(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334313
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】複合アンテナ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 5/321 20150101AFI20180521BHJP
H01Q 5/10 20150101ALI20180521BHJP
H01Q 9/40 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
H01Q5/321
H01Q5/10
H01Q9/40
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-166625(P2014-166625)
(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-42683(P2016-42683A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】大野 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】大澤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】野崎 高志
(72)【発明者】
【氏名】田中 健一
【審査官】
岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−324305(JP,A)
【文献】
国際公開第02/069444(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0013723(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/321
H01Q 5/10
H01Q 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部を有するコイル素子と、
前記コイル素子の基端に電気的に直列接続される筒状導電性素子と、
前記導電性素子の基端に電気的に接続される接続用金具と、を備え、
前記コイル素子及び前記筒状導電性素子の直列接続は第1の周波数帯で動作し、前記筒状導電性素子単独では前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯で動作することを特徴とする複合アンテナ。
【請求項2】
前記導電性素子の内側に配置されて、前記導電性素子から突出した先端側に螺旋状溝を有する絶縁性芯材を備え、
前記コイルトラップ部を前記螺旋状溝に係合させて、前記トラップコイル部のピッチを一定に保持することを特徴とする請求項1に記載の複合アンテナ。
【請求項3】
前記コイル素子及び前記導電性素子を保持する内側樹脂成形部と、前記内側樹脂成形部よりも軟質で前記内側樹脂成形部の外側を覆う外側樹脂成形部とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合アンテナ。
【請求項4】
前記外側樹脂成形部の先端部を貫通して前記内側樹脂成形部の先端部の所定深さに到達する穴部が形成されており、前記穴部にキャップが嵌着されていることを特徴とする請求項3に記載の複合アンテナ。
【請求項5】
前記導電性素子の基端部に切欠部が形成され、前記内側樹脂成形部には前記導電性素子の基端部の外側を帯状に周回する厚肉部が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の複合アンテナ。
【請求項6】
前記導電性素子の外周面に貫通孔が形成され、前記内側樹脂成形部は前記貫通孔を貫通していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の複合アンテナ。
【請求項7】
前記導電性素子の内側に配置され、かつ前記導電性素子から突出した絶縁性芯材を備え、
前記絶縁性芯材の外周に前記コイル素子が接着され、前記コイル素子及び前記導電性素子が外装絶縁体で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の複合アンテナ。
【請求項8】
螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部を有するコイル素子の基端に、筒状導電性素子を電気的に接続する第1の接続工程と、
螺旋状溝を有する絶縁性芯材の取付部を接続用金具に取り付け、前記絶縁性芯材を前記導電性素子の内側を通して突出させて前記接続用金具を前記導電性素子の基端に電気的に接続する第2の接続工程と、
