(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記断裁手段でシート束の一辺を断裁したのちにシート束を回転する際に、前記断裁手段で実行した断裁量と前記基準値とを比較して前記シート束回転手段の回転速度を設定することを特徴とする請求項1に記載のシート束断裁装置
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、製本綴じしたシート束の一方向、あるいは三方向をトリミング断裁する装置はすでに知られている。その機構は、所定の断裁位置にシート束をセットする前に回転させて所定の縁辺を断裁位置に臨ませて断裁し、その後シート束を回転して次の縁辺の順に断裁して周縁をトリミングする方法が採用されている。
【0009】
このようにシート束を回転させて、シートの周縁をトリミングする場合には、シート束の回転で位置ズレ、皺、汚損、歪曲変形(以下これらの現象を「回転ダメージ」と総称する)が問題となる。特に、高速で回転するとシート束には、回転による遠心力と、回転停止時に作用する慣性モーメントの影響でシート束全体が歪曲変形してスキュすることと、シート面に皺などの損傷が生ずる。これらのシート束の歪曲変形と皺損傷は製本品位あるいは断裁仕上げ品位を著しく損ねる。
【0010】
例えば
図3(a)に、小口部Sdを断裁量δyでカットし、地部Scを断裁量δxでカットしたシート束を同図時計方向に所定速度(周速度Sv,角速度ω)で回転するモデルを示す。このシート束には、所定速度で回転中には遠心力Fが矢印方向に作用する。各部位の遠心力はF=mrω2であり、その半径方向の積分値がシート束に作用する遠心力Fとなる。
【0011】
従ってシート束には、回転中心Loから放射線方向に遠心力Fが作用し、その力Fは半径rに比例するため、回転中心Loからの半径方向の長さに比例する遠心力差が生ずる。またシート束の回転を停止するときには、慣性モーメントの影響を受ける。この慣性モーメント(Ix,Iy,Iz)は中心からの距離の2乗に比例する。
【0012】
そこで
図3(a)のモデルではシート束を表裏から回転部材Lmでグリップして回転する際に、回転中心Loからシートの縁辺までの長さが一方は長く、他方が短いとき(距離差があるとき)には、シート束全体の歪みとシート表面に発生する皺(損傷)が増大する状態が示されている。つまりシート束の天部Sbと地部Scの一方が断裁され、他方が未断裁のときには回転中心Loからシート束に作用する遠心力Fと慣性モーメントIがアンバランスとなる。この2つの要素のアンバランスによってシート束の位置ズレ、姿勢スキュ、皺損傷が発生しトリミング品位に影響を及ぼす。
【0013】
このように従来はシート束を回転させて姿勢を変更しながらシート束の周辺をトリミングする際に同一速度でシート束を回転させている。このため回転部材と接する表紙シートに皺などの損傷が生じたり、断裁端面が歪曲したりする問題を引き起こしている。
【0014】
本発明は、シート束を回転させて断裁位置にセットして断裁する際に、周縁の断裁状態でアンバランスが発生する回転によってシートに皺などの損傷が生ずることなく高速で効率的にトリミングすることが可能なシート断裁装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を達成するため、シート束の姿勢を偏向するシート保持部材の回転速度を異なる複数段階の1つを選択して設定するように構成し、シート束回転手段の回転中心から一方のシート端と反対側のシート端との距離差が基準値以下のときには高速度で、基準値以上のときには低速度で、シート束回転手段を回転することを特徴としている。
【0016】
シート束の天部、地部、小口部の少なくとも一方向を断裁するシート束断裁装置であって、シート束を所定の断裁位置(Cp)に保持するシート束回転手段(10)と、シート束回転手段を所定速度で回転させる駆動手段(Mt1,Mt2)と、シート束回転手段で断裁位置に回転したシート束の縁辺を断裁する断裁手段(20)と、駆動手段によるシート束回転手段の回転速度を制御する制御手段(55)とを備える。
【0017】
上記制御手段は、シート束回転手段の平均回転速度若しくは最大回転速度を異なる複数段階の1つに選定可能に構成すると共に、シート束回転手段の回転中心から一方のシート端と反対側のシート端との距離差(δx、δy)が基準値
