特許第6334472号(P6334472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334472
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20180521BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20180521BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   E04B1/24 R
   E04B1/58 511Z
   F16B5/02 Q
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-154810(P2015-154810)
(22)【出願日】2015年8月5日
(65)【公開番号】特開2017-31737(P2017-31737A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】596054375
【氏名又は名称】株式会社三和金属工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】藤原 龍三
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−287138(JP,A)
【文献】 特開平07−292772(JP,A)
【文献】 特開2005−330788(JP,A)
【文献】 特開2007−291760(JP,A)
【文献】 国際公開第92/007151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 − 1/36
E04B 1/38 − 1/61
F16B 5/02
F16B 43/00
E02D 27/00
E02D 27/00 −27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に埋設されたアンカーボルトの上端を突出させるべく構造材固定のためのベースプレートに設けた貫通孔とアンカーボルトとの間に生じた空間に嵌着させ、構造材が支える構造物が地震などによる繰り返し横荷重を受けたとき、前記ベースプレートからのせん断力がアンカーボルトを介して基礎に確実に伝達されることにより、アンカーボルトのせん断破壊を抑止できるようにした残隙除去用金属製フィラーにおいて、
当該フィラーはアンカーボルトの全周または部分周を包囲する内接縁を備えたインナーメンバーと、該インナーメンバーの外接縁の全周または部分周を包囲する内周縁と前記貫通孔の孔壁に接触しえる外周縁を備えたアウターメンバーとからなり、
各メンバーは同一平面形状のプレートを所望高さに積重して形成されていることを特徴とする貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項2】
前記インナーメンバーおよびアウターメンバーのそれぞれは、その各プレートを上下に縦通しかつプレート相互を密接させ、プレート相互の積重状態を維持する連結ピンを介して一体化されていることを特徴とする請求項1に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項3】
前記インナーメンバーおよびアウターメンバーの最上位のプレートの縁部の一部には、各メンバーが前記貫通孔内で沈みこむのを防止するため、貫通孔の上部開口縁に乗載する変形突部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項4】
前記連結ピンはインナーメンバーおよびアウターメンバーごとに二本以上採用されて各プレートは相互に不動であり、インナーメンバーの外接縁とアウターメンバーの内周縁との間、インナーメンバーの外接縁と貫通孔壁との間、もしくはアウターメンバーの外周縁と貫通孔壁との間に差し込まれ、いずれのメンバーも、その一部が貫通孔壁に密接するのを維持する差し込み楔が具備されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項5】
前記連結ピンは前記インナーメンバーおよびアウターメンバーごとに一本であり、各プレートは該連結ピンを中心に水平回動できるようになっていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項6】
前記インナーメンバーおよびアウターメンバーは幾つかのプレートからなる階層に区分され、階層ごとに前記連結ピンを中心にして異なった方向に回動でき、
前記インナーメンバーのある階層の外接縁と貫通孔壁との間、もしくはアウターメンバーのある階層の外周縁と貫通孔壁との間に差し込まれ、該当メンバーの一部が貫通孔壁に密接するのを維持する差し込み楔が具備され、
幾つかの階層の前記外周縁が階層ごとに異なる部分で貫通孔壁に密接されるようになっていることを特徴とする請求項5に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【請求項7】
