特許第6334175号(P6334175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334175
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ガス遮断器
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/70 20060101AFI20180521BHJP
   H01H 33/915 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01H33/70 G
   H01H33/915
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-3150(P2014-3150)
(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公開番号】特開2015-133198(P2015-133198A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】真島 周也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克巳
(72)【発明者】
【氏名】内井 敏之
(72)【発明者】
【氏名】新海 健
(72)【発明者】
【氏名】島村 旭
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−075147(JP,A)
【文献】 実開昭59−181553(JP,U)
【文献】 特開2010−173885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/70
H01H 33/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器内に、固定アーク接触子および固定通電接触子を有する固定側接点部と、可動アーク接触子および可動通電接触子を有する可動側接点部とが、同心軸上に向かい合って配置され、
前記固定側接点部および前記可動側接点部は、互いに接触した閉極時に電流通電が行われ、互いに開離した開極時には前記可動アーク接触子と前記固定アーク接触子の間にアーク放電が発生するように構成され、
前記可動側接点部には、当該可動側接点部を軸方向に駆動させる操作ロッドと、前記消弧性ガスを前記アーク放電に吹付ける絶縁ノズルと、前記可動側接点と一体的に駆動するパッファシリンダと、前記パッファシリンダ内に摺動自在に設置され前記パッファシリンダと相対的に移動して前記消弧性ガスを圧縮するパッファピストンとが設けられたガス遮断器において、
前記可動アーク接触子および前記固定アーク接触子はタングステンと銅との混合材から構成され、
前記可動アーク接触子のタングステンと銅との混合材における銅の混合比は、前記固定アーク接触子のタングステンと銅との混合材における銅の混合比よりも大きく設定されたことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記可動アーク接触子ないし前記固定アーク接触子に、タングステンを主体とした素材に、タングステンよりも蒸発温度の低い金属材料を混合させた素材を用いたことを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アーク放電により生じた高温ガスをパッファ室の昇圧に利用するガス遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器においては、消弧性ガスを充填した密閉容器であるタンクが設けられている。タンクに充填する消弧性ガスには主にSF6ガスを用いるが、各種ガスを混合して用いることもある。タンク内には、タンク内壁に固定した固定接点部と、固定接点部に対し接離自在な可動接点部とが、同心軸上に向かい合って配置されている。ガス遮断器の閉極状態において、固定接点部および可動接点部は互いに接触した状態にあり、電流通電を行う。またガス遮断器の開極状態では、固定接点部および可動接点部は互いに開離して電流を遮断する。
【0003】
固定接点部側には固定通電接触子および固定アーク接触子が設けられており、可動接点部側には可動通電接触子および可動アーク接触子が設けられている。可動接点部側の可動アーク接触子には中空部を有する操作ロッドが取り付けられており、操作ロッドには操作機構が連結されている。操作機構は操作ロッドを介して、可動接点部に駆動力を与え、可動接点部を軸方向に移動させるようになっている。
