特許第6334412号(P6334412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334412
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】保護膜形成用フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20180521BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20180521BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20180521BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180521BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01L23/30 D
   C08L33/06
   C08L63/00 A
   C08K3/00
   H01L21/78 M
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-551080(P2014-551080)
(86)(22)【出願日】2013年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2013082290
(87)【国際公開番号】WO2014087948
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-264576(P2012-264576)
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】高野 健
(72)【発明者】
【氏名】篠田 智則
(72)【発明者】
【氏名】吾妻 祐一郎
【審査官】 井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−006386(JP,A)
【文献】 特開2004−214288(JP,A)
【文献】 特開2004−074472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
C08K 3/00
C08L 33/06
C08L 63/00
H01L 21/301
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを保護する保護膜を形成するための保護膜形成用フィルムであって、
前記保護膜形成用フィルムが、(A)アクリル系重合体、(B)エポキシ系硬化性成分、および(C)充填材を含有し、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、且つ、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の12質量%以下の量で含み、
前記保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜の少なくとも一面のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜形成用フィルム。
【請求項2】
(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が6℃以下である請求項1に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項3】
前記アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸ブチルである請求項1又は2に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項4】
(C)充填材の含有量が、保護膜形成用フィルムの50質量%以上である請求項1〜のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項5】
さらに(D)着色剤を含有する請求項1〜のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項6】
半導体チップと、前記半導体チップ上に設けられる保護膜とを備える保護膜付きチップであって、
前記保護膜が、保護膜形成用フィルムを硬化させて形成されたものであるとともに、前記保護膜形成用フィルムが、(A)アクリル系重合体、(B)エポキシ系硬化性成分、及び(C)充填材を含有し、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、且つ、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の12質量%以下の量で含み、
前記保護膜は、前記半導体チップ側の面とは反対の面がJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜付きチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体チップの裏面を保護するために使用される保護膜形成用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェースダウン方式と呼ばれる実装法を用いた半導体装置の製造が行われている。フェースダウン方式において、半導体チップは、バンプなどの電極が形成されたチップ表面が基板等に対向されて接合される一方で、チップ裏面が剥き出しとなるため保護膜によって保護されている。そして、保護膜で保護された半導体チップ(以下、「保護膜付きチップ」という)の裏面は、保護膜上にレーザー印字等によりマークや文字等が印字される。
【0003】
上記保護膜は、例えば樹脂コーティング等によって形成されていたが、近年、例えば特許文献1に開示されるように、膜厚の均一性を確保等するために、保護膜形成用シートが貼付されて形成されるものが実用化されつつある。この保護膜形成用シートは、エポキシ樹脂等からなる熱硬化性成分と、アクリル系ポリマー等からなるバインダーポリマー成分とを含有する保護膜形成用フィルムが、支持シート上に設けられてなるものである。
