特許第6334149号(P6334149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334149
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】放射線検出器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   G01T1/20 L
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-250935(P2013-250935)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2015-108533(P2015-108533A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年10月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 克久
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−076577(JP,A)
【文献】 特開2011−058831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子を有するアレイ基板上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を形成する工程と、
前記シンチレータ層を覆う防湿体に設けられ、前記シンチレータ層の外側に位置する環状のつば部、若しくは前記つば部に対向する前記アレイ基板上に接着剤を塗布する工程と、
前記つば部と、前記アレイ基板と、を近接させる工程と、
前記接着剤を硬化させる工程と、
を備え、
前記つば部と、前記アレイ基板と、を近接させる工程において、
前記防湿体は、トレイに載置され、
前記トレイの前記防湿体が載置される領域の外側に設けられた厚み制御部が前記アレイ基板と接触し、
前記厚み制御部により、前記つば部と、前記アレイ基板と、の間の距離が一定に保たれる放射線検出器の製造方法。
【請求項2】
前記厚み制御部は、少なくとも前記アレイ基板に接触する側が可撓性を有する請求項1載の放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
前記厚み制御部は、樹脂層と、前記樹脂層に設けられた粘着層を有し、
前記厚み制御部は、前記粘着層を介して、前記トレイに設けられている請求項またはに記載の放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出器の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器の一例にX線検出器がある。X線検出器においては、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換し、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子を用いて信号電荷に変換することで画像を取得している。
また、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、シンチレータ層上に反射層をさらに設ける場合もある。
ここで、シンチレータ層と反射層は、水蒸気などに起因する特性の劣化を抑制するために外部雰囲気から隔離する必要がある。特に、シンチレータ層が、CsI(ヨウ化セシウム):Tl(タリウム)膜やCsI:Na(ナトリウム)膜などからなる場合には、湿度などによる特性劣化が大きくなるおそれがある。
そのため、ポリパラキシリレンからなる膜でシンチレータ層と反射層を覆ったり、シンチレータ層の周囲を囲う包囲部材と包囲部材上に設けられたカバーとを用いてシンチレータ層を封止する技術が提案されている。
また、さらに高い防湿性能を得られる構造として、シンチレータ層と反射層をハット形状の防湿体で覆い、防湿体のつば(鍔)部を基板と接着する構造が提案されている。
ハット形状の防湿体を用いる場合には、防湿体のつば部と基板との間に介在させる接着剤の塗布量を多くし、加えてつば部と基板とを密着させるための加圧力を一定以上に大きくすれば、つば部と基板との封止性を確保し、かつ高い信頼性を得ることができる。
ところが、接着剤の塗布量を多くし、加圧力を一定以上に大きくすれば、防湿体のつば部から外側にはみ出す接着剤の量が多くなり、防湿体の近傍におけるフレキシブルプリント基板などの接続が困難となるおそれがある。また、防湿体のつば部から外側にはみ出す接着剤の量が多くなると、最終的なパネル寸法に切断する際に、接着剤のはみ出し部分が切断のブレードに干渉するおそれもある。
また、近年においては、X線検出器の小型化や軽量化などのために、防湿体のつば部の寸法を小さくすることが望まれている。そのため、防湿体のつば部から外側に接着剤がはみ出すのを抑制することがさらに困難となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6262422号明細書
【特許文献2】特開平05−242847号公報
【特許文献3】特開2009−128023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、防湿体のつば部から外側に接着剤がはみ出すのを抑制することができる放射線検出器の製造方法提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る放射線検出器の製造方法は、光電変換素子を有するアレイ基板上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を形成する工程と、前記シンチレータ層を覆う防湿体に設けられ、前記シンチレータ層の外側に位置する環状のつば部、若しくは前記つば部に対向する前記アレイ基板上に接着剤を塗布する工程と、前記つば部と、前記アレイ基板と、を近接させる工程と、前記接着剤を硬化させる工程と、を備えている。そして、前記つば部と、前記アレイ基板と、を近接させる工程において、前記防湿体は、トレイに載置され、前記トレイの前記防湿体が載置される領域の外側に設けられた厚み制御部が前記アレイ基板と接触し、前記厚み制御部により、前記つば部と、前記アレイ基板と、の間の距離が一定に保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態に係るX線検出器1を例示するための模式斜視図である。
