特許第6334403号(P6334403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334403
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】メタマテリアルで作成されたフィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20180521BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20180521BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20180521BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20180521BHJP
   A61F 9/02 20060101ALI20180521BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   G02B5/26
   G02C7/10
   G02C7/04
   G02B1/02
   A61F9/02 374
   G02B5/28
【請求項の数】36
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-533995(P2014-533995)
(86)(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公表番号】特表2014-534459(P2014-534459A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】GB2012052518
(87)【国際公開番号】WO2013054115
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年3月16日
(31)【優先権主張番号】1117480.2
(32)【優先日】2011年10月10日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514087898
【氏名又は名称】ラムダ ガード テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】パリカラス、ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】カロス、テモス
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−333671(JP,A)
【文献】 特開2008−191097(JP,A)
【文献】 特開2005−101109(JP,A)
【文献】 特表2008−538618(JP,A)
【文献】 特表2008−525836(JP,A)
【文献】 特開2010−264755(JP,A)
【文献】 特開2007−299011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20−28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視の電磁放射をフィルタリングするフィルタであって、
前記フィルタは、可視の電磁放射の第1のフィルタリングを提供するように構成された第1メタマテリアルと、可視の電磁放射の第2のフィルタリングを提供するように構成された第2メタマテリアルとを備え、
前記第1のフィルタリングは、第1波長の周辺で第1の所定の狭い帯域の幅内の可視の電磁放射を遮断し、
前記第2のフィルタリングは、第1波長の周辺で第2の所定の狭い帯域の幅内の可視の電磁放射を遮断し、
前記第1の所定の狭い帯域の幅と前記第2の所定の狭い帯域の幅との相違は所定の幅より小さく
前記第1メタマテリアルは、前記第1の所定の狭い帯域の幅外の可視の電磁放射を透過し、
前記第2メタマテリアルは、前記第2の所定の狭い帯域の幅外の可視の電磁放射を透過し、
前記第1メタマテリアルは、第1角度で入射する可視の電磁放射に第1のフィルタリングを提供するように構成され、前記第2メタマテリアルは、第1角度と等しくない第2角度で入射する可視の電磁放射に第2のフィルタリングを提供するように構成され、
前記第2角度と前記第1角度とは少なくとも30度異なっていることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記第1および/または第2角度は、それぞれ第1および/または第2角度範囲であることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1および/または第2角度範囲は部分的に重なることを特徴とする請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1メタマテリアルは、一次元において可視の電磁放射の第1波長よりも大きくないサイズを有する複数の構造的な特徴を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第2メタマテリアルは、一次元において可視の電磁放射の第1波長よりも大きくないサイズを有する複数の構造的な特徴を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1および/または第2メタマテリアルは複数の誘電体層を備え、前記構造的な特徴は前記誘電体層のそれぞれの厚さであることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
前記複数の誘電体層内の第1誘電体層は、第1屈折率nを有し、前記複数の誘電体層内の第2誘電体層は、第2の異なる屈折率nを有し、前記第1および第2誘電体層がブラッグリフレクタを形成することを特徴とする請求項6に記載のフィルタ。
【請求項8】
複数の第2誘電体層と交互にされた複数の第1誘電体層を備えることを特徴とする請求項7に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記第1/第2メタマテリアルは、材料要素のアレイを備え、前記構造的な特徴は材料要素であることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項10】
前記材料要素は、ホスト媒体によって少なくとも部分的に囲まれていることを特徴とする請求項9に記載のフィルタ。
【請求項11】
前記材料要素は、ホスト媒体の表面内にまたは表面上に配置されることを特徴とする請求項9に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記材料要素は、前記ホスト媒体内に少なくとも部分的に埋め込まれることを特徴とする請求項11に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記材料要素は、誘電体またはメタロ−誘電体から形成されることを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項14】
前記材料要素は金属から形成されることを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項15】
前記金属は、金、銀またはアルミナのうちのいずれかを含むことを特徴とする請求項14に記載のフィルタ。
【請求項16】
前記材料要素は、球形、立方体、円柱、楕円体、環状、X字状、三角形、不規則形または棒状のいずれかである形状を持つことを特徴とする請求項9ないし15のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項17】
前記ホスト媒体は、5以下の比誘電率を有する誘電材料を含むことを特徴とする請求項10ないし12のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項18】
前記材料要素は、少なくとも二次元の周期的構造内に配置されることを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項19】
