(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334536
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】金属材料、特に鋼材からなる平板製品、このような平板製品の使用、およびこのような平板製品を製造するためのロールと方法。
(51)【国際特許分類】
B21B 1/22 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
B21B1/22 C
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-530429(P2015-530429)
(86)(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公表番号】特表2015-527203(P2015-527203A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】EP2013068542
(87)【国際公開番号】WO2014037545
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】102012017703.8
(32)【優先日】2012年9月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】コップリン,カール−ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュマン,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】マシュレー,フリードヘルム
(72)【発明者】
【氏名】シュルツェ−クラーシュ,フォルケルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーゼル,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング,ギド
(72)【発明者】
【氏名】レシング,マルクス
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−009015(JP,A)
【文献】
特開平05−192701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる、確定的な表面構造を有する平板製品において、前記表面構造が、2から14μmの範囲の深さの複数のくぼみを有し、当該くぼみが、二重のI字形、H字形、十字形、C字形、またはX字形に設計され、前記表面構造は、1cmあたり45から180の範囲のピークカウントRPcと、0.3から3.6μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.05から0.65μmの範囲の算術平均うねりWsaとを有し、前記平板製品に形成された表面構造が、独立した空の容積を画定し、当該独立した空の容積が高い加工力における高い安定性を付与することを特徴とする平板製品。
【請求項2】
請求項1に記載の平板製品において、前記表面構造の算術平均粗さRaが、1.0から2.5μmの範囲であることを特徴とする平板製品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平板製品において、前記表面構造が、3から13μmの範囲の深さの複数のくぼみを具えることを特徴とする平板製品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の平板製品において、前記くぼみが、互いに対して繰り返しのパターンで配列されていることを特徴とする平板製品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の平板製品において、前記二重のI字形のくぼみが、平行に延びる二重のI字形のくぼみからなる複数のペアを形成するように配列されていることを特徴とする平板製品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の平板製品において、互いに平行に延びるI字形のくぼみからなるペア、またはH字形のくぼみが、互いに格子状に配列されていることを特徴とする平板製品。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の平板製品において、当該製品が、鋼板または鋼片であることを特徴とする平板製品。
【請求項8】
請求項7に記載の平板製品において、前記鋼板または鋼片に、耐食コーティングが設けられているを特徴とする平板製品。
【請求項9】
請求項8に記載の平板製品において、前記耐食コーティングが、亜鉛ベースのコーティングであることを特徴とする平板製品。
