【文献】
H.D. Lutz,Hydrates of barium hydroxide. Preparation, thermal decomposition and X-ray data,Thermochimica Acta,1981年 4月 1日,Volume 44, Issue 3,Pages 337--343
【文献】
水谷榮一,振動原理を用いた粉体処理装置の開発,名古屋工業大学博士論文,日本,2004年,第17〜20、54頁,URL,https://nitech.repo.nii.ac.jp/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
無機化合物の無水物及びその製造方法に関し、幾つかの提案がなされている。例えば特許文献1には、積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉を得るための原料となる無水塩化ニッケルに関し、その不純物や平均粒径を特定範囲内とすること、及びこの無水塩化ニッケルを、金属ニッケルを化学処理した後、脱水、乾燥を経て得ることが記載されている。特許文献2には、エンジニアリングプラスチックに熱伝導性及び耐水性等を付与するためのフィラーとして、BET比表面積及び平均粒子径が特定範囲内の無水炭酸マグネシウムフィラーが提案されている。同文献には、この無水炭酸マグネシウムフィラーを得る方法として、中性炭酸マグネシウムをオートクレーブ中で水熱処理した後に乾燥する方法が記載されている。このように、目的に応じて各無機化合物の無水物の特性及びその特性を得るための方法を検討することが必要である。
【0003】
無機化合物のうち、アルカリ土類金属水酸化物は、各種合成反応の材料として使用されている。例えば、有機合成の分野においては、β−ラクタム系抗生物質等の製造のための中間体として重要なチアジアゾリル酢酸誘導体の原料であるチアジアゾリルアセトニトリル類を加水分解するのに使用されている(特許文献3参照)。無機合成の分野においては、誘電体セラミック等の電子材料として使用されるチタン酸バリウムの原料として使用されている(特許文献4参照)。
【0004】
このアルカリ土類金属水酸化物には、含水塩と無水物の双方が存在するものがある。各種合成反応の材料としてアルカリ土類金属水酸化物を使用する場合、原材料中の元素のモル比を正確に調整すること、及び水分の存在を嫌う反応系で使用すること等を勘案すると、無水物を用いることが好ましい場合が考えられる。よって、アルカリ土類金属水酸化物の無水物化について検討する必要があった。
【0005】
アルカリ土類金属水酸化物の無水物化に関し、非特許文献1には、アルカリ土類金属水酸化物のうち水酸化バリウム無水物に関しては、八水塩を真空乾燥することによって一水塩を得ることはできるが、完全に脱水して無水塩を得ることは難しいと記載されている。また同文献には、水酸化バリウム八水塩は550℃で無水物になることが記載されている。したがって、加熱時に水酸化バリウムが自身の結晶水に溶解してしまうことに起因して、水酸化バリウムの結晶どうしが付着してしまうため、反応に好適な形状である粉末状態にすることが困難であった。非特許文献1には、水酸化ストロンチウムについても、八水塩を加熱脱水することによって無水物を得ることができると記載されているが、水酸化バリウムと同様に、実際は、加熱時に水酸化ストロンチウムが自身の結晶水に溶解してしまう問題があった。
【0006】
このような、単に加熱することによって生じる不都合を補うために、特許文献5においては、ベンゼン等の有機溶媒中で水酸化バリウム含水塩を加熱することで無水水酸化バリウムを得る方法が提案されている。この方法によると、水酸化バリウム以外の成分である有機溶媒を使用していることに起因して、不純成分が残存するおそれがある。また使用した有機溶媒の廃棄又は回収に手間がかかる。したがってこの方法は、工業的観点からは優れた方法であるとは言い難い。
【0007】
特許文献6においては、水酸化バリウム八水塩に酸化バリウムを混合して加熱することによって、無水水酸化バリウムを得ることが提案されている。この方法によると、水酸化バリウム八水塩の結晶水と酸化バリウムが反応することによって無水水酸化バリウムが得られる。しかし反応時の温度が、水酸化バリウム八水塩の融点である約78℃以上である80〜100℃なので、水酸化バリウム八水塩は溶融状態で酸化バリウムと反応している。したがって、どのような形状の無水水酸化バリウムが得られるのかは不明であり、実際にどのような形状のものが得られたのかまでは同文献では言及されていない。
【0008】
特許文献7には、水酸化バリウム八水塩の水溶液又は溶融液をスプレードライによって乾燥することで、一水塩又は無水物を得ることが提案されている。この方法によれば、スプレードライされていることから、ある程度の粉状の水酸化バリウムが得られることが予想される。しかし、同文献の実施例には、不純物として一定量以上の炭酸バリウムが検出されていることが記載されている。したがって、同文献に記載の方法で得られる水酸化バリウムは、高純度品が必要とされる分野での使用に適していないと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、各種合成反応に好適に使用できる特性を持ったアルカリ土類金属水酸化物を提供する目的でなされたものであり、液相への溶解性や分散性に優れ、得られる生成物の品質向上に寄与することのできるアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供することを課題とする。
また本発明は、前記したアルカリ土類金属水酸化物をシンプルな工程で製造する方法を提供する目的でなされたものであり、高品質、高生産性を満たすことのできる工業的に優れたアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アルカリ土類金属水酸化物粉末のBET比表面積及び圧縮度を特定の範囲にすることによって、アルカリ土類金属水酸化物粉末の水への溶解性及び分散性等が高まることを知見した。本発明はかかる知見に基づきなされたもので、下記一般式(1):
