特許第6334304号(P6334304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334304
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】真空乾燥装置及び真空乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 3/24 20060101AFI20180521BHJP
   F26B 17/28 20060101ALI20180521BHJP
   F26B 17/32 20060101ALI20180521BHJP
   F26B 5/04 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   F26B3/24
   F26B17/28 A
   F26B17/32 G
   F26B5/04
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-145772(P2014-145772)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-23812(P2016-23812A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】石井 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉迫 和生
(72)【発明者】
【氏名】北本 幸義
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
(72)【発明者】
【氏名】坂根 英之
【審査官】 黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−287560(JP,A)
【文献】 特開昭60−020074(JP,A)
【文献】 米国特許第05514286(US,A)
【文献】 特表2012−501262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 1/00−25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水固形物を真空乾燥するための真空乾燥装置であって、
前記高含水固形物を収容して略水平方向の軸線回りに揺動又は回転する横置き型の乾燥タンクと、
前記乾燥タンクの外側から前記乾燥タンクを加熱する加熱手段と、を備え
前記乾燥タンクは、その内表面に、当該内表面から径方向内側に突出するとともに前記軸線方向に並設された複数のフィンから構成されるフィン群を有し、
前記複数のフィンは、各々前記乾燥タンクの揺動又は回転方向に延在しており、
前記フィン群は、前記乾燥タンクの軸線回りに互いに離間して複数設けられており、
各前記フィン群を構成している前記複数のフィンのうち、前記軸線方向に隣り合う前記フィンの間隔は、2〜20cmである、真空乾燥装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記乾燥タンクの外表面を覆い前記乾燥タンクと熱交換する熱媒を内部に流通可能なジャケットを有する、請求項1記載の真空乾燥装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の真空乾燥装置を用いる真空乾燥方法であって、
前記高含水固形物を前記乾燥タンクに収容する収容工程と、
前記収容工程の後に前記乾燥タンクの内部を減圧する減圧工程と、
前記加熱手段を駆動して前記乾燥タンクを加熱する加熱工程と、
前記収容工程の後に前記乾燥タンクを略水平方向の軸線回りに揺動又は回転させる乾燥工程と、を有する、真空乾燥方法。
【請求項4】
前記高含水固形物は、発生土、泥水又は泥土であり、
前記収容工程は、乾燥後の前記高含水固形物の細粒分含有率が60%以下となるように前記高含水固形物に粒子を添加することを含む、請求項記載の真空乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空乾燥装置及び真空乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事現場で発生する泥水や泥土、工場で発生する廃棄物、家庭で発生する生ごみ等、各種の高含水固形物は、貯蔵や運搬に困難を伴い、焼却処理するにも多大な熱エネルギーを要するため、乾燥により水分を蒸発させて減容化することが求められている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1及び2に開示された高含水固形物の乾燥装置では、乾燥タンクの内部に中空の回転軸及びこの回転軸の周囲を巡る螺旋状の中空流路を設け、この中空の回転軸及び螺旋状の中空流路の内部に熱媒を流通させることにより、乾燥タンクに収容した高含水固形物を撹拌乾燥している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−116457号公報