【0004】
一方で、半導体に使用される接着フィルムとしては種々知られており、例えば、特許文献2には、半導体パッケージ等に使用される接着フィルムとして、Bステージ状態で互いに相分離する、弾性率3500〜10000GPaの樹脂Aと、弾性率1〜3000MPaの樹脂Bとの混合物を必須成分とするものが開示されている。特許文献2の接着フィルムでは、例えば、樹脂Aとしてエポキシ樹脂が、樹脂Bとしてメタクリル酸エステルとアクリロニトリルの共重合体であるアクリルゴムが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【特許文献2】特開2001−220556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される保護膜形成用シートから半導体チップの保護膜が形成される場合、その保護膜付きチップは、長期使用により、チップと保護膜の接合部で浮きや剥がれが生じたり、保護膜にクラックが発生したりする等の不具合が起こりやすく、信頼性に劣ることがある。また、特許文献2に開示されるように2種の成分が相分離する組成物をチップ用の保護膜に転用すれば、保護膜付きチップの信頼性が向上する可能性があるものの、レーザー印字による文字等の認識性が悪くなりやすいという別の問題が発生する。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、信頼性が高い保護膜付きチップを得ることができるとともに、レーザー印字による文字の認識性に優れる保護膜を形成することが可能な保護膜形成用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、保護膜形成用樹脂のアクリル系重合体に着目し、アクリル系重合体を構成する単量体にエポキシ基含有単量体を含有させ、かつその配合割合を所定の範囲に調整しつつ、アクリル系重合体のガラス転移温度も所定の範囲にすることにより、上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供するものである。
(1)半導体チップを保護する保護膜を形成するための保護膜形成用フィルムであって、
前記保護膜形成用フィルムが、(A)アクリル系重合体、(B)エポキシ系硬化性成分、および(C)充填材を含有し、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜の少なくとも一面のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜形成用フィルム。
(2)(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が6℃以下である上記(1)に記載の保護膜形成用フィルム。
(3)(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む上記(1)又は(2)に記載の保護膜形成用フィルム。
(4)(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、全単量体の12質量%以下の割合でアルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
(5)前記アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸ブチルである上記(4)に記載の保護膜形成用フィルム。
(6)(C)充填材の含有量が、保護膜形成用フィルムの50質量%以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
(7)さらに(D)着色剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
(8)半導体チップと、前記半導体チップ上に設けられる保護膜とを備える保護膜付きチップであって、
前記保護膜が、保護膜形成用フィルムを硬化させて形成されたものであるとともに、前記保護膜形成用フィルムが、(A)アクリル系重合体、(B)エポキシ系硬化性成分、及び(C)充填材を含有し、
(A)アクリル系重合体を構成する単量体が、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記保護膜は、前記半導体チップ側の面とは反対の面がJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜付きチップ。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、信頼性が高い保護膜付きチップを得ることができるとともに、レーザー印字による文字の認識性に優れる保護膜を形成することが可能な保護膜形成用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、その実施形態を用いて具体的に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を示す用語として使用し、他の類似用語についても同様である。
[保護膜形成用フィルム]
本発明に係る保護膜形成用フィルムは、半導体チップを保護する保護膜を形成するためのフィルムであって、少なくとも(A)アクリル系重合体、(B)エポキシ系硬化性成分、および(C)充填材を含有するものである。
【0011】
<(A)アクリル系重合体>
(A)アクリル系重合体は、保護膜及び保護膜形成用フィルムに可撓性、造膜性を付与する成分であって、エポキシ基含有単量体と、他の単量体とを共重合して得られるとともに、エポキシ基含有単量体の割合が、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体中、8質量%以下となるものである。具体的には、(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルおよび非アクリル系エポキシ基含有単量体から選択される1種以上のエポキシ基含有単量体と、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステル、及び/又は非アクリル系エポキシ基非含有単量体とからなる。この場合において、エポキシ基含有単量体が非アクリル系エポキシ基含有単量体のみからなる場合は、アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステルを含む。