【請求項10】
塗料層でコーティングされた部品の製造方法であって、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の平板製品を使用し、前記平板製品は鋼材から製造されたものであり、前記平板製品に耐食コーティングを設けて、前記平板製品を成形加工して塗料層を塗装することを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載された平板製品を製造するためのロールであって、当該ロールの表面が確定的な表面構造を具え、前記表面構造が複数の重複するレーザークレーターであるディンプルを有し、当該ディンプルが、前記ロールの未加工の表面を、二重のI字形、H字形、十字形、C字形、またはX字形に区切るように配列され、ロール軸の方向に測定された前記ロールの表面構造が、1cmあたり80から180の範囲のピークカウントRPcと、2.5μmから3.5μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.08から1.0μmの範囲の算術平均うねりWsaとを有することを特徴とするロール。
【請求項12】
請求項11に記載のロールにおいて、当該ロールの表面構造が、複数の重複するディンプルを有し、各ディンプルの断面が、ガウスプロファイルまたはトップハットプロファイルの形状であることを特徴とするロール。
【請求項13】
請求項11または12に記載のロールにおいて、前記二重のI字形またはH字形のロールの未加工の表面が、互いに対して格子状に配列されていることを特徴とするロール。
【請求項14】
請求項12に記載のロールにおいて、前記重複するディンプルが、ロールの未加工の表面をI字形に区切るように配列されており、ロールの未加工のI字形の表面が、ヘリンボーン状のパターンで配列されていることを特徴とするロール。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか1項に記載のロールにおいて、前記ディンプルが、6から14μmの範囲の深さを有することを特徴とするロール。
【請求項16】
請求項11乃至15のいずれか1項に記載のロールにおいて、前記ディンプルが、20から80μmの範囲の平均の直径を有することを特徴とするロール。
【請求項17】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の平板製品の製造方法であって、金属材料からなる平板製品が提供され、少なくとも請求項1乃至6のいずれか1項により画定される表面構造が設けられる表面が、最大3.0μmの算術平均粗さRaを有し、提供される前記平板製品がスキンパスロールにかけられ、請求項11乃至16のいずれか1項により形成されたロールが、平板製品が請求項1乃至6のいずれか1項により得られて画定される表面構造を有するように、請求項1乃至6のいずれか1項による表面構造が設けられる表面に作用することを特徴とする平板製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料、特に鋼材からなる平板製品と、その有利な使用と、このような平板製品の製造に特に適したロールと、この種の平板製品の製造方法とに関する。この文脈における「平板製品(flat product)」とは、金属または合金から製造された板金、特に薄板、または同等の方法で製造された金属帯板とロール製品を意味すると理解される。
【背景技術】
【0002】
ここで説明する種類の平板製品は、起こりうる腐食から保護し、その外観を最適化するための、1または複数の塗料層で後にコーティングされる部品を製造するのに使用される。この場合外観の質は、特に、各板金の基板の表面テクスチャが、どの程度まで塗料コーティングの表面に影響を与えるかで判断される。
【0003】
外部から見える自動車の車体部品の表面の外観には、特に高い要求が課されている。実際にこの要求は、多層塗料システムを適用することで満たされる。この塗料システムは、従来から、特にコーティングされる表面に現れる不規則な凹凸を補正するために用いられる、少なくとも1つの「フィラー層」を含む。
【0004】
板金への多層塗料システムの適用に伴う複雑さは著しい。この複雑さを削減し、これにより工程のコストを削減するために、「フィラー層」を必要としない塗装方法が開発されてきた。これらの現在の塗装方法は、自動車産業でますます使用されている。このような場合、塗装構造の全体の層の厚みは実質的に縮小されるので、板金の表面の不規則な凹凸が塗料のトップコートに現れないように確実にするために、この目的に用いられる板金の表面の質への要求は増している。
【0005】