前記メンバーのいずれにも、前記プレートの積重体上で前記貫通孔径より大きな形を有する鍔をなし、前記連結ピンによって一体化されたフランジプレートが具備されていることを特徴とする請求項1または請求項2もしくは請求項4ないし請求項6のいずれか一項に記載された貫通孔内残隙除去用の金属製フィラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貫通孔内残隙除去用の金属製フィラーに係り、詳しくは、アンカーボルトの上端を突出させるべく構造材固定用ベースプレートに設けた貫通孔とアンカーボルトとの間に生じた残隙に嵌着させ、構造物が地震などによる繰り返し荷重を受けたとき、アンカーボルトのせん断破壊を抑止できるようにしたフィラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13(a)に示す柱といった構造材21を基礎23に固定するにあたっては、構造材の下端部にベースプレート16が一体化され、ベースプレートの例えば四隅に設けた貫通孔4に、基礎から立ち上がるアンカーボルト1の上端部を通した後、ナット15が掛けられる。構造材は図示したH形鋼や溶接H形鋼に限らず、角鋼管であったり丸鋼管であったりするが、それらとベースプレート16との固定は適宜なリブ22で補強され、地震などによる建物の揺れがベースプレートを介して基礎で受け止められるようになっている。
【0003】
図13(b)は隣りあうアンカーボルト1,1の軸芯間距離Lとベースプレートの貫通孔間距離Bとが等しい例である。基礎23とベースプレート16との間にはモルタル層24が形成され、ベースプレートの水平度やレベルの調整がとられるようにしている。アンカーボルト1は基礎23に予め埋設され、モルタル層24を通してベースプレート16に至り、貫通孔4の開口から先端のねじ部1nが突出される。
【0004】
建築現場においては、アンカーボルト1を正確な間隔で埋設することが容易でなく、図13(b)のようになることは稀であって、通常は同図(c)のようにアンカーボルトの軸芯間距離L1 とベースプレートの貫通孔間距離Bとは一致しない。そのため、貫通孔4の径をアンカーボルト径より意図的に大きくしておき、アンカーボルトの埋設間隔に誤差があっても貫通孔4を挿通させることができるようにしている。
【0005】
貫通孔壁4wとアンカーボルト1との間に隙間が多く残る結果、ベースプレート16の基礎23に対する横ずれ防止はナット15とベースプレート16との摩擦に頼るだけとなる(図13(b)の右半部を参照)。これでは慣性力の大きな建物からの揺れに十分に対抗できず、この横ずれを極力小さくして建物と基礎との一体性を上げるため、図13(c)のごとく、残隙除去対策が施される。すなわち、アンカーボルトのねじ径より僅かに大きい程度の径の孔をあけた当てプレート25がベースプレート16上に配置される。
【0006】
当てプレート25はアンカーボルト1を通した後、ベースプレート16に溶接(符号26)するなどして固定される。アンカーボルト1と貫通孔4との間に隙間が残っていたとしても当てプレート25とアンカーボルト1との間には隙間が僅かしかないため、アンカーボルトが当てプレート25に直ちに触れ、アンカーボルト1のベースプレート16に対する動きはかなり拘束され、建物の基礎に対する一体性が向上する。
【0007】
当てプレート25には、ベースプレート16のほどでないにしても、かなりの厚みが必要とされる。しかも、上記のごとくの溶接が不可避であって、アンカーボルトの一本ごとに行うから、その作業量は少なくなく、工費の増大、工期の長期化を招く要因となる。この当てプレートの採用と溶接を回避して工事現場における省力化を図ったものとして、例えば特許文献1にあるごとく、アンカーボルトと貫通孔の孔壁との間に残った空間に隙間調整リングを介装することが提案されている。
【0008】
この隙間調整リングは通常フィラーと称され、名のとおり充填材である。この充填機能を発揮させるためにはアンカーボルトとベースプレートとの相対的動きを拘束する必要があり、変形の生じないことが重要であって金属製とされる。これは後述するがアウターリングとインナーリングとからなり、貫通孔に対するアンカーボルトの位置が違っても、常に残隙埋めが可能となる。特許文献2に開示されたフィラーにおいてもインナーとアウターとからなるが、この例のように上端に鍔が一体形成されることもある。その鍔はフィラーが貫通孔内に沈み込むのを防止するもので、貫通孔の開口縁で支えられるようになっている。
【0009】
図14は鍔のないフィラーもしくは鍔を省いて描いたフィラーを例にしたものである。同図(a),(b)はアンカーボルト1の軸線1mが貫通孔4の軸芯4sから少しずれた例であり、同図(c),(d)はアンカーボルト1の軸線1mが貫通孔4の軸芯4sから大きく偏位した例である。なお、同図(a)は同図(b)のフィラーの存在する断面を示し、同図(c)は同図(d)のフィラーの箇所を示している。同図(a),(c),(e)のフィラー27から分かるように、対をなすインナー20やアウター30の姿勢や位置がアンカーボルトや貫通孔に馴染むようにずらしまた回転される。
【0010】
図15はアンカーボルト1が貫通孔4のどこに位置しても、インナーとアウターにより残隙除去ができることを示している。同図(a)ではアンカーボルト1が貫通孔4の軸芯4sにあるが、同図(b)ないし(d)はアンカーボルト1が貫通孔の軸芯4sに対して水平に距離αずつ増えるように矢印方向へ偏位させたものである。同図(e)は貫通孔4の孔壁4wに接する程度までの最大4αずれた場合を表している。したがって、ずれの方向が水平と異なっても同様であり、残隙除去を図るフィラーとして常に機能させることが理解できる。
