(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
生体の組織情報を計測する手法は、X線CTや磁気共鳴イメージング(MRI)装置等数多く開発されている。近年、被ばくの問題や計測に大型装置が必要であること等の問題から、レーザ光等を用いた光計測技術による小型で簡易な生体計測装置の開発が盛んに行われている。
特に、光干渉断層像(Optical Coherence Tomography;OCT)は、レーザ光の干渉計測を用いることで組織の構造をイメージングする技術であり、角膜の計測技術として応用されている。
【0003】
しかし、生体の光計測においては、生体組織が持つ強い光吸収・散乱特性により、深部における光計測は困難であるという問題がある。前述のOCTの計測可能深度は、一般的に約2mmであり、それ以上の深部計測は生体の散乱・吸収・減衰効果により困難である。
【0004】
そこで、より深部の計測を可能にするため、レーザ光を生体に照射し、生体内部でレーザ光が吸収されることにより発生する超音波(光音響信号)を計測する光音響法が検討されている。
【0005】
具体的には、生体表面にパルスのレーザ光を照射すると、生体内部に照射したレーザ光の波長に応じた吸収組織が存在する場合、到達したレーザ光がこの組織に吸収される。レーザ光を吸収した組織は、励起されて瞬間的に膨張する。この膨張が音源となって発生する超音波を、超音波プローブあるいはレーザ干渉計により計測するものである。
【0006】
これにより、レーザ光の伝搬距離は吸収組織へ到達するまでの片道のみとなり、超音波は伝搬減衰が小さいため、超音波を介さずレーザ光のみで計測する場合と比べて、より深い位置の計測が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光音響法を用いた生体計測は、多くは医療現場に利用され、超音波の受信機構に医用の超音波プローブが使用されている。このため、計測対象を超音波プローブに接触させる若しくは超音波が伝搬する媒質に浸漬させて計測が行われる。
【0009】
したがって、生体と接触する超音波プローブ等に関しては殺菌等の処置が必要になり、術中など直接生体組織に触れる場合には、超音波プローブと生体組織との接触に関して細心の注意が必要となる。
生体と非接触で計測するため、空気超音波プローブを用いることも考えられるが、数mmオーダーの分解能を実現するために必要となるMHzオーダーの超音波は減衰が大きく適用が難しい。
【0010】
また、光音響法においてレーザ光を使用する場合、生体に照射可能なレーザの出力はANSI(米国国家規格協会)やJIS等に最大許容露光量(Maximum Permissible Exposure;MPE)として規定されている。
【0011】
光音響法における計測において、生体組織を励起するレーザ光のエネルギーが強い程、大きな光音響信号が得られる。このため、強いエネルギーで照射することが望ましいが、MPEにより照射可能なレーザ光の出力は限定される。
また、レーザ干渉計により光音響信号を計測する場合、光音響信号を受信する受信レーザ光に対してもMPEを考慮する必要がある。
【0012】
このため、レーザ干渉計による光音響信号の計測は、圧電素子等の接触式の計測手法に比べ感度が低いという課題がある。
【0013】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、高感度な非接触計測を実現する光音響計測技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施形態の光音響計測装置は、被検体内の光吸収体を励起させる励起レーザ光をパルス発振させて出力する励起レーザ光出力部と、出力された前記励起レーザ光を前記被検体の表面に照射する励起レーザ光伝送部と、受信レーザ光をパルス発振させて出力する受信レーザ光出力部と、出力された前記受信レーザ光を前記被検体の表面に照射する受信レーザ光伝送部と、前記励起レーザ光の照射により前記光吸収体が励起されて発生する光音響信号の影響を受けた前記受信レーザ光の反射光から前記光音響信号を検出するレーザ干渉計と、を備えて、前記励起レーザ光出力部は、