A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表され、
Aがバリウムの場合、BET比表面積が0.2〜1.5m
2/gであり、{(タップ密度−かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5〜35%であり、
Aがストロンチウムの場合、BET比表面積が1.5〜5m
2/gであり、{(タップ密度−かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が10〜45%である、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供するものである。
【0013】
また本発明は、前記のアルカリ土類金属水酸化物粉末の好適な製造方法として、
下記一般式(2):
A(OH)
2・yH
2O (2)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、yは3≦y≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、減圧下に温度70℃以上110℃以下で加熱して下記一般式(3):
A(OH)
2・zH
2O (3)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、zは1<z<3である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を得る第一工程、及び
前記アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、減圧下に温度110℃超300℃以下で加熱して、下記一般式(1):
A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る第二工程を含む、
ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法を提供するものである。
【0014】
更に本発明は、前記のアルカリ土類金属水酸化物粉末の別の好適な製造方法として、
下記一般式(4):
A(OH)
2・nH
2O (4)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を、減圧下に温度100〜150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1)
:A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液相への溶解性や分散性に優れる、得られる生成物の品質向上に寄与することができる等、各種合成反応に好適に使用できるアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供することができる。また本発明によれば、シンプルな工程で前記アルカリ土類金属水酸化物粉末を得ることのできる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明におけるアルカリ土類金属水酸化物とは、一般的に水和物及び無水物の存在が知られている水酸化ストロンチウム及び水酸化バリウムが対象となる。
【0018】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物は、その外観は固体粒子の集合体である粉末である。この粉末はBET比表面積が大きく、圧縮度が低く凝集し難い性質を有しており、水への溶け易さ、及び分散のし易さを特徴としたものである。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、下記一般式(1):A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)で表され、
Aがバリウムの場合、BET比表面積が0.2〜1.5m
2/gであり、{(タップ密度−かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5〜35%であり、
Aがストロンチウムの場合、BET比表面積が1.5〜5m
2/gであり、{(タップ密度−かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が10〜45%である。
【0019】
前記一般式(1)中、Aで表されるアルカリ土類金属は、先に述べたとおり、Sr及びBaから選択される1種である。また、前記一般式(1)中のxは0以上1以下の数であり、xが1未満であると、アルカリ土類金属水酸化物はその完全な無水物に近づき、後述する液相への高い分散性につながるため好ましい。前記一般式(1)中のxは、アルカリ土類金属水酸化物の結晶水数から理論乾燥減量(質量%)を求め、理論乾燥減量(質量%)に対する結晶水数をプロットして得られた近似曲線から得られる数式から測定することができる。すなわち、水酸化バリウムにおいては、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水塩に基づき、下記式(1)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。水酸化ストロンチウムにおいても、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水塩に基づき、下記式(2)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。
【0020】
x=0.0022W
2+0.073W (1)
x=0.0019W
2+0.0391W (2)
(式中、xは結晶水数を表し、Wは理論乾燥減量(質量%)を表す。)
【0021】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、BET比表面積が0.2〜1.5m
2/gであり、好ましくは0.4〜1.2m
2/gである。一方、Aがストロンチウムの場合、BET比表面積が1.5〜5m
2/gであり、好ましくは2〜4m
