(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
時間と絶縁材料の絶縁抵抗とを座標軸とする平面において前記絶縁材料の絶縁抵抗の初期値から前記絶縁材料の診断時の推定絶縁抵抗値までを結んだ第1の直線の傾きを算出する算出過程と、
前記診断時の前記推定絶縁抵抗値を通り、前記第1の直線の傾きを前記絶縁材料の劣化度合いに応じて変更した傾きの第2の直線が絶縁抵抗のしきい値に達するまでの前記診断時からの期間により余寿命を算出する診断過程と、
を有する余寿命算出方法。
前記診断過程においては、前記絶縁材料の絶縁特性の変化と相関がある評価項目の前記診断時における測定値に基づいて劣化度合いを複数の段階のいずれかに分類し、分類された前記段階に対応した係数と前記第1の直線の傾きとの積を前記第2の直線の傾きとする請求項1に記載の余寿命算出方法。
前記絶縁材料の劣化度合いは、前記診断時における前記絶縁材料の色調、光沢度、表面粗さ、ぬれ性、汚損度、及びイオン含有量のうち1以上の測定値に基づいて判定される請求項1または請求項2に記載の余寿命算出方法。
前記診断過程においては、前記診断時の前記絶縁材料の低湿度における推定絶縁抵抗値の桁数及び高湿度における推定絶縁抵抗値の桁数の比により求められる係数と前記第1の直線の傾きとの積を前記第2の直線の傾きとする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の余寿命算出方法。
絶縁材料の絶縁特性の変化と相関がある評価項目の測定結果及び高湿度の環境因子に基づいて算出される推定絶縁抵抗値の桁数と、前記測定結果及び低湿度の環境因子に基づいて算出される推定絶縁抵抗値の桁数との比により前記絶縁材料の劣化度合いを判断する劣化診断方法。
時間と絶縁材料の絶縁抵抗とを座標軸とする平面において前記絶縁材料の絶縁抵抗の初期値から前記絶縁材料の診断時の推定絶縁抵抗値までを結んだ第1の直線の傾きを算出する算出部と、
前記診断時の前記推定絶縁抵抗値を通り、前記第1の直線の傾きを前記絶縁材料の劣化度合いに応じて変更した傾きの第2の直線が絶縁抵抗のしきい値に達するまでの前記診断時からの期間により余寿命を算出する診断部と、
を備える劣化診断装置。
絶縁材料の絶縁特性の変化と相関がある評価項目の測定結果及び高湿度の環境因子に基づいて高湿度における推定絶縁抵抗値を算出する処理と、前記測定結果及び低湿度の環境因子に基づいて低湿度における推定絶縁抵抗値を算出する処理とを実行する絶縁抵抗推定部と、
前記高湿度における推定絶縁抵抗値の桁数と前記低湿度における推定絶縁抵抗値の桁数との比により前記絶縁材料の劣化度合いを判断する診断部と、
を備える劣化診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の余寿命算出方法、劣化診断方法、劣化診断装置、及びプログラムを、図面を参照して説明する。実施形態においては、例えば受電設備、変電設備、スイッチギヤなどのような各種の電力機器又は電力設備に使用される絶縁材料の劣化状態を推定・診断する。絶縁材料の余寿命の算出は、実施形態における診断の一例である。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、受変電設備に使用される真空遮断器のモデル図である。真空遮断器の真空バルブの収納に使用される絶縁材料の1つに、例えば、絶縁バリヤがある。絶縁バリヤは単体での交換が困難であり、絶縁バリヤの絶縁性能が低下すると真空遮断器全体を交換する必要がある。従って、この絶縁バリヤの特性を評価し余寿命を算出することにより、設備の余寿命の目安とすることができる。
【0011】
図2は、絶縁バリヤの劣化形態を模式的に示した図である。絶縁バリヤは、炭酸カルシウムやシリカなど無機充填材を含有した不飽和ポリエステルやエポキシ樹脂など有機物からなる。
図2(a)に示すように、新品の時は表面が滑らかであり、絶縁バリヤは有機物に覆われた形状である。しかし、長期間の使用によって、
