(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333939
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ハロアルカン化合物の製造中における副生成物の形成を減少させる方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/278 20060101AFI20180521BHJP
C07C 19/01 20060101ALI20180521BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
C07C17/278
C07C19/01
!C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-247518(P2016-247518)
(22)【出願日】2016年12月21日
(62)【分割の表示】特願2014-513651(P2014-513651)の分割
【原出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-95470(P2017-95470A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】61/492,931
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/492,898
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/481,121
(32)【優先日】2012年5月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】クローズ,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ハイユー
(72)【発明者】
【氏名】トゥン,シュー・スン
【審査官】
鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−523321(JP,A)
【文献】
特表2004−524272(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0225166(US,A1)
【文献】
特表2010−506848(JP,A)
【文献】
特開昭60−036428(JP,A)
【文献】
特開昭60−036429(JP,A)
【文献】
特開2001−213820(JP,A)
【文献】
特表2002−544181(JP,A)
【文献】
特開2000−086545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/278
C07C 19/01
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄金属触媒及び共触媒として1種類以上の有機ホスフェート化合物を用いて反応を行う工程を含む、反応の始動段階中におけるCCl4由来の副生成物を最小にする、四塩化炭素及びアルケンからハロアルカン化合物を製造する方法であって、
FeCl3の使用を排除して始動段階の反応を開始することによって、反応の始動段階中におけるCCl4由来の副生成物を最小にし、生成物のハロアルカン化合物が反応器内の有機物内容物の少なくとも35%となったらFeCl3を反応器に導入する工程を更に含み、
40℃〜180℃の温度に加熱された反応器において行われる、前記方法。
【請求項2】
アルケンが、塩化ビニル、エチレン、及び2−クロロプロペンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロアルカン化合物が、HCC−240fa、HCC−250、及びHCC−360からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
鉄金属触媒が、鉄粉、鉄球、鉄線、鉄屑、及びこれらの混合物からなる群から選択される形態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有機ホスフェート共触媒が、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリフェニルホスフェート、及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ハロアルカン化合物がHCC−240faを含み、アルケン化合物が塩化ビニルを含み、共触媒がトリブチルホスフェートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
触媒混合物から鉄金属を除去し、次にHCC−240fa生成物流をフラッシュ蒸留して、HCC−240fa、未反応のCCl4、及び未反応の塩化ビニルを触媒混合物から分離し、残留する触媒成分をFeCl3を反応器に導入する前記工程に再循環する工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
鉄金属触媒が純粋な金属鉄の微細粉末を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
鉄粉を、四塩化炭素中の粉末スラリーによるか、又はトリブチルホスフェート中の粉末スラリーによるか、又はCCl4とトリブチルホスフェートの混合物中の粉末スラリーによって反応器に加える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
