までの距離を引いた大きさを基準として決定される。このため、検査対象ギヤに接触しないようにしながら、所望の範囲まで検知できる歯先の最適形状の噛み合い試験用マスタギヤが得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、検査対象ギヤの歯面形状における評価開始径であるインボリュート開始径に当接する歯先部分よりもさらに先端側に検査対象ギヤの歯元に接触しない範囲で面取りされた形状の膨出部を形成したことにより、簡単な構成で検査対象ギヤの歯元の奥の残留異物や歯元形状不良を検知して品質の良い歯車を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る噛み合い試験用マスタギヤが検査対象ギヤに噛み合う様子を示す拡大断面図である。
【
図2】噛み合い試験機の主要部を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る噛み合い試験用マスタギヤの歯部を拡大して示す断面図である。
【
図4】従来技術に係る噛み合い試験用マスタギヤが検査対象ギヤに噛み合う様子を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図2は本発明の実施形態の噛み合い試験用マスタギヤ2が設けられた噛み合い試験機1の要部を示す。噛み合い試験用マスタギヤ2(以下、マスタギヤ2という)は、噛み合い試験機1のマスタ側回転軸3に回転可能に設けられている。このマスタギヤ2は、検査対象のギヤ(以下、検査対象ギヤ4という)と噛み合わせることで検査対象ギヤ4の加工精度を検査する噛み合い試験に用いられる。
図2の例では、マスタギヤ2及び検査対象ギヤ4は、いずれも平歯車よりなる。
【0017】
検査対象ギヤ4は、検査側回転軸5に軸受6を介して回転可能に支持されている。検査側回転軸5は、マスタギヤ2から力を受けると、スライド移動可能となっている。このような力を受けたときに、ペンレコーダ7に設けた圧力センサ8で加わった圧力を計測したり、ペンレコーダ7の変位を計測したりして検査対象ギヤ4の加工精度を検知可能となっている。また、マスタギヤ2及び検査対象ギヤ4は、いずれの方向にも回転可能となっている。
【0018】
図1に示すように、検査対象ギヤ4の歯面形状は、歯底4aから円弧状に立ち上がる歯元に連なるように、インボリュート歯面4bが始まっている。そして、マスタギヤ2は、歯底2aと、この歯底2aに連なる円弧状歯元と、検査対象ギヤ4における評価開始径であるインボリュート開始径S1に当接するインボリュート歯面2bを有する。このインボリュート歯面2bよりもさらに先端側に該検査対象ギヤ4の歯元に接触しない範囲で面取りされた形状の膨出部2cが形成されている。すなわち、
図3に示すように、従来のマスタギヤの平坦な先端面102cよりも先端側のハッチング領域が膨出部2cとなる。
【0019】
膨出部2cの面取り2dは、丸面取りであり、丸面取り2dの半径Rは、検査対象ギヤのインボリュート開始径S1と歯底4aとの距離H1から、歯底4aから最大検査可能位置までの距離H2を引いた大きさを基準としている(R=H1−H2)。Rの大きさは、検知したい鋼球の大きさ、削りくずの大きさなどを考慮して決めると良い。例えば、H2を0.2〜0.4mmに設定すると良い。また、Rの大きさは、H1−H2の値よりも若干小さくしたり、大きくしたりしても良い。Rの値を小さくすると、インボリュート曲線が長くなり、大きくすると、インボリュート曲線の長さが短くなるので、仕様に合わせて調整が可能となっている。
【0020】
このようにすれば、マスタギヤ2の歯先のインボリュート歯面2bが歯面形状の検知が必要な検査対象ギヤ4におけるインボリュート開始径S1よりも歯元側の歯面に接触しないようにしながら、できるだけ広い範囲まで検知できる歯先の最適形状が得られる。
【0021】
このように構成したマスタギヤ2を用いて製品としての検査対象ギヤ4と噛み合わせると、歯面形状の検知が必要なインボリュート歯面4bでは、マスタギヤ2のインボリュート歯面2bが当接したときに、正規形状の場合に生じる面圧や変位の通りとなることを確認し、もし異常があれば、面圧や変位の変動から異常の検知が可能である。
【0022】
しかも、検査対象ギヤ4の歯元側で面圧や変位に異常があれば、マスタギヤ2の歯先に形成した膨出部2cが歯元に残留した異物や、削り残しに接触した可能性が判明する。
【0023】
そのような場合、検知データから異常が発生した位置を容易に特定でき、異物を取り除いたり、再研削することで、極めて品質の良いギヤを製造できる。
【0024】
このように、本実施形態では、従来よりも噛み合い試験用マスタギヤ2の歯先を検査対象ギヤ4の歯元に接触しないように丸面取りして膨出させているので、従来は検知できなかったさらに歯元の奥まで検知することができる。すなわち、
図1でハッチングで示す非検知領域Bは、
図4に示す従来の非検知領域Aに比べて狭くなっている。
【0025】
したがって、本実施形態に係る噛み合い試験用マスタギヤ2によると、検査対象ギヤ4の歯面形状における評価開始径であるインボリュート開始径S1に当接する歯先部分よりもさらに先端側に検査対象ギヤ4の歯元に接触しない範囲で面取り2dされた形状の膨出部2cを形成したことにより、簡単な構成で検査対象ギヤ4の歯元の奥の残留異物や歯元形状不良を検知して品質の良い歯車を製造できる。
【0026】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としても良い。
【0027】
すなわち、上記実施形態では、膨出部2cに丸面取り2dを設けて検査対象ギヤ4の歯元に接触しないようにしているが、C面取りを設けても良い。その場合は、丸面取り2dよりも若干膨出部2cの肉が減る。
【0028】
上記実施形態では、検査対象ギヤ4は、平歯車、はすば歯車、かさ歯車などインボリュート歯面を有するギヤであれば、特に限定されない。それに合わせた形状の噛み合い試験用マスタギヤ2を形成すれば良い。
【0029】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0030】
1 試験機
2 試験用マスタギヤ
2a 歯底
2b インボリュート歯面
2c 膨出部
3 マスタ側回転軸
4 検査対象ギヤ
4a 歯底
4b インボリュート歯面
5 検査側回転軸
6 軸受
7 ペンレコーダ
8 圧力センサ