(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記木となる管路で構成される開管路のグラフ構造に基づいて、前記開管路を幹と枝とに分類し、前記枝なる管路が存在する場合、前記枝となる管路を前記幹となる管路に集約する集約部を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のセンサ配置位置選択装置。
前記補木抽出部は、前記補木となる管路の組み合わせを複数取得し、前記複数の組み合わせのうち、前記補木となる管路の数が最も少ない組み合わせを選択して前記補木となる管路を抽出する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のセンサ配置位置選択装置。
請求項1から9のいずれか一項に記載されたセンサ配置位置選択装置によって選択された配置位置に設置された水圧センサによって計測された、配水管路網において補木となる管路の水圧を示す情報と、配水管路網の各節点を通る開管路の始点から終点までの差圧と、前記配水管路網内の漏水量の総量と、各節点への流入流量と、各節点での水の使用量と、に基づいて各節点における漏水係数を決定変数とする最適化問題を解くことで、各節点における漏水係数を決定する漏水係数最適化部と、
前記決定された漏水係数と、前記配水管路網における節点間の接続関係を反映した流体の運動方程式に基づいて節点ごとの漏水量を推定する漏水量推定部と、
を備える漏水量推定装置。
請求項1から9のいずれか一項に記載されたセンサ配置位置選択装置によって選択された配置位置に設置された水圧センサによって計測された、配水管路網において補木となる管路の水圧を示す情報と、配水管路網の各節点を通る開管路の始点から終点までの差圧と、前記配水管路網内の漏水量の総量と、各節点への流入流量と、各節点での水の使用量と、に基づいて各節点における漏水係数を決定変数とする最適化問題を解くことで、各節点における漏水係数を決定する漏水係数最適化部と、
前記決定された漏水係数と、前記配水管路網における節点間の接続関係を反映した流体の運動方程式に基づいて節点ごとの漏水量を推定する漏水量推定部と、
を備える漏水量推定装置として、
コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のセンサ配置位置選択装置、漏水量推定装置、漏水診断システム、漏水診断方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る配水システムの概要を示す概略図である。この配水システムでは、配水池70に蓄えられた水(浄水)が、ポンプやバルブ等によって家庭や事業所等を含む配水管路網PNに供給される。配水管路網PNに流入する水の量は、流量センサ80によって検出される。
【0011】
配水管路網PNには、図中、白丸で表される複数の節点が便宜的に設定されている。図中、複数の節点にはスマートメータが取り付けられている。スマートメータは、例えば、水が提供される家庭や事業所等に取り付けられ、家庭や事業所等における水の使用量を30分ないし1時間程度ごとに検出する。各節点から下に向く矢印は、需要家による水の使用や漏水等によって水が流出していることを表している。
【0012】
センサ配置位置選択装置は、このような配水管路網の各節点から、節点ごとの漏水量を推定することが可能となるような水圧センサの配置位置を選択する。
【0013】
図2は、第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1の機能構成を示す機能ブロック図である。
センサ配置位置選択装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、センサ配置位置選択プログラムを実行する。センサ配置位置選択装置1は、センサ配置位置選択プログラムの実行によって配水管路網情報記憶部11、入力部12、出力部13、接続行列生成部14、補木抽出部15及び配置位置選択部16を備える装置として機能する。なお、センサ配置位置選択装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。センサ配置位置選択プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。センサ配置位置選択プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0014】
配水管路網情報記憶部11は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0015】
入力部12は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、スイッチ等の入力デバイスを用いて構成されユーザの操作の入力を受け付ける。
