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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真核細胞への導入遺伝子伝達のためのウイルスベクター組成物の品質を評価する方法であって:(a)ウイルスベクター組成物と接触していない真核細胞におけるCXCL2(配列番号1)及びEREG(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;(b)該ウイルスベクター組成物と接触した後の真核細胞における少なくとも1種の該バイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、(c)工程(b)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(a)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(a)に比べ(b)におけるバイオマーカー発現レベルの有意な上方制御は、ウイルスベクター組成物の品質が不充分であることの指標となる工程を含む、方法。
(d)ウイルスベクター組成物と接触していない真核細胞におけるASPM(配列番号3)、AURKB(配列番号4)、CENPA(配列番号5)、CENPF(配列番号6)、CKS1B(配列番号7)、E2F8(配列番号8)、ERCC6L(配列番号9)、FAM83D(配列番号10)、KIFC1(配列番号11)、MKI67(配列番号12)、NEK2(配列番号13)、NUSAP1(配列番号14)、OIP5(配列番号15)、PRC1(配列番号16)、RRM2(配列番号17)、SGOL1(配列番号18)、SPC25(配列番号19)、TOP2A(配列番号20)及びTTK(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;(e)該ウイルスベクター組成物と接触した後の真核細胞における少なくとも1種の該バイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、(f)工程(e)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(d)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(d)に比べ(e)におけるバイオマーカー発現レベルの有意な下方制御は、ウイルスベクター組成物の品質が不充分であることの指標となる工程を更に含む、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
(g)対照ウイルスベクター組成物と接触した後の真核細胞におけるCXCL2(配列番号1)及びEREG(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、(h)工程(g)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(a)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(a)と比べ(g)において、バイオマーカー(複数可)の有意な示差的発現が検出されるべきではない工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
(j)対照ウイルスベクター組成物と接触した後の真核細胞におけるASPM(配列番号3)、AURKB(配列番号4)、CENPA(配列番号5)、CENPF(配列番号6)、CKS1B(配列番号7)、E2F8(配列番号8)、ERCC6L(配列番号9)、FAM83D(配列番号10)、KIFC1(配列番号11)、MKI67(配列番号12)、NEK2(配列番号13)、NUSAP1(配列番号14)、OIP5(配列番号15)、PRC1(配列番号16)、RRM2(配列番号17)、SGOL1(配列番号18)、SPC25(配列番号19)、TOP2A(配列番号20)及びTTK(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、(k)工程(j)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(d)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(d)に比べ(j)におけるバイオマーカー発現レベルの潜在的下方制御が、検出されるべきである工程を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
(d)に比べ(j)におけるバイオマーカー発現レベルの潜在的下方制御が、高感染多重度(MOI)での(d)に比べ(e)におけるバイオマーカー発現レベルの下方制御よりも少なくとも1.5倍低い、請求項3又は4を引用する請求項6に記載の方法。
CXCL2(配列番号1)及びEREG(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定することができる1又は複数の試薬及び対照ウイルスベクター組成物を備える、ウイルスベクター組成物の品質の評価に使用するためのキット。
ASPM(配列番号3)、AURKB(配列番号4)、CENPA(配列番号5)、CENPF(配列番号6)、CKS1B(配列番号7)、E2F8(配列番号8)、ERCC6L(配列番号9)、FAM83D(配列番号10)、KIFC1(配列番号11)、MKI67(配列番号12)、NEK2(配列番号13)、NUSAP1(配列番号14)、OIP5(配列番号15)、PRC1(配列番号16)、RRM2(配列番号17)、SGOL1(配列番号18)、SPC25(配列番号19)、TOP2A(配列番号20)及びTTK(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定することができる1又は複数の試薬を更に備える、請求項11に記載のウイルスベクター組成物の品質の評価に使用するためのキット。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、ウイルスベクターにより形質導入された細胞において、示差的に発現されるバイオマーカーの具体的セットを提供する。そのようなバイオマーカーは、以下に詳細に説明されるように、ウイルスベクター組成物の品質を予測するために設計された方法において使用することができる。
本出願において、用語は、別に正確に記す場合を除き、それらの通常の意味で使用される。
【0050】
定義
用語「ウイルスベクター組成物」とは、非限定的に、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスから得られる任意のウイルス由来の組成物並びにそれらのウイルスベクターを含む全ての組成物を指す。本発明の好ましい実施態様において、ウイルスベクター組成物は、例えば、レンチウイルス(LV)ベクター及びγ−レトロウイルス(RV)ベクターを含む、エンベロープに囲まれたRNAウイルスを含むレトロウイルス科に属するウイルスを基にしている。ウイルスベクター組成物は、当業者に公知の任意の方法を使用し作製されることができる。本発明の具体的実施態様において、本発明の方法を用いて試験されるべきウイルスベクター組成物は、
図1A、
図1B及び
図1Cに説明されたプロセスなどのプロセスにより得ることができる。
【0051】
用語「ウイルスベクター組成物の影響を測定又は検出する」とは、標的細胞又は真核細胞のウイルスベクター組成物との接触後の、バイオマーカーの発現を評価することを意味する。
【0052】
用語「バイオマーカー」又は「生物学的マーカー」とは、生物学的状態の指標を意味する。正常な生物学的プロセス、病理発生プロセス、又は治療的介入に対する薬学的反応の指標として、客観的に測定し且つ評価することは、特徴的である。本明細書に使用される「バイオマーカー」は、具体的生物学的特性の分子指標であり、且つ本明細書において使用される場合、細胞内でのそれらの示差的発現(存在、非存在、参照に比しての過剰発現又は過小発現)が、ウイルスベクター組成物の品質を予測するような核酸分子(例えば、遺伝子若しくは遺伝子断片)又はそれらの発現産物(例えば、RNA、microRNA、ポリペプチド若しくはペプチド断片若しくはそれらのバリアント)である。本明細書において使用される「発現産物」は、転写されたセンス若しくはアンチセンスRNA分子(例えば、mRNA)、又はポリヌクレオチド配列に対応するか若しくはそれから誘導された翻訳されたポリペプチドである。バイオマーカーの「パネル」は、バイオマーカーの2種以上の組合せの選択である。
【0053】
本発明のウイルスベクター組成物を特徴付けるためのバイオマーカーは、表2、表3、表4、表6、表7及び表8に列挙されたものを含む。そのようなマーカーは、ウイルスベクター組成物の細胞への形質導入により調節されることが知られている遺伝子を含む。1又は複数のこれらのバイオマーカー、又は最大全てのバイオマーカーは、本発明の方法において任意の組合せで一緒に使用することができる。
【0054】
用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、cDNA又はゲノムDNAなどのDNA分子、及びmRNAなどのRNA分子、又は関心対象のDNA若しくはRNA任意の断片を含むことが意図されている。これらの用語は、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド、並びに例えば、ゲノムDNA、cDNA、及びmRNAを含む一本鎖又は二本鎖のいずれかの型のそれらのポリマーを指す。この用語は、天然起源及び合成起源の両方の核酸分子に加え、未変性の核酸分子のセンス又はアンチセンス鎖のいずれか、若しくは両方を表す、線状、環状、又は分岐した配置の分子を包含している。そのような核酸は、精製されないか、精製されるか、又は例えばビーズ若しくはカラムマトリクスなどの合成物質に結合されることができることは理解される。この用語は、参照核酸と類似した結合特性を有し、且つ天然に生じるヌクレオチドに似た様式で代謝される天然のヌクレオチドの公知の類縁体を含む核酸も包含している。別に指定しない限りは、特定の核酸配列はまた、保存的に改変されたそれらのバリアント(例えば、縮重コドン置換)、多型、対立遺伝子、及び相補的配列に加え、明示的に示された配列をも暗に包含している。用語核酸は、遺伝子により、又は完全分子と機能的に同等であるように選択されるそれらの断片によりコードされた、遺伝子、cDNA、及びmRNAと、互換的に使用される。
【0055】
従って本発明は、バイオマーカー、例えば核酸分子及びそれらの発現産物を含有する組成物、又は該バイオマーカーを検出する手段を提供し、ここでこれらのバイオマーカーは、ウイルスベクターにより形質導入された細胞において、形質導入されない細胞と比べ、示差的に発現されることがわかっている。
【0056】
本発明のバイオマーカーをコードしている核酸配列は、公に入手可能であり(例えば、Genbankにおいてアクセス可能)、当業者に公知であり、且つそれらの全体が本明細書中に組み込まれている。以下に詳述するように、そのような核酸配列を使用し、形質導入された細胞におけるバイオマーカー発現のレベルを測定するアッセイにおいて使用するための、プローブ又はプライマーを設計することができる。
【0057】
本発明のバイオマーカーは、本明細書に記載の核酸分子及びそれらの発現産物の実質的に同一の相同体及びバリアント、例えば本発明のバイオマーカーと機能的に同等のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列、例えば1個又は複数のヌクレオチドの置換、付加若しくは欠失を有する配列を含む分子、例えば対立遺伝子バリアント又はスプライシングバリアント又は種バリアント、あるいは遺伝暗号の縮重のために本明細書の表2、表3、表4、表6、表7又は表8において言及された核酸分子及びポリペプチドとは異なる分子を含む。
【0058】
本発明の実践において使用するための他の核酸は、ハイブリダイゼーション技術の使用により発現を検出するために、本明細書に記載のものと十分な相同性を有する核酸を含む。そのようなポリヌクレオチドは好ましくは、本明細書に記載のようにバイオマーカー配列と約95%又は95%、約96%又は96%、約97%又は97%、約98%又は98%、若しくは約99%又は99%の同一性を有する。本発明の実践において使用するためのその他のポリヌクレオチドはまた、約55〜約65℃若しくはそれ以上での、ハイブリダイゼーションに関して約30%v/v〜約50%のホルムアミド及び約0.01M〜約0.15Mの塩のストリンジェントな条件、並びに洗浄条件に関して約0.01M〜約0.15Mの塩、あるいはそれと同等の条件下で、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする能力を基に説明することができる。
【0059】
用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」とは、そのポリマーの長さとは関わりなく、アミノ酸のポリマーを指す。従ってペプチド、オリゴペプチド及びタンパク質は、ポリペプチドの定義に含まれる。同じくこの定義には、1又は複数のアミノ酸アナログを含むポリペプチド、置換された連結を伴うポリペプチドに加え、天然に生じるもの及び天然に生じないものの両方の当該技術分野において公知のその他の改変も含まれる。
【0060】
用語「培養細胞」とは、一般にそれらが自然にある環境ではなく、制御された条件下で成長した真核細胞を意味し、初代細胞、細胞株及びトランスジェニック細胞を含む。培養細胞は、ウイルスベクター組成物により形質導入されてもよく、されなくてもよい。用語「標的細胞」とは、本発明の方法、又は本発明のキットにより、バイオマーカーの発現に関し試験する細胞を意味する。標的細胞は、同じ型、同じ培養条件で、好ましくは真核細胞であり、より好ましくは不死化細胞、初代細胞又は幹細胞である。例えば標的細胞は、包皮細胞である。
【0061】
特に標的細胞は、許容細胞又は非許容細胞であることができる。用語「許容細胞」は、40以下の値の最適感染多重度(MOI)で、ウイルスベクター組成物により形質導入される標的細胞である。用語「非許容細胞」は、40より大きい値の最適MOIで、ウイルスベクター組成物により形質導入される標的細胞である。
感染多重度(MOI)は、ウイルス学において頻用される用語であり、これは感染時に細胞1個につき付着されるビリオン数を指す。
【0062】
用語「最適MOI」とは、標的細胞を形質導入するのに適したMOIを意味する。最適MOIは、レポーター遺伝子を発現しているレンチウイルスベクターなどの、レポーター遺伝子を発現しているウイルスベクターを使用し、標的細胞に対するMOIの範囲により決定される。レポーター遺伝子は、GFPなどの蛍光レポーター遺伝子又はルシフェラーゼなどの発光レポーター遺伝子であるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
最適MOIは、非限定的に、下記のようないくつかの判定基準を基に、当業者により決定されることができる:
−レポーター遺伝子発現レベルを持つ形質導入された細胞の割合、
−形質導入された細胞の生存能、及び/又は
−レポーター遺伝子発現レベル。
形質導入された細胞の割合及びレポーター遺伝子発現レベルは、当業者に公知の方法により決定される。
