特許第6334451号(P6334451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6334451無線装置、折り返し試験装置、折り返し試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334451
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】無線装置、折り返し試験装置、折り返し試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/29 20150101AFI20180521BHJP
   H04B 1/50 20060101ALI20180521BHJP
   H04B 17/16 20150101ALI20180521BHJP
【FI】
   H04B17/29 100
   H04B1/50
   H04B17/16
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-74538(P2015-74538)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-195334(P2016-195334A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氏家 達範
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−177680(JP,A)
【文献】 特開平01−278132(JP,A)
【文献】 実開平01−065539(JP,U)
【文献】 特開平07−131253(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0272175(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0049465(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/143846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/29
H04B 1/50
H04B 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号に対し所定の送信処理を実施して第1周波数信号を出力する送信部と、
第2周波数信号に対し所定の受信処理を実施して受信信号を出力する受信部と、
前記送信部から出力された前記第1周波数信号を周波数変換して前記第2周波数信号を発生させ、前記第2周波数信号を前記受信部に入力する折り返し試験装置と、
を備え、
前記折り返し試験装置は、
所定周波数の局部発振周波数信号を発生させる局部発振器と、
ローカル端子と中間周波端子と無線周波端子とを有し、前記送信部から前記ローカル端子に入力された前記第1周波数信号と前記局部発振器から前記中間周波端子に入力された前記局部発振周波数信号とに基づいて前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号との和差信号を生成し、前記和差信号を前記第2周波数信号として前記無線周波端子から出力する周波数混合器と、
を備えた無線装置。
【請求項2】
前記周波数混合器は、
前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号とを乗算することにより前記和差信号を生成する、請求項1に記載の無線装置。
【請求項3】
前記局部発振器により発生される前記局部発振周波数信号の周波数は帯域を持たず、且つ、前記局部発振周波数信号の周波数は、前記第1周波数信号のスペクトラムの帯域に含まれる周波数よりも小さい周波数である、請求項1に記載の無線装置。
【請求項4】
無線装置に備えられた送信部から出力された第1周波数信号を周波数変換して第2周波数信号を発生させ、前記第2周波数信号を前記受信部に入力する折り返し試験装置であって、
所定周波数の局部発振周波数信号を発生させる局部発振器と、
ローカル端子と中間周波端子と無線周波端子とを有し、前記送信部から前記ローカル端子に入力された前記第1周波数信号と前記局部発振器から前記中間周波端子に入力された前記局部発振周波数信号とに基づいて前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号との和差信号を生成し、前記和差信号を前記第2周波数信号として前記無線周波端子から出力する周波数混合器と、
を備えた折り返し試験装置。
【請求項5】
前記周波数混合器は、
前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号とを乗算することにより前記和差信号を生成する、請求項4に記載の折り返し試験装置。
【請求項6】
前記局部発振器により発生される前記局部発振周波数信号の周波数は帯域を持たず、且つ、前記局部発振周波数信号の周波数は、前記第1周波数信号のスペクトラムの帯域に含まれる周波数よりも小さい周波数である、請求項4に記載の折り返し試験装置。
【請求項7】
無線装置に備えられた送信部から出力される第1周波数信号を周波数変換して第2周波数信号を発生させ、前記第2周波数信号を前記無線装置に備えられた受信部に入力する折り返し試験方法であって、
局部発振器が、所定周波数の局部発振周波数信号を発生させる段階と、
ローカル端子と中間周波端子と無線周波端子とを有する周波数混合器が、前記送信部から前記ローカル端子に入力された前記第1周波数信号と前記局部発振器から前記中間周波端子に入力された前記局部発振周波数信号とに基づいて前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号との和差信号を生成し、前記和差信号を前記第2周波数信号として前記無線周波端子から出力する段階と、
を有する折り返し試験方法。
【請求項8】
前記周波数混合器は、
前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号とを乗算することにより前記和差信号を生成する、請求項7に記載の折り返し試験方法。
【請求項9】
