(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上面板と、下側部材と、前記上面板及び下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備え、前記下側部材は、弾性機構を有し、前記弾性機構は、頂板と、底板と、前記頂板及び底板の間に介在させた積層弾性体とを有し、前記積層弾性体は、複数の弾性体層の間に中間板を挟んで積層した積層構造とされ、前記中間板のうち、少なくとも1枚の中間板の外周端縁に吊り部が設けられ、前記吊り部は、前記中間板の半径方向外方に水平方向に向かって延設され、前記吊り部の中央部に貫通孔が形成されたことを特徴とする空気ばね。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等に用いられる空気ばねとして、特許文献1の
図5に示すように、車両の車体に取り付けられる上面板と、その下方で台車側に配置される下側部材と、上面板及び下側部材にわたって配備されるゴム製の可撓部材(ベローズ)と、台車側の下支持部と中間支持部との上下間に介装される弾性機構とを備えたものが知られている。弾性機構は、一般的に、頂板と底板との間に、複数の弾性体層の間に鋼板を挟み込んで積層した積層ゴムを介在させたものが用いられる。
【0003】
ところで、上記空気ばねは、上面板と下側部材はベローズでつながっているだけとなっている。したがって、空気ばねを台車に取り付ける場合には、フック等によって弾性機構から吊上げる必要があった。また、車体ごと空気ばねを一緒に吊り上げる場合も、同様に弾性機構から吊上げる必要があった。
【0004】
そのため、従来は、特許文献2の
図1に示すように、弾性機構の底板の外周縁部に吊上げ用フック等を係止する吊り部を形成する構成が知られていた。上記構成の空気ばねは、作業台や支持フレームに載置された状態では、弾性機構の底板が作業台や支持フレームの表面(空気ばねの載置面)と接することになる。そのため、特許文献2では、吊り部に吊上げ用フック等を係止可能とするために、吊り部先端が斜め上方に向くように傾斜させて形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の吊り部を底板に対して傾斜形成しても、依然としてフックを係止するスペース(吊り部と載置面との間のスペース)を十分に確保することができなかった。
【0007】
また、弾性機構は、底板の上に未加硫ゴムを設置したのち、中間板と未加硫ゴムとを交互に積層し、最後に頂板を設置した状態で加熱加圧して加硫成形することにより製造している。具体的には、金型として、内部に上記各材料を積み重ねて収容する中型と、中型を上下方向から加熱加圧する上型及び下型とから構成される。
【0008】
中型は、円周方向に複数の割型を備えており、成形後には割型を半径方向外方へ水平にスライドさせて型開きして、弾性機構を脱型している。ところが、吊り部を先端が斜め上方を向くように傾斜させた場合、吊り部の上側に位置する割型を半径方向外方に向かって水平にスライドさせて型開きしようとしても吊り部にひっかかるため、傾斜形成された吊り部に沿うように割型を斜め上方に移動させる必要があり、脱型作業が難しくなるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明においては、上記問題に鑑みて、弾性機構に吊上げ用の吊り部を設けつつ、フックの係止作業を容易に行なうことが可能で、かつ、弾性機構を容易に製造することが可能な空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る空気ばねは、上面板と、下側部材と、前記上面板及び下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備え、前記下側部材は、弾性機構を有し、前記弾性機構は、頂板と、底板と、前記頂板及び底板の間に介在させた積層弾性体とを有し、前記積層弾性体は、複数の弾性体層の間に中間板を挟み込んで積層した積層構造とされ、前記中間板のうち、少なくとも1枚の中間板の外周端縁に吊り部が設けられたことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、吊り部を中間板に設けたことにより、空気ばねを作業台や台車に載置した状態で、吊り部は載置面から離れた位置で空中に突出することになる。従って、吊上げ用フック等を容易に吊り部に係止することが可能となる。これにより、吊り部を中間板に対して傾斜させる必要がなくなる。すなわち、吊り部を中間板の半径方向外方に向かって延設することができるため、弾性機構を成形した後、割型を半径方向外方に向けてスライド移動させることによりスムーズに脱型作業を行なうことができ、その結果、容易に弾性機構を製造することが可能となる。
