特許第6334285号(P6334285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6334285凝集状態検出方法、凝集状態制御方法、凝集状態検出装置及び凝集状態制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334285
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】凝集状態検出方法、凝集状態制御方法、凝集状態検出装置及び凝集状態制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20180521BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20180521BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20180521BHJP
   C02F 1/52 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   G01N21/17 A
   G01N21/41 Z
   B01D21/30 A
   !C02F1/52 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-127192(P2014-127192)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6395(P2016-6395A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 徳介
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】有村 良一
(72)【発明者】
【氏名】海老原 聡美
(72)【発明者】
【氏名】早見 美意
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】相馬 孝浩
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−079261(JP,A)
【文献】 特表2011−512842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を用いて被処理水中の固形物を凝集させ、前記固形物及びこの固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含む凝集物を得るステップと、
前記凝集物を撮像手段によって前記凝集物の明視野像及び位相差像を得るステップと、
前記明視野像及び前記位相差像に対して画像処理を行い、前記明視野像及び前記位相差像間の差分画像を得るステップと、
前記差分画像に基づいて、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別するステップと、
を具えることを特徴とする、凝集状態検出方法。
【請求項2】
前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別した後、前記ゲル状物に対する前記固形物の面積比、または前記固形物に対する前記ゲル状物の面積比を算出するステップをさらに具えることを特徴とする、請求項1に記載の凝集状態検出方法。
【請求項3】
前記ゲル状物に対する前記固形物の面積比、または前記固形物に対する前記ゲル状物の面積比の閾値に基づいて、前記薬剤の量の過不足を判定するステップをさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の凝集状態検出方法。
【請求項4】
被処理水中の固形物を槽中で薬剤を用いて凝集させ、前記固形物及び当該固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含む凝集物を得るステップと、
前記槽中から前記凝集物を取出し、撮像手段によって前記凝集物の明視野像及び位相差像を得るステップと、
前記明視野像及び前記位相差像に対して画像処理を行い、前記明視野像及び前記位相差像間の差分画像を得るステップと、
前記差分画像に基づいて、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別するステップと、
前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別した後、前記ゲル状物に対する前記固形物の面積比、または前記固形物に対する前記ゲル状物の面積比を算出するステップと、