トリブチルホスフェートと塩化ビニルが0.001:1〜0.1:1のモル比で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
CCl4と塩化ビニルが0.02:1〜50:1のモル比で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
反応器圧力が14psia〜200psiaである、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、同じ出願人に所有され、共に係属している2011年6月3日出願の米国仮特許出願61/492,931(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)に対する国内優先権を主張する。
【0002】
本出願はまた、同じ出願人に所有され、共に係属している2011年6月3日出願の米国仮特許出願61/492,898(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)に対する国内優先権も主張する。
【0003】
本発明は、ハロアルカン化合物の製造方法、より詳しくは、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)を製造するための改良された方法に関する。本発明はまた、HCC−250及びHCC−360のような他のハロアルカン化合物の製造においても有用である。
【背景技術】
【0004】
化合物1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)は、非オゾン層破壊化学物質であり、発泡剤、エネルギー伝達媒体などとして用いることができる1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を製造するための原材料である。HCC−240faのような有用なハロアルカンを製造するための付加反応は当該技術において公知である。例えば、米国特許6,313,360においては、四塩化炭素(CCl
4)と塩化ビニル(VCM)を、有機ホスフェート、例えばトリブチルホスフェート(TBP)、金属鉄、及び塩化第二鉄を含む触媒混合物の存在下、HCC−240faを含む生成物混合物を生成させるのに十分な条件下において反応させることによってHCC−240faを製造する方法が教示されている。次に、240fa生成物を、反応物質、触媒、及び副生成物から分離することによって回収する。また、米国特許5,902,914、6,187,978、6,500,995、6,552,238、6,720,466、7,112,709、及び米国特許公開2008/0091053も参照。これらの参照文献の全ての開示事項を参照として本明細書中に包含する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許6,313,360
【特許文献2】米国特許5,902,914
【特許文献3】米国特許6,187,978
【特許文献4】米国特許6,500,995
【特許文献5】米国特許6,552,238
【特許文献6】米国特許6,720,466
【特許文献7】米国特許7,112,709
【特許文献8】米国特許公開2008/0091053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人らは、予期しなかったことに、米国特許6,313,360において開示されている触媒混合物、即ちTBP、金属鉄、及び塩化第二鉄を用いると、CCl
4とVCMの反応中、特に反応の始動中に、ヘキサクロロエタン、テトラクロロエテン、クロロホルム、及びヘキサクロロブタジエンのような相当量のCCl
4由来の副生成物が生成することを発見した。これらの副生成物の形成は、HCC−240faの選択率の大きな低下を
もたらす。
【0007】
したがって、本発明者らはHCC−240faを製造するための改良された始動プロセスに対する必要性を認識するに至った。本発明の幾つかの態様はこの問題を解決する。
本出願人らはまた、上記に記載の初めの始動の後、例えばこの反応をバッチとして、又は好ましくは連続運転として行う際には、反応器は実際には例えば反応器有機物含量の60重量%より多い可能性がある組成を有する高濃度量のHCC−240faを含むことも発見した。これらの状況下において鉄粉(Fe
0)及びトリブチルホスフェート(TBP)から構成される新しい触媒を反応器中に導入すると、VCMはCCl
4ではなくHCC−240faと優先的に反応して、1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタン(主)及び1,1,1,3,5,5−ヘキサクロロペンタン(従)のような望ましくない副生成物を形成する。便宜上の目的のために、これらのヘキサクロロペンタンは塩化ビニル由来の副生成物と呼ぶ。TBPの濃度によって、1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンへの選択率は65%に達する可能性があり、これによって所望のHCC−240fa生成物の相当な収率損失がもたらされる。
【0008】
したがって、本発者らは、このプロセス中においてこれらの塩化ビニル由来の副生成物の形成を回避することができる手段に対する必要性を認識するに至った。本発明の幾つかの態様はまた、この問題に対する解決策も与える。