2/gである。この範囲のBET比表面積を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、水などの液相や粉体などの固相との接触において、接点が好適に保てるため、易溶性及び易反応性につながる。BET比表面積はBET法によって求められる。測定装置としては、例えば島津製作所製のフローソーブII2300を用いることができる。前記の範囲のBET比表面積を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0022】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、圧縮度が1.5〜35%である。一方、Aがストロンチウムの場合、圧縮度が10〜45%である。この範囲の圧縮度を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、水などの液相との接触において、分散性を好適に保つことができる。アルカリ土類金属水酸化物粉末の流動性を高めてハンドリングを高める観点から、この圧縮度はAがバリウムの場合、1.5〜30であることが好ましく、1.5〜25%であることが更に好ましく、Aがストロンチウムの場合、10〜30%であることが好ましい。この範囲の圧縮度を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0023】
圧縮度は、{(タップ密度−かさ密度)/タップ密度}×100で表される。この圧縮度は粉体の流動性の尺度となるものであり、その値が小さいほど流動性が良く、架橋し難い特性を有することを表す。圧縮度の下限値は0%であり、上限値は100%である。圧縮度の定義に用いられる「かさ密度」とは、自然落下によって粉末を一定容器に充填したときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101−12−1:2004に準拠して測定することができる。具体的には「かさ密度」は、例えば、かさ比重測定器(蔵持科学器械製作所製)を用いて測定することができる。「タップ密度」とは、自然落下させた粉末を一定容器に充填した後、容器にタップによる衝撃を加え、試料の体積変化がなくなったときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101−12−2:2004に準拠して測定することができる。具体的には「タップ密度」は、例えば、DUAL AUTOTAP(ユアサアイオニクス社製)を用いて測定することができる。
【0024】
圧縮度の具体的な測定方法は、以下のとおりである。かさ比重測定器の受容器(容量30mL)に試料を、ふるいを通して受容器から溢れるまで受ける。過剰分をへらですり切り、受容器に溜まった試料の重量を測定してかさ密度(g/mL)を算出する。次いで、自動T.D測定装置(ユアサイオニクス(株)製、DUAL AUTOTAP)を用い、試料の入ったメスシリンダーに対してタッピングを行う。測定は、ASTMに準拠し、タッピング回数は1250回×2ステップ、タッピング高さは3mm、タッピングペースは260回/分に調整する。タッピング後の試料面の目盛りを読み取り、メスシリンダーの質量を測定してタップ密度(g/mL)を算出する。このようにして求められたかさ密度及びタップ密度から圧縮度を算出する。
【0025】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、前記したBET比表面積及び圧縮度を有することに加えて、特定範囲の平均粒子径及び安息角を有することが好ましい。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、一次粒子の平均粒子径が0.5〜7.0μmであることが好ましく、1.0〜3.5μmであることが更に好ましい。一方、Aがストロンチウムの場合、一次粒子の平均粒子径が0.3〜1.2μmであることが好ましく、0.4〜0.9μmであることが更に好ましい。この平均粒子径は、D=6/(ρ×S)から求められる。式中、Dは平均粒子径(μm)を表し、ρは真密度(g/cm
3)を表し、SはBET比表面積(m
2/g)を表す。“6”は粒子形状を球状又は立方体としたときの係数である。真密度ρは、Aがバリウムの場合、4.40〜4.55g/cm
3であることが好ましく、4.45〜4.50g/cm
3であることが更に好ましい。Aがストロンチウムの場合、真密度ρは、3.40〜3.70g/cm
3であることが好ましく、3.45〜3.65g/cm
3であることが更に好ましい。この真密度は、アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる。本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末が、上述した範囲の平均粒子径を有する非常に微小な粒子である場合には、水などの液相に対する溶解性及び分散性に優れた特性が発現する。前記の範囲の平均粒子径を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0026】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、安息角が50度以下であることが好ましく、25〜50度であることが更に好ましい。Aがストロンチウムの場合、55度以下であることが好ましく、25〜55度であることが更に好ましい。この安息角は、アルカリ土類金属水酸化物粉末の流動性を高めてハンドリングを高める観点から、Aがバリウムであるか、それともストロンチウムであるかを問わず、25〜45度であることが更に好ましい。この安息角を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、流動性が高いことから、水などの液相に対する溶解性及び分散性を好適に保つことができる。安息角とは、アルカリ土類金属水酸化物粉末を静かに平面状に落下させて円錐状に堆積させ、この円錐の母線と水平面とのなす角を表し、その値が小さいほど粉体の流動性が高いことを意味する。安息角は、例えばパウダテスタ(ホソカワミクロン社製)を用いて測定することができる。