図2(b)に示すように、表面の有機物が飛散してボイドなど欠陥が発生する。これにより、材料表面の凹凸が大きくなり、内部の充填材も露出してくる。このような状態の絶縁材料が高湿度環境に曝されると、表面の凹凸に水分が溜まりやすくなる。特に炭酸カルシウムなど吸湿性の高い充填材が入っていた場合は潮解現象が発生し、絶縁材料の絶縁抵抗が急激に低下することが分かっている。
【0012】
このことから、絶縁バリヤの色調、光沢度、表面粗さ、ぬれ性、汚損度、イオン含有量等を測定することによって、その絶縁バリヤに用いられている絶縁材料の絶縁抵抗を推定し、推定絶縁抵抗値を得ることができる。この推定絶縁抵抗値を利用して絶縁材料の余寿命を算出することができる。
【0013】
図3は、余寿命算出方法を説明する図である。同図に示す座標平面おいて、横軸は経過時間であり、縦軸は絶縁材料の絶縁抵抗である。なお、この座標平面は、縦軸が対数座標軸の片対数グラフである。絶縁材料が新品時の絶縁抵抗の値を初期値R
0とし、診断時に推定した絶縁抵抗の値を推定絶縁抵抗値R
1とする。新品時とは、製造直後、あるいは、製造から1年を経過しない時点とするのが望ましい。新品時から診断時までの経過時間はT
0である。
【0014】
時間経過に伴う絶縁材料の絶縁抵抗の変化を表す直線を得るため、まず、初期値R
0と推定絶縁抵抗値R
1までを直線L
0(第1の直線)で結ぶ。絶縁抵抗は、直接測定すると現地測定環境に左右されやすい。そこで、絶縁材料を直接測定した絶縁抵抗の値に変わるものとして、絶縁特性の変化と相関があり、かつ、環境に影響されない色調、光沢度、表面粗さ、ぬれ性、汚損度、イオン含有量等の評価項目の測定値から推定した推定絶縁抵抗値R
1を用いる。直線L
0の延長線である直線L
1が絶縁抵抗の寿命しきい値に交わるまでの診断時(評価項目の測定時)からの時間により余寿命T
1が求められる。寿命しきい値は放電が発生し始める表面抵抗とし、実験的に求めた値である。
【0015】
しかしながら、絶縁材料は使用環境により劣化度合いが異なる。それにもかかわらず、いずれの絶縁材料も、初期値から寿命しきい値までを同条件の直線で結んで余寿命を算出すると、算出された余寿命の精度が低くなる恐れがある。劣化度合いの高い材料については、劣化度合いが小さい材料より寿命が短くなるのは当然のことである。そこで、経過時間T
0が経過した診断時以降は、劣化度合に応じて直線L
0と同じ傾き、または、直線L
0よりも傾きを大きくとった直線L
2(第2の直線)を用いる。直線L
2は、使用中の絶縁材料を診断してから寿命までの期間について、時間経過に伴う絶縁抵抗の変化(劣化状態)を精度良く表した直線である。従って、診断時から、直線L
2が絶縁抵抗の寿命しきい値に交わるまでの時間として得られる余寿命T
2は、実態を精度よく捉えていると考えられる。このように、劣化度合いによって、絶縁抵抗推定値から寿命しきい値までの直線の傾きを変えることによって、高い精度での余寿命算出が可能になる。
【0016】
図4は、劣化診断装置1の構成を示すブロック図である。同図に示すように、劣化診断装置1は、入力部2、記憶部3、処理部4、及び出力部5を備えて構成される。
入力部2は、例えば、キーボードやボタン、タッチパネルに配されたタッチセンサであり、ユーザが情報を入力するためのユーザインタフェースである。なお、入力部2は、劣化診断装置1と接続される他の装置から情報の入力を受けてもよい。
記憶部3は、絶縁抵抗の寿命しきい値など各種情報を記憶する。
【0017】
処理部4は、絶縁抵抗推定部41と、算出部42と、診断部43とを備えて構成される。
絶縁抵抗推定部41は、絶縁抵抗の推定に用いられる各評価項目の測定値を入力部2から受信し、受信した測定値から診断時の推定絶縁抵抗値R
1を算出する。絶縁抵抗の推定に用いられる評価項目は、絶縁材料の色調、光沢度、表面粗さ、ぬれ性、汚損度など絶縁特性の変化と相関のある材料特性や、イオン含有量など絶縁特性の変化と相関のある環境因子のうち1以上である。各評価項目は、絶縁材料の種類によって異なりうる。
算出部42は、絶縁材料が新品であった時の絶縁抵抗の初期値R
0と、経過時間T
0とを入力部2から受信する。算出部42は、初期値R
