(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
下記に示す実施形態は例示であって、従って、発明の範囲はこれら具体的に開示された範囲内に限定されることはない。
【0016】
<セラミックス粉末>
以下、本発明の実施形態によるセラミックス粉末の好ましい具体例を、必要に応じて、図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、複数個の一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでなるセラミックス粉末であって、前記の複数個の一次粒子は、セラミックスの結晶(A)と結晶粒径が1μm以下のマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)とを含んでなり、前記の二次粒子の平均粒径が1μm以上100μm以下の範囲内にあること、を特徴とする。結晶(A)の粒径はとくに規定するものではないが、粒界での変形が容易になるという観点では、結晶(B)と同様、1μm以下であることが好ましい。
【0017】
ここで、「複数個の一次粒子は、セラミックスの結晶(A)と結晶粒径が1μm以下のマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)とを含んでなり」とは、「二次粒子を構成している複数個の一次粒子の、その全体の中に(即ち、二次粒子を構成している複数個の一次粒子が集まったときに、その集合物の中に)、セラミックスの結晶(A)と、結晶粒径が1μm以下のマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)とが含まれていること」を意味する。
【0018】
したがって、本発明の実施形態によるセラミックス粉末の「二次粒子」には、好ましくは、例えば、「セラミックスの結晶(A)からなる一次粒子と、マグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)からなる粒径が1μm以下の一次粒子とが凝集してなる二次粒子」(第一の形態)、および「セラミックスの結晶(A)と前記の結晶粒径が1μm以下のマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)とを同一の一次粒子中に含む一次粒子が複数個凝集してなる二次粒子」(第二の形態)が包含される。
【0019】
異なる材料粉末を単に混合するだけで容易に成膜用の粉末を作製できるという観点からは第一の形態が好ましく、また、成膜後に結晶(A)と結晶(B)とが均一に結合し、良好な皮膜を形成できるという点からは第二の形態の方が好ましい。なお、第一の形態の二次粒子と第二の形態の二次粒子とは混在することができる。
【0020】
図1は、本発明の実施形態によるセラミックス粉末の上記の第一の形態を模式的に示すものである。
この
図1に示される本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、複数個の一次粒子が凝集してなる二次粒子であって、この二次粒子が、セラミックスの結晶(A)からなる粒径が1μm以下の一次粒子(1)と、マグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)からなる粒径が1μm以下の一次粒子(2)とが凝集してなるものである。ここで、一次粒子(1)は、1つもしくは多数個の結晶粒径が1μm以下のセラミックスの結晶(A)からなり、一次粒子(2)は、1つもしくは多数個の結晶粒径が1μm以下のマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)からなることができる。
【0021】
本発明の実施形態によるセラミックス粉末において、一次粒子に含まれるセラミックスの結晶(A)の結晶粒径は、1μm以下が好ましく、0.005〜0.1μmが特に好ましい。結晶粒径がこの範囲であることにより、成膜時の粒界でのすべりが生じやすくなり、皮膜形成が容易にできるという効果を得ることができる。ここで、結晶粒径は、X線回折法によるScherrer法による測定、もしくは透過型電子顕微鏡による結晶粒の直接観察によるものである。
【0022】
なお、一次粒子(1)には、上記の粒径範囲外の結晶(A)を含むことができる。この場合、一次粒子の全体における上記の粒径範囲内の結晶(A)の存在量は、好ましくは50〜90体積%、特に好ましくは70〜90体積%、である。
【0023】
