(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに隣接する前記線材間の隙間の幅をs、前記線材の配列方向に沿った前記線材の幅をwと規定した時に、式1で表される前記一次面の面積に対する前記隙間の面積を示す開口率Gは、0.2%以上、20%以下であり、前記隙間の幅sは、10μm以上、5mm以下である請求項8記載の濾過用フィルター。
[数1]
G={s/(s+w)}×100・・・(1)
互いに隣接する前記線材間の隙間の幅をs、前記線材の配列方向に沿った前記線材の幅をwと規定した時に、式1で表される前記一次面の面積に対する前記隙間の面積を示す開口率Gは、0.02%以上、20%以下であり、前記隙間の幅sは、1μm以上、5mm以下である請求項13記載の濾過用フィルター。
[数2]
G={s/(s+w)}×100・・・(1)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の濾過用フィルターを説明する。
図1は、実施形態の濾過用フィルターを適用した濾過処理装置の一例を示す概略構成図である。
濾過処理装置100は、被濾過液を貯留する被濾過液槽101と、実施形態の濾過用フィルター10と、処理液槽103と、濃縮汚泥槽104と、を有している。また、被濾過液槽101の被濾過液を濾過用フィルター10に圧送するポンプ106、処理液槽103の処理水(濾過済液)を排出させ、あるいは、濾過用フィルター10に返送するポンプ107、およびこれらを接続する複数の配管108などから構成されている。
【0013】
被濾過液槽101は、被濾過液を貯留する。被濾過液としては、SS粒子を含む水などが挙げられる。被濾過液槽101には、被濾過液槽101内を攪拌する撹拌機が設置されていてもよい。被濾過液槽101の形状、容量、材質等は、濾過処理装置100の用途などに応じて適宜決定することができ、特に制限されるものではない。
【0014】
濾過用フィルター10は、被濾過液中からSS粒子など濾過対象物を除去して処理水(濾過済液)を生成する。濾過用フィルター10の詳細な構成は後述する。
【0015】
処理液槽103は、処理液を貯留する。処理液は、濾過用フィルター10を被濾過液が通過することにより生成したものである。処理液槽103の形状、容量、材質等は、濾過処理装置100の用途などに応じて適宜決定することができ、特に制限されない。
【0016】
濃縮汚泥槽104は、被濾過液中から除去されたSS粒子を多く含む濃縮液を貯留する。濃縮液は、濾過用フィルター10の洗浄に使用した後の処理液である。濃縮汚泥槽104の形状、容量、材質等は、濾過処理装置100の用途などに応じて適宜決定することができ、特に制限されない。
【0017】
図2は、実施形態の濾過用フィルターを示す断面図である。また、
図3は、濾過用フィルターを端面側から見た時の断面図である。
濾過用フィルター10は、線材11を面状に配列させた濾過体12と、この濾過体12を支持する支持部材13と、を備えている。実施形態の濾過用フィルター10では、濾過体12は、長尺の線材11をコイル状に巻回させ、中空の筒状体に成形させたものからなる。このように成形した線材11によって、円筒面をもつ濾過体12が形成される。本実施形態の線材11は、延伸方向に対して直角な断面形状が三角形を成している。
【0018】
線材11は、互いに隣接する線材どうしの間、即ち、実施形態では隣接する周回線材11どうしの間を所定幅の隙間を保つように支持部材13に支持されている。これにより、円筒形の濾過体12は、その内周面12aと外周面12bとの間を貫通するスリット状の隙間16が形成される。
【0019】
なお、本実施形態では、濾過体12は、内周面12aが被濾過液が流入する一次面とされ、外周面12bが、濾過体12によって濾過された処理水が流出する二次面とされる。即ち、濾過用フィルター10は、略円筒形の内周面12a側が被濾過液の圧送によって大気圧よりも加圧され、外周面12b側が大気圧となる内圧型のフィルターを構成している。
【0020】
本実施形態の支持部材13は、その断面が例えば四角形である線材からなり、濾過体12の外周面12b側で線材11に接合されている。支持部材13は、例えば線材11の周回方向に沿って等間隔に4か所形成され、濾過体12の中心軸に対して平行に延び、巻回された線材11を外周面12b側から支持している。こうした支持部材13と線材11とは、例えば、焼結によって接合されている。
【0021】
このような構成の濾過用フィルター10は、略円筒形の濾過体12の内部に被濾過液を流入させ、隙間16を通過させて被濾過液の濾過を行い、濾過体12の外周面12bから濾過後の処理水を流出させる。
【0022】
図4は、濾過用フィルターの内周面側を示す要部拡大断面図である。
濾過体12のうち、被濾過液が流入する内周面(一次面)12aは平坦面である。即ち、線材11のうち、内周面(一次面)12a側は、平坦面11fとなっている。例えば、本実施形態のように、断面形状が三角形の線材11の場合、この三角形の1辺が内周面(一次面)12aに沿うように、線材11が支持部材13に支持され、三角形の頂点で線材11が支持部材13に接合される。
【0023】
また、周回違いで隣接する線材11,11どうしの隙間16は、断面形状が三角形の線材11を用いることによって、一次面12a側から、被濾過液が流出する二次面12b側に向けて幅が広がるように形成される。
【0024】
濾過用フィルター10を構成する濾過体12のうち、少なくとも被濾過液が流入する内周面(一次面)12a側、即ち、内周面(一次面)12a側に臨む線材11の平坦面11fには、複数(多数)の微細構造物5が形成されている。
微細構造物5は、例えば、円錐台形、楕円錐形、多角錐形、円錐台形、楕円錐台形、多角錐台形のうち、少なくともいずれか1つの形状である。実施形態の微細構造物5は、基端から先端に向けて先細りの針状構造物である。
【0025】
図5は、微細構造物が形成された線材を示す要部拡大模式図である。
微細構造物5は、線材11に例えば電気めっきによって形成しためっき層3から構成される。また、微細構造物5を構成するめっき層3と線材11との間には、めっき層3と線材11との密着性を高める下地層4が更に形成されていることが好ましい。
【0026】
微細構造物5を形成する線材11としては、濾過用フィルター10を用いて濾過される被濾過液中で使用できるものが用いられる。線材11の材料は、めっき処理を用いて、めっき層3、またはめっき層3および下地層4を容易に形成できるように、金属であることが好ましい。線材11に用いる金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などを用いることが好ましい。その中でも特に、線材11として、耐蝕性に優れ、低コストで、加工しやすい材料であるステンレス鋼線を用いることが好ましい。
