(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334572
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】フュージョン形成可能なアルミノケイ酸リチウムガラスセラミック
(51)【国際特許分類】
C03C 10/12 20060101AFI20180521BHJP
C03C 10/10 20060101ALI20180521BHJP
C03C 10/14 20060101ALI20180521BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20180521BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20180521BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C03C10/12
C03C10/10
C03C10/14
C03B17/06
C03C3/095
C03C3/097
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-560263(P2015-560263)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公表番号】特表2016-511215(P2016-511215A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】US2014018504
(87)【国際公開番号】WO2014134100
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2017年1月30日
(31)【優先権主張番号】61/770,376
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ビール,ジョージ ハルゼー
(72)【発明者】
【氏名】ボーク,ヘザー デブラ
(72)【発明者】
【氏名】マイヨレ,アレクサンドル ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ウェラー,マーク オーウェン
【審査官】
山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−019479(JP,A)
【文献】
特公昭42−020559(JP,B1)
【文献】
特開平10−226532(JP,A)
【文献】
特開平09−035234(JP,A)
【文献】
特開2000−143290(JP,A)
【文献】
特開2001−126236(JP,A)
【文献】
特開2008−001590(JP,A)
【文献】
特開2009−084076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックにおいて、
ケイ酸リチウム結晶化成分及びケイ酸リチウムアルミニウム結晶化成分;並びに
ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む残部のガラス成分;
を含み、
前記ガラスセラミックは、SiO2‐Al2O3‐Li2O系中のβスポジュメン‐二ケイ酸リチウム‐トリジマイトの三元共晶、及びSiO2‐Al2O3‐K2O系中の正長石‐トリジマイトの二元共晶によって画定される領域内にある組成を有し、前記三元共晶及び前記二元共晶は1000℃未満の温度で発生し、および該ガラスセラミックは、72質量%〜85質量%のSiO2、7質量%〜11質量%のAl2O3、4.3質量%〜6.5質量%のLi2O及び4質量%〜9質量%のK2Oを含む、ガラスセラミック。
【請求項2】
Na2Oは、モル基準で前記ガラスセラミック中のK2Oの最高75%を置換する、請求項1記載のガラスセラミック。
【請求項3】
最高で5質量%のBaOを更に含み、
ここで、BaOは前記ガラスセラミック中のK2Oの最高で3.2質量%を置換する、請求項1又は2記載のガラスセラミック。
【請求項4】
最高で3.0質量%のZnOを更に含み、
ここで、ZnOはAl2O3の最高で3.8質量%を置換する、請求項1〜3いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項5】
0.1質量%〜5.0質量%のP2O5を更に含む、請求項1〜4いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項6】