車体部品を製造するための金属平板製品の適合性を判断する際のさらなる基準は、各部品に形成されるときのこれらの反応である。この反応は、各平板製品の表面テクスチャにも依存する。すなわち、例えば深絞り加工時に、潤滑剤ポケットとして知られる板金形状の表面に現れるくぼみには、成形前の板金に塗布されるか、または成形型の中に注入される潤滑剤が蓄積することができる。この場合、潤滑剤により形成される潤滑膜の耐荷力は、これらのくぼみの設計と分布に依存する。
【0006】
塗装後の外観を最適化するように、板金の表面をテクスチャ加工する様々な提案がなされている。例えばJP−A−63−50488とJP−A−1−293907では、それぞれが溝状のくぼみに囲まれて他の平坦な表面から突出している、円筒形のパンチ型の隆起を具える規則的な表面テクスチャの製造が提案されている。
【0007】
JP−A−63−50488によると、隆起の高台は、各隆起の間に存在する谷領域の床面から約2から10μm上方に位置する。同時に、頂部の平坦な高台と、谷の床面と頂部の高台の間に存在する平均的に平らな領域の平坦面との合計の割合は、全表面積の20−90%である。この表面テクスチャを製造するために、スキンパスロールが用いられ、この表面はレーザによって機械加工される。
【0008】
それに加えて、JP−A−1−293907では、円形の断面を有する規則的に配列された隆起の間に存在する、平坦な領域の割合は、少なくとも板金の表面の85%を占めるべきであり、隆起を囲み平坦な領域から延びる谷の深さは、少なくとも4μmであるべきであり、鋼板形状の周波数分析によると、585μm<λ<2730μmの範囲にある波長λの波長成分の強度は、最大で0.6μm
2である。
【0009】
上記の2つの日本特許出願によって製造された板金は、塗装された状態で、非常に鮮やかな印象を与えるように意図されている。しかしながら、これらの特定の要件は、確定的な表面テクスチャを前提とする。特に、JP−A−1−293907によると、この文書で指定された波長成分で許容できる高い強度は、高周期性を有する確定的な表面テクスチャの場合にのみ生じる。
【0010】
確定的(deterministic)な表面テクスチャを有するスキンパスロールに加えて、偶然的(stochastic)な表面テクスチャを有するスキンパスロールもまた知られている。このような表面テクスチャを製造するために、特にショットブラスト方法が用いられ、この方法において、チルド鋳鉄からなる多角形の投射ショット材が、テクスチャ加工される回転ロールのロール表面に対して投げつけられる。この方法で製造された粗いテクスチャは、山脈状に互いに遷移する個々の塑性変形の確率的分布に相当する。しかしながら、プロセスパラメータの広がりが大きすぎるため、ショットブラスト方法の再現性は不十分である。
【0011】
偶然的な表面テクスチャを有するテクスチャ加工された薄い板金を製造する追加的な方法が、刊行物「Stahl und Eisen」[鋼と鉄]118(1998)No.3の75−80ページに開示されている。この場合、薄い板金のテクスチャ加工に使用されるロールは、閉反応器システムにおける耐摩耗のクロム多層システムでコーティングされている。このクロム多層システムの粗いテクスチャは、比較的均一であることを特徴とし、半球の異なる大きさの確率的分布は、対応するドーム状の圧こん(impressions)の形でスキンパスの際に薄い板金に転写される。
【0012】
テクスチャ加工された平板製品、特に偶然的な表面テクスチャを有する薄い板金の追加的な製法が、EP2006037B1に開示されている。この文書で、薄い板金のテクスチャ加工に用いられるロールは、放電テクスチャ加工(EDT)によってテクスチャ加工される。ロールをテクスチャ加工する前の最初の状態は、滑らかに研磨されたロール表面であるべきである。くぼみが、できるだけ互いに近接できるように、放電テクスチャ加工によってこの表面に導入される。各くぼみの間に残る「ウェブ」は、ロール表面の滑らかな最初の状態の結果として、すでに所望の同じ高さである。EDT方法の間に、規定の電圧が一時的に、必要に応じて定期的に、電極とロールとの間に印加される。電荷担体(イオン)が、EDTチャネルを通して、電解液からロール表面に向かって加速される。これらがロール表面に衝突すると、これらはロール素材をここから除去して、くぼみを生成する。除去され溶融したロール素材は、電極のすすぎにより洗い流され、絶縁オイルのために、実質的にロールの表面に再結合できない。しかしながら、実際には、テクスチャ加工の過程で溶融したロール素材が、当初は滑らかに研磨してあった表面に累積することを完全に防ぐことはできない。この素材は、それ自体は既知である精密研磨プロセスにより除去することができる。
【0013】
しかしながら、偶然的な表面テクスチャの製造方法を使用すると、「オレンジピール(orange peel)」効果として知られるものを回避するために、粗さと低量の長さ−うねりとの要件を満たす特性値を互いに独立して設定できるように、マイクロテクスチャ加工された表面を製造するのは不可能である。