【0064】
本発明の好ましい実施態様において、最適MOIは、形質導入された細胞の最高の割合に相当するMOI、形質導入されない細胞の生存能と比べ形質導入された細胞の生存能が検出可能で且つ交換不能であるのに十分なレポーター遺伝子発現レベルに相当するMOIにより決定される。
例えば、包皮線維芽細胞(「包皮細胞」とも称される)などの、線維芽細胞に関する最適MOIは、40である。
【0065】
用語「トランスフェクション」とは、細胞へ核酸を計画的に導入するプロセスを指す。この用語は厳密に、真核細胞における非ウイルス方法について使用される。トランスフェクションは、gag−pol及びenv発現プラスミドが、産生細胞にトランスフェクションされ、上清中にウイルスベクターを得る場合の、ウイルスベクターの作製プロセスにおいて使用される。
【0066】
用語「形質導入」は、細胞へ核酸を計画的に導入するプロセスである。この用語は、真核細胞におけるウイルスベースの方法について使用される。ウイルスベクターは、産生細胞から収集され、且つ真核細胞と接触され、最終的に形質導入された細胞を得る。
【0067】
用語「倍数変化」又は「FC」は、ウイルスベクター組成物により形質導入された細胞の発現レベル、対、形質導入されない細胞の、又はウイルスベクター組成物の異なるバッチにより形質導入された細胞の発現レベルの間の比を表す。
【0068】
用語「細胞老化」とは、老化細胞を増殖細胞から区別する特徴的形態学的及び生理学的特性のセットを伴う、安定した細胞周期停止に加え、静止期細胞又は最終分化細胞の停止を指す(Kosarら、2011)。
用語「SASP」は、「老化関連分泌表現型」を意味し、細胞老化を受けている細胞により分泌されるタンパク質のセットと定義される。
【0069】
用語「細胞周期」は、有糸(細胞)分裂の間の細胞内の一連の事象を意味する。細胞周期は、便宜上以下の5つの期に分けられる:G0(ギャップ);G1(第一のギャップ);S(合成期、この期間にDNAが合成され複製される);G2(第二のギャップ);及び、M(有糸分裂)。
【0070】
本発明は、標的細胞又は真核細胞における少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルの改変をスクリーニングすることにより、該標的細胞、好ましくは真核細胞に対する、ウイルスベクター組成物の作用を評価又は測定する新規方法を提供する。本発明の方法は、ウイルスベクター組成物が、培養された細胞に対し影響を有するかどうかを確立することにより、ウイルスベクター組成物の品質を評価するために使用することができる。標的細胞又は真核細胞は、ウイルスベクター組成物を作製するためにトランスフェクションされた培養細胞、又はウイルスベクター組成物により形質導入された培養細胞であることができる。これらのバイオマーカーは、細胞核酸及び/又は細胞タンパク質、あるいはそれらの選択された断片であることができる。その目標は、ウイルスベクターにより運搬される導入遺伝子よりもむしろ、ウイルスベクター組成物それ自身が、培養細胞に影響を及ぼし、ここで該影響は、ウイルスベクター組成物の濃度及び純度により左右され得るかどうかを決定することである。実際現時点まで、標的細胞又は真核細胞の生存能及び/又は毒性に対するウイルスベクター組成物の作用を比較する方法を、当業者は欠いている。
【0071】
更にウイルスベクター組成物は、異なる濃度及び力価を有することができる。この組成物の力価は、培養細胞に適用される感染多重度(MOI)を決定するので、組成物の非常に重要なパラメータである。力価決定は、いくつかの要因、すなわち測定技術及びデータ処理に左右される。通常比較的高いMOIの使用が、高い形質導入レベルに到達するための筋道であるが、ある研究者らは、形質導入効率を改善するために、ベクターシュードタイピング又は形質導入プロトコールの最適化に焦点をあてている(Janssensら、2003)。しかし、そのようなバッチB−Sは細胞毒性を誘導するので(Selvaggiら、1997;Reiser, 2000;Baekelandtら、2003)、この型の生成物B−Sによる形質導入効率の結果は常に、形質導入レベルと得られる標的細胞に対する毒性の間で均衡している。更に公開された古典的技術により濃縮されたレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターの別の欠点は、形質導入された幹細胞、特に造血幹細胞に関して、形質導入後に下流の分化経路を進めることができないことである。従って本発明は、形質導入された細胞に対する、異なるMOIでの、ウイルスベクター組成物の作用を決定する方法を提供する。本発明は、所与のウイルスベクター組成物に対応するMOIの範囲を決定すること、及び同じく細胞の形質導入に使用されるプロトコールを最適化することを可能にする。特に本発明のバイオマーカーの使用は、細胞周期停止又は細胞老化時に、形質導入された細胞に対し有害な又は望ましくない作用を誘導せずに効率的に形質導入することができるような、好適な範囲のMOIを規定することを可能にする。
【0072】
ウイルスベクター組成物に対する形質導入された細胞の細胞反応の基礎となる機序を研究するために、形質導入された細胞において示差的に発現されるバイオマーカーの発見を基にしたモデルシステムが開発され、ここでバイオマーカー発現のパターンは、ウイルスベクター組成物(cDNAを欠くウイルスベクター)の品質と相関している。従って本発明は、その発現がウイルスベクター組成物との接触後に改変される、数多くのバイオマーカーの同定及びバリデーションを基にしている。本発明は、培養された真核細胞に対するウイルスベクター組成物の影響を測定するための信頼できるバイオマーカーを同定するために、異なるウイルスベクター組成物(濃度/純度のレベルが異なる)及び異なるMOI値により作製されたデータを基にしている。特に形質導入された細胞遺伝子の発現レベルの差異は、形質導入されない細胞遺伝子、対、cDNAを欠くウイルスベクターにより形質導入された細胞の発現レベルの間で比較される。バイオマーカーとして同定された一部の遺伝子は、形質導入されない細胞と比べた、ウイルスベクター組成物により形質導入された細胞における発現レベルの量のマイクロアレイ実験及び/又はRT−qPCR定量により、再試験される。これらのバリデーション実験に関して、ウイルスベクター組成物の力価決定に、特に注意が払われる。例えばウイルスベクター組成物は、異なる時点で3回力価決定される。
【0073】
本発明は、本発明のウイルスベクター組成物により形質導入された標的細胞、好ましくは真核細胞において上方制御又は下方制御される分子に対応するバイオマーカーのプロファイルに関与している。好ましい本発明の実施態様において、形質導入されない細胞と形質導入された細胞の間のバイオマーカー発現レベルの変化は、発現の1.3倍の増加又は発現の1.3倍の減少のいずれかである、発現におけるFCの最小絶対値1.3(倍数変化≧1.3)で確立される。このFC値は、ウイルスベクター組成物の品質及び形質導入の条件、特にMOIと相関している。バイオマーカーのプロファイルは、本発明に従い形質導入された細胞の生物学的に特異的状態を特徴付けるのに有用である。このプロファイルは、表2、表3、表4、表6、表7及び表8のバイオマーカーを含む。
【0074】
形質導入前細胞と形質導入後細胞の間の遺伝子発現レベルの比較は、過剰発現された遺伝子及び過小発現された遺伝子で構成された遺伝子発現署名を同定した。従って本発明は、ウイルスベクター組成物の品質を評価する方法を提供する。本発明の方法は、形質導入されない細胞におけるRNA転写物又はそれらの発現産物の発現レベルに対して、あるいはRNA転写物又はそれらの発現産物の参照セットに対して正規化された、形質導入された細胞における1種又は複数の予測RNA転写物又はそれらの発現産物の発現レベルの測定に頼っており、ここで予測RNA転写物は、表2、表3、表4、表6、表7、表8に列挙された遺伝子からなる群から選択される1種又は複数の遺伝子の転写物である。個々のバイオマーカーは、ウイルスベクター組成物の品質を評価するのに有用であるが、本明細書に提唱されるようなバイオマーカーの組合せは、バイオマーカー組成物の品質のより正確な決定を可能にする。
【0075】
試料中のバイオマーカーの発現レベルは、好適な「対照」又は「参照」試料との比較により決定されてよい。例えば、ウイルスベクターにより形質導入された細胞におけるマーカーの相対発現レベルは、ウイルスベクターにより形質導入されない細胞における同じマーカーの発現レベルを参照することにより決定されてよい。マーカーの発現レベルが、参照のそれよりもより大きいか又はより小さい場合は、マーカー発現は、各々、「増加」又は「減少」していると称すことができる。加えて対照又は参照と、本試料の間で発現レベルを一定に維持することは可能である。
【0076】
用語「有意な」変化(上方制御又は下方制御)は、意味があるとして当業者に解釈されるのに十分な程重要な発現レベルの変化である。特に発現レベルの変化は、形質導入された細胞の発現レベルが、誤差限界を考慮しても、形質導入されない細胞における発現レベルに相当しない場合に、有意である。好ましい本発明の実施態様において、形質導入されない細胞と形質導入された細胞の間のバイオマーカー発現レベルの有意な変化は、発現の1.3倍の増加又は発現の1.3倍の減少のいずれかである、発現のFC最小絶対値1.3(倍数変化≧1.3)で確立される。このFC最小絶対値1.3は、バイオチップによる最初の分析について考察された。バリデーション実験に関して、ベンジャミーニ−ホッホベルグ多重検定補正及び補正されたp−値<0.05で、独立したt−検定が行われた。倍数変化(FC)の絶対値≧1.5を伴うプローブは、上方制御又は下方制御されたプローブについて示差的に発現される場合に、保持された。
【0077】
そのような方法における分析のための試料は、任意の標的細胞、好ましくは真核細胞又は真核細胞抽出物であることができる。そのような真核細胞は、細胞株、培養細胞、初代細胞、幹細胞を含む。
【0078】
以下に詳述するように、細胞内のバイオマーカーの発現は、任意の好適な手段により評価することができる。例えば発現は、DNAマイクロアレイを用いて評価することができる。あるいは、RNA転写物は、リアルタイムPCRを用いて測定することができるか、又はRNAがコード遺伝子に対応する場合は、好適な抗体を用いタンパク質産物を検出することができる。これらの方法及び他の方法により遺伝子の発現レベルを決定する方法は、当該技術分野において公知である。
【0079】
簡潔に興味を引くために、本出願人は、本発明の方法における使用に適した遺伝子産物の可能な全ての組合せを明白に列挙するものではない。それにもかかわらず、あらゆるそのような組合せが企図され、且つ本発明の範囲内であることは理解されるべきである。対照細胞又は参照細胞、例えば形質導入されない細胞と、形質導入された細胞の間で示差的に発現されることがわかっている表2、表3、表4、表6、表7又は表8に列挙された遺伝子産物の任意の組合せが、分析に特に有用であり得ることは、明確に想起される。
【0080】
特定の実施態様において、本発明は、標的細胞への導入遺伝子伝達のためのウイルスベクター組成物の品質を評価する方法であって:
(a)ウイルスベクター組成物と接触していない標的細胞におけるCXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;
(b)該ウイルスベクター組成物と接触した後の標的細胞における少なくとも1種の該バイオマーカーの発現レベルを測定する方法;並びに、
(c)工程(b)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(a)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(a)に比べ(b)におけるバイオマーカー発現レベルの有意な上方制御は、ウイルスベクター組成物の品質が不充分であることの指標となる工程を含む方法を更に提供する。
【0081】
「導入遺伝子」により、関心対象の任意の核酸がより明確に意図される。導入遺伝子は、レポーター遺伝子(GFP、ルシフェラーゼ・・・)、任意の遺伝子又は遺伝子部分(複数可)の組合せ、又は関心対象の配列、例えばshRNA(短ヘアピンRNA)又はmiRNA(マイクロRNA)などであるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
用語「不充分な」品質とは、試験されるウイルスベクター組成物が、形質導入されない細胞と比べ、形質導入された細胞の一部の特徴を改変することを意味する。改変された特徴の例は、非形質導入細胞と比べた形質導入された細胞の増殖及び/又は生存能であるが、これらに限定されるものではない。特にウイルスベクター組成物が、特許出願WO2013/014537に記載された方法により得られるような、タンジェント流(tangential)限外濾過及びダイアフィルトレーションにより濃縮及び精製された、血清を使わずに作製されたウイルスベクター組成物などの、濃縮及び精製されたウイルスベクター組成物である場合には、これらの特徴は改変されない。
【0083】
より具体的には、該ウイルスベクター組成物の作製方法は:
−ウイルスベクターがベースとしたRNAウイルスゲノムにおける欠失を相補するように改変された産生細胞をトランスフェクションし、且つウイルスベクター粒子の生成を可能にするのに適した条件下で、産生細胞を培養する工程であって、ここで該トランスフェクション後の培養が、無血清培地において行われる工程;
−該ウイルスベクター粒子を含有する上清を収集する工程;並びに
−上清を、タンジェント流限外濾過及びダイアフィルトレーションにより精製する工程であって、この限外濾過が、好ましくはポリスルホン中空繊維カートリッジ上で操作される工程:を含む。
【0084】
特にこのウイルスベクター組成物作製方法は、酪酸ナトリウム誘導の工程を含まない。
好都合なことに、この上清収集は、特定の時間間隔で、3〜6回で構成される多工程により実行される。上清の収集に続けて、遠心分離により清澄化される。
本作製方法は、イオン交換クロマトグラフィー工程を更に含んでよい。
【0085】
この作製方法は、細胞無血清培地に存在する粗ウイルスベクター組成物と比べ、最初のタンパク質夾雑物を2%未満、及び最初のDNA夾雑物を10〜30%、好ましくは10%未満含有する精製されたウイルスベクター組成物を得ることを可能にする。
【0086】
特に、該ウイルスベクター組成物は、細胞生存能に影響を及ぼすことなく、標的細胞、特に真核細胞を形質導入することが可能であり、並びに/又は、細胞増殖、生存能、及び/又は幹細胞などの細胞の分化する能力若しくは初代細胞の多能性細胞へ初期化される能力に、ほとんど作用しないか若しくは作用を有さない。
【0087】
より特定すると、前述の作製方法により得られるウイルスベクター組成物において、物理的粒子数/形質導入単位(PP/TU)は、通常100:1〜900:1までの間で、好ましくは100:1〜600:1までの間で、より好ましくは100:1〜400:1までの間で構成される。
標的細胞への導入遺伝子伝達のためのウイルスベクター組成物の品質を評価する現存する方法において、高MOIでの有意な上方制御は、(a)と比較し2倍の上方制御が好ましい。
好都合なことに、少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルは、定量的逆転写PCR(RT−qPCR)により測定することができる。
