(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合成樹脂フィルムの前記中間領域を前記ステージから剥がし取った後、前記ステージに接触している前記OLEDデバイスに対して、処理を実行する工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
前記処理は、前記OLEDデバイスに、誘電体および/または導電体のフィルムを貼ること、クリーニングまたはエッチングを行うこと、光学部品および/または電子部品を実装することのいずれか含む、請求項2に記載の製造方法。
前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、前記ステージが前記積層構造体の前記第2の表面を吸着している状態で実行される、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの前記界面を前記レーザ光で照射する工程は、前記ステージが前記積層構造体の前記第2の表面を吸着している状態で実行される、請求項4に記載の製造方法。
前記ステージの表面は、前記OLEDデバイスに対向する第1領域と、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域に対向する第2領域とを有しており、前記第1領域における吸着力は、前記第2領域における吸着力よりも高い、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
前記ステージは、前記ステージに支持されている前記積層構造体の前記第1部分に含まれる前記合成樹脂膜の前記中間領域の一部に対向する位置に、前記中間領域の把持を可能にする凹部を有している、請求項8に記載の製造装置。
前記ステージは、前記複数のOLEDデバイスに対向する第1領域と、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域に対向する第2領域とを有しており、前記第1領域における吸着力は、前記第2領域における吸着力よりも高い、請求項8または9に記載の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照しながら、本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法および製造装置の実施形態を説明する。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0024】
<積層構造体>
図1Aおよび
図1Bを参照する。本実施形態におけるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法では、まず、
図1Aおよび
図1Bに例示される積層構造体100を用意する。
図1Aは、積層構造体100の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示される積層構造体100のB−B線断面図である。
図1Aおよび
図1Bには、参考のため、互い直交するX軸、Y軸、およびZ軸を有するXYZ座標系が示されている。
【0025】
積層構造体100は、ガラスベース(マザー基板またはキャリア)10と、それぞれがTFT層20AおよびOLED層20Bを含む複数の機能層領域20と、ガラスベース10と複数の機能層領域20との間に位置してガラスベース10に固着している合成樹脂フィルム(以下、単に「樹脂膜」と称する)30と、複数の機能層領域20を覆う保護シート50を備えている。積層構造体100は、更に、複数の機能層領域20と保護シート50との間において、機能層領域20の全体を覆うガスバリア膜40を備えている。積層構造体100は、バッファ層などの図示されていない他の層を有していてもよい。
【0026】
積層構造体100の第1の表面100aはガラスベース10によって規定され、第2の表面100bは保護シート50によって規定されている。ガラスベース10および保護シート50は、製造工程中に一時的に用いられる部材であり、最終的なフレキシブルOLEDデバイスを構成する要素ではない。
【0027】
図示されている樹脂膜30は、複数の機能層領域20をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域30dと、個々のフレキシブル基板領域30dを囲む中間領域30iとを含む。フレキシブル基板領域30dと中間領域30iは、連続した1枚の樹脂膜30の異なる部分にすぎず、物理的に区別される必要はない。言い換えると、樹脂膜30のうち、各機能層領域20の真下に位置している部分がフレキシブル基板領域30dであり、その他の部分が中間領域30iである。
【0028】
複数の機能層領域20のそれぞれは、最終的にフレキシブルOLEDデバイスのパネルを構成する。言い換えると、積層構造体100は、分割前の複数のフレキシブルOLEDデバイスを1枚のガラスベース10が支持している構造を有している。各機能層領域20は、例えば厚さ(Z軸方向サイズ)が数十μm、長さ(X軸方向サイズ)が12cm程度、幅(Y軸方向サイズ)が7cm程度のサイズを持つ形状を有している。これらのサイズは、必要な表示画面の大きさに応じて任意の大きさに設定され得る。各機能層領域20のXY平面内における形状は、図示されている例において、長方形であるが、これに限定されない。各機能層領域20のXY平面内における形状は、正方形、多角形、または、輪郭に曲線を含む形状を有していてもよい。
【0029】
図1Aに示されるように、フレキシブル基板領域30dは、フレキシブルOLEDデバイスの配置に対応して、行および列状に、二次元的に配列されている。中間領域30iは、直交する複数のストライプから構成され、格子パターンを形成している。ストライプの幅は、例えば1〜4mm程度である。樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、最終製品の形態において、個々のフレキシブルOLEDデバイスの「フレキシブル基板」として機能する。これに対して、樹脂膜30の中間領域30iは、最終製品を構成する要素ではない。
【0030】
本開示の実施形態において、積層構造体100の構成は、図示されている例に限定されない。1枚のガラスベース10に支持されている機能層領域20の個数(OLEDデバイスの個数)は、複数である必要はなく、単数であってもよい。機能層領域20が単数である場合、樹脂膜30の中間領域30iは、1個の機能層領域20の周りを囲む単純なフレームパターンを形成する。
【0031】