0及び経過時間T
0と、絶縁抵抗推定部41が算出した推定絶縁抵抗値R
1とに基づいて定められる直線L
0の傾きa
1を算出する。
診断部43は、劣化度合いを判定可能な情報を入力部2から受信する。診断部43は、受信した情報から判定された劣化度合いに応じた係数を傾きa
1に乗算し、傾きa
2を算出する。係数は1以上の値であり、劣化度合いが大きいほど大きな値である。診断部43は、診断時の推定絶縁抵抗値R
1を通る傾きa
2の直線L
2(係数が1の場合、直線L
2=直線L
1)が寿命しきい値と交わるまでの診断時からの期間を余寿命として算出する。このように、診断部43は、直線L
0の診断時以降の傾きを絶縁材料の劣化度合いに応じて変更する。
【0018】
出力部5は、LCD(Liquid Crystal Display)やタッチパネルなどのディスプレイであり、診断部43が算出した余寿命を表示する。なお、出力部5は、記録媒体に余寿命を書き込んだり、劣化診断装置1と接続される他の装置のディスプレイに余寿命を表示させたりしてもよい。
【0019】
図5は、劣化診断装置1の処理フローを示す図である。
入力部2は、絶縁材料の絶縁抵抗を推定するために用いられる各評価項目の測定値と、絶縁抵抗の初期値R
0と、初期値R
0が得られてから診断時までの経過時間T
0と、劣化度合いを判定可能な情報との入力を受ける(ステップS105)。
【0020】
絶縁抵抗推定部41は、各評価項目の測定値を入力部2から受信し、受信したこれら各評価項目の測定値を用いて、診断時の推定絶縁抵抗値R
1を算出する(ステップS110)。推定には、例えばT(タグチ)法を用いることができる。
【0021】
算出部42は、絶縁抵抗の初期値R
0と経過時間T
0を入力部2から受信する。算出部42は、絶縁抵抗推定部41が算出した推定絶縁抵抗値R
1から初期値R
0を減算した値を、経過時間T
0により除算して診断時までの直線L
0の傾きa
1を算出する(ステップS115)。傾きa
1は、通常、負の値となる。
【0022】
診断部43は、劣化度合いを判定可能な情報を入力部2から受信し、受信した情報から劣化度合いを判定する。さらに、診断部43は、劣化度合いに応じた係数を取得する。例えば、劣化度合いと係数との対応関係を記憶部3に予め記憶しておき、診断部43は記憶部3から劣化度合いに応じた係数を読み出す。あるいは、診断部43は、予め与えられた劣化度合いと係数との関係式を用いて、入力された劣化度合いに応じた係数を算出する(ステップS120)。係数は1以上であり、劣化度合いが大きいほど大きな値となる。
【0023】
診断部43は、ステップS120において取得した係数を、算出部42が算出した傾きa
1に乗算し、傾きa
2を算出する(ステップS125)。診断部43は、記憶部3から絶縁抵抗の寿命しきい値を読み出す。診断部43は、診断時の推定絶縁抵抗値R
1を通る傾きa
2の直線L
2が、絶縁抵抗の寿命しきい値と交わるまでの診断時からの期間を余寿命として算出する(ステップS130)。出力部5は、診断部43が算出した余寿命を表示する(ステップS135)。
【0024】
なお、上記において、入力部2は、絶縁抵抗の初期値R
0の入力を受けているが、記憶部3が予め絶縁抵抗の初期値R
0を記憶していてもよい。
また、上記において、絶縁抵抗推定部41が推定絶縁抵抗値R
1を算出しているが、他の装置において推定した推定絶縁抵抗値R
1の入力を入力部2が受けてもよい。
また、上記において、入力部2は、劣化度合いを判定可能な情報の入力を受けているが、劣化度合いを判定可能な情報から判定された劣化度合いの入力を受けてもよい。劣化度合いを判定可能な情報は、絶縁材料の絶縁抵抗を推定するために用いられる評価項目のうち一部の評価項目の測定値の情報であってもよい。
また、上記において、入力部2は、経過時間T
0の入力を受けているが、経過時間T
0を算出可能な情報の入力を受けてもよい。例えば、入力部2は、絶縁抵抗の初期値R
0が得られたときの日時と、各評価項目の測定日時(診断時の日時)の情報の入力を受けてもよい。算出部42は、これらの日時の差分から経過時間T