前記局部発振器により発生される前記局部発振周波数信号の周波数は帯域を持たず、且つ、前記局部発振周波数信号の周波数は、前記第1周波数信号のスペクトラムの帯域に含まれる周波数よりも小さい周波数である、請求項7に記載の折り返し試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線装置、折り返し試験装置、折り返し試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の通信データを多重化して無線伝送するための多重無線装置が知られている。現在、公共業務用の多重無線装置で用いられる周波数帯として、6.5GHz帯、7.5GHz帯、12GHz帯が割り当てられている。例えば、6.5GHz帯の場合、送信周波数と受信周波数との間は160MHzだけ離されており、送信周波数と受信周波数とは相互に異なる周波数である。
【0003】
上述の多重無線装置単体で送信機能と受信機能とを試験するための試験装置として、折り返し試験装置がある。折り返し試験装置は、多重無線装置の送信部から出力される無線周波の送信周波数を受信周波数に変換して受信部に折り返し入力する。これにより、アンテナから実際に電波を放射することなく、多重無線装置単体で送信部および受信部の両機能を試験することができる。
【0004】
折り返し試験装置は、送信周波数を受信周波数に変換するための要素として、例えばアップコンバータとダウンコンバータとを備える。この場合、折り返し試験装置は、アップコンバータとダウンコンバータとを制御するための手段も必要とする。このため、折り返し試験装置の構成が複雑になり、装置コストが上昇するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−152461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、装置構成の複雑化および装置コストの上昇を抑制することができる無線装置、折り返し試験装置、折り返し試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の無線装置は、送信部、受信部、折り返し試験装置を持つ。前記送信部は、送信信号に対し所定の送信処理を実施して第1周波数信号を出力する。前記受信部は、第2周波数信号に対し所定の受信処理を実施して受信信号を出力する。前記折り返し試験装置は、前記送信部から出力された前記第1周波数信号を周波数変換して前記第2周波数信号を発生させ、前記第2周波数信号を前記受信部に入力する。前記折り返し試験装置は、局部発振器、周波数混合器を持つ。前記局部発振器は、所定周波数の局部発振周波数信号を発生させる。前記周波数混合器は、ローカル端子と中間周波端子と無線周波端子とを有し、前記送信部から前記ローカル端子に入力された前記第1周波数信号と前記局部発振器から前記中間周波端子に入力された前記局部発振周波数信号とに基づいて前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号との和差信号を生成し、前記和差信号を前記第2周波数信号として前記無線周波端子から出力する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の多重無線装置を備えた通信システムの全体構成例を模式的に示すブロック図。
図2】実施形態の折り返し試験装置が適用された多重無線装置の構成例を示すブロック図。
図3】実施形態の折り返し試験装置の構成例を示す図。
図4】実施形態の折り返し試験装置に備えられた周波数混合器の動作例の説明図。
図5】実施形態の折り返し試験装置に含まれない構成を示す参考図。
図6】実施形態の折り返し試験装置に含まれない構成の動作の参考説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の無線装置、折り返し試験装置、折り返し試験方法を図面を参照して説明する。
なお、以下では、実施形態の折り返し試験装置を多重無線装置に適用した場合を例として説明するが、この例に限らず、実施形態の折り返し試験装置は、任意の無線装置に適用可能である。
【0010】
図1は、実施形態の多重無線装置100A〜100Fを備えた通信システム1の全体構成例を模式的に示すブロック図であり、複数の局舎に複数の多重無線装置100A〜100Fを分散配置した例を示す。
図1に示す例では、本局1000には、本局装置1001によって管理される多重無線装置100Aおよび多重無線装置100Bが配置されている。中継局2000には、多重無線装置100Cおよび多重無線装置100Dが配置されている。これら多重無線装置100Cと多重無線装置100Dとの間は同軸ケーブルにより接続されている。支局3000には、多重無線装置100Eが配置され、支局4000には多重無線装置100Fが配置されている。なお、図1において、「FT」は送信周波数を表し、「FR」は受信周波数を表している。
【0011】
各局舎に配置された多重無線装置100A〜100Fのそれぞれは、後述の図2に示す多重無線装置100と同様の構成を有している。図1の例では、複数の多重無線装置100A〜100Fののうち、本局1000の多重無線装置100Aのみが実施形態の折り返し試験装置50を備えている。ただし、折り返し試験装置50は、多重無線装置100Aから取り外して、他の多重無線装置100B〜100Fの何れにも取り付けることが可能となっている。即ち、折り返し試験装置50は、複数の多重無線装置100A〜100Fのそれぞれに対して着脱可能に構成されており、試験対象となる任意の多重無線装置に取り付け可能となっている。
【0012】
図1の例では、本局1000の多重無線装置100Aと支局3000の多重無線装置100Eとの間の通信は、中継局2000の多重無線装置100C,100Dを通じて実施される。また、本局1000の多重無線装置100Bは、支局4000の多重無線装置100Fと直接的に通信が実施される。
【0013】
図2は、実施形態の折り返し試験装置50が適用された多重無線装置100の構成例を示すブロック図である。図2に示す多重無線装置100は、上述の図1に示す多重無線装置100A〜100Fのそれぞれに対応している。
多重無線装置100は、1つの周波数帯で複数のデータ信号を送信または受信するための装置であり、上記周波数帯として、例えば、6.5GHz帯、7.5GHz帯、12GHz帯が用いられる。多重無線装置100は、送信に関与する要素として、分配部11、現用系の送信部12A、予備系の送信部12B、スイッチ回路(SW)13を備えている。また、多重無線装置100は、受信に関与する要素として、ハイブリッド回路(H)21、現用系の受信部22A、予備系の受信部22B、切替部23を備えている。更に、多重無線装置100は、送信と受信とで共用される要素として、サーキュレータ30およびアンテナ40を備えている。