前記材料要素内の少なくとも一つの材料要素は、フォトニック結晶を含むことを特徴とする請求項9ないし18のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項20】
前記フォトニック結晶は、空気に囲まれた誘電材料を含むことを特徴とする請求項19に記載のフィルタ。
【請求項21】
前記誘電材料は、正方形、円筒形、三角形または不規則形のいずれかである断面形状を有する棒を含むことを特徴とする請求項20に記載のフィルタ。
【請求項22】
前記材料要素は穿孔または空洞を備えることを特徴とする請求項9ないし21のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項23】
前記穿孔または空洞は気泡を含むことを特徴とする請求項22に記載のフィルタ。
【請求項24】
前記要素内の少なくとも一つの材料要素は液晶を含むことを特徴とする請求項9ないし23のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項25】
前記第1および/または第2メタマテリアルは、複数のらせんを含む層を備え、各らせんは、伝搬軸周りのコレステリック液晶の回転から形成されることを特徴とする請求項24に記載のフィルタ。
【請求項26】
前記フィルタがフィルム内に構成されることを特徴とする請求項1ないし25のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項27】
前記フィルタが、フロントガラス、透明パネル、ゴーグル、保護めがね、コンタクトレンズ、グローブボックス、窓または航空機コクピットのいずれかの中またはその上に構成されることを特徴とする請求項1ないし26のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項28】
前記フィルタは、前記可視の電磁放射が偏光しているか否かに関わらず、前記第2波長の可視の電磁放射を遮断するように構成されることを特徴とする請求項1ないし27のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項29】
第3の角度で受け取る前記第1波長を反射するように構成される第3メタマテリアルを更に備えることを特徴とする請求項1ないし28のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項30】
前記フィルタは前記第1および第2マテリアルを積み重ねたものを備えることを特徴とする請求項1ないし29のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項31】
前記フィルタは受動的であることを特徴とする請求項1ないし30のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項32】
前記フィルタは人の目にとって透明であることを特徴とする請求項1ないし31のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項33】
請求項1ないし32のいずれかに記載のフィルタの製造方法であって、
前記第1および/または第2メタマテリアルの構造的な特徴のサイズ、形状、材料または構造を選択し、前記可視の電磁放射の透過と遮断を実現するような正確な材料特性を提供することを含む、製造方法。
【請求項34】
前記第1および/または第2メタマテリアルを製造するステップは、物理的気相成長法、スパッタ蒸着、ポリマー注入、化学的気相蒸着法、またはスピンコーティングのいずれかを使用することを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第1および/または第2メタマテリアルを製造するステップは、ゾル・ゲル法を含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
可視の電磁放射をフィルタリングするフィルタであって、
前記フィルタは、第1の複数の構造的な特徴を備える第1メタマテリアルを備え、
前記第1の複数の構造的な特徴は、一次元において可視の電磁放射の第1波長よりも大きくないサイズを有し、
前記第1の複数の構造的な特徴は、第1角度で入射する可視の電磁放射であって、第1波長の周辺で第1の所定の狭い帯域の幅内にある可視の電磁放射のみを遮断するように構成され、
前記フィルタは、第2の複数の構造的な特徴を備える第2メタマテリアルをさらに備え、
前記第2の複数の構造的な特徴は、一次元において可視の電磁放射の第1波長よりも大きくないサイズを有し、
前記第2の複数の構造的な特徴は、第2角度で入射する可視の電磁放射であって、第1波長の周辺で第2の所定の狭い帯域の幅内の可視の電磁放射のみを遮断するように構成され、
前記第1の複数の構造的な特徴と、前記第2の複数の構造的な特徴とは異なっており、
前記第1の所定の狭い帯域の幅と前記第2の所定の狭い帯域の幅との相違は所定の幅より小さく
前記第2角度と前記第1角度とは少なくとも30度異なっていることを特徴とするフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁(EM)放射をフィルタリングするフィルタ、およびこれを設計し製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、一つまたは複数の特定の狭い光学周波数をフィルタリングすることができ、選択的に電磁放射の他の周波数に対して透明である障壁に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁放射フィルタは周知であり、多くの実用的な用途を有する。このような用途の一つは、レーザ光をフィルタリングしてその影響から個人を保護することである。周知のように、目がレーザ光に曝されると、深刻な障害が生じうる。これは主に、入射する光子を吸収し、生きている目の組織が加熱することに起因する。潜在的な障害は、レーザの強度、すなわち所与の表面積に当たるレーザからの一秒当たりのエネルギーと、露光の持続時間とによって決まる。既知の二つの種類のレーザは、連続波(CW)レーザとパルスレーザである。CWレーザはその出力に基づいて分類される一方、パルスレーザは、パルス当たりの全体エネルギーに基づいて分類される。
【0003】
安価で強力なレーザシステムの増加のために、日々の実際の状況において、レーザ光に対する保護の重要度が増大している。近年、特定のレーザ製品は安く製造できるようになり、商業的に容易に入手可能となっている。これらの製品は、いわゆる「レーザペン」または「レーザ光ポインタ」を含む。英国では、最大5ミリワット(mW)の出力を有するレーザ光ポインタを製造し販売することしかできないように法規が定められている。しかしながら、これらの法規は世界中で一致しているものではなく、一部の国では、1ワットのレーザ光ポインタを安く購入することができる。これは、英国で入手できる最も強力なレーザ光ポインタの有効面積の最大4倍の有効面積があり、3マイルの距離からでも人の目の角膜を傷つけることができる。不幸なことに、車両のドライバーや飛行中の航空機にレーザ光ポインタを故意に向ける事件が増加している。これらの事件は、極めて深刻な安全上の帰結をもたらしうる。レーザ光ポインタには、大半の車両や航空機を損傷したり破壊したりるする能力はないものの、道路、飛行経路または滑走路の十分な視認を維持するというドライバー、パイロットまたはクルーの能力を邪魔することが可能であるし、実際に邪魔することが多い。
【0004】
離着陸中の航空機にレーザ光ポインタが向けられるときの潜在的な安全上の帰結は、特に深刻である。
【0005】
地上でのレーザポインタの使用による影響を受けるには、航空機は比較的低高度である必要がある。この理由のため、着陸の進入段階の間、航空機は最も攻撃を受けやすい、この段階の間、航空機は通常約6000フィートを飛行しており、滑走路に合わせて毎分約700フィートの比較的安定した比率で降下する。このことが、航空機をレーザポインタで狙い易い物体にしている。同時に、航空機に搭乗しているクルーは、滑走路への着陸の成功に向けて、航空機の速度、降下速度および機首方位の制御ができるように航空機の外側の外部刺激にますます集中している。このため、クルーはレーザビームポインタによる影響を受けやすくなっており、深刻な目の障害を受ける可能性さえある。クルーが「有視界着地」または「非精密着地」を実行している場合は、特にそうである。このような着陸段階の間、航空機クルーは、進入および着陸を完了するために、主に外部刺激を用いて操縦している。
