(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334251
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】遺伝子検査装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20180521BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20180521BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20180521BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20180521BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20180521BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20180521BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N33/53 M
G01N33/483 C
G01N37/00 102
G01N35/04 G
G01N35/02 B
G01N35/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-97873(P2014-97873)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-213465(P2015-213465A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】大場 光芳
(72)【発明者】
【氏名】山野 博文
(72)【発明者】
【氏名】平山 幸一
【審査官】
藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−107083(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/145333(WO,A1)
【文献】
特開2007−322290(JP,A)
【文献】
特開2012−161340(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/114562(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/017068(WO,A1)
【文献】
特開2009−092420(JP,A)
【文献】
特開2011−217699(JP,A)
【文献】
特開2004−003888(JP,A)
【文献】
特開2016−034247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 − 3/00
C12N 15/00 − 15/90
C12Q 1/00 − 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAマイクロアレイを搭載することができ、当該DNAマイクロアレイを所定の位置に位置決めするチップ駆動部と、
核酸増幅反応後の反応液を入れることができるチューブと、先端部に当該チューブの開口端部を取り付けられる中空容器と、当該チューブに溶液を供給する機構と、チューブ内の溶液の温度を調整する温度調整部とを有する反応部と、
上記チップ駆動部により上記中空容器内の第1の位置に位置した状態のDNAマイクロアレイに対して洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
上記チップ駆動部により上記中空容器内の第2の位置に位置した状態のDNAマイクロアレイからの光学信号を検出する検出部と
を備え、上記機構が上記中空容器に取り付けられた上記チューブ内の反応液に上記溶液を供給することでハイブリダイズ反応用溶液とし、上記中空容器は、少なくとも上記第2の位置が透光性を有していることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項2】
上記機構は、少なくとも端面がフィルムからなり内部に溶液を保持した溶液保持材であり、当該溶液保持材が上記チューブの開口端部に載置され、上記フィルムを割ることで当該溶液保持材内の溶液を上記チューブ内に供給することを特徴とする請求項1記載の遺伝子検査装置。
