(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1方向における前記アノード層の幅と、前記第1方向における前記カソード領域の幅との差分は、50μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記第1方向に直交する第2方向における前記カソード領域の幅は、前記第2方向における前記アノード層の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)や還流用ダイオード(FWD)等の600V、1200V、1700V耐圧クラスの電力用半導体装置の特性改善が進められている。電力用半導体装置は、省電力性および高効率性をもたらすインバータ等の電力変換装置に使用されており、モータ制御に不可欠である。このような用途で用いられる電力用半導体装置は、低損失(省電力)化、高速高効率化、および地球環境に優しい各種特性が市場から急速に要求されている。
【0003】
このような要求を満たす電力用半導体装置を作製(製造)する方法として、低コストでかつ低オン電圧など電気的損失の低いIGBTを製造する方法が提案されている。具体的には、まず、ウエハプロセス中のウエハ割れを防止するために、通常採用される厚いウエハでウエハプロセスを開始する。そして、ウエハプロセスのできるだけ後半で、所望の特性を得られる程度に可能な限り薄くなるようにウエハ裏面を研削する。その後、ウエハの研削された裏面から所望の不純物濃度で不純物をイオン注入して活性化しp
+コレクタ領域を形成する。
【0004】
近年、このようにウエハの厚さを薄くすることにより、低コストで、電気的損失の低い半導体装置を製造する方法が、特に電力用半導体装置を開発・製造する主流の方法となりつつある。さらに、低損失なIGBTの製造方法として、ウエハの研削された裏面から不純物をイオン注入することにより、n
-ドリフト層のコレクタ側に、オフ時にpベース層とn
-ドリフト層との間のpn接合から伸びる空乏層がp
+コレクタ領域に達しないように抑制するnフィールドストップ(FS)層を形成する方法が不可欠となっている。
【0005】
また、電力変換装置全体の小型化を図るために、IGBTと当該IGBTに逆並列に接続された還流ダイオード(FWD)とを同一半導体チップに内蔵して一体化した構造の逆導通型IGBT(RC−IGBT)の開発も進んでいる。従来のRC−IGBTの構成について、FS層を備えたIGBT(FS−IGBT)と当該FS−IGBTに逆並列に接続されたFWDとを同一半導体チップに内蔵して一体化した場合を例に説明する。
図16は、従来のフィールドストップ構造のRC−IGBTの構成を示す断面図である。
【0006】
図16に示すように、従来のRC−IGBTでは、IGBT部121において、n
-半導体基板のおもて面側に、pベース層102、トレンチ103、ゲート酸化膜104、ゲート電極105、n
+エミッタ領域106およびp
+コンタクト領域107からなるトレンチゲート型のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造120が設けられている。エミッタ電極108は、n
+エミッタ領域106およびp
+コンタクト領域107に接する。符号109は、層間絶縁膜である。
【0007】
pベース層102、トレンチ103、エミッタ電極108および層間絶縁膜109は、IGBT部121からFWD部122にわたって設けられている。FWD部122において、pベース層102は、FWDのpアノード層を兼ねる。エミッタ電極108は、アノード電極を兼ねる。n
-ドリフト層101の内部には、IGBT部121からFWD部122にわたって、n
-半導体基板の裏面側にnフィールドストップ(FS)層110が設けられている。
【0008】
n
-半導体基板の裏面側には、IGBT部121にp
+コレクタ領域111が設けられ、FWD部122にn
+カソード領域112が設けられている。p
+コレクタ領域111は、n
-ドリフト層101を挟んで、トレンチ103間に挟まれた複数のpベース層102のうちn
+エミッタ領域106を有する部分(以下、IGBTエミッタ部とする)131と対向する。n
+カソード領域112は、n
-半導体基板の裏面に水平な方向に、p
+コレクタ領域111と並んで(並列に)設けられている。
【0009】
また、n
+カソード領域112は、n
-ドリフト層101を挟んで、トレンチ103間に挟まれた複数のpベース層102のうちn
+エミッタ領域106を有していないアノードとして機能する部分(以下、FWDアノード部とする)132と対向する。コレクタ電極113は、カソード電極を兼ねており、p
+コレクタ領域111およびn
+カソード領域112に接する。n
+カソード領域112とFWDアノード部132とは同程度の表面積とするのが一般的である。
【0010】
別のRC−IGBTとして、IGBTセル毎に、ウエル状のPベース層を形成し、その直下の裏面側部分にコレクタP
+層及びカソードN
+層を形成する装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1は、半導体チップのおもて面に、通常のIGBTと同様のパターンでMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造のみを配置し、半導体チップの裏面に、FWD部のn