前記の範囲の安息角を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0027】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の他の特性としては、高純度であることが挙げられる。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、95質量%以上、特に97質量%以上、とりわけ98質量%以上の純度を有することが好ましい。更に、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の他の特性として、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩や、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物といった不純物の含有量が少ないことも挙げられる。具体的には、これらの不純物の含有量は、好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下であり、一層好ましくは1.3質量%以下であり、最も好ましくは1.1質量%以下である。このような純度を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0028】
アルカリ土類金属水酸化物粉末の純度は、該粉末を、炭酸ガスを含まない水に溶解後、フェノールフタレインを指示薬として用い、HClで滴定して求められる。また、アルカリ土類金属水酸化物粉末に含まれる不純物である炭酸バリウムの量は、ブロモフェノールブルーを指示薬として用い、純度を測定した試料をHClで滴定して求められる(JIS
K 1417に準拠)。
【0029】
次いで、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の好適な製造方法について説明する。本発明の製造方法には、以下のA及びBの二つの態様がある。
【0030】
〔態様A〕
下記一般式(2):A(OH)
2・yH
2O (2)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、yは3≦y≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、減圧下に温度70℃以上110℃以下で加熱して下記一般式(3):
A(OH)
2・zH
2O (3)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、zは1<z<3である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を得る第一工程、及び
前記アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、減圧下に温度110℃超300℃以下で加熱して、下記一般式(1):
A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る第二工程、を含むアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【0031】
〔態様B〕
下記一般式(4):
A(OH)
2・nH
2O (4)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を、減圧下に温度100〜150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1):
A(OH)
2・xH
2O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【0032】
ここで、本発明の製造方法の対象物であるアルカリ土類金属水酸化物粉末は、前記した本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末と同様に、水酸化ストロンチウム及び水酸化バリウムが主たる対象となる。以下、態様A及び態様Bについてそれぞれ説明する。
【0033】
前記アルカリ土類金属水酸化物の製造方法の態様Aの第一工程においては、下記一般式(2):A(OH)
2・yH
2O (2)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、yは3≦y≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を準備する。アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)としては、市販品など特に制限なく用いることができる。また、該アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)の粒子の形状及びサイズ等に特に制限はないが、前述した特徴を有する本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得るためには、粉体状のものを用いることが好ましい。
【0034】
態様Aにおける第一工程では、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、温度70℃以上110℃以下、特に75℃以上100℃以下で加熱することが好ましい。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。加熱時間は5〜30時間であることが好ましく、10〜25時間であることが更に好ましい。効果的にアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)中の結晶水を除去するために、加熱を減圧下で行うことが好ましい。具体的には、ゲージ圧で−0.07MPa以下、特に−0.110〜−0.08MPaの減圧下で加熱を実施することが好ましい。これらの条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。
【0035】