前記導電性素子から突出した前記絶縁性芯材の前記螺旋状溝に前記コイルトラップ部を係合させた状態で、インサート成形によって樹脂成形部を設ける成形工程と、
を備えることを特徴とする複合アンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AM/FM等の受信のための第1の周波数帯で動作するアンテナ素子と、データ送受信等のためにこれよりも高い第2の周波数帯で動作するアンテナ素子とを有する、車載用アンテナ等に使用される複合アンテナ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車載用アンテナとして、下記特許文献1に示す構造のものが知られている。この場合、アンテナ素子としての導電性コイルに、導電性の接続金具を電気的、機械的に接続した状態で、コイル外周を第一の成形金型の内面に接するよう配置して、表面にコイルが露出する状態で樹脂成形する。これにより、コイルのピッチが樹脂で固定され、必要とする周波数に共振するアンテナ素子になる。さらに第二の成形金型により、アンテナ素子外周のカバー形状を樹脂成形する。接続用金具は、アンテナベースに接続される。この特許文献1の車載用アンテナは、一つのアンテナ素子で定まる特定の周波数帯に対応するもので、例えばFM/AM放送受信用として使用される。
【0003】
近年、FM/AM放送受信用の周波数帯に加えて、LTE等の広帯域な携帯電話用のデータ送受信用周波数帯(以降、「TEL帯」と言う)に対応することが車載用アンテナにも要望されるようになってきており、このため下記特許文献2に示すような、複合アンテナが提案されている。この複合アンテナは、AM/FM用アンテナ素子とその他の高周波アンテナ素子とを歪みが少なくなるよう複合化する構造である。すなわち、AM/FM受信のための第1の周波数帯で動作する第1のアンテナ素子としてのヘリカルコイルの内側に、TEL帯用である第2の周波数帯の第2のアンテナ素子を通すように配置し、これにより、複合化を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−252733号公報
【特許文献2】特開2009−272971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、使用する第2の周波数帯の帯域を広くしようとすると、第2のアンテナ素子をできるだけ太くする必要があるが、特許文献2の構成は、細い第2のアンテナ素子をヘリカルコイルの中に通すものであるため、第2のアンテナ素子を太くするためにはヘリカルコイルの外径を太くする必要がある。このため、複合アンテナ外観の径も太くなってしまう問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、アンテナ外観の径寸法を、従来のAM/FM用のアンテナに比較して増加させることなく、複数の周波数帯での使用を可能とした複合アンテナ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は複合アンテナである。この複合アンテナは、螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部を有するコイル素子と、
前記コイル素子の基端に電気的に直列接続される筒状導電性素子と、
前記導電性素子の基端に電気的に接続される接続用金具と、を備え、
前記コイル素子及び前記筒状導電性素子の直列接続は第1の周波数帯で動作し、前記筒状導電性素子単独では前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯で動作することを特徴とする。
【0008】
前記第1の態様において、前記導電性素子の内側に配置されて、前記導電性素子から突出した先端側に螺旋状溝を有する絶縁性芯材を備え、前記コイルトラップ部を前記螺旋状溝に係合させて、前記トラップコイル部のピッチを一定に保持する構成であるとよい。
【0009】
前記第1の態様において、前記コイル素子及び前記導電性素子を保持する内側樹脂成形部と、前記内側樹脂成形部よりも軟質で前記内側樹脂成形部の外側を覆う外側樹脂成形部とを有するとよい。
【0010】
そして、前記外側樹脂成形部の先端部を貫通して前記内側樹脂成形部の先端部の所定深さに到達する穴部が形成されている場合、前記穴部にキャップが嵌着されているとよい。
【0011】
前記導電性素子の基端部に切欠部が形成され、前記内側樹脂成形部には前記導電性素子の基端部の外側を帯状に周回する厚肉部が形成されているとよい。
【0012】
前記導電性素子の外周面に貫通孔が形成され、前記内側樹脂成形部は前記貫通孔を貫通しているとよい。
【0013】