+カソード領域とIGBT部のp
+コレクタ領域とを並列に配置したコレクタショート型となっている。
【0011】
また、別のRC−IGBTとして、ダイオード部にMOSゲート構造を設けずに、pin(p−intrinsic−n)構造やMPS(Merged p−i−n/Schottky)構造のダイオードを構成し、ダイオード専用の領域とした装置が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。
【0012】
また、別のRC−IGBTとして、IGBT部とFWD部とが同一半導体チップに形成され、FWD部において、カソード領域のIGBT部側の端部がアノード層のIGBT部側の端部から100μm以上、IGBT部から遠ざかる方向に離れている装置が提案されている(例えば、下記特許文献3(第0094段落、第16図)参照。)。また、別のRC−IGBTとして、IGBT部のMOSゲート構造をトレンチゲート構造とした装置が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、発明者らが鋭意研究を重ねた結果、上述したIGBTとFWDとを同一半導体基板に一体化したRC−IGBTでは、次の問題が生じることが判明した。
図15は、従来のRC−IGBTの順方向電圧降下特性を示す特性図である。従来のRC−IGBTでは、逆バイアス(エミッタ電極108に電圧を印加)時、FWD部122のFWDが動作する。一方、順バイアス(コレクタ電極113に電圧を印加)時に、ゲート電極105に例えばしきい値電圧15Vを印加することで、IGBT部121のIGBTがオン状態(ゲート電圧Vg=15V)となる。
【0015】
IGBTがオフ状態(ゲート電圧Vg=0)のときにFWDが動作する場合、n
+カソード領域112からn
-ドリフト層101に注入された電子は、pアノード層(FWDアノード部132)に流入する(
図16の符号141で示す矢印)。一方、IGBTがオン状態のときにFWDが動作した場合、IGBT部121とFWD部122とが併設されていることにより、IGBT部121のpベース層102に形成されたn型反転層(nチャネル)によって、FWDのn
+カソード領域112とIGBTのn
+エミッタ領域106とが短絡された状態となる。すなわち、IGBT部121のn
+エミッタ領域106も広い意味でのアノードとして機能する。
【0016】
その結果、n
+カソード領域112からn
-ドリフト層101に注入された電子は、IGBTのn型反転層(nチャネル、不図示)を経由してn
+エミッタ領域106を通過し、エミッタ電極108へと抜けてしまう(
図16の符号142で示す矢印)。pベース層102に隣接するn型反転層とn
+エミッタ領域106(電子の経路)は、ともにキャリア(電子)密度が高い(1×10
17/cm
3以上)ために、この電子の経路部分の電圧降下は、pアノード層の電位がpアノード層とn
-ドリフト層101との間のpn接合(以下、pn接合Aとする)のビルトイン電圧(〜0.7V)以上になり難い。これにより、
図15に示すように、電子の移動による電圧降下がpn接合Aのビルトイン電圧を超えるまで、FWDの順方向電圧降下Vfが大きくなり、電圧−電流曲線(I−Vカーブ)にスナップ(飛び)が発生する。このような問題は、上記特許文献1のようにFWD部122をダイオード専用の領域とした場合においても同様に生じる。FWDの順方向電圧降下Vfが大きくなった場合、例えばRC−IGBTを備えたインバータで発生する電気的損失が大きくなるという問題がある。
【0017】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、オン電圧を維持した状態で、順方向電圧降下を小さくするとともに、逆回復時の波形振動を抑制し、かつソフトリカバリー特性を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、第1導電型のドリフト層を有する半導体基板に、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部および還流用ダイオード部を備えた半導体装置であって、次の特徴を有する。前記絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部は、前記半導体基板のおもて面側に設けられた第2導電型のベース層と、前記ベース層内に選択的に設けられた第1導電型のエミッタ領域と、前記半導体基板のおもて面側に設けられた第1ゲート絶縁膜および第1ゲート電極からなる第1絶縁ゲート部と、前記ベース層と前記エミッタ領域との両方に電気的に接続するエミッタ電極と、前記半導体基板の裏面側に選択的に設けられた第2導電型のコレクタ領域と、前記コレクタ領域に電気的に接続するコレクタ電極と、を備える。前記還流用ダイオード部は、前記半導体基板のおもて面側に設けられ、前記エミッタ電極に電気的に接続する第2導電型のアノード層と、前記アノード層を貫通して前記ドリフト層に達する第1トレンチ、前記第1トレンチの内壁に沿って設けられた第2ゲート絶縁膜、および、前記第1トレンチの内部に前記第2ゲート絶縁膜を介して設けられた第2ゲート電極からなる第2絶縁ゲート部と、前記半導体基板の裏面側に選択的に設けられ、前記コレクタ電極に電気的に接続する第1導電型のカソード領域と、を備える。前記絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部と前記還流用ダイオード部とが並ぶ第1方向における前記カソード領域の幅は、前記第1方向における前記アノード層の幅よりも狭い。