加熱中は、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、5〜100mmの厚さで静置させておくことが好ましい。この厚さで静置させることで、アルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらくなり、結晶水を一層容易に除去することができる。このような静置加熱は、箱型棚式乾燥機を使用することで実施することができる。
【0036】
以上の操作によって、下記一般式(3):
A(OH)
2・zH
2O (3)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、zは1<z<3である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を得ることができる。
この場合、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)から得られるすべてのアルカリ土類金属水酸化物水和物が1超3未満の結晶水を有していることが最も好ましいが、3以上の結晶水を有する水和物や1以下の結晶水を有する水和物が、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)に少量含まれていても良い。アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)に含まれる結晶水の数zは、先に述べた結晶水の数xの測定方法と同様の方法で測定される。
【0037】
次いで第二工程を行う。第二工程においては、前記アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、減圧下に温度110℃超300℃以下で好ましくは5〜30時間にわたり加熱して、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る。第二工程は、第一工程からの引き続きで行うことができる。例えば第一工程の加熱温度を引き続き上昇させて第二工程を行うことができる。この方法に代えて、第一工程の終了後、反応系を一旦室温まで冷却した後に、第二工程の加熱温度まで加熱しても良い。
【0038】
態様Aによって得られるアルカリ土類金属水酸化物は、前述したBET比表面積及び圧縮度を有することを特徴とするが、このようなアルカリ土類金属水酸化物を得るためには、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は粉体状であることが好ましい。粉体状であることで、効率的に水和物を除去することができる。アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は、粉体状であれば、その粒子形状やサイズ等に特に制限はない。
【0039】
態様Aの第二工程においては、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は、温度110℃超300℃以下、特に115以上260℃以下、とりわけ115以上250℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が300℃を超えると、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)が分解され、アルカリ土類金属酸化物が生じてしまい易い。100℃以下であるとアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中の結晶水が十分に除去されず、本発明の特徴を有するアルカリ土類金属水酸化物を得ることができない。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。
【0040】
第二工程における加熱時間は5〜30時間であることが好ましく、10〜25時間であることが更に好ましい。この範囲の加熱時間を採用することで、製造コストの増大を抑制することができ、また熱履歴によるアルカリ土類金属水酸化物の変性が抑制され、品質に及ぼす影響を小さくできる。また、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中の結晶水を十分に除去することができ、本発明の特徴を有する無水アルカリ土類金属水酸化物を容易に得ることができる。
【0041】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中での副生成物の抑制や、結晶水の効率的な除去を勘案すると、第二工程を減圧下で実施することが好ましい。詳細には、ゲージ圧で−0.07MPa以下、特に−0.110〜−0.08MPaの減圧下で第二工程を行うことが好ましい。この条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。第二工程での減圧の条件と、第一工程での減圧の条件とは、それぞれ独立であり、同一でもよく、あるいは異なっていても良い。
【0042】
加熱中は、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、5〜100mmの厚さで静置させておくことが好ましい。この厚さで静置させることで、アルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらくなり、結晶水を一層容易に除去することができる。このような静置加熱は、箱型棚式乾燥機を使用することで実施することができる。
【0043】
以上の態様Aによって、目的とするアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得ることができる。
【0044】
次いで、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法の態様Bについて説明する。態様Bにおいては、下記一般式(4):
A(OH)
2・nH
2O (4)
(式中、Aはアルカリ土類金属であり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を、減圧下に温度100〜150℃で好ましくは5〜48時間にわたり振動させながら加熱して、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る。