【0011】
以上は、アンカーボルトの半周以上を包囲する内接縁を備えたインナーメンバーと、インナーメンバーの外接縁の半周以上を包囲する内周縁と貫通孔の孔壁に接触しえる外周縁を備えたアウターメンバーとからなるフィラー27の例であった。図16(b)ないし(e)の例は特許文献3にも開示されるが、そのフィラーは、アンカーボルトの全周を包囲する内接縁を備えたインナーリング20C と、インナーリングの外接縁の全周を包囲する内周縁と貫通孔の孔壁に接触しえる外周縁を備えたアウターリング30C からなるものである。
【0012】
図16(a)は図15(a)のオープンリング型フィラー27を再掲記したものであるが、図16(d)は同図(c)に同図(b)を組み込んだクローズリング型フィラー28の平面図である。貫通孔がアンカーボルト径より甚だ大きい場合に好適であることは、図のバンランスからも伺えるところである。このクローズリング型フィラーにおいても、図15の(b)ないし(e)のような挙動が可能であることは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−110238
【特許文献2】特開2012−193850
【特許文献3】特開平10−2131230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記したいずれのフィラーも金属製であることが不可欠であることから鋳鋼製品などとされるが、適用される貫通孔の長さ(深さ)ならびに残隙の大きさなどに合わせたサイズに成形しなければならない(図14(e)を参照)。貫通孔の径や長さ、アンカーボルトの径は建物ごとに異なることが多く、したがってフィラーとしては種々な形やサイズを想定して製造しておく必要がある。フィラーの製作者にとってみれば、標準化を図るにしても図14(e)のごとくの一塊ものでは相当数の種類をラインナップしなければならず、一度製造されたものは原則変更を加えることもできないから極めて歩留りも劣ったものとなる傾向にある。
【0015】
ちなみに、フィラーを使用すれば残隙を完全に埋められるがごとく表現されているが、特許文献1では隙間調整リング同士やリングと貫通孔とは「略適合する」なる表現がとられている。この意味するところは、実質的にはアンカーボルトとベースプレートの緊密な一体性は達成できないことである。アンカーボルトとベースプレートとの間にはどうしてもガタが残り、これが僅かであったとしても、構造物が地震などによる繰り返し荷重を受けたとき、建物と基礎との一体性が低いままガタつきが持続し、またそれが拡大し、遂にはアンカーボルトの破壊を招く。水平せん断剛性の向上が強く望まれるところである。
【0016】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、形状やサイズの多様性に対応することができるにもかかわらず、極めて少ないラインナップ化でフィラーの市場供給ができること、貫通孔内での残隙がないに等しく実質的にガタを生じさせずにアンカーボルトとベースプレートとの一体性を高められること、工事現場においてもフィラーの寸法変更もしくは形状変更ができることなど、を実現した貫通孔内残隙除去用の金属製フィラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、基礎に埋設されたアンカーボルトの上端を突出させるべく構造材固定のためのベースプレートに設けた貫通孔とアンカーボルトとの間に生じた空間に嵌着させるようにしたもので、構造材が支える構造物が地震などによる繰り返し横荷重を受けたとき、ベースプレートからのせん断力がアンカーボルトを介して基礎に確実に伝達されることにより、アンカーボルトのせん断破壊を抑止できるようにした残隙除去用金属製フィラーに適用される。その特徴とするところは、図1(a)を参照して、フィラー8はアンカーボルト1の全周または部分周を包囲する内接縁2mを備えたインナーメンバー2と、そのインナーメンバー2の外接縁2nの全周または部分周を包囲する内周縁3mと貫通孔4の孔壁4wに接触しえる外周縁3nを備えたアウターメンバー3とからなる(図3(a)も参照)。そして、各メンバーは同一平面形状のプレート52 ,53 を所望高さに積重して形成されていることである。
【0018】
インナーメンバー2およびアウターメンバー3のそれぞれは、各プレート52 ,53 を上下に縦通しかつプレート相互を密接させ、プレート相互の積重状態を維持する連結ピン6を介して一体化しておくとよい。
【0019】
図1(c)にあるように、インナーメンバー2およびアウターメンバー3の最上位のプレート52U,53Uの縁部の一部に、各メンバーが貫通孔4で沈みこむのを防止するため、貫通孔4の上部開口縁4uに乗載する変形突部9が形成される。
【0020】
連結ピン6はインナーメンバーおよびアウターメンバーごとに二本以上採用されて各プレート52 ,53 は相互に不動であり、図3(e)に示すように、インナーメンバー2の外接縁2nとアウターメンバー3の内周縁3mとの間、図3(c)のように、インナーメンバー2の外接縁2nと貫通孔壁4wとの間、もしくは図3(d)に示すように、アウターメンバー3の外周縁3nと貫通孔壁4wとの間に差し込まれ、いずれのメンバーも、その一部が貫通孔壁4wに密接するのを維持する差し込み楔10が具備される。