0を算出する。
【0025】
第1の実施形態によれば、時間と絶縁材料の絶縁抵抗とを座標軸とする平面において絶縁抵抗の初期値から診断時の絶縁抵抗推定値までを結んだ直線の傾きを劣化度合いによって変更する。そして、診断時以降は変更した傾きの直線を用いることによって高い精度による余寿命の算出が可能になる。
【0026】
(第2の実施形態)
直線の傾きを材料の劣化度によって変えるためには、例えば安全領域、注意領域、危険領域または劣化度小、劣化度中、劣化度大などの段階に分類にするのが望ましい。そこで、本実施形態では、各段階のそれぞれに応じた係数を用いる。
【0027】
図6は、劣化の分類と係数の対応の例を示す図である。絶縁抵抗の初期値から絶縁材料の診断時(余寿命算出時)の絶縁抵抗推定値までを結んだ直線の傾きに、
図6に示す劣化の分類(段階)に応じた係数を乗算した値が、絶縁抵抗推定値から寿命しきい値までの直線の傾きとなる。安全領域(劣化度小)の係数<注意領域(劣化度中)の係数<危険領域(劣化度大)の係数である。劣化度が小さい絶縁材料であれば、係数が1であるため、初期値から寿命しきい値までは一直線である。劣化が大きい絶縁材料の場合、係数が大きいため、絶縁抵抗推定値から寿命しきい値までの直線の傾きが大きくなる。従って劣化が大きい絶縁材料の場合は、余寿命が短く算出され、実態に近く、精度の高い推定ができる。
【0028】
図7は、劣化診断装置1aの構成を示すブロック図である。同図において、
図4に示す第1の実施形態による劣化診断装置1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。劣化診断装置1aは、入力部2、記憶部3a、処理部4a、及び出力部5を備えて構成される。
【0029】
記憶部3aは、記憶部3が記憶する情報に加え、劣化の各段階に対応した係数を記憶する。処理部4aは、絶縁抵抗推定部41と、算出部42と、診断部43aとを備えて構成される。診断部43aは、絶縁材料の劣化の段階を取得可能な情報を入力部2から受信し、受信した情報から得られた劣化の段階に応じた係数を記憶部3aから読み出す。診断部43aは、読み出した係数を算出部42が算出した傾きa
1に乗算して傾きa
2を算出する。診断部43aは、診断時の推定絶縁抵抗値R
1を通る傾きa
2の直線L
2(係数が1の場合、直線L
2=直線L
1)が寿命しきい値と交わるまでの診断時からの期間を余寿命として算出する。
【0030】
劣化診断装置1aの処理フローは、
図5に示す劣化診断装置1の処理フローと同じである。ただし、ステップS105において、入力部2は、劣化の段階を取得可能な情報の入力をさらに受ける。例えば、劣化の段階を取得可能な情報は、安全領域、注意領域、危険領域などの分類を示す情報でもよく、絶縁材料の絶縁抵抗を推定するために用いられる評価項目のうち一部の評価項目の測定値の情報であってもよい。また、ステップS120において、診断部43aは、劣化の段階の取得可能な情報を入力部2から受信し、受信した情報から取得した劣化の段階に応じた係数を記憶部3aから読み出す。
【0031】
第2の実施形態によれば、絶縁材料の劣化の度合いの段階に応じて余寿命を算出することができる。
【0032】
(第3の実施形態)
本実施形態では、絶縁抵抗に関連する評価項目についての絶縁材料や環境因子の測定結果から劣化度合いを判定する。
【0033】
図8は、強制劣化させた絶縁材料の表面粗さと一定環境で測定したその絶縁材料の絶縁抵抗(表面抵抗)の関係を示す図である。同図から、表面粗さが大きくなると絶縁抵抗が低下するという関係が顕著であることが分かる。例えば、絶縁抵抗が10
10Ω以上であれば設備に使っていても問題ない範囲、10
10Ω−10
8Ωの範囲は初期より絶縁抵抗が低下してきて注意する範囲、10
8Ω以下の範囲は設備の事故につながり得る危険領域とする。この場合、絶縁抵抗が10
10Ω以上の範囲に対応する表面粗さ5μm以下は安全領域となる。そして、絶縁抵抗が10
10Ω−10
8Ωの範囲に対応する表面粗さ5μm−11μm程度は注意領域、絶縁抵抗が10