【0045】
態様Bに係るアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)は、先に述べた態様Aと同様に、市販品など特に制限なく用いることができる。また、該アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の粒子の形状及びサイズ等に特に制限はないが、前述した特徴を有する本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得るためには、粉体状のものを用いることが好ましい。
【0046】
上述したアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)は、温度が好ましくは100〜150℃、更に好ましくは115〜140℃で、振動を加えながら加熱する。加熱温度が150℃を超えると、アルカリ土類金属水酸化物どうしが融着する、反応器壁面にアルカリ土類金属水酸化物が付着する、酸化物等の不純物が副生するといった生産効率低下の原因となる場合がある。加熱温度が100℃未満であると、アルカリ土類金属水酸化物水和物中の結晶水が十分に除去されない場合がある。加熱時間は、好ましくは5〜48時間、更に好ましくは10〜30時間、一層好ましくは10〜25時間である。この範囲の加熱時間を採用することで、製造コストの増大を抑制することができ、また熱履歴によるアルカリ土類金属水酸化物粉末の変性が抑制され、品質に及ぼす影響を小さくできる。また、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)中の結晶水を十分に除去することができる。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。
【0047】
態様Bにおいては、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を振動させながら加熱する。この振動とは、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)が常に動いている状態を意味する。したがってアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)には、加熱中、継続して振動が加えられる。尤も、振動を加える装置の種類等に起因して、不可避的に振動が一時的に加えられない状態が生じることは許容される。振動を加えつつ加熱を行うには、例えば振動式乾燥機、回転式乾燥機、流動乾燥機等を使用すれば良い。この場合、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を所定の容器に入れて振動を加えることが好ましい。
【0048】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)に加える振動の程度は、振動数が好ましくは750〜1500cpm、更に好ましくは900〜1350cpmであり、振動幅が好ましくは1〜5mm、更に好ましくは 2〜4mmである。この範囲の条件を採用することで、効率的な結晶水の除去が可能となるので好ましい。振動を加えつつ加熱を行うことで、粒子の融解が生じにくくなり、その結果、微粒のアルカリ土類金属水酸化物が生成し易くなる。
【0049】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)中の副生成物の抑制や、結晶水を効率的に除去することを勘案すると、態様Bにおける加熱は減圧下で実施することが好ましい。詳細には、ゲージ圧で−0.07MPa以下、特に−0.110〜−0.08MPaの減圧下で加熱を行うことが好ましい。この条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。
【0050】
振動を加えつつのアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の加熱は、結晶水の除去、生産効率及び製造コスト等を勘案して、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の容器への充填率を10〜95体積%、特に30〜85体積%とすることが好ましい。この範囲の充填率とすることで、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)が好適に振動することができるので、アルカリ土類金属水酸化物どうしが融着せず、効率的に結晶水を除去することができる。
【0051】
以上の態様Bによっても、目的とするアルカリ土類金属水酸化物を首尾良く得ることができる。
【0052】
本発明によって得られるアルカリ土類金属水酸化物粉末は、従来にない特性を有するものであり、液相への溶解性や分散性に優れる、該水酸化物を原料として得られる生成物の品質向上に寄与することができる等、各種合成反応に好適に使用できることが期待される。
【0053】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、アルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法において、態様Aと態様Bとを組み合わせても良い。すなわち、態様Aにおける第一工程及び第二工程のうち、いずれか一方の工程又は双方の工程において、態様Bで採用した振動を加える操作を行っても良い。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかしながら本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
本実施例では、上述した態様Aに従い水酸化バリウム粉末を製造した。
(第一工程)