【課題を解決するための手段】
【0009】
而して、本発明は、ハロアルカン化合物を製造するための改良された方法、より詳しくは化合物1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)を製造するための改良された方法に関する。本発明はまた、HCC−250及びHCC−360のような他のハロアルカン化合物に関する製造方法においても有用である。
【0010】
幾つかの態様においては、HCC−240faを製造するための方法に対する改良点は、通常はバッチ反応である始動反応に対して修正を加えて、触媒を適当に選択することによってCCl
4からの副生成物を減少させることを含む。具体的には、反応の始動段階中にFeCl
3を最小にするか又は完全に排除しなければならないことを見出した。
【0011】
幾つかの態様においては、HCC−240faを製造するための方法に対する改良点は、始動後の反応、即ちHCC−240faの形成が開始され、反応器内において反応性レベル又は高いレベルに達した後に修正を加えることを含む。反応器有機物内容物中のHCC−240faの高いレベルは変化する可能性があるが、通常は少なくとも35%、又は45%、又は55%、又は65%、又はそれ以上である。これらの高いレベルにおいては、HCC−240faはCCl
4ではなくVCMと反応して、それによって望ましくない副生成物及び所望の生成物の損失をもたらす可能性がある。反応のこの段階(バッチ式又は連続的に行うことができる)には、触媒の他の適当な選択によって副生成物の形成を減少させることが含まれる。具体的には、反応のこの部分においては、触媒としてFeCl
3を用いると、望ましくない塩化ビニル由来の副生成物の形成が抑制されるので非常に望ましい。
【0012】
一態様においては、本発明はHCC−240faを製造するための改良された方法に関する。本発明のこの形態は、一般に、始動バッチ段階を行った後のみで、好ましくは連続運転を開始した時点でFeCl
3を反応器に導入する、HCC−240fa製造プロセスにおける塩化ビニル由来の副生成物、特に1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンの形成を減少させる方法として示すことができる。
【0013】
FeCl
3は、反応器に加えると、反応器内に存在するトリブチルホスフェート(又は
他の有機ホスフェート)とその場でキレート化し始める。ニート又は未処理のFeCl
3が反応器内でキレート化する場合には、FeCl
3は本発明においてはキレート化FeCl
3と呼ぶ。FeCl
3を反応器に加えることができる他の方法は、反応器流出流中に含まれる予めキレート化しているFeCl
3を濃縮し、それを反応器に再循環して戻すことである。予めキレート化しているFeCl
3は、本発明において好ましい触媒である。
【0014】
本出願人らは、予期しなかったことに、塩化第二鉄(キレート化又は予めキレート化)の存在下においては、望ましくない副生成物の1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンの形成が約5%以下に大きく抑制されることを見出した。したがって、本発明においては、FeCl
3、又はより好ましくは先の反応において生成した「予めキレート化している」FeCl
3を処理反応器に導入して、望ましくない塩化ビニル由来の副生成物の1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタン及び1,1,1,3,5,5−ヘキサクロロペンタンの形成を抑止又は減少させる。
【0015】
本発明はまた、HCC−250及びHCC−360のような他のハロアルカン化合物の製造方法においても有用である。
(1)HCC−250は、CCl
4及びエチレンから次の反応:
【0016】
【化1】
【0017】
にしたがって製造することができる。
この場合においては、本明細書において教示する処理条件によって減少又は排除される望ましくない副生成物は、CCl
3CH
2CH
2CH
2CH
2Cl及びClCH
2CH
2CCl
2CH
2CH
2Clである。
【0018】
(2)HCC−360は、CCl
4及び2−クロロプロペンから次の反応:
【0019】
【化2】
【0020】
にしたがって製造することができる。
この場合においては、本明細書において教示する処理条件によって減少又は排除される望ましくない副生成物は、CCl
3CH
2CCl(CH
2CCl
2CH
3)CH
3及びCH
3CCl
2CH
2CCl
2CH
2CCl
2CH
3である。
【0021】
本発明の任意の特定の形態及び/又は態様に関して本明細書に記載する任意の特徴を、組合せの適合性を確保するために適当な場合には修正を行って、本明細書に記載する本発明の任意の他の形態及び/又は態様の任意の他の特徴の1以上と組み合わせることができることは、本発明が関連する技術の当業者によって認められる。かかる組合せは、本開示によって意図される本発明の一部であるとみなされる。
【0022】
上記の一般的な記載及び以下の詳細な記載は両方とも例示及び説明のみのものであり、特許請求されている発明を限定するものではないことを理解すべきである。他の態様は、本明細書及びそこに開示する発明の実施を考慮することによって当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