【0088】
用語「高MOI」は、最適MOIよりも非常に高いMOIを意味する。高MOIは、レポーター遺伝子発現するレンチウイルスベクターなどの、レポーター遺伝子発現するウイルスベクターを使用し、幅のあるMOIにより決定される。レポーター遺伝子は、GFPなどの蛍光レポーター遺伝子又はルシフェラーゼなどの発光レポーター遺伝子であるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
好ましくは、高MOIは:
−非許容細胞に関して、最適MOIの少なくとも3倍、
−許容細胞に関して少なくとも4倍:に相当している。
例えば、包皮線維芽細胞などの線維芽細胞に関する高MOIは、少なくとも120、例えば150である。
【0090】
標的細胞への導入遺伝子伝達のためのウイルスベクター組成物の品質を評価する方法は:
(d)ウイルスベクター組成物と接触していない標的細胞におけるASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;
(e)該ウイルスベクター組成物と接触した後の標的細胞における少なくとも1種の該バイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、
(f)工程(e)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(d)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(d)に比べ(e)におけるバイオマーカー発現レベルの有意な下方制御は、ウイルスベクター組成物の品質が不充分であることの指標となる工程を、更に含むことができる。
【0091】
より特定すると、最適MOIでの有意な下方制御は、(d)と比較し1.5倍の下方制御である。
好都合なことに、少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルは、定量的逆転写PCR(RT−qPCR)により測定することができる。
【0092】
本発明の方法は:
(g)対照ウイルスベクター組成物と接触した後の標的細胞におけるCXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに
(h)工程(g)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(a)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(a)と比べ(g)においてバイオマーカー(複数可)の有意な示差的発現が、検出されるべきではない工程を更に含むことができる。
このバイオマーカー(複数可)の有意な示差的発現は、高MOIであっても検出されない。
【0093】
用語「対照ウイルスベクター組成物」は、高度に濃縮され且つ精製されたウイルスベクター組成物を意味する。これは、単独の又は連続するタンジェント流限外濾過ダイアフィルトレーションにより、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィーにより得ることができるが、これらに限定されるものではない。好ましい本発明の実施態様において、対照ウイルスベクター組成物は、特許出願WO2013/014537(例えば、このPCT出願の「バッチC」参照)及び/又は前述のものに説明された製造プロセスなどにより得られる。
【0094】
本発明の方法は:
(j)対照ウイルスベクター組成物と接触した後の標的細胞におけるASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、
(k)工程(j)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(d)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(d)に比べ(j)におけるバイオマーカー発現レベルの潜在的下方制御が、検出されるべきである工程を更に含むことができる。
【0095】
より特定すると、(d)に比べ(j)におけるバイオマーカー発現レベルの潜在的下方制御は、高MOIでの(d)に比べ(e)におけるバイオマーカー発現レベルの下方制御よりも少なくとも1.5倍低い。
【0096】
本発明の方法は、予めウイルスベクター組成物及び対照ウイルスベクター組成物の力価決定の工程を、更に含むことができる。
一般にウイルスの、及び特にレンチウイルスベースのベクターの力価は、力価決定に使用される方法及び細胞によって左右される。遺伝子組込み及び遺伝子発現への細胞の進入から形質導入経路の工程を達成することが可能であるベクター粒子の定量は、ベクターそれ自身及び細胞の特徴によって決まる。
【0097】
ベクター力価決定に使用される細胞に関して、全ての細胞型の許容度は同等ではないことが明らかにされているので、標的細胞は直ちに許容状態にあることを確保することは重要である。別の点は、形質導入効率は、任意の導入遺伝子及びベクターに関して信頼できる量で経時的に容易にモニタリングされなければならないことである。従って各力価決定実験において、標準GFP発現するレンチウイルスベクターは、前述の材料及び方法に従うベクターの連続希釈物による、HCT116形質導入後、FACS(形質導入単位の数値/ml(TU/ml)で表される)及びqPCR(組み込まれたゲノムの数/ml(IG/ml)で表される)の両方により、有効単位に関して定量される。両方の結果は、形質導入に有効な粒子の相対数をもたらすが、それらの各絶対値は、PCRそれ自身及び増幅に使用される標的配列に応じて決まり、同じ力価を生じない。これらのデータは、標準化された方法が存在しない機能的力価を基にこれらの異なるアプローチを正確に比較することは困難であり得ることを示している。従って現在の方法において対照ウイルスベクター組成物を含むことは、興味深い。従って該対照ウイルスベクター組成物は、好ましくは既知の力価及び規定の標的細胞型を伴う参照バッチである。
【0098】
並行して、総粒子の決定が、ゲノムRNAを含まないもの及び/又はエンベロープタンパク質を欠いているものであっても、P24 ELISAキットにより定量され、総ベクター粒子が概算される。両方の力価は、総粒子を反映している物理的粒子数PPと、実際の形質導入能をもたらす生物学的力価の間の比を決定するために有用である。この比は、ベクターの純度及び完全性の概算をもたらす。ベクターの完全性又は感染度を反映するために、別の比が使用され、これは1ngのP24当たりのIGの数(P24の1ngは107 PPに相当する)として表される。
【0099】
好都合なことに、本発明の方法は、細胞が集密に到達する前に、バイオマーカー発現レベルの測定を行う。
好ましくは、標的細胞は、真核細胞であり、且つレンチウイルスベクター組成物により形質導入される。
【0100】
本発明の実践において前述のバイオマーカーの(増加した、減少した)発現レベルを決定するために、当該技術分野において公知の任意の方法を利用することができる。一つの好ましい本発明の実施態様において、本明細書に記載のバイオマーカーに特異的な「プローブ」又は「プライマー」とハイブリダイズするRNAの検出をベースにした発現が使用される。「プローブ」又は「プライマー」は、相補配列(標的)を含む第二のDNA又はRNA分子に対する塩基対であることができる、規定された配列の1本鎖のDNA又はRNA分子である。得られるハイブリッド分子の安定性は、生じる塩基対形成の程度によって決まり、且つプローブと標的分子の間の相補性の程度、及びハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシー度などのパラメータにより影響される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー度は、温度、塩濃度、及びホルムアミドなどの有機分子の濃度などのパラメータにより影響され、且つ当業者に公知の方法により決定される。
【0101】
本明細書に記載の核酸のバイオマーカーに特異的なプローブ又はプライマー、又はそれらの一部は、プローブ又はプライマーが使用される目的及び条件に応じて決まり、少なくとも8ヌクレオチドから500を超えるヌクレオチドまでの任意の整数で、長さが変動してよい。本明細書に記載の核酸のバイオマーカーに特異的なプローブ又はプライマーは、本明細書に記載の核酸バイオマーカーに対し、20〜30%よりも大きい配列同一性、又は少なくとも55〜75%の配列同一性、又は少なくとも75〜85%の配列同一性、又は少なくとも85〜99%の配列同一性、又は100%の配列同一性を有することができる。プローブ又はプライマーは、例えば増幅により、ゲノムDNA又はcDNAから、又はクローニングされたDNAセグメントから誘導されることができ、且つ単独の個体由来の単独の遺伝子の全て又は一部を表しているゲノムDNA又はcDNA配列のいずれかを含むことができる。プローブ又はプライマーは、化学的に合成されてもよい。
【0102】
プローブ又はプライマーは、本明細書に記載のように高ストリンジェンシー条件下で、核酸バイオマーカーとハイブリダイズすることができる。本明細書において使用される「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、核酸の複合混合物中などにおいて、第一の核酸配列(例えばプローブ)が、第二の核酸配列(例えば標的)にハイブリダイズする条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、且つ異なる環境においては異なるであろう。ストリンジェントな条件は、約5〜10℃であるように選択されてよい。具体的な配列に関しては、規定されたイオン強度pHで、熱融解点(Tm)よりも低い。Tmとは、標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度、pH、及び核酸濃度の下で)であることができる(標的配列は過剰に存在するので、Tmで、平衡状態でプローブの50%は占拠される)。ストリンジェント条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、約1.0M未満のナトリウムイオン、例えば約0.01〜1.0Mナトリウムイオン濃度(又は他の塩)であり、並びに温度が、短いプローブ(例えば、約10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、及び長いプローブ(例えば、約50ヌクレオチド以上)については少なくとも約60℃である条件であることができる。ストリンジェント条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加により達成することもできる。選択的又は特異的ハイブリダイゼーションのために、陽性シグナルは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの少なくとも2〜10倍であることができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、以下を含む:50%ホルムアミド、5×SSC、及び1%SDS、42℃でインキュベーション、又は、5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーション、加えて0.2×SSC、及び0.1%SDS、65℃で洗浄。
【0103】
プローブ又はプライマーは、当業者に公知の方法により、放射性又は非放射性のいずれかにより、検出可能に標識することができる。「検出可能に標識」とは、例えばオリゴヌクレオチドプローブ又はプライマー、遺伝子若しくはそれらの断片、又はcDNA分子などの分子の存在を印付けし且つ同定するための任意の手段を意味する。分子を検出可能に標識する方法は、当該技術分野において周知であり、且つ放射性標識(例えば
32P又は
35Sなどの同位体による)、並びに非放射性標識、例えば酵素標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼを使用する)、化学発光標識、蛍光標識(例えば、フルオレセインを使用する)、生物発光標識、又はプローブに結合されたリガンドの抗体検出などを含むが、これらに限定されるものではない。同じくこの定義には、間接的手段により検出可能に標識される分子、例えば、後で観察又はアッセイすることができる第二の部分(フルオレセイン標識されたストレプトアビジンなど)に結合される、第一の部分(ビオチンなど)と結合される分子も含まれる。標識はまた、ジゴキシゲニン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンも含む。
【0104】
プローブ又はプライマーは、例えば核酸配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応(例えばRT−PCR)による核酸増幅、一本鎖高次構造多型(SSCP)解析、制限断片多型(RFLP)解析、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、インサイチュハイブリダイゼーション、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、及び当業者に公知の他の方法などの、核酸ハイブリダイゼーションが関与するバイオマーカー検出法において使用することができる。
好ましいバイオマーカー検出法は、定量的逆転写PCR(RT−qPCR)である。
【0105】
バイオマーカー発現を決定する核酸ベースのアッセイを使用する好ましい実施態様は、本明細書において同定された1種又は複数のバイオマーカー配列の、非限定的に、アレイとしての固形基板を含む固形支持体上への、又はビーズ若しくは当該技術分野において公知のビーズベース技術への、固定による。あるいは、当該技術分野において公知の溶液ベースの発現アッセイも使用することができる。固定された配列(複数可)は、本明細書に記載のようにポリヌクレオチドの形であってよく、その結果このポリヌクレオチドは、バイオマーカー配列(複数可)に対応するDNA又はRNAとハイブリダイズすることが可能であろう。
【0106】
固定されたポリヌクレオチド(複数可)を使用し、形質導入された細胞及び形質導入されない細胞の試料中のバイオマーカー発現署名を決定することができる。固定されたポリヌクレオチド(複数可)は、試料由来の対応する核酸分子に特異的にハイブリダイズするのに(及び、他の核酸分子への検出可能な又は有意なハイブリダイゼーションを排除するのに)十分であることのみ必要とされる。
【0107】
ただ1種の又は数種のバイオマーカーが分析される実施態様において、細胞から分離された試料由来の核酸は、好適なプライマーの使用により、優先的に増幅され、その結果分析されるべき遺伝子のみが、その細胞中で発現される他の遺伝子から夾雑するバックグラウンドシグナルを減少するように増幅される。あるいは、複数の遺伝子が分析されるか又は非常にわずかな細胞(若しくは1個の細胞)が使用される場合、試料由来の核酸は、固定されたポリヌクレオチドへのハイブリダイゼーションの前に、全体的に増幅されてよい。当然RNA、又はそれらのcDNA対応物は、当該技術分野において公知の方法により、増幅せずに、直接標識し使用することができる。
【0108】
バイオチップを、本発明の実践において使用することができる。
