(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(トルクリミッター1の全体構造)
以下、本発明の実施の形態にかかるトルクリミッター1の構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、トルクリミッター1の中心軸Xを含む面における断面の構成を示す図である。また、
図2は、トルクリミッター1の分解組み立て図である。
【0016】
図1に示すように、トルクリミッター1は、第1ハウジング2と、第2ハウジング3と、トレランスリング4とを有する。第1ハウジング2には、第1軸5が取り付け可能であり、また、第2ハウジング3には、第2軸6が取り付け可能である。つまり、トルクリミッター1は、第1軸5と第2軸6とを連結することができる。なお、以下の説明において、第2ハウジング3に対して第1ハウジング2が配置される方向である矢印X1方向を前方(前側)、その反対方向である矢印X2方向を後方(後側)として説明する。
【0017】
第2軸6は、たとえば、モーター(図示省略)等の動力源の出力軸あるいは該出力軸に連結されるギア列に連結され回転される軸である。すなわち、第2軸6は駆動軸である。また、第1軸5は、第2軸6の駆動により回転させられる被駆動物に連結される従動軸である。第1軸5および第2軸6がトルクリミッター1により連結された状態で、トルクリミッター1は、第2軸6の回転を第1軸5に伝達することができる。第2軸6の回転がトルクリミッター1を介して第1軸5に伝達されることで、被駆動物が回転させられる。一方、たとえば、第1軸5と被駆動物との連結強度を超えた回転力が、第1軸5に作用した場合には、トルクリミッター1は、第1軸5から第2軸6への回転力の伝達を断つことができる。これにより、被駆動物と第1軸5との連結部や第2軸6側のギア列等が破損してしまうことを防止できる。
【0018】
具体的には、トルクリミッター1は、たとえば、洋式トイレの便座の電動開閉機構に使用することができる。この場合、第1軸5が被駆動物となる便座に連結され、第2軸6が駆動源となる便座開閉用のモーターに連結されるギア列に連結され、そして、第1軸5と第2軸6とはトルクリミッター1を介して連結される。したがって、第2軸6の回転がトルクリミッター1を介して第1軸5に伝達され、便座が開閉させられる。
【0019】
しかしながら、トイレの使用者が、誤って、モーターによる便座の回転速度を超えて便座を回転させてしまったり、あるいは、モーターによる便座の回転方向に逆らって便座を回転させてしまう場合がある。このような場合であっても、便座の電動開閉機構にトルクリミッター1が使用されていることで、便座に連結される第1軸5から第2軸6への回転力がトルクリミッター1により断たれる。そのため、便座と第1軸5との連結部やギア列等が破損してしまうことを防止できる。
【0020】
(第1ハウジング2の構造)
図1,2に加えて、
図3を参照しながら、第1ハウジング2の構造について説明する。
図3は、第1ハウジング2を第1軸5が連結される側である前方から見た構成を示す図である。
【0021】
第1ハウジング2は、第1円筒部としての円筒部7と、この円筒部7の前端から内側に突出するフランジ部である第1内側フランジ部としての内側フランジ部8とを有する。円筒部7の後端は開口部9として開口している。内側フランジ部8には、第1軸5に形成される雄側連結部としてのスプライン5Aと嵌り合い(嵌合し)、スプライン5Aと連結する第1雌側連結部としてのスプライン軸受部10が形成されている。スプライン軸受部10の内周側は、第1軸5が挿入される孔部11となっている。
【0022】
第1ハウジング2の円筒部7の後端の外周には、円筒部7の外周面12よりも径方向にやや突出した突起部13が形成されている。突起部13が形成されることで、第1ハウジング2の径方向における剛性を高いものとすることができる。突起部13は、円筒部7の全周に亘って形成されることで、第1ハウジング2の径方向における剛性を全周に亘って均一に向上させることができる。突起部13は、円筒部7の全周に亘って形成されずに、部分的に形成される構成であっても、突起部13が形成されることで第1ハウジング2の剛性は高くなる。
【0023】
外周面12と突起部13との境界部分は段部14となっている。また、第1ハウジング2の後端の内周側の縁部である内周縁部15は、前方から後方に向かうに従って開口部9の開口径が大きくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。内周縁部15の斜面は、曲率の中心が、円筒部7の内周面16よりも外周側であり、かつ、円筒部7の後端よりも前方に配置される曲面となっている。