エポキシ基含有単量体の割合が8質量%より多くなると、(B)成分の硬化物との相溶性が向上し、後述の相分離構造が形成されにくくなって、保護膜付きチップの信頼性が低下する。一方で、アクリル系重合体(A)が、エポキシ基含有単量体を構成単量体に全く含まないと、相分離の進行に起因した保護膜のグロス値の低下が過分となるため、グロス値を後述する範囲内にとどめることが難しくなる。すなわち、エポキシ基含有単量体を全く含まないと、保護膜表面には相分離の進行に起因した微小な凹凸ができ、その結果、保護膜表面での反射光の散乱を招くため、グロス値が小さくなり、レーザー印字部の認識性が低下する。
これら観点から、エポキシ基含有単量体の含有量は、全単量体の合計質量中0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。さらに、グロス値を良好にしつつ信頼性をより高めるためには、3質量%以上であることが特に好ましい。また、エポキシ基含有単量体の含有量は、(A)アクリル系共重合体の全単量体の6質量%以下であることが好ましい。
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、3−エポキシシクロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が、非アクリル系エポキシ基含有単量体としては、たとえば、グリシジルクロトネート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ基含有単量体としては、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0012】
(A)アクリル系重合体における他の単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、その他の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記他の単量体として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数の増減や、異なる炭素数の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの組み合わせにより、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度を調整することが容易となる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の92質量%以下であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0013】
(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の12質量%以下の量で含有することが好ましい。これにより、ガラス転移温度を−3℃以上にしつつ、グロス値をより良好にしやすくなる。グロス値を良好にしつつ信頼性を向上させるためには、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの上記含有量は、より好ましくは1〜12質量%、さらに好ましくは5〜12質量%である。また、当該アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチルが好ましい。
【0014】
また、(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することにより、熱安定性等を良好にしつつも、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度を後述するように−3℃以上としやすくなる。これらの観点から、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の90質量%以下であることが好ましい。また、当該アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。
【0015】
さらに、(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、その他の(メタ)アクリル酸誘導体として、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルにより、アクリル系共重合体に水酸基が導入されると、半導体チップへの密着性や粘着特性のコントロールが容易になる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルは、(A)アクリル系重合体を構成する全単量体の1〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0016】
また、(A)アクリル系重合体を構成する単量体は、他の単量体として、上記したようにスチレン、エチレン、ビニルエーテル、酢酸ビニル等の非アクリル系エポキシ基非含有単量体を含んでいてもよい。
【0017】
(A)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、保護膜形成用フィルムに可撓性、造膜性を付与できるとともに、後述するグロス値を20以上としやすくするために、10,000以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、より好ましくは15,000〜1,000,000、さらに好ましくは20,000〜500,000である。重量平均分子量(Mw)は、後述する実施例の方法に従って測定できる。
【0018】
本発明において(A)アクリル系重合体は、そのガラス転移温度(Tg)が、−3℃以上となるものである。ガラス転移温度が−3℃未満となると、(A)アクリル系重合体の運動性が十分に抑制されず、保護膜が熱履歴に起因して変形しやすくなり、保護膜付きチップの信頼性を十分に向上させることができない。本発明において、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度は、Foxの式より求められる理論値である。