特に本発明は、CXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカー、並びにASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーからなり、そして場合により偏在性遺伝子を伴うバイオチップを提供する。
【0109】
このバイオチップは、本明細書に記載の結合されたプローブ又は多数のプローブを含む固形基板を備えることができる。これらのプローブは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、標的配列にハイブリダイズすることが可能であってよい。プローブは、基板上の空間的に規定された位置に結合されてよい。1つの標的配列につき2個以上のプローブを使用することができ、これは重複しているプローブ又は特定の標的配列の異なる部分に対するプローブのいずれかである。プローブは、最初に合成され、引き続きバイオチップへ結合されるか、又はバイオチップ上に直接合成されるかのいずれかであってよい。
【0110】
固形基板は、プローブの結合又は会合に適した離れた個別の部位を含むように修飾されることができ且つ少なくとも1種の検出方法に適している物質であってよい。基板の代表例は、ガラス及び修飾されたか若しくは機能化されたガラス、プラスチック(アクリル系、ポリスチレン及びスチレンと他の物質のコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、テフロンJなどを含む)、多糖、ナイロン又はニトロセルロース、樹脂、シリカ又はケイ素及び修飾されたケイ素を含むシリカベースの物質、炭素、金属、無機ガラス及び無機プラスチックを含む。これらの基板は、感知できるように蛍光を発しなくとも、光学的に検出することができる。
【0111】
バイオマーカー発現はまた、タンパク質のレベルの存在、増加、又は減少の検出を基に測定することができるか、又は活性も使用することができる。抗体ベースの検出方法は、当該技術分野において周知であり、且つ非限定的例として、サンドイッチアッセイ及びELISAアッセイに加え、ウェスタンブロット及びフローサイトメーターベースのアッセイを含む。そのような検出方法において使用するための抗体は、表2、表3、表4、表6、表7及び表8のバイオマーカーに特異的に結合するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む。
【0112】
好ましくは、そのような検出方法において使用するための抗体は、CXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカー、並びに/又はASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーに特異的に結合するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む。
【0113】
そのような抗体に加え、それらの断片(非限定的にFab断片を含む)は、検出可能なシグナルを生じる他のポリペプチドの排除のために、そのようなポリペプチドに特異的に結合するそれらの能力により、細胞中のそのようなバイオマーカーを検出するように機能する。同じ能力を有する組換え抗体、合成抗体、及びハイブリッド抗体も、本発明の実践において使用することができる。
【0114】
好ましい実施態様において、バイオマーカー発現はまた、RT−qPCRにより測定することもできる。本発明はまた更に、CXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーのプライマー、並びにASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーのプライマーを備えるRT−qPCRプレートを提供する。
EREG
(配列番号2)及びCXCL2
(配列番号1)のためのRT−qPCRプレートにおいて使用することができるプライマーの例は、表10に示している。
【0115】
本発明は、ウイルスベクター組成物の品質を評価するために使用することができる標的細胞バイオマーカーの同定及びバリデーションを基にしている。好ましい実施態様において、バイオマーカーは、表2、表3、表4、表6、表7、表8に列挙されたそれらの遺伝子から選択される。以下に詳述するように、3種のバイオマーカーファミリーが同定された:(i)老化に関連したバイオマーカー、(ii)細胞周期に関連したバイオマーカー、及び(iii)ウイルスベクター組成物の品質に関連することがわかった他のバイオマーカー。
【0116】
これらのバイオマーカーを同定するために、遺伝子発現を、下記のように得られた異なるウイルスベクター組成物を用いて決定した。産生細胞は、当業者に周知の標準技術に従い、
図1Cに説明されたようなプラスミド構築体によりトリトランスフェクションした。そのような技術は、例えば、リン酸カルシウム技術、DEAEデキストラン技術、電気穿孔法、浸透圧ショックを基にした方法、微量注入法又はリポソームの使用を基にした方法を含む。本発明の具体的実施態様において、これらの細胞は、カルシウム沈澱法を用いてトランスフェクションされ得る。そのような方法は、293T細胞が選択された産生細胞である場合に好ましいが、同等の細胞を使用することもできる。
【0117】
トランスフェクション後、これらの細胞は、バッチA、B、C及びDの作製のために、無血清培地においてインキュベーションされる(
図1B)。バッチB−Sは、10%血清と共に作製される(
図1A)。細胞は、ウイルス粒子の効率的生成を可能にするのに十分な時間インキュベーションされる。トランスフェクション後のインキュベーション時間は、例えば、使用されるウイルスベクターの種類及び選択された産生細胞株を含む要因の組合せによって決まる。本発明の具体的実施態様において、インキュベーション後複数の収穫を行うことができる。例えば、4以上のベクター収穫を行うことができる。最も生産的なインキュベーション条件を決定するために、小型バッチ実験を行い、ウイルス粒子の最高の力価及び最も純粋なバッチを生じる最適化された条件が決定される。
【0118】
ウイルスベクター粒子を含有する最初の培養上清は、本明細書においてバッチAと称される。バッチBは、清澄化後の収穫物に対し、遠心分離既製ユニット(ready-to-use unit)を使用する、限外濾過による濃縮工程などの、通常使用される先行技術の濃縮方法(
図1A)により得られる。ウイルスベクター組成物を得る方法は、ウイルスベクター粒子の更なる精製のための、バッチA生成物のタンジェント流限外濾過ダイアフィルトレーション工程を更に含んでよい。そのような限外濾過ダイアフィルトレーション工程は、そこで静水圧が半透膜に対し液体を強制的に通す膜濾過型である。膜カットオフ値よりも高い分子量の懸濁された固形物及び溶質は保持されるが、水及び膜カットオフ値よりも低い分子量の溶質は、膜を通過する。限外濾過技術は、ポリスルホン中空繊維カートリッジを使用する、タンジェント流フロー限外濾過により実行される。そのような技術は、ベクターの完全性及び生存能を維持することを確証するために、圧力のモニタリング及び適合を可能にする。そのような工程は、ベクター粒子の濃縮を供し、更には収集されたバッチからの宿主細胞のタンパク質及び核酸などの最初の夾雑物を除去するための精製工程として働く。そのようなバッチは、バッチCと称される。
【0119】
更に別の本発明の実施態様において、タンジェント流限外濾過及び/又はダイアフィルトレーション工程後に、ウイルスベクター組成物を得る方法は、ウイルスベクター粒子を更に濃縮及び精製するために実行されるイオン交換クロマトグラフィー工程を更に含むことができる。そのようなバッチは、本明細書においてバッチDと称される。
【0120】
バイオマーカーは、例えば、バッチB(プロセスBにより得られた)、バッチC(プロセスCにより得られた)、バッチB−S(血清を用いプロセスBにより得られた)、バッチUC若しくはUC−S(血清の存在下得られ且つ超遠心分離により濃縮された)により形質導入された又は形質導入されない(NT)ヒト包皮線維芽細胞などの、細胞の核酸を標的化するマイクロアレイ実験を分析することにより、同定される。
【0121】
本発明の具体的実施態様において、細胞老化に関与した遺伝子は、ウイルスベクター組成物の品質を決定するのに有用なバイオマーカーとして同定される。老化は、静止状態とは異なり、成長因子に反応しない、細胞周期停止の恒久的状態である(Youngら)。培養された線維芽細胞の複製消耗に関して当初説明されたように、老化は、多量の細胞ストレス時に時期尚早に起こり得ることが示された。細胞老化は、過剰な細胞外又は細胞内ストレスに対する反応として、培養物中及びインビボにおいて起こる。DNA損傷反応の誘導及びINK4a/ARF遺伝子座のクロマチンリモデリングは、老化誘導の背後にある2つの機序である。Liら(2009)は、初期化時の細胞培養条件は、Ink4/Arf遺伝子座の発現を増強することを明らかにし、更に増殖及び効果的初期化を可能にするための、この遺伝子座のサイレンシングの重要性を強調した。Oct4、Sox2、Klf4、及びc−Mycなどの因子の組合せを過剰発現するための高度に精製されたベクター懸濁液を使用することによる老化の制限は、iPS細胞作製効率に対し突出した陽性作用を有し、初期化のキネティックス及び出現するiPS細胞コロニーの数の両方を増大することができる。
【0122】
本発明は、標的細胞に対するウイルスベクター組成物の影響を評価するための、老化表現型に関与した遺伝子の使用を開示している。本発明の好ましい実施態様において、細胞老化表現型に関与したバイオマーカーは、表5又は表6に列挙している。
【0123】
老化表現型は、細胞増殖の停止に限定されない。老化細胞は、代謝活性があり且つタンパク質発現及び分泌において広範な変化を受けている、潜在的に持続性の細胞であり、最終的には老化関連分泌表現型又はSASPを顕在化する(Coppeら、2010)。SASPは、可溶性因子及び不溶性因子のいくつかのファミリーを含む。SASP因子は、可溶性シグナル伝達因子(インターロイキン、ケモカイン、及び増殖因子)、分泌型プロテアーゼ、及び分泌された不溶性タンパク質/細胞外マトリクス成分であることができる(Coppeら、2010)。老化細胞は、組織の微小環境における変化を誘導することができる変更された分泌活性を顕在化し、細胞挙動に対するその制御を緩和し且つ腫瘍形成を促進する(Coppeら、2010)。細胞培養において、細胞周期停止は、典型的には老化に繋がり、その理由はこの細胞は、血清、栄養素、癌遺伝子などにより過剰刺激されるからである(Blagosklonny, 2011)。本発明は、ウイルスベクター組成物と接触した標的細胞に対するそのような組成物の影響を評価するための、SASPに関与した遺伝子の使用を開示している。好ましい本発明の実施態様において、SASPに関連したバイオマーカーは、表7に列挙されたものを含む。
【0124】
本発明の具体的実施態様において、細胞周期に関与した遺伝子は、ウイルスベクター組成物の品質を決定するのに有用なバイオマーカーとして同定されている。細胞分裂は、主にDNA複製及び複製された染色体の2個の個別の細胞への分配により特徴付けられる、2つの連続するプロセスからなる。最初細胞分裂は、2つの段階に分けられる:有糸分裂(M)期、すなわち核分裂のプロセス;及び、2つのM期の間の間期。有糸分裂の段階は、前期、中期、後期及び終期を含む。顕微鏡下で、間期細胞は、サイズは単純に成長するが、異なる技術は、間期が、G1期、S期及びG2期を含むことを明らかにした。DNA複製は、S期と称される間期の特定の部分で起こる。S期には、その間に細胞がDNA合成の準備をするG1と称されるギャップが先行し、またS期には、その間に細胞が有糸分裂の準備をするG2と称されるギャップが続く。G1、S、G2及びM期は、標準の細胞周期の従来の分け方である。G1の細胞は、DNA複製にコミットメントされる前に、G0と称される休息状態に侵入する。G0にある細胞は、ヒト体内における成長も増殖もしない細胞の大半を説明する。本発明は、ウイルスベクター組成物と接触した標的細胞に対するそのような組成物の影響を評価するための、細胞周期に関与した遺伝子の使用を開示している。好ましい本発明の実施態様において、細胞周期に関連したバイオマーカーは、表2、表3、表4に列挙されたものを含む。より好ましい本発明の実施態様において、修飾のスクリーニングは、表4に列挙された細胞周期に関連したバイオマーカーの少なくとも1種の発現レベルについて認められる。
【0125】
本発明は更に、標的細胞における発現レベルが、使用されるウイルスベクター組成物の品質、すなわち濃縮及び精製に応じて調節されるバイオマーカークラスを開示している。異なる品質を有し且つ異なるプロセスにより得られたウイルスベクター組成物の影響が、新規バイオマーカークラスを選択するために調べられた。これらのウイルスベクター組成物は、
図1A及び1Bに説明されたプロセスにより得られた。好ましい本発明の実施態様において、表8に列挙された遺伝子の使用は、ウイルスベクター組成物と接触した標的細胞に対するそのような組成物の影響を評価するために使用することができる。
【0126】
本発明はまた、形質導入された細胞の試料中のバイオマーカー発現のレベルを測定するキットを提供する。これらのキットは、本明細書に記載のバイオマーカーに対応する1種又は複数の試薬、例えばバイオマーカーに特異的に結合する抗体、バイオマーカー特異的抗体に結合する組換えタンパク質、バイオマーカーとハイブリダイズする核酸プローブ又はプライマーなどを備えることができる。一部の実施態様において、これらのキットは、例えばアレイ上に、本明細書に記載のバイオマーカーに対応する複数の試薬を備えることができる。これらのキットは、検出試薬、例えば検出可能に標識される試薬を備えることができる。これらのキットは、ウイルスベクター組成物の品質を予測する際に、キットの使用に関する文書による指示書を備えることができ、並びに対照又は参照標準、洗浄液、解析ソフトウェアなどの他の試薬及び情報を備えることができる。
【0127】
本発明は、ウイルスベクター組成物により形質導入された真核細胞における核又は細胞反応をスクリーニング又は検出する方法であって、(i)ウイルスベクター組成物と接触していない真核細胞における1種又は複数のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;(ii)該ウイルスベクター組成物と接触した後の真核細胞における1種又は複数のバイオマーカーの発現レベルを測定する工程;並びに、(iii)工程(ii)における該バイオマーカー(複数可)発現を、工程(i)におけるバイオマーカー(複数可)発現と比較する工程であって、ここで(i)と(ii)の間のバイオマーカー発現レベルの変化は、細胞反応を示し、且つここで該細胞反応は、ウイルスベクター組成物の品質と相関している工程を含む方法を、開示している。好ましい本発明の実施態様において、発現された1種又は複数のバイオマーカーは、ウイルスベクター組成物と接触された真核細胞内で発現された核酸である。
【0128】
別の本発明の実施態様において、発現された1種又は複数のバイオマーカーは、ウイルスベクター組成物と接触された真核細胞内で発現されたポリペプチドである。
本発明の具体的実施態様において、バイオマーカーは、老化の生物学的プロセスに関与した遺伝子である。好ましくは、老化に関与したバイオマーカーは、SASPファミリーの遺伝子である。より好ましくは、バイオマーカーは、表7から選択される。
【0129】