前記第1の態様において、前記導電性素子の内側に配置され、かつ前記導電性素子から突出した絶縁性芯材を備え、前記絶縁性芯材の外周に前記コイル素子が接着され、前記コイル素子及び前記導電性素子が外装絶縁体で覆われている構成でもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は複合アンテナの製造方法である。この複合アンテナの製造方法は、螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部を有するコイル素子の基端に、筒状導電性素子を電気的に接続する第1の接続工程と、
螺旋状溝を有する絶縁性芯材の取付部を接続用金具に取り付け、前記絶縁性芯材を前記導電性素子の内側を通して突出させて前記接続用金具を前記導電性素子の基端に電気的に接続する第2の接続工程と、
前記導電性素子から突出した前記絶縁性芯材の前記螺旋状溝に前記コイルトラップ部を係合させた状態で、インサート成形によって樹脂成形部を設ける成形工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部を有するコイル素子と、前記コイル素子の基端に電気的に直列接続される筒状導電性素子とを用い、前記コイル素子及び前記筒状導電性素子の直列接続が第1の周波数帯で動作し、前記筒状導電性素子単独では第1の周波数帯より高い第2の周波数帯で動作するように設定することで、アンテナ外観の径寸法を、従来のAM/FM用のアンテナに比較して増加させることなく、複数の周波数帯での使用を可能とした複合アンテナを実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る複合アンテナ及びその製造方法の実施の形態1を示す分解斜視図。
【
図2】実施の形態1の製造工程の説明であって、(A)は第1の成形工程でコイル素子及び導電性素子を覆う内側樹脂成形部をインサート成形した状態の側面図、(B)は同側断面図、(C)は前記内側樹脂成形部の外側を覆う外側樹脂成形部をインサート成形した完成状態の側面図、(D)は同側断面図。
【
図3】実施の形態1におけるコイル素子及び導電性素子を示す分解斜視図。
【
図4】実施の形態1における絶縁性芯材及び接続用金具を示す分解斜視図。
【
図5】前記コイル素子の基端に前記導電性素子を溶接後、前記接続用金具に仮固定した前記絶縁性芯材を前記導電性素子の内側を通して突出させ、前記絶縁性芯材の螺旋状溝を前記コイル素子のトラップコイル部にねじ込み、螺合させた状態の斜視図。
【
図6】前記導電性素子に前記接続用金具を抵抗溶接する工程を示す斜視図。
【
図7】実施の形態1であって、(A)は第1の成形工程でコイル素子及び導電性素子を覆う内側樹脂成形部をインサート成形した状態の斜視図、(B)は前記内側樹脂成形部の外側を覆う外側樹脂成形部の斜視図、(C)は前記外側樹脂成形部の先端部を貫通して前記内側樹脂成形部の先端部の所定深さに到達する穴部を、キャップで塞ぐ構造を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
実施の形態1
図1乃至
図7で本発明に係る複合アンテナ及びその製造方法の実施の形態1を説明する。この複合アンテナは、車載用等に使用するものであり、全体としてポールアンテナの外観形状を有する。
図1及び
図2に示すように、複合アンテナは、螺旋状に形成されて基端部にトラップコイル部3を有するコイル素子1(第1のアンテナ素子として機能する)と、コイル素子1の基端に電気的に直列接続される円筒状導電性素子10(第2のアンテナ素子として機能する)と、円筒状導電性素子10の基端に電気的に接続される接続用金具20と、導電性素子10の内側に配置され、先端側が導電性素子10から突出する絶縁性芯材(アンテナコア)30とを備えている。コイル素子1及び円筒状導電性素子10の直列接続は第1の周波数帯としてのAM/FM放送の周波数帯で動作し、円筒状導電性素子10単独ではAM/FM放送の周波数帯より高い第2の周波数帯としてのTEL帯で動作する。
【0020】
コイル素子1は、
図3のように全体的に螺旋状に巻回されており、先端から順に、AM/FM放送受信のためのヘリカルコイル部2、トラップコイル部3、及び密巻状の接続部4が形成されている。トラップコイル部3は狭ピッチで巻回され、ヘリカルコイル部2はトラップコイル部3よりもやや大きなピッチで巻回され、特に、ヘリカルコイル部2の基端側は疎巻きに形成されている。トラップコイル部3よりも基端側に位置する密巻状の接続部4は、円筒状導電性素子10の小径部となるコイル装着部11の外側に嵌るように形成されている。コイル素子1は、例えば耐食性の優れたステンレス線である。
【0021】
円筒状導電性素子10は鉄板等の金属板(導体板)を丸めて形成されており、