前記絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部の表面積は、前記還流用ダイオード部の表面積よりも大きい。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1方向における前記アノード層の幅と、前記第1方向における前記カソード領域の幅との差分は、50μm以上であることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1方向に直交する第2方向における前記カソード領域の幅は、前記第2方向における前記アノード層の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1絶縁ゲート部は、前記ベース層および前記エミッタ領域を貫通して前記ドリフト層に達する第2トレンチと、前記第2トレンチの内壁に沿って設けられた前記第1ゲート絶縁膜と、前記第2トレンチの内部に前記第1ゲート絶縁膜を介して設けられた前記第1ゲート電極と、を備えることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記還流用ダイオード部は、前記第1方向において、隣り合う前記絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部との間に挟まれていることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1方向における前記アノード層の幅と前記第1方向における前記カソード領域の幅との差分は、前記アノード層の幅の1/2以下であることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記半導体基板の主面に平行な面において、前記カソード領域の表面積は前記アノード層の表面積の50%以下であることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ部および前記還流用ダイオード部は、もっともキャリアライフタイムの短い第1,2短ライフタイム領域と、第1導電型のフィールドストップ層と、を備える。前記第1短ライフタイム領域は、前記ドリフト層の内部において、前記半導体基板のおもて面から前記第1絶縁ゲート部および前記第2絶縁ゲート部よりも深い位置に、前記第1絶縁ゲート部および前記第2絶縁ゲート部に対向して設けられている。前記フィールドストップ層は、前記ドリフト層の内部において、前記半導体基板の裏面から前記コレクタ領域および前記カソード領域よりも深い位置に、前記コレクタ領域および前記カソード領域に接して設けられている。前記第2短ライフタイム領域は、前記フィールドストップ層の内部に設けられていることを特徴とする。
【0022】
上述した発明によれば、n
+カソード領域の短手方向幅をFWDアノード部の短手方向幅よりも狭くすることで、以下の効果を奏する。ゲートがオン状態のとき、n
+カソード領域からn
-ドリフト層へ注入された電子は、FWD部のpアノード層とn
-ドリフト層とのpn接合に沿ってn
-ドリフト層を通過しなければ、ゲート側面に形成されたn型反転層(nチャネル)に達することはできない。n
-ドリフト層は例えば10Ωcm以上の高抵抗領域なので、電子が移動する経路における電圧降下を、pn接合間のビルトイン電圧以上の電位差とすることができる。これにより、pアノード層から正孔を容易に注入させることができ、I−Vカーブのスナップ(飛び)の発生を抑えることができる。すなわち、IGBTにゲート電圧が印加されることによりFWDの順方向電圧降下特性に悪影響が及ぶことを抑制するという効果を奏する。
【0023】
また、上述した発明によれば、FWDアノード部の短手方向幅をn
+カソード領域の短手方向幅よりも広くすることで、p
+コレクタ領域の短手方向幅をIGBTエミッタ部(エミッタ領域を有するベース層)の短手方向幅よりも広くすることができる。これにより、IGBTの素子能力を維持することができる。したがって、FWDの順方向電圧降下を小さくするとともに、IGBTのオン電圧の上昇を抑制することができる。
【0024】
また、上述した発明によれば、n
+カソード領域の短手方向幅をFWDアノード部の短手方向幅よりも狭くすることで、p
+コレクタ領域の、n
-ドリフト層を挟んでFWDアノード部に対向する部分からn
-ドリフト層へのホール注入が促進される。これにより、n
-ドリフト層のn
+カソード領域側のキャリア濃度が高くなるため、FWDの順方向電圧降下を小さくすることができ、FWDがオンされやすくなる。また、実施の形態によれば、FWD部(還流用ダイオード部)にトレンチゲート(第2絶縁ゲート部)を設けることで、FWDがオンされやすくなるとともに、耐圧低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる半導体装置によれば、オン電圧を維持した状態で、順方向電圧降下を小さくするとともに、逆回復時の波形振動を抑制し、かつソフトリカバリー特性を有する半導体装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
