(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334432
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】盛土補強土壁の敷設方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20180521BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
E02D17/18 A
E02D17/20 103G
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-33120(P2015-33120)
(22)【出願日】2015年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-156149(P2016-156149A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501232528
【氏名又は名称】株式会社複合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】舘山 勝
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 文夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 康裕
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正広
【審査官】
佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−352055(JP,A)
【文献】
特開2006−045902(JP,A)
【文献】
特開昭51−015503(JP,A)
【文献】
特開平07−119153(JP,A)
【文献】
特開平07−292673(JP,A)
【文献】
特開2006−028991(JP,A)
【文献】
特開平08−232267(JP,A)
【文献】
特開2002−309582(JP,A)
【文献】
特開2002−339364(JP,A)
【文献】
特開平09−053240(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0064262(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
E02B 3/04− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土補強土壁工法用仮抑え部に用いるL型溶接金網を多段式とすると共に、溶接金網を構成する横鉄筋の一部を可動式とし、該可動式横鉄筋にジオテキスタイルを巻き込み、盛土の沈下に追随させることを特徴とする盛土補強土壁の敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道・道路、あるいは、海岸構造物などで構築する盛土補強土
壁の敷設方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道盛土や道路盛土構造物において補強盛土の施工が増えてきている。補強盛土における補強材には、ジオテキスタイル(面状補強材)を用いる場合が多いが、法面勾配が急になると壁面工が必要となる。壁面工には、土のうや溶接金網をジオテキスタイルで巻込む形式の壁面工や、ジオテキスタイルと接続したL型エキスパンドメタルのような形式の壁面工も多く見られる。これらの壁面工は分割壁面と呼ばれている。
【0003】
一方、前述の土のうや溶接金網等の仮抑え材をジオテキスタイルで巻込む形式の壁面工を一次壁面とし、補強盛土の変形が収束してから、二次壁面として構築する「ジオテキスタイルと一体化した剛性の高い場所打ちコンクリート壁面」を有するRRR工法がある。一般的に、壁面工の剛性が高いほど補強盛土の耐力が向上することが明らかになっている。
【0004】
RRR工法は、曲げ剛性を有する一体の壁面工と面状補強材とを用いて急勾配あるいは鉛直な盛土のり面を構築する剛壁面補強土工法であり、開発以来補強土擁壁として実績を積み重ねている。剛で一体の壁面工は、補強材との接点を支点として、多数の支点でかつ小さな支点間距離で支持された連続梁になっているため、壁面工内には片持ち梁構造の従来式擁壁に比べて非常に小さい力しか作用しないことになる。
【0005】
図10はRRR工法の作業手順(階段施工)を示す図である。
【0006】
剛壁面補強土工法の大きな特長は、まず、
図10(a)に示すように排水孔102を有する壁面工の基礎101を建設し、
図10(b)に示すように礫を詰めた土のう103とジオテキスタイル104の設置を行い、
図10(c)に示すように土のう103の撤き出しと締め固めを行って第1層105を建設し、
図10(d)に示すように第2層106を建設し、