また、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度は、6℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が6℃以下であることにより、後述するグロス値を向上させ、印字認識性を良好にすることができる。この理由は、必ずしも明らかではないが、アクリル系重合体(A)が適度に運動性を有することに起因して、硬化後の保護膜の表面形状が平滑化するためと推定される。
【0019】
保護膜形成用フィルムは、エポキシ基含有単量体が少ない量に抑えられることで、保護膜において(A)成分に富む相と、後述する(B)成分の硬化物に富む相が相分離しやすくなり、保護膜付きチップの信頼性が向上する。これは、チップ実装後に温度変化を経た場合であっても、温度変化に起因した変形による応力を、柔軟な(A)に富む相が緩和するために、応力による保護膜の剥離が生じにくくなるためと推定される。また、熱硬化後の保護膜形成用フィルム(すなわち、保護膜)における相分離は、(A)に富む相が連続相を形成していることが好ましい。これにより、上述した信頼性向上の効果をさらに高めることができる。
【0020】
(A)に富む相と(B)の硬化物に富む相は、たとえばラマン散乱分光測定により、ある相の測定チャートから、どのような物質がその相の主成分となっているかを観察することで判別することができる。また、相分離構造の大きさがラマン分光法の分解能以下の場合、SPM(走査型プローブ顕微鏡)のタッピングモード測定の硬さを指標に、より硬い方が(B)成分の硬化物に富む相であり、より柔らかい方が(A)成分に富む相であることを推定することができる。そのため、本発明では、保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜を、ラマン散乱分光測定やSPM観察することにより、相分離構造が形成されているか否かを確認できる。
なお、(A)アクリル系重合体は、保護膜形成用フィルムの全質量(固形分換算)に占める割合として、通常10〜80質量%、好ましくは15〜50質量%である。
【0021】
<(B)エポキシ系硬化性成分>
(B)エポキシ系硬化性成分は、硬化により硬質の保護膜を半導体チップ上に形成させるための成分であり、通常、エポキシ系化合物および熱硬化剤からなる。
保護膜形成用フィルムにおいて、(B)エポキシ系硬化性成分は、(A)アクリル系重合体100質量部に対して、好ましくは250質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。また、(B)エポキシ系硬化性成分は、(A)アクリル系重合体100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上である。
(B)エポキシ系硬化性成分の含有量が上記範囲とすることにより、半導体チップ等の被着体に対する十分な接着性が得られ、また、後述する支持シートとの剥離力が適切となり、支持シートを保護膜形成用フィルムから剥離する際の剥離不良等も防止できる。さらに、上記したように(B)成分の配合量を所定の上限値以下の範囲に制限することで、(A)成分に富む相が連続相となりやすく、半導体チップの信頼性を高めることができ、また、グロス値を向上させやすくなる。
なお、(B)エポキシ系硬化性成分は、保護膜形成用フィルムの全質量(固形分換算)に占める割合として、通常5〜60質量%、好ましくは10〜40質量%程度である。
【0022】
エポキシ系化合物としては、従来公知のエポキシ化合物を用いることができる。具体的には、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
熱硬化剤は、エポキシ化合物に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0024】
フェノール性水酸基を有するフェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミノ基を有するアミン系硬化剤の具体的な例としては、ジシアンジアミドが挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0025】
また、熱硬化剤の含有量は、エポキシ化合物100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましく、0.5〜50質量部であることがより好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましい。熱硬化剤の含有量を上記下限値以上とすることで、(B)成分が硬化して、被着体との接着性が得られやすくなる。また、上記上限値以下とすることで、保護膜形成用フィルムの吸湿率が抑えられ、半導体装置の信頼性を良好にしやすくなる。
【0026】
<(C)充填材>
(C)充填材は、保護膜に耐湿性、寸法安定性などを与える成分であって、具体的には無機フィラー等が挙げられる。また、保護膜にレーザーマーキング(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)を施すことにより、レーザー光により削り取られた部分(印字部分)は、(C)充填材が露出して反射光を拡散させるため、非印字部分とのコントラストが向上し認識可能になる。
好ましい無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでは、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが特に好ましい。また、上記無機フィラーは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
また、充填材の平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜20μmが好ましい。0.1μm以上であれば、保護膜形成用組成物を、支持シート上に塗布乾燥して保護膜形成用フィルムを得る場合などに、保護膜形成用組成物を塗布に適した性状となる傾向がある。また、20μm以下であればグロス値がより向上しやすくなる。