【0006】
進入段階のいかなるステージにおいてもレーザ光がクルーに向けられた場合、クルーが傷つけられ、滑走路の視認を瞬間的に失い、または干渉を受けない安全な着陸が不可能であると決断するかもしれない。航空機および搭乗者の安全を危険にさらす事象を回避するために、この状況は「着陸復行」または「アボート」につながりうる。「着陸復行」および関連する手順は、フライトクルーおよび航空管制の作業負荷の増加をもたらし、安全に対する他の脅威を引き起こしうる。ヨーロッパなどで見られる混雑した空港では、着陸復行の手順は高い作業負荷を生じさせ、比較的危険な状況を生じさせる。
【0007】
航空機にポータブルレーザを当てることは、航空機オペレーションの効率およびコストに影響を与えうる。着陸復行は、航空機がエンジンをスプールして上昇しつつ離陸のスラスト設定を伴い、続いて最初の進入点に戻り離陸をもう一度試みる。この全ては10分から20分間かかることがある。このような操作の間、747−400型航空機は、最大で4トンの追加の燃料を燃焼する可能性があり、これは現在の価格で約6000米ドルにもなる。乗客の乗り継ぎや航空機の利用の失敗などの他の要因が、着陸復行をより費用のかかるものにする。
【0008】
航空機に対する多くの安全規則およびシステムが既に存在している。不幸なことに、安全性を高めるために導入された一部のシステムおよび手続は、航空機を狙っているレーザポインタの潜在的な重大性を実際には増大させることがある。例えば、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムの使用(かつては軍用機でのみ使用されていた高価な技術)は、日々の旅客機オペレーションでの使い道が増加している。このシステムは、パイロットの前方のガラスを備え、その上にフライトパラメータと滑走路に対する航空機の位置とが表示される。このシステムにより、フライトクルーは、外部刺激を観察できると同時に、計器パネルを見下ろす必要なしに、(他のパラメータの中で特に)航空機の高度と速度とを観察することができる。この結果、進入および着陸段階の間中、フライトクルーはフロントガラスの方を向いて外を見ることになる。このため、航空機のフロントガラスを狙うあらゆるレーザポイントデバイスは、十中八九、クルーに悪影響をもたらすことになる。
【0009】
ユーザの安全を保護するために、レーザ光をフィルタで除去する多数の既知の解決策が存在する。例えば、レーザ保護システム(LPS)が世界中の研究所で日常的に使用されている。それらは典型的に、レーザ放射の影響を受ける人が装着するゴーグル、保護めがね、またはコンタクトレンズの形態で提供される。窓の形態でも提供され、周囲のものを保護するためにレーザ設置場所の周りに配置される。これらのフィルタは、通常、低強度のレーザに対してはポリマーを用いて作成され、高熱密度のレーザに対してはガラスを用いて作成される。
【0010】
現在利用可能なLPSに関連していくつかの欠点が存在する。それらは通常、光の単一のバンドに対して機能し、単一種類のレーザのみに対する保護を提供する。加えて、それらは十分に狭帯域ではなく、必要以上の光を遮断してしまい、ユーザの全体的な視界を歪ませてしまう。また、LPSは普通は着色されており、視界に人工的に色を付ける。したがって、常にLPSを使用できるわけではない。例えば、夜間に航空機を操縦している間に航空機パイロットが赤色のゴーグルを着用するのは安全ではない。また、ガラスベースのフィルタは重く、人が着用するには快適ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ユーザがフィルタリングを望まない他の波長の電磁放射の伝搬を歪ませることなく、十分に精密であり、かつ、多くの実用的な目的に対して焦点が合わされた電磁放射の濾過を提供する既知のシステムは存在しない。さらに、既存のフィルタの多くは実用的でなく、および/または広範囲に利用するには高価すぎる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様は、添付の独立項に規定されている。
【0013】
電磁放射を選択的にフィルタリングするフィルタが提供される。フィルタは、第1メタマテリアルと第2メタマテリアルを含む。各メタマテリアルは、予め定められた波長よりも小さいサイズを有する複数の構造的な特徴を含む。予め定められた波長の電磁放射は、注意深く選択された構造的な特徴のために、メタマテリアルによって遮断される。構造的な特徴は、誘電体層の厚さであってもよい。メタマテリアルは、複数の材料要素を含んでもよく、構造的な特徴は、材料要素のサイズであってもよい。材料要素は、金属形状、フォトニック結晶、ポリマー材料要素または液晶のいずれかを含んでもよい。メタマテリアルは、ナノスケールの材料要素から製造されたナノ構造を有する材料を含んでもよい。フィルタは、遮断するように構成された選択された周波数(単数または複数)を除くあらゆる周波数で光学的に透明であってもよい。したがって、意図的に遮断された周波数(例えば、ユーザに害を及ぼしうる特定のレーザ周波数)を除き、ユーザの視界を歪めることはない。フィルタは、単一の狭い周波数バンドを遮断してもよいし、複数の区別できる狭い周波数バンドを遮断してもよい。メタマテリアルを組み合わせることによって、フィルタは、ある角度範囲にわたって放射の選択された周波数(単数または複数)を遮断してもよい。
【0014】
以下では、図面に関して実施形態および態様が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アレイの拡大図と単位セルのさらなる拡大図とを含む、ナノスケールの単位セルのアレイを含むメタマテリアルを備えるフィルタを示す図である。
図2a】均質な誘電ホスト媒体によって囲まれたプラズモン球形ナノ粒子を含む、メタマテリアルフィルタ用の単位セルを示す図である。
図2b】立方体形状を有する、図2aに示した単位セル用の代替的なナノ粒子を示す図である。
図2c】らせん状または渦状である別の代替的なナノ粒子形状を示す図である。
図2d】環状である別の代替的なナノ粒子形状を示す図である。
図2e】上下に第1および第2の円錐状突起を有するとともに側面に四つの半環部を有する球体である、別の代替的なナノ粒子形状を示す図である。
図2f】三次元の十字形またはX字形である別の代替的なナノ粒子形状を示す図である。
図2g】三角形の断面を有する別の代替的なナノ粒子形状を示す図である。
図3図2のナノ粒子の表面の電界分布のシミュレーションを示す図である。
図4a図2のナノ粒子の巨視的な誘電率の虚数部とホスト媒体の背景誘電率との関係を示す図である。
図4b】特定周波数における電磁放射の吸収強度に対する、球形ナノ粒子の直径(D)の影響を示す図である。
図5a】ナノ粒子の二次元周期が30nmである、球形ナノ粒子の層を含むメタマテリアルフィルタを示す図である。
図5b】二次元周期が45nmである、図5aのフィルタを示す図である。
図5c図5aのフィルタの側面図である。
図5d図5bのフィルタの側面図である。
図6】それぞれ第1および第2の屈折率を持つ第1および第2材料の層を有するブラッグミラーフィルタ用のブラッグ反射ジオメトリを示す図である。
図7図6のブラッグミラー内の第2材料の屈折率nと、ブラッグミラーによって反射される電磁放射の波長との関係を示す図である。
図8】複数のコレステリック液晶とそれらの配向子フィールドの向きとを示す図である。
図9a】伝搬軸に沿って180度回転させたコレステリック液晶を示す図である。
図9b図9aの液晶を、伝搬方向で液晶に入射する三つの異なる電磁波周波数を含む入射光とともに示す図である。
図10】それぞれ電磁放射の第1および第2の周波数を反射するコレステリック液晶の第1および第2の層を有するフィルタによって実現される反射率レベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概説