始動反応:
幾つかの態様においては、反応は撹拌器を取り付けたガラスライニング反応器内で行う
。本発明の一態様においては、HCC−240faを形成するための塩化ビニルと四塩化炭素の反応は、触媒として鉄Fe
0の粉末のみ、及び共触媒としてトリブチルホスフェート(TBP)のような有機ホスフェート化合物を用い、塩化第二鉄の使用を排除して開始する。
【0024】
本発明において有用な鉄粉は、好ましくは、好ましくは325メッシュよりも小さい粒径を有する純粋な金属鉄の微細粉末である。鉄粉は任意の手段によって反応器に加えることができるが、四塩化炭素中、TBP中、又は両方の混合物中の粉末スラリーが好ましい。鉄粉が好ましいが、鉄球、鉄線、鉄屑などのような任意の鉄物体を用いることができる。
【0025】
共触媒のTBPはキレート剤であり、固体触媒を溶解するのを助ける溶媒としても働く。鉄粉とトリブチルホスフェートとのモル比は、約0.05:1〜約500.0:1、好ましくは約1.0:1〜約100.0:1、より好ましくは約1.5:1〜約10:1であってよい。反応混合物中の触媒の好ましい濃度は、約0.001〜約20重量%、好ましくは約0.01〜約10重量%、より好ましくは約0.1〜約5重量%である。一般に、CCl
4とVCMとのモル比は約0.02:1〜約50:1である。好ましくは、この比は、約0.1:1〜約4.0:1、より好ましくは約1:1〜約3:1である。
【0026】
本発明において有用な更なる有機ホスフェート共触媒は、次のもの:トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、又は任意の同様の有機ホスフェート化合物、並びにこれらの2以上の混合物である。
【0027】
バッチ式の始動プロセスにおいては、まず特定量のCCl
4を(窒素のような不活性ガスで)予めパージした反応器に充填し、続いて鉄粉、TBP、及びCCl
4のスラリー混合物を充填する。次に、反応器を、撹拌しながら約40℃〜約180℃、好ましくは約85℃〜約150℃の温度に加熱する。次に、反応器バッチ内での四塩化炭素による塩化ビニルの消費が目標のモル比に等しくなるまで、VCMを蒸気として反応器中に供給する。
【0028】
好ましい態様においては、塩化ビニルの初期供給流は、初期供給速度を最大にするために流量制御機構(例えば、RCV、ニードルバルブ等)を用いずに導入する。反応温度及び触媒活性によって反応器圧力が固有に定められ、これは好ましくは30psia〜60psiaである。バッチ反応は、好ましくは、95%より高いVCMの転化率が達成されるまで行う。幾つかの態様においては、次に運転を連続運転モードに切り替える。
【0029】
連続運転:
連続運転においては、CCl
4及びVCMを所望の比で反応器中に連続的に供給する。本発明方法においては、FeCl
3、鉄粉、及びTBPを周期的又は連続的に反応器中に加えることができるが、連続モードが好ましい。任意の形態のFeCl
3を用いることができる。非限定的な例としては、固体FeCl
3、及びFeCl
3溶液、並びにFeCl
3懸濁液が挙げられる。FeCl
3溶液又は懸濁液を形成するのに用いることができる溶媒の非限定的な例としては、CCl
4、TBP、HCC−240fa、及びヘキサクロロペンタンの異性体が挙げられる。
【0030】
反応は、好ましくは、約0.01時間〜約24時間、好ましくは約1時間〜約12時間の滞留時間で行う。反応条件は、高いVCM効率、高いHCC−240fa収率、及び低い副生成物の生成が得られるように選択される。表1に選択される反応条件を列記する。
【0032】
連続運転においては、液体中に浸漬した管を通して反応器の内容物を連続的に引き抜く。フィルターを通してそこで鉄粒子を捕捉した後、反応器流出流をフラッシュ蒸留して、未反応のCCl
4及びVCM(存在する場合)の供給材料、並びにHCC−240反応生成物を含む「塔頂」流を取り出し、一方で触媒/共触媒混合物を残留させる。蒸留は、当該技術において周知の1以上の蒸留カラム内で行うことができる。
【0033】
好ましくは、フラッシュ蒸留は2段階で行う:まず、所定の圧力下、好ましくは真空下において、反応温度よりも低い温度でフラッシュ蒸留を行って、未反応のCCl
4及び/又はVCMを除去し、次により低い圧力において他の真空フラッシュ蒸留を行って、HCC−240fa反応生成物を取り出す。「塔底」流は、塩化第二鉄、TBP、HCC−240、ヘキサクロロペンタンの異性体、及び場合によっては他の高沸点成分を含む。
【0034】
本発明の好ましい態様においては、予めキレート化したFeCl
3を含む「塔底」流は、反応器に再循環して戻す。この流れの中に含まれる予めキレート化したFeCl
3は、上記で議論したように導入した場合にニート又は新しいFeCl
3が行うのとほぼ同じように1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンの形成を抑制するように機能する。
【0035】
留出した未反応のCCl
4及びVCMは、反応器に再循環して戻すことができる。周期的なパージを行って、ヘキサクロロペンタン異性体のような重質の副生成物が触媒再循環流中に蓄適されるのを回避することができる。
【0036】
本方法のその後の工程において、本発明は蒸留による粗生成物の精製を与える。約5〜約200mmHg、及び約50℃〜約150℃の温度において、分別真空蒸留を行って生成物を回収する。この精製工程をトリブチルホスフェートのような有機ホスフェート化合物又は他の金属キレート化合物の存在下で行うと、精製した生成物の蒸留収率が大きく向上することが見出された。