また、これら観点から、充填材の平均粒径は、0.2〜10μmがより好ましく、0.3〜6μmがさらに好ましい。
なお、平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計によって測定されたものである。粒度分布計としては、たとえば、日機装社製のNanotrac150等が挙げられる。
保護膜形成用フィルムにおける(C)充填材の含有量は、保護膜形成用フィルムの全質量(固形分換算)に占める割合として、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、(C)充填材の含有量は、保護膜形成用フィルムの全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、63質量%以下であることがさらに好ましい。(C)充填材の含有量をこれら範囲とすることで、上記した充填材の効果を発揮しやすくなる。また、(C)充填材の含有量を50質量%以上とすることで、レーザーマーキングされた印字部と非印字部のコントラストが向上し、印字の認識性が良好となる。また、上記上限値以下とすることで、グロス値を向上させやすくなる。
【0027】
本発明に係る保護膜形成用フィルムは、以上説明した(A)〜(C)成分に加えて、以下の(D)着色剤、(E)カップリング剤、(F)硬化促進剤、および(G)その他の添加剤のうちいずれか1つ以上を含有していてもよい。
【0028】
<(D)着色剤>
保護膜形成用フィルムは、半導体チップを機器に組み込んだ際、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽して、半導体チップの誤作動を防止することができるため、(D)着色剤を含有することが好ましい。また、(D)着色剤を含有することで、保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜に、製品番号やマーク等を印字した際の文字の識別性を向上させることができる。すなわち、半導体チップの保護膜を形成した背面には、品番等が通常レーザーマーキング法により印字されるが、保護膜が(D)着色剤を含有することで、印字部分と、非印字部分のコントラスト差が大きくなり識別性が向上する。
【0029】
(D)着色剤としては、有機または無機の顔料又は染料が用いられる。染料としては、酸性染料、反応染料、直接染料、分散染料、カチオン染料等のいずれの染料であっても用いることが可能である。また、顔料も、特に制限されず、公知の顔料から適宜選択して用いることができる。
これらの中では、電磁波や赤外線の遮蔽性が良好で、かつレーザーマーキング法による識別性をより向上させることが可能な黒色顔料がより好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体チップの信頼性を高める観点からは、カーボンブラックが特に好ましい。(D)着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D)着色剤の配合量は、保護膜形成用フィルムの全質量(固形分換算)に占める割合として、好ましくは0.01〜25質量%、より好ましくは0.03〜15質量%である。
【0030】
<(E)カップリング剤>
保護膜形成用フィルムには、(E)カップリング剤が配合されていてもよい。
(E)カップリング剤としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。また、(E)カップリング剤としては、(A)アクリル系重合体や(B)エポキシ系硬化性成分などが有する官能基と反応する、アルコキシ基以外の反応性官能基を有する化合物が好ましく使用される。反応性官能基としては、グリシドキシ基、グリシドキシ基以外のエポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリロキシ基以外のビニル基、メルカプト基等が挙げられる。これらの中では、グリシドキシ基、エポキシ基が好ましい。
【0031】
シランカップリング剤としては、分子量が300未満の低分子量シランカップリング剤が使用されてもよいし、分子量が300以上のオリゴマータイプのシランカップリング剤が使用されてもよいし、それらが併用されてもよい。
低分子量シランカップリング剤としては、具体的にはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
オリゴマータイプのシランカップリング剤は、シロキサン骨格を有するオルガノポリシロキサンであるとともに、ケイ素原子に直接結合するアルコキシ基を有するものが好ましい。
(E)カップリング剤の含有量は、保護膜形成用フィルムの全質量(固形分換算)に占める割合として、好ましくは0.01〜10.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。
【0032】
<(F)硬化促進剤>
(F)硬化促進剤は、保護膜形成層の硬化速度を調整するために、保護膜形成用フィルムに含有されてもよい。
好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
(F)硬化促進剤は、(B)エポキシ系硬化性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部の量で含まれる。(F)硬化促進剤を上記範囲の量で含有することにより、保護膜形成用フィルムは高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しい条件に曝された場合であっても高い信頼性を達成することができる。
【0033】
<(G)その他の添加剤>
保護膜形成用フィルムに含まれてもよいその他の添加剤としては、特にこれらに限定されるわけではないが、架橋剤、相溶化剤、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤、エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤等が挙げられる。保護膜形成用フィルムは、例えば、相溶化剤が配合されることにより、(A)成分に富む相と、(B)成分の硬化物に富む相の相溶性を適宜調整して、適切な相分離構造が設計可能となる。
【0034】
<グロス値>