前記面積比が、閾値を上回ったときに前記薬剤の量が過剰であると判定し、前記薬剤の供給量を減少若しくは前記薬剤の供給を停止し、前記閾値を下まわったときに前記薬剤の量が不足していると判定し、前記薬剤の供給量を増大若しくは前記薬剤の供給を開始するステップと、
を具えることを特徴とする、凝集状態制御方法。
【請求項5】
被処理水中の固形物を薬剤を用いて凝集させて得られ、前記固形物及び当該固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含む凝集物の明視野像及び位相差像を得るための撮像手段と、
前記明視野像及び前記位相差像に対して画像処理を行い、前記明視野像及び前記位相差像間の差分画像を得、前記差分画像に基づいて、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別するための演算手段と、
を具えることを特徴とする、凝集状態検出装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別した後、前記ゲル状物に対する前記固形物の面積比、または前記固形物に対する前記ゲル状物の面積比を算出するように構成されたことを特徴とする、請求項5に記載の凝集状態検出装置。
【請求項7】
前記演算手段は、前記面積比が、閾値を上回ったときに前記薬剤の量が過剰であると判定し、前記閾値を下まわったときに前記薬剤の量が不足していると判定するように構成されたことを特徴とする、請求項6に記載の凝集状態検出装置。
【請求項8】
被処理水中の固形物を薬剤を用いて凝集させて得られ、前記固形物及び当該固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含む凝集物の明視野像及び位相差像を得るための撮像手段と、
前記明視野像及び前記位相差像に対して画像処理を行い、前記明視野像及び前記位相差像間の差分画像を得、前記差分画像に基づいて、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別した後、前記ゲル状物に対する前記固形物の面積比、または前記固形物に対する前記ゲル状物の面積比を算出し、前記面積比が、閾値を上回ったときに前記薬剤の量が過剰であると判定し、前記薬剤の供給量を減少若しくは前記薬剤の供給を停止し、前記閾値を下まわったときに前記薬剤の量が不足していると判定し、前記薬剤の供給量を増大若しくは前記薬剤の供給を開始する演算制御手段と、
を具えていることを特徴とする、凝集状態制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集状態検出方法、凝集状態制御方法、凝集状態検出装置及び凝集状態制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道、排水処理、用水供給などの分野においては、水を浄化するために、様々な方法が考案され、実施されている。水の浄化は、水中の固形物や溶解物のうち、不要な物や後段プロセスに排出することができないものなどを除去するものである。一般的な方法としては、水槽を設置して被処理水を滞留させ、比重差と重力とにより固形物を沈降分離したり、前記沈降分離に加えて、凝結剤や凝集剤といった薬品を添加し、固形物を粗粒化させて沈降分離させる凝集沈殿法を用いたりする。他にも、多孔質のセラミクスや樹脂を用いてろ過する膜分離や、微生物に有機物などを捕食させる活性汚泥法などが挙げられる。
【0003】
中でも凝集沈殿法は、薬品注入、撹拌、沈殿槽の比較的単純な構成で、良好な処理水質を得やすいことから、広く普及している。上水処理の凝集沈殿法においては、被処理水に、PAC(ポリ塩化アルミニウム)や、硫酸ばん土などの凝結剤を注入し、混和池で撹拌混合し、フロキュレータで凝集物の粒子サイズの成長を促進し、沈澱池で凝集物を沈降分離するのが一般的である。産業排水処理などに於いても基本的な構成は同様であるが、凝結剤の他に高分子凝集剤を用いるなどして、凝集物の沈降速度を向上させ、高速分離する手法が用いられることもある。
【0004】
凝集沈殿法において、水処理の目的である処理水の清澄化の度合いは、除去対象の固形物濃度や、固形物の粒子径、表面の荷電状態、水の導電率やpH、水温、凝集剤などの薬剤の種類や数、注入率、撹拌強度、撹拌時間、沈殿槽の許容水面積負荷など、様々な要素により左右される。さらにこれらの濃度のうち、被処理水の水質や被処理水中の固形物に関わるものは、時間経過に従って、変動がある為、それに応じて、pHや薬剤の注入率などを調整して適正に水処理ができるように制御する必要がある。