本発明の具体的実施態様において、バイオマーカーは、細胞周期ファミリーの遺伝子である。特に、バイオマーカーは、表2、表3、表4から選択された遺伝子である。より特定すると、バイオマーカーは、表8に列挙された遺伝子から選択される。
本発明の別の実施態様において、バイオマーカーは、表2、表3、表4、表7及び/又は表8から選択される。
【0130】
本発明の一実施態様において、ウイルスベクター組成物は、真核細胞へ形質導入される。本発明の別の実施態様において、真核細胞は、レンチウイルスベクター組成物により形質導入される。本発明の具体的実施態様において、真核細胞は、不死化細胞、初代細胞又は幹細胞である。
【0131】
本発明は、請求項1に記載の真核細胞に対するウイルスベクター組成物の作用を測定又は検出する方法であって:
(i)該細胞を、関心対象のウイルス組成物と接触させる工程;
(ii)該培養された細胞におけるバイオマーカー発現のレベルを測定する工程;並びに
(iii)任意に該細胞における核の改変又は細胞質発現に特異的なバイオマーカーを特徴付ける工程:を含む方法を、開示している。
【0132】
本発明は、ウイルスベクター組成物の形質導入に関連したバイオマーカーの発現を測定するキットであって、表2、3、4、5、6、7又は8のバイオマーカーの認識に対応する1種又は複数の試薬を備えているキットを、開示している。好ましくは、この試薬は、表2、3、4、5、6、7又は8のバイオマーカーをコードしている核酸の認識に対応している。より好ましくは、この試薬は、表2、3、4、5、6、7又は8のポリペプチドの認識に対応している。
【0133】
好ましい実施態様において、キットは、CXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定することができる1種又は複数の試薬を備える。
好都合なことに、該キットは、ASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)及びTTK
(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの発現レベルを測定することができる1又は複数の試薬を更に備える。
好ましくは、該キットは、対照ウイルスベクター組成物を更に備えることもできる。
【0134】
本発明は、表2、表3、表4、表5、表6、表7、表8に存在する遺伝子又はポリペプチドの中から選択された生成物の少なくとも1種を含む、真核細胞に対するウイルスベクター組成物の作用の測定又は検出に有用なバイオマーカー組成物を開示している。好ましくは、このバイオマーカー組成物は、表3、表4、表7、表8に存在する遺伝子又はポリペプチドの中から選択された生成物の少なくとも1種を含む。
図面及び表を参照し、下記実施例が示される。
【0135】
【表1】
表1。RT−qPCRバリデーションに使用したプライマー。試験した遺伝子及びGAPDH参照遺伝子(それらの各遺伝子記号により表した)の各々に関して、フォワードプライマー及びリバースプライマーの配列を示している。
【0136】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
【表2-13】
【表2-14】
【表2-15】
【表2-16】
【表2-17】
【表2-18】
【表2-19】
【表2-20】
【表2-21】
【0137】
表2。非形質導入細胞と比べ、MOI150でcDNAを欠くrLV−EF1バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞において下方制御された細胞周期遺伝子。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBI(米国国立バイオテクノロジーセンター)からの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)遺伝子オントロジー(GO)「有糸分裂細胞周期のM期」カテゴリー、(6)GO「G1期」カテゴリー、(7)GO「G2期」カテゴリー、(8)GO「S期」カテゴリー、(9)GO「有糸分裂細胞周期のG1/S転移」カテゴリー、(10)GO「有糸分裂細胞周期のG2/M転移」カテゴリー、(11)GO「有糸分裂細胞周期のM/G1転移」カテゴリー。遺伝子は、非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞における倍数変化を増加する値により、選別される。
【0139】
表3。「細胞周期」遺伝子オントロジーカテゴリーにおいて注記された遺伝子であり、且つ非形質導入細胞と比べ、MOI150でrLV−EF1バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞において上方制御された遺伝子。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBIからの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)NCBIデータベースRefSeq Proteinからのタンパク質配列寄託番号。遺伝子は、倍数変化を減少する値により、選別される。
【0141】
表4。「細胞周期」遺伝子オントロジーカテゴリーにおいて注記された遺伝子であり、且つ非形質導入細胞と比べ、MOI40及び150でrLV−EF1バッチBにより形質導入された細胞において下方制御された遺伝子、及びMOI40ではなくMOI150でrLV−EF1バッチCにより形質導入された細胞において下方制御された遺伝子。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBIからの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)NCBIデータベースRefSeq Proteinからのタンパク質配列寄託番号。
【0142】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0143】
表5。公衆にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP615と称される「老化及び自己貪食」経路の一部であるか、又は老化関連分泌表現型(SASP)として特徴付けられるとして文献から抽出されるかのいずれかである、細胞老化に関連した遺伝子のリスト。(1)HUGO遺伝子記号、(2)SASPの一部の遺伝子、(3)「老化及び自己貪食」Wikipathwayに含まれる遺伝子、(4)Coppeらの文献(2010)からSASPに関連するとして抽出された遺伝子、(5)Youngらの文献(2009)からSASPに関連するとして抽出された遺伝子。[本発明者らが、使用した遺伝子の最新のリストの給源として単にWikipathwayを引用する場合、本発明者らの遺伝子を表中に列挙する。本発明者らは、今後の検索に関しては、Wikipathwayにのみ頼ることはできない。本明細書に引用するものはいずれも、出願日時点で恒久的なものである。]。
【0145】
表6。非形質導入細胞と比べ、MOI150でrLV−EF1バッチB−Sにより形質導入された細胞において示差的に発現されるが、非形質導入細胞と比べ、MOI150でrLV−EF1バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞において示差的に発現されない遺伝子である、細胞老化関連遺伝子(公にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP615と称されるヒト「老化及び自己貪食経路」の一部であるか、又は文献から抽出されたSASP遺伝子リストの一部のいずれかである(表5))。「示差的でない」とは、FC絶対値が<1.3であることを意味する。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBIからの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)NCBIデータベースRefSeq Proteinからのタンパク質配列寄託番号。
【0147】
表7。10種の細胞老化関連バイオマーカー。これらの遺伝子は、非形質導入細胞と比べ、MOI40でrLV−EF1バッチB−Sにより形質導入された細胞において示差的に発現されるが、MOI40でrLV−EF1バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞において示差的に発現されない遺伝子であるとして、表6から選択された。「示差的でない」とは、FC絶対値が<1.3であることを意味する。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBIからの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)NCBIデータベースRefSeq Proteinからのタンパク質配列寄託番号、(6)から(11)形質導入されない対照条件と比べ、各形質導入された条件における倍数変化値。ND:統計学的に示差的でない。FC B−S対NT MOI150:非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチB−Sにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B対NT MOI150:非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC C対NT MOI150:非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチCにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40でバッチBにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC C対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40でバッチCにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B−S対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40 でバッチB−Sにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。
【0149】
表8。高品質ベクターにより影響を受けない遺伝子の選択。(1)HUGO遺伝子記号、(2)NCBIからの遺伝子説明、(3)Agilentプローブ識別子、(4)NCBIデータベースRefSeq RNAからの核酸配列寄託番号、(5)NCBIデータベースRefSeq Proteinからのタンパク質配列寄託番号、(6)から(11)形質導入されない対照条件と比べ、各形質導入された条件における倍数変化値。ND:統計学的に示差的でないことを意味する。FC B−S対NT MOI150:非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチB−Sにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B対NT MOI150:非形質導入細胞に対する、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC C対NT MOI150:M非形質導入細胞に対する、OI150でバッチCにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40でバッチBにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC C対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40でバッチCにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。FC B−S対NT MOI40:非形質導入細胞に対する、MOI40 でバッチB−Sにより形質導入された細胞の間で得られた倍数変化。
【0151】
表9。rLV−EF1−GFP MOI40によるバイオマーカーとしての表4の細胞周期遺伝子のバリデーション。
【0153】
表10。バリデーション実験に使用したプライマーの配列。
【実施例】
【0154】
下記の実施例は、本発明のより良い理解を助けるために提供されるが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0155】
材料及び方法
プラスミド構築。3種のプラスミドを使用し、組換えビリオン又は組換えレトロウイルスを作製した。第一のプラスミドは、ウイルスのgag遺伝子及びpol遺伝子をコードしている核酸を提供する(
図2A)。これらの配列は、先に考察したように、各々、グループ特異的抗原及び逆転写酵素(並びに成熟及び逆転写に必要な酵素インテグラーゼ及びプロテアーゼ)をコードしている。第二のプラスミドは、VSV−G(水疱性口内炎ウイルスG)などの、ウイルスエンベロープ(env)をコードしている核酸を提供する(
図2B)。第三のプラスミドは、ウイルスの生活環に必要なシス−作用性ウイルス配列を提供する(
図2C)。この第三のプラスミドはまた、標的細胞へ形質導入されるべき異種核酸配列のクローニング部位も含む。導入遺伝子としてのGFPを伴う、好適なベクターの概略図は
図2Cに示すが、これは、cDNA、shRNA又はmiRNAなどの関心対象の遺伝子又は配列により置き換えることができる。
【0156】
ウイルスベクター作製プロセス。細胞株及び培養条件。ウイルスベクターを、ヒト胎児腎(HEK293T)細胞株を用いて作製した。ヒト結腸癌腫(HCT116;ATCC番号CCL−247)接着細胞株を、感染粒子の定量に使用した。全ての細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)により提供され、且つ10%FCS;1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%ウルトラグルタミン(PAA社)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco社、パイスレイ、英国)において、空気中5%CO
2の加湿大気下で、37℃で培養した。ウイルスベクター上清の作製のためには、DMEMに、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%ウルトラグルタミン(PAA社)のみを補充した。
【0157】
ウイルスベクター作製。ウイルスベクター作製は、10層CellSTACK(6320cm
2、Corning社)において行った。HEK293T細胞を、10%FCS;1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%ウルトラグルタミン(PAA社)を補充したDMEM中に、9.5×10
3個生存細胞/cm
2で播種し、空気中5%CO
2の加湿大気内で、37℃で配置した。播種の4日後、上清を廃棄し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%ウルトラグルタミン(PAA社)を補充したFCSを含まない新鮮なDMEMと交換し、その後細胞をトランスフェクションした。