【請求項3】
上記チップ駆動部は、DNAマイクロアレイを取り付ける担体支持部材を取り付けることができ、当該担体支持部材を上記フィルムに押圧するよう駆動することで当該フィルムを割ることを特徴とする請求項2記載の遺伝子検査装置。
【請求項4】
上記中空容器は上記第1の位置に開口部を有しており、上記洗浄液供給手段は当該開口部を介して洗浄液をDNAマイクロアレイに供給することを特徴とする請求項1記載の遺伝子検査装置。
【請求項5】
上記反応部は、チューブ内の溶液を撹拌する撹拌手段を有していることを特徴とする請求項1記載の遺伝子検査装置。
【請求項6】
上記温度調整部は、上記DNAマイクロアレイを用いたハイブリダイズ反応に関する温度制御と、上記チューブ内で行う核酸増幅反応に関する温度制御とを行うことを特徴とする請求項1記載の遺伝子検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイ(DNAチップとも呼ばれる)を用いた遺伝子検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム解析の進展により、種々の生物の生理反応に関与する生体関連分子が解明されてきた。これら生体関連分子には、DNA、蛋白質、糖鎖、細胞などがあり、機能や構造等が解明されたものは、創薬や臨床検査、食品検査、環境検査などの各種産業用途に利用される。
【0003】
臨床検査を始めとする検査では、以下の方法が一般的によく採用される。すなわち、検出したい生体関連分子(以下、アナライトと呼称する)と特異的に結合するプローブ分子(以下、リガンドと呼称する)を担体上に固定したデバイスに検体を接触させると、検体にアナライトが存在する場合、リガンドと結合してアナライトが担体上に捕捉されるので、この捕捉されたアナライトが検出される。
【0004】
上記のような検査方法においても、近年、高速化、自動化が求められ、数百〜数万の生体関連分子を同時に網羅的に計測する検出方法が要望されるようになり、生体関連分子固定の集積化技術、いわゆる、MEMS技術を用いたデバイス設計が可能となり、いわゆるマイクロアレイとして、創薬研究やバイオ研究における網羅的解析に用いられている。なかでも、担体上に核酸分子を固定した所謂DNAマイクロアレイ(DNAチップとも呼ばれる)を用いた遺伝子検査が実用化されている。
【0005】
DNAマイクロアレイを用いた解析では、先ず、DNAマイクロアレイ上に、例えば、蛍光物質で予め蛍光標識を行った検体DNAを接触させ、担体上に固定されたプローブDNAと検体DNAとを特異的にハイブリダイズさせる。その後、DNAマイクロアレイを洗浄し、蛍光物質が発する蛍光シグナルを検出測定することにより検体DNAを同定又は定量する。
【0006】
DNAマイクロアレイは、通常、スライドガラス様の大きさで、専らその上に検体を垂らしプレパラートで覆い反応させる。今後は用途に応じてマイクロアレイを大量に自動処理する必要がある。その場合、マイクロアレイの小型化が望まれ、さらに小型化したマイクロアレイを自動で処理するための効率的な手段の開発が望まれる。
【0007】
DNAマイクロアレイを用いた遺伝子検査装置としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1に開示された遺伝子検査装置は、DNAマイクロアレイのための温度調整部、DNAマイクロアレイからの光学信号を検出する検出部、DNAマイクロアレイへの流体を給排する流体輸送部、全体の動作を制御する制御部を備えている。
【0008】
遺伝子検査装置は、例えば
図13に示すように、DNAマイクロアレイ101と、DNAマイクロアレイ101を固定する担体支持部材102を備え、担体支持体に固定されたDNAマイクロアレイ101を移動自在としている。また、遺伝子検査装置は、
図13に示すように、検査対象の生物から抽出した核酸としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等により所定の領域を増幅する核酸増幅反応部103と、PCR等の核酸増幅反応後の溶液を用いてハイブリダイズ反応を行うハイブリダイズ反応部104、ハイブリダイズ反応後のDNAマイクロアレイ101を洗浄する洗浄部105と、洗浄後のDNAマイクロアレイ101からの蛍光を検出する検出部106とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−28775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、遺伝子検査装置においては、例えば、ハイブリダイズ反応の工程、洗浄の工程及び検出の工程といった一連の工程を自動化する場合、各工程を実施するための構成が必要となり大型化してしまうといった問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、DNAマイクロアレイを利用して各種工程を自動化することができ、小型化が実現された遺伝子検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