【0005】
このような問題に鑑みて、従来から、特に上水分野において、濁度やアルカリ度を指標とした、凝集剤の注入率の定式化が行われてきた。水処理施設の現場では、こういった指標とビーカー規模での実際の凝集試験(ジャーテスト)の結果とを組み合わせて、薬剤注入率を決定するのが一般的である。
【0006】
しかし、それだけではあまり精度良く凝集状態をコントロールすることができず、また、必ずしも専門知識が豊富でない水処理施設の運転員の心情として、凝集状態が悪化した際には薬剤を多く注入したくなるなどの作用もあり、常に薬剤量が適正であるとは言えない状況が発生する。
【0007】
そこで近年では、散乱光による凝集物の形成状態の測定など、より高度な凝集状態の検出方法が考案されてきた(特許文献1)。散乱光法は濁度測定などによく用いられる、粒子濃度測定の手法であり、水にレーザー光を当てて、粒子により散乱された光の強度を測定するものである。薬剤注入後、凝集物形成の為に撹拌する水槽の中で、凝集物形成過程の散乱光を測定することで、水中の粒子濃度から凝集物の形成状態を知ることができるものである。
【0008】
しかしながら、こういった手法においては、ある範囲(検出器が光を回収できる範囲)の測定箇所の集約値として一点の数値が出力されるため、出力値が振れやすく、安定的に測定することが難しいという課題がある。さらに、凝集物の影を測定しているのと同義であり、凝集物の内容が良いかどうかについては、全く知ることができないといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−241338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、凝集物の凝集状態をより精度よく検出し、制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の凝集状態検出方法は、薬剤を用いて被処理水中の固形物を凝集させ、前記固形物及びこの固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含む凝集物を得るステップと、前記凝集物を撮像手段によって前記凝集物の明視野像及び位相差像を得るステップとを具える。また、前記明視野像及び前記位相差像に対して画像処理を行い、前記明視野像及び前記位相差像間の差分画像を得るステップと、前記差分画像に基づいて、前記凝集物中の前記固形物と前記ゲル状物とを識別するステップとを具える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における凝集沈殿装置の概略構成を示す図である。
図2】実施形態における凝集状態検出装置の概略構成を示す図である。
図3】凝集物の明視野像及び位相差像を示す写真である。
図4】明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)を行って得た画像を示す写真である。
図5】薬剤の量を3段階に変化させた場合に得た凝集物の、明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)に基づく画像を示す写真である。
図6】凝集物のゲル状物に対する固形物の面積比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(凝集プロセス)
図1は、実施形態における凝集沈殿装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の凝集沈殿装置10は、被処理水W0を貯留するための貯留槽11と、この貯留槽11に隣接して配設された凝集物を形成するための第1の凝集槽12と、この第1の凝集槽12に隣接して配設された凝集物を粗粒化するための第2の凝集槽13と、この第2の凝集槽13に隣接して配設され粗粒化した凝集物を沈殿させるための沈殿槽14とを有する。
【0014】
また、第1の凝集槽12の上流側にはポンプ18を介して薬剤(凝集剤)Pが入った薬剤貯留槽15が配設されている。さらに、第1の凝集槽12及び第2の凝集槽13中には、それぞれ第1の攪拌機16及び第2の攪拌機17が配設されている。
【0015】
第1の攪拌機16は、一端側に攪拌翼16Aが配設され、他端側にモータ16Bが配設されている。第2の撹拌機17は、第1の攪拌機16同様に、一端側に攪拌翼17Aが配設され、他端側にモータ17Bが配設されている。