【0021】
図5に示すように、連結ピン6はインナーメンバー2およびアウターメンバー3ごとに一本であり、各プレート52 ,53 は連結ピン6を中心に水平回動できるようにしておくことが好ましい。
【0022】
図6(a)を参照して、インナーメンバー2およびアウターメンバーメンバー3は幾つかのプレートからなる階層122D,122M,122U,123D,123M,123Uに区分され、階層ごとに連結ピン6を中心にして異なった方向に回動できる。インナーメンバー2のある階層の外接縁2nと貫通孔壁4wとの間(図5(a)を参照)、もしくはアウターメンバー3のある階層の外周縁3nと貫通孔壁4wとの間(図5(b)を参照)に差し込まれ、該当メンバーの一部が貫通孔壁4wに密接するのを維持する差し込み楔10が具備される。さらに、幾つかの階層の外周縁3nが階層ごとに異なる部分で貫通孔壁4wに密接されるようにしておく(図5(c),(d)を参照)。
【0023】
例えば図7または図9に示すように、メンバーのいずれにも、プレートの積重体72 ,73 上で貫通孔径より大きな形を有する鍔をなし、連結ピン6によって一体化されたフランジプレート142 ,143 を具備させておく。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、インナーメンバーとアウターメンバーとからなり、各メンバーにおいては同一平面形状のプレートもしくは同一寸法・同一形状のプレートを所望高さとなる数だけ積み重ねて、適用すべき貫通孔の径や長さ(深さ)およびアンカーボルトの径に見合ったメンバーを簡単に形成することができる。各メンバーの寸法や形状の多様化は可及的に抑えられ、ラインナップ化が格段に簡素化される。多量生産によるプレートの低廉化、ひいてはメンバー製作のコスト低減が図られ、製作過程の多元化も回避される。メンバーを使用する者にとっても工事現場での枚数変更による長さ調整も可能となり、作業の融通性や柔軟性が向上する。
【0025】
メンバーのいずれもが、各プレートを上下に貫通しかつプレート相互を密接させ、プレート相互の積重状態を維持する連結ピンを介して一体化されているなら、所望長さを維持し、プレートのばらつきを来さずに輸送し、また工事に適用することができる。
【0026】
メンバーの最上位のプレートの縁部の一部に、貫通孔の上部開口縁に乗載する変形突部が形成されていれば、一体化されたメンバーが貫通孔内で沈みこむのを防止しておくことができる。
【0027】
連結ピンはメンバーごとに二本以上設けられ、インナーメンバーの外接縁とアウターメンバーの内周縁との間、インナーメンバーの外接縁と貫通孔壁との間、もしくはアウターメンバーの外周縁と貫通孔壁との間に差し込み楔を適用するようにすれば、各プレートは相互に不動となり、かつ該当メンバーの一部を貫通孔壁に密接させ、ガタのない充填が図られる。
【0028】
連結ピンはメンバーごとに一本とし、各プレートは連結ピンを中心に水平回動できるようにしておくと、所望するプレートと他のプレートとによってメンバーの平面形が変更可能となり、充填空間を実質的に大きくしかつアンカーボルトの貫通孔におけるガタを可及的になくすことができ、構造材はベースプレートを介して基礎との一体性を高める。
【0029】
メンバーの所望プレートもしくはプレート群からなる階層ごとに連結ピンを中心にして異なった方向に回動させ、差し込み楔をインナーメンバーのある階層の外接縁と貫通孔壁との間、もしくはアウターメンバーのある階層の外周縁と貫通孔壁との間に差し込むようにすれば、該当メンバーの一部の階層の外周縁が階層ごとに異なる部分を貫通孔壁に密接させることができる。アンカーボルトは貫通孔に対して不動状態におかれ、水平せん断剛性の向上と建物と基礎との一体性は持続され、アンカーボルトのせん断破壊が可及的に遅速化される。
【0030】
メンバーのいずれにも、プレートの積重体上で貫通孔径より大きな形を有するフランジプレートを連結ピンによって一体化しておけば、メンバーの貫通孔での沈みこみが回避され、かつナット締めつけ時のベースプレートに対する均圧化も図られやすくなる。このフランジプレートを下部のプレート積重体に対して回動させれば、差し込み楔の操作空間も問題なく確保され、戻せば貫通孔の開口縁上に位置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る貫通孔内残隙除去用の金属製フィラーを示し、(a)はプレートの積重状態と連結ピンの挿入操作を説明する斜視図、(b)は一対のプレート単体の斜視図、(c)はプレートの積重枚数を減らした場合の斜視図。
図2】嵩の異なるプレートを積重してメンバーを形成した例を示し、(a)はオープンリング型プレートの積重体としたメンバー対の斜視図、(b)はクローズリング型プレートの積重体としたメンバー対の斜視図。
図3】二本の連結ピンにより一体化されたメンバーの組み合わせによってアンカーボルトを不動状態にする要領を示し、(a)はアンカーボルトが貫通孔の軸芯に位置しているときのメンバー対の配置平面図、(b)はアンカーボルトが貫通孔の軸芯から外れた位置にあるときのメンバー対の配置図、(c)は(a)の状態にあるメンバー対を差し込み楔によって不動状態にした平面図、(d)は(b)の状態にあるメンバー対を差し込み楔によって不動状態にした平面図、(e)は(b)の状態にあるメンバー対を異なる位置の差し込み楔によって不動状態にした平面図。