図2】X線検出器1の模式断面図である。
図3】(a)は、防湿体の模式正面図、(b)は、防湿体の模式側面図である。
図4】本実施の形態に係る接着層8の形成において用いるトレイ(治具)100を例示するための模式断面図である。
図5】本実施の形態に係る接着層8の形成の様子を例示するための模式断面図である。
図6】比較例に係る接着層18の形成において用いるトレイ(治具)110を例示するための模式断面図である。
図7】比較例に係る接着層18の形成の様子を例示するための模式断面図である。
図8】防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aをはみ出させる方法を例示するための模式図である。
図9】防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aをはみ出させる方法を例示するための模式図である。
図10】他の実施形態に係る厚み制御部について例示をするための模式断面図である。
図11】他の実施形態に係る厚み制御部について例示をするための模式断面図である。
図12】他の実施形態に係る厚み制御部について例示をするための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、本発明の実施形態に係る放射線検出器は、X線のほかにもγ線などの各種放射線に適用させることができる。ここでは、一例として、放射線の中の代表的なものとしてX線に係る場合を例にとり説明をする。したがって、以下の実施形態の「X線」を「他の放射線」に置き換えることにより、他の放射線にも適用させることができる。
【0008】
まず、本発明の第1の実施形態に係るX線検出器1について例示をする。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るX線検出器1を例示するための模式斜視図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、図1においては、反射層6や防湿体7などを省いて描いている。
図2は、X線検出器1の模式断面図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、図2においては、制御ライン2c1、データライン2c2、信号処理部3、画像伝送部4などを省いて描いている。
図3(a)は、防湿体の模式正面図である。
図3(b)は、防湿体の模式側面図である。
放射線検出器であるX線検出器1は、放射線画像であるX線画像を検出するX線平面センサである。X線検出器1は、例えば、一般医療用途などに用いることができる。
【0009】
図1および図2に示すように、X線検出器1には、アレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4、シンチレータ層5、反射層6、防湿体7、および接着層8が設けられている。 アレイ基板2は、シンチレータ層5によりX線から変換された可視光(蛍光)を電気信号に変換する。
アレイ基板2は、基板2a、光電変換部2b、制御ライン(又はゲートライン)2c1、データライン(又はシグナルライン)2c2、および保護層2fを有する。
【0010】
基板2aは、板状を呈し、ガラスなどの透光性材料から形成されている。
光電変換部2bは、基板2aの一方の表面に複数設けられている。
光電変換部2bは、矩形状を呈し、制御ライン2c1とデータライン2c2とで画された領域に設けられている。複数の光電変換部2bは、マトリクス状に並べられている。
なお、1つの光電変換部2bは、1つの画素(pixel)に対応する。
【0011】
複数の光電変換部2bのそれぞれには、光電変換素子2b1と、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)2b2が設けられている。
また、光電変換素子2b1において変換した信号電荷を蓄積する図示しない蓄積キャパシタを設けることができる。ただし、光電変換素子2b1の容量によっては、光電変換素子2b1が図示しない蓄積キャパシタを兼ねることができる。
【0012】
光電変換素子2b1は、例えば、フォトダイオードなどとすることができる。
薄膜トランジスタ2b2は、蛍光が光電変換素子2b1に入射することで生じた電荷の蓄積および放出のスイッチングを行う。薄膜トランジスタ2b2は、アモルファスシリコン(a−Si)やポリシリコン(P−Si)などの半導体材料を含むものとすることができる。薄膜トランジスタ2b2は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を有している。薄膜トランジスタ2b2のゲート電極は、対応する制御ライン2c1と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のソース電極は、対応するデータライン2c2と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のドレイン電極は、対応する光電変換素子2b1と図示しない蓄積キャパシタとに電気的に接続される。
【0013】
制御ライン2c1は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。制御ライン2c1は、第1の方向(例えば、行方向)に延びている。
複数の制御ライン2c1は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d1とそれぞれ電気的に接続されている。複数の配線パッド2d1には、フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線の一端がそれぞれ電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない制御回路とそれぞれ電気的に接続されている。
【0014】
データライン2c2は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。データライン2c2は、第1の方向に直交する第2の方向(例えば、列方向)に延びている。
複数のデータライン2c2は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d2とそれぞれ電気的に接続されている。複数の配線パッド2d2には、フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線の一端がそれぞれ電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない増幅回路とそれぞれ電気的に接続されている。