【0014】
この状況で、本発明の目的は、冒頭で述べた種類の平板製品を製造することであり、特に一定の油吸収能力と、最適の加工性と、塗装外観のための良好な前提条件とを有し、塗装を終えた際に塗装構造全体の層の厚みが薄い場合でも、優れた外観を有する製品を製造することである。さらに、このような平板製品の好適な使用と、特にこのような平板製品の製造に適したロールと、この種の平板製品の製造方法も示されるべきである。
【0015】
この平板製品に関し、本目的は請求項1に示す本発明により達成することができる。
【発明の概要】
【0016】
本発明による平板製品は、複数のくぼみを有する確定的な表面テクスチャを具え、前記複数のくぼみは、2から14μmの範囲の深さを有し、前記くぼみは、I字形、二重のI字形、H字形、十字形、C字形、またはX字型であり、前記表面テクスチャは、45から180 1/cmの範囲のピークカウントRPcと、0.3から3.6μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.05から0.65μmの範囲の算術平均うねりWsaを有することを特徴とする。
【0017】
本発明にかかる平板製品の好適で有利な実施例は、従属クレームに記載されている。
【0018】
前記くぼみの深さが、3から13μmの間の範囲で好適に選択される場合は、対応して形成される平板製品は、最適化された加工性と改善された塗装外観とを有する。広範な試験が、本発明に対応して設計された薄い板金は、特に優れた摩擦特性(加工特性)を有することを示している。これらの薄い板金から加工されて製造される部品は、一般的な自動車塗装の後に優れた塗装外観を有することを特徴とする。本発明による平板製品の追加的な有利な実施例は、前記くぼみが、独立した、直線の、および/または湾曲した設計を有する。
【0019】
好適な実施例によると、本発明による平板製品の表面テクスチャの算術平均粗さRaは、1.0から2.5μmの範囲であり、好適には1.0から2.0μmの範囲であり、より好適には1.0から1.6μmの範囲である。これに対応して形成された金属平板製品は、非常に優れた摩擦特性を有し、一般的な自動車塗装の後に、従来技術の金属平板製品と比較して、改善された塗装外観がもたらされることを特徴とする。
【0020】
非常に優れた塗装外観と摩擦特性は、特に本発明の好適な実施例により実現することができ、ここで前記くぼみは、独立した、直線の、および/または湾曲した設計であり、互いに対して繰り返しのパターンで配列されている。例えば、好適な確定的な表面テクスチャにおいて、I字形のくぼみは、互いに対してヘリンボーン状のパターンで配列されている。塗装外観と摩擦特性に関して、特に有利な本発明による平板製品の実施例では、好適な確定的な表面テクスチャのI字形のくぼみが、各々が例えば互いに平行に延びるI字形のくぼみからなる複数のペアを規定するように配列されている。
【0021】
本発明による平板製品のさらなる有利な実施例は、確定的な表面テクスチャの例えば互いに平行に延びるI字形のくぼみからなるペア、またはH字形のくぼみが、互いに対してチェス盤のパターンで配列されていることを特徴とする。試験は、これに対応して設計された本発明の薄い板金が、一般的な加工の過程(深絞り加工の過程)において、低摩耗性を有することを示している。このように設計された本発明にかかる薄い板金は、非常に低い摩擦係数と、スリップスティック効果として知られる、すなわち摩擦係数を特定するときの静止摩擦と滑り摩擦との間の迅速な変化に対する非常に低くて遅い傾向と、適合した油量の場合に、特に深絞り加工の変形(strain)の場合の非常に優れた加工特性とを有することを特徴とする。本発明の薄い板金の表面の、主に独立した空のボリューム(潤滑油ポケット)は、高い加工力の場合でも高い安定性を示す。
【0022】
本発明による平板製品、特に薄い板金に製造される表面テクスチャは、好適には主に独立した空のボリュームを画定する。この場合、表面テクスチャは好適には、実質的にほぼ対象、または軸対象に形成される。
【0023】
これらの特別な特性プロファイルにより、本発明による平板製品は、特に塗料の層が設けられる部品を製造するのに用いることができる。これは、本発明の平板製品が鋼から製造され、特に、例えば亜鉛コーティングなどの耐食コーティングが設けられている場合に、特に適合する。このような鋼板は、例えば亜鉛または亜鉛マグネシウムのコーティングでコーティングすることができる。一方で、本発明により特定された基準は、他の金属からなる平板製品にも適用することができる。
【0024】
本発明による平板製品は、特に車体部品の製造に適している。これらの加工の後で、短い塗装工程で、特にフィラー層を塗布しない(フィラーレス塗装)で、各部品の外観の最も高い要求を満たす塗装コーティングを設けることができる。本発明により特定された表面テクスチャは非常にきめ細かいため、従来技術に比べてかなり簡略化された塗装構造を用いた場合でも、視覚的にも技術的にも完璧なコーティングの結果が実現する。