水酸化バリウム八水和物(和光純薬社製)の粉末を、30mmの厚さとなるように角型状の容器内に入れた。これを静置式真空乾燥機(ヤマト科学(株)製、角型真空定温乾燥機DP63P)に入れ、−0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度78℃で21時間加熱することで乾燥した。得られた乾燥粉末における結晶水の数zを測定したところ、z=2.98であった。
【0056】
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き120℃まで上昇させ第二工程を行った。第一工程において得られた乾燥粉末を、−0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に20時間加熱することで乾燥して、目的とする水酸化バリウム粉末を得た。得られた水酸化バリウム粉末における結晶水の数xを測定したところ、その値は以下の表1に示すとおりであった。また、この水酸化バリウム粉末の真密度、BET比表面積、圧縮度、安息角、平均粒子径、純度及び炭酸バリウム含有量を、上述の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。また、得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを
図1及び
図2に示す。
図2に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0057】
[実施例2]
本実施例では、上述した態様Bに従い水酸化バリウム粉末を製造した。水酸化バリウム八水和物(和光純薬社製)粉末を、充填率80%となるように円筒状の容器に入れた。振動式乾燥機を用い、−0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度120℃で20時間加熱することで乾燥した。加熱中は、振動を継続して加えておいた。加えた振動の程度は、振動数を1000cpmとし、振動幅を3.4mmとした。このようにして得られた水酸化バリウム粉末について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。また、得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを
図3及び
図4に示す。
図4に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0058】
[比較例1]
(第一工程)
実施例1と同じ方法で行った。
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き90℃まで上昇させ第二工程を行った。第一工程において得られた乾燥粉末を、−0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に20時間加熱することで乾燥した。しかし、結晶水の除去はできず、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0059】
[比較例2]
(第一工程)
実施例1と同じ方法で行った。
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き350℃まで上昇させ第二工程を行った。その結果、一部に分解が起こり、酸化バリウムが生じてしまい、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0060】
[比較例3]
加熱温度を78℃とすること以外は実施例2と同様にして水酸化バリウムを得た。水酸化バリウムは融解してしまい、乾燥不能となった。
【0061】
[比較例4]
本比較例は、背景技術の項で述べた特許文献6に対応するものである。31.6gの水酸化バリウム八水和物と、122.5gの酸化バリウムとを混合した。混合によって生じる反応が激しく、全体を混合する前に塊状の物質が生成してしまい、それ以上の操作を行うことができず、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0062】
[評価]
粉末の得られた実施例の水酸化バリウムについて、収率を測定した。また、水への溶解性及び分散性の評価を行った。水道水300mLを72℃に加温し、そこに1gの水酸化バリウムを添加して、液をマグネチックスターラーで30分間撹拌した。30秒経過後の液の状態を目視観察して、溶解性及び分散性を以下の基準で評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
○:大部分は溶解したが、一部に未溶部分が観察される。未溶部分の分散性は良好である。
△:一部溶解したが、未溶部分が多く観察される。未溶部分の分散性は良好である。
×:ほとんど溶解しない。また分散せず、沈殿してしまった。
【0063】
【表1】
【0064】
以上の実施例及び比較例のうち、実施例1及び2において粉末の水酸化バリウムを得ることができた。比較例1、2、3及び4については、無水水酸化バリウムを得ることができなかった。更に、実施例1及び2の水酸化バリウムは、水への溶解性及び分散性が良好なものであった。
【0065】
[実施例3]
本実施例では、上述した態様Bに従い水酸化ストロンチウム粉末を製造した。水酸化ストロンチウム八水和物(和光純薬社製)粉末を、充填率80%となるように円筒状の容器に入れた。振動式乾燥機を用い、−0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度120℃で20時間加熱することで乾燥した。加熱中は、振動を継続して加えておいた。加えた振動の程度は、振動数を1000cpmとし、振動幅を3.4mmとした。このようにして得られた水酸化ストロンチウム粉末について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表2に示す。また、得られた水酸化ストロンチウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを
図5及び
図6に示す。
図6に示すXRDチャートから、得られた水酸化ストロンチウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0066】
【表2】