本発明による実施形態によるセラミックス粉末において、セラミックス結晶(A)の種類は特に限定されることはない。したがって、本発明による実施形態によるセラミックス結晶(A)は、従来から溶射材料として用いられてきた各種のセラミック材料(ファインセラミッスも包含される)の結晶が対象となる。よって、部品や製品などに対し、例えば、耐摩耗性、耐食性、耐熱性、遮熱性、電気絶縁性などを付与するための目的で従来から施されてきたセラミックス溶射材料等も対象となる。例えば、酸化物系(例えば、酸化チタン、酸化タングステンおよび酸化アルミニウム等)、窒化物系(例えば、窒化アルミニウム、窒化チタン等)、炭素物系(例えば、炭化シリコン、炭化タングステン)、ホウ化物系(例えば、ホウ化アルミニウム、ホウ化イットリウム)等のいずれも使用可能であり、またこれらが混在しているものであってもよい。上記のセラミックス結晶(A)の中でも、酸化物系(特に、二酸化チタン)が特に好ましい。
【0024】
そして、セラミックスの結晶(A)は、結晶(A)がとることが可能ないずれの結晶構造のものでありうる。例えば、アナターゼ型、ルチル型もしくはブルッカイト型のいずれの結晶構造のものを用いることができる。
【0025】
このような本発明による実施形態におけるセラミックス結晶(A)は、マグネリ相構造を有さない点で、遷移金属酸化物の結晶(B)と区別可能なものである。
【0026】
一方、一次粒子に含まれるマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)の結晶粒径は、1μm以下、好ましくは0.001〜0.05μm、特に好ましくは0.001〜0.01μm、である。結晶粒径がこの範囲であることにより、成膜時にマグネリ相が細粒化、非晶質化するという効果を得ることができる。ここで、結晶粒径は、X線回折法によるScherrer法による測定、もしくは透過型電子顕微鏡による結晶粒の直接観察によるものである。
【0027】
なお、一次粒子には、上記の粒径範囲外の結晶(B)を含むことができる。この場合、一次粒子の全体における上記の粒径範囲内の結晶(B)の存在量は、好ましくは10〜50体積%、特に好ましくは10〜30体積%、である。
【0028】
ここで、マグネリ相とは、ルチル型二酸化チタン(TiO
2)や三酸化レニウム(ReO
3)の有する結晶格子を基本格子とし、この基本格子から酸素イオンのみが乗っている特定の原子面を規則的な周期のもとに取り除いたのち、この面(一般的に、Shear面と呼ばれる)上で一定の方向・距離にすべらせてできる結晶構造を有する酸化物と捉えることができる。この構造からわかるように、マグネリ相とは、ある一定間隔で基本格子の結晶面とは結合状態の異なるshear面と呼ばれる面が存在し、この面での原子の変位が材料の大きな変形を許容することができるものと考えられている。
【0029】
図2は、マグネリ相の基本的な原子配列を示す模式図である。例えば、ルチル型のTiO
2(3)の結晶構造を基本格子とする場合には、酸素原子(4)のみから構成される基本格子の(121)面を周期的に取り除き、Shear面(5)を境として結晶を1/2[011]すべらせることによって原子配列を得ることができる。前述したように、このShear面(5)の存在によってマグネリ相は通常の酸化物に比べて変形能力が高く、本発明のセラミックス微粒子の結合材として好適な特性を備えているものと考えられている。
【0030】
マグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)の種類は特に限定されることはなく、例えば、チタン酸化物(Ti
nO
2n−1)、バナジウム酸化物(V
nO
2n−1、V
nO
2n+1)、チタン‐クロム複合酸化物((Ti
n−2Cr
2)O
2n−1)、モリブデン酸化物(Mo
nO
3n−1)、モリブデン‐タングステン複合酸化物((Mo,W)
nO
3n−1)、タングステン酸化物(W
nO
3n−2)〔ここで、nは4〜9〕などの不定比酸化物を用いることができる。これらの中では、特にチタン酸化物およびタングステン酸化物が好ましい。
【0031】
本発明の実施形態によるセラミックス粉末において、特に好ましいマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)は、酸素欠損を含むチタン酸化物からなるものである。
【0032】
本発明の実施形態によるセラミックス粉末において、これをセラミックス皮膜の形成に用いる際は、セラミックスの結晶(A)とマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)とは、両者を構成する元素や、格子定数などは極力類似している方が、皮膜の機械的強度や、化学的密着性を確保することができることから好ましい。
【0033】
ここで、このような本発明による実施形態におけるセラミックス粉末においては、結晶(A)と結晶(B)とが共通する遷移金属元素を含むものであっても、結晶(A)は、マグネリ相構造を有さない点で結晶(B)と区別可能なものである。
【0034】
本発明の実施形態によるセラミックス粉末において、セラミックスの結晶(A)とマグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)との存在量の比は、皮膜に必要とされる特性などに応じて適宜選択可能である。マグネリ相構造を有する遷移金属酸化物の結晶(B)があまりに少ないと、セラミックスが結合しないために皮膜の形成が困難になり、逆に、あまりに多いと皮膜の特性を発揮することができないため、遷移金属酸化物の結晶(B)の体積率は、好ましくは10〜50%の範囲内、特に好ましくは10〜30%の範囲内、である(ここで、結晶(A)と結晶(B)との総和を100体積%とする)。