【0024】
円筒部7の外周面12の前端と内側フランジ部8との繋がり部分である外周縁部17は、後方から前方に向かって円筒部7の外周の直径が小さくなる方向に傾斜する斜面となっている。また、外周縁部17の斜面は、曲率の中心が、外周面12よりも円筒部7の中心軸X側にあり、かつ、内側フランジ部8の前面8Aよりも後方に配置される曲面となっている。
【0025】
(第2ハウジング3の構造)
図1,2に加えて、
図4を参照しながら、第2ハウジング3の構造について説明する。
図4は、第2ハウジング3を第2軸6が連結される側である後方から見た構成を示す図である。
【0026】
第2ハウジング3は、第2円筒部としての円筒部20と、円筒部20の後端から内側に突出するフランジ部である第2内側フランジ部としての内側フランジ部21とを有する。円筒部20の前端は開口部22として開口している。内側フランジ部21には、第2軸6に形成される雄側連結部としてのスプライン6Aと嵌り合い(嵌合し)、スプライン6Aと連結する第2雌側連結部としてのスプライン軸受部23が形成されている。スプライン軸受部23の内周側は、第2軸6が挿入される孔部24となっている
【0027】
第2ハウジング3の円筒部20の前端の外周には、円筒部20の外周面25よりも径方向にやや突出した突起部26が形成されている。外周面25と突起部26との境界部分は段部27となっている。また、第2ハウジング3の前端の内周側の縁部である内周縁部28は、後方から前方に向かうに従って開口部22の開口径が大きくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。内周縁部28の斜面は、曲率の中心が、円筒部20の内周面よりも外周側であり、かつ、円筒部20の前端よりも後方に配置される曲面となっている。
【0028】
円筒部20の外周面25の後端部と内側フランジ部21との繋がり部分である外周縁部29は、前方から後方に向かって円筒部20の外周の直径が小さくなる方向に傾斜する斜面となっている。また、外周縁部29の斜面は、曲率の中心が、外周面25よりも円筒部20の中心軸X側にあり、かつ、内側フランジ部21の後面21Aよりも前方に配置される曲面となっている。
すなわち、外周縁部29の斜面は、R形状を呈する。
【0029】
(トレランスリング4の構造)
図1,2,5を参照しながら、トレランスリング4の構造について説明する。
図5は、トレランスリング4の断面の一部を拡大して示す図である。
【0030】
トレランスリング4は、ばね鋼板等の弾性を有する材料にて形成され、全体として円筒形を呈している。トレランスリング4には、円筒の一部を切り欠く切欠き部40が形成されている。トレランスリング4は、切欠き部40の部分を狭めたり広げたりするように変形されることで、円筒形の直径を拡縮させることができる。
【0031】
また、トレランスリング4には、前後2列に突起部としての複数の凸条部41Aおよび複数の凸条部41Bが形成されている。凸条部41A,41Bは、円筒の径方向外側に突出し、条方向を円筒の母線方向に沿わせている。複数の凸条部41Aは、トレランスリング4の外周面に等間隔に形成される。複数の凸条部41Bも、トレランスリング4の外周面に等間隔に形成される。凸条部41Aおよび凸条部41Bは同一形状であ
るが、形状を変えたり、前後方向
を当説明のように一直線にしたり、交互に配置したり、凸条部の数を変えたり等で条件に合わせて変更することがある。
【0032】
凸条部41A,41Bの中心軸Xに直交する断面の形状は、
図5に示すように、
略二等辺三角形の形状
または略半円形状を呈する、また、
図1,2に示すように、凸条部41Aの前後の縁部42Aは斜面に形成されている。凸条部41Bの前後の縁部42Bも斜面に形成されている。
【0033】
(トルクリミッター1の組み立て)
次に、トルクリミッター1の組み立てについて説明する。
【0034】
(第2ハウジング3へのトレランスリング4の装着)
先ず、第2ハウジング3にトレランスリング4を装着する。トレランスリング4の第2ハウジング3への装着は、第2ハウジング3の円筒部20を後端側(内側フランジ部21側)からトレランスリング4の内周に挿入することにより行う。トレランスリング4内に挿入される円筒部20の外周面25にはグリスが塗布されている。第2ハウジング3は、突起部26の段部27にトレランスリング4の前端が当接するまで、トレランスリング4内に挿入される。段部27とトレランスリング4の前端が当接することで、第2ハウジング3とトレランスリング4との前後方向の位置決めが行われる。