【特許文献2】特開2002−147951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記乾燥装置では、乾燥タンク内で伝熱面から遠い空間が低温部となること、及び、乾燥した固形物が伝熱面に付着して伝熱阻害を引き起こすことから、乾燥が非効率なものとなっていた。
【0006】
そこで本発明は、従来よりも乾燥効率が高く、高含水固形物の乾燥後の含水比を一層低下させることができる真空乾燥装置及び真空乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高含水固形物を真空乾燥するための真空乾燥装置であって、高含水固形物を収容して略水平方向の軸線回りに揺動又は回転する横置き型の乾燥タンクと、乾燥タンクの外側から乾燥タンクを加熱する加熱手段と、を備える、真空乾燥装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記真空乾燥装置を用いる真空乾燥方法であって、高含水固形物を乾燥タンクに収容する収容工程と、収容工程の後に乾燥タンクの内部を減圧する減圧工程と、加熱手段を駆動して乾燥タンクを加熱する加熱工程と、収容工程の後に乾燥タンクを略水平方向の軸線回りに揺動又は回転させる乾燥工程と、を有する、真空乾燥方法を提供する。
【0009】
この真空乾燥装置及び真空乾燥方法においては、乾燥タンクが略水平方向の軸線回りに揺動又は回転する横置き型であり、乾燥タンクのうち加熱手段により外側から加熱される部分の内表面が伝熱面となるため、揺動又は回転により高含水固形物及び高含水固形物から浸み出した水が効率的に伝熱面に接触することができる。つまり、乾燥タンクは内部に低温部が生じにくい構造となっている。従って、本発明の真空乾燥装置及び真空乾燥方法によれば、従来よりも乾燥効率が高く、高含水固形物の乾燥後の含水比を一層低下させることができ、伝熱面への付着も防止できる。
【0010】
ここで、加熱手段は、乾燥タンクの外表面を覆い乾燥タンクと熱交換する熱媒を内部に流通可能なジャケットを有することが好ましい。これによれば、ジャケット内に熱媒を流通させることにより乾燥タンクを加熱することができる。
【0011】
乾燥タンクは、その内表面に、当該内表面から径方向内側に突出するとともに軸線方向に並設された複数のフィンを有し、複数のフィンは、各々乾燥タンクの揺動又は回転方向に延在していることが好ましい。高含水固形物は、乾燥が進むにつれて、徐々に変形しにくい塊状となってくる。塊の内部に水が閉じ込められると、その水が蒸発しにくくなり乾燥効率が低下するため、塊の成長を抑制することが望ましい。ここで、乾燥タンクの内表面にフィンが設けられていると、フィンは塊状となった高含水固形物を剪断するように働く。複数のフィンが乾燥タンクの軸線方向に並設され、その各々が乾燥タンクの揺動又は回転方向に延在していることで、塊の剪断により、高含水固形物の乾燥後の塊がフィンの間隔よりも大きく成長することが防止されるため、塊の中に閉じ込められる水の量を抑制することができる。
【0012】
また、複数のフィンのうち、隣り合うフィンの間隔は、2〜20cmであることが好ましい。これによれば、本発明による乾燥効率の向上に鑑みて、塊の内部に閉じ込められる水の量が許容範囲に確実に収まり、且つ、高含水固形物の乾燥後の乾燥タンクからの取出し及び搬送に都合がよい。
【0013】
また、本発明の真空乾燥方法においては、高含水固形物は、発生土、泥水又は泥土であり、収容工程は、乾燥後の高含水固形物の細粒分含有率が60%以下となるように高含水固形物に粒子を添加することを含むことが好ましい。これによれば、発生土、泥水又は泥土が乾燥によって団粒化すること(上記「塊状」となることに相当)を抑制することができ、乾燥効率を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも乾燥効率が高く、高含水固形物の乾燥後の含水比を一層低下させることができる真空乾燥装置及び真空乾燥方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は真空乾燥装置の正面図である。(b)は乾燥装置本体の側面図である。