【0012】
吊り部はフックを係止するために環状に形成され、平面視したときに、先端が丸みを帯びた形状を有するように形成することもできる。これにより、金型を型閉め或いは型開きする際に、吊り部が金型に接触した場合に、吊り部や金型が傷つきにくくすることが可能となる。
【0013】
吊り部は、中間板であればどの位置であっても特に制限なく設けることができるが、積層弾性体における最下位の中間板に形成するのが望ましい。空気が抜けた状態のベローズに対して最も接触しにくい位置であること、さらに、吊上げ用のフックがベローズに接触しないように設定される吊り部の長さが最も短くてすむためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、弾性機構の中間板のうち、少なくとも1枚の中間板の外周端縁に吊り部を設けたため、構造が簡単であるにもかかわらず、吊上げ用フック等を容易に吊り部に係止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。
図1は、本発明に係る鉄道車両用空気ばねの実施形態を示す縦断面図であり、平面視で90°の範囲で断面としたものである。空気ばねは、車両の車体に取り付けられる上面板1と、その下方で車輪側に配置される下側部材2と、上面板1及び下側部材2の間に介装される筒状の可撓部材3と、台車側の下支持部と中間支持部との上下間に介装される弾性機構4とを備えている。
【0017】
本実施形態においては、可撓部材3として、ゴム製ベローズを使用している。可撓部材3は、補強コードが埋設された補強ゴム層を中間層とする積層ゴムから構成されており、可撓部材3の上端部及び下端部にはビードに補強ゴム層を巻き付けた肉厚のビード部3a,3bが形成されている。
【0018】
図1に示すように、上面板1は、金属製で円盤状の支持プレート5と、支持プレート5の中央部においてビード受部8に向かって突出する円筒形状のビード受部6と、支持プレート5の下面においてビード受部6よりも半径方向外方の部分に設けられた保護ゴム層7とを備えている。下側部材2は、弾性機構4と、弾性機構4の頂板9の中央部に固定されるビード受部8とを備えている。ビード受部8は、円柱形状で上面板1に向かって突出するように形成されている。そして、ビード受部6にはビード部3aが、ビード受部8にはビード部3bが、それぞれ嵌装される。
【0019】
弾性機構4は、頂板9と、底板10と、頂板9及び底板10の間に介在させた積層弾性体11とを有している。積層弾性体11は、複数の弾性体層12の間に中間板13を挟み込んで積層した積層構造とされる。本実施形態においては、中間板13として金属板が使用されており、弾性体層12の構成材としてゴム材が使用されている。
【0020】
ビード受部8は、固定部材によって頂板9に固定される。具体的に説明すると、
図1に示すように、ビード受部8には貫通孔が形成され、頂板9にはビード受部8の貫通孔に対応する位置に棒ねじが立設されている。ビード受部8は、貫通孔に頂板12の棒ねじを挿入した状態でナットによって固定される。本実施形態では、棒ねじとナットとが固定部材とされる。
【0021】
頂板9、底板10、弾性体層12及び中間板13はそれぞれ中心部に貫通孔を備えた円板状に形成される。上面板1の中央には上ボス15が、底体10の中央には下ボス16が固定されている。中間板13のうち、積層弾性体11における最下位の中間板13aは、それ以外の中間板13bと比べて外周縁に吊り部14が形成されている点のみ相違する。
【0022】