【0025】
本発明による平板製品の製造に特に適したロールに関しては、上述の目的は、本発明の請求項11に規定されたロールにより達成される。
【0026】
本発明によるロールは、複数の重複するディンプルを有する確定的表面テクスチャを具え、前記重複するディンプルは、前記ローラの表面を、I字形、二重のI字形、H字形、十字形、C字形、またはX字形の材料テクスチャに区切るように配列され、ロール軸の方向に測定した前記ロールの表面テクスチャは、80から180 1/cmの範囲のピークカウントRPcと、1.0μmから、特に1.5μmから、好適には2.5μmから3.5μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.08から1.0μmの範囲の算術平均うねりWsaとを有することを特徴とする。
【0027】
さらに、請求項17において、本発明は、よりよく加工できて、より容易に塗装できる金属平板製品の確実な製造を可能にする方法を提供する。
【0028】
本発明により特定された基準を考慮に入れると、金属平板製品は、このようなきめ細かい、ほぼ確定的な表面テクスチャを有する方式により提供することができ、一般的な自動車塗装の後にはこの表面テクスチャは、すべての場合においてほぼ視覚的に知覚できない、という認識に本発明は基づく。
【0029】
特に、本発明による平板製品の製造に特に適したロールは、短パルスレーザ(または短パルスレーザ法)によって、とりわけ超短パルスレーザによって、有利にテクスチャ加工することができる、という認識に本発明は基づく。ロールは、例えば鋼材から、好適には3%のクロム含有量の従来の冷間圧延鋼から製造される。
【0030】
適切な短パルスレーザ(パルスファイバレーザ)は、例えば、約1070nmの波長で約100kHzのパルス繰返し周波数を有する。パルス持続時間は約1μsである。本発明によるテクスチャ加工ロールを製造するためのレーザの平均の電力は、例えば15から100Wの範囲であり、好適には20から70Wの範囲である。ロールは、レーザテクスチャ加工の後に、さらに滑らかに研磨(スーパー仕上げ)して、選択的に硬質クロムめっきを行うことができる。ロールの表面は、ディンプルが、EDT法と比べて、これで生じるような実質的な隆起領域を有さないことを特徴とする。レーザパルス(例えばpsのレーザ)が短いほど、隆起領域は小さくなる。
【0031】
ロールの表面に導入されるディンプルの深さは、好適には6から14μmの範囲で、より好適には8から13μmの範囲である。ディンプルの平均の直径は、約20から80μmで、好適には約20から40μm、より好適には約22から35μmである。
【0032】
本発明によるロール、またはこれらの表面をテクスチャ加工するための本書に記載の方法の使用において、粗さの特性値Ra、RPc(EN ISO10049による)、および長さ−うねりのWsa(約1−5mmの波長範囲を有する「オレンジピール」として知られている。『STAHL−EISEN−PRufblatter』(SEP)[鋼と鉄のテストシート]1941年第1版、2012年5月参照)は互いに独立して定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明は、複数の実施例を示す図を参照して、下記により具体的に説明される。
【0034】
【
図1】
図1は、パルスレーザ(短パルスレーザ)によるスキンパスロールのテクスチャ加工の概略図である。
【
図2】
図2は、ロールの材料部分におけるレーザビームの効果、または相互作用の概略図である。
【
図3】
図3は、ロールの材料部分におけるレーザビームの効果、または相互作用の概略図である。
【
図4】
図4は、ロールの材料部分におけるレーザビームの効果、または相互作用の概略図である。
【
図5】
図5は、レーザビームの強度プロファイルによって製造されたディンプルのプロファイルを示す。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施例にかかる、スキンパスロールのディンプルテクスチャの概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の追加的な実施例にかかる、いくつかの追加的なスキンパスロールのディンプルテクスチャの概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の追加的な実施例にかかる、いくつかの追加的なスキンパスロールのディンプルテクスチャの概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の追加的な実施例にかかる、いくつかの追加的なスキンパスロールのディンプルテクスチャの概略図である。