(実施の形態)
実施の形態にかかる半導体装置の構成について説明する。
図1は、実施の形態にかかる半導体装置の構成を示す平面図である。
図2は、
図1の切断線A−A’における断面構造を示す断面図である。
図1,2に示すように、実施の形態にかかる半導体装置は、n
-ドリフト層1となる同一のn
-半導体基板(半導体チップ)上に、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が設けられたIGBT部21と、還流用ダイオード(FWD)が設けられたFWD部22と、を備える。
【0029】
具体的には、実施の形態にかかる半導体装置は、FWD部22のFWDがIGBT部21のIGBTに逆並列に接続された逆導通型IGBT(RC−IGBT)である。IGBT部21のIGBTは、例えばトレンチゲート型IGBTであり、n
-半導体基板のおもて面には、IGBT部21からFWD部22にわたって複数のトレンチゲート(絶縁ゲート部)が設けられている。複数のトレンチゲートは、トレンチ3が並ぶ方向(以下、トレンチ短手方向とする、第1方向)と直交する方向(
図1では紙面奥行き方向、以下、トレンチ長手方向とする、第2方向)に延びるストライプ状の平面レイアウトを有する。
【0030】
IGBT部21およびFWD部22は、トレンチ短手方向に併設されている。具体的には、FWD部22は、トレンチ短手方向に隣り合う2つのIGBT部21の間に挟まれている。n
-半導体基板の中央部には、IGBT部21からFWD部22にわたって、オン状態のときに電流が流れる活性領域(不図示)が設けられている。活性領域の周囲には、n
-ドリフト層1の基板おもて側の電界を緩和し耐圧を保持する耐圧構造領域(不図示)が設けられている。耐圧構造領域は、例えば、ガードリングなどのp
+領域や、フィールドプレートなどの金属膜からなる。
【0031】
図1には、n
-半導体基板のおもて面側から見たIGBTエミッタ部31、FWDアノード部32、p
+コレクタ領域11およびn
+カソード領域12の平面レイアウトが示されている。IGBTエミッタ部31およびFWDアノード部32については後述する。
図2には、FWD部22に隣り合う一方のIGBT部21のFWD部22側半分と、FWD部22のIGBT部21側半分とを含む部分(枠30で囲む部分)を切断線A−A’で切断した断面構造が示されている。以下に、活性領域におけるIGBTおよびFWDの素子構造について詳細に説明する。
【0032】
IGBT部21において、n
-半導体基板のおもて面側には、トレンチゲート型のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造20が設けられている。MOSゲート構造20は、pベース層2、トレンチ3、ゲート酸化膜4、ゲート電極5、n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7で構成される。pベース層2は、n
-半導体基板のおもて面の表面層に設けられている。トレンチ3は、pベース層2を貫通し、n
-ドリフト層1に達する。また、トレンチ3は、IGBT部21からFWD部22にわたって所定の間隔で設けられている。
【0033】
トレンチ3の内部には、トレンチ3の側壁および底面に沿ってゲート酸化膜4が設けられている。また、トレンチ3の内部には、ゲート酸化膜4の内側に例えばポリシリコンからなるゲート電極5が設けられている。n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7は、pベース層2の内部に選択的に設けられている。n
+エミッタ領域6は、トレンチ3の側壁に接し、ゲート酸化膜4を介してゲート電極5と対向する。エミッタ電極8は、n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7に接し、層間絶縁膜9によってゲート電極5と電気的に絶縁されている。
【0034】
上述したpベース層2、トレンチ3、エミッタ電極8および層間絶縁膜9は、IGBT部21からFWD部22にわたって設けられている。また、n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7は、IGBT部21のFWD部22側の部分およびFWD部22には設けられていない。隣り合うトレンチ3の間に挟まれたpベース層2のうち、n
+エミッタ領域6を有するpベース層2は、エミッタとして機能する。以下、エミッタとして機能する複数のpベース層2を有する領域を、IGBTエミッタ部31とする。
【0035】
また、隣り合うトレンチ3の間に挟まれたpベース層2のうち、n
+エミッタ領域6を有していないpベース層2は、アノードとして機能する。以下、アノードとして機能する複数のpベース層2を有する領域を、FWDアノード部32とする。すなわち、FWDアノード部32には、IGBTエミッタ部31と同様にpベース層2と、トレンチ3、ゲート酸化膜4およびゲート電極5からなるトレンチゲートと、エミッタ電極8とが設けられており、n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7は設けられていない。FWDアノード部32において、エミッタ電極8は、アノード電極を兼ねる。FWDアノード部32にトレンチゲートを形成する理由は後述する。