吊り部14は、中間板13aの外周縁に1箇所以上形成すればよいが、本実施形態では、中間板13aの外周縁上に、中間板13aの中心軸を挟んで対称位置に2箇所吊り部14が形成されている。吊り部14を2箇所設けたのは、吊上げた空気ばねを安定保持することが可能で、さらに、後述する中型21の構成部材である円環体23aを、構造が簡易な2分割の割型とすることができるためである。
【0023】
図2に示すように、吊り部14は、中間板13aとほぼ同じ厚みで、最下位の中間板13aの外周縁部から中間板13aの半径方向外方に向かって形成される。吊り部14の中央部には貫通孔14aが形成され、フック等が係止可能とされる。上記構成により、本実施形態では、吊り部14を中間板13aに対して傾斜させていないにもかかわらず、吊り部14に吊上げ用フック等を容易に係止することができる。
【0024】
吊り部14の形状としては、平面視したときに、先端が丸みを帯びた形状を有するように形成される。本実施形態では、基端から中間付近までほぼ同じ幅で形成され、先端部のみ丸みを帯びた形状とされている。これにより、金型を型閉め或いは型開きする際に、吊り部14が金型に接触した場合に、吊り部14や金型が傷つきにくくすることが可能となる。なお、吊り部14の別の形態としては、
図3に示すように、基端から先端に向かって徐々に幅が狭くなるように形成することも可能である。
【0025】
弾性機構4の製造方法の一例を
図4〜
図8を基に説明する。弾性機構4を製造する金型は、
図8に示すように、上型20、中型21及び下型22を備えた構成とされる。上型20及び下型22は円盤状に形成される。中型21は、内枠体23および外枠体24から構成される。上型20の中央部には下方に芯部25が垂設される。
【0026】
内枠体23及び外枠体24は、ともに円筒状に形成され、内枠体23は、外枠体24内に、外枠体24の内壁に密接した状態で収容可能とされる。内枠体23は、組合せ可能に形成された6個の円環体23a〜23cを上下方向に積み重ねて構成される。なお、内枠体23及び外枠体24はともに、円周方向に2分割された2つの割型から構成される。すなわち、内枠体23においては、円環体23a〜23cのそれぞれが円周方向に2分割可能な割型から構成される。
【0027】
各円環体23a〜23cを構成する一対の割型は、いずれも図示しない凸部及び凹部により互いに係合可能とされ、係合状態でひとつの円環体として挙動する。一対の割型の係合状態を解消するには、互いに半径方向に離間する方向に遠ざければよい。
【0028】
上記構成の金型を用いて弾性機構4を製造するには、先ず、底板10の中央部の貫通孔10aに下ボス16を挿通し、底板10の下面から下ボス16が垂下した状態で下ボス16を固定し、下ボス16付きの底板10を、
図4に示すように、下型22にセットする。底板10及び下ボス16は一体的に形成したものを用いてもよい。なお、下型22の中心には貫通孔22aが形成され、貫通孔22aに下ボス16を嵌合させる。
【0029】
次いで、
図5に示すように、一対の割型を係合した円環体23aを外枠体24の上部開口から外枠体24の内壁に沿わすようにして下型22上にスペーサとしてセットし、円環体23a上面と、底板10上面との間に生じた段差部分に未加硫ゴムシート26を配置する。そして、
図6に示すように、未加硫ゴムシート26の上に中間板13aを載置する。
【0030】
円環体23aの上面の内周縁部には中間板13aの外周縁部が嵌合する周状の凹部が形成され、そのうちの一部は中間板13aの吊り部14が嵌合可能な凹部27が半径方向外方に向かって拡張形成されており、吊り部14がこの凹部27に嵌まるように中間板13aの向きを調整する。円環体23aの割り面は、凹部27から中心軸Cまわりに90℃回転した位置に形成される。
【0031】
円環体23aの上には、円環体23bを載置し、円環体23b上面と、中間板13a上面との間に生じた段差部分に未加硫ゴムシート26を配置し、その上に中間板13bを載置する。以下、この操作を繰り返して、
図7に示すように、6つ目の円環体23cをセットし、未加硫ゴムシート26を配置した後は、最後に頂板9を重ねる。
【0032】
そして、
図8に示すように、上型20を被せた金型をプレス盤にて上下方向から加熱加圧して加硫成形を行なう。芯部25は、上型20を中型21に被せるときに、頂板9、弾性体層12及び中間板13a〜13bの貫通孔を挿通し、底板10に当接した時点で閉型が終了する。