(1)DNAマイクロアレイを搭載することができ、当該DNAマイクロアレイを所定の位置に位置決めするチップ駆動部と、核酸増幅反応後の反応液を入れることができるチューブと、当該チューブに取り付けられる中空容器と、当該チューブに溶液を供給する機構と、チューブ内の溶液の温度を調整する温度調整部とを有する反応部と、上記チップ駆動部により上記中空容器内の第1の位置に位置した状態のDNAマイクロアレイに対して洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、上記チップ駆動部により上記中空容器内の第2の位置に位置した状態のDNAマイクロアレイからの光学信号を検出する検出部とを備え、上記機構が上記チューブ内の反応液に上記溶液を供給することでハイブリダイズ反応用溶液とすることを特徴とする遺伝子検査装置。
(2)上記機構は、少なくとも端面がフィルムからなり内部に溶液を保持した溶液保持材であり、当該溶液保持材が上記チューブの開口端部に載置され、上記フィルムを割ることで当該溶液保持材内の溶液を上記チューブ内に供給することを特徴とする(1)記載の遺伝子検査装置。
(3)上記チップ駆動部は、DNAマイクロアレイを取り付ける担体支持部材を取り付けることができ、当該担体支持部材を上記フィルムに押圧するよう駆動することで当該フィルムを割ることを特徴とする(2)記載の遺伝子検査装置。
(4)上記中空容器は上記第1の位置に開口部を有しており、上記洗浄液供給手段は当該開口部を介して洗浄液をDNAマイクロアレイに供給することを特徴とする(1)記載の遺伝子検査装置。
(5)上記中空容器は、少なくとも上記第2の位置が透光性を有していることを特徴とする(1)記載の遺伝子検査装置。
(6)上記反応部は、チューブ内の溶液を撹拌する撹拌手段を有していることを特徴とする(1)記載の遺伝子検査装置。
(7)上記温度調整部は、上記DNAマイクロアレイを用いたハイブリダイズ反応に関する温度制御と、上記チューブ内で行う核酸増幅反応に関する温度制御とを行うことを特徴とする(1)記載の遺伝子検査装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る遺伝子検査装置は、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子検査を、より人による作業を行なわずに実現することができる。したがって、本発明に係る遺伝子検査装置は、低コスト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用した遺伝子検査装置の概略構成図である。
【
図2】本発明を適用した遺伝子検査装置の制御構成を示す構成図である。
【
図3】遺伝子検査装置におけるチップ駆動部及び反応部を示す要部斜視図である。
【
図4】反応部におけるハイブリダイズ反応の工程を示す要部断面図である。
【
図5】反応部におけるハイブリダイズ反応用溶液を調整する工程を示す要部断面図である。
【
図6】反応部における撹拌手段を示す要部断面図である。
【
図7】チューブにハイブリダイズ反応用溶液を入れた状態を示す要部断面図である。
【
図8】チューブに入れたハイブリダイズ反応用溶液にチップを浸漬した状態を示す要部断面図である。
【
図9】ハイブリダイズ反応後の洗浄工程に際してチップを位置決めした状態を示す要部断面図である。
【
図10】洗浄工程後の検出工程に際してチップを位置決めした状態を示す要部断面図である。
【
図11】ハイブリダイズ反応後の洗浄工程の他の形態を示す要部断面図である。
【
図12】ハイブリダイズ反応後の洗浄工程の更に他の形態を示す要部断面図である。
【