【0036】
n
-ドリフト層1の内部には、n
-半導体基板の裏面側に、nフィールドストップ(FS)層10が設けられている。nFS層10は、IGBT部21からFWD部22にわたって設けられている。また、nFS層10は、n
-半導体基板の裏面側に設けられたp
+コレクタ領域11およびn
+カソード領域12と接する。nFS層10は、オフ時にn
-ドリフト層1とpベース層2との間のpn接合から伸びる空乏層がp
+コレクタ領域11に達しないように抑制する機能を有する。
【0037】
また、n
-ドリフト層1の内部には、n
-半導体基板のおもて面側に、ライフタイムキラーとして添加された例えばヘリウム(He
+)により結晶欠陥が形成されてなる、他の領域よりもキャリアのライフタイムの短い領域(以下、短ライフタイム領域とする)1aが設けられている。nFS層10の内部にも、短ライフタイム領域10aが設けられている。短ライフタイム領域1a,10a(ハッチングで示す部分)は、IGBT部21からFWD部22にわたって所定の厚さで設けられている。
【0038】
n
-半導体基板の裏面側には、IGBT部21にp
+コレクタ領域11が設けられ、FWD部22にn
+カソード領域12が設けられている。p
+コレクタ領域11およびn
+カソード領域12は、トレンチ短手方向に並列されている。p
+コレクタ領域11は、n
-ドリフト層1を挟んで、IGBTエミッタ部31と、FWDアノード部32のIGBTエミッタ部31側の部分とに対向する。n
+カソード領域12は、n
-ドリフト層1を挟んで、FWDアノード部32に対向する。コレクタ電極13は、カソード電極を兼ねており、p
+コレクタ領域11およびn
+カソード領域12に接する。
【0039】
n
+カソード領域12のIGBT部21側の端部は、FWDアノード部32のIGBT部21側の端部よりもIGBTエミッタ部31から遠ざかる方向に離れている。すなわち、n
+カソード領域12のトレンチ短手方向の幅(以下、短手方向幅とする)L
12は、FWDアノード部32の短手方向幅L
32よりも狭い。また、n
+カソード領域12の短手方向幅L
12がFWDアノード部32の短手方向幅L
32よりも狭い分だけ、p
+コレクタ領域11のトレンチ短手方向の幅L
11は、IGBTエミッタ部31の短手方向幅L
31よりも広くなっている。
【0040】
FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12との差分ΔL
1(=L
32−L
12)は、50μm以上であるのが好ましい(L
32−L
12≧50μm)。n
+カソード領域12の短手方向幅L
12は、例えば100μm以上であってもよい。FWDアノード部32の短手方向幅L
32は、例えば150μm以上であってもよい。具体的には、FWD部22のトレンチ短手方向の両側にそれぞれIGBT部21が配置されているため、n
+カソード領域12のトレンチ短手方向の両端部は、それぞれ対向するIGBT部21のIGBTエミッタ部31から遠ざかる方向に離れている。
【0041】
したがって、n
+カソード領域12のトレンチ短手方向の両端部から、それぞれ対向するIGBT部21のIGBTエミッタ部31までの第1水平距離の総計が上記差分ΔL
1となる。例えば、n
+カソード領域12のトレンチ短手方向の一方の端部側の第1水平距離ΔL
1aと、n
+カソード領域12のトレンチ短手方向の他方の端部側の第1水平距離ΔL
1bと、がほぼ等しくてもよい(ΔL
1a=ΔL
1b=ΔL
1/2)。第1水平距離ΔL
1a,ΔL
1bは、FWD動作時のゲート電圧依存性を最大限抑制可能な距離とするのが好ましい。具体的には、第1水平距離は、FWD部22に隣り合う一方のIGBT部21側および他方の端部側ともに例えば25μm以上とするのが好ましい。水平距離とは、n
-半導体基板の主面に平行な方向の距離である。
【0042】
また、n
+カソード領域12のトレンチ長手方向の端部は、FWDアノード部32のトレンチ長手方向の端部よりもFWD部22の内側に位置する。すなわち、n
+カソード領域12のトレンチ長手方向の端部は、n
-半導体基板の側面よりも中央部側に位置する。n
+カソード領域12のトレンチ長手方向の端部から、FWDアノード部32のトレンチ長手方向の端部までの第2水平距離ΔL
2は、耐圧構造領域を構成するガードリングなどのp
+領域がFWD動作時に機能しないような距離であるのがよい。また、n
+カソード領域12は、上記第1,2水平距離ΔL
1a,ΔL
1b,ΔL
2を満たし、かつ、FWDアノード部32の表面積の50%以下の表面積とするのが好ましい。表面積とは、n
-半導体基板の主面に平行な面の表面積である。
【0043】
次に、実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について、耐圧(定格電圧)が1200Vクラスで、定格電流が400AであるRC−IGBTを製造する場合を例に説明する。