【0004】
以上のガス遮断器では、固定接点部および可動接点部が開離した時、固定アーク接触子および可動アーク接触子間にアーク放電が発生する。そこで、アーク放電に消弧性ガスを吹き付けて消弧するパッファ形ガス遮断器が広く採用されている(例えば、特許文献1など)。
【0005】
パッファ形ガス遮断器には可動接点部側に、パッファシリンダと、パッファシリンダ内を摺動するパッファピストンが組み込まれている。パッファシリンダは可動接点部側と一体となって駆動するようになっている。またパッファピストンにはピストン支えが取り付けられており、このピストン支えを介して固定接点部側に固定されている。
【0006】
このようなパッファシリンダとパッファピストンによって囲まれた空間から、パッファ室が形成される。パッファ室は消弧性ガスの蓄圧空間を構成する。さらに、パッファシリンダの先端部には、固定アーク接触子および可動アーク接触子間のアーク放電を囲むようにして絶縁ノズルが取り付けられている。絶縁ノズルはパッファ室内の消弧性ガスを整流してアーク放電に噴射するように構成されている。
【0007】
このようなパッファ形ガス遮断器では、遮断動作時の可動接点部の移動に伴って、パッファシリンダおよびパッファピストンが相対的に近づくように移動する。そのため、パッファ室内の容積は縮小し、パッファ室では室内の消弧性ガスを圧縮して、蓄圧する。そして、電流零点にてパッファ室内の圧力が遮断容量に見合った圧力以上になると、絶縁ノズルがパッファ室内の消弧性ガスを整流しアーク放電に吹き付ける。これによりアーク放電は消弧され、電流が遮断される。
【0008】
上記のパッファ形ガス遮断器では、パッファ室内のガス圧力が高いほど遮断性能が上昇する傾向にある。そこで従来から、アーク放電の熱エネルギーの一部をパッファ室に取り込むことで、室内のガス圧力を昇圧させる方式、いわゆる自力効果方式のパッファ形ガス遮断器が提案されている。
【0009】
固定接点部および可動接点部間のアーク放電からは高温ガスが発生するが、それに加えて、アーク放電周辺の消弧性ガスもアーク放電により加熱されるため、高温ガスとなる。自力効果方式では、こうした高温ガスの一部をパッファ室に取り込むことで、アーク放電に吹き付ける前のパッファ室内のガス圧力を、効率よく昇圧させることができる。
【0010】
しかも、自力効果方式のパッファ形ガス遮断器では、アーク放電の熱エネルギーを利用してパッファ室内の昇圧を図っているので、可動接点部を移動させる操作機構が大きな駆動力を発揮する必要がない。したがって、自力効果方式のパッファ形ガス遮断器によれば、優れた遮断性能を発揮すると共に、可動接点部を移動させる操作機構の駆動力を低減化することが可能である。
【0011】
ところで、ガス遮断器が遮断する電流が大きくなれば、接点部間に発生するアーク放電の熱エネルギーも大きくなる。そのため、アーク放電の熱エネルギーを利用する自力効果方式では、大電流を遮断する場合に、非常に大きな熱エネルギーをパッファ室内に取り込むことになり、パッファ室内のガス圧力が過剰に高くなるおそれがある。
【0012】
パッファ室内のガス圧力が過剰に高くなると、パッファ室の容積を縮小するように移動する可動接点部の動きは鈍くなる。つまり、大電流を遮断する場合に遮断動作への反力が増大することになり、操作機構の駆動力を低減させるどころか、かえって大きな駆動力が必要になり、操作機構が大型化してしまう。そのため自力効果方式のパッファ形ガス遮断器では、パッファ室内のガス圧力の過度の上昇を抑えるべく、パッファピストンの小型化が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−50747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
自力効果方式のパッファ形ガス遮断器において自力効果を効率よく活用するために、可動アーク接触子や固定アーク接触子さらには絶縁ノズルや操作ロッドを、コンパクトに構成することが多い。また、自力効果方式のパッファ形ガス遮断器では、大電流遮断時の遮断動作への反力を抑制すべくパッファピストンの小型化を進めているが、それに伴って、ピストン支えについてもコンパクトに構成することが多くなっている。このように、自力効果方式のパッファ形ガス遮断器では、操作ロッドや絶縁ノズル、ピストン支えをコンパクトに構成する傾向にある。これらの部材をコンパクト化すれば、その内部空間は小さくならざるを得ない。
【0015】