図13】従来の遺伝子検査装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を適用した遺伝子検査装置は、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子検査を行うものである。遺伝子検査装置に使用できるDNAマイクロアレイとしては、特に限定されず、例えば、平板状の担体と、担体表面に固定化したDNA断片(プローブと称する)とから構成されるものを挙げることができる。
【0016】
図1に示すように、遺伝子検査装置1は、少なくとも、DNAマイクロアレイを搭載して所定の位置に当該DNAマイクロアレイを位置決めするためのチップ駆動部2と、DNAマイクロアレイを用いたハイブリダイズ反応工程、洗浄工程及び検出工程を行うことができる反応部3、DNAマイクロアレイからの光学信号を検出するための検出部4を備える。また、遺伝子検査装置1は、
図2に示すように、装置全体の動作を制御する制御部5を有している。制御部5は、チップ駆動部2の駆動制御、反応部3における温度を調整する温度調整部6の動作制御、検出部4の検出動作制御を行う。
【0017】
チップ駆動部2は、
図3に示すように、所定の一軸方向にガイド7を有するガイド部材8と、ガイド部材8のガイド7に摺動可能に取り付けられた一軸アクチュエータ9とを備え、一軸アクチュエータ9の先端部に取り付けたチップ10をガイド7の軸方向(
図3中の矢印A方向)及び一軸アクチュエータ9の軸方向(
図3中の矢印B方向)に自在に移動することができる。
【0018】
なお、チップ10は、DNAマイクロアレイ11と、DNAマイクロアレイ11を取り付けた担体支持部材12とから構成されている。チップ10の形状及び構成については何等限定されないが、一例として、特許第4950336号に開示された、担体が固定された担体支持部材を適用することができる。すなわち、担体支持部材12は、略円錐形の形状における側面に凹部が形成されており、凹部の底面にDNAマイクロアレイ11が取り付けられている。担体支持部材12の凹部は、DNAマイクロアレイを取り付ける底面と、
図3中矢印B方向に位置する傾斜面とにより形成されている。
【0019】
また、チップ10は、一軸アクチュエータ9の先端部に対して着脱自在となっている。例えば、チップ10の一方端部が開口しており、一軸アクチュエータ9の先端部を当該開口部に圧入することで、チップ10を一軸アクチュエータ9に取り付けることができる。
【0020】
反応部3では、少なくとも、DNAマイクロアレイ11を用いたハイブリダイズ反応と、ハイブリダイズ反応後のDNAマイクロアレイ11の洗浄とを行う。一例として、反応部3は、
図3に示すように、ハイブリダイズ反応に使用する溶液を保持するチューブ13と、チューブ13の開口端部に取り付けられる中空容器14とを備えている。なお、反応部3は、
図3には示さないが、チューブ13内の溶液温度を所定の温度に調整する温度調整部6を有している。また、反応部3は、
図3には示さないが、チューブ13内の溶液を撹拌するための撹拌手段を有している。
【0021】
中空容器14は、
図3に示すように、チューブ13を取り付けた端部とは反対側が開口端部となっており、チップ10を取り付けた一軸アクチュエータ9の軸を挿入するようにチップ駆動部2に取り付けられる。中空容器14とチップ駆動部2とが連結した状態で、チップ10は、中空容器14の内部に矢印B方向に位置決め自在となる。
【0022】
中空容器14は、側面の一部に透光性を有する窓15を有している。窓15は、
図3には示していないが、検出部4と対向している。すなわち、検出部4は、窓15を介してDNAマイクロアレイ11からの光学信号を検出する。なお、中空容器14が透光性を有する材料から形成されている場合には、窓15を有している必要はないことは勿論である。
【0023】
中空容器14は、側面の一部に開口部16を有している。開口部16は、
図3において、窓15の下方に位置しているが、これに限定されず、側面の如何なる位置に形成されていても良い。例えば、開口部16は、窓15と同じ高さ位置であり、窓15と隣接する位置や窓15とは反対側の位置に形成されていても良い。開口部16には、図示しないが、洗浄液等の溶液を供給するためのパイプ先端部が挿入される。開口部16に挿入されたパイプは、中空容器14の内部に位置するチップ10に所定のタイミングで洗浄液等の溶液を供給することができる。なお、開口部16には、アルゴンガスや空気といった気体を供給するためのパイプ先端部が挿入されていても良い。
【0024】
以上のように構成された遺伝子検査装置では、
図4(a)に示すように、先ず、ポリメラーゼ増幅反応(PCR)等の核酸増幅反応により増幅された核酸を含む溶液(核酸増幅反応溶液)をチューブ13内に準備する。