概説では、特定の所望の波長または所望の範囲の波長の電磁放射をフィルタで除去するフィルタが提供される。
【0017】
例えば、一つまたは複数の所定の狭い帯域の波長を除き、可視の電磁スペクトル内の全ての入射光に対して選択的に透明であってもよいフィルタが提供される。例えば、光学フィルタは、赤色光、緑色光、または赤色光と緑色光に対してのみ不透過であってもよい。フィルタが選択的に不透過とされる波長(単数または複数)は、ナノ構造のメタマテリアルなどの注意深く設計されたメタマテリアルを用いて、フィルタの内部で同時に減衰することができる。代替的に、ブラッグミラー、または液晶で形成されたらせんを用いてフィルタリングを実装してもよい。
【0018】
好適には、フィルム形態の光学フィルタが提供される。フロントガラス、窓、窓枠または光学レンズなどのあらゆる光学的に透明な面に貼り付けることができるように、薄いフィルムが接着性であってもよい。構造的な特徴の独自の配置は薄膜構造の内部に構成されており、所定の波長で作動するレーザなどの集中光源から、フィルタの背後に位置する人(単数または複数)を保護する。こうしてに、フィルタは、選択された所定の波長のレーザ放射からユーザを受動的に保護する。
【0019】
詳細な説明
米国では、連邦航空局(FAA)によって航空機用のレーザの安全範囲が定められており、空港からの異なる距離において最大限許容されるレーザ強度の要件が課されている。滑走路から約7NMおよび2000フィードまでの高度について、安全範囲はレーザフリーでなければならない。すなわち、最大強度は50nW/cmである。重大なフライトゾーンは最大8000’まで広がり、許容される強度は5μW/cmである。このゾーンを越えると、センシティブフライトゾーンとなり、最大強度は100μW/cmである。しかしながら、これらのガイドラインは、付近のレーザ動作がFAAに通知されているときに、レーザのユーザが自発的に従うものに過ぎない。これらのガイドラインは常に忠実に守られているわけではない。背景技術で上述したように、このようなガイドラインが意図的に無視されることが多くなってきている。本明細書で説明するフィルタを使用して、このようなガイドラインが無視されたときにレーザにより引き起こされる損傷から個人を保護することができる。
【0020】
特定のフィルタの実施形態について以下で詳細に説明する。一般論として、本明細書で提供される解決策は、通常は数ナノメートルから数ミリメートルの範囲の厚さを持つ、比較的薄いフィルムの形態で提供可能である。フィルタは、航空機の正面のフロントガラスなどの、光学的に透明な面の内側または外側に貼付することができる。接着剤を使用してフロントガラスにフィルムを貼付することができる。自動接着性のある接着層をフィルム自体が備えていてもよいし、または任意の適切な別の接着剤が使用されてもよい。フィルムは、耐久性があり洗浄および保守が容易であるように設計される。さらに、気温変化、および熱と太陽放射のレベルの変化などの異なる環境条件においてその機械的特性および光学的特性を維持することができる。
【0021】
フィルムは非常に薄いが、異なる材料の層を備えてもよいし、二つ以上の材料が周期的に繰り返されてもよい。したがって、複数帯域の性能を持つようにフィルムを設計することができる。一つまたは複数の狭帯域の波長のレーザ光からの保護をユーザに提供するように、フィルム内の層および/または成分を選択することができる。フィルムは、約5ミリワットから最大2ワット(クラスIVレーザ)の出力を有するレーザからユーザを保護することができ、一旦展開されると、高出力レーザから保護する能力を有している。フィルムによる濾過用に選択されたものを除き、光の全ての他の可視波長に対して、フィルムは、あらゆる偏光および入射角で光学的に透明である。したがって、レーザ光の特定の波長をフィルタで除去するために使用されているとき、「通常の」光に対するユーザの視覚を歪ませることはない。
【0022】
フィルタは、動作のために外部電源またはアクティブな制御システムを必要としない受動的なシステムである。例えばフロントガラスへの接着によって一旦フィルタが設置されると、保守の必要なしに、または運転コストが生じることなく、長期間にわたり機能し続けることができる。
【0023】
以下でさらに詳細に述べるように、様々な異なる材料を使用してフィルタを製造することができる。液晶材料、ポリマー、ナノコンポジットまたはナノ構造のメタマテリアル、フォトニック結晶成分の一部または全てを使用して、フィルタを製造することができる。100%再生可能な材料から製造することができるので、環境に優しい解決策である。
【0024】
一実施形態によると、フィルタはフィルムの形態で提供される。フィルムは、メタマテリアル金属ナノ粒子などのメタマテリアル成分を含んでもよい。
【0025】
メタマテリアルは、負の屈折率や電磁クローキングなどの、自然には発生しない電磁気的特性を実現可能な人工的に作成された材料である。メタマテリアルの理論的な特性は1960年代に最初に記載されているが、過去10−15年において、この種の材料の設計、エンジニアリングおよび製造が著しく発展した。
【0026】
メタマテリアルの一例は、多数の単位セルを含む。すなわち、各々が動作の波長よりもはるかに小さいサイズを持つ複数の個々の要素(「メタアトム」と称されることもある)を含む。これらの単位セルは、金属または誘電体などの従来の材料から微視的に構築される。しかしながら、その正確な形状、ジオメトリ、サイズ、向き、および配置が、共振を作り出したり、巨視的な誘電率および透磁率の異常な値など、従来と異なるかたちで光に巨視的な影響を与えることができる。これらの個々の要素またはメタアトムは、所定の波長よりも大きくないサイズを有する「構造要素」または「材料要素」とみなすことができる。
【0027】
入手可能なメタマテリアルのいくつかの例は、負のインデックスのメタマテリアル、キラルメタマテリアル、プラズモンメタマテリアル、フォトニックメタマテリアルなどである。これらのサブ波長(sub-wavelength)の特徴のために、マイクロ波周波数で動作するメタマテリアルは、典型的に数ミリメートルの単位セルサイズを有する一方、スペクトルの可視部で動作するメタマテリアルは、典型的に数ナノメートルの単位セルサイズを有する。メタマテリアルは、本質的に共振する。すなわち、特定の狭い周波数範囲で光を強く吸収することができる。
【0028】
従来の材料では、透磁率および誘電率などの電磁パラメータは、材料を構成する原子または分子の、その中を通過している電磁波に対する反応から生じる。メタマテリアルの場合、これらの電磁気的特性は、原子レベルまたは分子レベルでは決定されない。代わりに、これらの特性は、メタマテリアルを構成するより小さな物体の集合などの、サブ波長の構造要素の選択および構造によって決定される。このような構造要素の集合およびその構造は、従来の材料のように原子レベルで「見える」ことはないが、それにもかかわらず、メタマテリアルは、あたかも従来の材料を通過しているかのように、電磁波がメタマテリアルを通過するように設計することができる。さらに、メタマテリアルの特性は、このような小さい(ナノスケールの)物体の組成および構造から決定することができるので、透磁率や誘電率などのメタマテリアルの電磁気的特性を、非常に小さな規模で正確に調整することができる。
【0029】
メタマテリアルの別の形態は複数の誘電体層を含み、誘電体層の厚さは、関与する波長とよりも大きくない。この層は、例えば異なる屈折率を有する異なる材料で形成されてもよい。このタイプのメタマテリアルでは、層の厚さはサブ波長である。すなわち、多層構造の電磁気的特性を決定するサブ波長の構造的な特徴は、層の厚さである。このタイプのメタマテリアルの一例は、ブラッグ(Bragg)リフレクタまたはブラッグミラーなどのブラッグ構造である。各層を従来の材料で形成する一方、サブ波長のメタ要素またはメタアトムを含むメタマテリアル構造と同様に光をフィルタリングするように、正確な屈折率の値および厚さを調整することができる。すなわち、多層構造の設計を通して獲得され、個々の材料の特性を通して得られるのではない現象である。
【0030】