【0027】
下地層4は、めっき層3の線材11への接着性を高めるために、必要に応じて設けられるものである。下地層4に用いられる材料としては、例えば、線材11の表面にニッケル合金からなるめっき層3を形成する場合、ニッケルまたはニッケル合金を用いることが好ましい。ニッケル合金としては、ホウ素、リン、亜鉛から選ばれる一種以上の元素を含有するものが挙げられる。
【0028】
下地層4の厚みは、めっき層3の線材11への接着性を向上させることができる厚み以上とされている。また、下地層4の厚みは、隙間16の幅が、濾過用フィルター10にSS粒子を含む被濾過液を通過させる際に適した大きさとなる範囲の厚みとされている。
【0029】
実施形態におけるめっき層3は、複数の微細構造物(本実施形態においては針状構造物)5が下地層4の表面に集合してなる複合体である。それぞれの微細構造物5では、微細構造物5の基端53aよりも線材11側の領域である基部5aが、隣接する他の微細構造物5の基部5aと一体化されている。このことにより、微細構造物5の基部5aは、下地層4の表面に連続して形成されている。
【0030】
本実施形態における微細構造物5は、例えば、円錐台形、楕円錐形、多角錐形、円錐台形、楕円錐台形、多角錐台形の形状を有する。このような錐形や錐台形の形状を有する各微細構造物5は、基端53aから先端52に向けて先細りの形状を有している。
図6に、こうした微細構造物5を針状構造物とした場合のSEM写真(二次電子像(SEI)、15.0kV、20000倍)を示す。
【0031】
針状構造物とされた微細構造物5どうしの間には、断面視で基端53aに近づくにつれて幅が狭くなる谷53が形成されている。谷53は、平面視で各微細構造物5を取り囲むように形成されている。各微細構造物5を取り囲む谷53は、隣接する別の微細構造物5を取り囲む谷53と平面視で繋がって形成されている。
【0032】
図5に示す濾過用フィルター10では、複数の微細構造物5の一部に、被濾過液中から捕捉したSS粒子が付着している。
線材11の単位面積(1μm
2)当たりの微細構造物5の数は、1.2〜10.0個/μm
2である。単位面積(1μm
2)当たりの微細構造物5の数が上記範囲未満であると、濾過用フィルター1とSS粒子を含む被濾過液との接触面積が不足して、深層濾過の機構の効果が不十分となるために、被濾過液中のSS粒子が捕捉されにくくなる。
【0033】
また、単位面積(1μm
2)当たりの微細構造物5の数が上記範囲未満であると、微細構造物5にSS粒子が捕捉されにくくなるため、ケーク7が形成されにくくなる。しかし、単位面積(1μm
2)当たりの微細構造物5の数が上記範囲を超えると、洗浄を行っても微細構造物5からSS粒子が除去されにくくなり、洗浄性が不十分となる。
【0034】
単位面積当たりの微細構造物5の数が1.2個/μm
2以上であると、濾過用フィルター1の表面積が十分に広くなり、隣接する微細構造物5間にSS粒子が引っかかりやすくなる。このため、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすく、捕捉されたSS粒子によってケーク7が形成されやすい濾過用フィルター10とすることができる。
【0035】
よって、濾過用フィルター10は、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉できる優れた除去機能を有するものとなる。単位面積当たりの微細構造物5の数は、よりSS粒子の除去機能の高い濾過用フィルター10とするために、3.0個/μm
2以上であることが好ましい。
【0036】
単位面積当たりの微細構造物5の数が10.0個/μm
2以下であると、隣接する微細構造物5間の隙間が狭くなりすぎることが防止される。このため、
図5に示すように、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されているケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成される。空間31は、ケーク7が形成された時に、ケーク濾過された処理水が流れる流路として機能する。
【0037】
このため、微細構造物5を有さないフィルターと比較すると、ケーク7を通過した処理液の得られる面積が大きくなるため、濾過流量を大きくすることができる。したがって、濾過用フィルター10は、SS粒子が除去されやすく、濾過流量の大きいものとなる。単位面積当たりの微細構造物5の数は、より濾過流量の大きい優れた濾過用フィルター10とするために、7.0個/μm
2以下であることが好ましい。
【0038】
線材11の単位面積(1μm
2)当たりの微細構造物5の数は、以下に示す方法により測定したものである。
濾過用フィルターを電子顕微鏡で観察し、縦2μm横2μm面積4μm
2の正方形内に存在する針状構造物の頂点の数を、4箇所測定する。そして、4箇所で測定した針状構造物の頂点の数を平均し、単位面積(1μm
2)当たりの針状構造物の数を算出する。
【0039】
線材11の断面における単位長さ(1μm)当たりの微細構造物5の数は1.0〜4.0個/μmである。上記の単位長さ(1μm)当たりの微細構造物5の数が上記範囲未満であると、濾過用フィルター10とSS粒子を含む被濾過液との接触面積が不足して、深層濾過の機構の効果が不十分となるので、被濾過液中のSS粒子が捕捉されにくくなる。
【0040】
一方、上述した単位長さ(1μm)当たりの微細構造物5の数が上記範囲を超えると、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されたケーク7とに囲まれた空間31が狭くなるため、濾過流量が少なくなる場合がある。
【0041】
上記の単位長さ当たりの微細構造物5の数が1.0個/μm以上であると、単位面積当たりの微細構造物5の数が1.2個/μm
2以上である場合と同様に、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉できる優れた除去機能を有するものとなる。上記の単位長さ当たりの微細構造物5の数は、よりSS粒子の除去機能の高い濾過用フィルター10とするために、1.5個/μm以上であることが好ましい。
【0042】
上記の単位長さ当たりの微細構造物5の数が4.0個/μm以下であると、単位面積当たりの微細構造物5の数が10.0個/μm
2以下である場合と同様に、隣接する微細構造物5間の隙間が狭くなりすぎることが防止される。このため、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されているケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成されるものとなり、濾過流量の大きな濾過用フィルター10にすることができる。上記の単位長さ当たりの微細構造物5の数は、より一層濾過流量の大きい濾過用フィルター10とするために、3.0個/μm以下であることが好ましい。
