(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係る点火プラグとしてのスパークプラグ100について説明する。
図1は本実施形態に係るスパークプラグの部分断面図である。
図1においては、スパークプラグ100の長手方向の中心軸を一点鎖線の軸線OLで示す。軸線OLの右側は、外観正面図を示し、軸線OLの左側は、スパークプラグ100の中心軸を通る断面でスパークプラグ100を切断した断面図を示している。以下では、
図1におけるスパークプラグ100の軸線OL方向の下側、すなわち、燃焼室内部に露出される側をスパークプラグ100の先端側、上側、すなわち、プラグコードが装着される側を後端側として説明する。スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子電極40と、主体金具50とを備える。
【0017】
絶縁碍子10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成される筒状の絶縁体である。その中心には、中心電極20および端子電極40を収容する軸孔12が、軸線OL方向に延びて形成されている。絶縁碍子10の軸線OL方向の中央には、絶縁碍子10のうちで外径が最も大きい中央胴部19が形成されている。絶縁碍子10の中央胴部19よりも後端側には、端子電極40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。絶縁碍子10の中央胴部19よりも先端側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成されている。絶縁碍子10の先端側胴部17の更に先端側には、先端側胴部17よりも小さい外径を有し、中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。先端側胴部17と脚長部13との間には、先端側に向けて外径が縮径し、先端側胴部17と脚長部13とを連結する縮径部15が形成されている。
【0018】
軸孔12には、中心電極20が挿入される。中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯材25を埋設した棒状の部材である。本実施例では、電極母材21は、ニッケル(Ni)を主成分とするニッケル合金から成る。芯材25は、銅または銅を主成分とする合金から成る。中心電極20は、軸孔12内で絶縁碍子10によって保持され、中心電極20の先端は軸孔12(絶縁碍子10)から外部に露出している。中心電極20は、軸孔12に挿入された、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子電極40に電気的に接続される。
【0019】
接地電極30は耐腐食性の高い金属から構成され、一例として、ニッケル合金が用いられる。この接地電極30の固定端部(基端部)31は、主体金具50の先端面57に溶接されている。固定端31から延びる接地電極30は、中心電極20に向かって屈曲され接地電極30の自由端(先端)32は、中心電極20の先端面から所定間隔離間して配置されている。接地電極の自由端32は、中心電極20に対向する領域である中心電極対向部30bを備えている。中心電極対向部30bには突状部を備える貴金属部80が備えられており、貴金属部80の突状部の先端面82a(
図2参照)と、中心電極20の先端面20a(
図2参照)との間の所定間隔は、火花放電を生じる火花ギャップSGである。
【0020】
端子電極40は、軸孔12の後端側に設けられ、その後端側の一部は、絶縁碍子10の後端側から露出している。端子電極40には高圧ケーブル(図示省略)がプラグキャップ(図示省略)を介して接続され、火花点火用の高電圧が印加される。
【0021】
主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を周方向に包囲して保持する円筒状の金具である。主体金具50は低炭素鋼材より形成され、全体にニッケルメッキや亜鉛メッキ等のメッキ処理が施されている。主体金具50は、工具係合部51と、取付ネジ部52と、加締部53と、シール部54とを備える。これらは、後端から先端に向かって、加締部53、工具係合部51、シール部54、取付ネジ部52の順に形成されている。工具係合部51は、スパークプラグ100を、内燃機関のエンジンヘッド150に取り付ける工具が嵌合する。取付ネジ部52は、シリンダヘッド150の取付ネジ孔151に螺合するネジ山を有する。
【0022】