図4】クローズリング型プレートを示し、(a)はインナーメンバー用のプレートの単体斜視図、(b)はアウターメンバー用のプレートの単体斜視図、(c)はアウターメンバー用のプレートにインナーメンバー用のプレートを組み込んだ斜視図、(d)はプレートの積重体であるインナーメンバーの斜視図、(e)はプレートの積重体であるアウターメンバーの斜視図、(f)はインナーメンバーをアウターメンバーに嵌着させたフィラーの斜視図。
図5】一本の連結ピンにより一体化されたメンバーによりアンカーボルトを不動状態にする要領を示し、(a)はインナーメンバーのプレート積重体背後に差し込み楔を適用し、インナーメンバーがアウターメンバー方向にせり込んだ状態の平面図、(b)はインナーメンバーのプレート積重体背後に差し込み楔を適用し、アウターメンバーのプレート積重体左端にも差し込み楔を適用した平面図、(c)はインナーメンバーのプレート積重体背後のみに差し込み楔を適用した平面図、(d)はインナーメンバーのプレート積重体背後に差し込み楔を適用し、アウターメンバーのプレート積重体右端にも差し込み楔を適用した平面図。
図6】連結ピンを中心にして水平回動することができるプレートを有するフィラーであって、(a)はフィラーを2つのプレートからなる階層に区分され、アウターメンバーの最上位の階層を時計方向に回動し、インナーメンバーの最上位の階層を反時計方向に回動させ、アウターメンバーの最下位の階層を反時計方向に回動し、インナーメンバーの最下位の階層を時計方向に回動させたことを説明する斜視図、(b)は階層の区分けを表した断面図、(c)はアウターメンバーの上半階層を時計方向に回動させ、下半階層を反時計方向に回動させた場合の斜視図。
図7】オープンリング型プレートからなる積重体にフランジプレートを付加させたメンバーを示し、(a)はインナーメンバーの斜視図、(b)はアウターメンバーの斜視図、(c)はインナーメンバーをアウターメンバーに嵌着させたフィラーの斜視図。
図8】フランジプレート付きメンバーの構造を示し、(a)はインナーメンバーの平面図、(b)は(a)における中央断面図、(c)はアウターメンバーの平面図、(d)は(c)における中央断面図、(e)はアウターメンバーにインナーメンバーを組み込ませたフィラーの平面図、(f)は(e)における中央断面図。
図9】フランジプレート付きメンバーの差し込み楔の打ち込み直前状態を示し、(a)はフランジプレートを退避させたインナーメンバーの斜視図、(b)フランジプレートを退避させたアウターメンバーの斜視図。
図10】フランジプレートの改良形を説明するもので、(a)は円形のフランジプレートを持つインナーメンバーのアウターメンバー組み込み状態平面図、(b)はインナーメンバーのフランジプレートの一部が貫通孔の開口縁上にないことを示す断面図、(c)は長円形のフランジプレートを持つインナーメンバーのアウターメンバー組み込み状態平面図、(d)はインナーメンバーのフランジプレートの全部が貫通孔の開口縁上にあることを示す断面図、(e)は長円形のフランジプレートを持つインナーメンバーの単体平面図。
図11】(a)はクローズリング型プレートで形成された積重体にフランジプレートを付加させたインナーメンバーの斜視図、(b)はクローズリング型プレートで形成された積重体にフランジプレートを付加させたアウターメンバーの斜視図、(c)はアウターメンバーにインナーメンバーを組み込んだフィラーの斜視図。
図12】フランジプレート付きメンバーの異なる例で、(a)は積重体を構成するプレートが異なる嵩を持ったインナーメンバーの斜視図、(b)は積重体を構成するプレートが異なる嵩を持ったアウターメンバーの斜視図、(c)は積重体のプレートよりも薄いフランジプレートを持ったインナーメンバーの単体の斜視図、(d)は積重体のプレートよりも薄いフランジプレートを持ったアウターメンバーの単体の斜視図。
図13】本発明の背景であって、(a)は構造材の一例としてのH形鋼製柱とそのベースプレートとの斜視図、(b)は隣りあうアンカーボルトがベースプレートの貫通孔間隔と同じである場合の断面図、(c)は隣りあうアンカーボルトの距離がベースプレートの貫通孔間距離と異なる場合の断面図。
図14】フィラーを適用した例であって、(a)はアンカーボルトが貫通孔に対して左に偏位していることを示すメンバー対の組み合わせ横断図、(b)は(a)のA−A線相当箇所断面図、(c)はアンカーボルトが貫通孔に対して右に偏位していることを示すメンバー対の組み合わせ横断図、(d)は(b)のB−B線相当箇所断面図、(e)はインナーメンバーおよびアウターメンバーの立体図。
図15】貫通孔内でアンカーボルトが占める位置に応じたメンバー対の配置を示し、(a)はアンカーボルトが貫通孔の軸芯に位置しているときの平面配置図、(b)ないし(d)は偏位量α刻みで右行位置にあるときの平面配置図、(e)は最右端となる4α偏位したアンカーボルトに対する平面配置図。