図3〜10は、実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図3に示すように、例えば、FZ(Floating Zone)法で作製された、厚さtが650μmで、直径6インチのシリコン基板(以下、Si基板とする)41を用意する。Si基板41の比抵抗は、耐圧が1200Vクラスである場合に40Ωcm〜80Ωcm程度であるため、例えば55Ωcmとしてもよい。
【0044】
次に、一般的な方法により、n
-ドリフト層1となるSi基板41のおもて面に、トレンチゲート型のMOSゲート構造20(pベース層2、トレンチ3、ゲート酸化膜4、ゲート電極5、n
+エミッタ領域6、p
+コンタクト領域7および層間絶縁膜9)を形成する。このとき、FWDアノード部32には、n
+エミッタ領域6およびp
+コンタクト領域7を形成しない。次に、Si基板41のおもて面をレジスト42で保護する。次に、
図4に示すように、Si基板41の裏面を研削し、Si基板41の厚さtを例えば125μmまで薄くする。次に、Si基板41の裏面をエッチングして、Si基板41裏面の研削歪層(不図示)を除去する。
【0045】
次に、
図5に示すように、Si基板41の研削された裏面全面に、例えば、加速エネルギー100keV、ドーズ量3×10
14/cm
2で例えばセレン(Se)などのn型不純物を第1イオン注入51する。第1イオン注入51で注入する不純物を拡散係数が比較的大きいセレンとすることで、nFS層10を深い拡散層とすることができ、RC−IGBTの良品率を向上させることができる。次に、
図6に示すように、Si基板41の研削された裏面全面に、例えば、加速エネルギー40keV、ドーズ量8×10
13/cm
2で例えばボロン(B)などのp型不純物を第2イオン注入52する。第2イオン注入52は、p
+コレクタ領域11を形成するためのイオン注入である。
【0046】
次に、
図7に示すように、Si基板41の裏面に、レジスト43を例えば2μmの厚さで塗布する。次に、例えば両面アライナーを用いてn
+カソード領域12のパターンをレジスト43に投影した後、フォトリソグラフィによりレジスト43をパターニングし、n
+カソード領域12の形成領域に対応する部分を露出させる。このとき、上記第1,2水平距離ΔL
1a,ΔL
1b,ΔL
2を満たすように、レジスト43をパターニングする。次に、レジスト43をマスクとして、Si基板41の裏面に、例えば、加速エネルギー110keV、ドーズ量2×10
15/cm
2で例えばリン(P)などのn型不純物を第3イオン注入53する。第3イオン注入53は、n
+カソード領域12を形成するためのイオン注入である。
【0047】
次に、
図8に示すように、Si基板41のおもて面のレジスト42と、Si基板41の裏面のレジスト43とを剥離する。次に、例えば950℃の温度で30分程度のアニール処理を行い、第1〜3イオン注入51〜53で注入した不純物を活性化させる。これにより、Si基板41の裏面側に、nFS層10、p
+コレクタ領域11およびn
+カソード領域12が形成される。次に、Si基板41のおもて面に例えばアルミニウムシリコン(Al−Si)膜を5μmの厚さで堆積し、フォトリソグラフィによりアルミニウムシリコン膜をパターニングしてエミッタ電極8を形成する。
【0048】
次に、
図9に示すように、Si基板41の裏面から当該裏面全面に所定の飛程でヘリウムなどを第1ヘリウム照射54し、n
-ドリフト層1の内部の、Si基板41のおもて面側に欠陥層(
図2の短ライフタイム領域1a)を形成する。第1ヘリウム照射54の加速エネルギーは、例えば23MeVであってもよい。第1ヘリウム照射54のドーズ量は、例えば1×10
13/cm
2程度であってもよい。
図9において、n
-ドリフト層1内の×は、第1ヘリウム照射54により形成された結晶欠陥をあらわしている(
図10においても同様)。
【0049】
次に、
図10に示すように、Si基板41の裏面から当該裏面全面に所定の飛程でヘリウムなどを第2ヘリウム照射55し、nFS層10の内部に欠陥層(
図2の短ライフタイム領域10a)を形成する。第2ヘリウム照射55の加速エネルギーは、第1ヘリウム照射54の加速エネルギーよりも小さい。
図10において、nFS層10内の×は、第2ヘリウム照射55により形成された結晶欠陥をあらわしている。第2ヘリウム照射55のドーズ量は、例えば1×10
13/cm
2程度であってもよい。
【0050】
第1,2ヘリウム照射54,55の照射順序は、上述した順序に限らず種々変更可能であり、例えば、第2ヘリウム照射55後に第1ヘリウム照射54を行ってもよい。また、第1,2ヘリウム照射54,55の照射回数は種々変更可能である。例えば、第1,2ヘリウム照射54,55をそれぞれ1回ずつ行ってもよいし、2回以上ずつ行ってもよい。また、第1,2ヘリウム照射54,55をそれぞれ複数回ずつ行う場合、第1,2ヘリウム照射54,55を交互に行ってもよい。
【0051】
次に、例えば370℃の温度で1時間のアニール処理を行い、第1,2ヘリウム照射54,55によりn
-ドリフト層1およびnFS層10の内部に生じた結晶欠陥の欠陥密度を低減させる。その後、Si基板41の裏面に例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)をそれぞれ例えば1μm、0.07μm、1μmおよび0.3μmの厚さで順に堆積し、IGBT部21およびFWD部22に共通のコレクタ電極13を形成する。これにより、