取付ネジ部52の内径側には、径方向内側に突出した突出部60が形成される。突出部60は、絶縁碍子10の縮径部15および脚長部13の後端側と向かい合う位置に形成される。この突出部60と、絶縁碍子10の縮径部15との間には、環状のシール部材としてのパッキン8が設けられる。パッキン8は、突出部60と縮径部15とに接触して、絶縁碍子10と主体金具50との間をシールする。パッキン8には、冷間圧延鋼板などを使用できる。
【0023】
加締部53は、主体金具50の後端側の端部に設けられた薄肉の部材であり、主体金具50が絶縁碍子10を保持するために設けられる。具体的には、スパークプラグ100の製造時に、加締部53を内側に折り曲げて、この加締部53を先端側に押圧することにより、中心電極20の先端が主体金具50の先端側から突出した状態で、絶縁碍子10が主体金具50に一体的に保持される。シール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成されている。シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。かかるスパークプラグ100は、シリンダヘッド150の取付ネジ孔151に主体金具50を介して取り付けられる。
【0024】
本実施形態に係るスパークプラグ100は、接地電極30における中心電極対向部30bに貴金属または貴金属合金からなるチップを備えるスパークプラグにおいて、接地電極30の母材の消耗を抑制または防止するための貴金属または貴金属合金からなる座部81(
図3参照)をチップの周囲に備えている。なお、以下では、チップを突部82と呼び座部81および突部82を併せて貴金属部80と呼ぶ。貴金属としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)のいずれかであって良い。貴金属部80を接地電極母材に溶接する際には、両部の材料間において拡散が生じるが、本明細書においては、拡散領域において、上記貴金属を少なくとも1種以上、50質量%以上含む部分を貴金属部80と呼ぶ。すなわち、上記貴金属を少なくとも1種以上、50質量%含む貴金属合金からなる部材も貴金属部80と呼ぶ。
【0025】
スパークプラグにおける放電は、初期は最短ギャップである、中心電極20と、接地電極30における中心電極対向部30bとの間で生じるが、放電期間中、放電位置は移動することが知られている。特に、比較的平坦な接地電極30においては放電位置が移動する頻度が高い。また、放電によっておこる接地電極30の消耗は、エネルギーが最も高いブレイクダウン直後の初期の放電位置における消耗が最も大きいものの、放電持続中においても電極消耗は継続し、さらに、通常は融点の低い母材(Ni合金)部分に移動する為、比較的消耗が多い。したがって、中心電極対向部30bに貴金属チップが配置されている場合であっても、接地電極30の消耗を抑制または防止することができないという問題がある。この問題を解決するため、以下では、接地電極30に対する貴金属部80の配置態様、貴金属部80の各種寸法について検証する。
【0026】
第1の検証:
第1の検証では、接地電極30の消耗を抑制または防止する観点、並びに接地電極に対する貴金属部の密着性の観点から、接地電極30における貴金属部80の形状を検証した。
図2は本実施形態において共通して用いられるスパークプラグを正面視した拡大部分断面図および拡大右側面図である。
図3は実験例1としての、本実施形態に係るスパークプラグの先端部分を正面視および平面視した説明図である。
図3において(a)は平面図を、(b)は正面図を表している。
【0027】
第1の検証において用いられる接地電極30の基本的構成は、
図2に示されている通りであり、中心電極20および絶縁碍子10に面する内側面30c、内側面30cの裏面をなす外側面30d、内側面30cと外側面30dとを繋ぐ側面30eを備えている。なお、側面30eを含めて、あるいは、接地電極が側面30eを有しない形状である場合には、内側面30cの幅方向の一端(一辺)と他端(他辺)とを繋ぐ面を外側面30dと呼ぶこともある。
【0028】
・実験例1において、スパークプラグ100の接地電極30は、その内側面30c上に配置されている円形状の座部81、座部81上に積層配置されている円柱形状の突部82からなる貴金属部80を備えている。突部82が接合された状態では、座部81は平面視(中心電極20から接地電極30に向かう方向)で円板形状を有している。突部82の積層方向の厚さt1は座部81の厚さt2よりも厚い。貴金属部80を正面視(または側面視)すると凸形状を有している。
【0029】
接地電極30に対する貴金属部80の接合は、座部81、突部82の順に2段階での溶接、あるいは、座部81と突部82とを接合した後、貴金属部80としての溶接、のいずれかによって実行され、溶接は、抵抗溶接またはレーザー溶接によって実行され得る。