図3のように先端側はコイル素子1の接続部4を取り付ける為に外径が小さく形成されたコイル装着部11となっている。コイル素子1の接続部4が導電性素子10のコイル装着部11の外側に乗り上げて(嵌合して)固定される。接続部4とコイル装着部11との電気的接続及び固定は例えば溶接で行われる。
【0022】
円筒状導電性素子10の内側には、絶縁性芯材30が回転しながら通過する空間が設けられており、絶縁性芯材30をコイル素子1にねじ込んで固定が可能なように設定されている。
【0023】
また、外径の絞られた導電性素子10先端側のコイル装着部11は複数片(図示の場合4片)に隙間をもって分割されている。この隙間から、
図2(A),(B)の内側樹脂成形部40を設けるための後述する第1成形工程において、溶融状態の樹脂が導電性素子10の内部に流れ込むようになっている。また、導電性素子10の外周面には複数の貫通孔12が形成され、第1成形工程において導電性素子10の内側に流れ込んだ溶融状態の樹脂が貫通孔12を貫通して外側に突出して内側樹脂成形部40による突起41を形成するようにしている。突起41は、
図2(C),(D)の外側樹脂成形部50を設けるための後述する第2成形工程において、内側樹脂成形部40の抜け止め及び回転止め用の突起として機能する。
【0024】
図5及び
図6に示すように、円筒状導電性素子10の基端側には、接続用金具20と溶接(例えば抵抗溶接)するための切欠部13が円筒状導電性素子10の中心軸に対し正反対位置とならないように形成され、導電性素子10と接続用金具20とを抵抗溶接機の溶接電極で上下で挟持できるようにしている。つまり、抵抗溶接機の一方の溶接電極は導電性素子10に、他方の溶接電極は切欠部13から露出した接続用金具20に接触するようにしており、溶接条件が安定しやすい。
【0025】
図4及び
図5に示すように、接続用金具20には、中央付近に大径の接続部21が形成されており、その外径は、円筒状導電性素子10の内側に嵌入可能なように、導電性素子10内径と略同径に形成されている。また、先端面に絶縁性芯材30の取付部31が圧入される圧入穴22が形成されている。接続用金具21の基端側は取付ベースに取り付けるための雄ネジ部23となっている。
【0026】
図4に示すように、絶縁性芯材30には、その基端側に接続用金具20の圧入穴22に圧入される取付部31が形成され、先端側にトラップコイル部3のピッチと同ピッチの螺旋状溝32を有する螺合部33が形成されている。基端の取付部31が接続用金具20に圧入された絶縁性芯材30が、円筒状導電性素子10の内側に配置された状態において、螺合部33は導電性素子10の先端側の開口から突出する。また、絶縁性芯材30の基端側と中央付近には、それぞれ、外周方向に突出する突起部34,35が周方向に等間隔で複数箇所(図示の場合4箇所)に形成されており、これらの突起部34,35は円筒状導電性素子10の内面との間に隙間を形成するためのスペーサとしての役割をなし、この隙間に第1成形工程において内側樹脂成形部40となる溶融樹脂が流れ込むことができるようになっている。
【0027】
次に、各部材の組立手順及び第1及び第2成形工程について説明すると、まず、
図3に示す円筒状導電性素子10のコイル装着部11の外側に、コイル素子1の接続部4を嵌合して、溶接等により接続部4とコイル装着部11との電気的接続及び固定を行う。これとは別に、
図4のように接続用金具20の圧入穴22に絶縁性芯材30の取付部31を挿入(圧入)して、接続用金具20で絶縁性芯材30を仮保持する。
【0028】
図5のように、接続用金具20が取り付けられた絶縁性芯材30を、矢印方向に回転させて円筒状導電性素子10の内側にネジ込みながら挿入し、螺旋状溝32を有する螺合部33をトラップコイル部3に螺合させる。これにより、トラップコイル部3の線材を螺旋状溝32と係合させ、螺旋のピッチが変動しないように保持する。
【0029】
それから、
図6のように、円筒状導電性素子10に接続用金具20の接続部21を抵抗溶接する。その際、円筒状導電性素子10の基端に切欠部13を形成しておくことで、抵抗溶接機の一方の溶接電極は導電性素子10に、他方の溶接電極は切欠部13から露出した接続用金具20の接続部21に接触させることができ、安定した溶接が可能である。
【0030】
次に、
図2(A),(B)及び
図7(A)に示すコイル素子1及び円筒状導電性素子10を保持する内側樹脂成形部40を第1成形工程で設ける。すなわち、コイル素子1、円筒状導電性素子10、接続用金具20及び絶縁性芯材30を一体化したものを第1の樹脂成形金型の成形空間内に配置し(但し、接続用金具20の基端側は成形空間外)、接続用金具20の基端及びコイル素子1の先端部内側を第1の樹脂成形金型で支持した状態にて溶融樹脂を成形空間内に注入してインサート成形を行う。