【0014】
分配部11の入力部には、複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXn(nは任意の自然数)が送信信号として入力され、分配部11の第1出力部(111)および第2出力部(112)には、それぞれ、現用系の送信部12Aおよび予備系の送信部12Bの各入力部が接続されている。現用系の送信部12Aおよび予備系の送信部12Bの各出力部は、それぞれ、同軸ケーブルを通じてスイッチ回路13の第1入力部および第2入力部と接続されている。スイッチ回路13の出力部は、導波管を通じてサーキュレータ30の第1ポートと接続されている。
【0015】
サーキュレータ30の第2ポートにはアンテナ40が接続されている。サーキュレータ30の第3ポートは、導波管を通じてハイブリッド回路21の入力ポートと接続されている。ハイブリッド回路21の第1出力ポートおよび第2出力ポートは、それぞれ、同軸ケーブルを通じて現用系の受信部22Aおよび予備系の受信部22Bの各入力部と接続されている。現用系の受信部22Aの出力部は、切替部23の第1入力部(231)に接続され、予備系の受信部22Bの出力部は、切替部23の第2入力部(232)に接続されている。
【0016】
ここで、送信に関与する分配部11は、多重無線装置100に入力される複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXnを、現用系の送信部12Aおよび予備系の送信部12Bに分配するための要素である。具体的には、分配部11は、複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXnを現用系の送信部12Aと予備系の送信部12Bとに分配する。
【0017】
現用系の送信部12Aは、通常的に送信を担う要素であり、分配部11により分配された複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXnに対し所定の送信処理を実施して第1周波数信号RF1を出力する。現用系の送信部12Aは、同期部121、多重部122、変調部123、アップコンバータ(U/C)部124を備えている。このうち、同期部121は、分配部11の第1出力部(111)から現用系の送信部12Aに入力された複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXnを同期化するための要素である。
【0018】
多重部122は、同期部121により同期化された複数の送信データ信号を多重化して一つの送信データ信号に束ねるための要素である。変調部123は、多重部122により多重化された送信データ信号をデジタル変調するための要素である。上記デジタル変調方式として、例えば、4PSK(Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、128QAM等が用いられる。
【0019】
アップコンバータ部124は、変調部123によりデジタル変調された送信データ信号を所望の帯域の無線周波信号である第1周波数信号RF1に周波数変換するための要素である。アップコンバータ部124により周波数変換された第1周波数信号RF1は、送信部12Aからスイッチ回路13に出力される。
【0020】
予備系の送信部12Bは、例えば現用系の送信部12Aの保守点検を実施する場合や、現用系の送信部12Aに異常が発生した場合など、現用系の送信部12Aを運用できない状況において、現用系の送信部12Aに代わって送信を担う要素であり、上述の現用系の送信部12Aと同様に構成され、その構成の詳細は省略する。予備系の送信部12Bは、分配部11により分配される複数の送信データ信号STX1,STX2,…,STXnを同期化し、多重化し、デジタル変調し、周波数変換して第1周波数信号RF1を出力する。
【0021】
スイッチ回路13は、現用系の送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1と予備系の送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1とのうち、何れか1つを選択してサーキュレータ30に供給するための要素である。具体的には、スイッチ回路13は、通常の送信時に送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1をサーキュレータ30の第1ポートに供給し、予備系の送信部12Bから出力される第1周波数信号RF1をサーキュレータ30の第1ポートに供給する。
【0022】
次に、受信に関与するハイブリッド回路21は、サーキュレータ30の第3ポートから供給される第2周波数信号RF2を現用系の受信部22Aと予備系の受信部22Bとに分配するための要素である。
【0023】
現用系の受信部22Aは、通常的に受信を担う要素であり、第2周波数信号RF2に対し所定の受信処理を実施して受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXnを切替部23に出力する。現用系の受信部22Aは、ダウンコンバータ(D/C)部221、復調部222、分離部223、同期部224を備えている。このうち、ダウンコンバータ部221は、ハイブリッド回路21から現用系の受信部22Aに入力された無線周波の第2周波数信号RF2を所定の中間周波信号に周波数変換するための要素である。
【0024】
復調部222は、ダウンコンバータ部221により周波数変換された中間周波信号を復調して、複数の受信データ信号(SRX1,SRX2,…,SRXn)が多重化された受信データ信号を得るための要素である。分離部223は、復調部222により復調された受信データ信号に含まれる多重化された複数の受信データ信号を分離するための要素である。同期部224は、分離部223により分離された複数の受信データ信号を同期化するための要素である。同期部224により同期化された複数の受信データ信号は、受信部22Aの第1入力部(231)に出力され、切替部23を通じて複数の受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXn(受信信号)として出力される。
【0025】