前記受信レーザ光のパルス幅間に、複数の前記励起レーザ光のパルスを前記光音響信号の観測に必要な時間以上の間隔で出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高感度な非接触計測を実現する光音響計測技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように実施形態に係る光音響計測装置10(以下、計測装置10とする)は、被検体内の光吸収体20を励起させる励起レーザ光をパルス発振させて出力する励起レーザ光出力部11と、出力された励起レーザ光を被検体の表面に照射する励起レーザ光伝送部12と、受信レーザ光をパルス発振させて出力する受信レーザ光出力部13と、出力された受信レーザ光を被検体の表面に照射する受信レーザ光伝送部14と、前記励起レーザ光の照射により前記光吸収体が励起されて発生する光音響信号の影響を受けた受信レーザ光の反射光から光音響信号を検出するレーザ干渉計15と、を備えることを特徴とする。
なお、レーザ光の伝送は、空間伝送若しくはファイバー伝送、またはその両方を組み合わせた方法により行う。また、
図1では励起レーザ光出力部11及び受信レーザ光出力部13を1つで構成しているが、それぞれ複数設けてレーザ光を出力する構成としても良い。
【0018】
励起レーザ光出力部11は、計測対象となる生体(被検体)内の光吸収体20を励起させる励起レーザ光をパルス発振させて出力する。光吸収体20とは、照射された励起レーザ光の波長に応じて光吸収する生体内の組織を示し、例えば血管が例示される。
【0019】
励起レーザ光出力部11で適用されるレーザは、Nd:YAGレーザ、CO
2レーザ、Er:YAGレーザ、チタンサファイアレーザ、アレキサンドライトレーザ、ルビーレーザ、色素(ダイ)レーザ、エキシマレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザ等が適宜選択される。また、励起レーザ光出力部11から出力される励起レーザ光のパルスは、連続光から擬似的に生成された擬似パルスを出力しても良い。
【0020】
励起レーザ光伝送部12は、励起レーザ光出力部11から出力された励起レーザ光を、被検体表面の所定位置に所定の形状で照射する。
【0021】
励起レーザ光伝送部12は、被検体表面上で励起レーザ光を走査させる走査機構17a、被検体表面上での励起レーザ光の照射形状を変化させる光学機構18a、励起レーザ光が照射された被検体表面の照射位置及び照射面積を計測する計測部19aを備えている。なお、走査機構17aとして、ガルバノミラー、MEMSミラー等によりレーザ光を走査させる機構が例示されるが、これに限られない。
【0022】
被検体表面に照射された励起レーザ光は、生体内部を拡散しながら伝搬して光吸収体20に到達して吸収される。光吸収体20は、レーザ光の吸収により励起されて膨張する。この膨張が音源となって、光音響信号が発生する。
【0023】
受信レーザ光出力部13は、受信レーザ光をパルス発振させて出力するものである。受信レーザ光出力部13で適用されるレーザは、励起レーザ光出力部11と同じく、Nd:YAGレーザ、CO
2レーザ等が適宜選択される。また、受信レーザ光出力部13から出力される受信レーザ光のパルスは、連続光から擬似的に生成された擬似パルスを出力しても良い。
【0024】
受信レーザ光伝送部14は、受信レーザ光出力部13から出力された受信レーザ光を、被検体表面の所定位置に所定の形状で照射する。
【0025】
受信レーザ光伝送部14は、励起レーザ光伝送部12と同様に、被検体表面上で受信レーザ光を走査させる走査機構17b、被検体表面上での受信レーザ光の照射形状を変化させる光学機構18b、受信レーザ光が照射された被検体表面の照射位置及び照射面積を計測する計測部19bを備えている。
【0026】
伝送制御部21は、計測部19(19a、19b)で計測された励起レーザ光及び受信レーザ光の照射位置及び照射面積を入力する。そして、入力した照射位置及び照射面積に基づいて励起レーザ光伝送部12及び受信レーザ光伝送部14から被検体表面に照射されるレーザ光の位置を制御する。また、最大許容露光量(以下、MPEと省略する)を超えるレーザ光が照射される場合は、励起レーザ光及び受信レーザ光の照射を停止させる機能を有する。
【0027】
レーザ干渉計15は、励起レーザ光の照射により光吸収体20が励起されて発生する光音響信号の影響を受けた受信レーザ光の反射光を受信レーザ光伝送部14、受信レーザ光出力部13を介して入力する。そして、受信レーザ光の反射光に含まれる振動変位から光音響信号を検出する。
【0028】
レーザ干渉計15は、マイケルソン干渉計、ホモダイン干渉計、ヘテロダイン干渉計、フィゾー干渉計、マッハツェンダー干渉計、ファブリー・ペロー干渉計、フォトリフラクティブ干渉計等が適宜選択される。また、光音響信号を検出する方法として、ナイフエッジ法等の干渉計測以外の方法を用いても良い。