【0035】
トレランスリング4の内周の直径は、第2ハウジング3の円筒部20の外周の直径よりもやや小さく設定されている。トレランスリング4には、上述したように、切欠き部40が形成されているため、円筒形の直径を拡縮することができる。つまり、トレランスリング4内に第2ハウジング3の円筒部20が挿入される際には、切欠き部40がやや拡幅し、トレランスリング4の円筒形の直径が大きくなる。
【0036】
トレランスリング4は、弾性を有する材料にて形成されている。したがって、円筒部20のトレランスリング4内への挿入は、トレランスリング4の弾性に抗して行われる圧入である。トレランスリング4内に挿入された円筒部20にトレランスリング4の弾性力が作用し、この弾性力によりトレランスリング4と第2ハウジング3とは強固に締結される。すなわち、トレランスリング4は、挿入された円筒部20を弾性力により締め付け、この締め付け力によりトレランスリング4と第2ハウジング3とは強固に締結される。
【0037】
第2ハウジング3の円筒部20の外周縁部29は、前方から後方に向かうに従って円筒部20の外周の直径が小さくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。したがって、円筒部20をトレランスリング4内に挿入する際に、トレランスリング4を外周縁部29にガイドさせることができ、円筒部20をトレランスリング4内に挿入させ易い。
【0038】
(第1ハウジング2の組み込み)
次に、トレランスリング4が装着された第2ハウジング3を、第1ハウジング2に装着し、トルクリミッター1を完成させる。トレランスリング4が装着された第2ハウジング3の第1ハウジング2への装着は、開口部9からトレランスリング4が装着された第2ハウジング3を円筒部7内に挿入するように行う。トレランスリング4が装着された第2ハウジング3は、円筒部20の先端面20Aが、第1ハウジング2の内側フランジ部8の後面8Bに当接するまで円筒部7内に挿入される。つまり、円筒部20の先端面20Aが内側フランジ部8の後面8Bに当接することで、第1ハウジング2と第2ハウジング3との前後方向の位置決めが行われる。
【0039】
第2ハウジング3に装着された状態におけるトレランスリング4の外周の直径(凸条部41A,41Bの部分における直径)は、第2ハウジング3の突起部26における直径よりもやや大きくなるように、凸条部41A,41Bの高さ(トレランスリング4の直径方向への突出量)等が設定されている。したがって、トレランスリング4が装着された第2ハウジング3の第1ハウジング2への挿入は圧入である。
【0040】
トレランスリング4が装着された第2ハウジング3の第1ハウジング2へ圧入すると、円筒部7の内周面16が凸条部41A,41Bの先端部が僅かに食い込むように変形する。また、トレランスリング4は弾性体により形成されるため、凸条部41A,41Bが径方向に僅かに弾性変形できる。したがって、トレランスリング4が装着された第2ハウジング3は、第1ハウジング2内に圧入された状態で、凸条部41A,41Bの内周面16への僅かな食い込みと、凸条部41A,41Bの弾性力とにより、トレランスリング4と第1ハウジング2とは強固に締結される。この締結力は、第1ハウジング2とトレランスリング4との間に相対的に前後方向の力が作用しても、両者が容易に前後方向にずれることのない大きさである。
【0041】
第1ハウジング2とトレランスリング4とは、上述したように、凸条部41A,41Bの弾性力に加えて、凸条部41A,41Bの内周面16への僅かな食い込みにより締結されている。一方、第2ハウジング3とトレランスリング4とは、主にトレランスリング4の弾性力による締結である。また、
図5に示すように、トレランスリング4の第1ハウジング2との接触部は、凸条部41A,41Bの部分である。これに対し、トレランスリング4の第2ハウジング3との接触部は、トレランスリング4の内周の円弧面43である。つまり、第1ハウジング2とトレランスリング4との接触面積と、第2ハウジング3とトレランスリング4との接触面積は、第2ハウジング3とトレランスリング4との接触面積の方が大きい。
【0042】
したがって、第1ハウジング2とトレランスリング4との締結力は、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力よりも大きい。トルクリミッター1においては、トレランスリング4の弾性力や凸条部41A,41Bの形状等の設定により、たとえば、第1ハウジング2とトレランスリング4との締結力を90kg・cm程度に設定し、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力を60kg・cm程度に設定することができる。