保護層2fは、光電変換部2b、制御ライン2c1、およびデータライン2c2を覆うように設けられている。
【0015】
信号処理部3は、基板2aの光電変換部2bが設けられる側とは反対側に設けられている。
信号処理部3には、図示しない制御回路と、図示しない増幅回路とが設けられている。 図示しない制御回路は、各薄膜トランジスタ2b2の動作、すなわちオン状態およびオフ状態を制御する。例えば、図示しない制御回路は、フレキシブルプリント基板2e1と配線パッド2d1と制御ライン2c1とを介して、制御信号S1を各制御ライン2c1毎に順次印加する。制御ライン2c1に印加された制御信号S1により薄膜トランジスタ2b2がオン状態となり、光電変換部2bからの画像データ信号S2が受信できるようになる。
図示しない増幅回路は、データライン2c2と配線パッド2d2とフレキシブルプリント基板2e2とを介して、各光電変換部2bからの画像データ信号S2を順次受信する。そして、図示しない増幅回路は、受信した画像データ信号S2を増幅する。
【0016】
画像伝送部4は、配線4aを介して、信号処理部3の図示しない増幅回路と電気的に接続されている。なお、画像伝送部4は、信号処理部3と一体化されていてもよい。
画像伝送部4は、信号処理部3により順次増幅された画像データ信号S2を直列信号に順次変換し、さらにデジタル信号に順次変換する。そして、画像伝送部4は、順次変換されたデジタル信号に基づいて、X線画像を構成する。構成されたX線画像のデータは、画像伝送部4から外部の機器に向けて出力される。なお、直列信号への変換やデジタル信号への変換は、信号処理部3において行うようにしてもよい。
【0017】
シンチレータ層5は、光電変換素子2b1の上に設けられ、入射するX線を可視光すなわち蛍光に変換する。シンチレータ層5は、基板2a上の複数の光電変換部2bが設けられた領域を覆うように設けられている。
シンチレータ層5は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを用いて形成することができる。この場合、真空蒸着法などを用いて、柱状結晶の集合体が形成されるようにすることができる。
【0018】
また、シンチレータ層5は、例えば、酸硫化ガドリニウム(GdS)などを用いて形成することもできる。この場合、例えば、以下のようにしてシンチレータ層5を形成することができる。まず、酸硫化ガドリニウムからなる粒子をバインダ材と混合する。次に、混合された材料を、基板2a上の複数の光電変換部2bが設けられた領域を覆うように塗布する。次に、塗布された材料を焼成する。次に、ブレードダイシング法などを用いて、焼成された材料に溝部を形成する。この際、複数の光電変換部2bごとに四角柱状のシンチレータ層5が設けられるように、マトリクス状の溝部を形成することができる。溝部には、大気(空気)、あるいは酸化防止用の窒素ガスなどの不活性ガスが満たされるようにすることができる。また、溝部が真空状態となるようにしてもよい。
【0019】
なお、図2に例示をしたシンチレータ層5は、ヨウ化セシウム:タリウムからなる蒸着膜の場合である。そのため、シンチレータ層5は、柱状結晶の集合体となっている。この場合、シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱(ピラー)の太さ寸法は、最表面で8〜12μm程度とすることができる。
【0020】
反射層6は、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために設けられている。すなわち、反射層6は、シンチレータ層5において生じた蛍光のうち、光電変換部2bが設けられた側とは反対側に向かう光を反射させて、光電変換部2bに向かうようにする。
反射層6は、シンチレータ層5を覆うように設けられている。なお、反射層6は、シンチレータ層5の表面側(X線の入射面側)の面を覆うように設けられていてもよい(例えば、図5を参照)。
反射層6は、例えば、銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる層をシンチレータ層5上に成膜することで形成することができる。また、反射層6は、例えば、酸化チタン(TiO)などの光散乱性粒子を含む樹脂をシンチレータ層5上に塗布することで形成することもできる。
また、反射層6は、例えば、表面が銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる板を用いて形成することもできる。
【0021】
なお、図2に例示をした反射層6は、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5上に塗布し、これを乾燥させることで形成されたものである。
【0022】
防湿体7は、空気中に含まれる水蒸気により、シンチレータ層5または反射層6の特性が劣化するのを抑制するために設けられている。
図2図3(a)、および図3(b)に示すように、防湿体7は、ハット形状を呈し、表面部7a、周面部7b、および、つば(鍔)部7cを有する。
防湿体7は、表面部7a、周面部7b、および、つば部7cが一体成形されたものとすることができる。
【0023】
防湿体7は、透湿係数の小さい材料から形成することができる。
防湿体7は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、樹脂層と無機材料(アルミニウムなどの軽金属、SiO、SiON、Alなどのセラミック系材質)層が積層された低透湿防湿材料などから形成することができる。
また、防湿体7の厚み寸法は、X線の吸収や剛性などを考慮して決定することができる。この場合、防湿体7の厚み寸法を大きくしすぎるとX線の吸収が多くなりすぎる。防湿体7の厚み寸法を小さくしすぎると剛性が低下して破損しやすくなる。
防湿体7は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔をプレス成形して形成することができる。
【0024】
表面部7aは、シンチレータ層5の表面側(X線の入射面側)に対峙している。
周面部7bは、表面部7aの周縁を囲むように設けられている。周面部7bは、表面部7aの周縁から基板2aに向けて延びている。