【0016】
次に、図1に示す凝集沈殿装置10を用いた凝集沈殿方法について説明する。
最初に、被処理水W0を貯留槽11内に貯留し、その後、被処理水W0はヘッド差や図示しないポンプを用いて第1の凝集槽12内に送水する。第1の凝集槽12では、薬剤貯留槽15より所定の薬剤(凝結剤や凝集剤等)Pを供給し、第1の攪拌機16を駆動することによって被処理水W0と均一に混合する。その結果、被処理水W0中の懸濁粒子や、一部溶解成分などの固形物が、薬剤による荷電中和作用やファンデルワールス力によって寄り集まり、凝集物S1を形成していく。なお、第1の攪拌機16による撹拌は、薬剤を比較的早く分散させると同時に、懸濁粒子などの固形物や凝集物と薬剤との衝突確率を向上させる作用を有する。
【0017】
また、第1の凝集槽12内には、凝集物の形成速度を促進させるために、塩酸、硫酸といった酸類や、消石灰、苛性ソーダといったアルカリ類を添加して適宜pH調整を行うこともできる。
【0018】
次いで、第1の凝集槽12内の、凝集物S1を含む被処理水W0は、ヘッド差や図示しないポンプを用いて第2の凝集槽13内に送水する。第2の凝集槽13内では、第2の攪拌機17を駆動させることにより、第1の凝集槽12内で得た凝集物S1同士を衝突させて当該凝集物S1を成長させ、粗粒化した凝集物S2を得る。
【0019】
次いで、第2の凝集槽12内の、凝集物S2を含む被処理水W0は、ヘッド差や図示しないポンプを用いて沈殿槽14に送水する。沈殿槽14内では、粗粒化した凝集物S2を重力沈降によって分離し、凝集物S2が除去された被処理水W0は処理水W1として沈殿槽14より外部に排出される。
【0020】
(凝集状態検出装置(凝集状態制御装置))
図2は、実施形態における凝集状態検出装置の概略構成を示す図である。
図2に示す凝集状態検出装置20は、被処理水W0中の懸濁粒子などの固形物を第1の凝集槽12中で薬剤を用いて凝集させて得た凝集物S1を第1の凝集槽12から取出し、当該凝集物S1の、以下に説明する明視野像及び位相差像を得るための撮像手段としてのカメラ22と、明視野像及び位相差像に対して画像処理を行い、明視野像及び位相差像間の差分画像を得、差分画像に基づいて、凝集物の形態や、凝集物中の固形物と、後に説明するゲル状物とを識別するための演算手段としてのコンピュータ23とを有している。
【0021】
なお、本実施形態の凝集状態検出装置20は、凝集物S1をカメラ22のレンズ下に支持及び固定するための支持板21を有している。支持板21へはスポイトなどの吸引手段で凝集物が液中に懸濁されたまま取り出し固定するのが望ましい。凝集物S1は一般に崩れやすく固定することが難しい為、ポンプなどを用いて水中に懸濁されたまま凝集槽12より取り出し、フローセルを用いて通水しながらレンズ下を凝集物を通過させ、撮影してもよい。
【0022】
また、本実施形態では、凝集状態を検出する凝集物として第1の凝集槽12中で得た凝集物S1を選択しているが、第2の凝集槽13中で得た粗粒化した凝集物S2であってもよいし、沈殿槽14で沈殿した凝集物S2であってもよい。
【0023】
さらに、コンピュータ23に以下に説明するような薬剤Pの供給量の制御機能を付加することにより、コンピュータ23は演算制御手段として機能するようになる。
【0024】
(凝集状態検出方法(凝集状態制御方法))
次に、図2に示す凝集状態検出装置(凝集状態制御装置)20を用いた凝集状態検出方法(凝集状態制御方法)について説明する。
【0025】
<凝集物の形態>
最初に、凝集物の形態について説明する。
処理水W1の固形物濃度については、水処理をする目的でもあり、予め決められた水準を守らねばならない。凝集状態が悪化することにより、例えば第2の凝集槽13における粗粒化が十分でなければ、沈殿槽14の設計に見合った十分な沈降速度を得られず、処理水W1の固形物濃度は容易に悪化する。原因としては、被処理水W0中の固形物濃度が第1の凝集槽12において変動したにも関わらず、薬剤注入条件を適正な範囲に合わせることができない場合などによる。
【0026】
固形物は、薬剤(凝結剤や凝集剤等)の濃度がある濃度に達するまでは、凝集は起こらないとされており、当該濃度は臨界凝集濃度と呼ばれている。それ以上の濃度域になると、凝集が始まり凝集物が形成され始めるが、濃度に応じて状態が異なる。水処理の目的は、懸濁粒子などの固形物を凝集させて分離し、水を清澄にすることであるので、薬剤の濃度を増加させて清澄な処理水が得られた濃度が、適正な薬剤注入量であると言える。これ未満の濃度においては、相対的に懸濁粒子量に対して薬剤量が不足しており、細かな凝集不足の粒子、すなわち固形物が水中に漂い、処理水W1中の固形物濃度が高い状態となる。