未満のときには高速度で、基準値以上のときには低速度で、シート束回転手段を回転するように
制御する。
【0018】
なお、上述の構成においてシート束回転手段の回転速度は、平均回転速度(停止状態から立ち上がり回転、定速度回転、減速回転から停止状態の間の平均値)若しくは最大回転速度(例えば定速度回転時の瞬間速度)で装置設計時に安全係数を定めて設定する。また、上記基準値の設定は回転によって受けるダメージとの関係で、例えば実験によって設定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、シート束を断裁位置に回転して位置決めする際に、シート束の回転中心から一方の端縁と反対側の端縁との間の距離差が大きいときには低速度で、距離差が小さいときには高速度で回転するようにしたものであるから以下の効果を奏する。
【0020】
シート束を表裏から保持部材で挟持して回転する際に、その速度(平均回転速度又は最高回転速度)は、シート束の回転中心から一方の端縁と反対側の端縁との間の距離差によって速度設定するから、回転部材から伝達されるモーメントがシート束にバランスして作用するときには高速度で、アンバランスに作用するときには低速度で回転することとなり、回転によってねじれなどの力はシートに及ぶことがない。
【0021】
従ってシートには皺などの損傷が生ずることがなく、またシート束全体が歪んで、スキュすることがないので断裁品位富んだトリミングが可能となる。
【0022】
また回転部材からシート束に付与されるモーメントがバランスして安定しているときには高速度で回転するからトリミング断裁の処理効率を速くする(スピーディなトリミング処理)ことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図示の好適な実施の形態に基づいて本発明を詳述する。
図1は、本発明に係わる製本装置の全体構成の説明図であり、
図2は製本装置の詳細説明図である。
【0025】
[シート束断裁機構]
図1に従って本発明に係わるシート束断裁装置Aの要部機構について説明する。同図は後述する製本装置Bに内蔵したシート束断裁ユニットA(以下「トリマーユニット」と云う)の要部構成を示している。トリマーユニットAは、シート束を保持して回転させるターンテーブルなどのシート束回転手段10(シート束保持手段;以下同様)と、シート束保持手段を所定方向に回転する駆動手段13(モータなど)と、断裁位置Cpにシート束を保持する断裁縁プレス手段17(加圧機構)と、断裁位置Cpに配置され、シート束を断裁する断裁手段(カッタ機構)20と、上記の断裁位置にシート束を送るフィーダ手段25とで構成される。
【0026】
上記シート束保持手段10は、表裏からシート束をグリップ(狭持)して回転可能に保持する回転部材、グリップ部材、ターンテーブルなどで構成する。後述するシート束保持手段10は一対の回転部材(第1グリップ部材10aと第2グリップ部材10b)で構成され、シート束を断裁位置Cpの上流側で回転させて切断縁を断裁位置Cpに臨ませる。
【0027】
図示のシート束保持手段10は、第1回転部材(以下第1グリップ部材という)10aと第2回転部材(以下第2グリップ部材という)10bで構成され、両部材はユニットフレーム15に回転可能に軸受支持されている。第1グリップ部材10aはシート束をニップする方向(挟圧方向)に移動可能(スライダブリーに)に支持され、グリップモータMgでシート束を第2グリップ部材10bとの間でニップおよびニップ解除するように構成されている。
【0028】
上記第1グリップ部材10aには第1回転モータMt1が、第2グリップ部材10bには第2回転モータMt2がそれぞれ連結され、両モータは同一の回転速度で各グリップ部材を回転するように構成されている。またユニットフレーム15は、上述の第1、第2グリップ部材10a、10bを搭載した状態で断裁位置Cpに向けて位置移動可能に構成され、フィードモータMfとラックピニオン機構でグリップしたシート束を断裁位置Cp方向に移送する。
【0029】
上記断裁縁プレス手段17は、シート束保持手段10で断裁位置Cpに送られたシート束を断裁可能に保持する。この断裁縁プレス手段17は、加圧部材19とこれを付勢する付勢スプリング(不図示)と、加圧解除部材(牽引部材、スクリューネジ部材なと)で構成する。