表面部7aおよび周面部7bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5と反射層6が設けられる。なお、反射層6が設けられない場合には、表面部7aおよび周面部7bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5が設けられる。表面部7aおよび周面部7bと、反射層6またはシンチレータ層5との間には隙間があってもよいし、表面部7aおよび周面部7bと、反射層6またはシンチレータ層5とが接触していてもよい。
【0025】
つば部7cは、周面部7bの表面部7a側とは反対側の端部を囲むように設けられている。つば部7cは、周面部7bの端部から外側に向けて延びている。つば部7cは、環状を呈し、基板2aの光電変換部2bが設けられる側の面と平行となるように設けられている。
つば部7cは、接着層8を介して、基板2aの光電変換部2bが設けられる側の面と接続されている。
すなわち、防湿体7は、シンチレータ層5の外側に位置する環状のつば部7cを有し、少なくともシンチレータ層を覆う。
【0026】
ハット形状の防湿体7を用いるものとすれば、高い防湿性能を得ることが可能となる。この場合、防湿体7はアルミニウムなどから形成されるため、水蒸気の透過は極めて少ないものと考えることができる。しかしながら、接着層8は接着剤8a(樹脂)から形成されるため、水蒸気の透過が抑制されるようにする必要がある。
【0027】
接着層8は、つば部7cと、アレイ基板2の光電変換部2bが設けられる側の面との間に設けられている。接着層8は、接着剤8aが硬化することで形成されたものである。
接着層8を形成する際に用いる接着剤8aは、透湿係数と、防湿体7及び基板2aとの接着性を考慮して選択する。接着層8を形成する際に用いる接着剤8aは、例えば、紫外線硬化型のエポキシ系接着剤や、熱硬化型のエポキシ系接着剤などとすることができる。
【0028】
ここで、基板2aの接着剤8aが接触する領域には、配線などの遮光性部材が設けられている場合がある。そのため、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合には、照射ムラがある場合でも適切な硬化を行うことができるものを選択することが好ましい。照射ムラがある場合でも適切な硬化を行うことができる紫外線硬化型の接着剤としては、例えば、カチオン重合により硬化反応が進むエポキシ系紫外線硬化型の接着剤(例えば、ナガセケムテックス(株)XNR−5516ZHV−B1:比重ρ=1.4g/cm)などを例示することができる。
また、接着層8の透湿率(水蒸気の透過率)を低減させるためには、透湿係数ができるだけ小さい材料を選定することが好ましい。
例えば、エポキシ系の接着剤に無機材質のタルク(滑石:MgSi10(OH))を70重量%以上添加すれば、接着層8の透湿係数を大幅に低減させることができる。
【0029】
ここで、接着層8の透湿率についてさらに説明する。
防湿体7および接着層8を含む防湿構造全体の透湿率は、以下の近似式(1)で表すことができる。
【0030】
QT=Q7+Q8 ・・・(1)
Q8=P・S/W
=P・L・T/W ・・・(2)
QT:防湿構造全体の透湿率
Q7:防湿体7の透湿率
Q8:接着層8の透湿率
P:接着層8の透湿係数
S:接着層8の透湿断面積
W:接着層8の幅寸法
L:接着層8の周長
T:接着層8の厚み寸法
この場合、式(1)の1項目のQ7は、防湿構造の大部分を占める防湿体7の透湿率を表している。防湿体7の材料として、厚み寸法が0.1mmのアルミニウムの箔材などを用いれば、Q7を実質的にゼロレベルに抑えることが可能である。従って、防湿構造全体の透湿率としては、式(1)の2項目のQ8が支配的となる。
式(2)に示すように、Q8は、接着層8のディメンジョン(L、T、W)と、接着層8の材料の透湿係数(P)により決まる。つまり、接着層8のディメンジョンと、接着層8の材料の透湿係数により、一定温湿度環境中の透湿率が決まる。
【0031】
ここで、小型化や軽量化が要求されるX線検出器1の場合には、接着層8の幅寸法W2はできるだけ小さい方が好ましい。しかしながら、透湿率の低減や信頼性の向上との兼ね合いもあって、接着層8の幅寸法W2は、2mm以上とすることが好ましいと考えられる。 接着層8の厚み寸法Tは、透湿率を小さくするために小さい方が好ましい。
しかしながら、接着層8の厚み寸法Tを余り小さくすると、接着層8の形成の際に幅寸法W2のバラツキが大きくなるおそれがある。これは、接着層8の厚み寸法Tを余り小さくすると、接着層8の厚み寸法Tに対するつば部7cのうねりや、後述する厚み制御部103の厚み寸法のバラツキの影響が大きくなるからである。
【0032】
一方、接着層8の厚み寸法Tを余り大きくすると、式(2)に示すように、接着層8の透湿率が大きくなり、防湿構造としての機能が低下するおそれがある。
そのため、接着層8の厚み寸法Tは、0.1mm以上0.4mm以下とすることが好ましい。
【0033】
ここで、接着層8を形成する際に、接着剤8aの塗布量を適量以上に多くしたり、つば部7cと基板2aとを密着させるための加圧力を一定以上に大きくしたりすれば、幅寸法W2の大きな接着層8を形成することができる。そのため、防湿性能の確保が容易となる。 しかしながら、接着剤8aの塗布量を多くし、加圧力を一定以上に大きくすれば、つば部7cから外側にはみ出す接着剤8aの量が多くなり、防湿体7の近傍におけるフレキシブルプリント基板2e1、2e2などの接続が困難となるおそれがある。また、つば部7cから外側にはみ出す接着剤8aの量が多くなると、最終的なパネル寸法に切断する際に、接着剤8aのはみ出し部分が切断のブレードに干渉するおそれもある。
また、近年においては、X線検出器1の小型化や軽量化などのために、つば部7cの寸法を小さくすることが望まれている。そのため、つば部7cから外側に接着剤8aがはみ出すのを抑制することがさらに困難となるおそれがある。
【0034】
そのため、接着層8の厚み寸法Tと幅寸法W2を適切な範囲内に収めるとともに、つば部7cから外側に接着剤8aがはみ出すのを抑制することが必要となる。
本実施の形態に係るX線検出器1においては、接着層8のシンチレータ層5側とは反対側の端部は、アレイ基板2の周縁に設けられた配線パッド2d1、2d2よりもシンチレータ層5側に設けられている。
また、後述するように、防湿体7のつば部7cから内側にはみ出した接着層8とすることもできる(図9を参照)。
すなわち、接着層8のシンチレータ層5側の端部は、つば部7cのシンチレータ層5側の端部よりもシンチレータ層5側に設けられていてもよい。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係るX線検出器1の製造方法とともに、接着層8の形成方法について例示をする。