【0016】
出力部13(表示部)は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electroluminescence)等の表示装置および表示制御部、プリンタ、スピーカ等を含んで構成され、選択された水圧センサの配置位置に関する情報を出力する。
【0017】
接続行列生成部14は、配水管路網情報記憶部11に格納された情報に基づいて、配水管路網にグラフ理論を適用するための接続行列を生成する。接続行列とは、配水管路網のグラフ構造(接続構成)を示す行列である。
【0018】
補木抽出部15は、接続行列生成部14により生成された接続行列に基づいて、配水管路網を構成する管路から補木となる管路を抽出する。補木とは、グラフ構造を構成する枝の種別の1つである。グラフ構造を構成する枝は木又は補木に分類され、閉回路を作らない枝集合のことを木(Tree)といい、木に含まれない枝集合を補木(Cotree)という。具体的には、補木抽出部15は、配水管路網を構成する管路を、木となる管路と補木となる管路とに分類し、補木に分類された管路を抽出する。
【0019】
配置位置選択部16は、補木抽出部15によって抽出された補木となる管路の両端の節点を水圧センサの配置位置として選択し、選択された配置位置を示す情報を出力部13に出力する。
【0020】
以下で説明する管路網モデルに基づけば、各節点における漏水量の推定に必要な水圧センサは、上記の補木となる管路の両端の節点に設置されればよいことが分かる。
【0021】
[管路網モデルの構築]
配水管路網を流れる非圧縮流体の運動方程式は、式(1)で表される。式(1)において、i、jは節点の番号である。v
ijは管路ij(節点iと節点jを結ぶ管路)における水の流速である。L
ijは管路ijの長さ[m]である。ρは水密度[kg/m
3]である。H
iは節点iの標高である。D
ijは管路ijの口径[m]である。λ
ijは管路ijの管路摩擦抵抗である。
【0023】
配水管路網情報記憶部11には、節点間の接続関係の他、管路の長さ、口径、および管路摩擦抵抗と、節点の標高などの情報が格納されている。
図3は、実施形態の配水管路網情報記憶部11に格納される情報の一例を示す図である。図示するように、配水管路網情報記憶部11には、節点数や管路数の他、節点毎の有効水頭[m]や種別、設置標高[m]などの情報が、節点番号に対応付けられて記述されている。また、配水管路網情報記憶部11には、管路毎の始点および終点の節点番号(すなわち節点間の接続関係)、管長(長さ)、管路摩擦係数などの情報が、管路番号に対応付けられて記述されている。
【0024】
式(1)を行列表現で表すと、式(2)となる。
【0026】
式(2)において「.」はベクトルを成分毎に乗算したベクトルを表している。また、|(ベクトル)|は、ベクトルの各成分を絶対値に変換したベクトルを表している。式(2)における各行列やベクトルの成分は、式(3)〜(7)で表される。
【0032】
また、各節点における質量保存式は、式(8)で表される。
【0034】
式(8)のAは接続行列である。Sは区間断面積[m
2]を対角がゼロの正方行列で表したものである。qは各節点iの水の使用量を要素とするベクトルである。lは各節点iにおける漏水量を要素とするベクトルである。行列Sの要素S
ijは、管路ijの口径[m]から、式(9)により導出される。
【0036】
[接続行列の生成]
接続行列Aとは、有向グラフに基づいて生成される行列であり、節点の数をp、管路の数をkとした場合にp×k行列として生成される。接続行列Aの各要素A
pkは、下記の定義によって決定される。
A
pk=―1 :管路kにおいて節点pが始点の場合
A
pk= 1 :管路kにおいて節点pが終点の場合
A
pk= 0 :管路kにおいて節点pが始点でも終点でも無い場合
【0037】
以下、配水管路網のモデルとして
図4を参照し、質量保存式について説明する。
図4は、
図1とは異なる配水管路網PNの一例を示す図である。
図4における丸は節点を表し、各丸を結ぶ線は管路を表す。丸内の数字は節点番号を示す。また、各管路に付記された括弧内の数字は管路番号を示す。
図5は、
図4に示す配水管路網PNに対応して配水管路網情報記憶部11に格納される情報を例示した図である。
【0038】
図4に示す配水管路網PNの場合、接続行列Aは、次の式(10)で表される。
【0040】
前述したように、接続行列Aの各行は節点に対応し、各列は管路に対応する。
図4及び
図5に示すモデルを式(8)に適用すると、次の式(11)となる。式(11)におけるl
iは、節点毎の漏水量であり、未知数である。
【0042】
ここで、有効水圧差であるdPと各ノードの圧力値P
iは、P
1をゼロとすると式(12)の関係にある。
【0044】