図2】(a)は乾燥タンクの内部の様子を示す斜視図である。(b)はフィンの並設状態を示す断面図である。
図3】試料の含水比の経時変化を示すグラフである。
図4】試料の含水比の経時変化を示すグラフである。
図5】試料の含水比の経時変化を示すグラフである。
図6】(a)脱水量の経時変化を示すグラフである。(b)は(a)の破線で囲った部分の拡大図である。
図7】乾燥後の試料の粒径加積曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1(a)に示されたとおり、真空乾燥装置1は、乾燥装置本体2と、乾燥装置本体2を載せる架台3と、乾燥装置本体2をその軸線C回りに揺動させる揺動駆動装置4とを備えている。乾燥装置本体2は、図1(b)に示されたとおり、中空の円柱形状の乾燥タンク21と、乾燥タンク21の外表面のうち揺動される周方向側面を覆うジャケット(加熱手段)22と、ジャケット22の周囲を覆う断熱シート23とを有している。また、乾燥装置本体2の周方向側面の中央部には、後述するローラーチェーン43を噛み合わせるためのレール(図示せず)が設けられている。
【0018】
乾燥タンク21は、その中空の円柱形状の周方向側面ではない対向する二面のうちの一方の面に、開閉可能な蓋24を有している。蓋24は、乾燥タンク21の端部のみならず、ジャケット22の端部をも覆う広さを有している。これに対向する他方の面には、乾燥タンク21の内部を減圧することができるように、乾燥タンク21の外部に連通する吸気孔25(図2(a)も参照)が設けられている。乾燥タンク21の外表面にはその吸気孔25に対応する位置に吸気口26が設けられており、この吸気口26を減圧装置(真空ポンプ等;図示せず)に接続することにより、乾燥タンク21の内部が減圧可能とされる。
【0019】
乾燥タンク21の材質としては、伝熱効率と強度の観点から金属が好ましく、前者からはクロム、炭素等をあまり含まない鋼材、錆止めによる熱抵抗の観点からSUS等が特に好ましい。また、乾燥タンク21内の内径は、600〜2000mmが好ましく、700〜1200mmがより好ましい。
【0020】
ジャケット22は、内部が空洞となっており、乾燥タンク21と熱交換するための熱媒を流通させることができる。ジャケット22は、その長さ方向(図1(b)の図示左右方向)の一方の端部(乾燥タンク21の蓋24が設けられていない側)に、熱媒の流入口27A及び流出口27Bを有している。流入口27A及び流出口27Bは、各々熱源装置(加熱手段;図示せず)に接続することにより、ジャケット22内に熱媒を流通させることができる。
【0021】
ジャケット22の材質としては、金属が好ましく、SUSが特に好ましい。
【0022】
ジャケット22の内部に流通させる熱媒としては、液体でも気体でもよいが、潜熱・顕熱が大きく熱交換を有利に行うことができることから、液体あるいは相変化する気体が好ましく、なかでも水又は水蒸気が好ましい。また、流通させる熱媒の温度は、乾燥タンク21内の減圧の程度にもよるが、30〜90℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
【0023】
断熱シート23の材質としては、ジャケット22を保温することができるものであればよく、発砲ウレタン、EPS、グラスウール等が特に好ましい。
【0024】
熱源装置は、熱媒を加熱してジャケット22に供給することができる装置であり、例えば、ボイラやヒートポンプが挙げられる。省資源の観点から、熱源装置は、熱源装置とジャケット22との間に熱媒を循環させて利用することができるように構成されることが好ましい。
【0025】
架台3は、図1(a)に示されたとおり上下二段構造を有し、その上段には、一対のインパクトローラ5A,5Bを介して乾燥装置本体2がその軸線Cを略水平方向に向けて載せられている。一方、架台3の下段には、揺動駆動装置4の動力源であるギヤードモータ41が載せられ、下段の側部には、架台3の内側へ向けて突き出す一対のテンショナ42A,42Bが取り付けられている。
【0026】