ところで、パッファ形ガス遮断器において、アーク放電による高温ガスはパッファ室に流れ込むだけではなく、可動接点部の内部空間にも流入する。より具体的には、高温ガスは絶縁ノズルの内部、操作ロッドの内部、さらにパッファピストンを支えるピストン支えの内部を順次流れていき、最終的にタンク内に流れ出る。
【0016】
前述したように可動接点部に含まれる内部空間が小さくなると、その体積および排気断面積が縮小化することになる。そのため、高温ガスの排気の流れが可動接点部の内部空間に滞り、前記内部空間から排出され難くなるという事態を招いた。高温ガスが可動接点部の内部空間からスムーズに排出されなければ、アーク放電の温度が従来よりも高温になって、過熱状態に陥り易い。アーク放電の過熱はアーク放電を消弧させ難くする要因となり、遮断性能が低下するおそれがあった。
【0017】
本実施形態に係るガス遮断器では、以上の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、可動接点部付近にて金属蒸気を発生させ、この金属蒸気による放射損失を利用してアーク放電による過熱を抑制することにより、大電流領域において小さな駆動力でも優れた遮断性能を発揮することが可能なガス遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本実施形態のガス遮断器は、次のような構成を有している。すなわち、
(1)消弧性ガスが充填された密閉容器内に、固定アーク接触子および固定通電接触子を有する固定側接点部と、可動アーク接触子および可動通電接触子を有する可動側接点部とが、同心軸上に向かい合って配置され、
(2)前記固定側接点部および前記可動側接点部は、互いに接触した閉極時に電流通電が行われ、互いに開離した開極時には前記可動アーク接触子と前記固定アーク接触子の間にアーク放電が発生するように構成され、
(3)前記可動側接点部には、当該可動側接点部を軸方向に駆動させる操作ロッドと、前記消弧性ガスを整流して前記アーク放電に吹付ける絶縁ノズルと、前記可動側接点と一体的に駆動するパッファシリンダと、前記パッファシリンダ内に摺動自在に設置され前記パッファシリンダと相対的に移動して前記消弧性ガスを圧縮するパッファピストンとが設けられたガス遮断器において、
(4)前記可動アーク接触子および前記固定アーク接触子はタングステンと銅との混合材から構成され、
(5)前記可動アーク接触子のタングステンと銅との混合材における銅の混合比は、前記固定アーク接触子のタングステンと銅との混合材における銅の混合比よりも大きく設定されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態の断面図であり、(a)はガス遮断器の投入状態、(b)は電流遮断動作中の状態、(c)は電流遮断直前の状態である。
図2】第1の実施形態の原理を示す拡大断面図。
図3】第2の実施形態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
以下、本発明に係る第1の実施形態の一例について図1および図2を参照して具体的に説明する。第1の実施形態は自力効果方式のパッファ形ガス遮断器である。図1において(a)はガス遮断器の投入状態すなわち通常時の電流通電状態、(b)は電流遮断動作中の状態、(c)は電流遮断直前の状態を、それぞれ示している。図2は第1の実施形態の原理を示すための拡大断面図である。
【0021】
(構成)
図1に示すように、パッファ形ガス遮断器には、円筒状の可動通電接触子1を含む可動接点部Aと、固定通電接触子2を含む固定接点部Bとが、同心軸上に向かい合って(図1では上下方向に対向して)、消弧性ガスが充填されたタンク(図示せず)内に配置されている。可動通電接触子1の外周面と固定通電接触子2の内周面とは接離自在に配置されている。
【0022】
可動接点部Aには可動通電接触子1の内側で同心軸上に可動アーク接触子3が設けられている。固定接点部Bには固定通電接触子2の内側で同心軸上に棒状の固定アーク接触子4が設けられている。固定アーク接触子4は可動アーク接触子3に対向しており、固定アーク接触子4の外周面が可動アーク接触子3の内周面に接離自在に配置されている。これら固定アーク接触子4および可動アーク接触子3は、通電性および耐熱性の観点からタングステンと銅との混合材(以下、W/Cu混合材)から構成されている。
【0023】
可動側接点部Aおよび固定側接点部Bでは、可動通電接触子1と固定通電接触子2とが互いに接触した閉極時に、電流通電が行われる。また、可動側接点部Aおよび固定側接点部Bでは、可動通電接触子1と固定通電接触子2とが互いに開離した開極時には、可動アーク接触子3および固定アーク接触子4との間にアーク放電8が発生するように構成されている。