なお、各図面に記載されている各要素のサイズまたは比率は、わかりやすさの観点から決定されており、実際のサイズまたは比率を必ずしも反映していない。
【0032】
本開示の製造方法に用いられ得る積層構造体100は、
図1Aおよび
図1Bに示される例に限定されない。
図1Cおよび
図1Dは、それぞれ、積層構造体100の他の例を示す断面図である。
図1Cに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、樹脂膜30よりも外側に拡がっている。
図1Dに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、かつ、ガラスベース10よりも外側に拡がっている。後述するように、積層構造体100からガラスベース10が隔離された後、積層構造体100は、剛性を有しないフレキシブルな薄いシート状の構造物になる。保護シート50は、ガラスベース10の剥離を行う工程、および、剥離後の工程において、機能層領域20が外部の装置または器具などに衝突したり、接触したりしたとき、機能層領域20を衝撃および摩擦などから保護する役割を果たす。保護シート50は、最終的に積層構造体100から剥がし取られるため、保護シート50の典型例は、接着力が比較的小さな接着層(離型剤の塗布層)を表面に有するラミネート構造を有している。積層構造体100のより詳細な説明は、後述する。
【0033】
<OLEDデバイスの分割>
本実施形態のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法によれば、上記の積層構造体100を用意する工程を実行した後、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する工程を行う。
【0034】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する位置を模式的に示す断面図および平面図である。切断のためのレーザビームの照射位置は、個々のフレキシブル基板領域30dの外周に沿っている。
図2Aおよび
図2Bにおいて、矢印または破線で示される照射位置(切断位置)CTを切断用のレーザビームで照射し、積層構造体100のうちでガラスベース10以外の部分を複数のOLEDデバイス1000とその他の不要部分とに切断する。切断により、個々のOLEDデバイス1000と、その周囲との間に数十μmから数百μmの隙間が形成される。このような切断は、レーザビームの照射に代えて、ダイシングソーによって行うことも可能である。切断後も、OLEDデバイス1000およびその他の不要部分は、ガラスベース10に固着されている。
【0035】
図2Bに示されているように、積層構造体100における「不要部分」の平面レイアウトは、樹脂膜30の中間領域30iの平面レイアウトに整合している。図示されている例において、この「不要部分」は、開口部を有する1枚の連続したシート状構造物である。しかし、本開示の実施形態は、この例に限定されない。切断用レーザビームの照射位置CTは、「不要部分」を複数の部分に分けるように設定されていても良い。なお、「不要部分」であるシート状構造物は、樹脂膜30の中間領域30iのみならず、中間領域30i上に存在する積層物(例えばガスバリア膜40および保護シート50)の切断された部分を含んでいる。
【0036】
レーザビームによって切断を行う場合、レーザビームの波長は、赤外、可視光、紫外のいずれの領域にあってもよい。ガラスベース10に及ぶ切断の影響を小さくすると言う観点からは、波長が緑から紫外域に含まれるレーザビームが望ましい。例えば、Nd:YAGレーザ装置によれば、2次高調波(波長532nm)、または3次高調波(波長343nmまたは355nm)を利用して切断を行うことができる。その場合、レーザ出力を1〜3ワットに調整して毎秒500mm程度の速度で走査すれば、ガラスベース10に損傷を与えることなく、ガラスベース10に支持されている積層物をOLEDデバイスと不要部分とに切断(分割)することができる。
【0037】
本開示の実施形態によれば、上記の切断を行うタイミングが従来技術に比べて早い。樹脂膜30がガラスベース10に固着した状態で切断が実行されるため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔が狭くても、高い正確度および精度で切断の位置合わせが可能になる。このため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔を短縮して、最終的に不要になる無駄な部分を少なくできる。また、従来技術では、ガラスベース10から剥離した後、樹脂膜30の表面(剥離表面)の全体を覆うように、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドなどが張り付けられることがある。そのような場合、切断により、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドもOLEDデバイス1000を覆う部分と、その他の不要な部分とに分割される。不要な部分は無駄に廃棄されることになる。これに対して、本開示の製造方法によれば、後に説明するように、このような無駄の発生を抑制できる。
【0038】
<剥離光照射>
樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割した後、剥離装置により、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面をレーザ光で照射する工程を行う。
【0039】
図3Aは、不図示の製造装置(剥離装置)におけるステージ212が積層構造体100を支持する直前の状態を模式的に示す図である。本実施形態におけるステージ212は、吸着のための多数の孔を表面に有する吸着ステージである。吸着ステージの構成の詳細は、後述する。積層構造体100は、積層構造体100の第2の表面100bがステージ212の表面212Sに対向するように配置され、ステージ212によって支持される。
【0040】
図3Bは、ステージ212が積層構造体100を支持している状態を模式的に示す図である。ステージ212と積層構造体100との配置関係は、図示される例に限定されない。例えば、積層構造体100の上下が反転し、ステージ212が積層構造体100の下方に位置していてもよい。
【0041】
図3Bに示される例において、積層構造体100は、ステージ212の表面212Sに接しており、ステージ212は積層構造体100を吸着している。
【0042】
次に、
図3Cに示されるように、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面をレーザ光(剥離光)216で照射する。