0.0001質量%〜0.1質量%の少なくとも1つの貴金属、並びに0.005質量%〜0.5質量%のCeO2、0.005質量%〜0.5質量%のSnO2及び0.005質量%〜0.5質量%のSb2O3のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項1〜5いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項7】
少なくとも100kpoise(10kPa・s)の液相線粘度を有するガラスから形成される、請求項1〜6いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項8】
前記残部のガラス成分は、石英・長石含有組成を有し、前記ガラスセラミックの少なくとも20質量%を構成する、請求項1〜7いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項9】
前記ケイ酸リチウムアルミニウム結晶化成分は、ベータスポジュメン結晶構造又はベータ石英結晶構造を有する、請求項1〜8いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項10】
ガラスセラミックを作製する方法において、
a.ガラスをスロットドロー加工又はフュージョンドロー加工するステップであって、前記ガラスは、72質量%〜85質量%のSiO2、7質量%〜11質量%のAl2O3、4.3質量%〜6.5質量%のLi2O及び4質量%〜9質量%のK2Oを含み、かつ少なくとも100kP(10kPa・s)の液相線粘度を有する、ステップ;並びに
b.前記ガラスを、600℃〜900℃の範囲の温度において加熱して、ガラスセラミックを形成するステップであって、前記ガラスセラミックの形成は、ケイ酸リチウム成分及びアルミノケイ酸リチウム成分を結晶化させることを含み、前記ガラスセラミックは、ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む残部のガラス成分を有する、ステップ
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、2013年2月28日出願の米国仮特許出願第61/770376号の優先権の利益を主張するものであり、本出願の内容は上記出願の内容に依存するものであり、参照によってその全体を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示はガラスセラミックに関する。より詳細には、本開示はダウンドロープロセスによって形成可能なガラスセラミックに関する。更に詳細には、本開示はフュージョン形成可能なガラスセラミックに関する。
【背景技術】
【0003】
二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、高い強度及び破壊靭性が望まれる用途において頻繁に使用される。ダウンドロー及びフュージョンドローといったダウンドロー技術は、ガラスの薄いシートを製造できる。しかしながらこのような方法は、ガラス又はガラスセラミックの液相線温度における粘度(液相線粘度)が、これらのプロセスによって形成するために十分なものであることを必要とする。
【発明の概要】
【0004】
ダウンドロー可能なガラスセラミックを提供する。このガラスセラミックは、フュージョンドロー法及びスロットドロー法といったダウンドロー技術による母材ガラスの形成を可能とする液相線粘度をもたらす組成を有する。得られるガラスセラミックは、外観が白色又は半透明であり、フュージョン形成ガラスの熱処理を通して達成された高い強度を有する。
【0005】
従って本開示の一態様は、ケイ酸リチウム結晶化成分及びケイ酸リチウムアルミニウム結晶化成分並びに残部のガラス成分を含む、ガラスセラミックを提供することである。残部のガラス成分は、ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む。ガラスセラミックは、SiO
2‐Al
2O
3‐Li
2O系中のβスポジュメン二ケイ酸リチウム‐トリジマイトの三元共晶、及びSiO
2‐Al
2O
3‐K
2O系中の正長石‐トリジマイトの二元共晶によって画定される領域内にある組成を有し、上記三元共晶及び二元共晶は約1000℃未満の温度で発生する。
【0006】
本開示の第2の態様は、約72質量%〜約85質量%のSiO
2、約7.0質量%〜約11質量%のAl
2O
3、約4.3質量%〜約6.5質量%のLi
2O及び約4質量%〜約9質量%のK
2Oを含むセラミック化可能なガラスを提供することであり、上記ガラスは少なくとも約100kP(10kPa・s)の液相線粘度を有する。
【0007】
本開示の第3の態様は、ガラスセラミックを作製する方法を提供することである。本方法は:約72質量%〜約85質量%のSiO
2、約7.0質量%〜約11質量%のAl