サブ波長の寸法を有する複数の構造的な特徴を含むメタマテリアルが提供される。実施形態では、サブ波長の構造的な特徴はメタアトム(例えば、サブ波長の直径を持つナノ粒子)であり、他の実施形態では、構造的特徴は、ブラッグリフレクタにおける誘電体層の厚さである。
【0031】
フィルタがメタマテリアル要素(またはナノ粒子)を含むフィルムを備える一実施形態によると、フィルタ内のメタマテリアル要素(またはナノ粒子)は単位セル内に配置され、各単位セルは一つのナノ粒子と周囲のホスト媒体とを備える。
【0032】
単位セル(構造要素)内部のメタマテリアルナノ粒子は、銀、金および/またはアルミナ、または光周波数においてプラズモン共鳴を支持する任意の他の金属から作られる。それらは、球形、立方体、円柱形(cylindrical)、楕円体、または棒状の形状であり、例えば1−50nmの間のナノスケールサイズである。ホスト媒体は、比誘電率が最大で5である従来の低損失誘電体である。ホスト媒体は、ナノ粒子の支持構造として機能するとともに、強度および共振周波数を調整可能なパラメータでもある。これは、密度、厚さ、ジオメトリなどの適切に選択された物理的特性を持つ適切なホスト材料を選択することによって、フィルタ全体の光学的特性をそれに応じて制御できることを意味する。
【0033】
選択的に、フィルタは、サブ波長の厚さの誘電体層とメタアトムの層の両方を含む。すなわち、別の実施形態では、フィルタは、ナノ粒子アレイの複数の層を含み、各アレイ/層はナノ粒子の異なる配置からなる。例えば、各層は、異なるホスト媒体、異なる大きさのナノ粒子、または異なる距離だけ離間したナノ粒子を有していてもよい。加えて、ナノ粒子アレイ間の層のいくつかは、ブラッグ型の構造、すなわちナノ粒子が存在しない交互の誘電体層であってももよい、これは、ナノ粒子吸収の等方性のフィルタリング応答を持つブラッグリフレクタのバンドギャップ性能を提供する融合構造である。
【0034】
メタ要素を備えるメタマテリアル構造を構築するために、メタ要素の単位セルは、少なくとも二次元、好ましくは三次元(x,y,z)で周期的に層の中に配置される。各メタマテリアル層は、三番目の次元(z)では最初の二次元(x,y)よりもかなり短くてもよい。それぞれ異なる電磁気的特性を持つ層を、三番目の次元で互いの上部に重ねて、フィルタのマルチバンド性能を実現することができる。積み重ねられたメタマテリアル層の上部および/または下部に非メタマテリアル層を追加して、接着特性、耐引っかき構造強度および/または温度分離をシステムに提供してもよい。
【0035】
上述したように、一つまたは複数の選択された狭い帯域のレーザ波長をフィルタで除去するように、フィルタを設計し製造することができる。特定のフィルムについての所望の濾過波長にしたがって、メタマテリアルの構造要素の物理的特性(ナノ粒子のサイズおよび形状、周囲の媒体、または層の相対的厚さと屈折率など)を選択することができる。詳細には、誘電率及び透磁率の特定の所望の値を提供するように、メタマテリアルナノ粒子、またはブラッグ型の層を選択し調整することができる。これらは、その中を通過する電磁放射をフィルムがどのように扱うかを決定する電磁気的特性である。
【0036】
図1は、航空機コックピット上の、メタ要素を備える薄膜フィルタ10の取り得る実装を示す。フィルタ10は、保護層12と、メタマテリアル層14と、コックピットウインドウ18の内側に直接貼付される接着層16と、を備える。この例では、銀から作られたナノ球形24のアレイ20内に、ナノ粒子22が設けられている。
【0037】
図1から分かるように、ナノ粒子22のアレイ20がフィルタ10内の層14を構成している。層14は、単一のメタマテリアルであってもよい。アレイ20内のナノ粒子22は、単一の狭い帯域の電磁周波数を遮断するように構成されている。または、代替的に、層14がいくつかの積み重ねられたメタマテリアルを備えてもよい。この場合、各メタマテリアルがそれぞれ異なる帯域の電磁周波数を遮断する。
【0038】
コックピットウインドウの内側または別の面にフィルタ10が貼付されるとき、保護層12は障壁として機能するように形成されている。保護層12は、フィルタ10に構造的強度を付加してもよいし、および/または使用中にフィルタ10に対する損傷を最小化するような耐引っかき特性を有していてもよい。
【0039】
層14の外側に接着層16が設けられ、コックピットウインドウまたは他の面にフィルタを貼付できるようにしている。接着層16と保護層12は、フィルタを通る電磁放射の透過を歪ませないように、両方とも光学的に透明でなければならない。
【0040】
図2aは、メタマテリアル層14内のナノ粒子22を含む単位セルをさらに拡大して示す。ナノ粒子22は、その中心に、誘電媒体26によって囲まれている金属球24を備える。図2bないし図2gは、単位セルの中心にあるメタマテリアル要素の代替的な形状を示している。選択される形状は、フィルタの必要な用途によって決められてよいし、または、当業者には分かるような任意の適切な基準によって決められてもよい。
【0041】
図3は、球24の共振周波数と等しい周波数を持つ入射電磁波に対する、図1に示した二次元の周期的アレイ20の一部である銀球24の表面上の電界分布の、定常状態に達した後のシミュレーション結果を示す。波は平面内、すなわち周期の表面に沿って伝搬する。図2aに示したもののような単一の球形金属粒子に対して、電場振幅は次式で与えられる。
ここで、αは球の半径であり、εは周波数が一定とみなすことができるホスト媒体の比誘電率であり、従来材料の誘電率である1よりも大きい値をとる。
【0042】
球体24の誘電率はε(ω)で表され、光周波数で通常は負である。これは、波周波数ωに強く依存し、典型的にDrude型の依存を示す。所与の材料に対して、ε(ω)は固定であり、背景誘電率を調整することによって、周波数が共振する場所を調節することができる。この例では、共振、故に最大の吸収の発生する点は、周波数ωであり、次式が成り立つ。
【0043】
図4aは、図1の銀のナノ粒子のアレイ20の巨視的な誘電率の虚数部が、ホスト媒体26の背景誘電率に基づき移動する様子を示す図である。
【0044】
図4bは、アレイ20による電磁波の吸収強度を、わずかに異なるサイズのナノ球体の使用によって制御できることを示す図である。この例では、球体24の直径(D)を二倍にすると、吸収が約40%増加する。
【0045】
メタマテリアル層(単数または複数)の誘電率および透磁率は、メタマテリアルに入射する光の反射係数および透過係数から引き出すことができる。実験的にまたはメタマテリアル層のシミュレーションによって、これらを評価することができる。メタマテリアルの厚さをdとし、入射光が波数ベクトルkを有していると仮定すると、誘電率および透磁率の関数は次式のようになる。
ここで、nは実効屈折率であり、Zはメタマテリアルのインピーダンスであり、mはメタマテリアルの厚さによって決まる整数であり、rは反射係数であり、
は正規化された反射係数である。「Re」は実効屈折率の実数部であり、「Im」は虚数部を表す。
【0046】
図5aないし図5dは、球体ナノ粒子からなるメタマテリアルベースのフィルタ50の例を示す。ナノ粒子は、長方形または正方形の格子上の二次元平面内に周期的に配置される。続いて、異なるナノ粒子の層がレーザの伝搬方向(すなわち、z方向)に沿って積み重ねられる。各層52は、それぞれ異なる誘電率を持つ異なる背景ホスト媒体を備えてもよい。ここでは、各層は約200の粒子を示している。これは、通常は各方向に沿ってはるかに長く広がるフィルタ50の上面の小区画のみである可能性がある。加えて、ナノ粒子は、球体ではない別の形状を有していてもよい。可能性のあるナノ粒子の形状の一部の例が、図2aないし図2gに示されている。
【0047】
別の実施形態によると、フォトニック結晶の積層レイヤを備えるフィルムの形態の光学フィルタが提供される。
【0048】
フォトニック結晶は、メタマテリアルの特別なケースとみなすことができる。フォトニック結晶は、光学的ナノ構造の周期的な配置であり、典型的に、誘電体またはメタロ−誘電体材料(例えば、棒状である)と周囲の媒体とから構成される。フォトニック結晶単位セルは、通常、それらが動作する電磁放射の波長と同一のサイズであるか、それよりもわずかに小さい。一部のフォトニック結晶は自然界で発見されているが、実験的にそれらを製造可能となった1980年代から、フォトニック結晶は広く研究されてきた。