【0030】
上記断裁手段20は、切断刃22と、カッタ駆動部材で構成する。図示のものは、板状の切断刃22と、カッタ作動部材(スクリュー機構)23と、駆動モータ(カッタモータ)Mcで構成されている。図示21は断裁位置Cpにシート束を挟んで断裁刃22と対向する位置に配置された刃受部材であり、切断刃22の刃先を損耗しない弾性部材で構成されている。
【0031】
上記フィーダ手段25は、シート束保持手段10で断裁位置Cpに向けて姿勢偏向させたシート束を断裁位置Cpに給送する搬送機構、または、切断刃22をシート束の切断ラインに一致させるように移動するカッタ移動機構のいずれかで構成する。図示の装置は、後述するようにシート束保持手段10でシート束を回転して姿勢偏向したのちに断裁位置方向に束移動させ、シート束の断裁ラインと切断刃22を一致させている。
【0032】
このような構成において、後述する制御手段55はシート束保持手段10と断裁縁プレス手段17と断裁手段20を次のように制御する。シート束保持手段10は上流側から送られたシート束Sを、第1グリップ部材10aと、第2グリップ部材10bとの間でニップする(
図2参照)。この動作はグリップモータMgを回転して、グリップセンサ(例えば第1グリップ部材10aに配置したシート接触センサ)からの信号でモータMgを停止する。するとシート束は第1、第2グリップ部材10a、10bで挟持され、その加圧力は図示しない加圧スプリングで付与されている。
【0033】
次に制御手段55は、第1回転モータMt1と第2回転モータMt2を同一方向に同一速度で回転する。図示の各モータMt1,Mt2はステッピングモータでその回転角度をコントロール可能(例えばPWM制御)に構成されている。図示の両モータMt1,Mt2は回転速度をモータドライバに供給するパルス電源のデューティ比で高速度から低速度まで調整可能となっている。
【0034】
制御手段55によるシート束Sの回転(姿勢偏向)とトリミング断裁の手順を
図4に従って説明する。
図4(a)は、シート束を回転部材(グリップ部材)10でグリップした状態を示す。図示の装置は断裁位置Cpの上流側にシートを製本処理する製本経路33が配置され、この製本経路からシート束Sは背部Saを下方に向けて搬送されてくる。そこで制御手段55はシート束Sを第1、第2グリップ部材10a、10bで挟持する。このときシート束Sの中心Loをグリップ部材10で挟持する態様を示し、以下この場合について説明する。
【0035】
図4(b)は、グリップ部材10でグリップしたシート束Sを時計方向に90度回転させて地部Scを断裁位置(図面下方;以下同様)に向けて偏向させた状態を示す。この回転はシート束の中心Loからシート束Sの縁辺との距離差(長手方向L、短手方向N)は、等しい位置関係で距離差はゼロである。従ってこの回転は「バランスされた回転」となる。
【0036】
図4(c)は、シート束Sを時計方向に180度回転させて天部Sbを断裁位置Cpに向けて偏向させた状態を示す。この回転は地部Scを断裁処理(断裁量δx)された状態で回転することとなり、この回転は回転中心Loから天部Sbまでの距離(1/2L)と地部までの距離(1/2L−δx)が異なり(回転距離差δx)「アンバランスな回転」となる。
【0037】
図4(d)は、シート束Sを反時計方向に90度回転させて小口部Sdを断裁位置Cpに向けて偏向させた状態を示す。この回転は、地部Sc(断裁量δx)と天部Sb(断裁量δx)を断裁された状態で回転する。従ってこの回転は回転中心Loから天部Sbまでの距離(1/2L−δx)と地部Scまでの距離(1/2L−δx)が同一となり(回転距離差ゼロ)「バランスされた回転」となる。
【0038】
図4(e)は、シート束Sの小口部Sdを断裁したのちに、シート束を180度回転させて背部Saを排紙方向(断裁位置の下流側)に向けて偏向させた状態を示す。この回転は、地部Sc(断裁量δx)と天部Sb(断裁量δx)と小口部(断裁量δy)を断裁された状態で回転する。従ってこの回転は回転中心Loから背部Saまでの距離(1/2N)と小口部Sdまでの距離(1/2N−δy)が異なり(回転距離差δy)「アンバランスな回転」となる。
【0039】