【0035】
ナノ粉末の作製方法については、大きな粉末を破砕して微粒子にする方法と、結晶の核から気相中、もしくは液相中で粒子成長を促し、微粒子を製造する方法とがあるが、効率的な粒子の製造の観点から、後者の方が本発明には適していると考えられる。気相法の場合には、結晶粒1を構成する材料と結晶粒2を構成する材料を一緒に溶かしたのち、スプレーすることによって1次粒子に両方の結晶粒を含む粉末を作製したり、2つの材料をエアロゾルのような形態で高温ガス中を通過させることで凝集させ、結晶の異なる1次粒子を凝集することも可能である。液相法では異なる粒子を溶媒中に均一分散させた後、熱処理を施すことで所定の粉末を作製することが可能である。
【0036】
そして、本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、二次粒子の平均粒径が1μm以上100μm以下の範囲内にあることを、一つの特徴とする。
【0037】
二次粒子の平均粒径が1μm未満であると、非溶融粒子積層プロセスによる皮膜施工時に運動する粒子が持つ運動エネルギーが小さく、衝撃時の粒子の変形が少ないために皮膜が形成することが困難になる。また、周囲のガスの流れの影響を強く受けて、基材まで到達しないなどの問題が生じる場合ある。一方、二次粒子の平均粒径が100μm超過であると、粒子の速度が遅くなったり、装置のガス流を閉塞したりするなどの問題が生じる場合がある。このため、非溶融粒子積層プロセスの装置や、用いる材料の密度にも依存するが、二次粒子の平均粒径は、1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上50μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下、である。ここで、二次粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置によるものである。
【0038】
セラミックス粒子(1)とマグネリ相酸化物(2)の凝集粉末の作製方法としては、溶媒となる液相中で両者を混合し、溶媒を飛ばして凝集粉末を得る方法や、機械的にミリングして混合させる方法などが考えられる。本発明では、微粒子同志が強固に結合すると、成膜時の粉末の変形が妨げられ、皮膜の形成が困難になる可能性があることから、前者の方が適しているものと考えられる。
【0039】
二次粒子を形成している一次粒子間の凝集力は、1個の粒子の微小圧縮試験によって評価したときに、破壊強度が5MPa〜20MPaの範囲内、特に5MPa〜10MPaの範囲内、であることが好ましい。一次粒子間の凝集力が5MPa未満では、基板への衝突前に二次粒子が分裂ないし崩壊してしまい、各粒子が持つ運動エネルギーが小さくなって、基板への衝突頻度の低下や衝突強度が不足することがある。一方、一次粒子間の凝集力が20MPa超過では、成膜時に変形せず、基材に衝突後、跳ね返る場合がある。
【0040】
<セラミックス皮膜>
本発明の実施形態によるセラミックス皮膜は、上記のセラミックス粉末から形成されたものであること、を特徴とする。
【0041】
この本発明の実施形態によるセラミックス皮膜は、上記のセラミックス粉末を固相状態のまま基材に衝突させることにより当該基材上に形成することができる。
【0042】
このような方法により得られた本発明の実施形態によるセラミックス皮膜は、前記のセラミックスの結晶(A)が、前記の遷移金属酸化物の結晶(B)によって結合された組織を有するものとして得ることができる。
【0043】
なお、本発明の実施形態によるセラミックス皮膜とは、基板の表面に形成されているセラミックス結晶(A)と遷移金属酸化物の結晶(B)とからなる連続面をいう。セラミックス皮膜の厚さは任意であって、特定の厚さ範囲内に限定されることはない。
【0044】
また、例えば、セラミックス結晶(A)および(または)遷移金属酸化物の結晶(B)の種類や、存在割合、気孔率等の内容が異なるセラミックス皮膜が積層されたものも、本発明の実施形態によるセラミックス皮膜の具体例に包含される。
【0045】
本発明の実施形態によるセラミックス皮膜の厚さは、具体的用途や目的、要求性能等に異なるが、好ましくは1〜200μm、特に好ましくは10〜150μm、である。
【0046】
図3は、本発明の実施形態によるセラミックス皮膜の形成を、非溶融粒子積層プロセスの1つであるコールドスプレー装置を用いて行う場合について示す模式図である。
【0047】