【0030】
第1の検証における、接地電極母材の消耗量の適否を確認する検証においては、M12HEX14(取付ネジ径12mm、金具六角部サイズ14mm)、イリジウム(Ir)からなる直径0.6mmの中心電極、1.1mmの火花ギャップSG、実験例1として説明した貴金属部80を有する接地電極30を有するスパークプラグを用いた。検証は、加圧空気雰囲気下(窒素雰囲気下)で、60mJのコイルを用い放電電圧が25kVとなるように放電部圧力を調整し、加圧空気により放電が生じている部分(中心電極20と接地電極30とで区画されている空間)の空気の平均流速を3m/secとし、スパークレート100Hzにて100時間放電させる条件の下、実行されたベンチ試験において、検証開始前後における接地電極30の消耗体積を評価することにより行われた。接地電極30の体積は、接地電極30をX線CTでスキャンして外寸を求め、求めた外寸から体積を算出することにより得られる。消耗体積は、初期体積から残存体積を減ずることにより求めた。
【0031】
第1の検証における、接地電極母材と貴金属部80との溶接性の適否を確認する検証においては、上記スパークプラグの接地電極30をバーナーにて1分間加熱し、2分間自然空冷(バーナーによる加熱停止)を1000サイクル繰り返すベンチ試験において、試験終了後の断面を拡大鏡にて確認し、評価することにより行われ。バーナーによる加熱は、放射温度計を用いて接地電極30における貴金属部80の温度が約1000℃となるように実行された。拡大鏡による確認においては、貴金属部80が接地電極母材から0.1mm以上離れている部分を剥離部とし、その長さを計測した。
【0032】
貴金属部80としては純プラチナ(Pt)から成る座部81および突部82であって、厚さt1=0.3mm、直径0.7mm、最表面積A0.38mm
2の各寸法を有する突部82と、厚さt2を0.025mm、0.050mm、0.075mm、0.100mm、0.150mm、0.200mm、0.300mm、0.400mmおよび0.500mmと変化させ、各厚さについて最表面積Bを0.05mm
2、0.10mm
2、0.20mm
2、0.25mm
2、0.30mm
2、0.35mm
2、0.40mm
2、0.45mm
2および0.50mm
2と変化させてた座部81とからなる貴金属部80を用いた。本実施形態において最表面積とは、座部81および突部82において空気に曝される表面部分の面積を意味する。座部81が立体形状を有する場合には、底面に対して縦方向に向かう表面形状に従う厳密な表面積を採用しても良く、座部81の寸法が小さいことに鑑みて、座部81の底面に投写した二次元形状における面積を用いても良い。なお、座部81の最表面積Bは突部82によって覆われていない環状部分の面積を意味し、また、貴金属部80の各寸法は、貴金属部80を接地電極30の母材に溶接した後の寸法である。
【0033】
図3における貴金属部80は、理想的な基本形状を示しており、溶接時における座部81と突部82との境界部の形状(溶接痕)を詳細に図示していない。溶接痕を考慮する場合、貴金属部80は、
図4または
図5に示す形状を有する。
図4は抵抗溶接にて座部と突部とを接合した際のスパークプラグの先端部分を正面視および平面視した説明図である。
図5はレーザー溶接にて座部と突部とを接合した際のスパークプラグの先端部分を正面視および平面視した説明図である。
図4および5において(a)は平面図を、(b)は正面図を表している。
【0034】
座部81の厚さt2は、
図4および
図5に示すように座部81の周縁部の厚さによって規定されるが、座部81に突部82を溶接することによって座部81と突部82との間には座部81から突部82への径方向に狭まる縮径部80aが形成される。第1の検証では、座部81の最表面積Bを変化させて最表面積Bを計測するに当たって、各厚さt2間でのバラツキをなくし統一的に取り扱うために、座部81の底面(接地電極30の内側面30c)から0.2mmの厚さt3を基準厚さとし、各厚さt2において厚さt3までを座部81と見なすこととした。なお、厚さt3における座部81の最表面積Bは、厚さt3における座部81(縮径部80a)の断面積をX線解析によって求め、座部81の底面積から減ずることによって求めることができる。なお、既述のように、最表面積とは、座部81および突部82の先端面82aの露出している面の面積を意味するが、縮径部80aが存在する場合には、平面投写された面積を最表面積とすることができる。また、貴金属部80が高さ方向に同寸法(幅、径)を有する場合には、最表面積に代えて、座部81および突部82の断面積が用いられても良い。いずれにしても、貴金属部80を平面投写した場合に得られる寸法の違いを考察できれば良い。