[第2の実施形態]
X線検出器1は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、基板2a上に光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2、配線パッド2d1、配線パッド2d2、および保護層2fなどを順次形成してアレイ基板2を作成する。アレイ基板2は、例えば、半導体製造プロセスを用いて作成することができる。
【0036】
次に、アレイ基板2上の複数の光電変換部2bが形成された領域を覆うようにシンチレータ層5を形成する。シンチレータ層5は、例えば、真空蒸着法などを用いて、ヨウ化セシウム:タリウムからなる膜を成膜することで形成することができる。この場合、シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱の太さ寸法は、最表面で8〜12μm程度とすることができる。
【0037】
次に、シンチレータ層5を覆うようにして反射層6を形成する。反射層6は、例えば、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5上に塗布し、これを乾燥させることで形成することができる。
【0038】
次に、基板2a上にハット形状の防湿体7を接着し、防湿体7と接着層8によりシンチレータ層5と反射層6を封止する。
防湿体7は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔をプレス成形して形成することができる。また、つば部7cの幅寸法W1は、例えば、2mmとすることができる。 なお、接着層8の形成方法に関する詳細は後述する。
【0039】
次に、フレキシブルプリント基板2e1、2e2を介して、アレイ基板2と信号処理部3を電気的に接続する。
また、配線4aを介して、信号処理部3と画像伝送部4を電気的に接続する。
その他、回路部品などを適宜実装する。
【0040】
次に、図示しない筐体の内部にアレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4などを格納する。
そして、必要に応じて、光電変換素子2b1の異常や電気的な接続の異常の有無を確認する電気試験、X線画像試験、高温高湿試験、冷熱サイクル試験などを行う。
以上のようにして、X線検出器1を製造することができる。
【0041】
次に、接着層8の形成方法についてさらに例示をする。
図4は、本実施の形態に係る接着層8の形成において用いるトレイ(治具)100を例示するための模式断面図である。
図5は、本実施の形態に係る接着層8の形成の様子を例示するための模式断面図である。
【0042】
まず、本実施の形態に係る接着層8の形成において用いるトレイ100について説明する。
図4に示すように、トレイ100には、基部101、付着防止層102、および厚み制御部103が設けられている。
基部101は、板状を呈し、中央部分に凹部101aが設けられている。凹部101aの深さ寸法は、防湿体7をトレイ100に載置した際に、凹部101aの底面と防湿体7の表面部7aとの間に隙間ができる程度とすることができる。また、凹部101aの平面寸法は、防湿体7をトレイ100に載置した際に、凹部101aの側壁面と防湿体7の周面部7bとの間に隙間ができる程度とすることができる。
【0043】
凹部101aの周囲は、防湿体7のつば部7cを載置する載置面101bとなっている。 付着防止層102は、載置面101bに設けられている。付着防止層102は、例えば、載置面101bにフッ素樹脂コーティングを施したり、載置面101bにフッ素樹脂からなるテープを貼り付けたりすることで形成することができる。付着防止層102を設けるようにすれば、接着層8の形成に用いる接着剤8aが付着したとしても容易に除去することができる。
【0044】
厚み制御部103は、接着層8の厚み寸法Tを所定の範囲内に収めるために設けられている。
厚み制御部103は、付着防止層102の上に設けられている。なお、厚み制御部103は、載置面101bに設けられていてもよい。厚み制御部103は、防湿体7をトレイ100に載置した際に、つば部7cの外側となる位置に設けられている。すなわち、厚み制御部103は、防湿体7が載置される領域の外側に設けられている。厚み制御部103は、防湿体7が載置される領域を囲むように連続的に設けられていてもよいし(例えば、環状を呈していてもよい)、防湿体7が載置される領域の外側に断続的に設けられていてもよい。
厚み制御部103の材料には特に限定はないが、厚み制御部103を設ける工程における耐久性、面の平滑性、厚みの一定性などを考慮して選定することが好ましい。
【0045】
ここで、厚み制御部103は、接着剤8aを加圧する際に、接着剤8aの押しつぶし寸法が一定の値となるようにするものである。そのため、厚み制御部103は、厚み寸法が実質的に一定で、平坦な部材であればよい。しかしながら、後述するように、厚み制御部103はアレイ基板2(基板2a)と接触することになるので、少なくとも表面側(接触面側)は、金属やセラミックスなどの無機材料ではなく、可撓性(柔軟性)を有する材料から形成されていることが好ましい。例えば、厚み制御部103が無機材料からなる場合は、基板2aにダメージを与えるおそれがある。また、厚み制御部103がトレイ100側に押しこまれることで、厚み制御部103の実効的な厚み寸法が経時変化するおそれもある。
そのため、厚み制御部103は、少なくともアレイ基板2に接触する側が可撓性を有するものとすることができる。
例えば、厚み制御部103は、フッ素樹脂から形成することができる。
【0046】
厚み制御部103の厚み寸法は、形成される接着層8の厚み寸法Tに応じて適宜決定することができる。例えば、図5に例示をした場合において、つば部7cの厚み寸法を0.1mm、接着剤8aの押しつぶし寸法(形成される接着層8の厚み寸法)を0.15mmとすると、厚み制御部103の厚み寸法は、0.25mmとすることができる。
【0047】
また、厚み制御部103は、接着剤8aを加圧する際に、所定の位置に保持されていればよい。しかしながら、厚み制御部103の位置がずれると、接着剤8aの押しつぶし寸法を一定の値とする機能をはたせなくなるおそれがある。また、厚み制御部103が接着剤8aやつば部7cなどに接触して、形成される接着層8や防湿体7の品質を悪化させるおそれもある。
【0048】
そのため、厚み制御部103は、固定されたものとすることが好ましい。