制御手段55で上述の手順に従って第1グリップ部材10aと第2グリップ部材10b間に挟持したシート束を回転すると、シート束には遠心力Fと、停止するときに慣性モーメントIが作用する。このとき回転中心Loから遠心力Fがアンバランスとなるとシート束Sには振動と不安定な回転が作用する。またグリップ部材10の回転を停止するとシート束には慣性が作用し、そのバランスが崩れると歪曲変形、皺等の損傷が発生する。この状態を
図3に従って説明する。
【0040】
所定サイズのシート束Sの中心Loを回転部材(グリップ部材10)Lmで表裏から挟持して回転速度Rsで所定角度(例えば90度、180度、270度など)回転する。このとき回転中心Loとシートの一端縁との間の距離(1/2L−δ、1/2N−δ)と、反対側の端縁との間の距離(1/2L、1/2N)との差(距離差)が大きいとシート束に生ずるダメージは大きく、距離差が小さいとシート束に生ずるダメージは小さい。
【0041】
このシート束Sが歪曲してスキュし、或いはシート表面に皺が発生する原因は、シート束に作用する慣性モーメントIと、遠心力Fのアンバランス(不均衡)にあると分析される。
図3(b)に示すようにシート中心に位置する回転中心Lo(グリップ部材の中心)から遠心力F(F=1/2Mω2乗;M;質量、ω;角速度)が放射線方向に作用する。そこで回転中心Loからシートの一端縁までの距離(1/2L−δ)が、反対側の端縁までの距離(1/2L)との差(図示のものは実質的に断裁量δと一致する)が大きいとダメージが大きい。
【0042】
上記シート束Sに作用する物理的な慣性モーメントIは、回転部材10の軸(回転中心Lo)のまわりを回転するシート束の各部分の質量(束厚さ×密度)と回転軸までの距離の2乗との積を、シート全体にわたって積分したものである。そこでシートを回転中心Loからシート束に作用する慣性モーメントIがアンバランスとなるとシート束に大きなダメージを与える。
【0043】
以上の説明から明らかなようにシート束Sには、回転するときに遠心力Fが作用し、その回転を停止するときには慣性モーメントIが作用する。このときのアンバランスな遠心力Fと慣性モーメントIが両方に現れるとシート束Sには予想以上のダメージが及ぶ。そこで本発明は、シート束Sを回転するとき回転中心Loからシート束の一端縁までの間の距離と、反対側の他端縁との間の距離との距離差に応じて回転速度を制御することを特徴としている。
【0044】
このため、制御手段55は、シート束保持手段10の回転速度(平均回転速度若しくは最大回転速度)を異なる複数段階の1つに選定可能に構成する。これを
図5に従って説明する。
【0045】
[断裁量演算]
制御手段55は断裁処理に設定されると、断裁量を演算する(St20)。この断裁量の演算は(1)予め断裁量をシートサイズ毎に設定して、記憶手段(RAM)56に記憶しておく方法。(2)シートサイズと仕上げサイズから断裁量を演算(シートサイズ−仕上げサイズ)し、天部Sbと地部Scはその1/2に、小口部Sdはサイズ差に設定する。(3)表紙シートサイズと束厚さから断裁量を演算する[(表紙シートサイズ−束厚さ)÷2]。この断裁量は、トリマーユニットAには関係なく、製本装置側で設定する。
【0046】
[回転距離差算出]
シート束Sの縁辺を断裁する動作に伴って、回転によってシート束に作用する遠心力Fと慣性力Iは断裁前と断裁後では、上述のように異なる。そこで制御手段55は回転する動作の前に回転中心Loから一方のシート端縁までの距離と、反対側の端縁までの距離との差(以下「回転距離差」と云う)が大きいと、回転部材10の回転速度を低速度に設定し、距離差がゼロ若しくは小さいと高速度に設定する(St21,St22)。
【0047】
図示の装置は第1、第2グリップ部材10a、10bを回転する第1回転モータMt1と第2回転モータMt2をステッピングモータで構成し、制御手段55で例えばPWM制御することによってグリップ部材10a、10bの回転速度を変更可能に構成している。
【0048】
[基準値比較]
図6(b)に従って基準値比較について説明する。後述するように2段階(第1基準値と第2基準値)に設定された基準値と回転距離差を比較する(St23)。回転距離差が第1基準値より小さいときには、回転速度を「高速度」に設定する。このとき回転距離差がゼロ、若しくは比較的小さいときには回転によってシート束Sに異常な慣性力Iと異常な遠心力Fが作用しないのでシート束にダメージが及ぶことがない。