【0031】
第1成形工程で形成された内側樹脂成形部40は、コイル素子1を覆うとともに、円筒状導電性素子10の外周面を部分的に覆うものであり、円筒状導電性素子10の貫通孔12から外側に突出した複数の突起41、円筒状導電性素子10の基端部の外側を帯状に周回する厚肉部42、導電性素子10の外周からコイル素子1の外周に向かって外径が小さくなる部分に形成された複数の補強リブ43、コイル素子1の外周に設けられた複数の突起44、及び先端面に開口する円柱状凹部45を有している。突起41及び突起44は後述の第2成形工程で設けられる外側樹脂成形部50に対する抜け止め及び回転止めとして機能する。また、帯状の厚肉部42は円筒状導電性素子10に切欠部13を設けた場合の強度低下を補うための補強用である。円柱状凹部45は成形時にコイル素子1の先端部内側を支持する位置決めピンが入っていた所である。
【0032】
コイル素子1の外周部は第1の樹脂成形金型に保持された状態で樹脂成形され、各ピッチ間がショートすることなく内側樹脂成形部40で固定される。絶縁性芯材30の材質は、繰り返しアンテナ曲げに耐える為に、内側樹脂成形部40と同じか又は融点の低い材質(樹脂)で構成され、インサート成形により内側樹脂成形部40と強固に接着することが可能となる。
【0033】
第1成形工程で内側樹脂成形部40を設けた後、
図2(C),(D)及び
図7(B)に示すように内側樹脂成形部40の外側を覆う外側樹脂成形部50を第2成形工程で設ける。すなわち、
図2(A)及び
図7(A)のように内側樹脂成形部40を設けた構造体46を第2の樹脂成形金型の成形空間内に配置し(但し、接続用金具20の基端側は成形空間外)、接続用金具20の基端を支持するとともに、円柱状凹部45の内側に固定用の金型ピンを差し込んで支持した状態にて溶融樹脂を成形空間内に注入してインサート成形を行う。これにより、成形圧力により伸びや座屈による変形が生じるのを抑制し、構造体46が成形空間内の中心に位置決めされた状態で外側樹脂成形部50を成形できる。
【0034】
第2成形工程で形成された外側樹脂成形部50は内側樹脂成形部40の外側を覆うものであり、内側樹脂成形部40よりも軟質(柔らかい材質)である。これはアンテナに接触した際の衝撃緩和のためである。
図7(C)に示すように、第2成形工程後、外側樹脂成形部50の先端部を貫通して内側樹脂成形部40の先端部の所定深さに到達する穴部55(外側樹脂成形部50の先端部を貫通して円柱状凹部45に至る)が残存しているから、この穴部55に樹脂製キャップ56を嵌着して閉塞することで、AM/FM放送の周波数帯及びこれより高いTEL帯の両方で動作可能な複合アンテナが得られる。なお、キャップ56の装着時に接着剤等を併用してもよい。
【0035】
実施の形態1の複合アンテナは、AM/FM放送の周波数帯に関して第1のアンテナ素子としてのコイル素子1と第2のアンテナ素子としての円筒状導電性素子10との直列接続構造の全体がアンテナ素子として機能する。
【0036】
また、TEL帯では、コイル素子1のトラップコイル部3がハイインピーダンスとなって、コイル素子1を円筒状導電性素子10から切り離すように作用する。従って、円筒状導電性素子10がアンテナ素子として働く。この場合、円筒状導電性素子10の外径を大きくできるため、広帯域化を図ることができる。
【0037】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0038】
(1) 複合アンテナは、コイル素子1(第1のアンテナ素子として機能する)の基端側に、円筒状導電性素子10(第2のアンテナ素子として機能する)を電気的に直列接続する構造であり、コイル素子1及び円筒状導電性素子10の直列接続は第1の周波数帯としてのAM/FM放送の周波数帯で動作し、円筒状導電性素子10単独ではAM/FM放送の周波数帯より高い第2の周波数帯としてのTEL帯で動作するように設定している。この構造では、円筒状導電性素子10の外径はコイル素子1の内径の制約を受けない。このため、アンテナ外観の径寸法を、従来のAM/FM用のアンテナに比較して増加させることなく、円筒状導電性素子10の外径をコイル素子1の外径よりも充分大きくして、TEL帯の広帯域化を図ることができる。
【0039】
(2) 円筒状導電性素子10は例えばブリキ板等の金属板の板金加工で製造でき、製造容易で安価である。
【0040】
(3) 従来の成形金型による樹脂成形でコイル素子を保持する構造では、樹脂の成形圧力によりコイルピッチにずれが生じることがあり、トラップコイル部3のような狭いピッチ区間では、保持を安定して行うことは難しく、コイルピッチ間のショートが懸念される。本実施の形態では、コイルピッチ間のショートが懸念されるような、狭ピッチのトラップコイル部3を安定して保持する為に、絶縁性芯材30の螺旋状溝32をトラップコイル部3に螺合(係合)しているので、コイルピッチ間を一定に保持した状態で、内側樹脂成形部40のインサート成形が可能である。