例えば、厚み制御部103は、樹脂層と、樹脂層に設けられた粘着層を有し、粘着層を介して、トレイ100に設けられるものとすることができる。厚み制御部103は、例えば、フッ素樹脂粘着テープなどを貼り付けることで形成されたものとすることができる。 この場合、厚み制御部103をトレイ100側に固定すれば、厚み制御部103が摩耗したり破損したりしない限り繰り返し使用することができる。
厚み制御部103を基板2a側に固定することもできるが、基板2a自体は製品となるので、その都度、厚み制御部103を固定することが必要となる。また、接着層8の形成後に厚み制御部103を除去することが必要となる。
そのため、厚み制御部103は、トレイ100側に固定することが好ましい。
【0049】
次に、トレイ100を用いた接着層8の形成(防湿体7の接着)について説明する。
まず、防湿体7のつば部7cの表面(接着面)を清浄化する。
清浄化は、例えば、有機溶剤による洗浄、紫外線オゾン処理(Ultraviolet-Ozone Surface Treatment)、プラズマ処理などにより行うことができる。
【0050】
次に、トレイ100に防湿体7を載置し、つば部7cの表面に接着剤8aを塗布する。接着剤8aは、つば部7cの全周にわたって塗布する。
ここで、接着剤8aの塗布量が適切でないと、はみ出し量が多くなったり、接着層8の幅寸法W2が小さくなったりするおそれがある。
そのため、接着剤8aの塗布量は、形成される接着層8の体積を考慮して決定する。
接着剤8aは、例えば、液体定量吐出装置(ディスペンサ)などを用いて、所定の量塗布することができる。
接着剤8aは、透湿係数と、防湿体7及び基板2aとの接着性を考慮して選択する。接着剤8aは、例えば、紫外線硬化型のエポキシ系接着剤や、熱硬化型のエポキシ系接着剤などとすることができる。接着剤8aは、つば部7cと対向するアレイ基板2(基板2a)側に塗布する事も可能である。
【0051】
次に、防湿体7のつば部7c、若しくはつば部7cに対向するアレイ基板2(基板2a)上に塗布された接着剤8aをアレイ基板2(基板2a)に接触させる。
まず、図5に示すように、板状体104にシンチレータ層5と反射層6とが形成されたアレイ基板2を保持させる。
続いて、防湿体7が載置されたトレイ100を板状体104に対峙させる。
続いて、板状体104とトレイ100を近接する方向に相対的に移動させて、厚み制御部103とアレイ基板2(基板2a)とを接触させる。図5に例示をしたものの場合には、トレイ100を押し上げて、厚み制御部103とアレイ基板2(基板2a)とを接触させている。なお、板状体104を押し下げてもよいし、レイ100を押し上げ、さらに板状体104を押し下げてもよい。また、トレイ100が板状体104の下方に配置される場合を例示したが、板状体104がトレイ100の下方に配置されていてもよい。
厚み制御部103とアレイ基板2とが接触することで、接着剤8aの押しつぶし寸法(形成される接着層8の厚み寸法)が規定される。
【0052】
次に、厚み制御部103とアレイ基板2(基板2a)とを接触させた状態で接着剤8aを硬化させて接着層8を形成する。
例えば、接着剤8aが紫外線硬化型の接着剤である場合には、接着剤8aに紫外線を照射することで接着剤8aを硬化させることができる。
この場合、接着剤8aがカチオン重合により硬化反応が進むエポキシ系紫外線硬化型の接着剤である場合には、基板2aに設けられた配線などに起因する紫外線の照射ムラがあったとしても適切な硬化を行うことができる。
また、接着剤8aが熱硬化型の接着剤である場合には、接着剤8aを加熱することで接着剤8aを硬化させることができる。
【0053】
また、防湿体7のつば部7cに塗布された接着剤8aをアレイ基板2(基板2a)に接触させる工程と、接着剤8aを硬化させて接着層8を形成する工程は、減圧雰囲気のチャンバー内で行うこともできる。これらの工程を、減圧雰囲気下で行えば、防湿体7の内部にシンチレータ層5と反射層6とを減圧封止することができる。
以上のようにして、接着層8を形成することができる。
以上に説明したように、本実施の形態に係るX線検出器の製造方法は、光電変換素子2b1を有するアレイ基板2上に、X線を蛍光に変換するシンチレータ層5を形成する工程と、シンチレータ層5を覆う防湿体7に設けられ、シンチレータ層5の外側に位置する環状のつば部7cに接着剤8aを塗布する工程と、つば部7cとアレイ基板2とを近接させる工程と、接着剤8aを硬化させる工程と、を備えている。
そして、つば部7cとアレイ基板2とを近接させる工程において、つば部7cよりも外側に設けられた厚み制御部103により、つば部7cとアレイ基板2との間の距離が一定に保たれる。
また、つば部7cとアレイ基板2とを近接させる工程において、防湿体7は、トレイ100に載置される。そして、トレイ100の防湿体7が載置される領域の外側に設けられた厚み制御部103がアレイ基板2と接触する。
【0054】
次に、比較例に係る接着層18の形成について説明する。
図6は、比較例に係る接着層18の形成において用いるトレイ(治具)110を例示するための模式断面図である。
図7は、比較例に係る接着層18の形成の様子を例示するための模式断面図である。
【0055】
図6に示すように、トレイ110には、基部101、および付着防止層102が設けられている。
すなわち、トレイ110には、厚み制御部103が設けられていない。なお、トレイ110は、厚み制御部103が設けられていないこと以外は、トレイ100と同様としている。
【0056】
比較例に係る接着層18の形成は、トレイ110を用いて行う。
まず、接着層8の形成の場合と同様にして、防湿体7のつば部7cの表面(接着面)を清浄化し、つば部7cの表面に接着剤8aを塗布する。
次に、防湿体7のつば部7cに塗布された接着剤8aをアレイ基板2(基板2a)に接触させる。
比較例に係る接着層18の形成においては、図7に示すように、板状体104とトレイ110を近接する方向に相対的に移動させて、防湿体7のつば部7cに塗布された接着剤8aをアレイ基板2(基板2a)に接触させる。
【0057】
この場合、トレイ110には、厚み制御部103が設けられていないので、例えば、加圧力を制御することで、接着剤8aの押しつぶし寸法(形成される接着層18の厚み寸法)を規定する。
しかしながら、接着剤8aの硬度や粘度、接着剤8aの基板2aやつば部7cに対する濡れ性、加圧力の面内分布などによって、接着剤8aの潰れ方や広がり方が変動する。これらの影響因子を制御して全周にわたり接着剤8aを押し潰し、接着剤8aの押しつぶし寸法、ひいては接着層8の幅寸法やはみ出し量を制御することは極めて困難である。そのため、接着剤8aの押しつぶし寸法のバラツキが大きくなり、図7に示すように接着剤8aのはみ出し量が大きくなったり、接着層18の幅寸法が小さくなったりするおそれがある。