2O
3、約4.3質量%〜約6.5質量%のLi
2O及び約4質量%〜約9質量%のK
2Oを含むガラスをダウンドローするステップであって、上記ガラスは少なくとも約100kP(10kPa・s)の液相線粘度を有する、ステップ;並びに上記ガラスを加熱してガラスセラミックを形成するステップを含む。ガラスを加熱してガラスセラミックを形成するステップは、ケイ酸リチウム成分及びアルミノケイ酸リチウム成分を結晶化するステップを含む。このガラスセラミックは、ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む、残部のガラス成分も含む。
【0008】
以上の及びその他の態様、利点及び顕著な特徴は、以下の詳細な説明及び添付の請求項から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、図面に示す複数の図を通して、類似する又は対応する部品は類似の参照符号で示す。また、そうでないことが明記されていない限り、「上部(top)」「底部(bottom)」「外側(outward)」「内側(inward)」等は便宜上使用する語句であり、限定する用語として解釈されるべきではないことを理解されたい。また、ある群が、複数の要素の群及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含むものとして記載されている場合、この群は、列挙された複数の要素のうちいずれの数の要素を別個に又は互いに組み合わせて含むか、本質的に構成されるか、又は構成されることを理解されたい。同様に、群が複数の要素の群又はそれらの組合せの少なくとも1つから構成されるものとして記載されている場合、この群は、列挙された複数の要素のうちいずれの数の要素を別個に又は互いに組み合わせて構成されることを理解されたい。そうではないことが明記されていない限り、値の範囲を列挙する場合、この値の範囲は、この範囲の上限及び下限並びにその間のいずれの範囲を含む。そうでないことが明記されていない限り、本明細書で用いる名詞は、「少なくとも1つの」又は「1つ以上の」を意味する。本明細書に開示された様々な特徴を、いずれの及び全ての組合せで用いてよい。
【0010】
本明細書において使用される場合、用語「ガラスセラミック(glass ceramic)」は、前駆体ガラスの制御下での結晶化によって形成された多結晶質材料を指す。ガラスセラミックは典型的には、少なくとも1つの結晶相及び少なくとも1つのガラス相を含む。一般に、このようなガラスセラミックを製造するための方法は、慣例的に以下の3つの基本ステップを含む:第1に、選択された金属酸化物を含有するガラス形成バッチを溶融するステップ;第2に、溶融物を、少なくともその変形範囲未満の温度まで冷却し、同時に所望のジオメトリのガラス体を形成するステップ;及び第3に、上記ガラス体をガラスの変形範囲を超える温度まで制御下で加熱して、その場で結晶を生成するステップ。ガラス中に核を発現させるために、ガラスは初め、ある期間に亘って上記変形範囲内又は上記変形範囲内を多少超える温度まで加熱されることになるが、自己核形成性であることが公知であり従って核の発現を必要としない特定の組成物が存在する。その後、核から結晶が成長できる温度まで温度を上昇させる。得られた結晶は典型的には均一に分布しており、微粒子化されている。内部核形成により、ガラスセラミックは、極めて狭い粒径分布及びガラスホスト全体に亘る結晶の非常に均一な分散といった好ましい性質を有することができる。
【0011】
本明細書では概して、フュージョンドローガラス形成法について説明するが、以下の説明は例えばスロットドロー法といった他のダウンドローガラス形成法にも等しく適用可能であることを理解されたい。
【0012】
なお、本明細書において、用語「略(substantially)」及び「約(about)」は、いずれの定量比較、値、測定、又は他の表現が備え得る不確実性の固有の程度を表すために使用され得る。本明細書においてこれらの用語はまた、ある量的表現が、争点となる主題の基本的な機能に変更をもたらすことなく規定の基準から変化し得る程度を表すために使用される。
【0013】
二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、主にその高い強度及び破壊靭性から、歯科用途及び他の用途に一般に使用される。このようなガラスセラミックは、フュージョンプロセスによる直接形成を可能とするために十分に高い液相線粘度を有していない。というのは、このプロセスが必要とする液相線における粘度は、ガラスセラミックの前駆体ガラスにおいて得られる液相線における粘度よりも遥かに高いためである。特定の組成物及び実装される形成パラメータに応じて、フュージョンプロセスは、少なくとも75000ポアズ(7500Pa・s)、場合によっては100000ポアズ(10000Pa・s)を優に超える、及び更に典型的には500000ポアズ(50000Pa・s)超の液相線における粘度を必要とする。ガラスセラミックの母材ガラスは、容易に結晶化するよう設計されており、これは典型的には10000ポアズ(1000Pa・s)以下の液相線における粘度を有し、20000ポアズ(2000Pa・s)を超えることはなく、従ってフュージョン形成に供することができない。