【0037】
いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、トリブチルホスフェートはHCC−240fa生成物の分解を抑止するように機能すると考えられる。而して、好ましい態様においては、精製工程は、HCC−240fa生成物の収率を向上させるのに十分な量の金属キレート化合物を加えることを含む。好ましくは、5重量%のトリブチルホスフェートを用いる。
【0038】
所望の場合には、本発明においてハロアルカン化合物の製造において用いた鉄触媒は、電磁気分離ユニット(EMSU)を用いることによって捕捉して再循環することができる。EMSUは、電圧を加えると反応器流出流から鉄粒子を除去するように機能し、電圧を解除すると、EMSUによって捕捉された鉄粒子を、HCC−240faのような所望のハロアルカン化合物の連続製造において再使用するために反応器中に流入させて戻すことができる。
【実施例】
【0039】
以下の非限定的な実施例は本発明を更に例示するように働く。
実施例1:
241gの鉄粉、70gの塩化第二鉄、及び346gのトリブチルホスフェートを、15.1ポンドの四塩化炭素を含む窒素でパージした5ガロンのガラスライニングジャケット付き反応器内においてバッチ式で混合した。低圧水蒸気を用いて混合物を90℃の温度にし、加温中に非凝縮性物質を排気した。この温度において、4.1ポンドの塩化ビニルを反応器中に導入し、約1日間の間消費させた。反応の終了時に試料を反応器から回収し、GCによって分析した。GCの結果は、HCC−240faへの反応器選択率は76%であったことを示唆している。ヘキサクロロエタン、テトラクロロエテン、クロロホルム、及びヘキサクロロブタジエンなどの四塩化炭素副生成物は、合計で全反応器選択率の12%を構成した。
【0040】
実施例2:
150ccの圧力定格試験管内において、2.53gのトリブチルホスフェート、0.51gの塩化第二鉄、及び1.8gの鉄粉を、50gの四塩化炭素と混合した。容器を、90℃に加熱した高温の油浴内に浸した。この温度において4時間化学物質を連続的に撹拌した。混合時間が経過した後、試験管を油浴から取り出し、冷却して室温に戻した。試料を採取し、GCによって分析した。GC分析によって、ヘキサクロロエタン、テトラクロロエテン、クロロホルム、及びヘキサクロロブタジエンなどの四塩化炭素由来の副生成物の存在が示された。この反応は塩化ビニルの不存在下で行った。
【0041】
実施例3:
実施例2と同様に、150ccの圧力定格試験管内において、2.53gのトリブチルホスフェート及び1.8gの鉄粉を50gの四塩化炭素と混合し、塩化第二鉄の添加は排除した。ここでも、容器を90℃に加熱した高温の油浴中に4時間浸した。混合物を室温に冷却し、GC分析のために試料を回収した。データは反応を示しておらず、形成された副生成物はなかった。
【0042】
実施例4:
塩化第二鉄の添加を排除して、136gのトリブチルホスフェート及び300gの鉄粉(325メッシュ)を、窒素でパージした5ガロンのガラスライニングジャケット付き反応器内において、41ポンドの四塩化炭素に加えた。低圧水蒸気を用いて混合物を100℃の温度にし、加温中に非凝縮性物質を排気した。この温度において、反応器浸漬パイプを用いて塩化ビニル蒸気を液体混合物中に注入した。塩化ビニルの添加中は、外部制御(制御バルブ)を用いないで供給流を流した。
【0043】
8.3ポンドの塩化ビニルが反応器に加えられるまで反応を進行させた。反応の後、試料を回収し、GCによって分析した。結果は、HCC−240faへの全反応器選択率は90.7%であり、4.9%はヘキサクロロエタン、テトラクロロエテン、クロロホルム、及びヘキサクロロブタジエンを含む副生成物の合計から構成されることを示した。
【0044】
実施例5:
実施例3において開示した条件と同様の手順にしたがって、136gのトリブチルホスフェート及び300gの鉄粉(325メッシュ)を、窒素でパージした5ガロンのガラスライニングジャケット付き反応器内において41ポンドの四塩化炭素に加え、ここでも塩化第二鉄は排除した。ここでも、反応器を100℃に加熱し、加温中に排気した。しかしながら、この温度において、空気圧駆動実験用制御バルブを用いて、塩化ビニル蒸気を反応器内の液体混合物中に制御された速度で導入した。
【0045】
8.3ポンドの塩化ビニルが反応器に加えられるまで反応を進行させた。反応の後、試料を回収し、GCによって分析した。結果は、HCC−240faへの全反応器選択率は85.3%であり、10.8%は、ヘキサクロロエタン、テトラクロロエテン、クロロホルム、及びヘキサクロロブタジエンの合計から構成されることを示した。
【0046】
実施例6:
150ccの圧力定格試験管反応器内において、24.5gの1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、10.5gの四塩化炭素、0.35gのトリブチルホスフェート、及び1.23gの鉄粉(325メッシュ)を混合し、窒素でパージした。試験管を高温の油浴中に浸し、90℃に予め加熱した。この温度において、塩化ビニル蒸気を試験管反応器中に導入した。塩化ビニルを添加すると、浴の温度が100℃に上昇した。5時間が経過した後、反応系を冷却し、液体媒体の試料をGC分析のために回収した。この分析によって、1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンへの選択率は28.8%であったことが示された。塩化ビニルの供給源シリンダーは、実験時間中に13.5gの物質が導入されたことを示した。