【0043】
線材11の断面における単位長さ(1μm)当たりの微細構造物5の数は、以下に示す方法により測定したものである。
濾過用フィルター10を埋め込み樹脂で固定して切断し、その切断面をイオンミリングで平滑化して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影する。その後、撮影したフィルター基材の断面の拡大写真におけるフィルター基材の表面の略延在方向に沿って、10μm当たりの針状の微細構造物の数を測定する。そして、測定した微細構造物の数から単位長さ(1μm)当たりの微細構造物の数を算出する。
【0044】
本実施形態において、線材11の断面における針状の微細構造物5の平均高さHおよび基端部の平均幅Dは、以下に示す部分の寸法を、以下に示す測定方法により測定したものである。
図5に示すように、線材11の断面において隣接する微細構造物5間には、谷53が形成されている。線材11の断面において、微細構造物5を挟んで対向する谷底である基端53a、53a間を、直線51でつなぎ、その長さを微細構造物5の基端部の幅D1、D2とする。また、微細構造物5の先端52と上記の直線51との最短距離を、微細構造物5の高さH1、H2とする。
【0045】
線材11の断面において、2つの微細構造物57、58が一体化されている場合(
図5における符号59で示す微細構造物)には、以下に示す部分の寸法を、微細構造物57、58の高さH3、H4および微細構造物57、58の基端部の幅D3、D4とした。
【0046】
まず、針状の微細構造物57、58が一体化された微細構造物59を挟んで対向する谷底である基端53a、53a間を、直線54でつなぐ。次いで、2つの微細構造物57、58間の谷55の谷底から直線54に向かって垂線56を引く。垂線56と直線54との交点から各基端53a、53aまでのそれぞれの距離を、微細構造物57、58の基端部の幅D3、D4とする。
【0047】
また、各微細構造物57、58の先端52a、52bと上記の直線54との最短距離を、各微細構造物57、58の高さH3、H4とする。なお、垂線56の長さが、微細構造物57、58の高さH3、H4の両方の高さの3/4未満である場合には、独立した2つの微細構造物とみなす。また、2つの微細構造物57、58が一体化されているとする基準は、前記独立した2つの微細構造物とみなされる場合以外とする。
【0048】
針状の微細構造物5の高さおよび微細構造物5の基端部の幅を測定するには、濾過用フィルター10を埋め込み樹脂で固定して切断し、その切断面をイオンミリングで研磨して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影する。その後、撮影した線材11の断面の拡大写真における線材の表面の略延在方向に沿う長さ10μmの範囲を1つの測定領域とし、4箇所の測定領域に存在する全ての上記の微細構造物5の高さおよび基端部の幅を測定する。そして、測定した4箇所の微細構造物5の高さの平均値を、微細構造物5の平均高さHとする。また、測定した4箇所の微細構造物5の基端部の幅の平均値を、微細構造物5の基端部の平均幅Dとする。
【0049】
線材11の断面における針状の微細構造物5の高さの変動係数は0.15〜0.50であることが好ましい。変動係数とは、上述した線材11の断面における微細構造物5の高さの分布の標準偏差を、前記微細構造物5の高さの算術平均値で除したものである。
【0050】
上記の変動係数が0.15〜0.50の範囲であると、より一層SS粒子の除去機能および洗浄性の優れた濾過用フィルター10となる。上記の変動係数が0.15未満であると、濾過用フィルター10にSS粒子を含む被濾過液を通過させる際に、濾過用フィルター10の表面でのSS粒子を含む被濾過液の流れが単調になり、微細構造物5にSS粒子が捕捉されにくくなる。また、上記の変動係数が0.50を超えると、高さの低い微細構造物5によってめっき層3の表面に形成されたケーク7を支える機能が得られにくくなる。
【0051】
上記の変動係数が0.15以上であると、微細構造物5の高さのばらつきが十分に大きいものとなる。このため、濾過用フィルター10にSS粒子を含む被濾過液を通過させる際に、濾過用フィルター10の表面でのSS粒子を含む被濾過液の流れが複雑になるとともに、高さの高い微細構造物5にSS粒子が引っかかりやすくなる。その結果、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすくなるとともに、高さの高い微細構造物5に引っかかったSS粒子を起点として、めっき層3の表面にケーク7が形成されやすくなる。上記の変動係数は、よりSS粒子が捕捉されやすい濾過用フィルター10とするために、0.18以上であることが好ましい。
【0052】
上記の変動係数が0.50以下であると、めっき層3の表面に形成されたケーク7を、高さの低い微細構造物5が支えることによって、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53とケーク7とに囲まれた空間31の広さが確保されやすくなる。このため、濾過によってケーク7が形成された後、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量が増大する。したがって、濾過用フィルター10は、針状構造物のないフィルターと比較して濾過流量に優れたものとなる。上記の変動係数は、より一層、濾過流量の多い濾過用フィルター10とするために、0.36以下であることが好ましい。
【0053】
線材11の断面における針状の微細構造物5の基端部の平均幅Dと平均高さHとのアスペクト比H/Dは0.5〜4.0であることが好ましい。アスペクト比H/Dが0.5以上であると、隣接する針状の微細構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されたケーク7とに囲まれた十分な高さの空間31が形成される。
【0054】
このため、濾過によってケーク7が形成された後に、ケーク濾過された処理水が空間31内を流れやすくなり、濾過流量に優れたものとなる。アスペクト比H/Dは、より一層濾過流量の大きな濾過用フィルター10とするために、1.0以上であることが好ましい。アスペクト比H/Dが4.0以下であると、強度に優れた微細構造物5となるため、耐久性に優れた濾過用フィルター10となる。アスペクト比H/Dは、より一層耐久性の優れた濾過用フィルター10とするために、3.0以下であることが好ましい。
【0055】