【
図10】
図10は、本発明にかかる平板製品の表面テクスチャの一部を示す。
【
図11】
図11は、本発明にかかる平板製品の表面テクスチャの一部を示す。
【
図12】
図12は、様々なオイルコーティングの場合の、本発明にかかる平板製品の加工性を示す。
【
図13】
図13は、様々な表面処理を行った薄い板金の耐摩耗性を示す。
【
図14】
図14は、加工試験(「カップテスト」)の概略図である。
【
図15】
図15は、
図14の加工試験を受けて、様々な表面処理がなされた薄い板金に関する結果の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
設計特徴(テクスチャ特徴)の確定的な分布を有する本発明による表面テクスチャは、回転ロールの表面から材料を除去するために、パルスレーザ、好適には短パルスレーザ、または超短パルスレーザを使用したロールテクスチャ加工法を用いて製造される。
【0036】
この目的のため、食刻されるロール1は、回転装置で回転する。ロールが急速に回転する一方で、ロールの表面にレーザビームを集束する集束光学素子2は、比較的低速で、ロール軸の方向に横に移動する。レーザビームはしたがって、ロールの表面に螺旋系の経路を描く(
図1)。
【0037】
約1μsのパルス持続時間の間に、レーザビーム3は、ロール1の材料4の中に一定の深さまで貫通する。材料4、またはロール1の表面材料は、自由伝導帯電子5と、陽金属イオン6から構成される(
図2)。
【0038】
電子5は、レーザビーム1の電磁場によって加速され、最終的に、相互作用時間中に、その運動エネルギーを金属イオン6に伝達する。前記イオンはこれにより振動し、この振動エネルギーを、レーザ放射とロールの材料との間の純粋な相互作用領域の外側に位置する、隣接する金属イオンに伝達する(
図3)。このようにして、照射されたロール材料4に熱が発生する。パルス時間の間に追加のレーザエネルギーを供給することで(
図4)、材料は溶融する。最終的に、蒸発温度に達して、溶融塊7の一部は蒸発する。溶融塊7の上方に形成された金属蒸気雲8は迅速に拡張し、反跳効果が溶融スパッター9の形態で残っている溶融塊を排除する。短パルスレーザ法は、パルス当たりに排除される材料が比較的大容量であることを特徴とする。
【0039】
パルス周波数、パルスエネルギー、回転ロールの表面のトラック間の距離、レーザポイントの着弾径(スポット径)、レーザ強度プロファイル、および/またはロールの速度のパラメータを選択することにより、ロールの表面のディンプルの分布と形状が決定される。各ディンプルを重複させることで、谷型の、接続した領域が彫り込まれ、または制作される。
【0040】
図6から9に例として示す様々な確定的なテクスチャの変形例では、レーザパルスの急速で連続的なシーケンスは、選択的な手法で中断される。レーザパルスの中断は、高速光スイッチ、AOM(音響光学変調器)10により実行される(
図1参照)。AOM(10)のオンオフを迅速に切り替えることで、個々のレーザパルスは、ロールの表面上に確定的に投射されるか、またはコールドトラップ11に偏向されてここで破壊される。
【0041】
この目的のために使用されるレーザ(パルスファイバレーザ)は、500Wの最大平均電力と、約1070nmの波長で約100kHzのパルス繰り返し周波数を有する。パルス持続時間は、1.5μs以下であるべきである。実施した試験では、これは例えば約1μsであった。
【0042】
AOM(10)を通過した後、レーザビーム1は、光ファイバケーブル12によって集束光学素子2に導かれる。矢印13は、集束光学素子2の移動方向を示している。
【0043】
テクスチャの形状は、このために特別に設けられた画像処理プログラムに送信される。このプログラムは、ロールの速度と集束光学素子2の軸方向の軸の搬送速度とが、パルスのシーケンス周波数(100kHz)に基づいて決定されること、および、ディンプルの密度とその確定的な分布が、テクスチャと設計使用に従って製造されるように、AOM10を制御することを可能とする。
【0044】
指定された各ディンプルの形状(直径、深さ、フランク角)は、パルスエネルギーとスポットの直径のパラメータを最適化することと、レーザビームの強度プロファイル(ガウスプロファイル)(
図5)の特別な調整とによって達成される。ガウスプロファイルの代替または追加として、当業者に周知であるトップハットプロファイルもまた調整に用いることができる。ロールの表面に生成されたレーザのクレーター(ディンプル)は、対応するガウスプロファイルを有する。ディンプルのフランク角、または最大フランク角は、45°以上、好適には60°以上、より好適には70°以上である。ディンプルは、このようにして、急勾配のフランク角を有する。
【0045】