【0049】
また回転距離差が第1基準値より大きいときには、第2基準値と比較する。そして、回転距離差が第2基準値(>第1基準値)より小さいときには、回転速度を「中速度」に設定する。このとき回転距離差は、中程度であるため、回転によってシート束Sに慣性力Iと遠心力Fが大きなアンバランスとして作用しないのでシート束にダメージが及ぶことがない。つまり第2基準値は、シート束Sに大きなアンバランスが生じない距離差に設定してある。
【0050】
また回転距離差が第2基準値より大きいときには回転速度を「低速度」に設定する。このとき回転距離差は大きく、回転によってアンバランスな慣性力Iと遠心力Fが作用する。そこでこの回転速度をシート束Sにダメージを与えない程度の低速度に設定する(St24)。
【0051】
[回転動作]
制御手段55は上述の方法で設定された設定速度に従って回転部材10を回転する(St25)。そして回転は終了すると、予め設定された回転(例えば3辺断裁のときには3回)の回転は終了するまで、上述の回転距離差算出と基準値比較と回転速度決定と回転動作を繰り返す。設定された回転を終了した段階で断裁動作を終了する(St26)。
【0052】
図6に従って基準値の設定を説明する。同図(a)は基準値を第1基準値と第2基準値に設定する場合を示し、回転するシート束Sの距離差が、第1基準値以下のときに回転してもダメージを与えない高速度に設定する。また、回転するシート束Sの距離差が、第2基準値以下のときに回転してもダメージを与えない中速度に設定する。第2基準値以下のときに回転してもダメージを与えない低速度に設定する。つまり距離差をパラメータに実際のシート束にダメージが及ぶか及ばないボーダーラインとなる回転速度を高速度と中速度と低速度に設定する。
【0053】
以上、シート束Sに回転によってアンバランスな遠心力Fと慣性力Iが作用するか否かを要因として回転速度を設定する場合を説明した。この回転上のアンバランスに加えてシート束の束厚さ及び/又はシートサイズで回転速度を設定することも可能である。
図6(c)はその態様を示している。
【0054】
回転するシート束Sについて、回転距離差と基準値とを比較して第1設定速度を算出する。同様にシートサイズ又は束厚さと基準値とを比較して第2設定速度を算出する。そしてこれらの第1、第2設定速度の低い速度値を設定回転速度として決定する。このように、シート束に回転によってダメージを及ぼす複数の要因のワーストケースで回転速度を設定することによってダメージが及ぶ恐れが低減される。
【0055】
以上グリップ部材10a、10bを3段階で速度制御する場合を示したが、3段階上に設定することも無段階に設定することも可能である。
【0056】
[製本装置の構成]
次に製本装置Bについて説明する。この製本装置Bはケーシング30内に印刷シートを束状に集積して部揃えする集積部40と、この集積部40からのシート束に接着糊を塗布する接着剤塗布手段55と、接着剤を塗布されたシート束にシート束を綴じ合わせる表紙綴じ手段60とから構成されている。
【0057】
[搬送経路の構成]
各シートの搬送経路について説明すると、上記ケーシング30内には画像形成装置Cの排紙口に連なる搬入口26を有する搬入経路31が設けられ、この搬入経路31から中紙搬送経路32と表紙搬送経路34が経路切換フラッパ36を介して連結されている。そして中紙搬送経路32には集積部40を介して製本経路33が連設されている。製本経路33は略々鉛直方向に装置を縦断する方向に、表紙搬送経路34は略々水平方向に装置を横断する方向に配置されている。
【0058】
上記製本経路33と表紙搬送経路34とは互いに交差(直交)し、その交差部に後述する表紙綴じ手段45が配置されるようになっている。以上のように構成された搬入経路31は画像形成装置Cの排紙口に連なり、画像形成装置から印刷シートを受入れる。この場合画像形成装置Cからはコンテンツ情報を印刷された印刷シート(中綴じシート)と表紙カバーとして使用するタイトルなどを印刷された印刷シート(以下「シート束」と云う)とが搬出される。このように搬入経路31は中紙搬送経路32と表紙搬送経路34とに分岐され経路切換フラッパ36を介して各印刷シートをそれぞれの経路に振り分け搬送することとなる。
【0059】