予備系の受信部22Bは、例えば現用系の受信部22Aの保守点検を実施する場合や、現用系の受信部22Aに異常が発生した場合など、現用系の受信部22Aを運用できない状況において、現用系の受信部22Aに代わって受信を担う要素であり、上述の現用系の受信部22Aと同様に構成され、その構成の詳細は省略する。予備系の受信部22Bは、ハイブリッド回路21により分配される第2周波数信号RF2に含まれる複数の受信データ信号を周波数変換し、復調し、分離し、同期化して切替部23の第2入力部(232)に出力する。
【0026】
切替部23は、通常の受信時に、受信部22Aから入力される受信データ信号を受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXnとして出力し、現用系の受信部22Aを運用できない場合に、受信部22Bから入力される受信データ信号を受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXnとして出力するための要素である。
【0027】
また、多重無線装置100は、折り返し試験装置50を備えている。折り返し試験装置50は、送信部12Aから出力された第1周波数信号RF1を周波数変換して第2周波数信号RF2を発生させ、第2周波数信号RF2を受信部22Aに折り返して入力するための要素である。なお、予備系の送信部12Bの出力部と、予備系の受信部22Bの入力部との間にも、同様に折り返し試験装置50が接続可能となっている。
【0028】
図2の例では、折り返し試験装置50は、送信部12Aの出力部に接続された同軸ケーブル上に設けられた第1中間端子(符号なし)と、受信部22Aの入力部に接続された同軸ケーブル上に設けられた第2中間端子(符号なし)との間に接続されている。ただし、この例に限らず、折り返し試験装置50は、現用系の送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1の伝送経路上の任意の部位と、現用系の受信部22Aに入力される第2周波数信号RF2の伝送経路上の任意の部位との間に接続され得る。
【0029】
ここで、折り返し試験装置50を用いた折り返し試験は、例えば多重無線装置100を局舎(本局、中継局、支局)に設置する際に行われる試験であり、試験時に送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1を周波数変換して第2周波数信号RF2を生成し、この第2周波数信号RF2を受信部22Aの入力部に供給することにより、対向側の多重無線装置を要することなく、送信部12Aおよび受信部22Aの試験を実施できる。従って、折り返し試験によれば、アンテナ40から実際に電波を放射することなく、多重無線装置100の送信部12Aおよび受信部22Aの両機能を試験することができる。即ち、多重無線装置100単体で多重無線装置100の送受信機能を試験することができる。
【0030】
図3は、実施形態の折り返し試験装置50の構成例を示す図である。
折り返し試験装置50は、入力端子TIN、出力端子TOUT、局部発振器51、周波数混合器52を備えて構成される。入力端子TINは、上述の現用系の送信部12Aの出力部に接続された同軸ケーブル上の第1中間端子と接続されている。入力端子TINには、現用系の送信部12Aから第1周波数信号RF1が供給される。また、出力端子TOUTは、上述の現用系の受信部22Aの入力部に接続された同軸ケーブル上の第2中間端子と接続されている。
【0031】
局部発振器51は、所定周波数の局部発振周波数信号MFを発生させるための要素である。局部発振器51が発生させた局部発振周波数信号MFは、周波数混合器52の中間周波端子(IF)に供給される。局部発振器51は、局部発振周波数信号を発生させる発振器であり、例えば水晶発振器である。
【0032】
周波数混合器52は、送信部12Aから出力された第1周波数信号RF1と局部発振器51が発生させた局部発振周波数信号MFとに基づいて、第1周波数信号RF1と局部発振周波数信号MFとの和差信号を生成するための要素である。実施形態では、周波数混合器52は、送信部12Aから出力された第1周波数信号RF1と局部発振器51が発生させた局部発振周波数信号MFとを乗算することにより、第1周波数信号RF1と局部発振周波数信号MFとの和差信号を生成する。周波数混合器52は、ローカル端子(Lo)、中間周波端子(IF)、無線周波端子(RF)を有している。ここで、周波数混合器52のローカル端子(Lo)は、入力端子TINと接続されている。周波数混合器52の中間周波端子(IF)は、局部発振器51の出力部と接続されている。周波数混合器52の無線周波端子(RF)は出力端子TOUTと接続されている。
【0033】
従って、周波数混合器52のローカル端子(Lo)には、入力端子TINを通じて第1周波数信号RF1が入力され、中間周波端子(IF)には、局部発振器51から局部発振周波数信号MFが入力される。周波数混合器52は、送信部からローカル端子(Lo)に入力された第1周波数信号RF1と局部発振器51から中間周波端子(IF)に入力された局部発振周波数信号MFとを乗算して、第1周波数信号RF1と局部発振周波数信号MFとの和差信号を生成する。周波数混合器52により生成された和差信号は、第2周波数信号RF2として無線周波端子(RF)から出力端子TOUTを通じて受信部22Aに出力される。
【0034】
周波数混合器52は、次式(1)の乗算演算を行うミキサーから構成される。
sinω1t×sinω2t = [cos(ω12)t−cos(ω12)t]/2 …(1)
ここで、ω=2πf,ω=2πfであり、fは、第1周波数信号RF1の周波数であり、fは、局部発振周波数信号MFの周波数である。
【0035】
上式(1)から理解されるように、周波数混合器52の無線周波端子(RF)から出力される和差信号(第2周波数信号RF2)には、第1周波数信号RF1の周波数fと局部発振周波数信号MFの周波数fとの和信号の周波数成分(f+f)と、差信号の周波数成分(f−f)とが含まれている。このような周波数混合器52の演算特性は、後述するように、折り返し試験装置50において、送信データ信号の第1周波数信号RF1を周波数変換して受信データ信号の第2周波数信号RF2を得るために利用される。
【0036】
なお、ローカル端子(Lo)に入力される信号の周波数から中間周波端子(IF)に入力される信号の周波数を減算した差信号の周波数成分(f−f)と、ローカル端子(Lo)に入力される信号の周波数に中間周波端子(IF)に入力される信号の周波数を加算した和信号の周波数成分(f+f)とを得ることができることを限度に、周波数混合器52は、任意のミキサーであり得る。
【0037】
