特許第6334518号(P6334518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6334518不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒、該触媒の製造方法、および該触媒を用いた不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334518
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒、該触媒の製造方法、および該触媒を用いた不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20180521BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20180521BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180521BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180521BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20180521BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20180521BHJP
   C07C 51/215 20060101ALI20180521BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20180521BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J37/04 101
   B01J37/08
   B01J35/02 A
   B01J35/02 L
   C07C45/35
   C07C47/22 A
   C07C51/215
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-513692(P2015-513692)
(86)(22)【出願日】2014年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2014060676
(87)【国際公開番号】WO2014175113
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-92005(P2013-92005)
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 徹
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 芳子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 麻紗
(72)【発明者】
【氏名】橋場 正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英雄
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036038(WO,A1)
【文献】 特開2002−273229(JP,A)
【文献】 特開2008−068228(JP,A)
【文献】 特開2011−177616(JP,A)
【文献】 特開2010−167703(JP,A)
【文献】 特開平03−109232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
JSTPlus/JST7580(JDreamI
II)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理をしたガラス繊維を含有する、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用の触媒。
MoBiNiCoFe (1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項2】
シラン処理したガラス繊維の含有量が、触媒活性成分に対し0.1質量%〜30質量%の範囲である請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理したガラス繊維を物理混合し、その混合物を不活性担体に担持してなる請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理したガラス繊維を物理混合し、その混合物を不活性担体に担持する、請求項1記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒を使用する、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する新規な触媒、該触媒の製造方法、および該触媒を用いた不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブチルアルコールを原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法は工業的に広く実施されているが、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、最悪の場合は暴走反応による事故災害の発生、触媒の使用不能につながるため、ホットスポットを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1において触媒成型体の占有容積、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【0003】
これらの触媒は、平均粒径が大きいものおよび/または焼成温度が高いものについては、触媒層が厚くなるため触媒活性成分層にひずみが生じたり、焼成時の結晶相変化により、機械的強度が低下することがあり、完成した触媒の保存中に保存容器底部の触媒が割れたり、反応管への充填時に割れて反応管の圧力損失が大きくなるなどの問題が生じることの懸念がある。とりわけ、平均粒径が大きく、かつ焼成温度が高い触媒にこの傾向が強く見られ、触媒の生産効率が著しく低下してしまうため、改善が必要とされている。なお、ここでいう焼成温度とは、触媒に活性を付与するべく行う焼成工程での最高温度を指し、通常は触媒活性成分に対して行う焼成または乾燥温度の最高温度を意味するものである。
【0004】
触媒の強度を向上させる方法として、特許文献2ではリング状に成型したモリブデンおよびビスマスを含む触媒に無機質繊維を含有させて成型した触媒が開示されている。また、無機質繊維としては、50μm〜1.5mmの平均繊維長、2μm〜20μmの平均直径を有する、ガラス繊維、アルミナ繊維およびシリカ繊維から選ばれた1種が使用できることが開示されている。しかしながら、これら成型助剤を添加することによって機械的強度はある程度改善されるものの、目的とする不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率はまだ十分ではなく、機械的強度と触媒性能(活性、収率など)を兼ね備えた触媒が必要とされている。