一方、上記搬入経路31にはインサータ装置27が連結してあり、画像形成装置Cで印刷処理しないシートを給紙トレイ27aから1枚ずつ分離して搬入経路31に供給するように構成してある。このインサータ装置27は一段又は複数段の給紙トレイ27aを備え、このトレイ先端には積載されたシートを1枚ずつ分離して給送する給紙手段と、この給紙手段の下流側に給紙経路28が設けられ、この給紙経路は経路切換片29を介して搬入経路31に連結している。
【0060】
また上記搬入経路31には搬送ローラ31aが、中紙搬送経路32には搬送ローラ32aが、製本経路33にはグリップ搬送手段(シート束搬送手段;以下同様)41と前述したシート束断裁装置(トリマーユニット)Aと排紙ローラ(排紙手段)48が配置されている。また表紙搬送経路34には搬送ローラ34aが配置され、それぞれ駆動モータに連結されている。
【0061】
[集積部の構成]
前記中紙搬送経路32の排紙口32bに配置された集積トレイ42は排紙口32bからのシートを束状に積載収納する。
図1に示すように集積トレイ42は略々水平姿勢に配置されたトレイ部材で構成され、その上方には正逆転ローラ42aと搬入ガイド42bが設けられている。
【0062】
そして排紙口32bからの印刷シートを搬入ガイド42bで集積トレイ上に案内し、正逆転ローラ42aで収納する。この正逆転ローラ42aは正回転で印刷シートを集積トレイ42の先端側に移送し、逆回転でトレイ後端(
図1右端)に配置された規制部材(不図示)にシート後端を突き当て規制する。また集積トレイ42には図示しないシートサイド整合手段が設けられトレイ上に収納した印刷シートの両側縁を基準位置に幅寄せ整合する。このような構成で中紙搬送経路32からの印刷シートはトレイ42上に順次積み上げられ束状に部揃えされる。
【0063】
[グリップ搬送手段の構成]
前記製本経路33には集積トレイ42からシートを下流側の接着剤塗布位置Eに移送するグリップ搬送手段41が配置されている。このグリップ搬送手段41は
図1に示すように集積トレイ42に集積したシート束を水平姿勢から鉛直姿勢に偏向し、このシート束を略々鉛直方向に配置された製本経路33に沿って接着剤塗布位置Eに搬送セットする。このため、集積トレイ42は集積位置(
図1実線)から引き渡し位置(
図1破線)に移動し、この引き渡し位置で準備されたグリップ搬送手段41にシート束を引き渡すようになっている。
【0064】
[接着剤塗布部の構成]
前記製本経路33の接着剤塗布位置Eには接着剤塗布手段43が配置されている。この接着剤塗布手段55は
図1に示すように熱溶融性の接着剤を収容する糊容器43aと、塗布ロール57と、図示しないロール回転モータとで構成されている。
【0065】
[表紙綴じ手段の構成]
上記製本経路33の表紙綴じ位置Dには表紙綴じ手段45が配置されている。この表紙綴じ手段45は
図1に示すように背当てプレート46aと背折りプレート46bと折りロール47で構成される。この表紙綴じ位置Dには前述の表紙搬送経路34が配置され、画像形成装置C又はインサータ装置27からシート束を給送する。
【0066】
そして背当てプレート46bはシート束をバックアップする板状部材で構成され、製本経路33に進退自在に配置されている。この背当てプレート46bに支持されたシート束に(中紙)シート束が逆T字状に接合される。そこで上記背折りプレート46bは左右一対のプレス部材で構成され、逆T字状に接合されたシート束の背部を背折り成型するため、図示しない駆動手段で互いに接近及び離反するように構成されている。また上記折りロール47は背折り成型されたシート束を挟圧して表装仕上げする一対のローラで構成されている。
【0067】
上記断裁位置Gの下流側には排紙ローラ(排紙手段)48と収納スタッカ50が配置されている。この収納スタッカ50は
図1に示すようにケーシング30に引出状に配置され、装置フロント側(
図1紙面手前側)に引出可能に構成されている。装置フロント側に引き出した状態で上面方向から使用者が視認できるようになっている。
【0068】
一方、前記製本経路33は表紙綴じ位置Dから上記収納スタッカ50にシート束を導く排紙経路33aを構成し、この排紙経路33aに上記排紙ローラ48が配置されている。この排紙ローラ48は一対のローラ対で構成されシート束をニップして収納スタッカ50に案内する排紙手段を構成している。また前記断裁位置Gの下方には収納スタッカ50と並列に屑収納ボックス51が設けられ、切断刃22で切断した紙片を収納する。