【0014】
このようなガラスセラミックを形成する1つの方法は、ガラスをフュージョン形成し、リチウム含有塩浴中でガラスをイオン交換して、ガラス中のナトリウムをリチウムに交換し、続いてガラスをセラミック化してガラスセラミックを形成することである。このプロセスは高温の浴を必要とし、複雑かつ高価である。
【0015】
本明細書では、いくつかの実施形態では少なくとも約100キロポアズ(kpoise)(10kPa・s)、いくつかの実施形態では少なくとも120kpoise(12kPa・s)、及び他の実施形態では少なくとも約150kpoise(15kPa・s)の液相線粘度を有するガラスセラミック組成物について説明する。この高い液相線粘度により、「母材(parent)」ガラス(即ち最終的にガラスミックがそれから形成されるガラス)は、スロットドロー又はフュージョンドロー等といったダウンドロー法で形成できるようになる。いくつかの実施形態では、母材ガラスはフュージョンドロー法で形成される。本明細書に記載のガラスセラミックは、初めに母材ガラスをダウンドローし、続いてこの母材ガラスを再加熱又は「セラミック化(ceramming)」によってガラスセラミックに変換することによって形成される。
【0016】
フュージョンドロープロセスは、溶融ガラス原材料を受け取るためのチャネルを有するドロー用タンクを用いる。チャネルは、チャネルの両側に、チャネルの長さに沿った、頂部が開いた堰を有する。チャネルが溶融材料で充填されると、溶融ガラスは堰からあふれる。溶融ガラスは重力によって、ドロー用タンクの外側表面へと流れ落ちる。これらの外側表面は下方及び内向きに延在して、縁部においてドロー用タンクの下側で接合する。2つの流れるガラスの表面はこの縁部において接合して融合し、単一の流れるシートを形成する。フュージョンドロー法は、チャネルを越えて流れる2つのガラスフィルムが融合するため、得られるガラスシートのいずれの外側表面も装置のいずれの部分に接触しないという利点を提供する。これにより表面特性は上述のような接触によって影響されない。
【0017】
スロットドロー法はフュージョンドロー法とは異なる。ここでは溶融原材料ガラスは、ノズルを有する開放スロットを有するドロー用タンクに供給され、上記ノズルは上記スロットの長さをドロー用タンクの底部まで延長する。溶融ガラスはスロット/ノズルを通って流れ、スロット/ノズルを通してアニーリング領域へと、連続したシートとして下向きに引き出される。スロットドロープロセスは、フュージョンダウンドロープロセスにおけるように2つのシートを融合するのではなく、スロットを通して単一のシートを引き出すだけであるため、フュージョンドロープロセスに比べて薄いシートを提供する。
【0018】
ガラスセラミックは、結晶ケイ酸リチウム成分又は相、結晶ケイ酸リチウムアルミニウム成分又は相、及び硬性の残部のガラス成分を含む。残部のガラス成分は、ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む。いくつかの実施形態では、残部のガラス成分はガラスセラミックの少なくとも約20質量%を構成するが、例えばシート等の得られる物品の結晶化に際しての望ましくない変形を防止するのに十分な硬性を有する。ガラスセラミックは外観が白色又は半透明であり、フュージョン形成ガラスの直接的な熱処理を通して達成された良好な強度を有する。
【0019】
十分に高い粘度及び低い液相線温度を有する母材ガラスを提供するために、いくつかの実施形態では、ガラスセラミック組成を、SiO
2‐Al
2O
3‐Li
2O系中のβスポジュメン二ケイ酸リチウム‐トリジマイトの三元共晶、及びSiO
2‐Al
2O
3‐K
2O系中の正長石‐トリジマイトの二元共晶によって画定される領域内とし、上記三元共晶及び二元共晶は約1000℃未満の温度で発生する。母材ガラスの熱処理又は「セラミック化」に際して、2つのリチウム含有結晶相、即ち二ケイ酸リチウム(Li
2Si
2O
3)及びβ石英固溶体が形成され、石英・長石含有組成の粘性ガラスを残す。
【0020】
いくつかの実施形態では、ガラスセラミック組成物は、約72質量%〜約85質量%のSiO
2、約7質量%〜約11質量%のAl
2O