図3Cは、図の紙面に垂直な方向に延びるライン状に成形された剥離光216によって積層構造体100のガラスベース10と樹脂膜30との界面を照射している状態を模式的に示す図である。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10と樹脂膜30との界面において、剥離光216を吸収して分解(消失)する。剥離光216で上記の界面をスキャンすることにより、樹脂膜30のガラスベース10に対する固着の程度を低下させる。剥離光216の波長は、典型的には紫外域にある。剥離光216の波長は、剥離光216がガラスベース10には、ほとんど吸収されず、できるだけ樹脂膜30によって吸収されるように選択される。ガラスベース10の光吸収率は、例えば波長が343〜355nmの領域では10%程度だが、308nmでは30〜60%に上昇し得る。
【0043】
以下、本実施形態における剥離光の照射を詳しく説明する。
【0044】
本実施形態における剥離装置は、剥離光216を出射するラインビーム光源を備えている。ラインビーム光源は、レーザ装置と、レーザ装置から出射されたレーザ光をラインビーム状に成形する光学系とを備えている。
【0045】
図4Aは、剥離装置220のラインビーム光源214から出射されたラインビーム(剥離光216)で積層構造体100を照射する様子を模式的に示す斜視図である。わかりやすさのため、ステージ212、積層構造体100、およびラインビーム光源214は、図のZ軸方向に離れた状態で図示されている。剥離光216の照射時、積層構造体100の第2の表面100bはステージ212に接している。
【0046】
図4Bは、剥離光216の照射時におけるステージ212の位置を模式的に示している。
図4Bには表れていないが、積層構造体100はステージ212によって支持されている。
【0047】
剥離光216を放射するレーザ装置の例は、エキシマレーザなどのガスレーザ装置、YAGレーザなどの固体レーザ装置、半導体レーザ装置、および、その他のレーザ装置を含む。XeClのエキシマレーザ装置によれば、波長308nmのレーザ光が得られる。ネオジウム(Nd)がドープされたイットリウム・四酸化バナジウム(YVO4)、またはイッテルビウム(Yb)がドープされたYVO4をレーザ発振媒体として使用する場合は、レーザ発振媒体から放射されるレーザ光(基本波)の波長が約1000nmであるため、波長変換素子によって340〜360nmの波長を有するレーザ光(第3次高調波)に変換してから使用され得る。
【0048】
樹脂膜30とガラスベース10との界面に犠牲層(金属または非晶質シリコンから形成された薄層)を設けてもよい。アッシュの生成を抑制するという観点からは、波長が340〜360nmのレーザ光よりも、エキシマレーザ装置による波長308nmのレーザ光を利用することが、より有効である。また、犠牲層を設けることはアッシュ生成の抑制に顕著な効果がある。
【0049】
剥離光216の照射は、例えば250〜300mJ/cm
2のエネルギ照射密度で実行され得る。ラインビーム状の剥離光216は、ガラスベース10を横切るサイズ、すなわちガラスベースの1辺の長さを超えるライン長さ(長軸寸法、
図4BのY軸方向サイズ)を有する。ライン長さは、例えば750mm以上であり得る。一方、剥離光216のライン幅(短軸寸法、
図4BのX軸方向サイズ))は、例えば0.2mm程度であり得る。これらの寸法は、樹脂膜30とガラスベース10との界面における照射領域のサイズである。剥離光216は、パルス状または連続波として照射され得る。パルス状の照射は、例えば毎秒200回程度の周波数で行われ得る。
【0050】
剥離光216の照射位置は、ガラスベース10に対して相対的に移動し、剥離光216のスキャンが実行される。剥離装置220内において、剥離光を出射する光源214および光学装置(不図示)が固定され、積層構造体100が移動してもよいし、その逆であってもよい。本実施形態では、ステージ212が
図4Bに示される位置から
図4Cに示される位置に移動する間、剥離光216の照射が行われる。すなわち、X軸方向に沿ったステージ212の移動により、剥離光216のスキャンが実行される。
【0051】
<リフトオフ>
図5Aは、剥離光の照射後、積層構造体100がステージ212に接触した状態を記載している。この状態を維持したまま、ステージ212からガラスベース10までの距離を拡大する。このとき、本実施形態におけるステージ212は積層構造体100のOLEDデバイス部分を吸着している。
【0052】
不図示の駆動装置がガラスベース10を保持してガラスベース10の全体を矢印Lの方向に移動させることにより、剥離(リフトオフ)が実行される。ガラスベース10は、不図示の吸着ステージによって吸着した状態で吸着ステージとともに移動し得る。ガラスベース10の移動の方向は、積層構造体100の第1の表面100aに垂直である必要はなく、傾斜していてもよい。ガラスベース10の移動は直線運動である必要はなく、回転運動であってもよい。また、ガラスベース10が不図示の保持装置または他のステージによって固定され、ステージ212が図の上方に移動してもよい。
【0053】
図5Bは、こうして分離された積層構造体100の第1部分110と第2部分120とを示す断面図である。積層構造体100の第1部分110は、ステージ212に接触した複数のOLEDデバイス1000を含む。各OLEDデバイス1000は、機能層領域20と、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとを有している。これに対して、積層構造体100の第2部分120は、ガラスベース10と、樹脂膜30の中間領域30iとを有している。
【0054】
図5Cは、ステージ212から樹脂膜30の中間領域30iが剥がされた状態を示す断面図である。ステージ212には各OLEDデバイス1000が接触した状態が維持されている。
【0055】
<ステージの構造例1>
図6Aおよび
図6Bは、本開示の実施形態で使用され得るステージ212の構造の一例を示す斜視図である。
図6Aは、樹脂膜30の中間領域30iがステージ212に接触している状態を示している。
図6Bは、樹脂膜30の中間領域30iがステージ212から剥がされた状態を示している。
【0056】