図16】オープンリング型プレートとクローズリング型プレートの対比例を示し、(a)はオープンリング型プレートからなるメンバー対の組み合わせ平面図、(b)はクローズリング型プレートからなるインナーメンバーの平面図、(c)はクローズリング型プレートからなるアウターメンバーの平面図、(d)はクローズリング型プレートからなるメンバー対の組み合わせ平面図、(e)はインナーメンバーおよびアウターメンバーの立体図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る貫通孔内残隙除去用の金属製フィラーを、図面を基づいて詳細に説明する。これは建物からベースプレートに及んだ力がアンカーボルトを介して基礎に確実に伝達されることにより、アンカーボルトのせん断破壊を抑止できるようにしたフィラーである。このフィラーを使用することにより、ベースプレートの貫通孔内でのアンカーボルトの相対変位を生じさせにくくし、アンカーボルトに作用する繰り返しせん断荷重を軽減してアンカーボルトの耐力維持もしくは向上を期そうとするものである。
【0033】
すでに図14のところで述べたごとく、基礎23に埋設されたアンカーボルト1の上端を突出させるべく柱などの構造材(図示せず)を固定するためのベースプレート16に設けた貫通孔4とアンカーボルト1の軸部もしくはねじ部との間に生じた空間に嵌着させ、構造物が地震などによる繰り返し横荷重を受けたときに備えて、貫通孔4に予め装填されるものである。
【0034】
このフィラーは、図1(a)に示すように、アンカーボルト1の部分周を包囲する内接縁2mを備えたオープンリング型(三日月状)のインナーメンバー2と、このインナーメンバーの外接縁2nの一部を包囲する内周縁3mと貫通孔4の孔壁4wに接触しえる外周縁3nを備えたアウターメンバー3とからなる。特徴的なことは、各メンバーはそれぞれの同一寸法・同一形状のプレート52 ,53 もしくは後述する同一平面形状のプレートを所望高さに積層して形成される点で、図14(e)のごとき一塊ものとは異なる。
【0035】
その各プレート52 ,53 のそれぞれは接着剤などで相互に一体化してもよいが、各プレートを上下に縦通しかつプレート相互を密接させ、プレートの積重状態を維持する連結ピン6を使用することが好ましい。したがって、プレート52 ,53 が連結ピンを介して一体化された積重体72 ,73 は、フィラー8を形成する。ちなみに、図1(b)は一対のプレート52 ,53 を表し、同図(c)は貫通孔4の深さに応じてプレート52 ,53 の積重枚数を減らしたフィラー8L を示している。なお、プレートは同一寸法・同一形状のものを採用した例となっている。
【0036】
このように、積重体72 ,73 はプレート枚数を変えれば、出荷前に高さの異なるフィラーに変えることができる。ときには、プレートを工事現場に持ち込んで高さ調整後に連結ピン6で一体化したり、現場においてメンバーを解体して図1(a)であったものを図1(c)のように変更したりその逆もすることができる。なお、同一平面形状のプレート5A2 ,5A3 、すなわち図2(a)のごとく厚みの大きい高嵩化プレート5A2H,5A3Hを標準厚みのプレート5A2S,5A3Sとともに準備しておくなら、高さ稼ぎが早くでき貫通孔深さに近づいた時点で標準厚みプレートの枚数を選定すればよい。
【0037】
このように、厚みの異なる同一平面形状のプレートを混用してもよいが、同一寸法・同一形状のプレート、すなわち厚みが同じで同一平面形状ばかりのプレートを準備する場合は、フィラー構成部品の製作種類数が激減でき、量産効果を大いに期すことができる。もちろん、背景技術のところで述べた貫通孔の深さに応じた高さごとの一塊状フィラー(図14(e)を参照)をラインナップする必要はなくなる。
【0038】
上記したように、プレート相互の積重状態を維持する連結ピン6を介して一体化させる場合は、プレート52 ,53 ,5A2 ,5A3 のばらつきを来さずに輸送し、また貫通孔に直ちに適用することができる。連結ピンは鉄製(軟鋼)にかぎらず、アルミ棒といった変形可能な金属もしくは軟質樹脂棒でも差し支えなく、前者では挿入後に頭部をカシメたならよく、後者では締まり嵌め的状態におくべく押し込むなどすればよい。工事現場での長さ変更や解体は、材質にもよるが連結ピンを強引に押し出すなどすれば可能となることもある。連結ピンにはプレートを強固に繋ぐ作用が必要とされず、プレートを纏める程度であれば十分だからである。
【0039】
ところで、フィラー8を構成するいずれのメンバー2,3にも、図1(c)のように、その最上位のプレート52U,53Uの縁部の一部に、貫通孔4の上部開口縁4uに乗載するか孔壁4w(図1(a)を参照)に引っ掛かる変形突部9を形成しておくとよい。一体化された個々のメンバーが貫通孔4の中で沈みこむのを防止しておくことができる。変形突部は、例えばポンチを用いてプレートの縁部を打撃して凹ませ、その変形時のはみ出しバリを外接縁2nや外周縁3nからとび出させたものであれば十分である。
【0040】
上記した連結ピン6はメンバーごとに二本以上採用され、各プレートは相互に不動であって(図1では2本)、差し込み楔10を図3(e)に示すごとくインナーメンバー2の外接縁2nとアウターメンバー3の内周縁3mとの間、同図(c)のようにインナーメンバー2の外接縁2nと貫通孔壁4wとの間、もしくは同図(d)のごとくアウターメンバー3の外周縁3nと貫通孔壁4wとの間に差し込めば、いずれかのメンバーの一部が貫通孔壁4wに密接して不動となった状態を維持しておくことができる。すなわち、メンバー対によってガタのない充填状態が達成される。ちなみに、差し込み楔は変形不能である必要があるから通常は鋼鉄製とされ、適宜なテーパが付される。これに代えてもしくは併用すべく、シムのような薄板状のものを採用してもよい。
【0041】