【0033】
なお、
図5〜8は概略図であって、円環体23aと未加硫ゴムシート26との間は隙間がないように見えるが、実際は、未加硫ゴムシート26を所定位置にセットしたときに、未加硫ゴムシート26と、円環体23a及び芯部25との間には隙間が存在し、その分、未加硫ゴムシート26の高さは成形後に形成される弾性体層12の高さよりも若干高くなるように形成されている。
【0034】
したがって、未加硫ゴムシート26の上に中間板13aを載置したときには、中間板13aの表面が円環体23aの表面よりも少し浮きあがった状態で保持される。さらに、円環体23aの上に円環体23bを載置したときには、円環体23aと円環体23bとの間にも隙間が生じる。
【0035】
このように、6つの円環体23a〜23cを単に積み重ねた状態では、隣接する円環体の間に隙間が存在するとともに、各層において、未加硫ゴムシート26と、円環体23a〜23c及び芯部25との間に隙間が生じる。
【0036】
上記金型は、加熱しながら上下から加圧することで、隣接する円環体の間の隙間は無くなり、それに伴って、各層において、未加硫ゴムシート26と、円環体23a〜23c及び芯部25との間の隙間も無くなり、加硫後は、未加硫ゴムシート26が弾性体層12となり、弾性体層12が6層積層された弾性機構4を得ることができる。
【0037】
成形終了後は、上型20、外枠体24を外し、その後、内枠体23について、上から順番に円環体23a〜23cを取り外す。なお、円環体23a〜23cを取り外す際には、割り型を互いに半径方向に離間する方向(各割り面に直交する方向)に水平方向にスライドさせて離間させればよい。本発明においては、吊り部14を半径方向外方(水平方向)に向けて設けたため、上記操作によって円環体の係合状態を解消し、円環体を弾性機構4から容易に取り外すことができる。
【0038】
従来の弾性機構を製造する場合について、
図9を基に説明する。なお、従来の弾性機構は、
図9に示すように、吊り部14が底板10に形成されている点のみが
図8に示す本発明に係る空気ばねの弾性機構と相違する。
【0039】
上記構成の相違により、弾性機構を成形する金型として、
図8では一つの円環体23aで構成されていた部分が、
図9では三つの円環体23a1、23a2及び23a3によって構成しなくてはならず、金型の構造が複雑化する。これは、傾斜形成した吊り部14の先端を境にして先ずその上側と下側とに分割し、さらに上側の円環体を吊り部14の先端を境にして半径方向外方側と半径方向内方側とに分割することで吊部14を脱型可能とするためである。
【0040】
図9に示す金型から弾性機構4を脱型するときは、上型20及び外枠体24を外し、次いで内枠体23は一番上の円環体23cから順に、円環体を構成する一対の割型を半径方向外方に引き離すようにして外していく。そして、
図10に示すように、円環体23a2の割型を互いに半径方向に離間する方向(各割り面に直交する方向)に水平方向にスライドさせて離間させた後、円環体23a3を外す際には、吊り部14に沿うように23a3の割型を斜め上方(図中の矢印の方向)に向かって移動させなければならず、脱型作業が難しくなっていた。
【0041】
以上詳述したように、本発明においては、従来は弾性機構4の底板10に設けていた吊り部14を中間板13の周縁部に形成するようにしたため、円環体23aを構成する割型を半径方向外方に向けてスライド移動させることによりスムーズに脱型作業を行なうことができ、その結果、容易に弾性機構を製造することが可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、本実施形態では、吊り部は、中間板の外周端縁から半径方向外方(水平方向)に向けて設けているが、金型から脱型した後に吊り部を機械的に屈曲させて傾斜させてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、吊り部は中間板に2箇所形成しているが、これに限らず、3箇所以上設けることも可能である。さらに、吊り部は最下位の中間板よりも上位の中間板に形成することも可能である。