【0158】
トリトランスフェクション混合物を、下記の3種のプラスミドにより構成した:pENV、pGagPol(各々、寄託番号CNCM I−4487及びCNCM I−4488で、CNCMコレクションに寄託された細菌宿主に含まれたウイルスDNA構築体)、及びpLV−EF1(寄託番号CNCM I−4489でCNCMコレクションに寄託された細菌宿主に含まれたものから誘導されたウイルスDNA構築体)。この最終濃度は、滅菌水を用い、40mg/mlに調節した。その後CaCl
2(2.5M)を、柔軟なチェッキング(soft checking)下で、最終濃度500mMに達するまで、プラスミド−水混合物中に滴下した。次に得られた混合物を、等容量のHepes緩衝塩類溶液(HBS 2×)へ滴下し、室温で20分間インキュベーションした。インキュベーション後、このトランスフェクション混合物を、細胞培養培地へ添加し、空気中5%CO
2の加湿大気内で、37℃で24時間インキュベーションした。
【0159】
トランスフェクションの24時間後、上清を廃棄し、新鮮な補充しないDMEMと交換し、細胞を空気中5%CO
2の加湿大気内で37℃でインキュベーションした。培地交換後、上清を数回収集した(トランスフェクション後32時間、48時間、56時間及び72時間)。若干量の新鮮且つ非補充培地を添加し、細胞を空気中5%CO
2の加湿大気中で37℃でインキュベーションし、その後更に収穫した。
【0160】
各収穫物を、3000gで、5分間の遠心分離により清澄化し、その後細孔サイズ0.45μmの滅菌フィルターユニット(Stericup、Millipore社)を通して精密濾過した。その後収穫物の全てのセットをプールし、バッチA(粗ウイルスベクター組成物)を得るための粗収穫物に供した。
【0161】
ウイルスベクター濃縮及び精製。本発明のバイオマーカーを同定するために使用されるウイルスベクター組成物は、その全体が引用により本明細書中に組み込まれているPCT出願WO2013/014537に説明されたように、中央ユニットでの超遠心分離若しくは遠心分離のいずれかを基にした標準及び常用の濃縮プロセス(バッチBの入手に対応する)、又は無血清作製プロセス(バッチAの入手に対応する)に関連した濃縮及び/若しくは精製プロセス(C及びD)により得られる。別のバッチUC(又はUC−S)は、血清の存在下で得られ、バリデーション実験のために作製し、且つ超遠心分離により濃縮した。異なるバッチは、未精製から限外濾過及びクロマトグラフィーを基にした数回の精製工程まで及ぶ、異なる精製戦略に対応した。粗収穫物の濃縮及び精製は、最初にポリスルホン中空繊維カートリッジを使用するタンジェント流限外濾過により行った。その後上清を、DMEM又はTSSM緩衝液に対する連続モードのダイアフィルトレーションにおいて、20倍ダイア容積で、ダイアフィルトレーションした。一旦ダイアフィルトレーションを行ったならば、残余分を回収し、使い捨て限外濾過ユニットにおいて更に濃縮した。次に中空繊維濾過(HFF)の残余分を、最終濃度(72U/ml)のベンゾナーゼ(Benzonase)(250U/μl))、及び最終濃度1μMのMgCl
2(1.0mM)の添加により、ベンゾナーゼ処理し、その後37℃で20分間インキュベーションした。
【0162】
HFF後の物質を、AKTA精製システム(GE Healthcare社)を使用し、Sartobind Q75(Sartorius社)使い捨て膜上での、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)により、更に精製することができる。このイオン交換膜は、5倍カラム容量の非補充DMEM(又はTSSM)により、2ml/分で、平衡化される。その後ウイルス上清を、サンプリングループを使用し、2ml/分でこの膜上に装加した。フロースルーを収集した。下記のフロー段階勾配を、AKTAシステムに適用することができる:0M、0.5M、1.2M及び2M NaCl。溶出ピック(1.2M NaCl段階勾配で収集)を、直ちに、下記の緩衝液中に、10×希釈し:20mMトリス+1.0%w/vショ糖+1.0%w/vマンニトール、pH7.3、且つ限外濾過使い捨てユニット上で更に濃縮した。
【0163】
ウイルスベクター組成物。ウイルスベクター組成物を、その全体が引用により本明細書中に組み込まれているPCT出願WO2013/014537に記載された方法により入手した。得られる組成物は:
−バッチAの中央ユニットでの遠心分離後に得られたバッチB;
−バッチAのタンジェント流限外濾過ダイアフィルトレーション後に得られたバッチC;
−10%ウシ胎仔血清(BIOWEST社)存在下で作製されたバッチAのタンジェント流限外濾過ダイアフィルトレーション後に得られたバッチC−S。このバッチは
図13のためのみに使用した;
−血清を使わずにバッチBと同じプロセスにより、10%ウシ胎仔血清(BIOWEST社)の存在下で得られたバッチB−S;
−10%ウシ胎仔血清(BIOWEST社)の存在下得られ、超遠心分離により濃縮されたバッチUC又はUC−S。
これらのバッチを得るために使用したプロセスは、
図1A及び1Bに説明している。
【0164】
qPCRを使用する機能的粒子の定量。形質導入単位力価決定アッセイを、下記のように行った。HCT116細胞を、96−ウェルプレートに、1ウェル当たり細胞12500個、並びに10%FCS;1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%ウルトラグルタミンを補充したDMEM(完全培地)250μLに播種した。24時間後、各ベクター試料に関して及び内部標準としての既知のrLV−EF1−GFP(寄託番号CNCM I−4489で、CNCMコレクションに寄託された細菌宿主に含まれたウイルスDNA構築体)に関して、完全培地により5回連続希釈した。これらの細胞を、ポリブレン(登録商標)(Sigma社)8μg/mLの存在下での、これらの連続希釈により、形質導入した。各試料シリーズに関して、非形質導入細胞の1個のウェルを、対照として加えた。形質導入後3日目に、細胞を、トリプシン処理し、各細胞ペレットを、PBS 250μL中により溶かし、ゲノムDNAを抽出し、qPCRに供した。結果を、細胞浮遊液100μLを用い、予めFACSにより力価決定した既知のrLV−EF1−GFP内部標準に対して正規化した。力価は、陽性細胞の割合を考慮し、標準条件を用い、その力価がFACS(Canto II)により予め決定されている内部標準を使用し、形質導入単位/ml(TU/mL)で表される。
【0165】
p24 ELISAアッセイによる物理的粒子の定量。p24コア抗原を、Perkin Elmer社から提供されるHIV−1 p24 ELISAキットにより、ウイルス上清について直接検出した。このキットは、供給業者により特定されたように使用した。捕獲された抗原は、HIV−1 p24に対するビオチニル化ポリクローナル抗体と複合させ、引き続きストレプトアビジン−HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)複合体と複合させた。得られた複合体を、捕獲されたp24の量と正比例して黄色を呈するオルト−フェニレンジアミン−HCl(OPD)とのインキュベーションにより検出した。各マイクロプレートウェルの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定し、HIV−1 p24抗原標準曲線の吸光度に対して較正した。p24 1pgは、10
4個の物理的粒子に相当することが分かっているので、1ml当たりの物理的粒子により表されたウイルス力価を、p24量から算出した。
【0166】
マイクロアレイ分析のためのエンプティカセットベクターの作製。cDNAを欠くレンチウイルスベクター(rLV−EF1)を、マイクロアレイ試験のために異なる純度で作製した。rLV−EF1ベクターのバッチB及びバッチCを、同じ粗収穫物から精製した。血清を含むBバッチを作製するために、追加の作製を10%ウシ胎仔血清(BIOWEST社)の存在下で行い、これを以後B−Sバッチと称する。
【0167】
GFP発現しているレンチウイルスベクターの作製。GFP発現しているレンチウイルスベクターの独立したバッチB、C、B−Sを、作製した。
低品質の濃縮されたベクターの別の型を提供するために、超遠心分離法を使用し、10%血清の存在下で作製されたベクターを濃縮した(バッチUC又はUC−S)。
【0168】
包皮細胞の培養。ヒト包皮線維芽細胞を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(番号CRL−2097)から入手し、且つ10%ウシ胎仔血清(BIOWEST社)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PAA社)及び2mMグルタミン(PAA社)を補充したEMEM(アール最小必須培地、GIBCO社)において培養した。細胞を、5%CO
2の存在下37℃で維持し、且つ5000個細胞/cm
2で、週2回継代した。
【0169】
トランスクリプトミクス解析のための包皮細胞の形質導入。ヒト包皮線維芽細胞を、形質導入の24時間前に、T25−フラスコ中に5000個細胞/cm
2で播種した。細胞を、最終容量5mL中、ポリブレン(登録商標)(Sigma社)4μg/mLの存在下で、rLV−EF1ベクターのバッチB、C及びB−Sを使用し、MOI40及び150で、4つ組で形質導入した。非形質導入対照は、ポリブレン(登録商標)4μg/mLのみを受け取った。およそ16時間後、形質導入上清を除去した。細胞を、形質導入後54時間でトリプシン処理し、1×PBSで洗浄し、遠心分離し、ペレットを−80℃で保存した。形質導入後48時間に写真撮影した。
【0170】
ヒト包皮線維芽細胞を、ヒト包皮線維芽細胞を、形質導入の24時間前に、6ウェル−マルチプレート中に5000個細胞/cm
2で播種した。細胞を、最終容量5mL中、ポリブレン(登録商標)(Sigma社)4μg/mLの存在下で、rLV−EF1−GFPベクターのバッチB、C、B−S及びUC(又はUC−S)を使用し、MOI40及び150で、4つ組で形質導入した。非形質導入対照は、ポリブレン(登録商標)4μg/mLのみを受け取った。およそ16時間後、形質導入上清を除去した。細胞を、形質導入後54時間でトリプシン処理し、1×PBSで洗浄し、遠心分離し、ペレットを−80℃で保存した。形質導入後48時間に写真撮影した。
【0171】
RNA抽出。総RNA試料を、TRIZol(登録商標)プラスRNA精製システム(Life Technologies社)を製造業者の指示に従い使用し、細胞ペレットから抽出した。総RNA濃度及び純度は、Nanodrop 1000分光光度計(Nanodrop Technologies社)を用いて決定した。RNA品質及び完全性は、アジレント2100バイオアナライザー(Agilent Technologies社、米国)によりチェックし、アジレントマイクロアレイの必要要件に合わせた。
【0172】
DNAマイクロアレイ実験。マイクロアレイ実験を、Biochips Platform of Genopole、ツールーズ大学、INSA、UPS、INP、CNRS及びINRA(ツールーズ、仏国)で、製造業者のプロトコールに従い行った。簡単に述べると、品質管理チェックのための一色RNAスパイク−インキット(Agilent Technologies社)からの外来性RNAの希釈物を添加した後、総RNA 100ngをcRNAへ変換し、アジレント低投入量迅速増幅キットを用い、増幅し、且つシアニン3標識した。シアニン3標識したcRNA 1650ngを、27958種の遺伝子を標的化している44000プローブ(長さ60−merのオリゴヌクレオチドからなる)を含むアジレント全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ4x44Kバージョン2へ、10rpmで、65℃で17時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズされたアレイを洗浄し、アジレント高解像度スキャナG2505C上で走査し、その画像をFeature Extraction 10.10(Agilent Technologies社)を用いて解析した。Feature Extraction QCレポートを基にした品質管理の後、1条件につき複製物3又は4を保持した。rLV−EF1−GFPによるバリデーション実験に関して、Feature Extractionバージョン11.5を使用した。
【0173】
マイクロアレイデータの統計解析。Feature Extractionからの生データセットを、GeneSpring(登録商標)GX 12ソフトウェア(Agilent Technologies社)へインポートし、且つ75パーセンタイル法を用いて正規化した。その後Feature Extractionデータをインポートした場合には、プローブを、GeneSpring(登録商標)に帰属したフラッグ値によりフィルタリングした(各プローブに関して、GeneSpring(登録商標)デフォルトパラメータを使用し、下記のフラッグの一つが影響された:「検出された」、「検出されない」、又は「損なわれる(compromised)」)。少なくとも1つの条件において60%を超える複製物において検出されたプローブ及び「損なわれない」プローブを、保持した(検出されないか又は損なわれたスポットは除去)。全ての試料の中央値へ、強度値のベースライン変換を、プロファイルプロットの代表について適用した。これは、各プローブに関して、全ての試料からの対数でまとめた値(log summarized value)の中央値を計算し、且つ各試料から減算することを意味する。各条件と対照条件の間で示差的に発現されたプローブを同定するために、独立したt−検定を、ベンジャミーニ−ホッホベルグ多重検定相関により、補正したp−値<0.05で行った。倍数変化(FC)の絶対値≧1.5を伴うプローブを、上方制御されたプローブ及び下方制御されたプローブの両方について示差的に発現されたとして保持した。
【0174】
マイクロアレイデータ機能解析。Agilent社により提供され且つGeneSpring(登録商標)に含まれた注釈は、GeneSpring(登録商標)の「テクノロジー」と称され、26652バージョン2012.1.10と命名されるデータベースを基にしている。各プローブに関して、他のデータの中でも、遺伝子記号、説明、遺伝子オントロジー用語、RefSeq RNA寄託番号を含む、異なる型の注釈が提供される。プローブは、同じ遺伝子のいくつかの代替転写物を標的化することができるが、ただ一つのRefSeq転写物が各プローブに関連付けられることは留意すべきである。GeneSpring(登録商標)GX 12に関する遺伝子オントロジー(GO)選択肢を使用し、ヒト全ゲノムと比べ、示差的に発現されたプローブのリストにおいて表された最も有意な生物学的プロセス(補正されたp−値<0.1)を決定した。パスウェイ分析を使用し、関心対象の実体間の直接の関係を認めた。これは、「単実験分析(Single Experiment Analysis)」アルゴリズムによりGeneSpring (登録商標)において行った。選択されたヒトパスウェイ給源は、GeneSpring(登録商標)GX 12にデフォルトで含まれるWikiPathwaysにおいて参照されるキュレートされた(curated)パスウェイであった。p−値<0.05及び最小数5個の遺伝子のパスウェイを、保持した。