図示されているステージ212には、樹脂膜30の中間領域30iの把持を可能にする凹部218が設けられている。この例における凹部218は、ステージ212の頂部の切り欠きである。このような凹部218をステージ212に設けることにより、積層構造体100の不要部分(OLEDデバイス以外の部分)がステージ212の表面212Sに接触していない状態が実現する。このため、人の指、治具、ロボットアームなどにより、樹脂膜30の中間領域30iの一部を保持してZ軸の負方向に移動させることができ、それによって不要部分(OLEDデバイス以外の部分)の全体をステージ212から除去することができる。
【0057】
このように積層構造体100の第1部分110における不要部分(OLEDデバイス以外の部分)の全体をステージ212から除去すると、ステージ212にはOLEDデバイス1000のみが接触した状態が実現される。ステージ212には、最終製品を構成するOLEDデバイス1000のみが支持されているため、ステージ212に接触した状態にあるOLEDデバイス1000に対して各種の処理(部品の実装など)を無駄なく行うことが可能になる。処理の内容については、後述する。
【0058】
図示されている例において、凹部218の個数は1個であるが、凹部218の個数は複数であってもよい。凹部218の位置も、ステージ212の四隅に限定されない。凹部218の形状も、矩形の平面によって規定される必要はなく、曲面または凹凸面によって規定されていても良い。丸穴、貫通孔、スリットなど、種々の形状を有する凹部218を設けることにより、積層構造体100の第1部分110に含まれる不要部分をステージ212から剥がすことが容易になる。
【0059】
図2Bを参照しながら説明したように、切断用レーザビームの照射位置CTによっては「不要部分」が複数の部分から構成され得る。「不要部分」が複数の部分から構成される場合、それぞれの部分を把持できるように1個または複数個の凹部218がステージ212に設けられ得る。「不要部分」を構成する複数の部分を跨ぐように溝状の凹部が積層構造体100の外縁に沿ってステージ212に形成されていてもよい。
【0060】
更に後述するように、ステージ212の表面212Sのうち、積層構造体100の第1部分110に含まれる不要部分に接触する領域の吸着力を局所的に低下させたり、剥離を促したりしても良い。そのような構成を凹部218と組み合わせてもよい。
【0061】
上記の例では、剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方が、ステージ212を備える剥離装置220によって実行されている。本開示の実施形態は、このような例に限定されない。剥離光の照射プロセスは、ステージ212とは異なる他のステージを備える剥離光照射装置によって実行し、剥離プロセスは、ステージ212を備える剥離装置を用いて実行してもよい。この場合、剥離光の照射後に、積層構造体100を不図示の他のステージからステージ212に移動させる必要がある。同一のステージを用いて剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方を実行すれば、ステージ間で積層構造体を移動させる工程を省くことができる。
【0062】
<ステージの構造例2>
図7は、他の構造を有するステージ212の表面を模式的に示す斜視図である。
図8は、
図7のステージ212の表面を模式的に示す平面図である。簡単のため、
図6Bの凹部218の記載は省略されている。凹部218は、以下に説明する各ステージ212にとって不可欠の構成要素ではない。
【0063】
この例において、ステージ212は、多孔質の正面プレート222上に配置された吸着シート300を備えている。図示されるステージ212の表面は、それぞれが複数のOLEDデバイス1000(不図示)に対向する複数の第1領域300Aと、樹脂膜30の中間領域30iに対向する第2領域300Bとを有している。第1領域300Aにおける吸着力は、第2領域300Bにおける吸着力よりも大きい。
【0064】
図9Aは、第1領域300Aと第2領域300Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図9Bは、
図9AのB−B線断面図である。この例におけるステージ212は、
図9Bに示されるように、多孔質の正面プレート222と、正面プレート222に平行な背面プレート224と、これらのプレート間に形成されたスペース226と、正面プレート222上に配置された吸着シート300とを有している。スペース226は、ポンプなどの吸引装置(不図示)に接続される。動作時、吸引装置によってスペース226が負圧になるため、多孔質の正面プレート222が有する多数の空隙、および、吸着シートの300の開口部(貫通孔300H)を介して外部の空気がスペース226に流入する。このため、吸着シート300に接する物体はステージ212に吸引され、ステージ212に吸着する。
【0065】
多孔質の正面プレート222は、種々の多孔質材料から形成され得る。多孔質材料の気孔率は、例えば20%以上60%以下の範囲内にある。平均気孔径は、例えば5μm以上600μm以下の範囲内にある。多孔質材料の例は、金属もしくはセラミックスの焼結体、または樹脂である。正面プレート222を構成する多孔質材料の厚さは、例えば1mm以上50mm以下の範囲内にある。
【0066】
吸着シート300は、
図9Aおよび
図9Bに示されるように、複数の貫通孔300Hを有しているが、その開口率は、OLEDデバイス1000に接する第1領域300Aと、樹脂30の中間領域30iに対向する第2領域300Bとで異なっている。吸着シート300の「開口率」は、ステージ212の表面において、多孔質の正面プレート222が露出して吸着機能を発揮し得る領域(開口部)の面積割合である。
【0067】
吸着シート300は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、フッ素樹脂(ポリフロン等)、ポリイミド(PI)、PC(ポリカーボネート)、ABS樹脂などの種々の材料から形成され得る。また、吸着シート300は、織布、不織布、多孔質フィルムなどから形成されていてもよい。吸着シート300の厚さは、例えば0.05〜3.0mm程度であり得る。
【0068】
多孔質の正面プレート222の表面は、ほぼ一様な吸引力を発揮し得るが、吸着シート300を載せることにより、第1領域300Aと第2領域300Bとで吸着力に差が生じる。正面プレート222の表面のうち、吸着シート300の非開口部によって覆われた領域は、空気を吸引できず、吸着力を発揮しない。吸着シート300は、多孔質の正面プレート222によって吸着された状態で使用され得る。吸着シート300を正面プレート222の表面に固定する方法は、吸着に限定されず、接着層または治具を介して正面プレート222またはステージ212に固定してもよい。
【0069】