【0025】
そして、
図4(b)に示すように、この核酸増幅反応溶液に所定の組成の溶液を加えることで、ハイブリダイズ反応に適した組成の溶液とする。ハイブリダイズ反応に適した組成の溶液とは、DNAマイクロアレイ11が有するプローブと、核酸増幅反応により得られた核酸断片との間の特異的なハイブリダイズが形成される反応を意味する。ハイブリダイズ反応は、溶液中の塩濃度、有機溶媒濃度及び温度等の条件によりストリンジェンシーが規定される。高ストリンジェントな条件でハイブリダイズ反応を行うことによって、非特異的なハイブリダイズが防止され、特異的なハイブリダイズが形成される。例えば、溶液中の塩濃度を低くするか、有機溶媒濃度を増加させるか、反応温度を高くすることにより高ストリンジェントな条件とすることができる。
【0026】
上記のような高ストリンジェントな条件下では、DNAマイクロアレイ11が有するプローブと、核酸増幅反応により得られた核酸断片との間の特異的なハイブリダイズが形成される。特異的なハイブリダイズとは、配列間の一致度が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上を有する場合にハイブリダイズできることを意味する。
【0027】
そして、チューブ13内の溶液が、ハイブリダイズ反応に適した組成の溶液となった後、
図4(c)に示すように、チップ駆動部2を降下させ、チューブ13内の溶液にDNAマイクロアレイ11を浸漬させる。なお、このとき、温度調整部6によりチューブ13内の溶液がハイブリダイズ反応に適した温度(高ストリンジェントな条件)とされる。
【0028】
ここでDNAマイクロアレイ11は、担体支持部材12の凹部に取り付けられている。よって、チップ駆動部2を降下させ、チューブ13内の溶液にDNAマイクロアレイ11を浸漬させる際、この凹部を形成する傾斜面により気泡が上部に逃げやすくなる。気泡がうまく逃げないと、DNAマイクロアレイ11と溶液との接触が阻害され、ハイブリダイズ反応が阻害される虞がある。気泡をうまく逃がす上記構成とすることにより、DNAマイクロアレイ11と溶液との良好な接触が達成できる。言い換えると、核酸増幅反応溶液に加える溶液は、
図4(c)に示すように、チューブ13内の溶液にDNAマイクロアレイ11全体を浸漬させるに足る量とする。
【0029】
ところで、
図4(b)に示すように、核酸増幅反応溶液に所定の組成の溶液を加えてハイブリダイズ反応用溶液とするとき、例えば、
図5に示すような方法を採用することができる。すなわち、核酸増幅反応溶液を入れたチューブ13の開口端部に、上下端面がフィルム20からなり内部に溶液を保持した溶液保持材21を載置し、チップ駆動部2を降下させることで担体支持部材12の先端部で上下端面のフィルム20を割り、溶液保持材21内部の溶液をチューブ13内に供給する方法である。
【0030】
溶液保持材21は、例えば樹脂製の筒部材の一端面にフィルム20を貼り、溶液を充填した後、他端面にフィルム20を貼ることで作製することができる。フィルム20と筒部材との接着は熱圧着等の手段によることができる。なお、溶液保持材21は、全体がフィルムから作製されたものでも良い。また、溶液保持材21に充填される溶液は、核酸増幅反応溶液と混合されてハイブリダイズ反応用溶液となる組成である。このとき、核酸増幅反応溶液が僅少量であり、混合しても組成変化が無視できる場合には、ハイブリダイズ反応用溶液そのものを溶液保持材21に充填しても良い。
【0031】
遺伝子検査装置1では、
図5に示したような機構により、核酸増幅反応溶液をハイブリダイズ反応用溶液にすることができるため、核酸増幅反応溶液に溶液を添加するためのポンプや弁といった流路機構を必要としない。このため、
図5に示したような機構を有する遺伝子検査装置1は、装置構成を簡略化することができ小型化を実現することができる。
【0032】
ところで、遺伝子検査装置1は、反応部3において核酸増幅反応を行い、その後、核酸増幅反応後の溶液を用いてハイブリダイズ反応を行うものであっても良い。核酸増幅反応は、特に限定されず、PCR法やLAMP法など如何なる原理を採用するものでもよい。反応部3においてPCR法を用いて核酸増幅反応を行う場合、例えば、先ず、細胞や組織から抽出した核酸、核酸増幅反応に必要な試薬(基質や、プライマー、ポリメラーゼ等の酵素)をチューブ13に充填する。そして、温度調整部6が予め設定した温度サイクルに従ってチューブ13内の溶液温度を制御することで、チューブ13内で核酸増幅反応を行うことができる。具体的に温度調整部6は、熱変性温度として例えば94℃を設定し、プライマーのアニーリング温度として例えば55℃を設定し、DNAポリメラーゼによる伸長反応温度として例えば72℃を設定することができる。そして、温度調整部6は、熱変性温度、アニーリング温度及び伸長反応温度を1サイクルとして、例えば25〜30サイクル行うように設定することができる。