保護膜形成用フィルムは、上記配合を有することにより、硬化されて得られる保護膜の少なくとも一方の面のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上となるものである。本発明では、グロス値が20以上となる面と反対側の面を、ウエハに貼付して硬化することで、保護膜のレーザーマーキングによる被印字面がグロス値20以上を有することになる。そのため、本発明では、印字部と非印字部のコントラストが向上し、印字部分の識別性が良好になる。
上記グロス値は、コントラストをより向上させて、文字の識別性を上げるために、27以上であることが好ましい。また、グロス値は、特に限定されないが、45以下であることが好ましい。
なお、グロス値は、特に限定されるわけではないが、例えば、エポキシ基含有単量体やアルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の量の調整、(A)成分に対する(B)成分の含有量の調整、充填剤の種類の選択、充填剤の含有量若しくは粒径の調整、又は、その他の添加剤の添加により適宜調整可能である。
保護膜形成用フィルムの厚さは、特に限定されないが、好ましくは3〜300μm、よりに好ましくは5〜250μm、さらに好ましくは7〜200μmである。
【0035】
[保護膜形成用複合シート]
本発明の保護膜形成用フィルムは,通常、支持シート上に剥離可能に形成され、積層体である保護膜形成用複合シートとして使用される。保護膜形成用フィルムは、支持シートと同形状とすることができる。また、保護膜形成用複合シートは、保護膜形成用フィルムが、ウエハと略同形状又はウエハの形状をそっくり含むことのできる形状に調製されたものであり、保護膜形成用フィルムよりも大きなサイズの支持シート上に積層されている、いわゆる事前成形構成をとっていてもよい。
支持シートは、保護膜形成用フィルムを支持するものであって、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらから選択された2以上の積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルムも用いることができる。
支持シートの保護膜形成用フィルムが形成される側の面は、適宜剥離処理が施されていてもよい。剥離処理に用いられる剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが挙げられるが、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
また、保護膜形成用複合シートにおいて、保護膜形成用フィルムの支持シートが設けられる側の面とは反対の面には、軽剥離性の剥離シートが貼り合わされ、その剥離シートによって保護膜形成用フィルムが保護されてもよい。
【0036】
保護膜形成用フィルムは、上記各成分を適宜の割合で、適当な溶媒中で又は無溶媒で混合してなる保護膜形成用組成物を、支持シート上に塗布乾燥して得られる。また、支持シートとは別の工程フィルム上に保護膜形成用組成物を塗布、乾燥して成膜して、適宜、支持シート等に転写して形成してもよい。工程フィルムは、その後除去せずに上述した剥離シートとして用いてもよい。
【0037】
また、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などによりフィルムの積層を行うことにより支持シートの表面張力を調整してもよい。すなわち、少なくとも一方の面の表面張力が、上述した支持シートの保護膜形成用フィルムと接する面のものとして好ましい範囲内にあるフィルムを、当該面が保護膜形成用フィルムと接する面となるように、他のフィルムと積層した積層体を製造し、支持シートとしてもよい。
【0038】
また、上記フィルム上に粘着剤層を形成した粘着シートを支持シートとして用いてもよい。この場合、保護膜形成用フィルムは、支持シートに設けられた粘着剤層上に積層される。このような構成とすることで、特に保護膜形成用複合シート上で保護膜形成用フィルムまたは保護膜ごとウエハをチップに個片化する場合に、ウエハやチップの固定性能に優れることとなるため好ましい。粘着剤層を再剥離性粘着剤層とすることで、保護膜形成用フィルムまたは保護膜を支持シートから分離することが容易となるため好ましい。再剥離性粘着剤層は、保護膜形成用フィルムを剥離できる程度の粘着力を有する弱粘着性のものを使用してもよいし、エネルギー線照射により粘着力が低下するエネルギー線硬化性のものを使用してもよい。具体的には、再剥離性粘着剤層は、従来より公知の種々の粘着剤(例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系などの汎用粘着剤、表面凹凸のある粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、熱膨張成分含有粘着剤等)により形成できる。
【0039】
エネルギー線硬化性の再剥離性粘着剤層を用いる場合において、保護膜形成用複合シートが事前成形構成をとるときは、保護膜形成用フィルムが積層される領域に予めエネルギー線照射を行い、粘着性を低減させておく一方、他の領域はエネルギー線照射を行わず、たとえば治具への接着を目的として、粘着力を高いまま維持しておいてもよい。他の領域のみにエネルギー線照射を行わないようにするには、たとえば支持シートの他の領域に対応する領域に印刷等によりエネルギー線遮蔽層を設け、支持シート側からエネルギー線照射を行えばよい。また、同様の効果を得るために、粘着シートにおける粘着剤層上の保護膜形成用フィルムが積層される領域に、保護膜形成用フィルムと略同一形状の再剥離性粘着剤層をさらに積層した構成としてもよい。再剥離性粘着剤用フィルムとしては、上記と同じものを使用することができる。
【0040】
保護膜形成用フィルムが事前成形構成をとらない場合は、保護膜形成用フィルムの表面(被着体と接する面)の外周部には、リングフレーム等の他の治具を固定するために、別途接着剤層や両面粘着テープが設けられていてもよい。保護膜形成用フィルムが事前成形構成をとる場合は、支持シートの外周部における保護膜形成用フィルムの積層されていない領域に、リングフレーム等の他の治具を固定するために、別途接着剤層や両面粘着テープが設けられていてもよい。
【0041】
[保護膜形成用フィルムの使用方法]