線材11の断面における針状の微細構造物5の平均高さHは、0.2〜2.5μmであることが好ましい。上記の微細構造物5の平均高さHが0.2μm以上であると、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されるケーク7とに囲まれた十分な高さの空間31が形成される。このため、濾過の際にケークが形成された後に、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量に優れたものとなる。
【0056】
上記の微細構造物5の平均高さHは、より一層濾過流量の優れた濾過用フィルター10とするために、0.4μm以上であることが好ましい。上記の針状の微細構造物5の平均高さHが2.5μm以下であると、隣接する微細構造物5間の隙間が狭くなりすぎることが防止される。このため、10.0個/μm
2以下である場合と同様に、空間31が十分に確保された濾過流量に優れた濾過用フィルター10となる。上記の微細構造物5の平均高さHは、より一層濾過流量の優れた濾過用フィルター10とするために、1.8μm以下であることが好ましい。
【0057】
線材11の断面における針状の微細構造物5の基端部の平均幅Dと、除去対象物質の平均粒子径(D
50)φ(SS粒子の平均粒子径)との関係は、φ/D≧0.33を満足することが好ましい。上記φ/Dが0.33以上であると、SS粒子が隣接する微細構造物5間に形成されている谷53の谷底の近傍に入り込みにくいものとなる。したがって、谷53と、めっき層3上に形成されたケーク7とに囲まれた広い空間31が形成されやすくなる。よって、濾過用フィルター10は、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすく、濾過流量に優れたものとなる。
【0058】
上記φ/Dは、より一層濾過流量の多い濾過用フィルター10とするために、0.50以上であることが好ましい。また、上記φ/Dは3.00以下であることが好ましい。上記φ/Dが3.00以下であると、SS粒子が隣接する微細構造物5間に、より一層引っかかりやすいものとなる。
【0059】
このため、より一層、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすく、捕捉されたSS粒子によってケーク7が形成されやすい濾過用フィルター10となる。上記φ/Dは、よりSS粒子が捕捉されやすい濾過用フィルター1とするために、2.00以下であることがより好ましい。
ここで、平均粒子径φは、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
【0060】
複数の微細構造物5で形成されためっき層3に用いられる金属としては、電気めっき等の処理によって、線材11や下地層4の表面に複数の微細構造物5を析出できるものを用いる。このような金属としては、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などが挙げられる。めっき層3に用いられる金属としては、上記の金属の中でも特に、微細構造物5の形状の制御がしやすく耐食性に優れた金属であるため、ニッケルまたはニッケル合金を用いることが好ましい。ニッケル合金としては、ホウ素、リン、亜鉛から選ばれる一種以上の元素を含有するものが挙げられる。
【0061】
図7は、線材を示す模式図である。
微細構造物5の形状を、円錐台形、楕円錐形、多角錐形、円錐台形、楕円錐台形、多角錐台形などの錐形や錐台形にした場合、濾過体12の内周面(一次面)12aの面積に対する隙間16の面積(内周面を平面視した時の隙間の平面積)の割合を示す開口率Gは、0.2%以上、20%以下にすることが好ましい。
【0062】
ここで、開口率Gは、互いに隣接する線材11間の隙間16の幅をs、線材11の配列方向に沿った線材11の幅をwと規定した時に、以下の式1で表される。
G=[s/(s+w)]×100・・・(1)
【0063】
なお、sで示される線材11の隙間16の幅sは、10μm以上、5mm以下にすることが好ましい。
【0064】
微細構造物5を錐形や錐台形、例えば針状構造物にした場合に、開口率Gが0.2%未満であると、濾過された処理水の通水量が少なくなり過ぎて、効率的に被濾過液の濾過を行うことが難しくなる。開口率Gを0.2%以上に保つことによって、処理水の通水量を適切に保つことができ、効率的に被濾過液の濾過を行うことができる。一方、開口率Gが20%を超えると、捕捉したSSによるブリッジが形成されにくくなり、ケーク濾過による濾過性能が低下する懸念がある。開口率Gを20%以下に保つことによって、ケーク濾過による濾過性能を高めることができる。
【0065】
上述した実施形態では、微細構造物5を錐形や錐台形、例えば針状構造物にした例を説明したが、微細構造物5を多面体形状に形成することも好ましい。
図8、
図9は、こうした微細構造物5を多面体構造物とした場合のSEM写真(二次電子像(SEI)、15.0kV、2000倍(
図8)、5000倍(
図9))を示す。
微細構造物5を多面体構造物とした場合、複数の多面体が相互に結合して体積の一部を共有している。多面体形状の微細構造物5は、それぞれ、3つ以上の平面が交わる頂点を複数有している。各微細構造物5は、
図8および
図9に示すように、それぞれ異なる形状および異なる大きさを有しており、線材11の平坦面11f、またはこの平坦面11fに形成された下地層4(
図5参照)の表面に密集して形成されている。その結果、多面体形状の辺に相当する部分は、不規則な方向を向いている。
【0066】
多面体形状の微細構造物5の最大外形寸法の平均値は0.5〜10μmが好ましい。析出物の平均最大外形寸法が上記範囲内であると、被濾過液中のSS粒子が引っかかりやすいものとなる。
【0067】
特に、被濾過液中のSS粒子の平均粒子径が0.1〜10μmである場合、めっき層3にSS粒子が引っかかりやすいものとなる。したがって、被濾過液中のSS粒子の平均粒子径が上記範囲である場合に、深層濾過の機構によって効率よくSS粒子を捕捉できる。また、析出物の平均最大外形寸法が上記範囲内であると、めっき層3にSS粒子が引っかかりやすいため、濾過用フィルター10に捕捉されたSS粒子によってケークが形成されやすくなる。その結果、ケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉しやすいものとなり、SS粒子を除去する機能の高い濾過用フィルター10となる。
【0068】