【0029】
信号処理部16は、レーザ干渉計15により検出された光音響信号を入力して、AD変換器(図示省略)を用いてアナログ信号からデジタル信号に変換し、計測データとして収録する。そして、得られた計測データに対してデジタルフィルタ処理、平均化処理、画像化処理等を実行する。これにより、光吸収体20の構造がイメージングされる。
【0030】
図2は、励起レーザ光及び受信レーザ光のパルス出力を時系列で示した図である。
受信レーザ光は、パルス幅dt
dで受信レーザ光出力部13(
図1)からパルス発振され出力される。一方、励起レーザ光は、励起レーザ光出力部11(
図1)からパルス発振され出力される。励起レーザ光のパルスは、受信レーザ光のパルス幅dt
d間に入るように受信レーザ光の出力と同期されて出力される。
【0031】
受信レーザ光を連続レーザ光として出力する場合、出力値は常に一定となるため図中の破線のようになる。
【0032】
一方、受信レーザ光をパルス発振させる場合、出力値の平均を上げることなく連続レーザ光よりも高いピーク値のレーザ光を出力することが可能となる。したがって、受信レーザ光はパルス発振を用いることで、MPE規定を満たした上でより高いピーク値を得ることができる。
【0033】
図3は、受信された光音響信号を示した図である。
受信レーザ光のパルス幅dt
d間で励起レーザ光のパルスが出力された後、光吸収体20(
図1)から発生した光音響信号は受信レーザ光により受信される。
【0034】
一般的に、レーザ干渉計測を行う場合、受信レーザ光の照射エネルギー若しくは出力が大きい程高い受信感度を得ることができる。
【0035】
本実施形態では、受信レーザ光をパルス発振させることで高いピーク値のレーザ光を出力できるため、光音響信号に対する受信感度を向上させることができる。
【0036】
また、受信レーザ光に連続光を使用した場合、光音響信号が発生していない時間も被検体にレーザ光を照射し続けることになる。一方、パルスの受信レーザ光を用いることで、光音響信号を計測するために必要な時間だけレーザ光の照射をすることが可能となる。
【0037】
なお、受信レーザ光のパルス幅dt
dは、計測する超音波の伝搬時間と、連続光使用時に比べてトータル照射出力の低下が見込まれる10
−7(s)から10
−3(s)の範囲であることが望ましい。
【0038】
図4は、受信レーザのパルス幅内に複数の励起レーザパルスを出力する場合のパルス出力を時系列で示した図である。
ここで、励起レーザ光が被検体表面に照射された後、光吸収体20(
図1)から発生した光音響信号が生体内を伝搬してくるまでの時間、すなわち光音響信号の観測に必要な時間をdt
gとする。
【0039】
このdt
gが、励起レーザ光のパルス幅dt
dに比べて短ければ、光音響信号が観測することができる。しかし、dt
gが、パルス幅dt
dに比べてはるかに短ければ、dt
g以降の時間における受信レーザ光のパルス幅は計測に寄与しない。つまり、無駄に生体にレーザ光を照射することになる。
【0040】
そこで、受信レーザ光のパルス幅dt
d間に、複数の励起レーザ光のパルスを光音響信号の観測に必要な時間dt
g以上の間隔で出力する。これにより、受信レーザ光のパルス幅dt
d全体にわたって計測に寄与させることができる。
【0041】
さらに、複数回の励起レーザ光を照射することにより、得られる光音響信号の数が増加することから、計測効率を向上させることができる。
【0042】
なお、MPEの規定において、励起レーザ光の繰り返し数Nに対して、照射可能なエネルギー照射密度は繰り返し数Nに反比例し減少する。このため、受信レーザ光のパルス幅dt
d間に出力する複数の励起レーザ光を同点で照射させず、被検体表面の異なる領域に照射する構成としても良い(
図9(B)参照)。
【0043】
これにより、レーザ照射の繰り返し数を増加させてもエネルギー密度の減少を低下させる必要がなくなり、感度を低下させることなく光音響信号の計測をすることができる。
【0044】
図5(A)は、被検体表面に照射されたレーザ光の照射位置を示す図である。
励起レーザ光と受信レーザ光とは、それぞれのスポット位置をずらして、互いの照射領域が重ならないように被検体表面に照射される。
【0045】
励起レーザ光と受信レーザ光が被検体表面で重畳すると、MPEの規定を満たすために、照射するエネルギー密度を個別に照射する場合よりも低くせざるを得ず、励起効率及び受信感度が低下することになる。
【0046】
したがって、レーザ光の照射領域が重ならないようにすることで、レーザ光のエネルギー照射密度を下げる必要がなくなり、励起効率及び受信感度を低下させずに計測することができる。