図6は、例えば直径440mmのスキンパスロールの、ロールの表面に生成されるテクスチャの詳細を示す。ロールの円周とほぼ平行に配向されたトラック1では、前記テクスチャは、42ディンプル/mmの密度を有し、隙間無く並んで例えば1μm重複している。この密度を達成するために、2.35m/sの周速が、1.7S
−1のロールの回転速度に対応する100kHzのレーザのパルス周波数に必要とされる。ロールの円周とほぼ平行に配向されたトラック2と3では、AOMによるレーザビームのパワー調整によって、ディンプルは適切な位置において省かれる。トラック2では23ディンプル/mmが、トラック3では9ディンプル/mmがトラック1と比べて欠けている。AOMとレーザパルスのトリガとの調整は、移動した軸と、すなわち、ロールの回転ドライブ上の角度エンコーダの位置、および集束光学素子の軸方向の軸と同期させなければならず、正確な位置で確定的なグリッドを製造するために、このグリッドは、両方の軸方向でディンプルの間に特定の距離を有する。この例で隣接するトラックの間の距離は23μmであり、集束光学素子の軸方向の速度は39μm/sである。追加的なパラメータは:
平均レーザパワー:約40W
パルスエネルギー:約0.4mJ
各クレーターの直径:約25μm
各クレーターの深さ:約7μm
である。
【0046】
平板製品は、対応するロールでスキンパスされる。平板製品は、冷間圧延ストリップで精巧に焼きなましされ、例えばIF鋼および/またはBH鋼のグレードである。0.7mmの厚みを有するDC06(IF鋼)は、145m/minの回転速度と、ストリップの幅に基づいた1.1kN/mmの一定の回転力と、0.5%のスキンパスの程度とで、テクスチャ加工される。他の例では、0.7mmの厚みを有するHC180B(BH鋼)は、140m/minの回転速度と、ストリップの幅に基づいた6kN/mmの一定の回転力と、1.4%のスキンパスの程度とで、テクスチャ加工される。冷間圧延ストリップは、その後に電気的に亜鉛めっきされる。同様の試験は、溶融亜鉛めっきされた薄い板金を使用して行われる。
【0047】
一致するまたは同様のパラメータを用いて、
図7から9に示すテクスチャも、ロールの表面に生成することができる。
【0048】
図6に概略を示すロールの表面テクスチャの表面部分は、ディンプルがロールの表面を複数の二重I字形の材料テクスチャに区切るように、並んで重複し、配列されたディンプルを有している。さらに、二重I字形の材料テクスチャは、互いに対してチェス盤のパターンで配列されている。並んで重複するディンプルは、ロールの表面に開口の空のボリュームを形成する。ロールはまた、レーザテクスチャ加工の後に、滑らかに研磨して、選択的に硬質クロムめっきを行うこともできる。
【0049】
図6のロールの表面テクスチャは、ロール軸の方向に測定して、最後に、約140から160 1/cmの範囲のピークカウントRPcと、2.5から2.8μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.1から0.2μmの範囲の算術平均うねりWsaとを有する。ロールの表面の山と谷のレベル(平坦領域)の標準偏差(σ)は、それぞれ、約0.6μmと2μmである。平滑性の割合(非テクスチャ加工の表面)は約25%である。
【0050】
このようなロールでスキンパスされた平板製品、特に薄い板金は、大部分が独立した空のボリュームを有する確定的な二重I字形テクスチャであることが特徴の、テクスチャ加工された表面を有する。このように製造された本発明による薄い板金の研究は、従来技術の板金、特にEDTによりテクスチャ加工されたロールにより製造された板金と比べて、以下の機能的特性:改善された塗装外観、加工プロセス時の低摩耗性(
図13参照)、非常に低い摩擦係数(
図12参照)、非常に低くて遅い(高い表面圧力に向かって移行する)スリップスティック効果に対する傾向(
図12参照)、適合した油量の場合に、特に深絞り変形の場合の非常に優れた加工性(
図15参照)、および高い加工力の場合でも独立したテクスチャを実現できること、を示す。
【0051】
図12は、本発明によりテクスチャ加工されて様々な鋼のグレードを有する、電気的に亜鉛めっきされた薄い板金の摩擦係数の測定結果を、表面圧力によって異なるオイルコーティングとともに示しており、この亜鉛めっきされた薄い板金は、
図10による二重I字形のテクスチャ(
図15においてV3で示す)が設けられている。湾曲Aの測定は、1.5g/m
2のオイルコーティングを有する亜鉛めっきされたIF鋼の薄い板金に関し;湾曲Bの測定は、3g/m
2のオイルコーティングを有する亜鉛めっきされたIF鋼の薄い板金に関し;湾曲Cの測定は、1.5g/m
2のオイルコーティングを有する亜鉛めっきされたBH鋼の薄い板金に関し;湾曲Dの測定は、3g/m
2のオイルコーティングを有する亜鉛めっきされたBH鋼の薄い板金に関する。
【0052】
