(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333987
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ネガティブ異常分散を有する光学ガラス及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/064 20060101AFI20180521BHJP
C03C 3/066 20060101ALI20180521BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C03C3/064
C03C3/066
G02B1/00
【請求項の数】12
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-546982(P2016-546982)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公表番号】特表2017-504556(P2017-504556A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(86)【国際出願番号】CN2015073937
(87)【国際公開番号】WO2015135465
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】201410092455.0
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512264046
【氏名又は名称】成都光明光▲電▼股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】孫 偉
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/161441(WO,A1)
【文献】
特開2000−351648(JP,A)
【文献】
特開2003−021701(JP,A)
【文献】
特開2006−306717(JP,A)
【文献】
特開2004−010477(JP,A)
【文献】
特開平10−265238(JP,A)
【文献】
特開昭54−039424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量百分率組成としてNb2O5:0〜5%;SiO2:20〜40%;B2O3:15〜40%;Ta2O5:15〜40%;ZrO2:5〜20%;R2O:5〜15%(上記R2OはK2O、Na2O、Li2Oの一種又は数種類を含む。);ZnO+WO3+RO:0〜5%(上記ROはBaO、SrO、CaO、MgOの一種又は数種類を含む。)を含有し、TiO2及びF元素を含有せず、且つ、光学ガラスの相対部分分散率Pg,F<0.57で、ネガティブ異常分散ΔPg,F≦−0.008で、屈折率は1.60〜1.65で、アッベ数は40〜46である、ネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項2】
Nb2O5:0〜2%を含有する、請求項1に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項3】
SiO2:22〜38%を含有する、請求項1又は2に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項4】
B2O3:16〜40%を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項5】
Ta2O5:17〜38%を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項6】
ZrO2:6〜19%を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項7】
R2O:6〜14%(上記R2OはK2O、Na2O、Li2Oの一種又は数種を含む。)を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項8】
ZnO+WO3+RO:1〜4.5%(上記ROはBaO、SrO、CaO、MgOの一種又は数種を含む。)を含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項9】
Na2O:0〜12%である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項10】
Na2O:2〜8%である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項11】
上記光学ガラスのネガティブ異常分散ΔPg,F<−0.01である、請求項1〜10の何れか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラス。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載のネガティブ異常分散を有する光学ガラスを使用して形成された光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子に関する。当該光学ガラスは屈折率(n
d)が1.60〜1.65、アッベ数(υ
d)が40〜46で、特に優れたネガティブ異常分散性能(ΔPg,F)及び環境にやさしい光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスは光学機器及び光電製品においては、不可欠な重要構成であり、近年、スマートフォン及び一眼レフカメラ等光電製品の広範囲な流行によって、光学ガラスの性能について最も高く要求される。例えば、二次スペクトルの残留色収差を除去又は出来るだけ除去する性能を持たせる事を要求される。それには、光学ガラスにネガティブ異常分散性能を持たせることが要求される。