【0175】
相対定量的RT−PCR(RT−qPCR)。各試料由来の総RNAの合計1μgを、Superscript III RT cDNA合成キット(Life Technologies社)及びオリゴ(dT)
12-18を、製造業者の指示に従い使用し、逆転写した。その後cDNA生成物を、ABI PRISM (Life Technologies社)のためのSYBR(登録商標)GreenER(商標)qPCR SuperMixes及びEurogentec社(ベルギー)により合成された特異的プライマーと混合した。GAPDHを、内部対照として使用し、転写物レベルを正規化した。全てのプライマーを、プライマー3ソフトウェアバージョンV.0.4.0を用いて設計し、それらの特徴を表1にまとめている。リアルタイムPCRを、少なくとも2つの独立した試料から、2つ組で、StepOne装置(Applied Biosystems社)を用いて実行し、2−ΔΔCT法により相対量を算出した(Livakら、2001)。バリデーション実験のために、表10に列記した追加のプライマーを使用し、RT−qPCRを、3つの独立した試料から、2つ組で行った。遺伝子の示差的発現の有意性を評価するために、対応のないスチューデントt−検定を行い、各条件間でΔΔCt値を比較し、p−値カットオフは0.05であった。
【0176】
結果
候補バイオマーカーの同定
高度に精製されたウイルスベクター組成物、対、通常に濃縮されたウイルスベクター組成物により形質導入された培養細胞の増殖に対する影響。純度レベルに従い且つ任意の導入遺伝子から独立したウイルスベクター形質導入作用を評価するために、包皮線維芽細胞を、同じ粗収穫物(バッチA)に由来し、且つそれらの特徴を
図1Aにまとめた、2つのrLV−EF1(cDNAを欠く)組成物であるバッチB及びバッチC(前記)により、MOI40及び150で形質導入した。細胞は、
図2Bに示したように、形質導入後48時間で観察した。
【0177】
わずかな成長の遅延が、非形質導入細胞と比べ、バッチBにより形質導入された細胞によりMOI40で、認められたが、同じMOIでバッチC形質導入後は、成長の差は認められなかった。
【0178】
従って、通常のMOI(MOI40は、通常包皮形質導入に使用される)が、高度に精製されたウイルスベクター組成物(バッチC)は、形質導入された細胞の成長に関して目視できる作用を誘導しなかったのに対し、通常に濃縮されたウイルスベクター組成物(バッチB)は、形質導入された細胞の成長に対し負の影響をもたらすように見える。
【0179】
MOI150では、非形質導入細胞と比べ、バッチBにより形質導入された細胞において、強力な増殖停止が認められたが、バッチCによっては、本発明者らは中等度の成長の遅延のみを認めた。
【0180】
高度に精製されたウイルスベクター組成物、対、通常に濃縮されたウイルスベクター組成物により形質導入された細胞のトランスクリプトミクス細胞に対する影響。例のように、通常に濃縮されたウイルスベクター組成物とは、血清を用い得られたバッチB(B−S)を意味する。転写レベルでの基礎となる変化を調べるために、これらの細胞を、形質導入後54時間で収集した。この54時間の形質導入後遅延は、非形質導入細胞に対し形質導入された細胞において成長の遅延が明らかにされた時点と、非形質導入細胞が集密に到達した時点の間(データは示さず)であるとして、予備試験から適切であると決定した。RNAは、抽出し、且つほぼ全てのヒト転写物の定量を可能にする、アジレント全ヒトゲノムマイクロアレイを実行するために使用した。
【0181】
MOI150で認められた転写の変化。最初に、MOI150で、rLV−EF1バッチB及びrLV−EF1バッチCにより形質導入された細胞由来のRNAレベルを、非形質導入細胞由来のRNAと比較した。統計解析後、1.5倍以上上方制御又は下方制御されたプローブを、各比較のために保持した。
【0182】
図3A及び3Bに示すように、非形質導入細胞と比べ、1027のプローブの数が、バッチB形質導入後、形質導入された細胞において示差的に発現され、且つ906プローブの数が、バッチC形質導入後、形質導入された細胞において示差的に発現された。下方制御されたプローブは、上方制御されたプローブのほぼ2倍と数が多かった(バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞について、各々、703及び650の下方制御されたプローブ)。
【0183】
MOI150で下方制御された遺伝子の比較は、バッチBにより形質導入された細胞のトランスクリプトーム又はバッチCにより形質導入された細胞のトランスクリプトームにおいて特異的に影響されるバッチ特異的遺伝子のセットを除いて、下方制御された遺伝子の大半は、非形質導入細胞トランスクリプトームのトランスクリプトームに対する、バッチBにより形質導入された細胞のトランスクリプトームの分析、並びに非形質導入細胞トランスクリプトーム(tr)のトランスクリプトームに対するバッチCにより形質導入された細胞のトランスクリプトームの分析で共通であることを示した。
図4のベン図に示したように、560の下方制御されたプローブは、これら2つの下方制御されたプローブのリストの共通集合を表している。従って非形質導入細胞のトランスクリプトームに対し、バッチB又はCにより形質導入された細胞のトランスクリプトームにおいて共通に影響された、560のプローブのプールが存在する。
【0184】
これらの560のプローブに関するGeneSpring(登録商標)による遺伝子オントロジー(GO)解析は、細胞周期遺伝子は、239のプローブ(「細胞周期」GOカテゴリーに含まれる1004のヒト遺伝子の中で識別可能な204の遺伝子を表す)により有意に過剰発現されたことを明らかにした。これらの遺伝子は、増大するFC値により選別し、表2に表している。数多くの他のGO用語は、有意に過剰提示され、その大半は細胞周期に結びつけられた。特に各細胞周期相及び転移に対応する全てのGOカテゴリーは、有意に影響された。
【0185】
560の共通の下方制御されたプローブの分析を更に進めるために、このリストに関して、GeneSpring(登録商標)を用い、パスウェイ解析を行った。最初に得られたヒトパスウェイは、その発現レベルが影響を受けた遺伝子37を伴う、2012年7月の時点で公にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP179と称されるヒト「細胞周期」パスウェイであった。「G1からSへの細胞周期制御」(2012年7月の時点で公にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP45と称される)、「有糸分裂G2−G2/M期」(2012年7月の時点で公にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP1859と称される)及び「有糸分裂M−M/G1期」(2012年7月の時点で公にアクセス可能なWikipathwayデータベースにおいてWP1860と称される)のヒトパスウェイも、有意に影響を受けた。従って全ての細胞周期相は、大きな下方制御により影響を受けるように見える。G2−Mチェックポイントでの細胞周期停止は、p21の上方制御に関連したCDC25C、サイクリンB1及びCDC2(HUGO遺伝子命名法)の下方制御により確認された(Chiuら、2011)。他の妨害物は確認される必要がある。
【0186】
GOカテゴリー「細胞周期」において注釈された遺伝子の中で、増殖マーカーMKI67
(配列番号12)は、高度に下方制御され、非形質導入細胞のトランスクリプトームに対する、各々、バッチB及びバッチCにより形質導入された細胞のトランスクリプトームについて、平均FC値は−8.6及び−5.6であった(平均FC値は、この遺伝子を表している3プローブの値から得た)。これらの値は、バッチB形質導入をバッチC形質導入と比較した後より顕著である、観察された増殖遅延と相関している。
【0187】
類似のFC差異が、2つの条件の間で(すなわち、バッチBとバッチC)、ほぼ系統的に観察され、
図5に図示したように、非形質導入細胞における転写レベルに対するバッチCにより形質導入された細胞における転写レベルと比べ、非形質導入細胞における転写レベルに対するバッチBにより形質導入された細胞における転写レベルについて、これらの遺伝子は、平均30%より低いFCを伴った。この知見は、FC値≦−3を有する、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞において影響を受けたプローブの選択を基にしている。このFC差異は、この選択の5つの遺伝子を除いて、少なくとも10%であった。細胞周期遺伝子の下方制御は、非形質導入細胞に対するバッチCにより形質導入された細胞における転写レベルと比べ、非形質導入細胞に対するバッチBにより形質導入された細胞における転写レベルにおいて、より顕著であった。
【0188】
驚くことに、「細胞周期」としてGOにおいて注釈された以下の6遺伝子は、非形質導入細胞と比べ、これら2つのバッチ(すなわちバッチBとバッチC)により上方制御された:HUGO遺伝子命名法に従いCDKN1A、MDM2、TP53INP1、TGFB2、CDH13、RASSF2(表3に示す)。p21タンパク質をコードしているCDKN1Aは、細胞周期阻害因子に相当すること、及び、その過剰発現は、非形質導入細胞に対するバッチCにより形質導入された細胞よりも、非形質導入細胞に対するバッチBにより形質導入された細胞においてより強力であることも注目される。
【0189】
MOI40で観察された転写変化。次に、MOI40でrLV−EF1バッチB及びCにより形質導入された細胞由来のRNAレベルを、非形質導入細胞のRNAと比較した。統計解析後、1.5倍以上に上方制御又は下方制御されたプローブを、各比較のために保持した。
【0190】
非形質導入細胞に対しrLV−EF1バッチB又はCによりMOI150で、細胞周期遺伝子の下方制御された239プローブの中で、わずかに31プローブ(28遺伝子を表す)が、非形質導入細胞に対しバッチBによりMOI40でも過小発現され、かつその中で10プローブが、非形質導入細胞に対しバッチCにより同じMOIで下方制御された。FCは、MOI40では−1.5〜−2の間に含まれたのに対し、MOI150では−1.5〜−19の間に含まれ、このことは細胞周期に対する影響は、MOI40と比べMOI150で極めて強いことを示している。
【0191】
最後に、バッチBによってのみFC値≦−1.5で影響を受けた18の細胞周期遺伝子が存在し、FCは、MOI40でのバッチCに関するカットオフ値−1.5を上回っている。これらの遺伝子は以下であり:HUGO遺伝子命名法に従いASPM
(配列番号3)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5)、CENPF
(配列番号6)、CKS1B
(配列番号7)、E2F8
(配列番号8)、ERCC6L
(配列番号9)、FAM83D
(配列番号10)、KIFC1
(配列番号11)、NEK2
(配列番号13)、NUSAP1
(配列番号14)、OIP5
(配列番号15)、PRC1
(配列番号16)、RRM2
(配列番号17)、SGOL1
(配列番号18)、SPC25
(配列番号19)、TOP2A
(配列番号20)、TTK
(配列番号21)(表4);これらはウイルスベクターとの細胞接触に反応し影響を受けた最初の細胞周期遺伝子に対応しており、それらの脱調節は、低い品質のベクターバッチにより、高度に精製されたベクターバッチと比べ、早期に生じる。従って、そのような遺伝子は、標的細胞の細胞周期に対するウイルスベクター組成物の影響の早期マーカーとして使用することができる。
【0192】
定量的PCRバリデーション。本実施例は、RT−qPCRによる細胞周期遺伝子過小発現の後続の技術的バリデーションを説明している。マイクロアレイ実験から得られた示差的発現値を確認するために、5つの細胞周期遺伝子(HUGO遺伝子命名法に従いE2F8
(配列番号8)、MKI67
(配列番号12)、NEK2
(配列番号13)、AURKB
(配列番号4)、CENPA
(配列番号5))のセットを、非形質導入細胞と比べ、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞において10倍以上過小発現されたプローブの中で、選択した。RT−qPCRを、非形質導入細胞に対し、MOI150でバッチB及びバッチCにより形質導入された細胞由来のRNAについて行った。結果は、
図6A及び6Bに表しているが、これはこれらの遺伝子の過小発現、及びより強力な下方制御が、バッチC形質導入に比べ、バッチB形質導入から生じたことを確認した。
【0193】
血清を用い作製されたウイルスベクターバッチの細胞トランスクリプトームに対する影響。血清を用いウイルスベクター組成物を作製した後のベクター培地組成物の作用を評価するために、プロセスBを使用し、rLV-EF1ベクター(cDNAを欠く)を10%血清の存在下で作製し、濃縮し、バッチB-Sを生じ、その特徴を
図7Bにまとめた。このバッチを、MOI40及びMOI150での包皮細胞の形質導入に使用した。
【0194】
細胞は、
図7Aに示したように、形質導入後48時間で観察した。非形質導入細胞と比べ、バッチB−Sにより形質導入された細胞の成長は停止した。この成長停止は、MOI40と比べ、より高いMOI(MOI150)においてより強力であった。驚くべきことに、凝集がバッチB−Sにより形質導入された細胞において認められ、その容積はMOIと共に増加した。これらの細胞を、RNA抽出及びマイクロアレイハイブリダイゼーションのために、形質導入後54時間で収集した。驚くべきことに、トリプシン処理の間に、バッチB−Sにより形質導入された細胞は、バッチB若しくはCにより形質導入された細胞又は非形質導入細胞よりも、剥離がより困難であった。アジレント全ヒトゲノムマイクロアレイを使用し、中等度又はより高いMOIにより、バッチB−Sにより形質導入された細胞のRNAレベルを、非形質導入細胞のRNAと比較した。統計解析後、1.5倍以上上方制御又は下方制御されたプローブを、各比較のために保持した。
【0195】
非形質導入細胞に対するMOI150でバッチB−Sにより形質導入された細胞において認められた転写変化。
図8に示したように、1019プローブが、非形質導入細胞と比べ、MOI150でバッチB−Sにより形質導入された細胞において有意に示差的であった。このリストに関するGeneSpring(登録商標)パスウェイ解析は、ヒト「老化及び自己貪食」Wikipathway(WikipathwayデータベースにおいてWP1267と称す)は、下記の10の示差的遺伝子により有意に影響を受けたことを明らかにした:HUGO遺伝子命名法に従いBMP2、COL1A1、CXCL1、GABARAPL1、HMGA1、IGF1、IL1B、MMP14、PLAT、SERPINB2(その他の影響を受けたパスウェイ:細胞周期、MAPキナーゼ、接着斑・・・・)。
【0196】
老化関連分泌表現型(SASP)に関連したが、Wikipathwayの老化及び自己貪食パスウェイには含まれなかった多くの相補的遺伝子を、試験のために選択した。このリストは、文献のデータから抽出した(Coppeら、2010及びYoungら、2009)。「老化及び自己貪食」パスウェイ及び文献からの細胞老化に関連した遺伝子の規定された関連リストは、表5に示している。
【0197】