そして、式(2)、(12)から式(13)が得られる。
【0046】
式(13)に基づけば、各管路を流れる水の流速を算出することができる。例えば、ニュートンラプソン法などを用いることで、式(13)の非線形連立常微分方程式を解くことができる。式(13)の非線形連立常微分方程式を解く手法には、その他の手法が用いられてもよい。
【0047】
ここで、A*は、接続行列Aから、任意の節点に対応する行を取り除いて得られる既約接続行列である。以下では、接続行列Aの1行目を取り除くこととする。式(10)に示される接続行列Aから得られる既約接続行列A*は、式(14)で表される。そして、行列A*
tは、既約接続行列A*を、補木が前列にくるように入れ替えた場合の、後列のみの部分行列である。
【0049】
以下、行列A*
tについて説明する。グラフ構造が閉回路(ループ)を形成している場
合、ループを一巡すると圧力損失がゼロとなる法則を得ることができる。すなわち、ある始点となる節点からループを辿って始点に戻ると、dP=0である。これを式で表現すると、式(15)となる。
【0051】
式(15)中、Bは基本閉路行列であり、各行iがグラフの基本閉路F
iに、各列kがグラフの各枝(管路)に対応するi×k行列である。基本閉路行列Bの各要素B
ikは、下記の定義によって決定される。
B
ik=―1 :閉路F
iが枝kを負の向きに含んでいる場合
B
ik= 1 :閉路F
iが枝kを正の向きに含んでいる場合
B
ik= 0 :閉路F
iが枝kを含まない場合
【0052】
図3および
図4に示すモデルの場合、基本閉路行列Bは式(16)で表される。
【0054】
このように、任意のひとつの補木と木の集合により一意に決定される閉路を基本閉路と呼ぶ。グラフの基本閉路の数は、補木の数と等しい。基本閉路行列Bは、既約接続行列A*と基本閉路行列Bの間にある式(17)の関係により求めることができる。式中、添え字のcは補木を、tは木を表している。
【0056】
補木は、例えば深さ優先探索によって選択される。具体的には、管路網モデル構築部40は、管路番号1の始点節点からスタートし、管路番号の終点を探索する。状態変数算出部42は、この探索を管路番号Mまで繰り返し、その始点および終点をスタックに追加していき、スタック内で重複する節点番号が3回以上現れた時点の管路番号を補木とする。
【0057】
図3および
図4に示すモデルの場合、基本閉路行列Bは、補木である管路(3)、(5)に対応する列が前列になるように、列を入れ替えることにより、式(18)に変形できる。基本閉路の定義から、補木に関する成分は単位行列となる。
【0059】
この結果を受けて、同じように列を入れ替えることで、式(19)に示すように、行列A*
c、A*
tが得られる。以上説明した理論に基づけば、上記の管路網モデルに応じた演算を行うことにより、各管路を流れる水の流速を算出することができる。
【0061】
[漏水量の推定]
このように、接続行列Aの成分を木と補木の成分に分離することにより、漏水量の推定に係る演算を補木と木とで独立させて行うことが可能となる。支配方程式である式(2)、(3)及び(9)の3式をそれぞれグラフの木及び補木の部分に分けて書き下すと式(20)、(21)、(22)及び(23)となる。
【0065】
[水圧センサの配置位置の選択]
上記のように、グラフ理論を応用すれば、配水管路網を構成する管路を補木と木とに分類することができる。その結果、配水管路網の支配方程式も補木及び木の部分に分けて考えることが可能となる。すなわち、補木となる管路に関して圧力損失dP
cが計測できれば、配水管路網は、木となる管路で構成される1本の管路とみなすことが可能となる。1本の管路であれば各節点での漏水量は全圧力損失に直接影響することになるため、1つの系として扱うことができる。そのため、補木となる管路の両端に水圧センサが配置されれば、全ての節点における漏水量を推定することが可能となる。配置位置選択部16は、このような理由から、補木として抽出された管路の両端の節点を水圧センサの配置位置として選択する。
【0066】
図6は、配水管路網PNが1本の管路とみなされる一例を示す図である。
図6の左図は、配水管路網PNの4つのループに対して、黒四角で示される4つの管路が補木として抽出されたことを示している。この場合、配水管路網PNは、
図6の右図のような一本の管路と等価となる。そして、黒丸の節点が水圧センサの配置位置として選択される。
【0067】
例えば、節点数がN、管路数がM、ループ数がFであるグラフ構造を持つ配水管路網において、各節点での漏水量を算出するためには、従来、全ての節点において水圧センサが必要であった。すなわち、N個の水圧センサが必要であった。これに対して、第1の実施形態の配置位置選択装置1は、水圧センサが配置される位置として2×F−α+β個の節点を選択する。このような、配置位置の選択によって、漏水診断に必要となる水圧センサの数を削減することが可能となる。αは補木となる管路において重複する節点の数を表し、βは、ループを構成する構成する経路上にある節点の数を表す。具体的には、