【0005】
特許文献3には担持触媒の機械的強度の改善方法として、2〜200μmの平均粒径の無機繊維を補助剤として使用する方法が開示されている。
【0006】
特許文献4にはシリカゾルと無機繊維を添加する方法が開示されている。特許文献5では平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物を含有する触媒が開示されている。特許文献6では酸量が0.05mmol以下の無機質繊維を含有する触媒が開示されている。無機質繊維の酸点を0.05mmol以下とすることで、高収率な触媒を得ることが出来るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2001−328951号公報
【特許文献2】日本国特開2002−273229号公報
【特許文献3】日本国特開平6−381号公報
【特許文献4】日本国特開平9−52053号公報
【特許文献5】日本国特開2007−000803号公報
【特許文献6】日本国特開2011−177616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い機械的強度を有し、かつ、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を高収率で得られる新規な触媒およびその製造方法並びに該触媒を用いた不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、モリブデンおよびビスマスを必須とする触媒活性成分に対し、シラン処理をしたガラス繊維を含有することにより、高い機械的強度を有し、かつ、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を高収率で得られる新規な触媒を見出し本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)下記一般式(1)で表される触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理をしたガラス繊維を含有する、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用の触媒
MoBiNiCoFe (1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)、
(2)シラン処理したガラス繊維の含有量が、触媒活性成分に対し0.1質量%〜30質量%の範囲である上記(1)に記載の触媒、
(3)触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理したガラス繊維を物理混合し、その混合物を不活性担体に担持してなる上記(1)または(2)に記載の触媒、
(4)焼成温度が510℃以上で平均触媒粒径が5.0mm以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒、
(5)焼成温度が540℃以上で平均触媒粒径が6.0mm以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒、
(6)前記一般式(1)で表される触媒活性成分を含有する化合物およびシラン処理したガラス繊維を物理混合し、その混合物を不活性担体に担持する、上記(1)に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法、
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の触媒を使用する、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の触媒によれば、高い機械的強度を有し、かつ、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を高収率で得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において使用する触媒活性成分を含有する化合物自体は、公知の方法で調製することが出来、下記一般式(1)で表される。
MoBiNiCoFe (1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、好ましくはb=0.5〜4、c+d=0.5〜20、より好ましくはc+d=1〜12、f=0.5〜8、さらに好ましくはf=0.5〜5、g=0〜2、特に好ましくはg=0〜1、h=0.005〜2、最も好ましくはh=0.01〜0.5であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【0013】
ここで、触媒活性成分を含有する化合物の粉末は、共沈法、噴霧乾燥法など公知の方法で調製されるが、その際使用する原料はモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X及びY等各種金属元素の硝酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩などを用いることができ特に制限されず、供給する金属塩の種類および/または量を変えることで異なる種類の触媒活性成分を含有する化合物の粉末を得ることもできる。
こうして得られた粉末を好ましくは200〜600℃、より好ましくは300〜500℃で、好ましくは空気または窒素流通下にて焼成し予備焼成粉末を得ることができる。
【0014】
こうして得られた予備焼成粉末を成型して本発明の触媒とする。成型物の形状は球状、円柱状、リング状など特に限定されず、触媒の製造効率、機械的強度などを考慮して形状を選択すべきであるが、球状であることが好ましい。成型に際しては、単独の予備焼成粉末を使用し、成型するのが一般的であるが、別々に調製した成分組成が異なる顆粒の予備焼成粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、不活性担体上に異種の予備焼成粉末を担持する操作を繰り返して、複層に予備焼成粉末が成型されるような手法を採用してもよい。尚、成型する際には結晶性セルロースなどの成型助剤とシラン処理したガラス繊維を混合する。成型助剤およびシラン処理したガラス繊維の使用量は触媒活性成分に対しそれぞれ30重量%以下であることが好ましい。また、成型助剤とシラン処理したガラス繊維は上記予備焼成粉末と成型前にあらかじめ混合してもよいし、成型機に予備焼成粉末を添加するのと同時または前後に添加してもよい。
【0015】