図10(e)に示すように盛土107を完成させ、
図10(f)に示すように壁面工108をコンクリートの現場打ちにより完成させる。
【0007】
すなわち、補強盛土完成後、基礎地盤、ならびに盛土自体の沈下が収束したのちに壁面工のコンクリートを現場打ちで打設して完成となる。
【0008】
この段階施工を実施するためには、
(1)壁面構築までに仮抑え(土のう、または溶接金網による)が必要である。
(2)仮抑えを巻き込むための補強材(ジオテキスタイル)が必要である。
(3)裏型枠を用いないことによって、型枠の固定法に工夫(型枠用アンカー、あるいは溶接金網用フック等)が必要である。
(4)仮抑えとして土のうを用いる場合には土のうの作成作業が別途必要となる。
【0009】
また、この剛壁面補強土工法であるRRR工法に使用する仮抑え材には、以下に示す性能が要求されている。
(1)施工中の安定を確保すること。
(2)完成後の擁壁背面の排水機構を保持すること。
(3)施工中の取扱いに十分耐え得る強度を有すること。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014−091915号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】龍岡文夫:2011年東日本大震災からの復旧・復興での補強土構造物、RRR工法協会だより、No.13,2011年8月
【非特許文献2】地盤工学会:地震時における地盤災害の課題と対策ー2011年東日本大震災の教訓と提言(第一次)、2011年7月
【非特許文献3】日経コンストラクション、pp.34〜43,2011.10.24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の剛壁面補強盛土壁工法(RRR工法)の一次壁面として用いられている仮抑え材にはRRR工法用の「土のう」と、溶接金網をL型に加工した「L型溶接金網」の2種類があるが、それぞれ以下に示すような問題点(欠点)がある。
【0013】
図11は土のう施工の場合の問題点の説明図である。
【0014】
この図において、201は締め固め前の土のうの位置、202は締め固め後の土のうの位置、201Aはセットバック位置、202Aは締め固めによるはらみ出し、203はコンクリートのくい込み、203Aは計画線、204は計画壁厚、205はセットバック量である。
【0015】
「土のう」は、積み立て時のなじみが良く、中詰め材を充填した土のう袋の積立て高さの調整や曲線箇所の施工が容易であるなどの特徴がある。反面、中詰め材の充填、および充填後の土のう袋の運搬等に時間が掛かる。あるいは、
図11に示すように、土のう袋の積立て後に前面にはらみ出し、被覆コンクリートの壁厚不足、鉄筋かぶり不足等の品質低下が懸念され、試験転圧等を実施して施工時のセットバック量を考慮した設計上の補強盛土勾配を設定する必要があった。加えて、土のう袋の積立ての前面には締め固めによるはらみ出し202Aのために不陸が生じ、設計壁厚204はこの最前面(山のとがったところ)からの厚さであるために、打設コンクリートは設計数量よりもかなり過大となって、施工者側のコスト負担となっている。
【0016】
図12はL型溶接金網の場合の問題点の説明図である。
【0017】
この図において、301はジオテキスタイル、302は溶接金網、303はこぼれ出し防止シート、304はクラッシャラン等、305は盛土材料である。
【0018】
この図に示すように、「L型溶接金網」を用いると、「土のう」を用いた場合と比べると、中詰め材を充填する工程が無いために施工能率が格段に向上するが、海岸沿岸部等で施工する場合には、越波による海水の浸透によって溶接金網の鉄筋がさびて被覆コンクリートの品質が低下する懸念が高い。
【0019】
また、砕石転圧時に溶接金網の頭部が変形するので、セットバックの位置決めが難しい、土のうと比べて砕石の投入量が多い等の問題点もある。
【0020】
さらに、補強土耐震性橋台や補強土併用一体橋梁などの場合には、セメント改良礫土を用いるために、転圧後の盛土上では不陸が生じているために溶接金網の水平性や高さ調整に時間を要し、工程を短縮するにはこの点を改善する必要があった。
【0021】
このように、土のうの場合は、
(1)施工時の予定のはらみ出し量がないと打設コンクリートのくい込み量が多くなる。
(2)反対に、はらみ量が予定より多いと鉄筋のかぶりが不足する。
【0022】
また、L型溶接金網の場合は
(1)海岸構造物等に用いる場合には、溶接金網の鉄筋のさびにより被覆コンクリートが劣化する。
(2)砕石転圧時に溶接金網の頭部が変形するのでセットバック位置を決めにくい。
(3)砕石の投入量が土のうの場合と比較して多い。
(4)溶接金網の水平性や高さ調整に時間を要する。
【0023】
本発明は、上記状況に鑑みて、施工中の安定を確保し、施工中の取扱いに十分耐え得る強度を有する、盛土補強土
壁の敷設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔
1〕盛土補強土壁の敷設方法において、
盛土補強土壁工法
用仮抑え部に用いるL型溶接金網を多段式とすると共に、溶接金網を構成する横鉄筋の一部を可動式とし、
この可動式横鉄筋にジオテキスタイルを巻き込み、
盛土の沈下に追随させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)補強土耐震性橋台や補強土併用一体橋梁など用いられるセメント改良礫土の場合のように、転圧後の盛土上では不陸が生じているために溶接金網の水平性や高さ調整に時間を要していたが、1段式の溶接金網を多段式とすることによって、工程を大幅に短縮することができ、施工費の低廉化が可能となる。
(2)溶接金網の一部(基本的には、ジオテキスタイルの敷設位置)の横筋を可動式にすることによって、仮抑え部の砕石転圧に伴う沈下に追随することが可能となり、補強材に過度の引張り力が発生しない。
(3)「土のう」を用いた場合と比べると中詰め材を充填する工程(土のう袋を作製する工程)が無いために施工能率が格段に向上し、工期を大幅に短縮することができる。
(4)1層目のジオテキスタイルを引き延ばすことによって、2層目のジオテキスタイルとして機能させることが可能となる。
(5)そのため、溶接金網前面とジオテキスタイルの巻き返し分のジオテキスタイルの削減が可能となる。
(6)溶接金網の縦筋の一部に太径の鉄筋(D19〜D29)または等辺あるいは不等辺山形鋼等を用いることで締固め時の金網の変形を抑制する。
(7)太径の鉄筋(D19〜D29)または等辺あるいは不等辺山形鋼等の両端に止め具を設けた治具を1・2層目間および2・3層目間の金網側と盛土側にそれぞれの止め具で固定し、締固め時の金網の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例を示す盛土補強土壁工法
用仮抑え材の一部をなす沈下に追随する溶接金網の可動式横鉄筋を示す図である。
【
図2】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における溶接金網の要部詳細図である。
【
図3】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における多段式溶接金網を示す図である。
【
図4】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材におけるジオテキスタイルの巻き返しを示す図である。
【
図5】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における盛土施工ステップ(一般)を示す図である。
【
図6】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における盛土施工ステップ(ジオテキスタイルの巻き返し分を削減する場合)を示す図である。
【
図7】剛性不足による金網倒れを示す模式図である。
【
図8】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における第1の金網倒れの対策工法を示す断面図である。
【
図9】本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における第2の金網倒れの対策工法を示す斜視図である。
【
図11】土のう施工の場合の問題点の説明図である。
【
図12】L型溶接金網の場合の問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の盛土補強土
壁の敷設方法は、
盛土補強土壁工法用仮抑え部に用いるL型溶接金網を多段式とする
と共に、溶接金網を構成する横鉄筋の一部を可動式とし、該可動式横鉄筋にジオテキスタイルを巻き込み、盛土の沈下に追随させる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の実施例を示す盛土補強土壁工法
用仮抑え材の一部をなす沈下に追随する溶接金網の可動式横鉄筋を示す図である。
【0030】
この図において、1は溶接金網の縦鉄筋、2はT字継手、3は両T字継手間に配置される補強材が巻き込まれる横パイプもしくは丸鋼である。なお、ここでは分解図的に横パイプ3がT字継手2の前面にくるように描いているが、使用時にはT字継手2に係合されているものとする。縦鉄筋11も同様にT字継手2の上部を貫通しているものとする。
【0031】
仮抑え部の締固めに伴い、沈下等の変形が想定されるので、固定式の横鉄筋に面状補強材を折り返す方法であると、締固めに伴い仮抑え部の砕石が沈下すると、補強材に過度の引張り力が作用する。そこで、本発明では仮抑え材の一部をなす横鉄筋を
図1に示す可動式横鉄筋とすることで
盛土の沈下に追随するものとした。
【0032】
図2は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における溶接金網の要部詳細図、