【0043】
トルクリミッター1は、第1ハウジング2と第2ハウジング3とがトレランスリング4を介して強固に締結される。第1ハウジング2とトレランスリング4との締結力は、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力よりも大きい。したがって、第1ハウジング2と第2ハウジング3との間に、中心軸Xの周方向に相対的に反対方向の回転力が作用し、この回転力が第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力を超える場合には、第2ハウジング3がトレランスリング4に対して回転する。
【0044】
(第1軸5と第2軸6との連結)
第1軸5は、第1ハウジング2に形成されるスプライン軸受部10にスプライン5Aを嵌め合わせることで、第1ハウジング2に連結される。第2軸6は、第2ハウジング3に形成されるスプライン軸受部23にスプライン6Aを嵌め合わせることで、第2ハウジング3に連結される。つまり、第1軸5と第2軸6とは、トルクリミッター1を介して連結することができる。したがって、第2軸6の回転は、トルクリミッター1を介して第1軸5に伝達させることができる。
【0045】
第1軸5に第2ハウジング3とトレランスリング4との間の締結力を超える回転力が作用すると、トレランスリング4が第1ハウジング2と共に第2ハウジング3の周りに回転する。つまり、第1軸5の回転力は、第2軸6に伝達されない。したがって、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力を、第1軸5と被駆動物との連結強度よりも低く設定することで、第1軸5と被駆動物との連結強度を超えた回転力が第1軸5に作用した場合であっても、被駆動物と第1軸5との連結部や第2軸6側のギア列等が破損してしまうことを防止できる。
【0046】
第1軸5のスプライン5Aとスプライン軸受部10との連結は、スプライン5Aとスプライン軸受部10とが接触する部分の面積(以下、単に連結部接触面積)をできるだけ大きくすることが好ましい。連結部接触面積が大きいほど、連結部分における単位面積当たりに作用する力(接触面圧)を小さくでき、スプライン部分の破損を防止できる。つまり、スプライン5Aは、スプライン軸受部10に対してスプライン軸受部10の内側フランジ部8の厚さ方向の全幅に亘って接触することが好ましい。
【0047】
第2ハウジング3の内周縁部28は、後方から前方に向かうに従って開口部22の開口径が大きくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。そのため、内周縁部28と内側フランジ部8の後面との間に間隙30が形成される。間隙30が形成されることで、この間隙30の部分に、スプライン5Aの先端(後端)を配置できる。つまり、スプライン5Aの先端(後端)を内側フランジ部8の後面よりもやや後方に突出させられた状態となるように、スプライン軸受部10に連結させることができ、これにより、スプライン5Aとスプライン軸受部10とを内側フランジ部8の厚さ方向の全幅に亘って接触させることができる。
【0048】
スプライン5Aを円筒部20の内側に配置されるようにしても、スプライン5Aをスプライン軸受部10に内側フランジ部8の厚さ方向の全幅に亘って接触させることができる。しかしながら、スプライン5Aを円筒部20の内側に配置する構成の場合、円筒部20の内周の直径よりも第1軸5のスプライン5A部分の直径を大きくすることができない。これに対し、内周縁部28を後方から前方に向かうに従って開口部22の開口径が大きくなる方向に傾斜する斜面に形成し、内周縁部28と内側フランジ部8の後面との間に間隙30を形成し、この間隙30内にスプライン5Aを配置することで、スプライン5A部分の直径を円筒部20の内周の直径よりも太くできる。スプライン5Aの直径を太くすることで、スプライン5Aの歯数を多くでき、また、第1軸5のスプライン5Aとスプライン軸受部10との連結部接触面積を大きくできる。すなわち、スプライン5Aとスプライン軸受部10との接触面圧を小さくできる。
【0049】
(本実施の形態の主な効果)
第1ハウジング2は、たとえば、
図6に示すように、板体50からプレス成型にて製造することができる。プレス成型によれば、円筒部7に相当する部分51は、板体50からプレス成形にて形成できる。また、スプライン軸受部10に相当する部分52は、打ち抜きプレスにて形成することができる。そして、打ち抜きプレスにて、板体50から部分51(円筒部7に相当する部分)を、突起部13に対応する部分53で打ち抜くことにより、第1ハウジング2が製造される。第2ハウジング3についても同様に製造することができる。