【0035】
評価の結果は表1および表2に示す通りである。表1は第1の検証により得られた座部81の厚さt2と、座部81の最表面積Bと突部82の最表面積Aと差Dとを変化させた際における接地電極の消耗量の適否を示す表である。表2は第1の検証により得られた座部81の厚さt2と、座部81の最表面積Bと突部82の最表面積Aとを変化させた際における座部81と接地電極母材との溶接性の適否を示す表である。
【0037】
接地電極母材の消耗量の適否を確認する評価では、接地電極30の消耗体積が2.5mm
3以上の態様を不適(P)、2.5mm
3未満を適(G)とした。表1の結果から、座部81の厚さt2は0.05mm未満では接地電極30の消耗量を抑制または防止できないことがわかる。これは、座部81の厚さが薄い場合、放電によって座部81が短時間で消失してしまうことに起因する。したがって、座部81の厚さt2は0.05mm以上であることが接地電極30の消耗量の抑制または防止の観点から望ましい。
【0038】
座部81の最表面積Bと突部82の最表面積Aとの差D、すなわち、B−A(mm
2)については、差Dが小さい場合には、突部82を起点とする放電位置の移動をカバーすることができず、放電位置が接地電極30の母材に至り消耗量が増大してしまう。したがって、差Dは、0.2mm
2以上であることが望ましい。
【0039】
第1の検証の結果、差D(mm
2)が大きくとも、厚さt2が薄い場合には、接地電極母材の消耗を抑制または低減することができないと結論付けることができる。すなわち、差D(mm
2)が大きい場合には、放電位置の移動をカバーできるものの、座部81の厚さt2が薄いため、座部81は短時間で消失し、この結果、放電は接地電極30の母材と中心電極20との間で発生され、接地電極母材の消耗を抑制することができない。
【0040】
貴金属部80と接地電極母材との溶接性の適否を確認する評価では、剥離部の長さが座部81(貴金属部80)の長さの10%以下の態様を良好である適(G)、10%よりも長い態様を不適(P)とした。ここで、剥離部の長さが座部81の長さの10%以下である場合には、貴金属部80(座部81)と接地電極母材との接合強度を保つことができると判断した。なお、座部81の長さは、座部81の水平方向のいずれの長さであっても良く、本検証においては、座部81は円形であるからその直径であるということができる。
【0041】
表2の結果から、座部81の厚さt2が0.3mm以上で差D(mm
2)が大きい場合には、接地電極母材と座部81との熱膨張差の影響が大きく、接地電極母材と座部81との溶接性は不適である。なお、差D(mm
2)が小さい、たとえば、0.05mm
2の場合には、溶接性は適当であるが、この場合、座部81と突部82とはほぼ一体であり、従来のチップと同様であるということができる。差D(mm
2)については、差が小さい場合には、座部81の厚さt2の影響を受けることなく溶接性に関しては良好であると言える。
【0042】
第1の検証の結果、厚さt2が0.3mm未満、好ましくは0.2mm以下である場合に、接地電極母材と座部81(貴金属部80)との溶接性は良好であると言える。
【0043】
第1の検証結果を纏めると、座部81の厚さt2が0.05〜0.2mmであり、突部82の最表面の面積Aと座部81の最表面の面積Bとの間に、B−A(D)>0.2mm
2の関係が成立する場合に、接地電極30の消耗を抑制または防止することができると共に、接地電極母材と座部81(貴金属部80)との良好な溶接性を有するスパークプラグを提供することができる。
【0044】
第1の検証に用いられた実験例1に係るスパークプラグ100以外のスパークプラグ100の実施例を
図6〜8に示す。
図6は第1の実施例に係るスパークプラグの先端部分を平面視した説明図である。
図7は第2の実施例に係るスパークプラグの先端部分を平面視した説明図である。
図8は第3の実施例に係るスパークプラグの先端部分を平面視した説明図である。
【0045】
第1の実施例は、円形状の座部81および角柱形状の突部82からなる貴金属部80を有しており、第2の実施例は、四角形状の座部81および円柱形状の突部82からなる貴金属部80を有しており、第3の実施例は、四角形状の座部81および角柱形状の突部82からなる貴金属部80を有している。
【0046】
第2の検証:
第2の検証では、貴金属部80が備える突部82の最表面積Aと中心電極20の先端面の最表面積Cとの関係について検証した。
【0047】