次に、折り返し試験装置50に着目して多重無線装置100の動作を説明する。
ここでは、多重無線装置100を局舎に設置する際に、折り返し試験装置50を用いて多重無線装置100単体で送信部12Aおよび受信部22Aの両機能を試験する場合を例として説明する。
【0038】
折り返し試験を実施する場合、設置作業の担当者は、送信データ信号STX1,STX2,…,STXnとして試験用の送信データ信号を多重無線装置100に外部から入力する。多重無線装置100に入力された試験用の送信データ信号は、分配部11により送信部12Aに分配される。送信部12Aは、分配部11により分配された試験用の送信データ信号に対して所定の送信処理(同期化、多重化、デジタル変調、周波数変換)を実施して無線周波の第1周波数信号RF1を出力する。
【0039】
送信部12Aから出力された第1周波数信号RF1は、折り返し試験装置50の入力端子TIN(図3)に供給される。入力端子TINに供給された第1周波数信号RF1は、周波数混合器52のローカル端子(Lo)に入力される。また、周波数混合器52の中間周波端子(IF)には、局部発振器51から所定周波数の局部発振周波数信号MFが入力されている。
【0040】
上述の第1周波数信号RF1と局部発振周波数信号MFが入力される周波数混合器52の動作を説明する。
ここでは、送信部12Aから折り返し試験装置50の入力端子TINに供給される第1周波数信号RF1の周波数を7450MHzとし、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから出力される第2周波数信号RF2の周波数として、7290MHz(7450MHz−160MHz)の差信号周波数を得る場合を例に説明する。この場合、周波数混合器52のローカル端子(Lo)には、7450MHzの第1周波数信号RF1が入力され、周波数混合器52の中間周波端子(IF)には、160MHzの局部発振周波数信号MFが入力される。
【0041】
図4は、実施形態の折り返し試験装置50に備えられた周波数混合器52の動作例の説明図であり、周波数混合器52のローカル端子(Lo)に入力される第1周波数信号RF1のスペクトラムと、中間周波端子(IF)に入力される局部発振周波数信号MFのスペクトラムと、無線周波端子(RF)から出力される第2周波数信号RF2(RF2L,RF2H)のスペクトラムを模式的に示している。
なお、後述するスペクトラムの反転現象の理解の容易化のため、図4では、第1周波数信号RF1、第2周波数信号RF2H,RF2Lの各スペクトラムの形状を非対称の台形状としており、実際のスペクトラムの形状とは異なっている。
【0042】
図4の例では、第1周波数信号RF1のスペクトラムは、7450MHzを中心とした10MHzの帯域幅を有している。第2周波数信号RF2Lは、周波数混合器52により得られる差信号であり、第2周波数信号RF2Lの周波数は、第1周波数信号RF1の周波数「7450MHz」から局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」を減算した周波数「7290MHz」である。図4の例では、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムは、7290MHzを中心とした10MHzの帯域幅を有している。
【0043】
第2周波数信号RF2Hは、周波数混合器52により得られる和信号であり、第2周波数信号RF2Hの周波数は、第1周波数信号RF1の周波数「7450MHz」と局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」を加算した周波数「7610MHz」である。図4の例では、第2周波数信号RF2Hのスペクトラムは、7610MHzを中心とした10MHzの帯域幅を有している。
なお、図4の例では、説明の簡略化のため、第1周波数信号RF1および第2周波数信号RF2H,RF2Lの各スペクトラムの帯域幅を10MHzとしているが、各帯域は任意に設定し得る。
【0044】
局部発振周波数信号MFのスペクトラムは、中心周波数の160MHzに集中している。このことは、局部発振器51から発生される局部発振周波数信号MFの周波数が帯域を殆ど持っていないこと、即ち、局部発振周波数信号MFが所定の発振周波数以外の周波数成分を殆ど含んでいないことを意味する。ここで、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの反転現象が生じないたいめには、理想的には、局部発振器51により発生される局部発振周波数信号MFの周波数が帯域を持たず、且つ、局部発振周波数信号MFの周波数が、帯域を有する第1周波数信号RF1のスペクトラムの帯域に含まれる周波数(図4の例では、7445MHz〜7455MHzの周波数)よりも小さい周波数であればよい。実施形態では、局部発振器51として水晶発振器を用いることにより、帯域を持たない局部発振周波数信号MFを生成している。ただし、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの反転現象が生じないことを限度として、局部発振周波数信号MFが或る程度の帯域を持つことは許容され、その限りにおいて、局部発振器51として水晶発振器以外の発振手段を用いることも可能である。
【0045】
上述のように周波数混合器52のローカル端子(Lo)に第1周波数信号RF1が入力されると、周波数混合器52は、ローカル端子(Lo)に入力される周波数「7450MHz」の第1周波数信号RF1と、中間周波端子(IF)に局部発振器51から入力される周波数「160MHz」の局部発振周波数信号MFとの差信号として、周波数「7290MHz」の第2周波数信号RF2Lを無線周波端子(RF)から発生させると共に、和信号として周波数「7610MHz」の第2周波数信号RF2Hを無線周波端子(RF)から発生させる。
【0046】
ここで注目すべきことは、周波数混合器52が第1周波数信号RF1から第2周波数信号RF2L,RF2Hを発生させる過程で、第2周波数信号RF2Lおよび第2周波数信号RF2Hの何れもスペクトラムが反転しないことである。即ち、第2周波数信号RF2L,RF2Hのスペクトラムの向きは、第1周波数信号RF1のスペクトラムの向きと同じである。このようにスペクトラムの反転現象が生じない理由を次に説明する。
【0047】