これにより、第2ハウジング3の外周面25は周方向に沿ってフラットになる。
【0050】
第1ハウジング2および第2ハウジング3は、たとえば、切削加工にて製造することもできる。しかしながら、第1ハウジング2は、円筒部7と、この円筒部7の一端である前端から内側に突出する内側フランジ部8とを有し、この内側フランジ部8の内周側に形成される孔部11の内周に、スプライン軸受部10が形成される形状であるため、プレス加工にて製造し易い構成である。第2ハウジング3も同様に、円筒部20と、この円筒部20の他端である後端から内側に突出する内側フランジ部21とを有し、この内側フランジ部21の内周側に形成される孔部24の内周に、スプライン軸受部23が形成される形状であるため、プレス加工にて製造し易い構成である。このように、第1ハウジング2および第2ハウジング3は、プレス加工にて製造でき、トルクリミッター1の製造に当たり、製造に要する時間の短縮や工数の削減を図ることができる。
【0051】
また、仮に、第1ハウジング2あるいは第2ハウジング3を切削加工にて製造した場合には、スプライン軸受部10あるいはスプライン軸受部23に内周側に突出したバリが形成され易く、このバリを除去する工数を要する。バリが残存していると、スプライン5Aあるいはスプライン6Aをスプライン軸受部10あるいはスプライン軸受部23に挿入し難い。これに対し、第1ハウジング2あるいは第2ハウジング3をプレス加工にて製造する場合には、スプライン軸受部10あるいはスプライン軸受部23を、第1軸5あるいは第2軸6の挿入方向に打ち抜きを施す打ち抜きプレスにて形成することができる。これにより、スプライン軸受部10あるいはスプライン軸受部23の内側にバリが形成され難く、切削加工に伴うバリの除去工程を削減することができる。
【0052】
第2ハウジング3とトレランスリング4とが中心軸Xの周りに相対的に回転した際、第2ハウジング3の外周面25が削れてしまうと、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力が変化してしまう。したがって、第2ハウジング3とトレランスリング4とが中心軸Xの周りに相対的に回転しても、外周面25が削れてしまわないように第2ハウジング3の硬度を高くしておく必要がある。そこで、プレス成型にて製造された第2ハウジング3については、浸炭焼入処理や浸炭窒化焼入処理を施すことで硬度を高くすることが好ましい。
【0053】
また、トルクリミッター1は、前側にスプライン軸受部10(第1雌側連結部)が設けられ、また、後側にスプライン軸受部23(第2雌側連結部)が設けられている。そのため、被駆動側については第1軸5のスプライン5Aの形状をスプライン軸受部10の形状に合せれば第1軸5をトルクリミッター1に連結できる。また、駆動側については第2軸6のスプライン6Aの形状をスプライン軸受部23の形状に合わせれば第2軸6をトルクリミッター1に連結できる。つまり、トルクリミッター1は、前後にスプライン軸受部10(第1雌側連結部)とスプライン軸受部23(第2雌側連結部)を備えるため、汎用性の高い構成となっている。
【0054】
トルクリミッター1において、第2ハウジング3の円筒部20の前端の外周には突起部26が形成されている。突起部26の部分で、第2ハウジング3は、トレランスリング4と係合することができる。したがって、第2ハウジング3がトレランスリング4に対して後方に移動してしまうことを防止できる。
【0055】
トレランスリング4が装着された第2ハウジング3は、円筒部20の先端面20Aが、第1ハウジング2の内側フランジ部8の後面8Bに当接するまで円筒部7内に挿入されている。また、第2ハウジング3の段部27(突起部26)はトレランスリング4に係合している。したがって、第2ハウジング3は、内側フランジ部8の後面8Bとトレランスリング4とにより前後方向に移動しないように位置決めされている。
【0056】
第2ハウジング3は、トレランスリング4により強い力で締め付けられる。そのため、径方向における剛性が低いと変形してしまう虞がある。しかしながら、第2ハウジング3は、突起部26が形成されることで、径方向における剛性が高いものとなっている。なお、突起部26は、円筒部20の全周に亘って形成されることで、第2ハウジング3の径方向における剛性を全周に亘って均一に向上させることができる。突起部13は、円筒部20の全周に亘って形成されずに部分的に形成される構成であっても、突起部26が形成されることで第2ハウジング3の剛性は高くなる。