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。球状に成型する場合、成型機で予備焼成粉末を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。シラン処理したガラス繊維や、必要に応じてその他の成型助剤を使用する場合は、それらを予備焼成粉末とあらかじめ混合して使用しても、それぞれ別々に添加してもよい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート等の、予備焼成粉末が担体に均一に担持できる方法であれば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内に仕込まれた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体並びに必要により、成型助剤及び強度向上剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。
【0016】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5重量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常2〜60重量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10〜30重量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉末は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。
【0017】
不活性担体は、通常3〜10mm程度の平均粒径のものを使用し、これに予備焼成粉末を担持させるが、その担持量は触媒使用条件、たとえば空間速度、原料炭化水素濃度を考慮して決定される。予備焼成粉末を不活性担体に担持させた平均触媒粒径は、不活性担体への担持量にもよるが、通常4〜11mmである。
【0018】
なお、球状担持触媒における予備焼成粉末(以下、活性粉末という)の担持率に特に制限はないが、通常20〜80重量%である。本発明においては、下記する複数に分割された触媒層に充填する場合、各触媒層の担持率(重量%)、すなわち、予備焼成粉末の重量/(予備焼成粉末の重量+担体の重量+ガラス繊維)×100で算定される担持率は、使用するうえで適当な値に設定することができ、特に制限されない。
【0019】
成型した触媒は反応に使用する前に再度焼成することが好ましい。再度焼成する際の焼成温度は通常500〜650℃、焼成時間は通常3〜30時間、好ましくは4〜15時間であり、使用する反応条件に応じて適宜設定される。反応管に複数に分割された触媒層を設けて充填する場合、原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、その組成によらず、ガス出口側の触媒よりも高い温度で焼成することで活性を制御するのが好ましい。焼成の雰囲気は空気雰囲気、窒素雰囲気などいずれでもかまわないが、工業的には空気雰囲気が好ましい。これらのうち、本発明は平均触媒粒径が5mm以上で、焼成温度が510℃以上の触媒に対し、その効果が十分に発揮され、平均触媒粒径が6mm以上で、焼成温度が540℃以上の触媒に対しては、その効果を著しく発揮するものである。
【0020】
本発明の触媒は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造に使用することができる。具体的には、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法や、イソブチレンおよび/またはターシャリーブチルアルコールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法に使用することができる。その中でも、アクロレインおよびアクリル酸の製造に使用することが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例、比較例により本発明を詳細に説明する。尚、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。プロピレン転化率および有効収率は下式(1)、(2)によって表される。
【0022】
(1)
プロピレン転化率(モル%)
=100×〔(反応したプロピレンのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)〕
【0023】
(2)
有効収率(モル%)
=100×〔(生成したアクロレインのモル数+生成したアクリル酸のモル数)/(供給したプロピレンのモル数)〕
【0024】
反応に使用する触媒の強度は、実用上の観点から非常に重要である。実施例で使用している触媒の強度は以下に記載の方法によって求められる磨損度によって評価した。
得られた触媒50gを、内部に一枚の邪魔板を備えた、半径14cmの円筒型回転機に仕込み23rpmで10分間回転させた。その後剥離した粉末をふるいで除去し、残存量を測定した。下式(3)を用いて、剥離した粉末の割合を計算し以降この値を磨損度と表現する。磨損度は小さい方が強度が高くなるので好ましいが、実用上は3重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0025】
(3)
磨損度(wt%)
=100×〔(サンプル重量−ふるい上の残サンプル重量)/サンプル重量〕
【0026】
触媒の平均粒径は、以下に記載の方法で測定した。
球状の触媒をランダムに100粒採取し、ノギスを用いて直径を測定した。得られたデータの平均値を触媒の平均粒径とした。
【0027】
実施例1
(触媒の調製)
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム789.0重量部と硝酸カリウム4.4重量部を溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸コバルト563.8重量部、硝酸ニッケル303.2重量部、硝酸第二鉄263.3重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B)を、また60%濃硝酸77重量部を加えて酸性にした蒸留水300重量部に硝酸ビスマス301.7重量部を溶解して水溶液(C)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A)に(B)、(C)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーによって乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.12であった。