【0027】
また、薬剤の注入濃度を増加させた際には、徐々に薬剤が過剰となっていくが、薬剤同士が凝集する作用を持つため、ある程度の濃度範囲までは、清澄な処理水を得ることができる。さらに濃度が高くなると、薬剤同士が凝集しきれなくなり、しかも相対的に多くの薬剤が、相対的に少ない固形物を取りあう形となるので、凝集物S1が粗粒化されなくなり、凝集物S1の沈降性が悪化し、結果として処理水W1の固形物濃度が上昇してしまう結果となる。
【0028】
さらに、被処理水W0に薬剤を添加すると汚泥が増加する。すなわち、懸濁粒子などの固形物の量に加えて、薬剤量が汚泥として加算される。しかしながら、実際は、薬剤量以上に汚泥は増加する。これは、薬剤が被処理水W0中の水を取り込むためである。凝結剤や凝集剤等の薬剤は高分子でありハイドロゲルを形成する特徴がある。PACなどの無機凝結剤と、ポリアクリルアミドなどの有機高分子凝集剤との別を問わず、分子量や組成・構造に差はあっても、いずれも親水基を多く持つ高分子体であることから、凝集して固形物化した際にはハイドロゲルを形成する。このハイドロゲルは、ゲル状物として、懸濁粒子などの固形物を囲むようにして形成される。
【0029】
したがって、得られる凝集物S1は、懸濁粒子などの固形物と、当該固形物を囲むようにして形成されたゲル状物を含むようにして構成される。
【0030】
なお、第2の凝集槽13及び沈殿槽14で得られる粗粒化した凝集物S2も、凝集物S1同士が衝突し、成長して得られるものであり、凝集物S1と同様の構成を有する。
【0031】
<凝集状態検出方法(凝集状態制御方法)>
凝集状態検出装置20を用いた凝集状態の検出は、図2に示すように、第1の凝集槽12より凝集物S1を採取して、支持板21上に載置して、支持及び固定する。次いで、支持板21の上方に配設したカメラ22によって凝集物S1の明視野像及び位相差像を同じ視野で撮影する。なお、カメラ22には、例えば顕微鏡用のデジタルカメラなどを用いることができる。
【0032】
図3は、凝集物S1の明視野像及び位相差像を示す写真である。図3から明らかなように、図3の左側(登録された図の左側を上として)に位置する明視野像は、凝集物S1内の固形物を観察し易いが凝集物S1の輪郭をつかむにはコントラストが不足する。一方、図3の右側(登録された図の左側を上として)に位置する位相差像は、固形物の周囲に存在する透過性のゲル状物を観察するのに向いており、凝集物S1全体が浮かび上がるため、凝集物S1の輪郭をつかむことができるが、懸濁粒子などの固形物を凝集物S1から識別するには向いていない。
【0033】
そこで、本実施形態では、コンピュータ23によって、上述した明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)を行う。図4は、明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)を行って得た画像を示す写真である。図4に示すように、上記のようにして減算処理(差分処理)して得た画像は、凝集物S1の輪郭と、懸濁粒子などの固形物及びこの固形物の周囲に存在するゲル状物とを識別するできることが分かる。
【0034】
このような知見に鑑み、固形物として上水分野で濁度標準物質として用いられてきたカオリンの粉末、及び薬剤としてPSI(ポリシリカ鉄)の凝集剤を用い、当該薬剤の量を3段階に変化させて図4に示すような明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)に基づく画像を得た。なお、上記粉末は、第1の凝集槽12内に100mg/lの濃度で入れた。
【0035】
図5は、薬剤の量を3段階に変化させた場合に得た凝集物S1の、明視野像及び位相差像の減算処理(差分処理)に基づく画像を示す写真である。
【0036】
図5の左側(登録された図の左側を上として)の写真に示すように、薬剤を10mg/lに設定した場合は、上記粉末に対して薬剤の注入量が足りなく、当該粉末のある程度は凝集物S1を形成するものの、凝集しきれない粉末が処理水W1の上澄み中に残存していた。
【0037】
また、図5の中央(登録された図の左側を上として)の写真に示すように、薬剤を40mg/lに設定した場合は、上記粉末に対して薬剤の注入量が適量であり、凝集物S1沈降後の処理水W1は清澄であり、上澄みには粉末はほとんど残存していなかった。
【0038】