図9は第2および第3の検証において用いられたスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図である。
【0048】
第2の検証において用いられる接地電極30および貴金属部80の基本的構成は、第1の検証において説明したとおりである。第2の検証では、M12HEX14(取付ネジ径12mm、金具六角部サイズ14mm)、イリジウム(Ir)からなる中心電極、1.1mmの火花ギャップSG、0.05mmの厚さt2を有する座部81および0.4mmの厚さt1を有する突部82からなる貴金属部80を有する接地電極30を有するスパークプラグを用いた。検証方法および消耗体積の求め方は既述の通りである。
【0049】
第2の検証においては、直径0.6mmの中心電極20を有するスパークプラグを用いた第1の試験、および直径1.0mmの中心電極20を有するスパークプラグを用いた第2の試験を行った。第1の試験において中心電極20の先端部(先端面)の面積Cは0.28mm
2であり、座部81の最表面積Bは0.5mm
2である。第2の試験において中心電極20の先端面の面積Cは0.79mm
2であり、座部81の最表面積Bは0.5mm
2である。第1および第2の試験において、突部82の最表面積Aは、中心電極20の先端面の面積Cとの比A/Cが、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3および1.4となるように調整された。
【0050】
評価の結果は表3および表4、並びに
図10に示す通りである。表3は第1の試験の結果を示す表であり、突部82の最表面積Aと、中心電極20の先端面の面積Cとの比A/Cと、接地電極30の消耗量F(mm
3)との関係を示している。表4は第2の試験の結果を示す表であり、突部82の最表面積Aと、中心電極20の先端面の面積Cとの比A/Cと、接地電極30の消耗量F(mm
3)との関係を示している。
図10は表3および表4に示す第1および第2の試験結果を示すグラフである。
図10において、L1は第1の試験結果を示し、L2は第2の試験結果を示し、横軸は面積比A/Cを示し、縦軸は接地電極30の消耗量F(mm
3)を示している。
【0052】
図10に示すグラフから読み取れるように、面積比A/Cが0.6から0.8へと変わると、第1の試験および第2の試験のいずれにおいても、消耗量Fは有意に少なくなる。したがって、接地電極30の消耗を抑制するためには、面積比A/Cを0.8以上とすること、すなわち、突部82の最表面積Aは中心電極20の先端面の面積Cの0.8倍以上であることが望ましい。面積比A/Cを0.8以上とすることによって、ブレイクダウンが比較的起こりやすい接地電極30の領域をカバーし、接地電極30(母材)の消耗量の抑制を図ることができる。一方、面積比A/Cが1.2を超えると、消耗量Fの有意な低下は見られない。したがって、貴金属を用いるというコストの観点から、面積比A/Cの上限は、たとえば、1.2であることが望ましい。
【0053】
第2の検証結果を纏めると、突部82の最表面積Aと中心電極20の先端面の面積Cとの面積比A/Cは0.8倍以上かつ1.2倍以下であることが、接地電極30の消耗量の抑制並びにコストの抑制の観点から望ましいことが確認できた。
【0054】
第3の検証:
第3の検証では、燃焼室内における気体の流動が速い場合における、貴金属部80が備える座部81の最表面積Bと中心電極20の先端面の最表面積Cとの関係について検証した。
【0055】
第3の検証においても
図9に示す基本構成を示すスパークプラグを用いた。
【0056】
第3の検証において用いられる接地電極30および貴金属部80の基本的構成は、第2の検証において説明したとおりである。検証方法については、加圧空気により放電が生じている部分(中心電極20と接地電極30とで区画されている空間)の空気の平均流速を10m/secとしたこと以外は第2の検証と同条件で行われた。消耗体積の求め方は既述の通りである。
【0057】
第3の検証においては、直径0.6mmの突部82を有するスパークプラグを用いた第3の試験、および直径1.0mmの突部82を有するスパークプラグを用いた第4の試験を行った。第3の試験において突部82の最表面積Aは0.28mm
2であり、中心電極20の先端面の面積と同値である。第4の試験において突部82の最表面積Aは0.79mm
2である。第3の試験において、座部81の最表面積Bは、0.78mm
2から5.00mm
2の間で変更され、第4の試験において、座部81の最表面積Bは、1.40mm
2から11.00mm
2の間で変更された。
【0058】
評価の結果は表5および表6、並びに