【0041】
(4) コイル素子1及び円筒状導電性素子10を覆う内側樹脂成形部40と、内側樹脂成形部40よりも軟質で内側樹脂成形部40の外側を覆う外側樹脂成形部50とを有するため、アンテナ接触時の衝撃を緩和することができる。
【0042】
(5) 第2成形工程において、内側樹脂成形部40を設けた構造体46を第2の樹脂成形金型の成形空間内に配置し、接続用金具20の基端を支持するとともに、円柱状凹部45の内側に固定用の金型ピンを差し込んで支持した状態にて溶融樹脂を成形空間内に注入して外側樹脂成形部50の成形を行っている。これにより、成形圧力により伸びや座屈による変形が生じるのを抑制し、構造体46が成形空間内の中心に位置決めされた状態で外側樹脂成形部50を成形できる。また、外側樹脂成形部50の先端部に残存する穴部55に樹脂製キャップ56を嵌着して閉塞することで、外観は良好に維持できる。
【0043】
(6) 円筒状導電性素子10の基端部に切欠部13を形成しておくことで、その基端部に接続用金具20を嵌合して抵抗溶接する際、切欠部13を通して接続用金具20の接続部21が露出するから、抵抗溶接作業を安定して行うことができる。
【0044】
(7) また、内側樹脂成形部40が、円筒状導電性素子10の基端部の外側を帯状に周回する厚肉部42を有することで、切欠部13を形成したことで強度が低下した導電性素子10の基端部を補強することが可能である。
【0045】
(8) 円筒状導電性素子10の外周面に貫通孔12が形成されていて、内側樹脂成形部40が貫通孔12を貫通して導電性素子10の外周に突起41を形成するようにしており、導電性素子10と内側樹脂成形部40とが位置ずれを起こさずに一体的に回転するようにしている。
【0046】
実施の形態2
図8で本発明に係る複合アンテナ及びその製造方法の実施の形態2を説明する。前述の実施の形態1では第1及び第2の成形工程によるインサート成形で内側樹脂成形部40及び外側樹脂成形部50を形成したが、実施の形態2では、インサート成形で内側樹脂成形部40及び外側樹脂成形部50を形成する代わりに、絶縁性芯材60を、円筒状導電性素子10の先端からコイル素子1の全長より僅かに長く突出させて、絶縁性芯材60の外周面にコイル素子1を巻き付けて接着で固定し、別体の外装絶縁体70をコイル素子1及び円筒状導電性素子10を覆うように被せて、導電性素子10の外周面に接着固定する。外装絶縁体70は外側樹脂成形部50と同様の軟質樹脂であることが望ましい。その他の構成は実施の形態1と同様でよい。
【0047】
この実施の形態2においても、アンテナ外観の径寸法を、従来のAM/FM用のアンテナに比較して増加させることなく、円筒状導電性素子10の外径をコイル素子1の外径よりも充分大きくして、TEL帯の広帯域化を図ることができる。また、コイル素子1を絶縁性芯材60の外周面に巻き付けて接着することで、コイルピッチの変動を防止することができる。
【0048】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0049】
また、各実施の形態において、円筒状導電性素子10と接続用金具20とを抵抗溶接する際の便宜のために、円筒状導電性素子10の基端に切欠部13を設けたが、切欠部13として導電性素子10の基端縁まで達していない窓形状のものを採用してもよい。
【0050】
さらに、円筒状導電性素子10と接続用金具20とを抵抗溶接以外の手段で電気的に接続し、かつ機械的に固着する構造を採用してもよい。
【0051】
各実施の形態において、絶縁性芯材30,60が仮固定された接続用金具20を、円筒状導電性素子10に固着したが、絶縁性芯材30,60を直接円筒状導電性素子10に位置決め固定する構造を採用することも可能である。
【0052】
各実施の形態において、第2のアンテナ素子として円筒状導電性素子10を用いたが、円筒状以外の角筒等の筒状導電性素子を用いることも可能であり、その場合でも使用周波数帯の広帯域化を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 コイル素子、2 ヘリカルコイル部、3 トラップコイル部、4 接続部、10 円筒状導電性素子、11 コイル装着部、12 貫通孔、13 切欠部、20 接続用金具、21 接続部、22 圧入穴、23 雄ネジ部、30,60 絶縁性芯材、31 取付部、32 螺旋状溝、33 螺合部、34,35,41,44 突起、40 内側樹脂成形部、42 厚肉部、43 補強リブ、45 円柱状凹部、46 構造体、50 外側樹脂成形部、70 外装絶縁体