3、約4.3質量%〜約6.5質量%のLi
2O及び約4質量%〜約9質量%のK
2Oを含む。特定の実施形態では、ガラスセラミック中のK
2Oの少なくとも一部分を、等モル数のNa
2Oで置換してよい。いくつかの実施形態では、Na
2Oは、モル基準でガラスセラミック中に存在するK
2Oの最高約75%を置換する。いくつかの実施形態では、セラミック化可能なガラスは更に、BaO及びZnOのうちの少なくとも一方を含んでよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック中のK
2Oの一部分を、等モル数のBaOで置換してよい。特定の実施形態では、約3.2質量%のK
2Oを約5質量%のBaOで置換してよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック中のAl
2O
3を、等モル数のZnOで置換してよい。特定の実施形態では、約3.8質量%のAl
2O
3を約3.0質量%のZnOで置換してよい。五酸化二リン(P
2O
5)を核形成剤として添加してよい。従っていくつかの実施形態では、ガラスセラミック組成物は約0.1質量%〜約5.0質量%のP
2O
5を更に含んでよい。貴金属(即ちAg、Au、Pt、Pd及びRh)もまた、核形成剤として作用し得る。他の実施形態では、ジルコニア(ZrO
2)又はチタニア(TiO
2)を核形成剤として使用してよい。このような実施形態では、ガラスセラミック組成物は最高約1.5質量%のZrO
2及び/又は最高約3質量%のTiO
2を含んでよい。従ってガラスセラミック組成物は、いくつかの実施形態では、約0.0001質量%〜約0.1質量%の少なくとも1つの貴金属を更に含んでよい。ガラスセラミックが銀を含む場合、SnO
2及びSb
2O
3と共にCeO
2等の光増感剤も組成物に添加する。これらの金属は一般に、得られるガラスセラミックに灰色又は褐色の色合いを付与し、CeO
2、SnO
2及びSb
2O
3はそれぞれ、約0.005質量%〜約0.5質量%の範囲内で存在してよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミックはTiO
2及び/又はZrO
2を略含まないか、0質量%含有してよい。
【0021】
セラミック化可能な母材ガラスも提供する。このセラミック化可能なガラスは、約72質量%〜約83質量%のSiO
2、約8質量%〜約11質量%のAl
2O
3、約4.3質量%〜約5.8wtの%Li
2O及び約4質量%〜約9質量%のK
2Oを含む。セラミック化可能なガラスは、少なくとも約100kpoise(10kPa・s)の液相線粘度を有し、いくつかの実施形態ではこのガラスは少なくとも約150kpoise(15kPa・s)の液相線粘度を有する。
【0022】
特定の実施形態では、セラミック化可能なガラス中のK
2Oの少なくとも一部分を、等モル数のNa
2Oで置換してよい。いくつかの実施形態では、Na
2Oは、モル基準で上記セラミック化可能なガラス中に存在するK
2Oの最高約75%を置換する。いくつかの実施形態では、セラミック化可能なガラスは更に、BaO及びZnOのうちの少なくとも一方を含んでよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック中のK
2Oの一部分を、等モル数のBaOで置換してよい。特定の実施形態では、約3.2質量%のK
2Oを約5質量%のBaOで置換してよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック中のAl
2O
3を、等モル数のZnOで置換してよい。特定の実施形態では、約3.8質量%のAl
2O
3を約3.0質量%のZnOで置換してよい。いくつかの実施形態では、セラミック化可能なガラスは約0.1質量%〜約5.0質量%のP
2O
5を更に含んでよい。いくつかの実施形態では、セラミック化可能なガラスは、約0.0001質量%〜約0.1質量%の少なくとも1つの貴金属(即ちAg、Au、Pt、Pt及び/又はPd)を更に含む。
【0023】
本明細書に記載のガラスセラミックを作製する方法も提供する。このガラスセラミックは、結晶ケイ酸リチウム成分又は相、結晶ケイ酸リチウムアルミニウム成分又は相、及び残部のガラス成分を含み、この残部のガラス成分は、ナトリウム及びカリウムのうちの少なくとも一方を含むアルカリアルミノケイ酸ガラスを含む。本方法は、母材ガラスをダウンドロー加工するステップを含む。いくつかの実施形態では、本方法は母材ガラスをフュージョン形成又はフュージョンドロー加工するステップを含み、他の実施形態では、本方法は母材ガラスをスロットドロー加工するステップを含む。母材ガラスは、約72質量%〜約85質量%のSiO