既存の吸着ステージに吸着シート300を組み合わせて使用することにより、積層構造体100の様々な設計に容易に対応することができる。例えば、OLEDデバイス1000の形状、寸法、個数、または配列パターンが変更された場合、この変更に応じた吸着シートに交換すれば、ステージ212の吸着力の面内分布を変更することが容易である。言い換えると、ステージ212の全体を変更することなく、吸着シート300のみを交換すればよい。
【0070】
本実施形態において、吸着シート300における第1領域300Aの貫通孔300Hの面内個数密度(以下、単に「密度」)は、第2領域300Bの貫通孔300Hの密度よりも高い。言い換えると、第1領域300Aの開口率は第2領域300Bの開口率よりも高い。このため、第1領域300Aの吸着力(吸引力)に比べて第2領域300Bの吸着力は小さい。第2領域300Bにおける貫通孔の密度は第1領域300Aにおける貫通孔300Hの密度の0〜50%程度、好ましくは0〜30%程度である。ある態様において、第2領域300Bの貫通孔300Hの密度は0個/cm
2であってもよい。
【0071】
第1領域300Aと第2領域300Bとの間で吸着力の強弱を設ける方法は、吸着シート300における貫通孔300Hの密度に差を与えることに限定されない、貫通孔300Hの大きさおよび/または形状に差を与えることによっても開口率に差を与え、吸着力を調整することができる。更に、吸着シート300の第2領域300Bの厚さを第1領域300Aの厚さよりも小さくすることにより、積層構造体100が第1領域300Aに接しているとき、積層構造体100と第2領域300Bとの間に隙間が発生するようにしてもよい。そのような隙間の存在により、第2領域300Bの吸着力を低下させることが可能である。
【0072】
上記の構成を有するステージ212を用いることにより、
図5Aに示される状態において、ステージ212の第1領域300Aに接している樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dを、それぞれ、ステージ212の第1領域300Aに強く吸着させることができる。一方、樹脂膜30の中間領域30iとステージ212の第2領域300Bとの間には強い吸着力は発生していない。
【0073】
図9Aおよび
図9Bを参照しながら説明した構成例では、吸着シート300のうちでOLEDデバイス1000に接する第1領域300Aの形状および大きさが、OLEDデバイス1000の形状および大きさに一致しているが、本開示の実施形態は、この例に限定されない。第1領域300Aの吸着力が充分に強ければ、第1領域300Aは、個々のOLEDデバイス1000の全体ではなく、少なくとも一部に対向していればよい。
【0074】
図10は、他の構成例における吸着シート300を示す平面図である。吸着シート300の第1領域300Aは、積層構造体100に含まれる個々のOLEDデバイス1000をしっかりと吸着し、かつ、樹脂膜30の中間領域30iに接触しないかぎり、任意の形状および寸法を有し得る。
【0075】
図11Aは、吸着シート300の他の構成例における第1領域300Aと第2領域300Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図11Bは、
図11AのB−B線断面図である。この例において、第1領域300Aは、多孔質材料から形成された正面プレート222の表面212Sを露出させる大きな開口部300Pによって規定されている。一方、第2領域300Bは、多孔質材料から形成された正面プレート222の表面212Sを覆い、吸着力を低下させる機能を発揮する。図示される例において、第2領域300Bには貫通孔300Hが設けられているが、第2領域300Bに貫通孔300Hは不可欠ではない。
【0076】
<ステージの構造例3>
図12Aは、正面プレート222が多孔質材料ではなく、貫通孔を有するプレートから形成されたステージ212における第1領域212Aと第2領域212Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図12Bは、
図12AのB−B線断面図である。
【0077】
この例において、第1領域212Aの貫通孔222Aの密度または開口率は第2領域212Bの貫通孔222Bの密度または開口率よりも高い。このため、第2領域212Bの吸着力は第1領域212Aの吸着力に比べて小さい。
【0078】
このようにステージ212そのものに吸着力が異なる複数の領域が設けられていてもよい。
【0079】
<ステージの構造例4>
本実施形態のステージ212における第2領域212Bは、樹脂膜30の中間領域30iに対して流体を噴出し得る噴出孔を有していてもよい。流体の典型例は、大気または窒素などの気体である。
【0080】
図13Aは、第1領域212Aと第2領域212Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図13Bは、
図13AのB−B線断面図である。この例におけるステージ212は、
図13Bに示されるように、第1領域212Aに多孔質部分232Aを有する正面プレート222と、正面プレート222に平行な背面プレート224とを有している。正面プレート222の第2領域212Bは、多孔質部分232Aの代わりに噴出孔(噴気孔)232Bを有している。正面プレート222と背面プレート224との間には、仕切りによって区画された第1スペース226Aおよび第2スペース226Bが形成されている。第1スペース226Aは、第1領域212Aの多孔質部分232Aの多数の気孔を介して外部と連通している。一方、第2スペース226Bは第2領域212Bの噴出孔232Bを介して外部と連通している。
【0081】
第1スペース226Aは、減圧ポンプなどの吸引装置(不図示)に接続される。動作時、吸引装置によって第1スペース226Aが負圧になるため、第1領域212Aの多孔質部分232Aを介して外部の空気が第1スペース226Aに流入する。このため、正面プレート222の第1領域212Aに接する物体は、多孔質部分232Aによって吸引され、その結果、ステージ212に吸着する。
【0082】
第2スペース226Bは、加圧ポンプなどの加圧装置(不図示)に接続される。動作時、加圧装置によって第2スペース226Bが正圧になるため、第2領域212Bの噴出孔232Bを介して第2スペース226Bから外部に空気が噴き出す。このため、正面プレート222の第2領域212Bに接する物体は、噴出孔232Bから離れ、ステージ212から剥がれることになる。
【0083】