最後に、パスウェイ「老化及び自己貪食」に属するか又はSASPに関連した20の遺伝子(HUGO遺伝子命名法に従いAREG、BMP2、COL1A1、CXCL1、CXCL2
(配列番号1)、EREG
(配列番号2)、GABARAPL1、HMGA1、ICAM1、IGF1、IL1B、MMP1、MMP14、MMP3、NRG1、PLAT、PLAU、PLAUR、SERPINB2及びTNFRSF10C、表は示さず)を選択し、その理由は、これらは非形質導入細胞と比べ、バッチB−Sにより形質導入された細胞において示差的に発現されるように見えたからである。更にいくつかのコラーゲン遺伝子が下方制御され、PTGS2遺伝子が上方制御され;これらの遺伝子も、老化の生物学的プロセスに参加している(Coppeら、2010)。
【0198】
先に同定したパスウェイ「老化及び自己貪食」に属するか又はSASPに関連した20の遺伝子の中で、10の遺伝子(HUGO遺伝子命名法に従いAREG、BMP2、EREG
(配列番号2)、HMGA1、ICAM1、MMP1、MMP14、NRG1、PLAT及びPLAUR)は、非形質導入細胞に対し、MOI150で、バッチB又はCにより形質導入された細胞において影響されなかった。「影響されない」とは、FC絶対値が<1.3であることを意味する。
【0199】
6の他の遺伝子(HUGO遺伝子命名法に従いCOL1A1、CXCL1、CXCL2
(配列番号1)、GABARAPL1、IGF1及びPLAU)も、非形質導入細胞に対し、バッチB又はCにより形質導入された細胞において影響を受けたが、細胞老化時に変化が生じるので反対の様式では影響を受けなかった。最後に16の遺伝子が、MOI150で、他のバッチと比べ、バッチB−Sに対する反応のみ、細胞老化の出現に特徴的な発現プロファイルを示す。これらの16の遺伝子は、表5に示している。
【0200】
非形質導入細胞に対するMOI40でバッチB−Sにより形質導入された細胞において認められた転写変化。MOI40でB−Sバッチにより示差的に発現されたプローブを試験した。
図9に示したように、2841プローブが、形質導入されない対照と比べ、有意に示差的に発現された。
図10に示したように、1019の示差的プローブの中で、631のプローブが、より高いMOIで依然示差的であった。
【0201】
血清を用い作製されたベクターに関連したプローブを同定するために、形質導入されない条件に対し、バッチB−Sにより(両MOIで)形質導入された細胞において示差的に発現されたプローブ、並びにバッチB及びCにより(両MOIで)形質導入された細胞において示差的でないプローブを選択した。対応する235の遺伝子セットを、
図11に示したプロファイルプロットに表している。「示差的でない」とは、FC絶対値が<1.3であることを意味する。
【0202】
この235の遺伝子のリストの中で、ウイルスベクターと接触した細胞における老化表現型の出現の早期バイオマーカーを同定するために、細胞老化関連遺伝子を選択した。10の細胞老化関連遺伝子のリストを入手し、これらは形質導入されるべき細胞に対するウイルスベクター組成物の負の影響を明らかにするバイオマーカーの候補であることができる。これらの遺伝子は、HUGO遺伝子命名法に従いGABARAPL1、IGF1、PLAU、BMP2、EREG
(配列番号2)、MMP1、MMP14、NRG1、PLAT及びPLAURである(より詳細には表7)。
【0203】
高品質ベクターにより影響されない遺伝子の制限リストの選択。本実施例は、バッチC(両MOI)により影響を受けず、且つ他のバッチにより影響を受ける遺伝子の選択を明らかにしている。示差的に発現された遺伝子のほとんどは、非形質導入細胞に対し、MOI150でバッチBにより形質導入された細胞において、及び非形質導入細胞に対し、バッチCにより形質導入された細胞において、普通に発現されるが、わずかな遺伝子は、異なる発現パターンを示す。
【0204】
低品質ベクター組成物と接触された細胞において特異的に影響を受ける遺伝子を選択するために、非形質導入細胞に対し、MOI40及び150で、バッチCにより示差的に発現されず(FC選択−1.2〜1.2)且つバッチBにより形質導入された細胞において示差的に発現されるプローブを、選択した。対応する選択は、1つの遺伝子を生じた:CXCL2
(配列番号1)。他の2つの遺伝子は、MOI40でのNTに対するBの低下したFC値(1.3〜1.5の間の絶対値)以外は、同じプロファイルを共有した:FOXQ1及びZNF547(AgilentプローブID:A_33_P3352822、RefSeq mRNA寄託番号:NM_173631、RefSeqタンパク質寄託番号:NP_775902)。
【0205】
興味深いことに、CXCL2
(配列番号1)及びFOXQ1は、非形質導入細胞に対し、MOI150でバッチB−Sにより形質導入された細胞を比較した場合にも示差的であったが、逆の展開を伴い(opposite evolution)、これらは、非形質導入細胞に対しバッチB−Sにより形質導入された細胞で過剰発現されたが、非形質導入細胞に対しバッチBにより形質導入された細胞では過小発現された。
【0206】
別の遺伝子は、興味深い発現プロファイルを示している:MAP3K8。対応するプローブは、非形質導入細胞に対しバッチBにより形質導入された細胞を比較した場合、MOI40で統計学的に有意に示差的ではなかったので、これは最初は選択されなかったが、FC値−1.2に対応する強度値で試験した場合にわずかに差が認められ、結果的により高いMOIで認められた下方制御の傾向を確認した。この遺伝子は、両MOIで、非形質導入細胞に対しバッチB及びB−Sにより形質導入された細胞において下方制御され、且つバッチCにより形質導入された細胞においては示差的ではなかった。
【0207】
表8に示した、これら3つの遺伝子(HUGO遺伝子命名法に従いCXCL2
(配列番号1)、FOXQ1及びMAP3K8)は、高品質ベクター形質導入により影響を受けないが、低品質ベクターバッチにより細胞を形質導入する場合に、それらの発現は特異的に影響されるので、従って、本発明の実践における使用のためのバイオマーカーである。
【0208】
候補バイオマーカーのバリデーション。レンチウイルスベクターのバッチ品質に左右される候補バイオマーカー反応をバリデートするために、独立した実験を行った。包皮線維芽細胞を、MOI40及び150で、以下の5種のrLV−EF1−GFP組成物により形質導入し:バッチB、バッチC、バッチC−S、バッチB−S及びバッチUC(又はUC−S)(前述)、それらの特徴は
図12にまとめている。これらのバッチは、条件間の比較を最も正確にするために、徹底して特徴付けた。細胞は、
図13に示したように、形質導入後48時間観察した。MOI40で、非形質導入細胞と比べ、バッチB形質導入された細胞による成長の遅延が確認されたのに加え、バッチCでは認められる遅延は存在しなかった。血清を用い作製された他のバッチは全て、バッチB同様、細胞増殖遅延を誘導した。従ってバッチBによる増殖速度は、バッチB−Sによるものよりも優れ、並びにバッチCによるものは、バッチC−Sによるものよりも優れていた。MOI150では、細胞増殖に影響を及ぼさない唯一のバッチは、バッチCであった。強力な増殖停止が、非形質導入細胞と比べ、バッチB形質導入された細胞において認められ、このことは先の結果を確認した。バッチB−S及びUCも、強力な成長遅延を誘導した。バッチC−Sにより認められた細胞増殖に対する影響は、バッチB、B−S及びUCによるものよりも低く、バッチCによるよりも極わずかにより強力であった。
【0209】
形質導入された細胞のトランスクリプトームに対する影響。転写レベルでの基礎となる変化を調べるために、これらの細胞を、形質導入後54時間で収集した。RNAを抽出し、且つ後続のバリデーション実験に使用した。
【0210】
MOI40で認められた転写変化。バッチB、C及びB−Sベクターにより、MOI40により形質導入された細胞由来のRNA、並びにNT細胞由来のRNAを使用し、アジレント全ヒトゲノムマイクロアレイを行った。MOI40でrLV−EF1−GFPバッチB、C及びB−Sにより形質導入された細胞由来のRNAレベルを、非形質導入細胞由来のRNAと比較した。統計解析後、1.5倍以上上方制御又は下方制御されたプローブを、各比較のために保持した。
【0211】
細胞周期遺伝子カテゴリー。B対NT及びC対NTに関して下方制御されたプローブの中で、細胞周期プローブが依然優性であり、C対NTについて496の下方制御されたプローブのうち209プローブ、及びにB対NTついて591下方制御されたプローブのうち236であった。
【0212】
NTに対し、MOI150で、rLV−EF1バッチBによりFC≦−3で下方制御されたとして、
図5において先に選択された細胞周期遺伝子に対応するプローブは、MOI40でrLV−EF1−GFPバッチB及びバッチCにより依然下方制御された(
図14及び表9)。4つのプローブを除き、下方制御は、バッチCによるよりもバッチBによるほうが強力であり、これは高度に精製されないベクターバッチによる細胞周期に対するより強力な影響を確認している。
【0213】
同様に、表3に対応する細胞周期を上方制御する遺伝子は、
図15及び表9に示したように、rLV−EF1−GFPベクターバッチB又はバッチCによっても依然上方制御された。この上方制御は、これら2つのバッチにより1.6−倍の上方制御を示すCDKN1A以外は、NTと比べ、バッチCよりもバッチBのほうがより強力である。
【0214】
候補バイオマーカーとして表4において選択された18の細胞周期遺伝子は、NTと比べ、MOI40でrLV−EF1−GFPバッチB並びにバッチCベクターによる形質導入後に下方制御を示す(NB:RRM2
(配列番号17)は、NTに対しバッチCにより、−1.3 FCで唯一下方制御された)。
図16に示されたプロファイルプロットは、バッチCと比べ、バッチBによる、これらの遺伝子のより強力な下方制御を確認している。増殖マーカーMKI67
(配列番号12)も、
図16に示され、これはNTと比べ、バッチCによるよりもによるバッチBによるより顕著な下方制御を示し、このことは先の結果を確認している。
【0215】
B−Sバッチによる細胞周期遺伝子挙動。
図17に示されたプロファイルプロットに示したように、表4の18の細胞周期遺伝子及びMKI67
(配列番号12)の下方制御は、バッチCと比べ、バッチB−Sによるものと類似している(1つの遺伝子RRM2
(配列番号17)を除く、これはバッチB及びB−Sにより同じ割合で下方制御され、バッチCによる影響とは似ていなかった)。
【0216】
本発明者らは、この最後の知見は、血清由来の増殖因子の存在に関連付けられ、この因子はベクターと一緒に(conjointly)濃縮され、且つバッチCにより形質導入された細胞に加え、例え細胞が成長しない場合であっても、細胞周期遺伝子の下方制御を妨害すると仮定することができる。
【0217】
RT−qPCRバリデーション。RT−qPCRを、下記の3つの目的により、MKI67
(配列番号12)及びE2F8
(配列番号8)細胞周期遺伝子において行った:
1/独立したmRNA定量技術により、マイクロアレイ上でバッチB、C及びB−Sに関するMOI40で得られた示差的遺伝子発現のバリデーション、
2/別の低品質バッチ:UCバッチによる形質導入後の、これらの遺伝子の特異的挙動のバリデーション、
3/MOI150でのこれら2つの遺伝子の下方制御の確認。
【0218】
図18に示されるように、これらの2遺伝子に関して、MOI40で、バッチCに比べバッチBによるより強力な下方制御が確認され、NTと比べた各々のFCは、MKI67
(配列番号12)について−4.6〜−2.4、及びE2F8
(配列番号8)について−3.1〜−1.7であった。マイクロアレイの結果と一致して、この下方制御は、バッチCよりもバッチB−Sによりより高いことはなかった(FCはMKI67
(配列番号12)及びE2F8
(配列番号8)について各々、−2.9及び−1.7)。UCバッチは、このMOIでBバッチと同じ下方制御レベルを生じた(FCはMKI67
(配列番号12)について−4.7及びE2F8
(配列番号8)について−3.0)。
【0219】
MOI150で、これら2つの遺伝子に関する下方制御は、各条件においてより強力であったが、バッチBとバッチCの間の下方制御の比は、依然同じに維持された(およそ2倍)。B−Sバッチは、バッチCと同等又はこれよりもより低い下方制御を生じ、これはマイクロアレイで得られたFCと一致した。UCバッチによる下方制御は、バッチBとCのレベルの間の中間レベルに達している。
【0220】
結論すると、本発明者らは、形質導入に反応する早期反応遺伝子であり、且つその下方制御は同じMOIで、高度に精製されたベクターによるよりも、血清を用いずに作製された低品質ベクターによるものがより強力であるような細胞周期遺伝子のセットを、同定し且つバリデーションした。しかし確実に、血清増殖因子による細胞周期遺伝子活性化を通じた補償機構のために、これらの遺伝子は、高度に精製されたベクターによるよりも、血清を用い作製された低品質バッチと同様に挙動するので、これらの遺伝子は独自の品質バイオマーカーとして使用することはできない。
【0221】
バッチ特異的挙動を示す遺伝子。表6からの16遺伝子の中で、以下のわずかに2つが、この独立した実験において、バッチ品質に従い異なる挙動を示すものとしてバリデーションされた:CXCL2
(配列番号1)及びEREG
(配列番号2)。
RT−qPCRバリデーションにおいて使用したプライマーの配列は、表10に示している。
【0222】
CXCL2
(配列番号1)は、MOI40でのB−Sバッチによる形質導入後に、有意に上方制御された(FC B−S対NT:1.9)が、これはバッチCによっては下方制御された(FC C対NT:−1.75)。同じ試料に関するRT−qPCRバリデーション実験(
図19)は、バッチCによる下方制御を確認し、且つNTと比べB−Sによるわずかな上方制御を示すが、これは統計学的に有意ではない。しかしUCバッチは、NTと比べ、1.6倍の上方制御を示す。
【0223】
MOI150で、
図19Bに示したRT−qPCR結果は、ベクターバッチ品質に左右されるこの遺伝子の特異的挙動を確認している。実際、低品質バッチのみCXCL2
(配列番号1)の上方制御を誘導するが、高度に精製されたバッチCは、この遺伝子のわずかな下方制御を誘起する(NTに対するFC:1.4)。注目されるように、MOI40では示差的発現を誘導しないBバッチ(わずかな下方制御さえ伴う)は、MOI150で強力な上方制御を生じる。このことは、rLV−EF1−GFPベクターと比べ、MOI40及び150でCXCL2
(配列番号1)下方制御を誘導したrLV−EF1バッチBにより認められた異なる結果は、より低いMOIに起因するであろうということを説明することができる。最後に、高いMOIでのCXCL2
(配列番号1)上方制御は、低品質ベクター バッチに特異的であるように見える。
【0224】
EREG
(配列番号2)は、マイクロアレイにおいて、バッチB(NTに対するFC:1.5)及びバッチB−S(NTに対するFC:1.4)により、わずかな上方制御を示し、且つバッチCにより影響を受けない。RT−qPCRバリデーションは、MOI150実験から得られたRNAにより行った(
図19C)。強力且つわずかに過剰な発現が、バッチB及びB−Sにより確認された(各々、NTに対するFC:3.0及び2.9)が、バッチC形質導入後には影響が存在しないことが確認された。UCバッチは有意な過剰発現を誘導しないことは注目することができる。