なお、図3(a)はアンカーボルト1が貫通孔4の軸芯に位置しているときのメンバー対の標準的配置平面図である。同図(b)はアンカーボルト1が貫通孔4の軸芯から矢印方向に外れた位置にあるときのメンバー対の配置を示し、同図(c)は同図(a)の状態にあるメンバー対を差し込み楔10によって不動状態にした配置を示す。同図(d)は同図(b)の状態にあるメンバー対を差し込み楔10によって不動状態にした配置を示し、同図(e)は同図(b)の状態にあるメンバー対を異なる位置の差し込み楔10によって不動状態にした配置を示している。差し込み楔10の採用数は少ないに越したことはないが、ガタの残り具合を勘案して個数が適宜選定される。また、差し込み楔は貫通孔長に等しくなければならないというものでもない。
【0042】
以上はオープンリング型プレート積重体72 ,73 のフィラーについて説明したが、図2(b)や図4(d),(e)のようなクローズリング型プレート積重体72C,73Cとしてもよい。この場合も、上で述べたごとくのメンバーがインナー・アウターで対をなすこと、連結ピン、プレート枚数替え、プレートの高嵩化、最上位プレートの変形突部、連結ピンの2本以上採用や差し込み楔に関して、そのいずれかもしくは幾つかの組み合わせた形態で同様の要領によって適用することができる。
【0043】
ちなみに、図4(a)はインナーメンバー用プレート52Cの単体、同図(b)はアウターメンバー用プレート53Cの単体の斜視図を示す。同図(c)はアウターメンバー用のプレートにインナーメンバー用のプレートを組み込んだ(嵌着させた)状態である。同図(d)はプレート52Cの積重体72Cであるインナーメンバー2C 、同図(e)はプレート53Cの積重体73Cであるアウターメンバー3C 、同図(f)はインナーメンバー2C をアウターメンバー3C に組み込んだフィラー8C を表している。
【0044】
図5(a)は、連結ピン6がメンバーごとに一本のみの例である。一本であってもカシメの仕方などによって各プレートを相互に不動にしておくことができる。しかし、少しルーズにしておくなら、連結ピン6を中心に各プレート52 ,53 を水平回動させることもできる(次に説明する図6も参照)。所望するプレートを他のプレートに対して回動させ、メンバーの平面形を誇張して言えば扇状に拡大することが可能となり、充填空間を実質的に大きくしたように見せ掛けかけ、アンカーボルト1の貫通孔4におけるガタを可及的になくすことができる。構造材はベースプレートを介した基礎との一体性を高め、水平せん断剛性の向上が図られることは言うまでもない。
【0045】
具体的には、図6にあるように、メンバー2,3を幾つかのプレートからなる階層に区分し、階層ごとに連結ピン6を中心にして異なった方向にδだけ変える。インナーメンバー2のある階層に対して、図5(a)の要領でインナーメンバー2の外接縁2nと貫通孔壁4wとの間に楔10、もしくは同図(b)のようにアウターメンバー3のある階層の外周縁3nと貫通孔壁4wとの間に差し込み楔10D が打ち込まれ、各階層の外周縁3nの一部が貫通孔壁4wの異なる箇所で密接した状態に維持される。
【0046】
図5をもう少し詳しく述べる。同図(a)のようにまずインナーメンバー2の全ての階層の背後に楔10を打ち込み、インナーメンバー2とともにアウターメンバー3もY方向に寄せ、貫通孔4内での当該方向のガタをなくした状態をつくる。同図(b)のごとくアウターメンバー3の最下階層123Dと貫通孔壁4wとの間に楔10D を打ち込み、アウターメンバー3を僅かに右回転させて概ねX方向に寄せ、最下階層123Dでの当該方向のガタをなくした状態とする。なお、インナーメンバー2の対応階層122Dは最下階層123Dの回動に伴ってわずかに回転する。
【0047】
図5(d)ではアウターメンバー3の最上階層123Uと貫通孔壁4wとの間に楔10U を打ち込み、先の楔10D が通過した後のアウターメンバー3の最上階層123Uを僅かに左回転させて貫通孔壁4wに当たるまで概ね反X方向に寄せ、最上階層123Uでの当該方向のガタをなくした状態とする。なお、インナーメンバー2の対応階層122Uも最上階層123Uの回動に伴ってわずかに回転する。同図(c)は中段の階層122M,123Mが同図(a)のままとされている状態である。各図中の大きい三角印は楔の打ち込まれている位置を示し、小さな三角印は階層同士または階層と孔壁とが力を及ぼしあっている箇所を示す。
【0048】
このように例えば三つの階層で一つのフィラーが貫通孔4に対して緊密な嵌めこみがなされると、アンカーボルト1はベースプレートに緊締状態におかれる。この状態をアウターメンバー3の単体およびインナーメンバー2の単体につき示したのが、図6(a)である。同図(b)はその断面図を示し、影の施した階層は回動量0として描かれている。同図(c)は二つとした階層123U,123Dの例である。図5に戻って、いずれにおいても楔10,10D ,10U は貫通孔4の上方の開口から打ち込まれ、下方の階層123Dに使用される楔10D は上方にあるいずれの階層にも及ばない短いものとされ、上方の階層123Uに使用される楔10U は下方の階層123M,123Dに及ばない短いものとされる。
【0049】