揺動駆動装置4は、上記ギヤードモータ41、テンショナ42A,42Bのほか、ローラーチェーン43とチェーンカバー44を有している。ローラーチェーン43は、ギヤードモータ41の動力を乾燥装置本体2に伝えるためのチェーンであり、無終端状に構成され、その内側において、ギヤードモータ41内のスプロケット(図示せず)、及び、乾燥装置本体2の周方向側面の中央部に設けられたレールに噛み合わされるように掛け渡されている。乾燥装置本体2のうちローラーチェーン43が掛け渡された部分には、ローラーチェーン43を保護するためのチェーンカバー44が取り付けられている。また、テンショナ42A,42Bは、ローラーチェーン43の外側に当接してローラーチェーン43のテンションを保つ。
【0027】
次に、乾燥タンク21の内部について説明する。図2(a)及び(b)に示されたとおり、乾燥タンク21は、その内表面Sに、内表面Sから径方向内側に突出するとともに奥行き方向(軸線C方向)全体に亘って並設された複数のフィンF(F,F,F,…,F)を有している。複数のフィンFは、金属製であり、内表面Sに溶接により固定されている。複数のフィンFの並設間隔は均等であり、これら複数のフィンFは、フィン群Gを構成している。
【0028】
フィン群Gを構成する各々のフィンFは、図2(a)に示されたとおり、溶接された部分を底辺、乾燥タンク21の軸線Cに向う方向を高さ方向とする略台形状をなし、乾燥タンク21の揺動又は回転方向に面積を有するように延在している。
【0029】
フィン群Gにおいて、隣り合うフィンFの間隔Dは、後述する団粒の剪断を行う観点から、2〜20cmであることが好ましく、3〜10cmであることがより好ましく、4〜7cmであることが更に好ましい。
【0030】
図2(a)に示されたとおり、乾燥タンク21の内表面Sには、三つのフィン群Gが周方向三等配の位置に設けられている。すなわち、乾燥タンク21の軸線C回りに、互いに120度の位置になるように三つのフィン群Gが設けられている。
【0031】
次に、真空乾燥装置1を用いる真空乾燥方法について説明する。乾燥される被処理物である「高含水固形物」としては、土木工事現場で発生する発生土、泥水、泥土、工場で発生する廃棄物、家庭で発生する生ごみ等、各種のものが適用可能である。「高含水固形物」は、固体状のもののほか、ペースト状等、形状が変化するものを含むものとする。ここでは、高含水固形物が、発生土、泥水又は泥土である場合について説明する。
【0032】
初めに、乾燥タンク21に高含水固形物を収容する(収容工程)。高含水固形物の容積としては、高含水固形物の団粒化を抑制する観点から、乾燥タンク21の容積の半分以下とすることが好ましく、5分の2以下とすることがより好ましく、3分の1以下とすることが更に好ましい。
【0033】
ここで、高含水固形物の細粒分(0.075mm未満の粒子)が多い場合、乾燥後の高含水固形物の細粒分含有率(Fc)が60%以下となるように、高含水固形物に粒子を添加することが好ましい(添加工程)。細粒分含有率(Fc)とは、乾燥した試料のうち細粒分(0.075mm未満の粒子)が占める割合を質量百分率で示した値をいう。添加する粒子としては、珪砂その他の砂、土、砂利等を用いることができる。これにより、高含水固形物の団粒化を一層抑制することができる。
【0034】
なお、粒子を添加する量は、乾燥対象とする高含水固形物を少量用いて、予備的に乾燥試験をして求めることができる。
【0035】
高含水固形物の収容を終えた後、図1(a)に示されたように、乾燥タンク21の軸線Cが略水平方向となるように乾燥装置本体2を架台3の上段に横置きし、ローラーチェーン43を掛ける。その後、乾燥タンク21の吸気口26を真空ポンプ等の減圧装置に接続し、乾燥タンク21の内部を減圧する(減圧工程)。減圧の程度としては、乾燥タンク21の内部が、少なくとも、熱媒による加熱温度での蒸気圧に相当する圧力まで減圧する。
【0036】
ジャケット22の流入口27A及び流出口27Bを熱源装置に接続し、ジャケット22内に熱媒を流通させる(加熱工程)。ここでは、熱媒として水を用い、乾燥終了まで流通させ続ける。
【0037】
そして、乾燥装置本体2を乾燥タンク21の軸線C回りに揺動させる(乾燥工程)。ここで「揺動」とは、軸線Cの位置を変化させないで、軸線C回りの回転方向を交互に変えながら回転させることをいう。乾燥タンク21の内表面Sを伝熱面として有効利用する観点から、揺動幅は少なくとも±90度とすることが好ましく、±90〜±120とすることがより好ましい。
【0038】
乾燥装置本体2の揺動により、高含水固形物と接触する伝熱面である内表面Sで乾燥が行われ、内表面Sに乾燥した固形物が付着しては剥がれる。これが繰り返されることで、含水比が低下していく。特に水は、薄層化して伝熱面に広がりやすいので、乾燥効率が高い。
【0039】