図3は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における多段式溶接金網を示す図であり、
図3(a)はその溶接金網の詳細斜視図、
図3(b)はその溶接金網の要部拡大図である。
【0033】
これらの図において、10は多段式溶接金網、11は縦鉄筋(端部)、12は可動式横鉄筋、13は縦鉄筋11(中間部)、14は横鉄筋、15は固定金具である。
【0034】
これらの図に示すように、本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材では、横鉄筋の一部を可動式横鉄筋12とすることで、転圧等に伴う沈下が発生する際には、可動式横鉄筋12が沈下に追隋し、ジオテキスタイルなどの補強材に過度の引張り力が作用するのを防ぐことができる。
【0035】
図4は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材におけるジオテキスタイルの巻き返しを示す図であり、
図4(a)はそのジオテキスタイルの巻き返しを示す部分断面図、
図4(b)はその部分拡大図である。また、
図5は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における盛土施工ステップ(一般)を示す図、
図6は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における盛土施工ステップ(ジオテキスタイルの巻き返し分を削減する場合)を示す図である。
【0036】
これらの図において、21はこぼれ出し防止シート、22はジオテキスタイル、23はクラッシャラン、24は盛土材、25はジオテキスタイルの巻き返しである。
【0037】
図4に示すように、ジオテキスタイル22は可動式横鉄筋12に巻き込まれ、巻き返される。
【0038】
施工ステップ(一般)の場合には、
図5に示すように、クラッシャラン23部にはジオテキスタイル22とこぼれ出し防止シート21を配置して、可動式横鉄筋にてジオテキスタイルの巻き返し25を行い、1層目を形成する。2層目、3層目も同様に形成する。
【0039】
施工ステップ(ジオテキスタイルの巻き返し分を削減する場合)の場合にも、
図6に示すように、クラッシャラン23部にはジオテキスタイル22とこぼれ出し防止シート21を配置して、可動式横鉄筋にてジオテキスタイルの巻き返し25を行い、1層目を形成するが、このとき、ジオテキスタイルの巻き返し25を長くする〔
図6(a)〕。これを2層目のジオテキスタイルとして機能させることで、2層目はジオテキスタイルを省略することができる。なお、2層目のこぼれ出し防止シート21は通常よりも長め配置する〔
図6(b)〕。次に、3層目は1層目と同様に形成するが、3層目の底部と上部の両側でジオテキスタイル22が可動式横鉄筋に巻き込まれるように施工する。
【0040】
従って、施工ステップ(ジオテキスタイルの巻き返し分を削減する場合)の場合は、施工ステップ(一般)の場合に比べて、ジオテキスタイルを節約することができる。
【0041】
図7は剛性不足による金網倒れを示す模式図である。
【0042】
多段式仮抑え材としたことで、この図に示すような剛性不足による金網の傾きが生じる場合には、以下に示すような対応を行う。
【0043】
図8は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における第1の金網倒れの対策工法を示す断面図である。
【0044】
太径鉄筋(D19〜D29)または等辺あるいは不等辺山形鋼等の両端に止め具31,32を設けた治具30を金網側と盛土側にそれぞれ固定し、締固め時の金網の変位を抑制する。
【0045】
図9は本発明の盛土補強土壁工法
用仮抑え材における第2の金網倒れの対策工法を示す斜視図である。
【0046】
この図において、40は金網、41は補強鋼材(太径鉄筋または等辺あるいは不等辺山形鋼等)、42は固定金具である。
【0047】
このように、金網40の中央と端部に補強鋼材(太径鉄筋または等辺あるいは不等辺山形鋼等)41を取り付けて変位を抑制する。
【0048】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の盛土補強土
壁の敷設方法は、施工中の安定を確保し、施工中の取扱いに十分耐え得る強度を有する、盛土補強土
壁の敷設方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 溶接金網の縦鉄筋
2 T字継手
3 横パイプもしくは丸鋼
10 多段式溶接金網
11 縦鉄筋(端部)
12 可動式横鉄筋
13 縦鉄筋(中央部)
14 横鉄筋
15、42 固定金具
21 こぼれ出し防止シート
22 ジオテキスタイル
23 クラッシャラン
24 盛土材
25 ジオテキスタイルの巻き返し
30 治具
31、32 止め具
40 金網
41 補強鋼材(太径鉄筋またはL型形鋼等)