多面体形状の微細構造物5の平均最大外形寸法が0.5μm未満であると、めっき層3の表面の凹凸が減少するとともに、多面体形状の析出物の間の空隙を通る被濾過液量が低下して、めっき層3へのSS粒子の付着が起こりにくくなる。多面体形状の微細構造物5の平均最大外形寸法は、2μm以上であることがさらに好ましい。また、多面体形状の微細構造物5の平均最大外形寸法が10μmを超えると、めっき層3とSS粒子を含む被濾過液との接触面積が減少して、めっき層3へのSS粒子の付着が起こりにくくなる。多面体形状の微細構造物5の平均最大外形寸法は、8μm以下であることがさらに好ましい。
【0069】
多面体形状の微細構造物5における平均最大外形寸法の変動係数は0.15〜0.50であることが好ましい。変動係数が0.15〜0.50の範囲であると、より一層SS粒子の除去機能および洗浄性の優れた濾過用フィルター10となる。上記の変動係数が0.15未満であると、濾過用フィルター10にSS粒子を含む被濾過液を通過させる際に、濾過用フィルター10の表面でのSS粒子を含む被濾過液の流れが単調になり、微細構造物5にSS粒子が捕捉されにくくなる。また、上記の変動係数が0.50を超えると、高さの低い微細構造物5によってめっき層3の表面に形成されたケーク7を支える機能が得られにくくなる。
【0070】
上記の変動係数が0.15以上であると、微細構造物5の高さのばらつきが十分に大きいものとなる。このため、濾過用フィルター10にSS粒子を含む被濾過液を通過させる際に、濾過用フィルター10の表面でのSS粒子を含む被濾過液の流れが複雑になるとともに、高さの高い微細構造物5にSS粒子が引っかかりやすくなる。その結果、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすくなるとともに、高さの高い微細構造物5に引っかかったSS粒子を起点として、めっき層3の表面にケーク7が形成されやすくなる。上記の変動係数は、よりSS粒子が捕捉されやすい濾過用フィルター10とするために、0.18以上であることが好ましい。
【0071】
上記の変動係数が0.50以下であると、めっき層3の表面に形成されたケーク7を、高さの低い微細構造物5が支えることによって、隣接する微細構造物5間に形成されている谷53とケーク7とに囲まれた空間31の広さが確保されやすくなる。このため、濾過によってケーク7が形成された後、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量が増大する。したがって、濾過用フィルター10は、多面体構造物のないフィルターと比較して濾過流量に優れたものとなる。上記の変動係数は、より一層、濾過流量の多い濾過用フィルター10とするために、0.36以下であることが好ましい。
【0072】
多面体形状の微細構造物5の平均最大外形寸法は、以下に示す測定方法により測定する。
即ち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大した濾過用フィルター10の写真を撮影し、画像処理を行う。具体的には、多面体形状の微細構造物5の最も大きさの大きい部分の外形寸法を、一つの写真に対して代表的な10か所を選択して測定し、その平均値を平均最大外形寸法と定義する。
【0073】
めっき層3に用いられる金属としては、めっき処理によって、フィルター基材の表面に多面体形状の複数の微細構造物5が得られるものを用いる。このような金属としては、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などが挙げられる。めっき層3に用いられる金属としては、上記の金属の中でも特に、形状が制御しやすく耐食性に優れた金属であるため、ニッケルまたはニッケル合金を用いることが好ましい。ニッケル合金としては、ホウ素、リン、亜鉛から選ばれる一種以上の元素を含有するものが挙げられる。
【0074】
微細構造物5の形状を多面体形状にした場合、濾過体12の内周面(一次面)12aの面積に対する隙間16の面積(内周面を平面視した時の隙間の平面積)の割合を示す開口率Gは、0.02%以上、20%以下にすることが好ましい。
【0075】
ここで、開口率Gは、互いに隣接する線材11間の隙間16の幅をs、線材11の配列方向に沿った線材11の幅をwと規定した時に、以下の式1で表される。
G=[s/(s+w)]×100・・・(1)
【0076】
なお、sで示される線材11の隙間16の幅sは、1μm以上、5mm以下にすることが好ましい。
【0077】
微細構造物5を多面体構造物にした場合に、開口率Gが0.02%未満であると、濾過された処理水の通水量が少なくなり過ぎて、効率的に被濾過液の濾過を行うことが難しくなる。開口率Gを0.02%以上に保つことによって、処理水の通水量を適切に保つことができ、効率的に被濾過液の濾過を行うことができる。一方、開口率Gが20%を超えると、捕捉したSSによるブリッジが形成されにくくなり、ケーク濾過による濾過性能が低下する懸念がある。開口率Gを20%以下に保つことによって、ケーク濾過による濾過性能を高めることができる。
【0078】
以上、詳細に説明した実施形態の濾過用フィルターを適用した濾過処理装置の作用を説明する。
濾過処理装置100を用いて、例えばSS粒子を含む被濾過液を濾過して処理水を得る際には、まず、ポンプ106によって、被濾過液槽101に貯留されている被濾過液を濾過用フィルター10に向けて圧送する。
【0079】
被濾過液は、円筒形の濾過用フィルター10の内部に入ると、濾過用フィルター10の内周面(一次面)12a、即ち線材11の平坦面11aに形成された多数の微細構造物5からなるめっき層3によって、SS粒子が捕捉される。濾過用フィルター10は、複数の微細構造物5を所定の密度で有するものであるため、濾過用フィルター10とSS粒子を含む被濾過液との接触面積が多い。このため、表面濾過および深層濾過の機構によって微細構造物5の表面に付着したSS粒子を起点として、めっき層3の表面の複数の箇所で速やかにSS粒子の凝集物が形成される。
【0080】
形成された凝集物は、濾過用フィルター10へのSS粒子を含む被濾過液の通過を継続させることにより、成長して剥離し、SS粒子を含む被濾過液とともに隙間16に向かって移動する。隙間16に移動した1つまたは複数の凝集物は、隙間16を塞ぐブリッジ状のケーク7となる。このように、本実施形態の処理方法では、表面濾過の機構だけでなく、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構も利用して、被濾過液中の小さなSS粒子を除去できる。よって、優れた濾過性能が得られる。
【0081】
濾過用フィルター10は、
図5に示すように、隣接する微細構造物5間に谷53を有している。谷53は、断面視で谷底である基端53aに近づくにつれて幅が狭くなっている。このため、濾過用フィルター10に捕捉されたSS粒子は、谷53の基端53a近傍には入り込みにくい。
【0082】
したがって、めっき層3の表面にケーク7が形成されている濾過用フィルター10では、