周波数混合器52が第1周波数信号RF1から差信号の第2周波数信号RF2Lを発生させる場合、前述の式(1)に従って、差信号である第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの上限周波数は、第1周波数信号RF1のスペクトラムの上限周波数「7455MHz」から局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」を減算した周波数「7295MHz」になる。
【0048】
ここで、局部発振周波数信号MFのスプリアスの帯域は極めて小さいので、第1周波数信号RF1から減算される局部発振周波数信号MFの周波数は単一の値「160MHz」をとる。このため、第1周波数信号RF1の周波数から局部発振周波数信号MFの周波数を減算して得られる第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの上限周波数は、周波数「7295MHz」に決定される。
【0049】
また、前述の式(1)に従って、差信号である第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの下限周波数は、第1周波数信号RF1のスペクトラムの下限周波数「7445MHz」から局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」を減算した周波数「7295MHz」になる。この場合も局部発振周波数信号MFの周波数は単一の値「160MHz」をとるため、第1周波数信号RF1の周波数から局部発振周波数信号MFの周波数を減算して得られる第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの下限周波数は、周波数「7285MHz」に決定される。
【0050】
結局、前述の式(1)に従って周波数混合器52が第1周波数信号RF1から差信号の第2周波数信号RF2Lを発生させる過程で、第1周波数信号RF1のスペクトラムの下限周波数に対応して第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの下限周波数が決定され、第1周波数信号RF1のスペクトラムの上限周波数に対応して第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの上限周波数が決定される。従って、周波数に関して、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムは、第1周波数信号RF1のスペクトラムを局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」だけ平行移動させたものとなる。このため、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの向きは、第1周波数信号RF1のスペクトラムの向きと一致し、スペクトラムの反転現象は生じない。
【0051】
ただし、図3の構成において、ローカル端子(Lo)と中間周波端子(IF)の各信号を入れ替えると、スペクトラムの反転現象が生じる場合があるが、その詳細は後述する。従って、実施形態の折り返し試験装置50の構成は、図3の構成において、ローカル端子(Lo)と中間周波端子(IF)の各信号を入れ替えた構成を含まない。
【0052】
前述の式(1)に従って得られる和信号の第2周波数信号RF2Hについては、原理上、スペクトラムの反転は発生し得ない。即ち、図4において、仮に局部発振周波数信号MFのスペクトラムの帯域が10MHzであったとしても、第2周波数信号RF2Hの上限周波数および下限周波数は、何れも第1周波数信号RF1の上限周波数および下限周波数を局部発振周波数信号MFの周波数分だけ一様に増加させた周波数になる。即ち、第2周波数信号RF2Hのスペクトラムは、第1周波数信号RF1のスペクトラムを局部発振周波数信号MFの周波数「160MHz」だけ平行移動したものとなる。このため、第2周波数信号RF2Hのスペクトラムの向きは、第1周波数信号RF1のスペクトラムの向きと一致し、スペクトラムの反転は生じない。この結果、実施形態の折り返し試験装置50によれば、図4に示すように、第2周波数信号RF2L,RF2Hの各スペクトラムは共に反転しない。
【0053】
折り返し試験装置50の出力端子TOUTから出力される第2周波数信号RF2には、上述の差信号成分と和信号成分が含まれている。このため、例えば、差信号成分のみを通過させる帯域フィルタを用いれば、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから出力される第2周波数信号RF2から差信号成分の周波数「7290MHz」を有する第2周波数信号RF2Lのみを取り出すことができる。
【0054】
上述した折り返し試験装置50から出力される周波数「7290MHz」の第2周波数信号RF2Lは、受信部22Aに入力される。受信部22Aは、折り返し試験装置50から入力される第2周波数信号RF2Lに含まれる受信データ信号を復調分離し、切替部23を通じて複数の受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXnを出力する。この場合、折り返し試験装置50から受信部22Aに入力される第2周波数信号RF2Lのスペクトラムは反転しておらず、送信部12Aから出力される第1周波数信号RF1と同じ向けのスペクトラムであるから、多重無線装置100に故障等の異常が存在しなければ、第2周波数信号RF2Lから複数の受信データ信号SRX1,SRX2,…,SRXnを正常に復調することができる。
【0055】
以上により、多重無線装置100の分配部11に入力された送信データ信号が折り返し試験装置50により折り返されて受信データ信号として切替部23から出力される。そして、送信データ信号と受信データ信号とから例えば符号化エラーレートを算出し、この符号化エラーレートが許容値以下であれば、送信部12Aと受信部22Aとの両機能に異常がないことが分かる。また、符号化エラーレートが許容値を超えていれば、現用系の送信部12Aと受信部22Aとの何れかに異常が存在することが推定される。これにより、多重無線装置100の送信機能と受信機能の両方を同時的に試験することができる。
【0056】
ここで、上述の式(1)によれば、図3の構成において、周波数混合器52のローカル端子(Lo)と中間周波端子(IF)とにそれぞれ入力される信号を入れ替えた場合も差信号と和信号を得ることができる。しかしながら、この場合、次に説明するように差信号である第2周波数信号RF2Lのスペクトラムが反転するため、第2周波数信号RF2Lから受信データ信号を正常に復調することができなくなる場合が起こり得る。従って、実施形態の折り返し試験装置50は、図3の構成においてローカル端子(Lo)と中間周波端子(IF)とにそれぞれ入力される信号を入れ替えた構成を含まない。