先ず、コンプレッサー(6)で圧縮されたガス(好ましくは窒素、空気、ヘリウム)は、加熱用ヒータ(7)で、加熱された後、スプレーガン本体(8)に導入される。このスプレーガン本体(8)には、先細末広形状のラバルノズル(9)が接続されている。一方、粉末供給部(11)に貯留された本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、粉末供給ガス10によって、粉末供給部(11)からラバルノズル(9)へ移送される。この移送されたセラミックス粉末は、ラバルノズル(9)に供給された前記の高温・高圧ガスによって、数百m/sの速度まで加速されて、ラバルノズル(9)の噴出口から皮膜形成対象である基材(12)に向けて噴射され、基材(12)に衝突して、この基材(12)にセラミックス皮膜(13)が形成されるようになっている。
【0048】
本発明の実施形態によるセラミックス皮膜は、上記の発明の実施形態によるセラミックス粉末を、好ましくは、平均飛行速度100m/s以上、特に好ましくは200〜800m/s、の速度で基材に衝突させることによって、形成することができる。ここで、平均飛行速度は、高速度カメラや高速度フラッシュによる粒子速度の測定によるものである。
【0049】
本発明の実施形態によるセラミックス自体は、とくに非溶融積層プロセスの種類を選ぶものではないが、とりわけ、高温、高圧のガスを先細末広形状のノズルで加速させて基材に衝突させるコールドスプレー法が最も好適である。この中でも、圧力が1MPaの低圧型と呼ばれるコールドスプレー装置は、装置が小型で、安全性も高いことなどから、製造現場だけでなく、機器を使用する現場でも利用することが可能であり、格段にセラミックス皮膜適用範囲を広げられる点で大きなメリットを有する。
【0050】
そして、ガス温度の高温化は、材料の軟化を誘発するとともに、ガス速度の増加をもたらすため、付着効率を向上させるのに好適であるが、加熱温度が高すぎると、加熱装置が多くなったり、特別な冷却構造を必要としたりするため、装置が大型、複雑になることから、ノズル入り口部で300℃から800℃程度の範囲にあることが望ましい。
【0051】
なお、基材は、皮膜が形成される面の表面が平らな板状状のものに限定されず、任意の形状のものでありえる。本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、例えば、表面が平面状、球面状、凹面状の基材に皮膜を形成できる。そして、所望の厚さになるまで皮膜を累積形成できるものである。
【0052】
図4は、実施形態によるセラミックス皮膜断面の組織を示すものである。この皮膜は、セラミックス酸化物としてアナターゼ型TiO
2、マグネリ相の遷移金属酸化物としてTi
nO
2n−1(n=4〜9)とが凝集した粉末を用いて、基材(12)の表面に皮膜を形成した。その結果、図中に観察される黒い部分が、本発明の粉末を用いたセラミックス皮膜(13)であり、100ミクロン程度の膜厚の皮膜形成を容易に行うことができた。
【0053】
図5は、
図4のセラミックス皮膜の断面を示す透型電子顕微鏡写真である。暗いコントラストの粒子がセラミックス粒子であり、この例ではアナターゼ型TiO
2の粒子である。一方、セラミックス粒子の周りを取り囲む明るいコントラストの粒子がマグネリ相粒子(2)である。この写真から、マグネリ相微粒子(2)がセラミックス微粒子(1)を強固に結合することによって、緻密で厚い皮膜の形成がなされていることが明らかになった。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、上記した実施形態の好ましい幾つかの代表例について、より詳細に示すものである。従って、下記に示された実施例に具体的に開示された技術的範囲内のみに限定されることはない。
【0055】
<実施例1>
本発明の実施例として、平均粒径0.008μmのアナターゼ型の二酸化チタンと、平均粒径0.005μmのマグネリ相の酸化チタン(Ti
5O
9)とが混合した結晶からなる1次粒子が凝集して平均粒径10μmの2次粒子を形成した粉末を用いた。透過型電子顕微鏡の組織からそれぞれの相の体積率を測定したところ、アナターゼ型二酸化チタンが約60%、マグネリ相が約40%程度の構成になっていた。
【0056】
圧力0.5MPaで400℃まで加熱した圧縮空気をノズル内部で超音速まで加速し、この流れの内部に前述した粉末を投入し、ステンレス製の基板に粒子を衝突させて皮膜の形成を試みた。スプレーを10mm/sの速度で移動させたところ、約120μmの皮膜を形成することができた。
【0057】
成膜後の組織を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、マグネリ相はさらに微細化、あるいは非晶質化しており、これによって粒子が大きく変形することを許容し、この相がアナターゼ型の二酸化チタンの結合材のような役割をはたして、皮膜の形成が可能になっていることを確認した。
【0058】
<実施例2>
本発明の実施例として、平均粒径0.01μmの三酸化タングステンと、平均粒径0.005μmのマグネリ相の酸化タングステン(W
18O
49)とが混合した結晶からなる1次粒子が凝集して平均粒径13μmの2次粒子を形成した粉末を用いた。透過型電子顕微鏡の組織からそれぞれの相の体積率を測定したところ、三酸化タングステンが約80%、マグネリ相が約20%程度の構成になっていた。