8Ω以下の範囲に対応する表面粗さ11μm以上は危険領域となる。
【0034】
このように表面粗さだけでなく、他の評価項目においても絶縁抵抗との相関が顕著なものがある。そのような評価項目についての絶縁材料や環境因子の測定結果を利用すれば、材料の劣化度合いを分類することが可能となる。絶縁抵抗との相関が顕著な評価項目は、色調、光沢度、表面粗さ、ぬれ性、汚損度、イオン含有量などの絶縁抵抗を推定するために用いられる評価項目のうち1つまたは複数の項目である。
【0035】
図9は、劣化診断装置1bの構成を示すブロック図である。同図において、
図4に示す第1の実施形態による劣化診断装置1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。劣化診断装置1bは、入力部2、記憶部3b、処理部4b、及び出力部5を備えて構成される。
【0036】
記憶部3bは、記憶部3が記憶する情報に加え、劣化度合いの分類と、評価項目の測定値の範囲と、係数とを対応付けて記憶する。処理部4bは、絶縁抵抗推定部41と、算出部42と、診断部43bとを備えて構成される。診断部43bは、絶縁抵抗の推定に用いられる各評価項目の測定値を入力部2から受信し、受信した中から絶縁抵抗との相関が顕著な評価項目についての測定値を選択する。診断部43bは、選択した評価項目の測定値を範囲に含む劣化度合いの分類を特定し、特定した分類に対応した係数を記憶部3bから読み出す。診断部43bは、診断時の推定絶縁抵抗値R
1を通る傾きa
2の直線L
2(係数が1の場合、直線L
2=直線L
1)が寿命しきい値と交わるまでの診断時からの期間を余寿命として算出する。
【0037】
劣化診断装置1bの処理フローは、
図5に示す劣化診断装置1の処理フローと同じである。ただし、ステップS120において、診断部43bは、入力部2が入力を受けた各評価項目の測定値の中から、絶縁抵抗との相関が顕著であるとして予め設定されている評価項目についての測定値を選択する。診断部43bは、選択した評価項目の測定値を範囲として含む劣化度合いの分類を特定し、特定した分類に対応した係数を記憶部3bから読み出す。
【0038】
(第4の実施形態)
本実施形態では、高湿度における絶縁抵抗と低湿度における絶縁抵抗の桁数を劣化度として用いて係数を決定する。一般に絶縁材料の絶縁抵抗は、測定環境の中でも特に湿度の影響を大きく受ける。この湿度の影響による絶縁材料の劣化度合いの差も顕著である。
【0039】
図10は、異なる劣化度合いの絶縁材料の湿度特性を示す図である。同図においては、新品の絶縁材料、電気設備に使えるがかなり劣化が進んだ絶縁材料(劣化度中)、及び、電気設備に使うと事故を起こすほど劣化した絶縁材料(劣化度大)それぞれの絶縁抵抗(表面抵抗)の湿度特性を示している。新品の絶縁材料では、100%RH(高湿度)における絶縁抵抗値(高湿度絶縁抵抗値)は、30%RH(低湿度)のときの絶縁抵抗値(低湿度絶縁抵抗値)と比較しても、1桁程度しか低下していない。しかし、劣化度中では4桁程度、劣化度大では7桁も低下する。従って、(低湿度絶縁抵抗値の桁数)/(高湿度絶縁抵抗値の桁数)により、絶縁材料の劣化度合いを判断することができる。そして、この値を利用して、(低湿度絶縁抵抗値の桁数)/(高湿度絶縁抵抗値の桁数)を余寿命算出時の係数とすれば、絶縁材料の劣化度に応じた傾きを得ることが可能となる。
図6に示した各分類の係数は、(低湿度絶縁抵抗値の桁数)/(高湿度絶縁抵抗値の桁数)に基づいて定めた値である。
【0040】
図11は、劣化診断装置1cの構成を示すブロック図である。同図において、
図4に示す第1の実施形態による劣化診断装置1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。劣化診断装置1cは、入力部2、記憶部3、処理部4c、及び出力部5を備えて構成される。
【0041】