この真空乾燥方法においては、乾燥タンク21が略水平方向の軸線C回りに揺動する横置き型であり、乾燥タンク21のうちジャケット22に覆われた部分に対応する内表面Sが伝熱面となるため、揺動により高含水固形物及び高含水固形物から浸み出した水が効率的に伝熱面に接触することができる。つまり、乾燥タンク21は内部に低温部が生じにくい構造となっている。
【0040】
従って、この真空乾燥方法によれば、従来よりも乾燥効率が高く、高含水固形物の乾燥後の含水比を一層低下させることができる。特許文献1及び2に示した従来の装置では、乾燥後の含水比は40%程度が限界であったが、本実施形態の真空乾燥装置1では、含水比を数%程度にまで低下させることができる。また、高含水固形物が伝熱面へ付着することが防止できる。
【0041】
また、一般に、高含水固形物は、特に乾燥タンク21に収容した量が多い場合は、乾燥が進むにつれて、徐々に高含水固形物が団粒化してくる。団粒の内部に水が閉じ込められると、その水が蒸発しにくくなり乾燥効率が低下するため、団粒の成長を抑制することが望ましい。この真空乾燥方法においては、乾燥タンク21内のフィンFが、団粒を剪断するように働く。
【0042】
更に、複数のフィンFが乾燥タンク21の軸線C方向に並設されており、その間隔Dが所定の値に規定されていると、団粒の剪断により、高含水固形物の乾燥後の塊がフィンの間隔Dよりも大きく成長することが防止されるため、団粒の中に閉じ込められる水の量を抑制することができる。同時に、高含水固形物の乾燥後の乾燥タンク21からの取出し及び搬送に都合がよい。
【0043】
また、収容工程において、乾燥後の高含水固形物の細粒分含有率が60%以下となるように高含水固形物に粒子を添加した場合は、高含水固形物が団粒化することを一層抑制することができ、乾燥効率を一層高めることができる。
【0044】
また、乾燥タンク21の内部は、内表面Sのうち、三つのフィン群Gが軸線C周りの三等配の位置に設けられており、他の領域にはフィン群Gが設けられていない。乾燥終了後、フィン群Gが設けられていない領域が揺動の最下点となるように乾燥装置本体2を停止させると、乾燥した高含水固形物を乾燥タンク21から掻き出すようにして取出すことができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、フィンFの形状やフィン群Gの数を変更してもよい。また、上記真空乾燥方法では減圧工程、加熱工程及び乾燥工程をこの順に開始したが、これらの開始順序は適宜変更することができる。また、上記真空乾燥方法では乾燥装置本体2を揺動させたが、一方向に回転させるようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、加熱手段としてジャケット22及び熱源装置(図示せず)を使用したが、乾燥タンク21の内表面を間接的に加熱することができる他の手段を採用してもよい。例えば、乾燥タンク21の外側に電熱線を設けること、乾燥タンク21を湯煎すること、乾燥タンク21を直火で加熱すること等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
以下の各種実験は、特に断りがない限り、図1(a)に示された真空乾燥装置1を用いて行った。乾燥タンクの容積は300L(三つのフィン群を有する;図2(a)参照)であり、乾燥タンク内の奥行き長さL=130cm、隣り合うフィンの間隔D=13cm、揺動角度は±90度とした。乾燥タンクの材質は一般鋼材、ジャケットの材質は一般鋼材、断熱シートの材質はウレタンである。熱源装置としてはヒートポンプを、熱媒としては水を用いた。温水温度(ジャケットに流通させる熱媒の温度)は55℃、冷水温度(凝縮器に流通させる熱媒の温度)は5℃とした。
【0049】
<調製した泥水を対象とした乾燥実験>
実験室で調製した泥水を対象として乾燥実験を行った。泥水は、笠岡粘土453kg/m、ベントナイト18.8kg/m及び水827kg/mを混合して調製した。泥水の初期含水比、投入泥水量、乾燥時間(揺動時間)、乾燥後の平均含水比、乾燥後の団粒化の有無は、表1に示したとおりである。ここで「含水比」とは、土成分の重量を100としたときの水の相対質量をいう。
【0050】
【表1】
【0051】
泥水の含水比の経時変化をグラフ化したものを、図3に示した。図3中、「計算値」は排水量から計算した含水比を示し、「実測値」は乾燥終了後における試料から炉乾法により測定した含水比を示している。
【0052】
図3に示されたとおり、実施例1−1〜1−5の全てにおいて、泥水の含水比が20%程度にまで低下したことが確認された。いずれの結果も、含水比40%程度が限界であった従来の乾燥装置よりも良好であるといえる。