【0059】
圧力0.5MPaで400℃まで加熱した圧縮空気をノズル内部で超音速まで加速し、この流れの内部に前述した粉末を投入し、ステンレス製の基板に粒子を衝突させて皮膜の形成を試みた。スプレーを10mm/sの速度で移動させたところ、約90μmの皮膜を形成することができた。
【0060】
<実施例3>
本発明の実施例として、平均粒径0.02μmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)と、平均粒径0.005μmのマグネリ相の酸化チタン(Ti
5O
9)の1次粒子を用い、これらの粒子が凝集して平均粒径13μmの2次粒子を形成した粉末を用いた。粉末を混ぜた段階でで、酸化アルミニウムが60%、マグネリ相酸化チタンが40%の構成になっていた。
【0061】
圧力0.5MPaで400℃まで加熱した圧縮空気をノズル内部で超音速まで加速し、この流れの内部に前述した粉末を投入し、ステンレス製の基板に粒子を衝突させて皮膜の形成を試みた。スプレーを10mm/sの速度で移動させたところ、約80μmの皮膜を形成することができた。
【0062】
成膜後の組織を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、マグネリ相はさらに微細化、あるいは非晶質化しており、これによって粒子が大きく変形することを許容し、この相が二酸化チタン粒子の結合材のような役割をはたして、皮膜の形成が可能になっていることを確認した。
【0063】
<比較例1>
比較例として、通常のスプレー法によって形成した凝集粉末ではない平均粒子径15μmのアナターゼ型二酸化チタンの粉末を用いた。圧力0.5MPaで400℃まで加熱した圧縮空気をノズル内部で超音速まで加速し、この流れの内部に前述した粉末を投入し、ステンレス製の基板に粒子を衝突させて皮膜の形成を試みた。スプレーを10mm/sの速度で移動させたが、ごくわずかに基材に粒子が刺さるのみで、10μmを超える明らかな皮膜の形成は認められなかった。
【0064】
<比較例2>
本発明の実施例として、平均粒径0.008μmのアナターゼ型の二酸化チタンのみからなる1次粒子が凝集して平均粒径10μmの2次粒子を形成した粉末を用いた。圧力0.5MPaで400℃まで加熱した圧縮空気をノズル内部で超音速まで加速し、この流れの内部に前述した粉末を投入し、ステンレス製の基板に粒子を衝突させて皮膜の形成を試みた。スプレーを10mm/sの速度で移動させたが、圧粉体として基材の上に体積するものの、実施例1のような強固な皮膜を形成することはなく、指を触れただけで粉状に剥離してしまった。
【0065】
以上のような本発明の実施形態によるセラミックス粉末、この粉末から形成されたセラミックス皮膜ならににこの皮膜の製造方法は、下記のような数々の利点を有するものである。
【0066】
(イ)本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、広範なセラミックス材料の皮膜を形成することができる。従って、数々のセラミックス材料が有する諸特性(例えば、耐熱性、耐摩耗性、電気絶縁性、光触媒性等)が損なわれることなく、優れた特性を有するセラミック皮膜を得ることができる。一般に機能性を有するセラミックス材料は、高温で不安定な相を持つことが多く、従来の材料を高温に加熱する成膜方法では、性能を発揮することができないが、本発明の実施形態によれば、粉末の特性を損なうことなく、皮膜として機能を発揮することが可能である。
【0067】
(ロ)本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、特性的に優れた皮膜を提供できるものであるとともに、皮膜の形成ないし皮膜の累積を確実にかつ効率的に行えるものである。従って、セラミック皮膜の形成を歩留まりよく、かつ所望の厚さの皮膜を効率よく形成することができる。このようなことから、安価にセラミック皮膜の形成を行うことができる。
【0068】
(ハ)本発明の実施形態によるセラミックス粉末は、例えば800℃でを超える高温かつ1MPaを超えるような圧力を必要とすることなく、セラミックス皮膜を形成することができる。このことから、小型かつ軽量の装置によって目的とするセラミックス皮膜を形成することができる。よって、安全性が高く、製造現場だけでなく、機器を使用する現場でもセラミックス皮膜を形成することが可能になり、適用範囲を格段に広げることができる。
【0069】
(ニ)例えば金属材料のような溶射材料とは異なって、セラミック材料は一般的に脆性材料であり塑性変形がしにくいところから、溶射材料として利用されることは一般的でなかったが、本発明の実施形態によれば、上述のように広範なセラミックス材料からなる皮膜を容易にかつ安価に得ることができる。したがって、数々の分野において利用可能な、かつ優れた特性を有する、機能性皮膜として利用可能なセラミックス皮膜を提供することができる。