正面プレート222の第1領域212Aは、種々の多孔質材料から形成され得る。多孔質材料の気孔率は、例えば20%以上60%以下の範囲内にある。平均気孔径は、例えば5μm以上600μm以下の範囲内にある。多孔質材料の例は、金属もしくはセラミックスの焼結体、または樹脂である。多孔質材料の厚さは、例えば1mm以上50mm以下の範囲内にある。正面プレート222の第2領域212Bにおける噴出孔232Bの内径は、例えば数百μmから数mmの範囲内にある。
【0084】
図13Aの例において、噴出孔232Bは等間隔で直線上に配列されている。本開示の実施形態は、この例に限定されない。噴出孔232Bは、1もしくは複数の曲線または屈曲線上に位置していてもよい。また、噴出孔232Bの配列は等間隔である必要もない。隣接する2個の噴出孔232Bの中心間距離は、例えば数mm〜3cmである。
【0085】
噴出孔232Bを介して第2スペース226Bから外部に空気などの流体が噴出するタイミングは、
図5Cのプロセスを実行するときである。このとき以外は、噴出孔232Bから流体を噴出する必要はない。従って、分離の工程を実行する前の段階において、第2スペース226Bは、第1スペース226Aと同様に負圧にされていてもよい。そのとき、噴出孔232Bは、第1領域212Aの多孔質部分232Aとともに積層構造体100の吸着に寄与し得る。
【0086】
上記の構成を有するステージ212を用いることにより、
図5Aに示される状態において、ステージ212の第1領域212Aに接している樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dを、それぞれ、ステージ212の第1領域212Aに強く吸着させることができる。一方、樹脂膜30の中間領域30iとステージ212の第2領域212Bとの間では、少なくとも流体噴出時に、ステージ212の表面212Sから中間領域30iを剥離することができる。その結果、樹脂膜30の中間領域30iは、ステージ212から離れやすくなる。
【0087】
この構成例では、OLEDデバイス1000に接する第1領域212Aの形状および大きさが、OLEDデバイス1000の形状および大きさに一致しているが、本開示の実施形態は、この例に限定されない。第1領域212Aの吸着力が充分に強ければ、第1領域212Aは、個々のOLEDデバイス1000の全体ではなく、少なくとも一部に対向していればよい。
【0088】
図10は、第1領域212Aの他の配置例を示す図である。積層構造体100に含まれる個々のOLEDデバイス1000をしっかりと吸着することができれば、第1領域212Aの形状および寸法は任意である。ただし、噴出孔232Bは、樹脂膜30の中間領域30iに対向する領域に配置される。
【0089】
本実施形態では、ステージ212が第1領域212Aに複数の多孔質部分232Aを備え、負圧によって積層構造体100を吸着するが、本開示のステージは、この例に限定されない。例えば静電チャックを備えるステージ、または第1領域212Aに多孔質部分232Aに代えて粘着層を有するステージであってもよい。そのようなステージも、樹脂膜30の中間領域30iに対向する領域(第2領域212B)に複数の噴出孔232Bを有していれば、上述した機能を実現することができる。
【0090】
上記の各構成を有するステージ212を用いることにより、
図5Bの状態における樹脂膜30の中間領域30iを、ステージ212から容易に取り除くことができる。
【0091】
<剥離後の工程>
図14は、ステージ212に吸着された状態にある積層構造体100の第1部分110(OLEDデバイス1000)から樹脂膜30の中間領域30iが剥がし取られる状態を示す斜視図である。
【0092】
図15は、ステージ212に吸着された状態にあるOLEDデバイス1000を示す斜視図である。ステージ212には、行および列状に配列された複数のOLEDデバイス1000が吸着されている。
図15の例においては、樹脂膜30のうち、各OLEDデバイス1000のフレキシブル基板領域30dの表面(剥離表面)30sが露出している。
【0093】
図16は、ステージ212がOLEDデバイス1000を吸着している状態を示す断面図である。この断面は、ZX面に平行な断面である。
図16のZ軸の方向は、
図14および
図15のZ軸の方向から反転している。
【0094】
ステージ212に接触した複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対しては、順次または同時に、様々な処理を実行することができる。
【0095】
OLEDデバイス1000に対する「処理」は、複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに、誘電体および/または導電体のフィルムを貼ること、クリーニングまたはエッチングを行うこと、ならびに、光学部品および/または電子部品を実装することを含み得る。具体的には、個々のOLEDデバイス1000のフレキシブル基板領域30dに対して、例えば、偏光板、封止フィルム、タッチパネル、放熱シート、電磁シールド、ドライバ集積回路などの部品が実装され得る。シート状の部品には、光学的、電気的、または磁気的な機能をOLEDデバイス1000に付加し得る機能性フィルムが含まれる。
【0096】
複数のOLEDデバイス1000がステージ212に吸着した状態で支持されているため、各OLEDデバイス1000に対する様々な処理が効率的に実行できる。
【0097】
ガラスベース10から剥離された樹脂膜30の表面30sは、活性であるため、表面30sを保護膜で覆ったり、疎水化の表面処理を行ったりした後、その上に各種の部品を実装してもよい。
【0098】
図17は、シート状の部品(機能性フィルム)60が実装された後、OLEDデバイス1000がステージ212から取り外された状態を模式的に示す断面図である。
【0099】
従来技術によれば、OLEDデバイス1000を分割する前に樹脂膜をガラスベースから剥離するため、その後の処理を行うときには、多数のOLEDデバイス1000が一枚の樹脂膜に固着した状態にある。そのため、個々のOLEDデバイス1000に対して効率的な処理を実行することが困難である。また、シート状の部品を取り付けた後に、OLEDデバイス1000を分割する場合、シート状部品のうち、隣接する2個のOLEDデバイス1000の中間領域に位置する部分は無駄になる。
【0100】
これに対して、本開示の実施形態によれば、ガラスベース10から剥離した後も多数のOLEDデバイス1000がステージ212上に整然と配列されているため、個々のOLEDデバイス1000に対して、順次または同時に、様々な処理を効率的に実行することが可能になる。
【0101】