【0053】
投入泥水量が比較的少なかった実施例1−1及び1−2では、乾燥タンクの内表面に試料が付着していた。他方、投入泥水量が比較的多かった実施例1−3〜1−5では、乾燥タンクの内表面に試料が付着しておらず、乾燥後の試料が団粒化して存在していた。図3において、実施例1−3〜1−5のグラフの傾きが含水比が約30%の付近で緩くなっているのは、この時点から試料が団粒化し始め、団粒内部の水が蒸発しにくくなったことが原因であると推測された。実際、団粒内部の含水比を測定したところ、約30%であった。
【0054】
<現場発生土を対象とした乾燥実験>
現場発生土を対象として乾燥実験を行った。現場発生土としては、シールド掘削土を用いた。現場発生土の性状は表2に示したとおりである。表2では、実験場で調製した泥水(笠岡粘土+ベントナイト+水)についても併せて示している。
【0055】
【表2】
【0056】
乾燥タンクに投入する試料の量は、実施例1の泥水20Lの場合と同等の質量とした。試料の含水比の経時変化をグラフ化したものを、図4に示した。
【0057】
図4に示されたとおり、泥水と同様、試料の含水比が20%程度にまで低下したことが確認された。また、乾燥後の泥水(実施例2−1)と現場発生土(実施例2−2及び2−3)とを比較すると、現場発生土のほうが団粒化の程度が小さかった。この原因として、シルト分以下の含有率(細粒分含有率)の影響が考えられたため、次の実験を行った。
【0058】
<細粒分含有率の影響>
実施例1で使用した泥水に東北珪砂7号(平均粒径:約0.2mm)を混入し、細粒分含有率(Fc)を100%、70%、60%、50%に調製した試料を用意した。これらの試料を用いて乾燥実験を実施した。ここで、投入泥水量は実施例1で団粒が発生した「40L」を採用し、初期含水比は174.8%とした。乾燥実験の各データを表3に示した。また、泥水の含水比の経時変化をグラフ化したものを、図5に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
図5によれば、細粒分含有率が100%及び70%の場合(実施例3−1及び3−2)、グラフの傾きが含水比が約30%の付近で緩くなっていることが分かる。含水比が約30%の時点から試料が団粒化し始めるという、実施例1の結果において推測されたことが、ここでも確認された。
【0061】
実際に乾燥後の試料を観察したところ、細粒分含有率が100%及び70%の試料では団粒が形成されていた。他方、細粒分含有率が60%及び50%の試料(実施例3−3及び3−4)では団粒がほとんど形成されていなかった。
【0062】
<フィンの間隔の影響>
乾燥タンク内の奥行き方向に隣り合うフィンFの間隔Dが乾燥に与える影響について検討した。三つのフィン群の間隔Dがいずれも13cmである乾燥タンク、三つのフィン群の間隔Dがいずれも6.5cmである乾燥タンク、三つのフィン群の間隔Dがいずれも4.3cmである乾燥タンクについて、実施例1で用いた泥水(含水比が192.7%)40Lを乾燥タンクに投入し、脱水量が29L(含水比としては29.5%)となった時点でそれぞれ実験を終えた。脱水量の経時変化をグラフ化したものを、図6(a)及び(b)に示した。図6(b)は、図6(a)中で破線で囲った部分を拡大したものである。また、図7には、乾燥後の試料について、粒径加積曲線を示した。
【0063】
図6によれば、間隔Dの値が小さくなるほど乾燥に要する時間を短縮できることが分かる。例えば、図6(b)に示したとおり、脱水量が29Lとなる時間を比較すると、D=6.5cmの場合は、D=4.3cmの場合よりも乾燥が0.8時間速く、D=13cmの場合は、D=6.5cmの場合よりも乾燥が更に0.3時間速かった。
【0064】
また、図7によれば、間隔Dの値が小さくなるほど、通過質量百分率が高くなることから、試料の団粒化が抑制されていることが分かる。すなわち、間隔Dの値が小さくなるほど、乾燥しつつある試料に対してフィンによる剪断効果が効率的に作用し、試料の比表面積が増加する。これによって試料と伝熱面との接触面積が増加し、乾燥速度が高くなったと考えられる。実際に乾燥後の試料を観察したところ、間隔Dの値が小さくなるほど、団粒の大きさが小さく、団粒の量も少なかった。
【符号の説明】
【0065】
1…真空乾燥装置、21…乾燥タンク、22…ジャケット(加熱手段)、C…軸線、F…フィン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7