処理部4cは、絶縁抵抗推定部41cと、算出部42と、診断部43cとを備えて構成される。絶縁抵抗推定部41cは、第1の実施形態の絶縁抵抗推定部41と同様に、各評価項目の測定値に基づいて診断時の絶縁材料の推定絶縁抵抗値を算出する。さらに、絶縁抵抗推定部41cは、各評価項目の測定値と高湿度の環境因子とに基づいて高湿度環境における推定絶縁抵抗値を算出し、各評価項目の測定値と低湿度の環境因子に基づいて低湿度環境における推定絶縁抵抗値を算出する。
【0042】
診断部43cは、絶縁抵抗推定部41cが推定した低湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数と、高湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数とに基づいて係数を算出する。診断部43cは、算出した係数を算出部42が算出した傾きa
1に乗算して傾きa
2を算出する。診断部43cは、絶縁材料の推定絶縁抵抗値R
1を通る傾きa
2の直線L
2(係数が1の場合、直線L
2=直線L
1)が絶縁抵抗の寿命しきい値と交わるまでの期間を余寿命として算出する。
【0043】
劣化診断装置1cの処理フローは、
図5に示す劣化診断装置1の処理フローと同じである。ただし、ステップS110において、絶縁抵抗推定部41cは、第1の実施形態と同様に入力された各評価項目の測定値を用いて推定絶縁抵抗値R
1を算出する。さらに、絶縁抵抗推定部41cは、入力部2から受信した各評価項目の測定値と、高湿度環境の湿度の値を設定した環境因子とを用いて、絶縁材料の高湿度環境における推定絶縁抵抗値を算出する。さらに、絶縁抵抗推定部41cは、入力部2から受信した各評価項目の測定値と、低湿度環境の湿度の値を設定した環境因子とを用いて、絶縁材料の低湿度環境における推定絶縁抵抗値を算出する。ステップS120において、診断部43cは、(低湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数)/(高湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数)により係数を算出する。また、ステップS135において、出力部5は、診断部43が算出した余寿命に加えて、診断部43が(低湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数)/(高湿度環境における推定絶縁抵抗値の桁数)により判断した劣化度合いを表示してもよい。
【0044】
本実施形態では、診断時の絶縁材料の材料特性や環境因子に基づいて推定される高湿度環境における推定絶縁抵抗値及び低湿度環境における推定絶縁抵抗値を利用して、絶縁材料の劣化度合いを推定することができる。そして、この推定された劣化度合いを用いて、絶縁材料の余寿命を推定することができる。
【0045】
以上説明した各実施形態は、時間及び絶縁抵抗を座標軸とする平面上で絶縁材料の絶縁抵抗の初期値から診断時の推定絶縁抵抗値までを直線で結ぶ。そして、診断時から寿命しきい値に到達するまでは、その直線の傾きを診断時の劣化状態に応じて変更して絶縁材料の余寿命を算出する。
なお、時間経過に伴う絶縁材料の絶縁抵抗の変化を直線(線形)で表すことができれば、時間の座標軸が等間隔の目盛りを用いた線形座標軸、絶縁抵抗の座標軸が対数の目盛りを用いた対数座標軸でなくてもよく、任意の目盛りの座標軸を用いることができる。
【0046】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、算出部及び診断部を持つことにより、使用中の絶縁材料を診断してから寿命までの期間を精度良く算出することができる。これにより、絶縁材料を使用した受変電設備等の交換時期を判断するために重要な情報を提供することができる。
また、以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、絶縁抵抗推定部及び診断部を持つことにより、使用中の絶縁材料の劣化度合いを診断することができる。
【0047】
上述した実施形態における劣化診断装置1、1a、1b、1cの機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。