【0057】
第2ハウジング3の内周縁部28は、後方から前方に向かうに従って開口部22の開口径が大きくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。そのため、内周縁部28と内側フランジ部8の後面との間に間隙30が形成される。間隙30が形成されることで、この間隙30の部分に、スプライン5Aの先端(後端)を配置でき、スプライン5Aとスプライン軸受部10とが接触する部分の面積を大きくすることができる(接触面圧を小さくできる)。これにより、スプライン部分の破損を防止できる。
【0058】
第2ハウジング3の円筒部20の外周縁部29は、前方から後方側に向かうに従って円筒部20の外周の直径が小さくなる方向に傾斜する斜面に形成されている。したがって、円筒部20をトレランスリング4内に挿入する際に、トレランスリング4を外周縁部29にガイドさせることができ、円筒部20をトレランスリング4内に挿入させ易い。
【0059】
トルクリミッター1において、第2軸6は駆動軸であり、第1軸5はトルクリミッター1を介して第2軸6の回転が伝達される。つまり、第1軸5は、第2軸6の回転に従動して回転させられる従動軸である。トレランスリング4は、従動軸である第1軸5が接続される第1ハウジング2に接触する側に突起部としての凸条部41A,41Bが配置されている。これにより、第1ハウジング2とトレランスリング4との締結力を、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力よりも大きくすることができる。
【0060】
なお、第1軸5を駆動軸とし、第2軸6を従動軸として構成してもよい。また、第1軸5または第2軸6のいずれか一方を固定物に固定された軸とし、他方を可動物に連結された軸としてもよい。かかる構成とすることで、可動物に軸との連結強度を超えた軸の周方向への回転力が作用した場合にも、トルクリミッター1により該回転力が逃がされ、可動物と軸との破損を防止できる
。
【0061】
トルクリミッター1において、駆動軸である第2軸6が接続される第2ハウジング3の外周面25とトレランスリング4との間には潤滑剤としてグリスが塗布されている。
【0062】
これにより、第1ハウジング2とトレランスリング4との締結力
に対して、第2ハウジング3とトレランスリング4との締結力
を小さくさせ易い。また、グリスが塗布されることで、トレランスリング4と第2ハウジング3との相対回転による第2ハウジング3の外周面25の磨耗を防止できる。
【0063】
図8に示すように、内側フランジ部8の前面8Aに、スプライン5Aに嵌り合い連結する連結補強部としてのスプライン軸受補強部70が形成される補強板71を固定してもよい。スプライン軸受補強部70は、スプライン軸受部10と前後方向で一致する形状である。そして、スプライン軸受補強部70とスプライン軸受部10とが前後方向で一致するように、補強板71は、内側フランジ部8に固定されている。これにより、ススプライン5Aおよびプライン軸受部10にかかる負荷が低減され、スプライン部分の破損を防止できる。
【0064】
また、内側フランジ部21の後面21Aに、スプライン6Aに嵌り合い連結する連結補強部としてのスプライン軸受補強部72が形成される補強板73を固定してもよい。スプライン軸受補強部72は、スプライン軸受部23と前後方向で一致する形状である。そして、スプライン軸受補強部72とスプライン軸受部23が前後方向で一致するように、補強板73、内側フランジ部21に固定されている。これにより、スプライン6Aおよびプライン軸受部23にかかる負荷が低減され、スプライン部分の破損を防止できる。
【0065】
上述の実施の形態では、第1軸5に形成される雄側連結部の例としてスプライン5Aが示され、また、このスプライン5Aと嵌合する第1雌側連結部の例としてスプライン軸受部10が示されている。また、第2軸6に形成される雄側連結部の例としてスプライン6Aが示され、また、このスプライン6Aと嵌合する第2雌側連結部の例としてスプライン軸受部23が示されている。しかしながら、第1ハウジング2と第1軸5との連結、および第2ハウジング3と第2軸6との連結は、スプライン構造によるものに限らず、
図7に示すように、雄側の連結部60(第1軸5、および第2軸6の連結部に相当)を、ダブルDカット部を有する形状(
図7上段(A)参照)としたり、四角柱(
図7中段(B)参照)、6角柱(
図7下段(C)参照)等の形状とし、雌側の連結部もこれに対応する形状の孔部61とすることもできる。