これから、幾つかの階層の外周縁が階層ごとに異なる部分で貫通孔壁に密接されることが分かる。アンカーボルトは貫通孔に対して不動状態におかれ、建物と基礎との一体性は持続され、アンカーボルトのせん断破壊が可及的に遅速化される。なお、このような例においても、メンバーがインナー・アウターで対をなすこと、オープンリング型プレートであったりクローズリング型プレートであったりすることも差し支えない。積重枚数替え、プレート高嵩化、変形突部の形成についても、そのいずれかもしくは組み合わせたかたちで前例と同様に導入することができる。
【0050】
ところで、図7(a),(b)や図8(a)ないし(d)に示すように、メンバーのいずれにも、プレート52 ,53 の積重体72 ,73 上で貫通孔の直径より大きな鍔を形成し、連結ピン6によって一体化されたフランジプレート142 ,143 を具備させておいてもよい。図7(c)や図8(e),(f)のように、インナーメンバー2のフランジプレート142 をアウターメンバー3のフランジプレート143 に載せることになり、各メンバーの貫通孔での沈みこみは回避される。もちろん、図8(f)に示すように、ナット15を締めつけるときのベースプレート16に対する均圧化も図られる。
【0051】
図9(a),(b)のように、フランジプレート142 ,143 を下部のプレート積重体72 ,73 に対して二点鎖線の位置から回動させれば、差し込み楔(図示せず)の打ち込み操作空間も問題なく確保され、戻せば貫通孔の開口縁上に位置させることができる。ちなみに、インナーメンバーのフランジ孔14h2 の径は内接縁2mに同じとし、アウターメンバーのフランジ孔14h3 の径は内周縁3mと同じとされている。しかし、これらの孔径は内接縁2mや内周縁3mの実質的な直径よりも少し大きくしておくことも差し支えない。
【0052】
図10はフランジプレートの改良形を示す。図8のアンカーボルト1が貫通孔4の軸芯に位置している場合とは異なり、図10(a)はアンカーボルト1が貫通孔4の軸芯から最も大きく外れたところに位置している。この場合、インナーメンバー2の円形のフランジプレート142 は同図(b)に示すように、アウターメンバー3のフランジプレート143 の上にはあるものの、その一部が貫通孔4の開口縁4uから外れる。
【0053】
これではフランジプレート142 が却ってナット15による固定を阻害するので、アンカーボルト1が貫通孔4の軸芯から最も大きく外れた場合でもフランジプレート142 がフランジプレート143 を覆うようにするため、図10(e)に示すフランジプレート142Bのように長円形にしておく。この場合のフィラー8B の平面矢視は同図(c)のようになるが、同図(d)の横断面で見れば、ナット15を掛けたとき常に押圧力は貫通孔4の開口縁4uに均等に伝えられるようになる。
【0054】
図11に示すように、クローズリング型プレートの場合もフランジプレート142C,143Cの導入は可能である。図8および図10と同様に、フランジプレートの均圧座金化は達成される。なお、この場合も、必要に応じて図10(e)のような対策を施すこともできる。ちなみに、図12(c),(d)はオープンリング型プレートを採用した例であるが、図示しないがクローズリング型プレートを採用した場合でも、フランジプレート142T,143Tを薄板化しておくことができる。
【0055】
ところで、インナーメンバーのフランジ孔14h2 の径を内接縁2mのそれ以上に、アウターメンバーのフランジ孔14h3 の径も内周縁3mのそれ以上にしたうえで、適宜の直径にしておくなら、フランジプレートをそのままプレートとして積層し、サイズの大きなフィラーを作ることができる。このようにしておけばフィラーの構成部品の共通化が図られることも言うまでもない。なお、このフランジプレート付きフィラーにおいても、プレート積重用連結ピン、積重枚数替え、プレートの高嵩化(図12(a),(b)を参照)、差し込み楔については、そのいずれかもしくは組み合わせたかたちで同様の要領で適用することができる。
【0056】
以上詳細に述べたが、本発明によれば、インナーメンバーとアウターメンバーとからなり、各メンバーにおいては同一平面形状のプレートもしくは同一寸法・同一形状のプレートを所望高さとなる数だけ積み重ねて、適用すべき貫通孔の径や長さ(深さ)およびアンカーボルトの径に見合ったメンバーを簡単に形成することができる。各メンバーの寸法や形状の多様化は可及的に抑えられ、ラインナップ化が格段に簡素化される。多量生産によるプレートの低廉化、ひいてはメンバー製作のコスト低減が図られ、製作過程の多元化も回避される。メンバーを使用する者にとっては、工事現場での枚数変更による長さ調整も可能となり、鉄骨建方作業の効率アップ、作業の融通性や柔軟性が向上する。
【符号の説明】
【0057】
1…アンカーボルト、2…インナーメンバー、2m…内接縁、2n…外接縁、3…アウターメンバー、3m…内周縁、3n…外周縁、4…貫通孔、4u…上部開口縁、4w…孔壁、52 ,52C,53 ,53C,5A2 ,5A3 ,5A2H,5A3H,5A2S,5A3S,52U,3U…プレート、6…連結ピン、72 ,73 ,72C,73C…プレート積重体、8,8L ,8B ,8C …フィラー、9…変形突部、10,10D ,10U …差し込み楔、122D,123D,122M,123M,122U,123U…階層、142 ,143 ,142B,142C,143C,142T,143T…フランジプレート、16…ベースプレート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16