【0047】
実施例7:
実施例6と同様に、24.5gの1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、10.5gの四塩化炭素、0.35gのトリブチルホスフェート、0.07gの塩化第二鉄、及び1.23gの鉄粉(325メッシュ)を、窒素でパージした150ccの圧力定格試験管反応器内で混合した。ここでも、試験管を高温の油浴中に浸して、90℃に予め加熱した。この温度において、塩化ビニル蒸気を試験管反応器中に導入し、温度が100℃に再上昇した。5時間が経過した後、反応系を冷却し、液体媒体の試料をGC分析のために回収した。この分析によって、1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンへの選択率は7.9%であったことが示された。5.6gの塩化ビニルが反応器中に導入された。
【0048】
実施例8:
実施例7において示すようにニートのトリブチルホスフェート及び塩化第二鉄を用いることに代えて、24.5gの1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、10.5gの四塩化炭素、1.08gの触媒回収カラムから回収された塔底生成物(17重量%のトリブチルホスフェートから構成される)、及び1.23gの鉄粉(325メッシュ)を、窒素でパージした150ccの圧力定格試験管反応器内において混合した。試験管を高温の油浴中に浸して、90℃に予め加熱した。この温度において、塩化ビニル蒸気を試験管反応器中に導入し、温度が100℃に再上昇した。5時間が経過した後、反応系を冷却し、液体媒体の試料をGC分析のために回収した。この分析によって、1,1,3,3,5,5−ヘキサクロロペンタンへの選択率は3.1%であったことが示された。6.4gの塩化ビニルが反応器中に導入された。
【0049】
本明細書において用いる単数形の「a」、「an」、及び「the」は、記載が他に明確に示していない限りにおいて、複数のものを包含する。更に、量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターを、範囲、好ましい範囲、又はより高い好ましい値とより低い好ましい値のリストのいずれかとして与える場合には、これは、範囲が別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意のより高い範囲限界又は好ましい値と、任意のより低い範囲限
界又は好ましい値の任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示すると理解すべきである。本明細書において数値の範囲が示されている場合には、他に示されていない限りにおいて、この範囲はその端点及びこの範囲内の全ての整数及び小数を含むと意図される。本発明の範囲を、範囲を規定する際に示される具体的な値に限定することは意図しない。
【0050】
上記の記載は本発明の例示のみのものであると理解すべきである。種々の代替及び修正は、本発明から逸脱することなく当業者によって想到しうる。したがって、本発明は、特許請求の範囲内の全てのかかる代替、修正、及び変更を包含すると意図される。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
鉄金属触媒及び共触媒として1種類以上の有機ホスフェート化合物を用いて反応を行う工程を含む、反応の始動段階中におけるCCl
4由来の副生成物を最小にする、四塩化炭素及びアルケンからハロアルカン化合物を製造する方法。
[2]
プロセスの始動段階が行われて一定量のハロアルカン化合物が生成した後にFeCl
3を反応器に導入する工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[3]
アルケンが、塩化ビニル、エチレン、及び2−クロロプロペンからなる群から選択される、[2]に記載の方法。
[4]
ハロアルカン化合物が、HCC−240fa、HCC−250、及びHCC−360からなる群から選択される、[2]に記載の方法。
[5]
鉄金属触媒が、鉄粉、鉄球、鉄線、鉄屑、及びこれらの混合物からなる群から選択される形態を有する、[2]に記載の方法。
[6]
有機ホスフェート共触媒が、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリフェニルホスフェート、及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、[2]に記載の方法。
[7]
ハロアルカン化合物がHCC−240faを含み、アルケン化合物が塩化ビニルを含み、共触媒がトリブチルホスフェートを含む、[2]に記載の方法。
[8]
触媒混合物から鉄金属を除去し、次にHCC−240fa生成物流をフラッシュ蒸留して、HCC−240fa、未反応のCCl
4、及び未反応のVCMを触媒混合物から分離し、残留する触媒成分を工程(a)に再循環する工程を更に含む、[7]に記載の方法。
[9]
鉄粉が純粋な金属鉄の微細粉末を含む、[8]に記載の方法。
[10]
鉄粉を、四塩化炭素中の粉末スラリーによるか、又はTBP中の粉末スラリーによるか、又はCCl
4とトリブチルホスフェートの混合物中の粉末スラリーによって反応器に加える、[9]に記載の方法。