その後予備焼成粉末100重量部と結晶セルロース5重量部、セントラル硝子社製ミルドファイバーEFH150_31(シラン処理あり)3重量部を混合した粉末を、20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして97重量部の不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする平均直径6.0mmの球状物質)に添加し、担持成型した。得られた触媒を箱型熱風焼成炉にて540℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで本発明の触媒(D)を得た。得られた触媒の磨損度を下記表1に表記する。成型触媒(D)の平均粒径は6.9mmであった。
【0028】
(酸化反応試験)
内径28.4mmのステンレス製反応器に原料ガス入口側から順に平均直径4.0mmのシリカ-アルミナ球を2cm充填し、さらに上記成型触媒を15cm、平均直径4.0mmのシリカ-アルミナ球を37cm充填し、アルミナ砂で反応浴温度を320℃一定とした流動浴にセットした。原料モル比がプロピレン:酸素:水:窒素=1:1.7:3:6.4となるようにプロピレン、空気、水の供給量を設定したガスを空間速度630h−1で酸化反応器内へ導入し、反応を開始後350℃まで昇温して12時間保持(高温反応処理と表す)し、330℃まで降温して定量を行った。同様の酸化反応試験を4回繰り返し、得られたプロピレン転化率、有効収率の平均値を表1に表記する。
【0029】
比較例1
EFH150_31を添加しなかったこと、不活性担体を100重量部に変更した以外は実施例1と同じ条件で比較用の成型触媒(E)を調製し、酸化反応試験と磨損度測定を行った。結果を表1に示す。成型触媒(E)の平均粒径は6.9mmであった。
【0030】
比較例2
EFH150_31の代わりに、セントラル硝子社製EFH150_01(シラン処理をしていないガラス繊維)を用いた以外は実施例1と同じ条件で比較用の成型触媒(F)を調製し、酸化反応試験と磨損度測定を行った。結果を表1に示す。成型触媒(F)の平均粒径は6.9mmであった。
【0031】
【表1】
【0032】
比較例1より、シラン処理をしたガラス繊維を用いなかった場合、磨損度が非常に大きくなり触媒強度が不足していることがわかる。また、比較例2よりシラン処理をしていないガラス繊維を成型助剤として用いた場合、磨損度は改善されるが、有効収率は低下することがわかる。実施例1と比較例1より、シラン処理をしたガラス繊維を成型助剤として用いると触媒性能が低下することなく磨損度が改善されることが確認された。
【0033】
実施例2
(触媒の調製)
担持成型触媒をトンネル型熱風焼成炉にて温度550℃で4時間、空気雰囲気下で焼成した以外は実施例1と同じ条件で本発明の触媒(G)を得た。得られた触媒の磨損度を表2に表記する。本発明の触媒(G)の平均粒径は7.1mmであった。
【0034】
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム789.0重量部と硝酸カリウム3.5重量部を溶解して水溶液(H)を得た。別に、硝酸コバルト563.8重量部、硝酸ニッケル303.2重量部、硝酸第二鉄263.3重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(I)を、また60%濃硝酸77重量部を加えて酸性にした蒸留水300重量部に硝酸ビスマス301.7重量部を溶解して水溶液(J)をそれぞれ調製した。上記水溶液(H)に(I)、(J)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーによって乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった。
その後予備焼成粉末100重量部と結晶セルロース5重量部を混合した粉末を、20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして100重量部の不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする平均直径4.0mmの球状物質)に添加し、担持成型した。得られた触媒をトンネル型熱風焼成炉にて530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒(K)を得た。
【0035】
(酸化反応試験)
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径27.2mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側から平均直径5.2mmのシリカ-アルミナ球を15cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(G)を80cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(K)を215cmの順で充填し、反応浴温度を330℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:水:窒素=1:1.75:2.0:10となるようにプロピレン、酸素、水、窒素の供給量を設定したガスを空間速度1470h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を50kPaGとして反応開始後300時間経過したとき、アクロレインとアクリル酸の合計収率が最大となるように反応温度を3℃刻みで変更させる試験を実施して最大有効収率を求めた。また熱電対を用いて触媒層内の最高温度(ピーク温度)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0036】
比較例3
(触媒の調製)
担持成型触媒をトンネル型熱風焼成炉にて温度550℃で4時間、空気雰囲気下で焼成した以外は比較例1と同じ条件で比較用の触媒(L)を得た。得られた触媒の磨損度を表2に表記する。触媒(L)の平均粒径は7.1mmであった。
【0037】
(酸化反応試験)
酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(L)を用いた以外は実施例2と同じ条件で反応温度変化試験を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例2と比較例3より、シラン処理をしたガラス繊維を含有した触媒を他の触媒と組み合わせて使用する際においても、シラン処理をしたガラス繊維を含有していない触媒を用いた時に対して有効収率が低下しないことが確認された。
【0040】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2013年4月25日付で出願された日本国特許出願(特願2013−092005)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の触媒は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造に有用である。