図6の例の場合、節点100がαに対応する節点である。また、節点101がβに対応する節点である。
【0068】
このように構成された第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1は、配水管路網2の接続構成をグラフ構造として表す接続行列に基づいて、配水管路網2を構成する管路から、ループを構成する補木となる管路を抽出する。そして、センサ配置位置選択装置1は、補木として抽出された管路の両端を、水圧センサの設置位置として選択する。このような機能を備えることにより、センサ配置位置選択装置1は、複数の管路の節点から水圧センサの効率的な配置位置を選択することが可能となる。
【0069】
以下、第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1の変形例について説明する。
【0070】
センサ配置位置選択装置1は、管路網の構成に基づいて、配水管路網2のグラフ構造を集約するグラフ構造集約部17を備えてもよい。
図7は、変形例のセンサ配置位置選択装置1aの機能構成を示す機能ブロック図である。グラフ構造集約部17は、配水管路網情報記憶部11に記憶された情報に基づいて、補木抽出部15と同様の方法で、各管路を木と補木とに分類する。グラフ構造集約部17は、木となる管路のグラフ構造について、以下に示すような集約を行う。
【0071】
図8は、グラフ構造を集約する第1の方法の概要を示す概略図である。
図8は、グラフ構造を集約する第1の方法として、木となる管路のグラフ構造に基づいて管路を枝と幹とに分類し、枝となった管路を幹となった管路に集約する方法を示す。
図8の左図は、集約前の管路の例を示す図である。
図8の右図は、集約後の管路の例を示す図である。
図8における各節点の大きさは、各節点における水の使用量を表している。この場合、例えば、グラフ構造集約部17は、左図の4つの管路を右図の1つの管路に集約してもよい。グラフ構造集約部17は、このような集約の結果を、配水管路網情報記憶部11に記憶された情報に反映させる。
【0072】
また、上記の管路の集約は、配置位置選択部16の選択結果が、既存の水圧センサの配置位置となる程度に行われてもよい。このような集約が行われることによって、既存の水圧センサを用いた場合であっても、(漏水診断の解像度は荒くなるが)節点ごとの漏水量の推定を行うことができる。
【0073】
図9は、グラフ構造を集約する第2の方法の概要を示す概略図である。
図9は、グラフ構造を集約する第2の方法として、口径の小さい管路を集約する方法を示す。
図8と同様に、
図9の左図は集約前の管路の例を示し、右図は集約後の管路の例を示す。この場合、グラフ構造集約部17は、左図の破線に示された口径の小さい管路をそれ以外の管路に集約してもよい。この場合、グラフ構造集約部17は、破線に示された管路は他の管路に集約するのではなく、単純に無視してもよい。グラフ構造集約部17は、このような集約の結果を、配水管路網情報記憶部11に記憶された情報に反映させる。
【0074】
また、センサ配置位置選択装置1aによって選択される配置位置は、抽出される補木の組み合わせによって異なる。
図10は、異なる配置位置が選択される場合の具体例を示す図である。
図10において、破線で示された管路が補木として抽出された管路である。
図10の左図と右図とは、それぞれ異なる組み合わせで補木が抽出されている。このとき、左図における水圧センサの数は7個、右図の水圧センサの数は8個となる。よって、左図の組み合わせを選択する方が、水圧センサの数を削減するという点で有利である。
【0075】
なお、上述したグラフ構造の集約や補木の組み合わせの選択は、水圧センサの数を削減することを可能にする一方で、水圧センサによって取得される情報量が減少することになり、漏水診断の解像度が低下することになる。ここでいう漏水診断の解像度とは、漏水量を推定することが可能な単位の細かさを意味する。すなわち、水圧センサの数を減らすことと漏水診断の解像度とはトレードオフの関係にある。そのため、水圧センサの数の削減は、両者が適切なバランスとなるように行われるとよい。
【0076】
また、補木抽出部15は、水圧センサの配置位置に選択される節点に関して予め設定された目標条件を満たすように補木となる管路を抽出するように構成されてもよい。例えば、目標条件には、水圧センサの設置可否が設定されてもよい。この場合、補木抽出部15は、補木となる管路が水圧センサの設置が可能な節点を持つ場合に当該管路を抽出する。
【0077】