【0049】
単位セルが周期的に繰り返されるときに形成される格子の周期性から生じるバンドギャップを制御することによって、フォトニック結晶フィルタは機能する。格子の周期、およびロッドの断面サイズを調節することによって、吸収される正確な周波数が調整される。対象とする周波数における吸収の帯域幅は、屈折のコントラスト、すなわちロッドの屈折率と周囲の媒体の屈折率の比率によって調整される。第3の(z)次元におけるフォトニック結晶格子の厚さを増加させることで、吸収の強度が制御される。
【0050】
フィルタ内のフォトニック結晶の各層の単位セルは、正方形または六角形(ハニカム)であり、空気で囲まれた中心の誘電体ロッドで構成される。ロッドは、正方形、円柱形、または他の断面を有してもよい。ロッドは、(例えば、GaAs材料の使用によって達成される)約10の典型的な比誘電率と、約0.2*α(αは層の周期)の典型的な半径を有している。このため、単位セルは、周期αで(ロッドの軸と直交する)二次元で周期的に繰り返される。第3の次元では、複数の同一の層を積み重ねてもよいし、または、異なる層を積み重ねて、複数の周波数および複数の偏光に対する吸収を実現してもよい。
【0051】
上述したように、別の実施形態によると、フィルムを備えるフィルタが提供される。フィルムは、例えばポリマー材料のスピンコーティングによって製造され、ブラッグリフレクタまたはブラッグミラーなどのブラッグ構造を組み立てることができる、層状の媒体を備える。フィルムは、(光波長に対するナノメータスケールの厚さなどの)サブ波長の厚さを持つ二つ以上の材料を周期的に交互にした層から構成される。フィルムの各層によって、特定の周波数の入射電磁波の部分反射が行われる。ミラーの光学的厚さが、特定周波数の入射電磁波の波長よりも少なくとも5倍長い場合、建設的干渉が発生し、入射周波数の周りの狭い範囲の波長が反射される。
【0052】
図6は、ブラッグミラー60上への入射光の光線経路を示す。
【0053】
ブラッグミラー60は、それぞれ屈折率n、nの層からなる多層システムから作成される。三次元フィルムのz次元内で屈折率が交互の層にされる。この構造は、図6に示すように、周期「p」で軸に沿って周期的である。この周期は、フィルムの「ピッチ」として知られている。フィルム構造は、有限の帯域幅を持つ単一の周波数でリフレクタとして機能する。屈折率n、nの値は、約1.5である。それらのコントラスト(または比率)が、フィルムによって与えられる反射の帯域幅を制御する。典型的な屈折率の定数は、1.7/1.5であり、帯域幅は〜2−5%である。レーザ放射を伝搬する方向では、反射率の大きさが構造の全長によって制御される一方で、屈折率のピッチおよび絶対値が、対象とする正確な周波数を制御する。ブラッグミラーの複数のセットを積層することによって、マルチバンド機能を実現することができる。
【0054】
ブラッグミラー60の反射率Rは、おおよそ次式によって与えられる。
ここで、n、nは、ブラッグミラー60内の二つの交互の材料の屈折率であり、n、nは、それぞれ、起点媒体と終端媒体の屈折率である。図6に示すように透明なガラス表面の内側にフィルムが貼付されている場合、起点媒体はガラスであり、終端媒体は空気である。Nは、ミラー60を含む周期的な層の数である。
【0055】
ブラッグミラー60の帯域幅Δλは、次式で与えられる。
ここで、λは、反射された放射の中心波長であり、n、nは、前と同様に、ブラッグ層の交互の屈折率である。ブラッグミラー60の反射率を大きくするために、層の数を増やすことができ、屈折率のコントラストを小さくすることによって、動作帯域幅を狭くすることができる。
【0056】
様々な屈折率のコントラストに対する波長の関数として、ブラッグミラー60の反射率の一例が図7に示されている。ここで、各ペアの第1層の屈折率は1.50で一定であり、各連続ペアの第2層の屈折率が変更されている。
【0057】
有利な実施形態では、全方向に、すなわち広範囲の角度にわたり、光をフィルタリングするフィルタが提供される。これは、非常に狭い範囲の角度にわたり機能する従来のブラッグミラーの大きな制限である。実施形態では、二つ以上のメタマテリアルを組み合わせることによってこれが実現される。例えば、第1メタマテリアルは、第1の角度で受け取る第1波長の放射を反射し、第2メタマテリアルは、第2の角度で受け取る第1波長を反射し、第3メタマテリアルは、第3の角度で受け取る第1波長を反射する。三つのこのようなメタマテリアルを組み合わせることによって、第1波長の入射放射に対して、擬似的な広角フィルタが提供される。
【0058】
さらなる実施形態では、メタマテリアルは、全方向に設計されるか、および/または光の複数の波長を遮断するように設計される。一例では、フィルタの全体の透明度を維持するために、目標の波長である緑(532nm)、青(445nm)、赤(635nm)は、各波長の周りに5−10nmのオーダーのバンドギャップを必要とする。しかしながら、層の厚さおよび屈折率を調節することによって、同様に他の波長で機能するように、フィルタを調整することができる。フォトニック結晶ミラー構造などの構造を、複数のサブミラーで構成されるように特別に設計することによって、構造の複数波長および/または複数角度の機能が実現される。各サブミラーは、特定の波長範囲および特定の角度範囲(典型的に、+/−30度)で機能する。すなわち、一例では、全ての入射角をカバーするために、各波長について三つのサブミラーが設けられ、全方向の性能のために互いに積み重ねられる。実施形態では、屈折率が増加すると全方向の性能が強化されるので、MoOおよびTiOなどの高屈折率の材料が使用される。さらに別の実施形態では、複数のバンドギャップの外側で光の透過を強化するために、これらの複数の積み重ねられた層の後にさらなる層が追加される。例えば、透過を最適化するために、三つ(またはそれ以上)の反射防止コーティング層を追加してもよい。
【0059】
したがって、第1のフィルタリングを提供するように構成された第1メタマテリアルと、第2のフィルタリングを提供するように構成された第2メタマテリアルとを備えるフィルタが提供される。第1/第2フィルタリングは、波長に依存するフィルタリングおよび/または入射角に依存するフィルタリングであってもよい。メタマテリアルの性能を重ね合わせることによって、擬似的な全方向フィルタリングを提供してもよい。同様に、マルチバンドフィルタリングを提供してもよい。
【0060】
別の実施形態によると、光学フィルタは、コレステリック液晶を利用するフィルムを備える。液晶は、液体と結晶の間の物質状態である。液晶内の分子は、液体内のようにゆっくりと流れることができるが、同時に、結晶内のように好ましい配向を維持する。液晶は、光の特定の偏光を遮断したり透過したりするよう電気的に制御することができるので、ディスプレイやモニタで日常的に使用されている。
【0061】
液晶は、本質的に異方性であり、配向子フィールドの配向(すなわち、図8に示すように、液晶の細長い分子80が平均して向く方向に沿った好適な軸)によって説明することができる。この軸方向は、通常、「配向子」と呼ばれる無次元単位ベクトルnを用いて定義される。
【0062】
特に興味のあるのは、コレステリック液晶、すなわち、配向子フィールド(分子軸の配向)が一次元において空間の関数として回転する液晶である。その次元がz軸に沿う場合、配向子nはzの関数である(すなわち、n=n(z))。したがって、液晶はらせん構造を形成する。各液晶のらせん構造のピッチは、360度回転するときの、上記次元に沿った液晶の開始点と終了点の間の距離によって決まる。
【0063】
図9a、図9bは、180度回転したコレステリック液晶の一例を示す。したがって、図9a、図9bにおける液晶の開始点と終了点の間の差分は、液晶の半分のピッチである。一つまたは複数の狭いバンドのレーザ光をフィルタで除去する光学フィルタについて、らせん構造の典型的なピッチ(p)は、100〜1000ナノメートル(nm)でなければならない。
【0064】
実験室枠に対する液晶の正確な配向子の向きは、配向子の次式の角度の回転によって決定することができる。