図11に示す通りである。表5は第3の試験の結果を示す表であり、座部81の最表面積Bと、座部81の最表面積Bと中心電極20の先端面の面積Cとの比B/Cと、接地電極30の消耗量F(mm
3)との関係を示している。表6は第4の試験の結果を示す表であり、座部81の最表面積Bと、座部81の最表面積Bと中心電極20の先端面の面積Cとの比B/Cと、接地電極30の消耗量F(mm
3)との関係を示している。
図11は表5および表6に示す第3および第4の試験結果を示すグラフである。
図11において、L3は第3の試験結果を示し、L4は第4の試験結果を示し、横軸は面積比B/Cを示し、縦軸は接地電極30の消耗量F(mm
3)を示している。
【0060】
図11に示すグラフから読み取れるように、面積比A/Cが3を超えると、第3の試験および第4の試験のいずれにおいても、消耗量Fは有意に少なくなる。したがって、接地電極30の消耗を抑制するためには、面積比B/Cを3以上とすること、すなわち、座部81の最表面積Bは中心電極20の先端面の面積Cの3倍以上であることが望ましい。面積比B/Cを3以上とすることによって、放電が生じている部分における気体の流速が高く、接地電極30上における放電位置の移動距離が長い(移動範囲が広い)場合であっても接地電極30(母材)の消耗量の抑制を図ることができる。すなわち、燃焼室内における混合気あるいは空気の流動が速く、混合気が複雑な動きをみせる近時のエンジンにおいても、接地電極30の消耗を抑制または防止することができる。一方、面積比B/Cが10を超えると、消耗量Fの有意な低下は見られない。したがって、貴金属を用いるというコストの観点から、面積比B/Cの上限は、たとえば、10であることが望ましい。
【0061】
第3の検証結果を纏めると、座部81の最表面積Bと中心電極20の先端面の面積Cとの面積比B/Cは3倍以上かつ10倍以下であることが、接地電極30の消耗量の抑制並びにコストの抑制の観点から望ましいことが確認できた。
【0062】
第4の検証:
第4の検証では、燃焼室内における気体の流動が速い場合において、接地電極30の消耗量を抑制または防止することができる貴金属部80の配置態様について検証した。
図12は、第5の試験に用いたスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図および拡大右側面図である。
図13は、第6の試験に用いたスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図および拡大右側面図である。
図14は第7の試験に用いたスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図および拡大右側面図である。なお、
図12〜
図14において、符号(a)で示す図はスパークプラグの先端部分の正面図を示し、符号(b)で示す図はスパークプラグの先端部分の右側面図を示す。また、符号(b)で示す図において気体は紙面奥から手前に向かって流動する。
【0063】
第4の検証において用いられる接地電極30および貴金属部80の基本的構成は、第1の検証において説明したとおりである。第4の検証においては、接地電極30の側面30eに座部81を延伸させる配置態様を用いて接地電極30の消耗量との関係について試験を行った。
【0064】
・第5の試験に用いたスパークプラグ100の接地電極30は、接地電極30の内側面30cにおいてのみ矩形の座部81を備えている。座部81の最表面積Bは5mm
2である。
・第6の試験に用いたスパークプラグ100の接地電極30は、接地電極30の内側面30cを介して両側面30eに亘る帯状の座部81を有している。すなわち、接地電極30の自由端32から屈曲部へ向かう奥行き方向には座部81は配置されていない。座部81の最表面積Bは5mm
2である。
・第7の試験に用いたスパークプラグ100の接地電極30は、第5の試験における座部81を側面30eに延伸させた座部81を有しており、内側面30cの奥行き方向にも座部81が配置されている。座部81の最表面積Bは10mm
2である。
【0065】
第4の検証において用いられる接地電極30および貴金属部80の基本的構成は第3の検証において説明したとおりである。検証方法および消耗体積の求め方は第3の検証にて既述の通りである。なお、接地電極30の奥行き方向に対して直角をなすように(各図(a)において矢印で示す方向)加圧空気を中心電極20と接地電極30とで区画されている空間に適用した。
【0066】
評価の結果は
図15に示す通りである。
図15は第4の検証により得られた試験結果を示すグラフである。縦軸は接地電極30の消耗量F(mm
3)を示し、横軸は実行した各試験を示す。
【0067】
第5の試験では消耗量F=1.50mm