【0057】
図5および図6を参照して、図3の構成において周波数混合器52のローカル端子と中間周波端子とに入力される信号を入れ替えた場合に第2周波数信号RF2Lのスペクトラムが反転する理由を説明する。
図5は、実施形態の折り返し試験装置50に含まれない構成を示す参考図である。図5の例では、周波数混合器52の中間周波端子(IF)は、入力端子TINと接続されている。周波数混合器52のローカル端子(Lo)は、局部発振器51の出力部と接続されている。周波数混合器52の無線周波端子(RF)は出力端子TOUTと接続されている。即ち、図5の構成は、上述の図3の構成において、周波数混合器52のローカル端子(Lo)と中間周波端子(IF)に入力される信号が入れ替えられた構成に相当する。
【0058】
図5の例では、周波数混合器52の中間周波端子(IF)には、折り返し試験装置50の入力端子TINを通じて第1周波数信号RF1が入力され、ローカル端子(Lo)には、局部発振器51から局部発振周波数信号MFが入力される。これら第1周波数信号RF1と局部発振周波数信号MFとを周波数混合器52により乗算して得られる和差信号は、第2周波数信号RF2として無線周波端子(RF)から折り返し試験装置50の出力端子TOUTを通じて出力される。
【0059】
図6は、実施形態の折り返し試験装置50に含まれない図5に示す構成の動作の参考説明図であり、周波数混合器52のローカル端子(Lo)に入力される局部発振周波数信号MFのスペクトラムと、中間周波端子(IF)に入力される第1周波数信号RF1のスペクトラムと、無線周波端子(RF)から出力される第2周波数信号RF2(RF2L,RF2H)のスペクトラムを模式的に示している。図6の例では、無線周波端子(RF)から出力される第2周波数信号RF2Lの周波数として「7170MHz」を得ることを想定しており、そのため、局部発振器51から発生される局部発振周波数信号MFの周波数は「7310MHz」に設定され、第1周波数信号RF1の周波数は「140MHz」に設定されている。
【0060】
差信号である第2周波数信号RF2Lの周波数は、局部発振周波数信号MFの周波数「7310MHz」から第1周波数信号RF1の周波数「140MHz」を減算した周波数「7170MHz」になる。ここで、第2周波数信号RF2Lを発生させる過程で、周波数混合器52のローカル端子(Lo)に入力される局部発振周波数信号MFの周波数「7310MHz」から、中間周波端子(IF)に入力される第1周波数信号RF1のスペクトラムの上限周波数「145MHz」を減算すると、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの下限周波数「7165MHz」が得られる。また、局部発振周波数信号MFの周波数「7310MHz」から第1周波数信号RF1のスペクトラムの下限周波数「135MHz」を減算すると、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの上限周波数「7175MHz」が得られる。
【0061】
この場合、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムの上限周波数および下限周波数は、それぞれ、第1周波数信号RF1のスペクトラムの下限周波および上限周波数に対応している。このことは、第1周波数信号RF1のスペクトラムに対して第2周波数信号RF2Lのスペクトラムが反転していることを意味する。このようなスペクトラムの反転現象は、周波数混合器52が、帯域を持たない局部発振周波数信号MFの周波数(7310MHz)から、帯域を持つ第1周波数信号RF1の周波数(135MHz〜145MHz)を減算することに起因している。このように第2周波数信号RF2Lのスペクトラムが反転していると、第2周波数信号RF2Lから受信データ信号を正常に復調することができなくなる。これに対し、図3に示す実施形態の折り返し試験装置50によれば、前述したように、第2周波数信号RF2Lのスペクトラムは反転せず、第2周波数信号RF2Lから受信データ信号を正常に復調することができる。
【0062】
上述した実施形態によれば、スペクトルの反転を生じることなく、送信部から出力された第1周波数信号RF1を周波数変換して、第2周波数信号RF2を発生させることができる。従って、アンテナ40によって受信される受信データ信号と同様のスペクトルを有する第2周波数信号RF2を多重無線装置100内部で発生させることができ、多重無線装置100単体で送受信機能を正しく試験することができる。
【0063】
次に、前述の図1を参照して、実施形態の折り返し試験装置50を用いた折り返し試験の一例を説明する。
図1の例に示す通信システム1では、局舎間の通信に用いられる周波数は、7450MHz、7610MHz、7600MHz、7440MHz、7620MHz、7460MHzの6種類である。具体的には、本局1000の多重無線装置100Aの送信周波数FTは7450MHzに設定され、受信周波数FRは7610MHzに設定されている。同じく本局1000の多重無線装置100Bの送信周波数FTは7620MHzに設定され、受信周波数FRは7460MHzに設定されている。中継局2000の多重無線装置100Cの送信周波数FTは7610MHzに設定され、受信周波数FRは7450MHzに設定されている。同じく中継局2000の多重無線装置100Dの送信周波数FTは7600MHzに設定され、受信周波数FRは7440MHzに設定されている。支局3000の多重無線装置100Eの送信周波数FTは7440MHzに設定され、受信周波数FRは7600MHzに設定されている。支局4000の多重無線装置100Fの送信周波数FTは7460MHzに設定され、受信周波数FRは7620MHzに設定されている。
【0064】
本局1000に設置された多重無線装置100Aの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Aに取り付け、折り返し試験装置50の入力端子TINには図2の送信部12Aから送信周波数「7450MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、折り返し試験装置50に備えられた図3の局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、受信周波数「7610MHz」の第2周波数信号RF2Hが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから和信号として図2の受信部22Aに出力される。