【0047】
図5(B)では、励起レーザ光伝送部12(
図1)の光学機構18a(
図1)を用いて照射される励起レーザ光の形状を楕円形状にしている。励起レーザ光のスポット面積を大きくすることで、光吸収体20(
図1)の励起効率を向上させることが可能となる。
図5(C)では、励起レーザ光をリング形状にする場合を示している。
【0048】
図6は、本実施形態に係る計測装置10の変形例を示す構成図であり、励起レーザ光の照射形状をリング状にするための構成を示している。
【0049】
励起レーザ光伝送部12の光学機構18aは、アキシコンレンズ等により被検体表面にリング形状の励起レーザを照射する。そして、受信レーザ光伝送部14は、励起レーザ光が照射されていない中心部に受信レーザ光を照射する。
この構成により、励起レーザ光の照射領域と受信レーザ光の照射領域との重畳が防止される。
【0050】
図7は、走査機構17(17a、17b)(
図1)により、被検体表面でレーザ光を走査する方法を説明する図である。なお、
図7(A)は、励起レーザ光が楕円形状の場合を示し、
図7(B)はリング形状の場合を示している。
【0051】
通常、ある範囲に亘って被検体を計測する場合、一定方向にレーザ光を走査させながら光音響信号を計測する。そして、計測分解能を高めるため、レーザ光の照射径に対してオーバーラップさせながら(照射領域を重ねながら)走査させて計測を行う。
しかし、オーバーラップした領域は複数回レーザが照射することになるため、MPEを満たすべくレーザ光の照射密度が低下させる必要が生じる。
【0052】
本実施形態では、走査機構17により照射するレーザ光の照射径以上の間隔で被検体の表面を走査させる。これにより、走査時において照射領域が重ならないため、レーザ照射密度を低下させることなく、つまり励起効率や感度の低下を引き起こさずに光音響信号の計測を行うことができる。
【0053】
なお、
図7では、1方向における走査時の例を示したが、2次元状に走査する場合も同様である。また、ある計測範囲に対して規定の計測位置に対してランダムに照射しレーザの重なりを防止しても良い。
【0054】
図8は、走査機構17(17a、17b)(
図1)により、被検体表面でレーザ光を繰り返し走査する方法を説明する図である。なお、
図8(A)は、励起レーザ光が楕円形状の場合を示し、
図8(B)はリング形状の場合を示している。
【0055】
図7で示したようにレーザ光を照射径以上の間隔で走査させた場合、受信レーザ光の照射間隔が計測分解能となるため、計測分解能が低下する。
図8(A)では計測分解能は距離L1となり、
図8(B)では距離L2となる。
【0056】
そこで、被検体表面でレーザ光を第1走査、第2走査、第3走査、・・・と繰り返し走査して、各走査ごとに照射位置をずらして計測を行う。具体的には、受信レーザ光の照射間隔を埋めるように照射位置をずらして走査させる。これにより、
図8(A)では実質的な照射間隔が距離L1’となり、
図8(B)では距離L2’となり、計測分解能は向上する。
【0057】
このように、各走査ごとに照射位置をずらすことで、計測分解能を低下させることなく光音響信号の計測を行うことができる。
【0058】
続けて、
図9を用いて、受信レーザ光のパルス幅内に複数の励起レーザパルスG1〜G4を出力する場合において、レーザ光を走査する方法について説明する。なお、
図9では、4つの励起レーザパルスを出力する場合を示しているが、この構成に限定されるものではない。
【0059】
受信レーザ光のパルス幅内に4つの励起レーザパルスG1〜G4を出力される(
図9(A))。そして、複数の励起レーザパルスG1〜G4は、それぞれ異なる領域に照射される(
図9(B))。
そして、レーザ光の照射径以上の間隔で、各走査ごとに照射位置をずらして、光音響信号の計測を行う(
図9(C))。
【0060】
これにより、レーザ照射密度を低下させることなく、受信レーザ光で位置が異なる光音響信号を複数受信しながら計測されるため、高感度な光音響信号の計測を行うことができる。
【0061】
以上述べた光音響計測装置によれば、パルス発振させた励起レーザ光を被検体の表面に照射して、被検体内の光吸収体を励起させて光音響信号を発生させる。そして、この光音響信号をパルス発振させた受信レーザ光により受信することにより、レーザ光の最大露光許容量内で高感度な非接触計測を実現することができる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。