積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離する工程を行い、不要部分をステージ212から除去した後、
図18に示すように、ステージ212に接触した複数のOLEDデバイス1000に他の保護シート(第2の保護シート)70を固着する工程を更に実行してもよい。第2の保護シート70は、ガラスベース10から剥離した樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dの表面を一時的に保護する機能を発揮し得る。第2の保護シート70は、前述の保護シート50と同様のラミネート構造を有し得る。保護シート50を第1の保護シート50と呼ぶことができる。
【0102】
第2の保護シート70は、ステージ212に接触した複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対して上記の様々な処理を実行した後、複数のOLEDデバイス1000に固着されてもよい。
【0103】
第2の保護シート70を付着した後、OLEDデバイス1000に対するステージ212による吸着を停止すると、第2の保護シート70に固着された状態にある複数のOLEDデバイス1000をステージ212から離すことができる。その後、第2の保護シート70は、複数のOLEDデバイス1000のキャリアとして機能し得る。これは、ステージ212から第2の保護シート70へのOLEDデバイス1000の転写である。第2の保護シート70に固着された状態にある複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対して、順次または同時に、様々な処理を実行してもよい。
【0104】
図19は、複数のOLEDデバイス1000にそれぞれ実装される複数の部品(機能性フィルム)80を載せたキャリアシート90を示す断面図である。このようなキャリアシート90を矢印Uの方向に移動させることにより、各部品80をOLEDデバイス1000に取り付けることが可能である。部品80の上面は、OLEDデバイス1000に強く付着する接着層を有している。一方、キャリアシート90と部品80との間は、比較的弱く付着している。このようなキャリアシート90を用いることにより、部品80の一括的な「転写」が可能になる。このような転写は、複数のOLEDデバイス1000がステージ212に規則的に配置された状態で支持されているため、容易に実現する。
【0105】
積層構造体
以下、
図2Aおよび
図2Bに示す分割を行う前における積層構造体100の構成をより詳しく説明する。
【0106】
まず、
図20Aを参照する。
図20Aは、表面に樹脂膜30が形成されたガラスベース10を示す断面図である。ガラスベース10は、プロセス用の支持基板であり、その厚さは、例えば0.3〜0.7mm程度であり得る。
【0107】
本実施形態における樹脂膜30は、例えば厚さ5μm以上100μm以下のポリイミド膜である。ポリイミド膜は、前駆体であるポリアミド酸またはポリイミド溶液から形成され得る。ポリアミド酸の膜をガラスベース10の表面に形成した後に熱イミド化を行ってもよいし、ポリイミドを溶融または有機溶媒に溶解したポリイミド溶液からガラスベース10の表面に膜を形成してもよい。ポリイミド溶液は、公知のポリイミドを任意の有機溶媒に溶解して得ることができる。ポリイミド溶液をガラスベース10の表面10sに塗布した後、乾燥することによってポリイミド膜が形成され得る。
【0108】
ポリイミド膜は、ボトムエミッション型のフレキシブルディプレイの場合、可視光領域の全体で高い透過率を実現することが好ましい。ポリイミド膜の透明度は、例えばJIS K7105−1981に従った全光線透過率によって表現され得る。全光線透過率は80%以上、または85%以上に設定され得る。一方、トップエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合には透過率の影響は受けない。
【0109】
樹脂膜30は、ポリイミド以外の合成樹脂から形成された膜であってもよい。ただし、本開示の実施形態では、薄膜トランジスタを形成する工程において、例えば350℃以上の熱処理を行うため、この熱処理によって劣化しない材料から樹脂膜30は形成される。
【0110】
樹脂膜30は、複数の合成樹脂層の積層体であってもよい。本実施形態のある態様では、フレキシブルディスプレイの構造物をガラスベース10から剥離するとき、ガラスベース10を透過する紫外線レーザ光を樹脂膜30に照射するレーザリフトオフが行われる。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10との界面において、このような紫外線レーザ光を吸収して分解(消失)する必要がある。また、例えば、ある波長帯域のレーザ光を吸収してガスを発生する犠牲層をガラスベース10と樹脂膜30との間に配置しておけば、そのレーザ光の照射により、樹脂膜30をガラスベース10から容易に剥離することができる。犠牲層を設けると、アッシュの生成が抑制されるという効果も得られる。
【0111】
<研磨処理>
樹脂膜30の表面30x上にパーティクルまたは凸部などの研磨対象(ターゲット)が存在する場合、研磨装置によってターゲットを研磨し平坦化してもよい。パーティクルにどの異物の検出は、例えばイメージセンサによって取得した画像を処理することによって可能である。研磨処理後、樹脂膜30の表面30xに対する平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理は、平坦性を向上させる膜(平坦化膜)を樹脂膜30の表面30xに形成する工程を含む。平坦化膜は樹脂から形成されている必要はない。
【0112】
<下層ガスバリア膜>
次に、樹脂膜30上にガスバリア膜を形成してもよい。ガスバリア膜は、種々の構造を有し得る。ガスバリア膜の例は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの膜である。ガスバリア膜の他の例は、有機材料層および無機材料層が積層された多層膜であり得る。このガスバリア膜は、機能層領域20を覆う後述のガスバリア膜から区別するため、「下層ガスバリア膜」と呼んでもよい。また、機能層領域20を覆うガスバリア膜は、「上層ガスバリア膜」と呼ぶことができる。
【0113】
<機能層領域>
以下、TFT層20AおよびOLED層20Bなどを含む機能層領域20、ならびに上層ガスバリア膜40を形成する工程を説明する。
【0114】
まず、
図20Bに示されるように、複数の機能層領域20をガラスベース10上に形成する。ガラスベース10と機能層領域20との間には、ガラスベース10に固着している樹脂膜30が位置している。