さらに、図5の右側(登録された図の左側を上として)の写真に示すように、薬剤を100g/lに設定した場合は、上記粉末に対して薬剤の注入量が過剰となり、相対的に多くの薬剤が、相対的に少ない固形物を取りあう形となるので、凝集物S1に占める凝集剤の比率が大きくなる。凝集物S1は形成され、沈降する為、一見良好な水処理のように見えるが、実は無駄に薬剤を使ってしまっている。
【0039】
なお、図5から明らかなように、薬剤の注入量が増加するにしたがって、薬剤が被処理水W0中の水を取り込んでより多くのハイドロゲルを形成し、凝集体S1を構成する粉末の周囲を囲むようにしてより多くのゲル状物が形成されていることが分かる。
【0040】
したがって、本実施形態では、図5における画像より凝集物S1の固形物の割合とゲル状物の割合とを面積比を用いて表すようにした。図6は、凝集物S1のゲル状物に対する固形物の面積比を示すグラフである。図6における各グラフは、図5における各画像に対応する。また、図6に示すグラフは、上述した操作を10回行い、図5に示すような各画像を10種類得た状態において、その平均値、最小値、及び最大値を示したものである。
【0041】
図6の左側に示すグラフは、図5の左側の画像に示すように、薬剤の注入量が不足している場合の面積比であって、凝集物S1のゲル状物に対する固形物の面積比が最も高く、その平均値は0.6となっている。
【0042】
また、図6の右側に示すグラフは、図5の右側の画像に示すように、薬剤の注入量が過剰である場合の面積比であって、薬剤に起因して多量のゲル状物が形成されていることから、その平均値は0.15となっている。
【0043】
さらに、図6の中央に示すグラフは、図5の中央の画像に示すように、薬剤の注入量が適量の場合である場合の面積比であって、その平均値は0.5となっており、上述した薬剤の注入量が不足している場合と、薬剤の注入量が過剰の場合との中間的な値を採ることが分かる。
【0044】
したがって、上述した結果を鑑み、例えば面積比0.4〜0.55の場合が適当な薬剤の注入量であることが分かる。このため、上述のようにして得られた結果が、例えば面積比0.4〜0.55より小さくなる場合は、薬剤注入量が不足しているので、演算制御手段としても機能するコンピュータ23より、例えば薬剤注入槽15の下流側に配設されたポンプ18に制御信号を送信して、薬剤注入槽15内に注入する薬剤の供給量を増大させる、あるいは薬剤の供給を開始するようにする。
【0045】
一方、上述のようにして得られた結果が、例えば面積比0.4〜0.55より大きくなる場合は、薬剤注入量が過剰であるので、演算制御手段としても機能するコンピュータ23より、例えば薬剤注入槽15の下流側に配設されたポンプ18に制御信号を送信して、薬剤注入槽15内に注入する薬剤の供給量を減少させる、あるいは薬剤の供給を停止するようにする。
【0046】
以上のようにすれば、第1の凝集槽12内における凝集物S1の形成を効率的かつ効果的に行うことができるように、薬剤の供給を簡易に制御することができ、被処理水W0中に含まれる固形物(粉末)を低減して、固形物を極力含まない清浄な処理水W1を得ることができる。
【0047】
なお、図6では、凝集物S1のゲル状物に対する固形物の面積比を求め、それをグラフ化しているが、凝集物S1の固形物に対するゲル状物の面積比を求め、それをグラフ化してもよい。後者の場合、面積比の具体的な値は前者の場合と異なるようになるが、図5の中央の画像に対応するグラフの面積比は、前者の場合のように、薬剤の注入量が適量の場合に相当する面積比である。
【0048】
また、被処理水の水質変動が大きいなどの理由により、制御の時間遅れを考慮する場合は、凝集沈殿プロセスの早い段階、すなわち、上述のように、第1の凝集槽12内における凝集物S1を採取して上述のような画像処理及び演算処理に供することが好ましい。一方、被処理水の水質変動が小さいなど、凝集物の状態をより精度良く検出する時間的余裕がある場合は、凝集沈殿プロセスの遅い段階、例えば第2の凝集槽13や沈殿槽14における粗粒化した凝集物S2を採取して上述のような画像処理及び演算処理に供することが好ましい。
【0049】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
10 凝集沈殿装置
11 貯留槽
12 第1の凝集槽
13 第2の凝集槽
14 沈殿槽
15 薬剤貯留槽
16 第1の攪拌機
17 第2の攪拌機
18 ポンプ
20 凝集状態検出装置(凝集状態制御装置)
21 支持板
22 カメラ
23 コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6