【0069】
[制御手段の構成]
次に上述の装置に於ける制御手段55の構成を
図7に基づいて説明する。
図1に示すような画像形成装置Cと製本装置Bとを連結したシステムでは、例えば画像形成装置Cに備えられた制御CPU53に入力手段52と、モード設定手段54を設ける。そして製本装置Bの制御部には制御CPU(制御手段)55を設け、この制御CPU55は製本処理実行プログラムをROM57から呼び出して製本経路33における各処理を実行する。
【0070】
またこの制御CPU55には画像形成装置Cの制御CPU53から後処理モード指示信号、ジョブ終了信号、シートサイズ情報その他製本に要する情報及びコマンド信号を受信する。一方前記搬入経路31、製本経路33、表紙搬送経路34には搬送するシート(シート束)を検出するシートセンサ(不図示)がそれぞれ配置されている。
【0071】
そこで制御CPU55には各シートセンサの検出信号が伝達され、制御CPU55は「集積部制御部55a」「接着剤塗布手段制御部55b」「表紙綴じ手段制御部55c」「断裁手段制御部55d」「スタック制御部55e」をそれぞれ備えている。そして
図8に示すフローチャートに従って製本処理を実行する。
【0072】
[断裁動作の説明]
図8に従って断裁動作の手順を説明する。制御手段55は、コントロールパネル(入力手段)52などからオペレータが設定した断裁揃えするか否かの決定に従って断裁動作を実行する(St01)。
【0073】
断裁動作を実行するとき、制御手段55は断裁量を演算する(St02)。このとき一方向断裁のときには小口部の断裁量を演算する。また三方向断裁のときには、予め設定された断裁順に従って、断裁量を演算する。
【0074】
断裁量の演算は、例えば断裁量は、小口部のときには小口方向の寸法から(シートサイズ−仕上げサイズ=断裁量δy)で演算し、その算出値と最小断裁量と最大断裁量を考慮して実行する断裁量を決定する。また、三方向断裁のときには、小口部を同様に算出し、天部と地部の断裁量は、[(シートサイズ−仕上げサイズ)×1/2=断裁量δx]で演算し、その算出値と最小断裁量と最大断裁量を考慮して実行する断裁量を決定する。この場合に、最小断裁量は断裁揃えする最低カット幅から設定し、最大断裁量はシートの予約領域から設定し、算出値が最小断裁量より少ないとき、最大断裁量より大きいときには、最小断裁量または最大断裁量を実行する断裁量とする。
【0075】
制御手段55は、シート束の回転速度を設定する(St03)。この回転速度設定は前述したようにシート束が回転によるダメージを受けやすいときには低速度に設定し、回転によるダメージを受けづらいときには高速度に設定する。
【0076】
制御手段55は、シート束を設定された回転速度で回転する(St04)。このときの回転方向と回転角度は、予め設定されている。例えば1方向断裁のときには、背部を断裁位置Cpに向けてグリップする構成では、シート束をグリップした後に180度回転させて小口部を断裁位置Cpに臨ませる。また三方向断裁のときには背部を断裁位置抜けてグリップする構成では、シート束をグリップした後に90度回転させて天部または小口部を断裁位置Cpに臨ませる。
【0077】
そして制御手段55はシート束の回転速度をステップSt03で指定された速度で回転する。この速度は平均速度(立ち上がり速度、低速度、立ち下がり速度の平均)又は最大速度が設定された速度を超えないようにする。
【0078】
制御手段55はシート束の姿勢を所定の方向(断裁辺を断裁位置に臨ませる)に偏向すると、シート束を断裁位置Cpにセットする(St05)。このときシート束の断裁辺縁と断裁刃の断裁ラインとの間に断裁量を設定する。
【0079】
そして制御手段55は断裁縁プレス部材17でシート束を押圧する(St06)。次でカッタモータMcを作動して断裁刃22で断裁を実行する(St07)。断裁動作の終了後、シート束押圧を解除する(St08)。
【0080】
制御手段55は上記断裁動作の実行後に、残りの縁辺を断裁するときには、ステップSt04に戻って同様の動作を繰り返し実行する。すべての縁辺の断裁を終了したのち、制御手段55はシート束をトリマーユニットAの下流側に搬出する(St10)。