3であり、第6の試験では消耗量F=1.05mm
3であり、第7の試験では消耗量F=1.01mm
3であった。したがって、接地電極30の側面30eに座部81を延伸させることによって、中心電極20と接地電極30とで区画されている空間における気体の流動速度が高い場合であっても、接地電極30の消耗量を抑制することが確認できた。すなわち、燃焼室内における混合気あるいは空気の流動が速く、混合気が複雑な動きをみせる近時のエンジンにおいても、接地電極30の消耗を抑制または防止することができる。
【0068】
変形例:
以下、貴金属部80の変形例について説明する。以下の変形例では、接地電極30の固定端31側における接地電極30の消耗は接地電極30の折損をもたらしスパークプラグとしての機能を妨げるのに対して、自由端32側における接地電極30の消耗は余り実害がないことに鑑み、同量の貴金属を用いる場合には、接地電極30の固定端31側に貴金属部80の座部81を偏在させて、上記問題を解決する点に特徴を有する。
(1)第1変形例:
図16は第1の変形例に係るスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図および拡大左側面図である。
図16において符号(a)で示す図はスパークプラグの先端部分の正面図を示し、符号(b)で示す図はスパークプラグの先端部分の左側面図を示す。
図17は第1の変形例に係るスパークプラグの接地電極の自由端側における内側面を示す説明図である。第1の変形例では、
図16(a)に示すように、座部81は接地電極30の幅方向に亘り配置されていると共に、
図16(b)に示すように、接地電極30の奥行き方向においては、中心電極対向部30bから固定端31側に座部81が配置されている。第1の変形例に係る座部81を平面視すると、
図17に示すように、接地電極30の奥行き方向に向かって円弧を有する半円形状を有している。すなわち、接地電極30上における放電位置の移動は、中心電極20中心として生じる場合が多く、第1の変形例によれば、貴金属量を増大させることなく、放電位置の移動による接地電極30の消耗を抑制することができる。
【0069】
(2)第2変形例:
図18は第2の変形例に係るスパークプラグの接地電極の自由端側における内側面を示す説明図である。第2の変形例は、正面視および左側面視においては、第1の変形例と同様の構成を備えている。第2の変形例に係る座部81を平面視すると、
図18に示すように、接地電極30の奥行き方向に偏在する矩形形状を有している。第2の変形例によれば、放電位置の移動による接地電極30の消耗をより抑制することができる。
【0070】
(3)第3変形例:
図19は第3の変形例に係るスパークプラグの先端部分を正面視した拡大図および拡大左側面図である。
図19において符号(a)で示す図はスパークプラグの先端部分の正面図を示し、符号(b)で示す図はスパークプラグの先端部分の左側面図を示す。
図20は第3の変形例に係るスパークプラグの接地電極の自由端側における内側面を示す説明図である。第3の変形例においては、
図19(b)に示すように、座部81は接地電極30の奥行き方向にさらに延伸されている。第3の変形例に係る座部81を平面視すると、
図20に示すように、中心電極対向部30bから奥行き方向に偏在する楕円形状を有している。第3の変形例によれば、中心電極20から固定端31側へ拡がる領域を貴金属部80(座部81)によって覆うことが可能となり、放電位置の移動による接地電極30の固定端31側における消耗をより抑制することができる。
【0071】
その他の変形例:
上記実施形態では、スパークプラグ100の構成について説明したが、上記実施形態に係るスパークプラグ100は、放電時の2次電流として、50mA以上、2msec以上の2次電流を出力する長放電コイルと組み合わせて用いられることができる。この場合、従来のスパークプラグに対する、本実施形態に係るスパークプラグ100の接地電極の消耗量の低減効果をより有意に確認することができる。すなわち、スパークプラグに対する通電時間が長い場合には、接地電極における放電位置はブレイクダウン位置から移動する可能性が高く、従来のスパークプラグではこの放電位置の移動に伴う接地電極の消耗を抑制することができなかった。これに対して、本実施形態に係るスパークプラグ100では、接地電極30上に貴金属部80(座部81)が備えられているので、放電位置の移動による接地電極30の消耗を低減または防止することが可能となり、長放電コイルと組合せて使用されるスパークプラグとして適している。
【0072】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。