図1,2に示すFS構造のRC−IGBTが完成する。
【0052】
(順方向電圧降下特性について)
次に、実施の形態にかかる半導体装置の順方向電圧降下特性について検証した。
図11は、実施の形態にかかる半導体装置の順方向電圧降下特性を示す特性図である。上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法にしたがい、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12との差分ΔL
1が異なる複数のRC−IGBTを作製した。具体的には、n
+カソード領域12の短手方向幅L
12を100μmとし、FWDアノード部32の短手方向幅L
32を種々変更した。
【0053】
そして、各試料において、それぞれ、IGBTにゲート電圧が印加されているときのFWDの順方向電圧降下と、IGBTにゲート電圧が印加されていないときのFWDの順方向電圧降下とを測定し、各順方向電圧降下の差分(以下、単に順方向電圧降下差分とする)ΔVfを算出した。その結果を
図11に示す。なお、「ゲート電圧が印加されているとき」とは、ゲートがオン状態のときを示す。すなわち、ゲート電圧がMOSゲートの閾値(Vth)よりも高くなり、pベース層2のMOSゲート側面に、n型反転層(nチャネル)が形成されるときのことである。
図11において、ΔL
1=0とは、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12とが等しい場合(すなわち
図16に示す従来例)である。ΔL
1<0とは、n
+カソード領域12の短手方向幅L
12がFWDアノード部32の短手方向幅L
32よりも広い場合である。
【0054】
図11に示す結果より、n
+カソード領域12の短手方向幅L
12をFWDアノード部32の短手方向幅L
32よりも狭くすることで(ΔL
1>0)、FWDの順方向電圧降下差分ΔVfをほぼゼロに近づけることができることが確認された。すなわち、IGBTが導通して反転層が形成されていたとしても、FWDの動作にほぼ悪影響が及ばないことが確認された。好ましくは、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12との差分ΔL
1を50μm以上とすることで、IGBTがオン状態であっても、FWDの順方向電圧降下の増加を0.05V以下に低減することができることが確認された。
【0055】
なお、差分ΔL
1をFWDアノード部32の長さL
32よりも短くして、FWD部32を動作させる必要がある。特に、差分ΔL
1をL
32/2よりも長くした場合、n
+カソード領域12が狭くなることによりn
+カソード領域12近傍に電子電流が集中し、電流密度が増加する。このため、FWDの順方向電圧降下Vfが増加に転ずる。よって、差分ΔL
1はFWDアノード部32の長さL
32/2よりも短いことが好ましい。
【0056】
その理由は、次のとおりである。
図17は、実施の形態にかかるフィールドストップ構造のRC−IGBTにおける電子の流れる経路を示す説明図である。
図17では、短ライフタイム領域1a,10aは図示省略する。FWDアノード部32の短手方向幅L
32をn
+カソード領域12の短手方向幅L
12よりも広くすることで、IGBTがオン状態のときは、n
+カソード領域12から注入された電子は、pアノード層とn
-ドリフト層1とのpn接合(pn接合A)に沿って高抵抗のn
-ドリフト層1を経由する。そして、IGBTのn型反転層(nチャネル、不図示)に流入し、n
+エミッタ領域6を経由してエミッタ電極8へと抜ける(
図17の符号61で示す矢印)。すなわち、差分ΔL
1に相当する領域のpn接合Aに沿って、電子がn
-ドリフト層1を流れなければならない。電子の経路は高抵抗のn
-ドリフト層1であるため、その抵抗(
図17の符号62で示す抵抗記号)は十分大きい。したがって、電圧降下によりpn接合A間に十分な電位差が生じ、pアノード層の電位がビルトイン電圧(〜0.7V)以上になりやすいからである。
【0057】
(逆回復特性について)
次に、実施の形態にかかる半導体装置の逆回復特性について検証した。
図12は、実施の形態にかかる半導体装置の逆回復波形を示す特性図である。上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法にしたがってRC−IGBT(実施例)を作製し、このRC−IGBTの逆回復波形を測定した。その結果を
図12に示す。また、
図12には、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12とが等しいRC−IGBT(すなわち
図16に示す従来例)の逆回復波形も示す。
【0058】
図12に示す結果より、実施例は、逆回復電流Ifのピークおよび発振による電圧跳ね上がりVakのピークともに従来例よりも小さくすることができることが確認された。この理由は、次のとおりである。実施例では、n
-ドリフト層1を挟んで、p
+コレクタ領域11とFWDアノード部32とが部分的に対向する。この対向領域の中で、p
+コレクタ領域11に隣接するn
-ドリフト層1の近傍に蓄積された電子は、p
+コレクタ領域11とn