【0003】
現在既知のネガティブ異常分散性能を有する光学ガラスはB
2O
3−Al
2O
3−PbOシステムを採用しているが、この系統のガラスにはPbOの含有量が比較的大きい為、ガラスの化学安定性が悪いだけではなく、環境要求にも満足できないのである。PbO非含有のガラス系統は、開示番号1225903である中国特許、開示番号4032566であるドイツ特許、開示番号102199001である中国特許及び開示番号4200467であるアメリカ特許があり、これらのガラスにはTi又はFというような異常分散性能を破壊する元素を導入しており、又は比較的に多くのNb
2O
5成分を含有してあるため、これもガラスの異常分散性能を破壊してしまうのである。一方、US4200467には比較的に高い比例のNaイオンを含有しており、これはガラスの構造破断が酷くなってしまい、ガラス結晶傾向が大きくなり、且つ、光学ガラスの膨張係数、熱安定性、化学安定性及び機械強度にとってはとても不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、優れたネガティブ異常分散性能を有する環境にやさしい光学ガラス及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、重量百分率組成としてNb
2O
5:0〜5%を含有し、TiO
2及びF元素を含有せず、且つ、光学ガラスの相対部分分散率Pg,F<0.57で、ネガティブ異常分散ΔPg,F≦−0.008である、ネガティブ異常分散を有する光学ガラスである。
【0006】
本発明の光学ガラスは更に、SiO
2:20〜40%;B
2O
3:15〜40%;Ta
2O
5:15〜40%;ZrO
2:5〜20%;R
2O:5〜15%を含有することが好ましい。上記R
2OはK
2O、Na
2O、Li
2Oの一種又は数種類を含む。ZnO+WO
3+RO:0〜5%、上記ROはBaO、SrO、CaO、MgOの一種又は数種類を含む。
【0007】
更に、Nb
2O
5を0〜2%含有することが好ましい。
【0008】
更に、SiO
2を22〜38%含有することが好ましい。
【0009】
更に、B
2O
3を16〜40%含有することが好ましい。
【0010】
更に、Ta
2O
5を17〜38%含有することが好ましい。
【0011】
更に、ZrO
2を6〜19%含有することが好ましい。
【0012】
更にR
2Oを6〜14%を含有することが好ましい。上記R
2OにはK
2O、Na
2O、Li
2Oの一種又は数種類を含む。
【0013】
更に、ZnO、WO
3及びROを含有し、且つ、ZnO+WO
3+ROを1〜4.5%含有するこ及びが好ましい。上記ROはBaO、SrO、CaO、MgOの一種又は数種類を含む。更に、上記光学ガラスの屈折率は1.60〜1.65で、アッベ数は40〜46である。
【0014】
更に、上記光学ガラスネガティブ異常分散はΔPg,F<−0.01である。
【0015】
また、本発明は、上記ネガティブ異常分散を有する光学ガラスからなる光学素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学ガラスは如何なる環境に害する元素を添加する必要はなく、屈折率は1.60〜1.65、アッベ数は40〜46、相対部分分散率Pg,F<0.57、ネガティブ異常分散ΔPg,F≦−0.008、通常ΔPg,F<−0.01であり、優れたネガティブ異常分散性能及び環境性能を有し、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ及びカメラフォン等の設備に幅広く適応する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下のとおり本発明の光学ガラスの各成分を説明するが、別途説明のない限り、各成分含有量の特性値は重量%で表示する。
【0018】
SiO
2は、ガラス生成物質であり、ガラスになる必須の酸化物成分であり、一定量のSiO
2は、光学ガラスに比較的良い化学安定性を齎し、且つ、ガラスの透明度を向上させ、ガラスの高温粘度を増やす。SiO
2の含有量が20%より低い場合、得られたガラスは化学安定性が悪くなる。但し、SiO
2の含有量が40%より高い場合は、ガラスの屈折率は要求範囲内に入ることができなく、且つ、ガラスの高温粘度は比較的大きい。そのため、SiO
2の含有量を20〜40%と限定し、好ましくは22〜38%である。
【0019】
B
2O
3も光学ガラスネットワーク生成体酸化物である。B
2O
3は、本発明においてもっとも重要な役割とは、ガラスの短波色分散は比較的小さくさせることで、ガラスに比較的良いネガティブ異常分散性能を持たせる。但しB
2O
3の含有量が15%より低い場合は、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融性能が比較的に悪く、且つ、ネガティブ異常分散性能が悪くなる。但し、B
2O
3の含有量が40%より高い場合は、ガラスの化学安定性が悪くなり、ガラスが結晶しやすくなる。そのため、B
2O
3の含有量は15〜40%と限定し、好ましくは16〜40%である。
【0020】
Ta
2O
5は、光学ガラス屈折率及びネガティブ異常分散を著しく向上する酸化物であり、本発明は優れたネガティブ異常分散性能を獲得するため、Ta
2O
5の含有量を増加することによって得る。但し、Ta
2O
5の含有量が15%より低い場合は、比較的優れたネガティブ異常分散性能を獲得する目的を果たせなくなる。但し、Ta
2O
5の含有量が40%より高い場合は、ガラスの溶融性能が比較的に悪くなり、均一性の比較的良いガラスが得にくく、ガラスの製造原価を向上させてしまう。そのため、Ta
2O
5の含有量は15〜40%と限定し、好ましくは17〜38%である。