【0058】
例えば、接着剤8aの塗布量が増えて、加圧力が大きくなる場合には、接着層8aのはみ出し量が顕著に大きくなる。
また、接着剤8aの塗布量を少なくした場合には、接着層8の幅寸法が小さくなるとともに、幅寸法バラツキも大きくなる。そのため、接着層8の幅寸法が極端に小さい個所が生じ、防湿性能が悪くなるおそれがある。
【0059】
これに対して、トレイ100を用いた接着層8の形成方法によれば、接着剤8aのはみ出し量を抑制することができるとともに、適切な寸法を有する接着層8を容易に形成することができる。
【0060】
次に、本実施の形態に係る接着層8の特性について説明する。
まず、本実施の形態に係る接着層8の寸法精度について説明する。
ここで、本実施の形態に係る接着層8は、トレイ100を用いて形成した。
比較例に係る接着層18は、トレイ110を用いて形成した。
また、接着剤8aの比重は約1.4g/ccとし、つば部7cに塗布する接着剤8aの量は、0.4mg/mm、0.6mg/mm、の2水準とした。
また、接着時の加圧条件は、つば部7cの単位面積当りで、0.5kgf/cm、1.0kgf/cm、1.5kgf/cmの3水準とした。
また、つば部7cの幅寸法W1は2mmとした。
【0061】
接着層8および接着層18の厚み寸法Tの測定結果を以下の表1、表2に示す。
なお、表1は、接着剤8aの量が0.4mg/mmの場合である。
表2は、接着剤8aの量が0.6mg/mmの場合である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
接着層8および接着層18の幅寸法W2の測定結果を以下の表3、表4に示す。
なお、表3は、接着剤8aの量が0.4mg/mmの場合である。
表4は、接着剤8aの量が0.6mg/mmの場合である。
なお、接着層の幅寸法W2は、つば部7cからはみ出した部分をも含めた場合の寸法である。
【表3】
【0065】
【表4】

表1〜表4から分かるように、本実施の形態に係る接着層8においては、比較例に係る接着層18と比べて、厚み寸法Tおよび幅寸法W2のバラツキが小さくなっている。このことは、防湿性能の高い安定性と高い信頼性を得ることができることを意味する。
また、つば部7cの幅寸法W1は2mmである。そのため、表3、表4から分かるように、本実施の形態に係る接着層8においては、比較例に係る接着層18と比べて、つば部7cからの接着剤のはみ出し量が小さくなっている。
【0066】
次に、本実施の形態に係る接着層8の防湿に関する信頼性について説明する。
防湿に関する信頼性の試験には、ダミーパネルの上に防湿体7を接着したものを用いた。ダミーパネルは、基板2a上に保護層2fのみが形成されたものであり、光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2は形成されていない。シンチレータ層5と反射層6は特性変化を確認する為に形成されている。
ダミーパネルを用いた理由は、アレイ基板では存在する画素パタンなどシンチレータ光の透過を遮蔽するものが形成されていないので、基板の裏面側から輝度や解像度の特性を測定するのに適しているからである。また、防湿信頼性や冷熱信頼性に関しては、ダミーパネルを用いたとしてもアレイ基板2を用いた場合と同等の評価が可能であるからである。
【0067】
サンプル1〜サンプル6は、トレイ100を用いて形成した本実施の形態に係る接着層8の場合である。
サンプル7〜サンプル12は、トレイ110を用いて形成した比較例に係る接着層18の場合である。
サンプル1〜12の形成条件などは表5のようにした。
また、つば部7cの幅寸法W1は2mmとした。
【0068】
【表5】

高温高湿試験においては、シンチレータ層5と反射層6とによって得られる解像度特性が、高温高湿環境下(60℃−90%RH)における保管時間の経過とともにどのように劣化するかで評価した。
なお、輝度よりも、湿度に対してより敏感な解像度特性により評価することにした。
解像度特性は、解像度チャートを各サンプルの表面側に配し、RQA−5相当のX線を照射して、裏面側から2Lp/mmのCTF(Contrast transfer function)を測定する方法で求めた。
【0069】
表6は、高温高湿試験の結果である。
なお、表6中の数値は、初期状態のCTFを100(%)とした場合の維持率(%)である。
【0070】
【表6】

表6から分かるように、高温高湿に対する信頼性に関しては、本実施の形態に係る接着層8と、比較例に係る接着層18とではほぼ同等であるが、全体的には本実施の形態に係る接着層8の方が安定しているといえる。
ここで、つば部7cからはみ出す部分を設けて接着層18の幅寸法W2を長くすれば、水蒸気の透過を抑制しやすくなる。
本実施の形態に係る接着層8は、幅寸法W2がつば部7cの幅寸法W1とほぼ同じであり、且つ、バラツキが小さくなっている。また、接着層8の厚み寸法Tもバラツキが小さくなっている。そのため、水蒸気が透過しやすくなる厚み寸法Tが大きくなっている箇所や、幅寸法W2が小さくなっている箇所がない。その結果、つば部7cからはみ出す部分がなくても、接着層18の場合と同等の高温高湿に対する信頼性を確保できたものと考えられる。すなわち、水蒸気の透過の抑制を律する接着層に必要なディメンジョン(幅寸法と厚み寸法)が、接着層の全域にわたって十分に確保されている為と考えられる。
【0071】
冷熱サイクル試験は、温度条件を(−20℃×1h)→(室温×30分)→(60℃×1h)→(室温×30分)とし、サイクル数は最大100サイクルとした。
そして、途中の10サイクル毎において、各サンプルの接着層に剥れや破壊などの異常が生じていないかを確認した。
【0072】
表7は、冷熱サイクル試験の結果である。
なお、表7中の数値は、「2」が異常なし、「1」が異常ありを表している。
【0073】
【表7】

表7から分かるように、冷熱サイクル試験に対する信頼性に関しては、本実施の形態に係る接着層8と、比較例に係る接着層18とではほぼ同等であるが、全体的には本実施の形態に係る接着層8の方が安定しているといえる。
本実施の形態に係る接着層8は、つば部7cの端部に近い領域までしっかりと形成されている。そのため、つば部7cと接着層8の界面の実効面積、基板2aと接着層8の界面の実効面積は、接着層18の場合と比べて遜色はない。また、前述したように接着層8は、全域にわたり接着品質が安定している。その結果、冷熱サイクルに対する信頼性を確保できたものと考えられる。