-ドリフト層1とのpn接合(詳細にはp
+コレクタ領域11とnFS層10とのpn接合、以下、pn接合Bとする)に沿ってn
+カソード領域12に向かう。この電子が移動する経路に沿っての電圧降下が発生するので、差分ΔL
1がある程度長ければ、この電圧降下がpn接合Bのビルトイン電圧を超え易くなる。すなわち、逆回復時において、差分ΔL
1を設けたことにより、FWD部22においてp
+コレクタ領域11からn
-ドリフト層1へのホールの注入が促進される。これにより、n
-ドリフト層1のn
+カソード領域12側のキャリアの枯渇を防止することができる。
【0059】
(FWD部のトレンチゲートについて)
次に、FWD部22のトレンチゲートの有無と、素子耐圧との関係について検証した。
図13は、FWD部におけるトレンチゲートの有無による電流−電圧特性を示す特性図である。FWD部22にトレンチゲートを設けた場合(トレンチゲートあり)と、FWD部にトレンチゲートを設けない場合(トレンチゲートなし)とについて、素子耐圧を測定した結果を
図13に示す。ここで、「トレンチゲートあり」は上記実施例であり、「トレンチゲートなし」はFWD部におけるトレンチゲートを設けない以外は実施例と同様である(
図14においても同様)。
【0060】
図13に示す結果より、「トレンチゲートあり」は「トレンチゲートなし」よりも耐圧(破壊に至るコレクタ・エミッタ間電圧Vce)が高く、FWD部22にトレンチゲート(トレンチ3、ゲート酸化膜4およびゲート電極5)を設けることにより、耐圧の低下を抑制することができることが確認された。
【0061】
次に、FWD部22のトレンチゲートの有無と、FWDの順方向電圧降下特性との関係について検証した。
図14は、実施の形態にかかる半導体装置のFWD部におけるトレンチゲートの有無による順方向電圧降下特性を示す特性図である。FWD部22にトレンチゲートを設けた場合(トレンチゲートあり)と、FWD部にトレンチゲートを設けない場合(トレンチゲートなし)とについて、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12との差分ΔL
1対するFWDの順方向電圧降下を測定した。その結果を
図14に示す。
【0062】
図14に示す結果より、「トレンチゲートあり」は、FWDアノード部32の短手方向幅L
32とn
+カソード領域12の短手方向幅L
12との差分ΔL
1によらず、FWDの順方向電圧降下Vfを小さくすることができることが確認された。これにより、FWD部22にトレンチゲート(トレンチ3、ゲート酸化膜4およびゲート電極5)を設けることにより、FWDの順方向電圧降下Vfが小さくなり、FWDがオンしやすいことが確認された。
【0063】
以上、説明したように、実施の形態によれば、n
+カソード領域の短手方向幅をFWDアノード部の短手方向幅よりも狭くすることで、n
+カソード領域からn
-ドリフト層へ注入された電子がpアノード層とn
-ドリフト層とのpn接合に蓄積されやすくなり、pアノード層とn
-ドリフト層とのpn接合間にビルトイン電圧以上の電位差を生じさせることができる。これにより、IGBTにゲート電圧が印加されることによりFWDの順方向電圧降下特性に悪影響が及ぶことを抑制することができ、従来よりもFWDの順方向電圧降下を小さくすることができる。
【0064】
また、実施の形態によれば、FWDアノード部の短手方向幅をn
+カソード領域の短手方向幅よりも広くすることで、p
+コレクタ領域の短手方向幅をIGBTエミッタ部の短手方向幅よりも広くすることができる。これにより、IGBTの素子能力を維持することができる。したがって、FWDの順方向電圧降下を小さくするとともに、IGBTのオン電圧の上昇を抑制することができる。
【0065】
また、実施の形態によれば、n
+カソード領域の短手方向幅をFWDアノード部の短手方向幅よりも狭くすることで、p
+コレクタ領域の、n
-ドリフト層を挟んでFWDアノード部に対向する部分からn
-ドリフト層へのホール注入が促進される。これにより、n
-ドリフト層のn
+カソード領域側のキャリア濃度が高くなるため、FWDの順方向電圧降下を小さくすることができ、FWDがオンされやすくなる。したがって、FWDの逆回復時におけるソフトリカバリー化(逆回復電流Ifのピークの低減)と波形振動の抑制(電圧跳ね上がりVakのピークの低減)とを実現することができる。また、実施の形態によれば、FWD部にトレンチゲートを設けることで、FWDがオンされやすくなるとともに、耐圧低下を抑制することができる。
【0066】
以上において本発明では、薄いウエハを用いた高耐圧のFS構造のRC−IGBTを例に説明しているが、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施の形態では、IGBT部のMOSゲート構造をトレンチゲート型としているが、トレンチゲート型に代えてプレーナゲート型としてもよい。また、MOSゲート構造のpベース層の一部がFWDのpアノード層を兼ねる構成としているが、n
-半導体基板のおもて面の表面層に、MOSゲート構造のpベース層とFWDのpアノード層とをそれぞれ選択的に設けた構成としてもよい。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。