図5に示すように、谷53とケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成される。空間31が形成された後、さらに濾過用フィルター10へのSS粒子を含む被濾過液の通過を継続させても、空間31の上部はケーク7で形成された蓋が被せられた状態となっているため、SS粒子は空間31内に入り込みにくい。したがって、濾過用フィルター10へのSS粒子を含む被濾過液の通過を継続させると、ケーク7上にさらにSS粒子が堆積される。
【0083】
こうした多数の微細構造物5からなるめっき層3によって、SS粒子を含む被濾過液からSS粒子を効率的に、かつ確実に捕捉して除去することができる。そして、SS粒子が除去された処理水は、線材11どうしの隙間16を通り、濾過用フィルター10の外周面(二次面)12bから処理液槽103に排出される。
【0084】
このように、実施形態の濾過用フィルター10によれば、線材11をコイル状に巻回させてなる濾過体12は、被濾過液が流入する内周面(一次面)12a側に、例えば針状や多面体の微細構造物5を多数形成することによって、SS粒子を含む被濾過液からSS粒子を効率的に、かつ確実に捕捉して除去することが可能になる。
【0085】
また、実施形態のように、多数の微細構造物5を、被濾過液が流入する内周面(一次面)12aを構成する線材11の平坦面11fに形成することによって、被濾過液の流入時の内圧が局部的に集中することなく均一に印加される。これによって、内圧に対する濾過体12の耐久性が高められる。また、内圧が局部的に集中することがないので、微細構造物5の損傷や隔離を防止し、効果的にブリッジ状のケーク7を形成できる。
【0086】
なお、濾過用フィルター10の内部にケークが多量に堆積して通水量が低下した際には、濾過用フィルター10の外周面(二次面)12b側から内周面(一次面)12aに向けて通水する逆洗浄を行うことが好ましい。こうした逆洗浄によって排出されたケークは、汚泥として濃縮汚泥槽104に集められる。逆洗浄に用いる洗浄水は、例えば、処理液槽103に貯留された処理水の一部を用いて、ポンプ107によって濾過用フィルター10の外周面(二次面)12b側に逆送すればよい。
【0087】
濾過用フィルター10の逆洗浄は、濾過用フィルター10が一定量のSS粒子を捕捉した段階で行うことが好ましい。洗浄を行うタイミングは、特に限定されるものではなく、濾過用フィルター10に通過させる被濾過液に含まれるSS粒子の量などに応じて適宜決定できる。洗浄は、濾過用フィルター10に、SS粒子を含む被濾過液を通過させた方向と反対向きに洗浄液を通過(逆洗)させる以外にも、濾過用フィルター10の表面に洗浄液を流したりして行うこともできる。
【0088】
本実施形態では、こうした濾過用フィルター10の逆洗浄を行う際には、断面が三角形の線材11の三角形の頂点側から処理水を流入させるため、圧損を少なくして効率よく堆積したケークを取り除くことができる。即ち、断面が三角形の線材11によって、隙間16は、外周面(二次面)12b側から内周面(一次面)12a側に向けて幅が狭められるので、処理水が隙間16に向かって流れやすく、かつ、内周面(一次面)12a側の隙間16の狭められた部分に存在するケークを早い流速で効率的に除去できる。
【0089】
本実施形態において、濾過用フィルター10の逆洗を行うと、空間31には、各微細構造物5を取り囲むように形成された谷53を介して、多方向から洗浄液が流入する。このことにより、谷53の上部の少なくとも一部を覆うように形成されていたケーク7が、洗浄液に押し上げられて、ケーク7の剥離が促進される。また、濾過用フィルター10の微細構造物5は、基端53aから先端52に向けて先細りの形状を有している。
【0090】
このため、洗浄液に押し上げられたケーク7は、濾過用フィルター10から容易に剥離される。また、微細構造物5が先細りの形状を有しているので、微細構造物5に付着しているSS粒子が逆洗時に谷53に挟まりにくく、微細構造物5から容易に剥離される。したがって、逆洗を行うことにより、濾過用フィルター10に堆積したSS粒子が速やかに除去され、水濾過用フィルター10が再生される。
【0091】
上述した実施形態では、内圧式の濾過用フィルター10を例示したが、略円筒形の濾過体の外周面から内周面に向けて被濾過液を流す外圧式の濾過用フィルターとすることもできる。
図10は、別な実施形態の濾過用フィルターを端面側から見た時の断面図である。また、
図11は、別な実施形態の濾過用フィルターの内周面側を示す要部拡大断面図である。
本実施形態の濾過用フィルター60は、線材61を面状に配列させた濾過体62と、この濾過体62を支持する支持部材63と、を備えている。本実施形態の濾過用フィルター60では、濾過体62は、長尺の線材61をコイル状に巻回させ、中空の筒状体に成形させたものからなる。このように成形した線材61によって、円筒面をもつ濾過体62が形成される。実施形態の線材61は、延伸方向に対して直角な断面形状が矩形である。
【0092】
線材61は、互いに隣接する線材どうしの間、即ち、本実施形態では隣接する周回線材61どうしの間を所定幅の隙間66を保って離間させるように支持部材63に固着されている。このような線材61に形成されたスリット状の隙間66によって、濾過体62の内周面62aと外周面62bとの間で処理水の通過が可能とされる。
【0093】
本実施形態では、濾過体62は、外周面62bが被濾過液が流入する一次面とされ、内周面12aが、濾過体62によって濾過された処理水が流出する二次面とされる。即ち、本実施形態の濾過用フィルター60は、略円筒形の外周面62b側が被濾過液の圧送によって大気圧よりも加圧され、内周面62a側が大気圧となる外圧型のフィルターを構成している。
【0094】
支持部材63は、例えば、断面が矩形や三角形の線材からなり、濾過体62の内部に配置され、内周面62a側で線材61に接合されている。支持部材63は、例えば濾過体62の内部に十字型に形成され、巻回された線材61を内周面62a側から支持している。こうした支持部材63と線材61とは、例えば、焼結によって接合されている。
【0095】
このような濾過用フィルター60を構成する濾過体62のうち、被濾過液が流入する外周面(一次面)62b側、および隙間66の内表面には、複数(多数)の微細構造物5が形成されている。微細構造物5は、例えば、
図6に示す針状構造物や、
図8、
図9に示す多面体構造物等であればよい。
【0096】
上述した実施形態では、濾過用フィルターを構成する線材として、断面が三角形の線材を用いた例を示したが、断面形状が例えば台形の線材を用いて濾過用フィルターを形成することもできる。
図12は、別な実施形態の内圧式の濾過用フィルターの内周面側を示す要部拡大断面図である。