また、このような目標条件は、選択される水圧センサの配置位置について設定されてもよい。例えば、選択される水圧センサの配置位置が既存の水圧センサの配置位置となるように目標条件が設定されてもよい。この場合、配置位置選択部16は、抽出された補木となる管路の両端の節点に近い位置に設置された既存の水圧センサの位置を配置位置として選択してもよい。
【0078】
センサ配置位置選択装置は、ユーザに対して、配水管路網情報記憶部11に記憶される配水管路網情報の更新を促すように構成されてもよい。例えば、センサ配置位置選択装置は、現在記憶されている配水管路網情報よりも新しい配水管路網情報が存在する場合、新しい配水管路網情報の存在を示す情報を外部から取得し、ユーザに更新を促す通知を行う更新通知部を備えてもよい。
【0079】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1によって選択された配置位置に設置された水圧センサと、配水管路網PNへの水の供給量を計測する流量計と、各管路の節点に配置されたスマートメータと、を用いて各節点における漏水を診断する漏水量推定装置2について説明する。
【0080】
図11は、第2の実施形態の漏水量推定装置2の機能構成を示す機能ブロック図である。
漏水量推定装置2は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、漏水診断プログラムを実行する。漏水量推定装置2は、漏水診断プログラムの実行によって入力部21、出力部22、計測データ取得部23、管路網モデル構築部24、漏水係数最適化部25及び漏水量推定部26を備える装置として機能する。なお、漏水量推定装置2の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。漏水診断プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。漏水診断プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0081】
入力部21は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、スイッチ等の入力デバイスを用いて構成されユーザの操作の入力を受け付ける。
【0082】
出力部22は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electroluminescence)等の表示装置および表示制御部、プリンタ、スピーカ等を含んで構成され、選択された水圧センサの配置位置に関する情報を出力する。
【0083】
計測データ取得部23は、配水管路網に設置された各種計測装置から、計測によって取得された計測データを取得する。
【0084】
管路網モデル構築部24は、第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1から配水管路網情報を取得する。管路網モデル構築部24は、取得した配水管路網情報に基づいて、配水管路網の管路網モデルを構築する。管路網モデルの構築については、上述したとおりである。管路網モデル構築部24は、構築した管路網モデルに関する情報を漏水係数最適化部22に出力する。
【0085】
漏水係数最適化部25は、計測データ取得部23によって取得された計測データに基づいて、各節点の漏水量の推定に必要となる漏水係数を決定する。漏水係数最適化部25は、決定した漏水係数を漏水量推定部26に出力する。
【0086】
漏水量推定部26は、漏水係数最適化部25によって決定された漏水係数に基づいて、各節点における漏水量を算出する。漏水量推定部26は、算出された各節点における漏水量を、漏水量の推定値として出力部22に出力する。
【0087】
[漏水係数の決定]
第1の実施形態でも説明したように、補木として抽出された管路の両端の水圧が計測できれば、N個の節点を持つ配水管路網2は、N−1の節点から水が引き抜かれる1本の管路(以下、「仮想管路」という。)と等価となる。そして、ある時刻の仮想管路における有効水圧差dPと、各管路の差圧dP
jとの関係は
図12の具体例のように表される。
図12に示されるように、1本の仮想管路であれば、各節点での漏水量と水圧差の関係が一意に決まるため、配水管路網の各節点における漏水量の推定は、制約付き非線形最適化問題として定式化することができる。以下、このような制約付き非線形最適化問題の定式化の方法について、2つの具体例を示す。
【0088】
[第1の方法]
第1の方法は、全漏水量が各節点での漏水量の総和として表されることを制約とし、各時刻において計測された計測データに基づいて、仮想管路の始点から終点までの差圧が実測値に漸近するように漏水係数k
iを最適化する方法である。漏水係数k
iは、各節点における漏水量の推定値を決定する係数であり、水圧の1.15乗に比例すると仮定すれば式(24)で表される。