2、約7質量%〜約11質量%のAl
2O
3、約4.3質量%〜約6.5質量%のLi
2O及び約4質量%〜約9質量%のK
2Oを含む。母材ガラスは、少なくとも約100kpoise(10kPa・s)の液相線粘度、いくつかの実施形態では少なくとも約150kpoise(15kPa・s)の液相線粘度を有する。フュージョン形成された母材ガラスを、次に加熱してガラスセラミックを形成する。この加熱ステップでは、ケイ酸リチウム成分及びアルミノケイ酸塩成分の両方が結晶化し、残部のアルカリアルミノケイ酸ガラス成分が形成されるため、ガラスセラミックが形成される。
【0024】
結晶化に必要な熱処理は柔軟なものであるが、最高温度は900℃を超えるべきでない。従っていくつかの実施形態では、ガラスを加熱してガラスセラミックを形成するステップは、約600℃〜約900℃の範囲の温度において、フュージョン形成又はダウンドロー加工されたガラスを加熱するステップを含む。いくつかの実施形態では、この熱処理は、2時間に亘って600℃に維持し、続いて4時間に亘って800℃に維持した後、炉内速度(即ち電源を遮断した場合の炉の冷却速度)で室温まで冷却するステップを含む。上記維持の前及び上記維持の間の炉内速度は典型的には300℃/時間であるが、これより遅い及び速い(少なくとも最高500℃/時間)速度も可能である。1時間未満というより短い800℃での熱処理も可能である。
【0025】
本明細書に記載のダウンドロー加工された及びフュージョン形成されたガラス及びガラスセラミックにより、フュージョンプロセスによって薄いシート及び積層体を形成できるようになり、これは、ダウンドロー加工された及び/又はフュージョン形成されたガラスでは容易に生成されない特性、即ち不透明性、半透明性、パステルカラーの達成、耐摩耗性及び高い破壊靭性を提供する。更に、ダウンドロー加工及び/又はフュージョンによってガラスセラミックを直接形成すれば、当該技術分野において公知の他の方法によって作製されたガラスセラミックに比べて複雑でなく、かつ恐らく安価である。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は、ガラスセラミック、セラミック化可能な母材ガラス、及びガラスセラミックを作製する方法の特徴及び利点を例示するものであり、本開示又は添付の請求項をこれら実施例に限定することは全く意図されていない。
【0027】
実施例1
79.5質量%のSiO
2、9.2質量%のAl
2O
3、5.3質量%のLi
2O、6.0質量%のK
2O及び0.5質量%のP
2O
5という組成を有する母材ガラスから、ガラスセラミックを作製した。このガラスは、測定されたアニーリング温度524℃及び歪み点480℃を有する。液相線温度は950℃であり、この温度における粘度は410000ポアズ(41000Pa・s)、即ち410kpoise(41kPa・s)であった。このガラスをまず2時間に亘って650℃で加熱した。続いて温度を850℃まで上昇させ、この温度に4時間維持して、二ケイ酸リチウム、β石英固溶体及び残部の一般的な石英・長石含有組成のアルミノケイ酸カリウムを含むガラスセラミックを製造した。この残部のガラスは、結晶化プロセス中の物品の変形を防止するのに十分な硬性を有していた。
【0028】
実施例2
72.5質量%のSiO
2、8.2質量%のAl
2O
3、4.3質量%のLi
2O、2.6質量%のNa
2O、5.2質量%のK
2O、6.2質量%のBaO、0.3質量%のZnO、0.03質量%のCeO
2、0.5質量%のSb
2O
3、0.1質量%のAg及び0.00042質量%のAuという組成を有する母材ガラスから、ガラスセラミックを作製した。このガラスは、測定されたアニーリング温度488℃及び歪み点446℃を有する。液相線温度は850℃であり、この温度における粘度は446000ポアズ(44600Pa・s)(446kpoise(44.6kPa・s))であった。このガラスをまず30分間に亘って560℃で加熱した。続いて温度を600℃まで上昇させ、このガラスをこの温度に1時間維持した。続いて温度を850℃まで上昇させ、ガラスをこの温度に2時間維持して、二ケイ酸リチウム、β石英固溶体及び残部のガラスの一般的な石英・長石含有組成のアルカリアルミノケイ酸塩からなるガラスセラミックを製造した。この残部のガラスは、結晶化プロセス中の物品の変形を防止するのに十分な硬性を有していた。
【0029】
典型的な実施形態を例示目的で明示してきたが、上述の記載は本開示又は添付の請求項の範囲を限定するものと見做されるべきではない。従って当業者は、本開示又は添付の請求項の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な修正例、改変例及び代替例を実施してよい。