保護膜形成用フィルムは、半導体ウエハ、半導体チップ等の被着体に貼付され、その後熱硬化されて保護膜として使用される。ここで、保護膜形成用フィルムが、保護膜形成用複合シートとして被着体に貼付される場合には、まず、剥離シートで保護されている場合には剥離シートが剥離され、次いで、保護膜形成用フィルムと支持フィルムの積層体が、被着体に貼付された後、支持シートが保護膜形成用フィルムから剥離される。
【0042】
以下、保護膜形成用フィルムの使用方法について、保護膜形成用フィルムが、半導体チップの裏面保護用に使用され、保護膜付きチップが製造される例を説明するが、以下に示す例に限定されるわけではない。
本方法では、まず、上記保護膜形成用フィルムを半導体ウエハの裏面に積層する。例えば、保護膜形成用複合シートを使用する場合には、保護膜形成用フィルムと基材シートの積層体を半導体ウエハの裏面に貼付する。その後、保護膜形成用フィルムから支持シートを剥離した後、半導体ウエハ上に積層された保護膜形成用フィルムを熱硬化し、ウエハの全面に保護膜を形成する。
なお、半導体ウエハは、シリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。また、半導体ウエハは、その表面に回路が形成されているとともに、裏面が適宜研削等され、厚みが50〜500μm程度とされるものである。
【0043】
次いで、半導体ウエハと保護膜との積層体を、ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングする。ダイシングは、ウエハと保護膜をともに切断するように行われ、ダイシングによって半導体ウエハと保護膜との積層体は、複数のチップに分割される。なお、ウエハのダイシングは、ダイシングシートを用いた常法により行われる。次いで、ダイシングされたチップをコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、裏面に保護膜を有する半導体チップ(保護膜付きチップ)を得る。
【0044】
なお、半導体チップの製造方法は、以上の例に限定されず、例えば、支持シートの剥離が、保護膜の熱硬化後に行われてもよいし、ダイシングの後に行われてもよい。なお、支持シートの剥離が、ダイシングの後に行われる場合、支持シートはダイシングシートとしての役割を果たすことができる。また、保護膜形成用フィルムの熱硬化は、ダイシングの後に行われてもよい。
【0045】
[保護膜付きチップ]
本発明の保護膜付きチップは、例えば上記製造方法により得られ、半導体チップと、該半導体チップの裏面に積層される保護膜とを備え、該保護膜は、上述の保護膜形成用フィルムを硬化させて形成され、チップ裏面を保護するものである。保護膜は、半導体チップ側の面とは反対の面が、JIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上となるものである。
保護膜付きチップを、フェースダウン方式で基板等の上に実装することで半導体装置を製造することができる。また、保護膜付きチップは、ダイパッド部または別の半導体チップなどの他の部材上(チップ搭載部上)に接着することにより、半導体装置を製造することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0047】
本発明における測定方法、評価方法は以下のとおりである。
(1)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを測定した。
測定装置:東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK guard column HXL−H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結して測定した。
カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分、検出器:示差屈折率計
【0048】
(2)グロス値
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムを、テープマウンター(リンテック株式会社製、Adwill RAD-3600 F/12)を用いて70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハ上に保護膜を形成した。下記測定装置及び測定条件で、保護膜表面の60度の鏡面光沢度を測定し、グロス値とした。
測定装置:VG 2000 日本電色工業株式会社製
測定条件:JIS Z 8741に準じた
【0049】
(3)文字の認識性(印字性)
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムをテープマウンター(リンテック株式会社製, Adwill RAD-3600 F/12)を用いて70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハに保護膜を形成した。保護膜表面に、レーザー印字装置(パナソニックデバイスSUNX株式会社製 LP−V10U、レーザー波長:1056nm)を用いて、一文字の幅が300μm以下である文字を4文字印字した。得られた印字済みの保護膜面をデジタル顕微鏡で確認し、印字が読み取り可能かを画像で確認した。判断基準は、デジタル顕微鏡の観察時に、直射光で印字部を照らしているとき、十分に読取可能を“A”、読み取り可能だが不鮮明を“B”、読み取り不可能を“F”と表現した。
【0050】
(4)信頼性評価
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムをテープマウンター(リンテック株式会社製、Adwill RAD-3600 F/12)を用いて、70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハ上に保護膜を形成した。そして、保護膜側をダイシングテープ(リンテック株式会社製Adwill D-676H)に貼付し、ダイシング装置(株式会社ディスコ製、DFD651)を使用して3mm×3mmサイズにダイシングすることで信頼性評価用の保護膜付きチップを得た。
【0051】