【0024】
第1の実施形態では、可動アーク接触子3のW/Cu混合材における銅の混合比を、固定アーク接触子4のW/Cu混合材における銅の混合比よりも大きく設定した点に構成上の特徴がある。銅の混合比の具体例としては、固定アーク接触子4側の混合比(質量比)を20%とし、可動アーク接触子3側の混合比(質量比)を30%とする。なお、銅の混合比はこれらの数値に限定されるものではなく、可動アーク接触子3における銅の混合比の方が、固定アーク接触子4における銅の混合比よりも大きければ、適宜選択可能である。
【0025】
可動接点部Aには可動通電接触子1および可動アーク接触子3と一体的に移動する部材として、絶縁ノズル5、パッファシリンダ6および操作ロッド7が設けられている。このうち、可動アーク接触子3と操作ロッド7は同一径の円筒状部材から構成され、同心軸上に配置されている。可動アーク接触子3はパッファシリンダ6の端面の上面側に設置され、操作ロッド7はパッファシリンダ6の端面の下面側に設置されている。
【0026】
パッファシリンダ6の端面の上面側には可動アーク接触子3を外側から囲むようにして絶縁ノズル5が設置され、さらに絶縁ノズル5の外側に可動通電接触子1が設置されている。パッファシリンダ6の端面には貫通穴6aが開口されている。貫通穴6aの外周部に沿って絶縁ノズル5が取り付けられ、貫通穴6aの内周部に沿って可動アーク接触子3および操作ロッド7が取り付けられている。
【0027】
パッファシリンダ6の内部にはパッファピストン10が摺動自在に設置されている。パッファシリンダ6の内壁とパッファピストン10に囲まれた空間からパッファ室9が構成される。パッファピストン10の下面側には円筒状のピストン支え12が取り付けられており、このピストン支え12を介して、パッファピストン10が図示しないタンクの内壁部に固定されている。
【0028】
操作ロッド7はパッファ室9内部からパッファピストン10を貫通し、絶縁ロッド(図示せず)を介して、操作機構(図示せず)と接続されている。操作ロッド7は中空部7aと中実部7bとから構成されている。操作ロッド7の中空部7aの端部の壁面には排気穴11が設けられている。
【0029】
(遮断動作)
以上の構成を有するパッファ形ガス遮断器が投入状態から遮断動作を始めると、操作機構からの駆動力を受けて、操作ロッド7およびパッファシリンダ6が図1で下方向に移動する。図1(b)の遮断過程途中では、パッファシリンダ6の下降に伴って、可動通電接触子1が固定通電接触子2から離れ、可動アーク接触子3が固定アーク接触子4から離れる。
【0030】
可動アーク接触子3と固定アーク接触子4が離れるとき、アーク接触子3,4の間にはアーク放電8が発生する。アーク放電8は電流ピークで3万度ほどの高温状態になり、電流零点に向うにつれてアーク放電8が収束し、アーク接触子3,4間のガス温度も徐々に低下する。アーク放電8の発生によって高温のガスが発生し、さらにはアーク放電8によって加熱された周りの消弧性ガスも高温ガスとなる。
【0031】
アーク放電8によって生じた高温ガスはパッファシリンダ6の貫通穴6aを通ってパッファ室9内に流入する。その結果、パッファ室9内のガス圧力が高まる。さらに、遮断動作の進行に伴ってパッファシリンダ6の下降が進むと、パッファシリンダ6とパッファピストン10とは相対的に近づくように移動し、パッファ室9の容積が縮小する。したがって、パッファ室9では高温ガスの流入により昇圧したガスを圧縮することになり、効率よくガス圧を高めることができる。
【0032】
その後、遮断過程後半で電流零点に向けてアーク放電8が小さくなり、図1(c)に示すように、アーク放電8の発生空間からのガス流入と容積縮小によって高圧力となったパッファ室9内のガスは、絶縁ノズル5を介してアーク放電8に強力に吹き付けられる。したがって、アーク放電8中の可動アーク接触子3近傍に発生した澱み点14(図1(c)に示す)において、特にアーク冷却が促進される。これにより、アーク放電8は消弧に至り、電流遮断が完了する。
【0033】
アーク放電8の発生空間から排気される高温ガスは、2方向に流れる。一方の排気ガスは図1の(b)、(c)中の上向きの矢印Cに示すように、絶縁ノズル5から固定アーク接触子4に沿って流れ、固定接点部の内部を通り抜けて図示しないタンクの自由空間へと流れ出る。もう一方の排気ガスは図1の(b)、(c)中の下向きの矢印Dに示すように、中可動アーク接触子3の内部および操作ロッド7の中空部7aに入って、排気穴11を通過し、ピストン支え12の内部を経て、図示しないタンクの自由空間へと流れ出る。