【0090】
この場合、第1の方法では、各節点における漏水量の推定は式(25)のように定式化される。
【0092】
なお、仮想管路の始点から終点までの差圧dP(t)及び漏水量の総量L
totalは計測可能であり既知である。漏水量の総量L
totalは式(26)で表される。
【0094】
上記の最適化問題を解くことにより漏水係数k
iが求められる。漏水係数k
iが決まれば、式(27)の非線形連立方程式を収束計算で求解することでV
tが求められる。
【0096】
[第2の方法]
第2の方法は、第1の方法における全漏水量に関する制約条件を一部緩和して漏水係数k
iを最適化する方法である。この場合、第2の方法では、各節点における漏水量の推定は、例えば式(28)のように定式化する。
【0098】
ここでは、最適化すべき目的関数をf
1及びf
2の和としたが、f
1及びf
2の積など他の式で定式化されてもよい。
【0099】
上述した定式化の方法をブロック図で表した場合、
図13のように表される。また、上記のように定式化された最適化問題を求解する手法には任意の手法が用いられてもよい。例えば、次の式(29)に示されるニュートン法による探索によって、最適化問題の求解が行われてもよい。式(29)において、Fは目的関数の行列表現であり、Jはヤコビ行列である。
【0101】
このように構成された第2の実施形態の漏水量推定装置2は、第1の実施形態のセンサ配置位置選択装置1によって選択された節点に配置された水圧センサによって計測された水圧と、配水管路網の各節点を通る開管路の始点から終点までの差圧と、前記配水管路網内の漏水量の総量と、各節点への流入流量と、各節点での水の使用量と、に基づいて各節点における漏水係数を決定変数とする最適化問題を解くことで、各節点における漏水係数を決定する漏水係数最適化部と、前記決定された漏水係数と、前記配水管路網における節点間の接続関係を反映した流体の運動方程式に基づいて節点ごとの漏水量を推定する漏水量推定部とを持つことにより、より少ない水圧センサで各節点の漏水量を推定することが可能となる。
【0102】
図14は、漏水量の推定のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図14における左図は、シミュレーション結果を示す図である。また、
図14の右図は、シミュレーションで想定された環境における実測値を示す図である。いずれの図においても、横軸は各節点を表し、縦軸は各節点における漏水量を表す。図からも明らかなように、上記方法によって各節点における漏水量が精度よく推定できることが分かる。このように、実施形態の漏水量推定装置2は、漏水量が圧力に依存して変化する場合であっても、各節点の漏水量を推定することが可能となる。
【0103】
以下、第2の実施形態の漏水量推定装置2の変形例について説明する。
【0104】
漏水量推定装置2は、このように推定された節点毎の漏水量を、例えば
図15に示す画面(画像)で、出力部22に表示させてもよい。
図15は、実施形態の出力部22により表示される画面の一例を示す図である。出力部22の表示制御部は、例えば、節点毎の漏水量を棒グラフ等の態様で表示装置に表示させる。また、出力部22の表示制御部は、漏水量の大小によって節点を示すシンボルの色を変えて表示装置に表示させてもよい。
【0105】
また、配水管路網にスマートメータが取り付けられていない節点が存在する場合、漏水量推定装置2は、当該節点における水の使用量を示す情報として水道メータにより取得された検針データを用いてもよい。
【0106】
漏水量推定装置2は、管路が埋設されてからの年数や材質、土壌などの条件に応じて、漏水に基づく管路の更新の優先順位を算出するように構成されてもよい。この場合、漏水量推定装置2は、管路が埋設されてからの年数や材質、土壌などの条件を含む埋設条件を示す埋設条件情報を記憶する埋設条件情報記憶部と、漏水量推定部11によって推定された漏水量、及び埋設条件に基づいて管路の更新の優先順位を算出する更新優先順位算出部とを備える。
【0107】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、配水管路網を構成する管路の接続構成を示す情報に基づいて、配水管路網のグラフ構造を表す接続行列を生成する接続行列生成部と、接続行列に基づいて、配水管路網を構成する管路を配水管路網において開管路を構成する木となる管路と、木とともに閉管路を構成する補木となる管路とに分類し、補木となる管路を抽出する補木抽出部と、抽出された補木となる管路の両端の節点を水圧センサの配置位置として選択する選択部と、を持つことにより、水圧センサの効率的な配置位置を選択することができる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。