【0065】
また、本局1000に設置された多重無線装置100Bの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Bに付け替えて、折り返し試験装置50の入力端子TINに周波数「7620MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、周波数「7460MHz」の第2周波数信号RF2Lが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから差信号として出力される。
【0066】
また、本局1000の多重無線装置100Aと通信する中継局2000の多重無線装置100Cの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Cに付け替えて、折り返し試験装置50の入力端子TINに送信周波数「7610MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、受信周波数「7450MHz」の第2周波数信号RF2Lが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから差信号として出力される。
【0067】
また、中継局2000の多重無線装置100Dの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Dに付け替えて、折り返し試験装置50の入力端子TINに送信周波数「7600MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、受信周波数「7440MHz」の第2周波数信号RF2Lが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから差信号として出力される。
【0068】
また、中継局2000の多重無線装置100Dと通信する支局3000の多重無線装置100Eの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Eに付け替えて、折り返し試験装置50の入力端子TINに送信周波数「7440MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、受信周波数「7600MHz」の第2周波数信号RF2Hが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから和信号として出力される。
【0069】
また、支局4000の多重無線装置100Fの折り返し試験を実施する場合、折り返し試験装置50を多重無線装置100Fに付け替えて、折り返し試験装置50の入力端子TINに送信周波数「7460MHz」の第1周波数信号RF1を入力し、局部発振器51が発生させる局部発振周波数信号MFの周波数を「160MHz」に設定すればよい。この場合、受信周波数「7620MHz」の第2周波数信号RF2Hが、折り返し試験装置50の出力端子TOUTから和信号として出力される。
以上のように、折り返し試験装置50を用いれば、多重無線装置から実際に電波を放射することなく、各局舎に設置された多重無線装置100A〜100Fの各機能を試験することができる。
【0070】
実施形態の折り返し試験装置50は、折り返し試験方法として表現することもできる。この場合、実施形態の折り返し試験方法は、無線装置に備えられた送信部から出力される第1周波数信号を周波数変換して第2周波数信号を発生させ、前記第2周波数信号を前記無線装置に備えられた受信部に折り返して入力する折り返し試験方法であって、局部発振器が、所定周波数の局部発振周波数信号を発生させる段階と、ローカル端子と中間周波端子と無線周波端子とを有する周波数混合器が、前記送信部から前記ローカル端子に入力された前記第1周波数信号と前記局部発振器から前記中間周波端子に入力された前記局部発振周波数信号とに基づいて前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号との和差信号を生成し、前記和差信号を前記第2周波数信号として前記無線周波端子から出力する段階と、を含むことを特徴とする折り返し試験方法として表現することができる。
【0071】
前記折り返し試験方法において、例えば、前記周波数混合器は、前記第1周波数信号と前記局部発振周波数信号とを乗算することにより前記和差信号を生成してもよい。
また、前記折り返し試験方法において、例えば、前記局部発振器により発生される前記局部発振周波数信号の周波数は帯域を持たず、且つ、前記局部発振周波数信号の周波数は、前記第1周波数信号のスペクトラムの帯域に含まれる周波数よりも小さい周波数であることが望ましい。このように、局部発振器から周波数混合器の中間周波端子に入力される局部発振周波数信号を、帯域を持たない搬送波(CW)とすることにより、周波数混合器の無線周波端子から出力される第2周波数信号のスペクトラムの反転を防止し、折り返し試験におおける周波数変換を正しく行うことが可能になる。
【0072】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の送信システムによれば、装置構成の複雑化および装置コストの上昇を抑制することができる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…通信システム、11…分配部、12A,12B…送信部、13…スイッチ回路、21…ハイブリッド回路、22A,22B…受信部、23…切替部、30…サーキュレータ、40…アンテナ、50…折り返し試験装置、51…局部発振器、52…周波数混合器、100,100A〜100F…多重無線装置、121…同期部、122…多重部、123…変調部、124…アップコンバータ部、221…ダウンコンバータ部、222…復調部、223…分離部、224…同期部、1000…本局、1001…本局装置、2000…中継局、3000,4000…支局、TIN…入力端子、TOUT…出力端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6