【0034】
(作用効果)
第1の実施形態の作用効果は次の通りである。すなわち、図2のように、可動アーク接触子3および固定アーク接触子4間にアーク放電8が発生した状態では、接触子3,4におけるW/Cu混合材のアーク放電8と接触している面で、タングステンと銅が高温ガスに曝されて蒸発し、共に金属蒸気17となる。
【0035】
金属蒸気17のうち、銅はタングステンに比べて電磁波を放射しやすい。このため、銅の混合比(質量比)が30%と高い値を示す可動アーク接触子3付近では、銅の混合比(質量比)が20%である固定アーク接触子4付近に比べて、電磁波の放射量が多い。したがって、第1の実施形態では、アーク放電8の熱エネルギーを銅の放射エネルギーに変換させることができ、アーク放電8による高温ガスの温度を低下させることが可能である。
【0036】
上述したように、大電流遮断時にはアーク放電8中の可動アーク接触子3近傍に澱み点14が発生するが、この澱み点14の温度は、大電流遮断性能、特に熱的遮断性能にとって最も重要な温度である。第1の実施形態では、可動アーク接触子3側の銅の混合比(質量比)を30%まで高めたことで、銅から放射される電磁波16が増大する。このため、アーク放電8の熱エネルギーは銅蒸気の放射エネルギーにより奪われることになる。したがって、可動アーク接触子3近傍の澱み点14におけるアーク温度が低下する。
【0037】
このような第1の実施形態によれば、絶縁ノズル5、操作ロッド7およびピストン支え12をコンパクトにして、可動接点部の内部空間からの高温ガスの排出が滞ったとしても、銅の金属蒸気17の放射損失を利用してアーク放電8の熱エネルギーを奪うことで、アーク放電8による過熱の発生を抑止可能である。したがって、操作機構の駆動力を低減しつつ、優れた電流遮断性能を発揮することができる。しかも、絶縁ノズル5、操作ロッド7およびピストン支え12のコンパクト化を進めることで、自力効果の効率化や遮断動作への反力低減に寄与することができる。
【0038】
[第2の実施形態]
(構成)
第2の実施の形態について図3を用いて説明する。図3は電流遮断直前の様子を示している。第2の実施の形態の特徴は、操作ロッド7の内面に、銅を主体とした金属製のアブレーション素子15が設置された点にある。アブレーション素子15とは、表面の金属が蒸発するときの気化潜熱によって周囲を冷却する部材である。アブレーション素子15の設置場所は、アーク放電8により生じた高温ガスが接触する場所であれば、適宜選択可能である。
【0039】
(作用効果)
以上の第2の実施形態は、アブレーション素子15がアーク放電8に触れることで、銅の金属蒸気17が発生するので、アーク放電8の熱エネルギーが銅の放射エネルギーに変換されて、アーク放電8による高温ガスの温度を低下させることができる。さらに、第2の実施形態では、銅の混合比を高めた可動アーク接触子3を新たに作る必要がなく、アーク放電8のアーク温度を下げるアブレーション素子15を操作ロッド7の内面に設置するだけで、前述の作用効果を得ることができる。
【0040】
[他の実施形態]
なお、上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。
【0041】
これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、可動アーク接触子3の素材として、タングステンを主体とした素材に、タングステンよりも蒸発温度の低い金属素材を混合させた素材を使用するようにしてもよい。
【0042】
また、アブレーション素子15を、タングステンよりも蒸発温度の低い金属材料もしくは金属の混合材料から構成してもよい。ここでタングステンより蒸発温度の低い金属の例としては、通電容量に優れたアルミニウム、金、銀、白金などが好適である。以上のような実施形態においても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…可動通電接触子
2…固定通電接触子
3…可動アーク接触子
4…固定アーク接触子
5…絶縁ノズル
6…パッファシリンダ
6a…貫通穴
7…操作ロッド
7a…中空部
7b…中実部
8…アーク放電
9…パッファ室
10……パッファピストン
11…排気穴
12…ピストン支え
14…澱み点
15…アブレーション素子
16…放射される電磁波
17…金属蒸気
A…可動接点部
B…固定接点部
図1
図2
図3