以上に説明したように、本実施の形態に係る接着層8によれば、高温高湿に対する信頼性、および冷熱サイクルに対する信頼性を確保することができる。
【0074】
前述したように、防湿体7のつば部7cから外側に接着剤8aがはみ出すと、フレキシブルプリント基板2e1、2e2などとの接続が困難となったり、X線検出器1の小型化や軽量化などが困難となったりするおそれがある。
しかしながら、防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aがはみ出す場合には、シンチレータ層5の有効画素エリア部分に影響を与えない限り許容できる。
また、以下のメリットもある。
【0075】
例えば、防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aがはみ出すと、接着層8の実効透過パスが長くなる。そのため、その分、水蒸気の透過を抑制することができる。
また、防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aがはみ出すと、防湿体7と接着層8との接着面積、および接着層8と基板2aとの接着面積を増加させることができる。そのため、冷熱サイクル試験などに対する信頼性を向上させることができる。
【0076】
図8および図9は、防湿体7のつば部7cから内側に接着剤8aをはみ出させる方法を例示するための模式図である。
まず、図8に示すように、トレイ100に防湿体7を載置し、つば部7cの表面に接着剤8aを塗布する。
この際、つば部7cの中心位置近傍に全周にわたって接着剤8aを塗布する。
また、つば部7cの中心位置近傍に塗布された接着剤8aの内側に、全周にわたって接着剤8aを塗布する。
すなわち、つば部7cの中心位置近傍に環状に接着剤8aを塗布し、その内側にも適当な間隔(例えば、0.5mmから1.0mm程度)を開けて、環状に接着剤8aを塗布する。
【0077】
次に、図9に示すように、板状体104とトレイ100を近接する方向に相対的に移動させて、厚み制御部103とアレイ基板2(基板2a)とを接触させる。
厚み制御部103とアレイ基板2とが接触することで、接着剤8aの押しつぶし寸法(形成される接着層8の厚み寸法)が規定される。
この際、つば部7cの中心位置よりも内側に環状に塗布された接着剤8aが、防湿体7のつば部7cから内側にはみ出す。
この場合、つば部7cの中心位置よりも内側に環状に塗布される接着剤8aの量や、環状に塗布された接着剤8a同士の間の間隔を適宜選択すれば、つば部7cから外側に接着剤8aがはみ出ることを抑制しつつ、つば部7cから内側に接着剤8aをはみ出させることができる。
【0078】
例えば、つば部7cの幅寸法W1を2mm、つば部7cの厚み寸法を0.1mm、厚み制御部103の厚み寸法を0.25mmとすれば、接着剤8aの押しつぶし寸法は0.15mmとなる。
この様な場合、つば部7cの中心位置近傍に0.4mg/mmの塗布量で接着剤8aを塗布し、その内側に0.8mmの間隔を開けて0.4mg/mmの塗布量で接着剤8aを塗布する。(接着剤の比重は例えばρ=1.4g/cm
この様にすれば、つば部7cから外側に接着剤8aがはみ出ることを抑制しつつ、つば部7cから内側に接着剤8aをはみ出させることができる。
【0079】
次に、他の実施形態に係る厚み制御部について例示をする。
図10図12は、他の実施形態に係る厚み制御部について例示をするための模式断面図である。
図10に示すように、トレイ100aには、基部111、付着防止層102、および厚み制御部103aが設けられている。
基部111は、板状を呈し、中央部分に凹部111aが設けられている。凹部111aは、前述した凹部101aと同様とすることができる。凹部111aの周囲は、防湿体7のつば部7cを載置する載置面111bとなっている。載置面111bの外側には、凹部111cが設けられている。すなわち、トレイ100aは、前述したトレイ100に凹部111cをさらに設けたものである。
厚み制御部103aは、凹部111cに設けられている。そのため、前述した厚み制御部103に比べて厚み寸法を長くすることができる。そのため、厚み制御部103aを機械加工や成形加工で製作することが容易となる。
【0080】
図11に示すように、トレイ100bには、基部112、付着防止層102、および厚み制御部112cが設けられている。
基部112は、板状を呈し、中央部分に凹部112aが設けられている。凹部112aは、前述した凹部101aと同様とすることができる。凹部112aの周囲は、防湿体7のつば部7cを載置する載置面112bとなっている。
基部112の周縁近傍には、載置面112bから突出する厚み制御部112cが設けられている。すなわち、基部112の一部分が厚み制御部112cとなっている。
そのため、厚み制御部112cの厚み寸法の寸法精度を向上させることができる。
【0081】
図12に示すように、トレイ100cには、基部113、付着防止層102、および厚み制御部113dが設けられている。
基部113は、板状を呈し、中央部分に凹部113aが設けられている。凹部113aは、前述した凹部101aと同様とすることができる。凹部113aの周囲は、防湿体7のつば部7cを載置する載置面113bとなっている。載置面113bの外側には、凹部113cが設けられている。
厚み制御部113dは、凹部113cから突出している。すなわち、基部113の一部分が厚み制御部113dとなっている。つまり、基部113は、前述した基部111と厚み制御部103aとが一体に形成されたものである。
そのため、厚み制御部113dを機械加工や成形加工で製作することが容易となる。また、厚み制御部113dの厚み寸法の寸法精度を向上させることができる。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 X線検出器、2 アレイ基板、2a 基板、2b 光電変換部、2b1 光電変換素子、2b2 薄膜トランジスタ、2c1 制御ライン、2c2 データライン、2f 保護層、3 信号処理部、4 画像伝送部、5 シンチレータ層、6 反射層、7 防湿体、7a 表面部、7b 周面部、7c つば部、8 接着層、8a 接着剤、100 トレイ、100a〜100c トレイ、101 基部、102 付着防止層、103 厚み制御部、103a 厚み制御部、111 基部、112 基部、112c 厚み制御部、113 基部、113d 厚み制御部
図1
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図12