【0033】
核酸増幅反応の終了後、
図4及び
図5に示したように、所定の組成の溶液をチューブ13内に加えることでハイブリダイズ反応用溶液とすることができる。なお、遺伝子検査装置1では、反応部3において核酸増幅反応を行う場合、或いは核酸増幅反応を他の装置で行う場合に拘わらず、チューブ13内において核酸増幅反応溶液と、ハイブリダイズ反応溶液にするための所定の組成の溶液とを十分に混合することが好ましい。例えば、チップ10を取り付けたチップ駆動部2を上下動させることで、チップ10の上下動によりチューブ13内の溶液を撹拌することができる。また、遺伝子検査装置1は、チューブ13内の溶液を撹拌するための撹拌手段を備えることができる。
【0034】
撹拌手段としては、
図6(a)に示すように、撹拌翼25と撹拌翼25に取り付けた軸26とからなる機構とすることができる。図示しないモーターにより軸26を回転させることで撹拌翼25が溶液を撹拌することができる。
【0035】
また、撹拌手段としては、
図6(b)に示すように、磁性体からなる撹拌子27と内部にて回転動作可能な磁性体を有するスターラー本体28とからなる機構とすることができる。スターラー本体28内部の磁性体を回転させることでチューブ13内の撹拌子27を回転させ、これにより溶液を撹拌することができる。
【0036】
さらに、撹拌手段としては、
図6(c)に示すように、アルゴンガスや窒素等の気体を導入するパイプ29と、パイプ29に連結した気泡発生部30とからなる機構とすることができる。パイプ29を介して気泡発生部30から気泡を発生させることで、チューブ13内の溶液を撹拌することができる。
【0037】
さらにまた、撹拌手段としては、
図6(d)に示すように、ピペット装置31と、ピペット装置31の先端に取り付けたチップ32とからなる機構とすることができる。チップ32の先端部をチューブ13内の溶液内に位置した状態でピペット装置31が溶液の吸引及び吐出を繰り返すことで、チューブ13内の溶液を撹拌することができる。
【0038】
さらにまた、撹拌手段としては、
図6(e)に示すように、回転による振動や超音波といった振動を発生する振動発生装置33からなる機構とすることができる。振動発生装置33から発生した振動をチューブ13内の溶液内に伝達することで、チューブ13内の溶液を撹拌することができる。
【0039】
なお、撹拌手段としては、
図6(a)〜(e)に示した機構を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
以上のように反応部3において、DNAマイクロアレイ11を用いたハイブリダイズ反応を行う。すなわち、遺伝子検査装置1の反応部3は、
図7に示すようにチューブ13の内部にハイブリダイズ反応用の溶液が入れられた状態から、
図8に示すようにチップ10がチューブ13内の溶液に浸漬した状態となる。次に、遺伝子検査装置1では、チップ10の洗浄工程及びDNAマイクロアレイ11から生じる光学信号の検出工程を行う。
【0041】
洗浄工程では、先ず、
図9に示すように、チップ駆動部2を駆動して、DNAマイクロアレイ11が開口部16に対向する位置(第1の位置)とする。そして、図示しないが、開口部16を介して洗浄液をチップ10に対して供給する。チップ10に供給された洗浄液は、DNAマイクロアレイ11を含むチップ10を洗浄した後にチューブ13内に溜められる。
【0042】
ここで洗浄液とは、DNAマイクロアレイ11に固定されたプローブと、核酸増幅反応により得られた核酸断片との間の特異的なハイブリダイズが維持され、非特異的にハイブリダイズした核酸断片を洗い流せるものである。また、洗浄液をチップ10に対して供給することで、DNAマイクロアレイ11に付着した核酸断片や各種成分を洗い流すこともできる。
【0043】
洗浄液としては、ハイブリダイズ反応用の溶液と同じ組成の溶液を使用することができる。具体的には、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの溶液を使用することができる。また、好ましくは50℃、5×SSC、0.1%SDSの溶液を使用することができる。さらに好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの溶液を使用することができる。