【0021】
ZrO
2光学ガラスの屈折率及びネガティブ異常分散性能を向上することができる。ただし、ZrO
2の含有量が5%より低い場合は、あるべき効果を果たせなくなる。ただし、ZrO
2の含有量が20%より高い場合は、この難溶酸化物はガラスの溶融性能を落としてしまい、均一性の良好なガラスが得られなくなる。そのため、ZrO
2の含有量が5〜20%で、好ましくは6〜19%である。
【0022】
R
2Oは、アルカリ金属の酸化物であり、Na
2O、Li
2O、K
2Oの一種又は数種類であり、比較的良い助溶剤である。適量のR
2Oは均一性の比較的良い光学ガラスが得られる。ただし、R
2Oの含有量が5%より低い場合は、フラックス作用は果たせなく、ガラスの高温粘度が比較的に大きくなる。但し、R
2Oの総量が15%より高い場合は、光学ガラス的化学安定性が悪くなる。そのため、R
2Oの含有量を5〜15%にし、好ましくは6〜14%である。更に、本発明は比較的に低い比例のNa
2Oを採用し、その他の成分を合わせて使う事によって、ガラスが結晶し難いようにする。また、光学ガラスの膨張係数、熱安定性、化学安定性及び機械強度についても大きく有利である。具体的には、本発明のNa
2Oの含有量は0〜12%と限定し、好ましくは2〜8%である。
【0023】
Nb
2O
5はガラスの屈折率を効果的に向上させ、且つ中波部分の分散を増加すると同時に、短波部分の分散を著しく増加させることはなく、それによって光学ガラスのネガティブ異常分散性能が増大されるが、Nb
2O
5の含有量が余りにも高い場合は、ネガティブ異常分散性能が破壊されてしまうのだ。本発明はNb
2O
5の含有量を低下させることにより、良いネガティブ異常分散性能を獲得すると同時に、ガラスの原価を低減することができる。そのため、Nb
2O
5の含有量を0〜5%に限定し、好ましくは0〜2%である。
【0024】
ZnO、WO
3、ROは全てガラスの屈折率及びアッベ数を効果的に調節することができる。その内,ROはアルカリ金属酸化物であり、BaO、SrO、CaO、MgOの一種又は数種類を含む。ZnO、WO
3及びROの含有量合計(ZnO+WO
3+RO)は0〜5%で、好ましくは1〜4.5%である。
【0025】
また、本発明はネガティブ異常分散性能を破壊するTiO
2と何れの形式により存在するF元素を導入しない。
【0026】
本発明の光学ガラスは、本分野の技術者の熟知の製造法により製造される。即ち原料を溶解、浄化、均一に混合の後、適切な温度まで冷却して成形し、本発明で提供する屈折率が1.60〜1.65で、アッベ数が40〜46で、且つ優れたネガティブ異常分散性能を有する光学ガラスを作り上げる。
【0027】
本発明で提供する光学ガラスの性能パラメーターの測定方法は以下のとおりである。
屈折率、アッベ数及びPg、Fの測定は、「GB/T7962.1−2010無色光学ガラス測定方法:屈折率及び分散係数」による。
【0028】
上記の測定を経て、得られる本発明の光学ガラスは以下の性能を有する。屈折率(nd)は、1.60〜1.65で、アッベ数は(ν
d)40〜46で、相対部分分散率はPg,F<0.57で、且つネガティブ異常分散ΔPg,F≦−0.008で、通常ΔPg,F<−0.01で、優れた化学安定性及び環境性能を有する。
【0029】
本発明では更に光学素子を提供する。当該光学素子は、本発明の光学ガラスからなり、そのため、当該光学素子は上記本発明の光学ガラスの全ての特性を有する。本発明の光学素子は比較的に大きいネガティブ異常分散を増加し、如何なる環境に害する元素を添加する必要はなく、屈折率(nd)は1.60〜1.65で、アッベ数(vd)は40〜46である。本発明が提供する光学素子はデジタルカメラ、デジタルカメラビデオ、カメラフォン等設備の応用に適合する。
【実施例】
【0030】
本発明の課題を解決するための手段として、以下、実施例を挙げて本発明の光学ガラスをさらに詳細に説明するが、本発明の権利範囲はこれらの実施例に限られない。
【0031】
本発明の光学ガラス実施例1〜30は、表1〜表3に示す。表1〜表3において表示する個々の実施例の特性値に基づいて計量して充分混合の後、光学ガラス用の溶解炉に入れて、適切なプロセス温度にて溶融、浄化、撹拌して均質、適切温度まで冷却の後、熔融ガラスを予め予熱済みの金属金型中に注入して成形・アニーリングして、必要な光学ガラスを得る。本発明が提供する優れたネガティブ異常分散性能を有する光学ガラスの組成と対応する性能、例えば:屈折率(nd)、色分散(nF−nC)、アッベ数(vd)、相対部分分散率(Pg,F)、ネガティブ異常分散(ΔPg,F)の結果は全て表1〜表3の実施例1〜30において示す。これらの表において、下記の式にてPg,F及びΔPg,Fの由来を説明する。
【0032】
【数1】
【0033】
上記式において、相対部分色分散は式(1)にて算出して得られる。多くのガラスにおいて、式(2)の線性関係は成立する。H−K6及びF4を基準ガラスとして選定し、傾斜率mx,y及びインターセプトbx,yが得られ、それから本発明のネガティブ異常分散性能を有する光学ガラスを選定して色差を校正する。式(3)におけるΔPx,yはこの偏差値を示し、最後は式(4)によってΔPg,Fの詳細値を算出する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
上記実施例から、本発明が提供の光学ガラスは、何れの環境に害する元素を添加する必要はなく、その屈折率は1.60〜1.65で、アッベ数は40〜46で、相対部分分散率はPg,F<0.57で、且つ、ネガティブ異常分散ΔPg,F≦−0.008で、通常ΔPg,F<−0.01で、優れたネガティブ異常分散性能を有し、且つ優れた化学安定性及び環境性能を有し、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ及びカメラフォン等設備に幅広く適応できることが分かる。