本実施形態の濾過用フィルター70は、延伸方向に対して直角な断面形状が台形である線材71をコイル状に巻回させ、中空の筒状体にした濾過体72を備えている。線材71は、互いに隣接する線材どうしの間、即ち、本実施形態では隣接する周回線材71どうしの間を所定幅の隙間76を保って離間させるように、外周面(二次面)72b側で支持部材73に支持されている。このような線材71,71どうしの隙間76によって、円筒形の濾過体72の内周面72aと外周面72bとの間で処理水が通過可能にされている。隙間76は、断面が台形である線材71によって、内周面(一次面)72a側から外周面(二次面)72b側に向けて幅が広がるように形成される。
【0097】
本実施形態では、濾過体72は、内周面72aが被濾過液が流入する一次面とされ、外周面72bが、濾過体72によって濾過された処理水が流出する二次面とされる。濾過体72のうち、被濾過液が流入する内周面(一次面)72a側に臨む線材71は平坦面71fを成している。即ち、本実施形態のように、断面形状が台形の線材71の場合、この台形の1辺が内周面(一次面)72aに沿うように、線材71が支持部材73に支持され、台形の他方の一辺で線材71が支持部材13に接合される。
【0098】
このような濾過用フィルター70を構成する濾過体72のうち、被濾過液が流入する平坦な内周面(一次面)72a側から隙間76の内表面まで、複数(多数)の微細構造物5が形成されている。微細構造物5は、例えば、
図6に示す針状構造物や、
図8、
図9に示す多面体構造物等であればよい。
【0099】
図13は、別な実施形態の外圧式の濾過用フィルターの内周面側を示す要部拡大断面図である。
本実施形態の濾過用フィルター80は、延伸方向に対して直角な断面形状が逆台形である線材81をコイル状に巻回させ、中空の筒状体にした濾過体82を備えている。線材81は、互いに隣接する線材どうしの間、即ち、本実施形態では隣接する周回線材81どうしの間を所定幅の隙間86を保って離間させるように、内周面(一次面)82a側で支持部材83に支持されている。このような線材81,81どうしの隙間86によって、円筒形の濾過体82の内周面82aと外周面82bとの間で処理水が通過可能にされている。隙間86は、断面が逆台形である線材81によって、外周面(一次面)82b側から内周面(二次面)82a側に向けて幅が広がるように形成される。
【0100】
本実施形態では、濾過体82は、外周面82bが被濾過液が流入する一次面とされ、内周面82aが、濾過体82によって濾過された処理水が流出する二次面とされる。濾過体82のうち、被濾過液が流入する外周面(一次面)82b側に臨む線材81は平坦面81fを成している。即ち、本実施形態のように、断面形状が逆台形の線材81の場合、この台形の1辺が外周面(一次面)82bに沿うように、線材81が支持部材83に支持され、台形の他方の一辺で線材81が支持部材83に接合される。
【0101】
このような濾過用フィルター80を構成する濾過体82のうち、被濾過液が流入する平坦な外周面(一次面)82b側から隙間86の内表面まで、複数(多数)の微細構造物5が形成されている。微細構造物5は、例えば、
図6に示す針状構造物や、
図8、
図9に示す多面体構造物等であればよい。
【0102】
上述した実施形態では、線材をコイル状に巻回させた円筒形の濾過用フィルターを例示したが、複数本の線材を一面上に配列させ、平板状の濾過用フィルターにすることもできる。
図14は、別な実施形態の濾過用フィルターを示す外観斜視図である。また、
図15は、別な実施形態の濾過用フィルターを示す平面図である。
この実施形態の濾過用フィルター90は、複数の線材91を面状に配列させた濾過体92と、この濾過体92を支持する支持部材93と、を備えている。本実施形態の濾過用フィルター90では、濾過体92は、延伸方向に直角な断面形状が三角形である複数本の線材91を平面上に配列し、平板状に成形させたものからなる。
【0103】
線材91は、互いに隣接する線材91,91どうしの間を所定幅のスリット状の隙間96を保つように支持部材93に固着されている。本実施形態では、濾過体92は、一面92aが被濾過液が流入する一次面とされ、他面92bが、濾過体92によって濾過された処理水が流出する二次面とされる。
【0104】
支持部材93は、例えば、断面が矩形や三角形の線材からなり、濾過体92の他面92b側で線材91に接合されている。支持部材93は、例えば線材91の配列方向に沿って延びるように形成され、複数の線材91を接合している。こうした支持部材93と線材91とは、例えば、焼結によって接合されている。
【0105】
このような構成の濾過用フィルター90は、
図14における上側となる一面(一次面)92a側に臨む線材91は平坦面91fを成している。即ち、本実施形態のように、断面形状が三角形の線材91の場合、この三角形の1辺が一面(一次面)92aに沿うように、線材91が支持部材93に支持され、三角形の頂点で線材91が支持部材93に接合される。
【0106】
濾過用フィルター90は、
図14における上側となる一面(一次面)92a側から被濾過液を流入させ、隙間96を通過させて被濾過液の濾過を行い、他面(二次面)92bから濾過後の処理水を流出させる。濾過用フィルター90の周囲には、この濾過用フィルター90を通過させる被濾過液の流路となる枠体(外装体)99が形成されていればよい。
【0107】
濾過用フィルター90を構成する濾過体92のうち、少なくとも被濾過液が流入する平坦な一面(一次面)92a側には、複数(多数)の微細構造物5が形成されている。微細構造物5は、微細構造物5は、例えば、
図6に示す針状構造物や、
図8、
図9に示す多面体構造物等であればよい。
【0108】
次に、濾過用フィルターの製造方法の一例について説明する。
線材に針状の微細構造物を備えた、
図2に示す濾過用フィルターを製造するには、まず、線材11を用意する。線材11は、めっき処理を用いて、めっき層3、またはめっき層3および下地層4を容易に形成できるように、金属であることが好ましい(
図5参照)。線材11に用いる金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などを用いることが好ましい。その中でも特に、線材11として、耐蝕性に優れ、低コストで、加工しやすい材料であるステンレス鋼線を用いることが好ましい。
【0109】
次いで、長尺の線材11を巻回させ、周回間で所定幅の隙間16を保ちつつ、円筒形の濾過体12を形成する。線材11を円筒形に巻回させる際には、例えば、円柱状の型を用いて周面に線材11を巻き付けた後に型を取り除く方法が挙げられる。
【0110】
次いで、線材11を円筒形に巻回させた濾過体12の外周面12bに支持部材13を仮止めし、焼結によって線材11と支持部材13とを結合させる(焼結工程)。線材11と支持部材13とを焼結させる際には、例えば、非酸化雰囲気下で電気炉によって加熱を行う方法が挙げられる。