上記信頼性評価用の保護膜付きチップは、まず、半導体チップが実際に実装されるプロセスを模倣した条件(プレコンディション)で処理した。具体的には、保護膜付きチップを125℃で20時間ベイキングし、次いで、85℃、85%RHの条件下に168時間放置して吸湿させ、その後直ちにプレヒート160℃、ピーク温度260℃、加熱時間30秒間の条件のIRリフロー炉に3回通した。これらプレコンディションで処理した保護膜付きチップ25個を、冷熱衝撃装置(ESPEC株式会社製、TSE−11−A)内に設置し、−65℃で10分間保持し、その後150℃で10分間保持するサイクルを1000回繰り返した。
その後、25個の保護膜付きチップを冷熱衝撃装置から取り出して信頼性を評価した。具体的には、チップと保護膜との接合部での浮き・剥がれや保護膜におけるクラックの有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製 Hye‐Focus)および断面観察により評価し、浮き、剥がれおよびクラックのいずれかがあればNGとした。25個のチップのうちのNGの個数を表4に示す。
【0052】
実施例1
実施例1において、保護膜形成フィルムを形成する成分は以下の通りであった。
(A)アクリル系共重合体:アクリル酸n−ブチル1質量部と、メタクリル酸メチル79質量部と、アクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部と、メタクリル酸グリシジル5質量部とを共重合してなる重量平均分子量(Mw)37万、ガラス転移温度(Tg)7℃の共重合体
(B)エポキシ系硬化性成分
エポキシ系化合物:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本触媒株式会社製、BPA−328)と、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、エピクロンHP−7200HH)
熱硬化剤:ジシアンジアミド(株式会社ADEKA製、アデカハードナー3636AS)
(C)充填剤:平均粒径8μmの溶融石英フィラー(シリカフィラー、龍森社製、SV−10を物理的に破砕したもの)
(D)着色剤:カーボンブラック(三菱化学株式会社製、MA600、平均粒径:28nm)
(E)シランカップリング剤:オリゴマータイプシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 X−41−1056 メトキシ当量17.1mmol/g、分子量500〜1500)と、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBE−403 メトキシ当量8.1mmol/g、分子量278.4)と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM−403 メトキシ当量12.7mmol/g、分子量236.3)
(F)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PHZ)
【0053】
上記各材料を、表1に示す割合で配合された保護膜形成用組成物をメチルエチルケトンで希釈し、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET5011、厚さ50μm)からなる支持シートの剥離処理面に、乾燥除去後の厚さが25μmとなるように塗布して、100℃で3分間乾燥して、支持シート上に保護膜形成用フィルムを形成した。次いで、その保護膜形成用フィルムに別途剥離シート(リンテック株式会社製、SP−PET3811、厚さ38μm)を重ね合わせ、実施例1の保護膜形成用複合シートを得た。
【0054】
実施例2、比較例1〜6
(A)アクリル系共重合体として、表2に示すものを使用した点を除いては、実施例1と同様に実施した。なお、各実施例、比較例の(A)アクリル共重合体について、重量平均分子量(Mw)及びガラス転移温度(Tg)を合わせて表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
実施例3
(C)成分として、平均粒径8μmのシリカフィラーの代わりに、平均粒径3μmのシリカフィラー(株式会社トクヤマ製、UF310)を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
実施例4
(C)成分として、平均粒径8μmのシリカフィラーの代わりに、平均粒径0.5μmのシリカフィラー(アドマテックス社製、SC2050MA)を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
実施例5、6
(C)成分の配合量を表3に示すように変更した点を除いて実施例2と同様に実施した。
実施例7、8
(A)及び(B)成分の配合量を表3に示すように変更した点を除いて実施例2と同様に実施した。
【0058】
【表3】
【0059】
各実施例1〜8、比較例1〜6について、グロス値を測定するとともに、印字認識性、及び信頼性を評価した。結果を表4に示す。
【表4】
【0060】
表4から明らかなように、実施例1〜8では、(A)アクリル系重合体が、構成モノマーとして8質量%以下のエポキシ基含有単量体を含み、かつガラス転移温度が−3℃以上であることにより、(A)成分に富む相と(B)成分の硬化物に富む相との相分離性が良好となり、かつグロス値も20以上とすることができたため、印字認識性及び信頼性の両方を良好にすることができた。
一方、比較例1では、(A)アクリル系重合体が、構成モノマーとしてエポキシ基含有単量体を含まなかったため、相分離に起因して保護膜表面に微小な凹凸ができ、その結果、保護膜表面での反射光の散乱を招いた。したがって、グロス値が小さくなり、印字認識性が悪くなった。また、比較例2、3、6では、(A)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃未満となったため、保護膜が熱履歴により変形したと推定され、NGチップの数が多くなり、保護膜付きチップの信頼性を十分に向上させることができなかった。さらに、比較例4、5では、(A)アクリル系重合体が、構成モノマーとしてエポキシ基含有単量体を多量に含んだため、(A)成分と(B)成分の親和性が高く相分離が起こりにくくなり、保護膜付きチップの信頼性は低くなった。