【0044】
洗浄工程の後、DNAマイクロアレイ11から生じる光学信号の検出工程では、
図10に示すように、チップ駆動部2を駆動して、DNAマイクロアレイ11が窓15に対向する位置(第2の位置)とする。そして、図示しないが、窓15を介して検出部4がDNAマイクロアレイから生じる光学信号を検出する。具体的に、核酸増幅反応において増幅した核酸断片を蛍光物質で標識しておいた場合には、検出部4において励起光をDNAマイクロアレイ11に照射し、励起した蛍光を検出部4にて検出する。なお、中空容器14が透光性を有する材料からなる場合、検出工程は中空容器14の任意の位置で行うことができる(第2の位置)。
【0045】
より具体的に、検出部4としては、結像光学系の検出器を用いることが好ましい。結像光学系の検出器は、励起光を担体に照射し、得られる蛍光の強度を検出するものである。結像光学系の検出器は、通常、励起光を照射するためのレーザー、目的の波長の蛍光のみを透過させる蛍光フィルター、蛍光フィルターを透過した蛍光を検出するための光検出部(例えば、CCDカメラ)を有する。通常、レーザーで一度にDNAマイクロアレイ11全体に斜めに励起光を照射し、DNAマイクロアレイ11の正面から蛍光を検出する。励起光をDNAマイクロアレイ11に対して斜めに照射するとは、DNAマイクロアレイ11表面とレーザー光のなす角度が、90°未満であることをさし、通常、30〜70°、好ましくは40〜60°の角度で照射する。結像光学系の検出部4では、DNAマイクロアレイ11の全面にレーザーを走査させる必要がなく、検出を短時間で実施することができる。一度に担体全体に励起光を照射するため、DNAマイクロアレイ11としては、比較的サイズの小さいもの、例えば、寸法が10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下、最も好ましくは1〜5mm四方のサイズとする。
【0046】
ところで、上述した洗浄工程は、開口部16を介して洗浄液をチップ10に対して供給するものであった。しかし、洗浄液の供給方法については、特に限定されず、例えば
図11に示すように、先端部がチップ10に取り付けたDNAマイクロアレイ11に対向する位置となるようチップ駆動部2に取り付けられた洗浄液供給チューブ40を利用しても良い。洗浄液供給チューブ40を利用することにより、中空容器14に開口部16を形成する必要が無くなり、中空容器14を簡略な構成とすることができる。なお、この場合、洗浄工程は中空容器14内の任意の位置で行うことができる(第1の位置)。
【0047】
また、洗浄液の供給方法としては、例えば、
図12に示すように、先端部がチップ10に取り付けたDNAマイクロアレイ11に対向する位置となるよう、中空容器14の内壁に沿うように配設された洗浄液供給管50を利用しても良い。洗浄液供給管50を利用することにより、中空容器14に開口部16を形成する必要が無くなり、中空容器14を簡略な構成とすることができる。なお、洗浄液供給管50は、中空容器14に固定されていても良いし、中空容器14に対して着脱自在であっても良い。なお、この場合、洗浄工程は洗浄液供給管50の先端部に対向する位置で行うこととなる(第1の位置)。
【0048】
以上のように、本発明を適用した遺伝子検査装置1では、反応部3において、核酸増幅反応後の反応液を用いてハイブリダイズ反応を行い、その後、反応部3において洗浄工程を行うことができる。よって、本発明を適用した遺伝子検査装置1では、ハイブリダイズ反応のための機構と、洗浄のための機構とを別々に用意する必要が無く、装置構成を簡略化することができ小型化を実現できる。特に、反応部3において核酸増幅反応を行うことができるため、この場合には、核酸増幅反応のための機構と、ハイブリダイズ反応のための機構と、洗浄のための機構とを別々に用意する必要が無い。すなわち、本発明を適用した遺伝子検査装置1は、反応部3において核酸増幅反応を行う場合であっても、装置構成が複雑になることはなく小型化を実現することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…遺伝子検査装置、2…チップ駆動部、3…反応部、4…検出部、5…制御部、6…温度調整部、10…チップ、11…DNAマイクロアレイ、13…チューブ、14…中空容器