【0115】
機能層領域20は、より詳細には、下層に位置するTFT層20Aと、上層に位置するOLED層20Bとを含んでいる。TFT層20AおよびOLED層20Bは、公知の方法によって順次形成される。TFT層20Aは、アクティブマトリクスを実現するTFTアレイの回路を含む。OLED層20Bは、各々が独立して駆動され得るOLED素子のアレイを含む。TFT層20Aの厚さは例えば4μmであり、OLED層20Bの厚さは例えば1μmである。
【0116】
図21は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイにおけるサブ画素の基本的な等価回路図である。ディスプレイの1個の画素は、例えばR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)などの異なる色のサブ画素によって構成され得る。
図21に示される例は、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、保持容量CH、およびOLED素子ELを有している。選択用TFT素子Tr1は、データラインDLと選択ラインSLとに接続されている。データラインDLは、表示されるべき映像を規定するデータ信号を運ぶ配線である。データラインDLは選択用TFT素子Tr1を介して駆動用TFT素子Tr2のゲートに電気的に接続される。選択ラインSLは、選択用TFT素子Tr1のオン/オフを制御する信号を運ぶ配線である。駆動用TFT素子Tr2は、パワーラインPLとOLED素子ELとの間の導通状態を制御する。駆動用TFT素子Tr2がオンすれば、OLED素子ELを介してパワーラインPLから接地ラインGLに電流が流れる。この電流がOLED素子ELを発光させる。選択用TFT素子Tr1がオフしても、保持容量CHにより、駆動用TFT素子Tr2のオン状態は維持される。
【0117】
TFT層20Aは、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、データラインDL、および選択ラインSLなどを含む。OLED層20BはOLED素子ELを含む。OLED層20Bが形成される前、TFT層20Aの上面は、TFTアレイおよび各種配線を覆う層間絶縁膜によって平坦化されている。OLED層20Bを支持し、OLED層20Bのアクティブマトリクス駆動を実現する構造体は、「バックプレーン」と称される。
【0118】
図21に示される回路要素および配線の一部は、TFT層20AおよびOLED層20Bのいずれかに含まれ得る。また、
図21に示されている配線は、不図示のドライバ回路に接続される。
【0119】
本開示の実施形態において、TFT層20AおよびOLED層20Bの具体的な構成は多様であり得る。これらの構成は、本開示の内容を制限しない。TFT層20Aに含まれるTFT素子の構成は、ボトムゲート型であってもよいし、トップゲート型であってもよい。また、OLED層20Bに含まれるOLED素子の発光は、ボトムエミション型であってもよいし、トップエミション型であってもよい。OLED素子の具体的構成も任意である。
【0120】
TFT素子を構成する半導体層の材料は、例えば、結晶質のシリコン、非晶質のシリコン、酸化物半導体を含む。本開示の実施形態では、TFT素子の性能を高めるために、TFT層20Aを形成する工程の一部が350℃以上の熱処理工程を含む。
【0121】
<上層ガスバリア膜>
上記の機能層を形成した後、
図20Cに示されるように、機能層領域20の全体をガスバリア膜(上層ガスバリア膜)40によって覆う。上層ガスバリア膜40の典型例は、無機材料層と有機材料層とが積層された多層膜である。なお、上層ガスバリア膜40と機能層領域20との間、または上層ガスバリア膜40の更に上層に、粘着膜、タッチスクリーンを構成する他の機能層、偏光膜などの要素が配置されていてもよい。上層ガスバリア膜40の形成は、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術によって行うことができる。封止信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate)は、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下であることが求められている。本開示の実施形態によれば、この基準を達成している。上層ガスバリア膜40の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0122】
図22は、上層ガスバリア膜40が形成された段階における積層構造体100の上面側を模式的に示す斜視図である。1個の積層構造体100は、ガラスベース10に支持された複数のOLEDデバイス1000を含んでいる。
図22に示される例において、1個の積層構造体100は、
図1Aに示される例よりも多くの機能層領域20を含んでいる。前述したように、1枚のガラスベース10に支持される機能層領域20の個数は任意である。
【0123】
<保護シート>
次に
図20Dを参照する。
図20Dに示されるように、積層構造体100の上面に保護シート50を張り付ける。保護シート50は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの材料から形成され得る。前述したように、保護シート50の典型例は、離型剤の塗布層を表面に有するラミネート構造を有している。保護シート50の厚さは、例えば50μm以上150μm以下であり得る。
【0124】
こうして作製された積層構造体100を用意した後、前述の製造装置(剥離装置220)を用いて本開示による製造方法を実行することができる。
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法によれば、積層構造体(100)の樹脂膜(30)の中間領域(30i)とフレキシブル基板領域(30d)とを分割した後、樹脂膜(30)とガラスベース(10)との界面をレーザ光で照射する。積層構造体(100)をステージ(212)に接触させた状態で、積層構造体(100)を第1部分(110)と第2部分(120)とに分離する。第1部分(110)は、ステージ(212)に付着した中間領域(30i)およびOLEDデバイス(1000)を含み、OLEDデバイス(1000)は、機能層領域(20)とフレキシブル基板領域(30d)を有する。第2部分(120)は、ガラスベース(10)を含む。OLEDデバイス(1000)がステージ(212)に付着している状態を維持したまま、ステージに付着した中間領域(30i)をステージから剥がし取る。