これは、電磁波の伝搬距離zの関数として変化する。液晶の原点における誘電率テンソルは、以下の形をとる。
続いて、液晶に沿って波が距離zを伝搬した後の誘電率は、次式のようになる。
【0065】
図9a、図9bにおいて、配向子はx−y平面の内部を回転する一方、液晶はz方向に展開する(したがってピッチを有する)。
【0066】
図9aは、コレステリック液晶構造を示す。液晶(暗色付きの楕円要素として示す)は、らせん軸と一致する伝搬の(z)軸の周りに回転する。図9bでは、複数の波長の光照射が、その回転軸(図示のz軸)周りで構造に入射する様子が示されている。この例では、緑色光がフィルタで除去されるが、他の光の波長は液晶構造を通り抜ける。
【0067】
コレステリック液晶から光学フィルタを形成するために、図9bにおいてレーザの主伝搬方向と一致するらせん軸に沿って、らせん構造が数回(5〜10回またはそれ以上)繰り返される。構造に衝突する電磁放射の偏光フィールドは、ピッチの値に応じて特定の周波数で反射される。反射の強度は、ピッチが繰り返される回数(らせんの全長)によって制御される。異なるピッチを持つ液晶の層を複数積み重ねることによって、図10に示すように、複数の周波数および複数の偏光を反射することができる。ここでは、それぞれ約1の反射率(R)を持つ二つの異なる層が、二つのそれぞれ異なる周波数の電磁放射を反射する様子が示されている。
【0068】
したがって、上述した実施形態のそれぞれでは、単位セルまたは液晶などの材料要素の複数の積み重ねられた層を備えることができるフィルムが提供される。レーザ光などの電磁放射の特定の選択された波長をフィルタで除去するが他の波長は歪みなしでフィルムを通過させるために、それらの材料要素の形状、組成または配置を、フィルムの挙動を変更するように意図的に設計することができる。フィルタは、ナノ粒子、ブラッグリフレクタ、および/または液晶を備えてもよい。それぞれ異なるフィルタリング能力を有する複数のメタマテリアルの層を積み重ねてフィルムを形成し、二つ以上のバンドの波長をフィルムによって除去することができるし、全方向のフィルタリングを実現することもできる。代替的に、フィルタは、それぞれ同一の電磁気的特性を有する複数のメタマテリアルを含み、一つのバンドの波長のみをフィルタで取り除くようにフィルムを設計してもよい。
【0069】
上述した各実施形態では、ナノスケールでの材料のエンジニアリングの結果として、フィルタが提供される。当業者であれば分かるように、可視光の波長は約500nmである。レーザ、他の光、または電磁放射の特定の選択された周波数をフィルタで除くことができる光操作材料を提供するために、放射の波長よりも小さい(または、せいぜい同じサイズの)材料要素などの構造要素を提供する必要がある。本明細書で与えられる解決策では、それらの材料要素は、好ましくは1〜100nmのオーダーのサイズである。
【0070】
上述した構造要素から形成される複数のメタマテリアルを、積み重ねるか、または多数の異なる方法で組み合わせることができる。例えば、層の物理的気相成長法、スパッタ蒸着、ポリマー注入、化学気相成長法、またはスピンコーティングを使用してもよい。一例として、スピンコーティング法は、四つの異なるステージで構成される。第1に、ノズルを通して平坦面または基板上に材料(例えばポリマー)が注がれる。第2に、表面が高速で回転を開始し、最終速度まで加速する。第3に、表面が回転している間、材料が表面積にわたって均一に広がり、遠心力および粘性力によって支配される。最後に、必要な値まで厚さを調整するために、回転する材料の上部に溶剤が適用される。フィルタの各層についてこのプロセスが繰り返される。
【0071】
一実施形態では、メタマテリアルは、ゾル−ゲル法によって製造される。すなわち、ブラッグベースのメタマテリアルを製造する別の方法は、ゾル−ゲル法である。ゾル−ゲル法は、サイズ分配、形態、多孔性、形状、および表面積を含む制御可能な特性をナノ構造のフィルムに合わせる革新的な戦略を提供する、洗練された低コストで強力なアプローチである。ゾル−ゲル法は、異なる組成を持つ複数成分の酸化物材料の合成に代替的なルートを提供する化学的な方法であり、ヘテロ金属の接合の分布は極めて一様である。ゾル−ゲル法は、先行核の化学的組成、添加物の付加、濃度、ディップコーティング角度および速度を含む合成条件を単に変更することによって、フィルム層の厚さおよび屈折率の選択を可能にする独自の技術である。ゾル−ゲル技術により、異なるサイズおよび形状を持つ様々な基板上に薄膜コーティングを製造することが可能になる。典型的に二つの異なる材料(異なる屈折率を持つ)が交互になる層からなる我々のデバイスを作成するために、ブラッグ設計に基づき光を遮断するために必要な対応する屈折率を有する二つの混合物が準備される。続いて、二つの混合物のうち一つの層を(透明なフレキシブル基板であってもよい)基板上に堆積し、固まるまで乾燥または焼成させる。続いて、第2層を堆積し、固まるまで乾燥させる。必要な数の層(100より多くてもよい)に達するまでこの手順が繰り返される。プロセスの最後で、(元の二つとは異なる屈折率を持つ新たな混合物を使用して)さらなる層を追加して、引っかき保護および/または反射防止コーティングを提供して透過を最適化してもよい。
【0072】
フィルタを製造する別の方法は、ナノ粒子の自己集合である。自己集合は「ボトムアップ型」のアプローチであり、特別に準備された表面上にナノ粒子を単に配置し、粒子と表面の間の電気化学的な相互作用に基づき自動的に自らを構成する。この方法は、ナノ粒子を個別に操作することによってフィルム内にナノ粒子を配置するよりもはるかに簡単かつ迅速にできるという利点を有する。自己集合のための表面の準備は、ディップペンリソグラフィ、レーザリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、および化学リソグラフィなどの様々な技術を用いて実現できる。
【0073】
複数の異なる調整がなされた薄いメタマテリアルを組み合わせることによって、複数の異なる光の波長でのレーザからの保護を、同じフィルタを使用して同時に達成することができる。さらに、紫外線レーザなどの可視スペクトルを超える他のレーザ周波数までフィルタを拡張することができる。上述したように、フィルタは受動的に機能し、任意の所与の時間にフィルタで除去するべき放射の周波数(単数または複数)を選択するために、ユーザからの介入は必要ない。代わりに、予め減衰するように設計された一つまたは複数の波長バンド内である放射の任意の成分をフィルタで除くことによって、入射する電磁放射にフィルタが直ちに反応する。周波数、波長、角度または任意の他の特性の観点で変更したり歪ませたりすることなく、それらの波長バンド内ではない放射内の任意の他の成分はフィルムを通過することができる。
【0074】
しかしながら、本願発明者らは、ブラッグリフレクタなどの単独で設計されたメタマテリアルの単純な組み合わせ(積層など)は、光マルチバンドまたはマルチ角度の性能を生じさせないことを発見した。すなわち、組み合わせメタマテリアルデバイスの性能は、単なる部分の合計にはならない。より具体的には、本願発明者らは、一つのメタマテリアルの層は、組み合わせの中の他のメタマテリアル(単数または複数)の電磁気的な挙動に影響を与えるので、メタマテリアルを組み合わせることによって、全体のフィルタリング効率が減少することを発見した。したがって、実施形態では、複数のメタマテリアルを備える改善されたフィルタを形成する方法が提供される。この方法は、それぞれのメタマテリアルのサブ波長特性を変更して、改善されたマルチバンド性能を提供することを含む。同様に、実施形態では、複数のメタマテリアルを有する改善されたフィルタを形成する方法が提供される。この方法は、それぞれのメタマテリアルのサブ波長の特性を変更して、改善されたマルチ角度性能を提供することを含む。したがって、改善された、角度不変の、または全方向のフィルタが提供される。この方法では、単独で使用すると、各メタマテリアルの単一バンドまたは単一角度の性能は低下する。例えば複数の波長および/または複数の入射角で組み合わせデバイスの光学的特性を監視する一方、メタマテリアルのサブ波長パラメータを調節することによって、そのようなマルチバンド/マルチ角度の最適化を実験的にまたは理論的に実現してもよい。例えば、最適化アルゴリズムを使用して、最適化を実現してもよい。したがって、第1メタマテリアルは第1のフィルタリング特性を主に提供し、第2メタマテリアルは第2のフィルタリング特性を主に提供してもよい。この方法は、第1フィルタリング特性だけではなく、第1および第2フィルタリング特性を考慮して第1メタマテリアルのサブ波長特性を変更することを含む。発明者らは、このアプローチを使用して、さらに改善されたマルチバンドおよび/またはマルチ角度フィルタを提供できることを発見した。