【0111】
次いで、円筒状に形成した線材11の表面、例えば内周面11a側に、めっき処理を用いて、下地層4を形成する。下地層4を形成するためのめっき処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層3を形成する前に、ステンレスからなる線材11の表面に下地層4を形成する場合には、電解ニッケルめっき処理または無電解ニッケルめっき処理を用いて、ニッケルまたはニッケル合金からなる下地層4を形成することが好ましい。
【0112】
次に、下地層4の設けられた線材11の内周面11a側に、電気めっき処理によって、複数の微細構造物5を析出させて、線材11をめっき層3で被覆する(めっき工程)。めっき層3を形成するための電気めっき処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、下地層4およびめっき層3がニッケルまたはニッケル合金からなるものである場合、下地層4の形成後、めっき浴に添加剤を添加して、連続して電解ニッケルめっき処理または無電解ニッケルめっき処理を用いて、めっき層3を形成することが好ましい。
【0113】
複数の微細構造物5を析出させる電気めっき処理では、めっき浴に添加する添加剤の種類、濃度、めっき時間を変化させることにより、微細構造物5の形状および大きさを変化させることができる。添加剤としては、エチレンジアミン二塩酸塩(ethylenediamine dihydrochloride)、エチレンジアミン(EDA)などが挙げられる。
【0114】
めっき層3を形成するためのめっき処理を行った後、必要に応じて熱処理を行って、めっき層3の結晶化を促進してもよい。
また、めっき層3を形成するためのめっき処理を行った後、必要に応じて、濾過用フィルターの耐久性を向上させるために、めっき層3の表面に、他の金属や有機物などを用いて別の被覆層を形成してもよい。
【0115】
また、めっき層3の表面に、被濾過液との親和性が互いに異なる複数種類の改質領域を形成することもできる。めっき層3の改質処理としては、具体的には、親水化処理と疎水化処理とが挙げられる。こうした改質処理を行うことで、めっき層3の表面における被濾過液の流れが、より複雑になり、SS粒子がめっき層3の表面で凝集しやすいものとすることができる。
【0116】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0117】
(実施例1)
図14に示すように、幅5000μmの線材11を支持部材13の上に並行になるよう固定し、線材間の幅を20μmとなるようにして濾過用フィルターのスクリーンを作製した。このスクリーンをニッケル−リンメッキをおこない下地層を形成した後、非特許文献1に示すようにethylenediamine dihydrochloride(EDA)存在下でのメッキによって、針状の微細構造物5を表面に形成して濾過用フィルター10を得た。この時の線材間の隙間の幅は10μmであり、メッキ後の線材の幅は5005μmであった。この時の開孔率は13%であった。
(非特許文献1)Tao Hang, Ming Li, Qin Fei and Dali Mao, Characterization of nickel nanocones routed by electrodeposition without any template, Nanotechnology, 19 (2008) 035201 (5pp)
【0118】
得られた濾過用フィルター10のメッキ層(微細構造物5)の表層をSEM観察したところ、4μm
2(2μm×2μm)の範囲に16個〜19個の針状構造物があった(
図6参照)。
またこのメッキ層を埋め込み樹脂で固定した後、切断して断面観察を行ったところ、10μmあたりの平均針状構造物数は20個、針状構造物平均高さは750nm、変動係数は0.28であった。また針状構造物の平均幅は550nmであり、アスペクト比(高さ/幅)は1.36であった。
【0119】
次に、
図1に示す濾過処理装置100を用意した。上述したように作製した濾過用フィルター10を用いて、粒径が0.1μmのアルミナを100mg/L含有するスラリーを0.1MPaの圧力で定圧濾過したところ、透明な処理水(濾過水)が得られ、濾過を行うことができた。濾過後の濾過フィルター10を濾過ケーク(アルミナ層)ごと埋め込み樹脂で固定し断面を観察したところ、ケーク層と濾過フィルター10の間に、凹凸に起因する隙間が観察された。
【0120】
次にこの濾過フィルター10の処理水側(二次面側)から0.1Mpaの圧力で洗浄水を送り、ケーク層の洗浄を行ったところ、隙間近傍のケークはきれいに剥離していて表面の凹凸が復元されていた。再度この濾過フィルターで濾過を行ったところ、一回目の濾過と同様の濾過性能を発揮している事が確認された。
【0121】
(実施例2)
実施例1と同様に、幅5000μmの線材11を支持部材13の上に並行になるよう固定し、線材間の幅を20μmとなるようにして濾過用フィルターのスクリーンを作製した。このスクリーンをニッケル−リンメッキをおこない下地層を形成した後、非特許文献2に示すように添加剤として2−ブチン−1,4−ジオールを添加して、無電解ニッケルめっき処理を行い多面体状の微細構造物5を表面に形成して濾過用フィルター10を得た。この時の線材間の隙間の幅は3μmであり、メッキ後の線材の幅は5005μmであった。この時の開孔率は13%であった。
(非特許文献2)S.Chakraborty,Role of organic additives in nickel plating,Transactions of the Metal Finishers' Association of india,Vol.12,No.3-4(2003)
【0122】
得られた濾過用フィルター10のメッキ層(微細構造物5)の表層をSEM観察したところ、平均最大外形寸法は4μmであった。この濾過用フィルター10を実施例1と同様に
図1の濾過処理装置100に設置し、この濾過用フィルター10を用いて粒径が0.1μmのアルミナを100mg/L含有するスラリーを0.1MPaの圧力で定圧ろ過したところ、透明な処理水が得られ、濾過を行うことができた。この濾過後の濾過用フィルター10を濾過ケーク(アルミナ層)ごと埋め込み樹脂で固定し断面を観察したところ、ケーク層とフィルターの間に、凹凸に起因する隙間が観察された。
次にこの濾過用フィルターの二次側から0.1MPaの圧力をかけて逆洗浄水を送り、ケーク層の逆洗浄を行ったところ、隙間の近傍のケークはきれいに剥離していて表面の凹凸が戻っていた。再度この濾過フィルターで濾過を行ったところ、一回目の濾過と同様の濾過性能を発揮している事が確認された。