図13では、表面仕上げされた薄い板金の摩耗特性が示されている。摩耗値は、帯板絞り加工テスト(strip−drawing tests)によって、フラットジョーツールを用いて測定される。ロールによってテクスチャ加工された薄い板金であって、
図13に「EDT」と示された、EDTによりテクスチャ加工された薄い板金は、低摩耗性を特徴とすることを認識すべきである。一方で、
図13では、電気的に亜鉛めっきされた薄い板金であって、超短パルスレーザ法(USP)の適用によりテクスチャ加工されたロールを用いて、本発明によりスキンパスされた薄い板金は、約0.2g/m
2の非常に低い摩耗性を特徴とし、これは「EDT」の場合の薄い板金よりもさらに低いことがわかる。
【0053】
本発明によりテクスチャ加工された薄い板金の表面を特徴づけるために、フラットジョーツールを用いた帯板絞り加工テストに加えて、丸いパンチを用いた深絞り加工テストも実行された(
図14と15の「カップテスト」参照)。評価パラメータとして、測定されたパンチ力は、それぞれの場合において明確に規定されたホールドダウンの力で評価される。テストは様々なオイルコーティング(塗油)を用いて実行された。
【0054】
丸いカップの加工時に、従来の帯板絞り加工テストでは測定することができない、非常に高い表面圧が絞り加工の半径の領域に局部的に発生する。丸いカップの場合の、全てのパンチ力またはパンチ活動のうちの摩擦部分は1/3までである。パンチの直径D
0は約100mmである。パンチは13mmの絞り加工半径Rを有し、一方でマトリックスの絞り加工半径rは5mmである(
図14および15)。
【0055】
テストでは、同じ基礎材料が異なる表面テクスチャを有して用いられるため、記録された力の曲線によって、異なるトポグラフィの摩擦特性の直接的な比較が可能になる。加工プロセスにおいて、低い摩擦部分は、少ない力が丸いカップや構成要素の縁を介して伝達されなければならず、絞り加工の比率が一定に保たれるときに、クラック限界を増大させることを意味する。テストでは、本発明による(
図10の)、独立した空のボリュームが高い割合である表面テクスチャV3は、パンチ力のレベルの明確な低下を示す(
図15参照)。
【0056】
図7に概要を示す、本発明によりテクスチャ加工されたロールの表面部分は、同様に、並んで重複しているディンプルを有する。
図6に示す実施例との比較により、
図7による実施例では、
図6に破線で示すレーザクレーターが省かれているため、「材料の二重のI字形の島」は相互に接続している。重複するディンプルはしたがって、これらがロール表面を複数のH字形の材料テクスチャに区切るように配列されている。H字形の材料テクスチャはまた、互いに対してチェス盤のパターンで配列され、重複するディンプルは開口の空のボリュームを形成する。
図7によるロールの表面テクスチャによりテクスチャ加工された、薄い板金の表面部分は、
図11に示されている。
【0057】
図7のロールの表面テクスチャは、ロール軸の方向に測定して、約145 1/cmの範囲のピークカウントRPcと、2.6から2.7μmの範囲の算術平均粗さRaと、0.1から0.2μmの範囲の算術平均うねりWsaとを有する。ロールの表面の山と谷のレベル(平坦領域)の標準偏差(σ)は、それぞれ、約0.5μmと1.7μmである。平滑性の割合(非テクスチャ加工の表面)は約38%である。
【0058】
図10と11による表面テクスチャを有する薄い板金は、以下の機能的特性:改善された塗装外観、加工プロセス時の低摩耗性、低い摩擦係数、低いスリップスティック効果に対する傾向、適合した油量の場合の優れた加工性、および高い加工力の場合でも独立したテクスチャを実現できること、を有する。
【0059】
図8と9は、本発明によりテクスチャ加工されたローラの表面の追加的な実施例を示す。
図8にかかるテクスチャでは、並んで重複しているディンプルが、ロール表面をI字形の材料テクスチャに区切るように配列されており、これらは互いに対してヘリンボーン状のパターンで配列されている。したがって並んでいるディンプルのテクスチャの列は、この場合、
図8の上段のテクスチャに記されたX字記号で中断している。
【0060】
図9にかかるテクスチャでは、並んで重複しているディンプルが、ロール表面を十字形の材料テクスチャに区切るように配列されている。並んでいるディンプルのテクスチャの列は、下段のテクスチャに記された二つのX字記号によって、この場合も中断される。
【0061】
本質的に、レーザパルスエネルギーやスキンパスの程度を変えることにより、ローラの表面テクスチャと得られる薄い板金の表面テクスチャとの算術平均粗さRaを、増加または減少させることができる。
【0062】
本発明の設計は、図面に示す実施例に限定されない。むしろ、本発明は追加的な変形例を含む。したがって、例えば並んで重複しているディンプル(レーザクレーター)が、ロールの表面を、C字形またはX字形の材料テクスチャに区切るようにこれらを配列することもできる。