【0075】
フィルタは、クラス3Bレーザ(最大500ミリワットの定格出力を有する)含むレーザからの放射の濾過を提供することができる。フィルタは、最大2ワットの定格出力を持つ多くのクラス4レーザに対する保護を提供し、将来的にはさらに強力なレーザからの保護にも使用することができる。背景技術で述べたように、1ワットのレーザは現在普通に利用可能な最大出力のレーザであるが、これは時間の経過により変化し、本明細書で説明したフィルタは、そのような変化に適応するように装備される。
【0076】
フィルタは、フィルタに直接照らされるレーザ光または他の電磁放射を減衰することができ、また鏡面反射を除去することができる。鏡面反射でさえ、角膜、虹彩、水晶体または網膜を含む目の一つまたは複数の部分に直ちに深刻な損傷を与えうるので、これは重要である。レーザは、注意散漫、グレア、または一時的な失明をも引き起こすことがある。これらの全ては不快であり、影響を受ける人がそのときに車両、航空機、または一台の機械を操作している場合は、たとえ目の損傷が永続的でなくても、潜在的に非常に危険である。本明細書で説明したフィルタは、レーザにより生じる安全上の問題、および個人の目と皮膚に対する潜在的な損傷を排除する役割をする。
【0077】
一例として、3000フィート離れて観察される5mWの緑色レーザポインタは、0.5μW/cmの強度に対応し、重大な注意散漫を引き起こす。同じ強度は、16000フィート離れて観察される300mWのレーザでも生じる。50μW/cmの強度レベルは、一時的に人を盲目にし、1mW/cm以上のオーダーのレーザ強度は、深刻な物理的影響を有する。人の目によってレーザビームを観察できないような光の屈折が少ない薄い大気を通してレーザビームが進行するときでさえ、これらの影響は発生する。レーザビームサイズは発散することがあり、レーザを保持する手が不安定だと、離れて見たときにポインタレーザビームがカメラのようなフラッシュに変わることがある。
【0078】
このような現象がより強力となる波長は、紫外線(200−390nm)、可視光(390−750nm)、および赤外線(750nm−1mm)である。レーザは、632.8nmのHe−Ne(ヘリウム−ネオン)、946nmのNd:Yag(ネオジムドープイットリウムアルミニウムガーネット)、または235−330nmのチタニウム−サファイヤの第三高調波などの、電磁スペクトルの全ての区画で存在する。本明細書で説明したフィルタに特に関連するのは、スペクトルの可視部内の放射を発するレーザである。なぜなら、人間の目が最も感受するスペクトルであり、市場で容易に入手可能な高価でないレーザだからである。例えば、最も普通に使用されているレーザの一つは、532nmの周波数が2倍のNd:YAG(緑色レーザ)であり、これは人間の明所視感度のピークに近い。
【0079】
本明細書で説明したフィルタは、最も普通に使用されるレーザ製品が動作すると知られている波長をフィルタで除くように特に調整することができる。ナノ粒子構造の感度、および粒子を調整できる精度のために、フィルタは、他の周波数に影響を与えることなく光の特定の波長を選択的に遮断する極めて狭いバンド要素を備えることができ、その結果、フィルタの背後のユーザにとってほぼ完全に透明になる。フィルタが提供される物理的形態にかかわらず、色を付ける必要はないので、存在してもユーザの視覚の歪みを最小にする(<10%)。
【0080】
フィルムについて説明してきたが、複数の異なる物理的形態でフィルタを提供することができるが、依然として、本明細書で詳細に説明したような一つまたは複数のナノ粒子構造の層から構成される。建物またはレーザを備える設備の平坦なまたは曲がった窓にフィルタを適用することができ、あるいは、レーザ光からの保護のために使用される透明なアクリルボックス、ゴーグル、保護めがね、コンタクトレンズ、保護グローブボックス、車両の窓、フロントガラスおよび航空機コックピットのいずれかに適用することができる。安全装置とともに、または安全装置の代わりに、フィルタを美的な目的またはエンターテイメントの目的で使用し、壁、ディスプレイまたは写真からの光の特定の成分を意図的に除去することができる。即座に結果を見ることができるように、このような濾過がユーザによって制御されてもよい。
【0081】
フィルタを受動的な物として上述してきたが、サイズが十分に小さい場合には、フィルタを電気的に制御してもよいが、依然として必要なエネルギー消費は低い。静的な低エネルギー電場を課すことによって、ナノ粒子は異なる特性を持つことができ、フィルタリング動作を必要に応じて調節したり離調したりすることができる。(酸化銀、カーボンナノチューブまたはグラフェンなどの有機材料または無機材料から作成される)透明な伝導フィルムおよび外部バッテリー源を用いて、電界を与えることができる。これは、特定の期間あらゆる光を全く遮断しないことが望ましい状況で有用である。さらに、赤外光や紫外光などの可視光以外の光の異なる波長でも動作するように、前もってシステムを調整することができる。それらのスペクトル領域に対してマルチバンド機能を実現することができる。
【0082】
特定の実施形態および態様について上述してきたが、本明細書に開示する発明の概念から逸脱することなく、変形が可能である。フィルタは、EMスペクトル内の一つまたは複数の波長、または狭い帯域の波長を遮断することができる。フィルタは、任意の適切な数の層を備えてもよい。フィルタおよび/またはフィルタ内の個々の層は、異なるタイプの材料要素の組み合わせを含んでもよい。接着剤または表面にくっつけるための他の手段を備えてもよい。フィルタ層内の材料要素または単位セルは、中実であってもよいし、空洞または穿孔を有していてもよいし、気泡を有していてもよい。
【0083】
フィルタは、完全に拡大縮小可能であり、したがって、任意のサイズおよび形状の表面に適合するように製造することができる。表面の一部または全てにフィルタを貼り付けることができる。表面に対する濾過の要求が変わる場合、異なるフィルタで置き換えてもよい。また、一つまたは複数の層内での適切な材料要素の選択および配置によって、任意の所望の波長(単数または複数)の濾過を提供するように、使用前にフィルタを調整することができる。
【0084】
したがって、効率的かつ非常に有用な解決策が提供される。比較的費用効率が高くフィルタを製造することができ、多くの異なる実用的な場面でフィルタを使用することができる。フィルタは、ユーザの安全性を高め、レーザの損傷に対して保護し、広範囲の用途に対する濾過および電磁遮蔽を提供することができる。
【0085】
電磁放射をフィルタリングするためのフィルタが提供される。上記フィルタは、第1の所定の波長の電磁放射を透過し、第2の異なる所定の波長の電磁放射の透過を遮断するように構成される。上記フィルタは、複数の材料要素で形成される第1層を備える。各材料要素は少なくとも一次元であり、各次元に沿った材料要素のサイズは、第2の所定の波長のサイズよりも大きくない。
【0086】
第2の所定の波長は、電磁スペクトルの可視部内にあってもよい。フィルタは、さらに接着層を備えてもよい。各次元に沿った材料要素のサイズは、第2の所定の波長のサイズよりも小さくてもよい。材料要素は、ナノスケールの要素であってもよい。各材料要素は、1ナノメートル(nm)から100ナノメートル(nm)の間の各次元に沿ったサイズを有してもよい。
【0087】
フィルタは、その透過を遮断するように特に構成されている波長(単数または複数)を除き、全ての波長の電磁放射に対して選択的に透明であるように構成されてもよい。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10