(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記動力線接続部は、前記ケーシングに形成される貫通孔と、前記動力線の端部外周を包囲して前記貫通孔に差し込み固定されるスリーブとで構成される、請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態になるインホイールモータ動力線の配線構造を示す模式図であり、車幅方向内側からみた状態を表す。
図2は同実施形態を示す模式図であり、車両前方からみた状態を表す。
図3は同実施形態を示す模式図であり、上方からみた状態を表す。第1実施形態では、車体101(
図2に車体の車幅方向外側部分のみ示す)の車幅方向外側に車輪ホイールW、インホイールモータ駆動装置10、およびサスペンション装置70が配置される。また車輪ホイールW、インホイールモータ駆動装置10、およびサスペンション装置70は車体101の車幅方向両側に左右対称に配置され、電動車両を構成する。
【0021】
車輪ホイールWの外周には仮想線で示すタイヤTが嵌合する。車輪ホイールWおよびタイヤTは車輪を構成する。車輪ホイールWのリム部Wrは、車輪の内空領域を区画する。かかる内空領域にはインホイールモータ駆動装置10が配置される。インホイールモータ駆動装置10は車輪ホイールWと連結して車輪を駆動する。
【0022】
サスペンション装置70はストラット式サスペンション装置であり車幅方向に延びるロアアーム71と、ロアアーム71よりも上方に配置されて上下方向に延びるストラット76を含む。ストラット76は車輪ホイールWおよびインホイールモータ駆動装置10よりも車幅方向内側に配置され、ストラット76の下端がインホイールモータ駆動装置10と結合し、ストラット76の上端が車輪ホイールWよりも上方で車体101と連結する。なおストラット76と、車輪ホイールWの上部と、インホイールモータ駆動装置10の上部は、車体101の車幅方向外側に形成されるホイールハウス102に収容される。
【0023】
ストラット76は上端領域にショックアブソーバ77を内蔵して上下方向に伸縮可能なサスペンション部材である。ショックアブソーバ77の外周には仮想線で概略を示すコイルスプリング78が配置され、ストラット76に作用する上下方向の軸力を緩和する。ストラット76の上端部および中央部には、コイルスプリング78の上端および下端を挟んで保持する1対のスプリングシート79b,79cが設けられる。ショックアブソーバ77の内部にはストラット76に作用する軸力を減衰させるダンパーが設けられる。
【0024】
ロアアーム71は、インホイールモータ駆動装置10の軸線Oよりも下方に配置されるサスペンション部材であって、車幅方向外側端72および車幅方向内側端73d,73fを含む。ロアアーム71は、車幅方向外側端72で、ボールジョイント60を介してインホイールモータ駆動装置10に連結される。またロアアーム71は車幅方向内側端73d,73fで図示しない車体側メンバに連結される。車幅方向内側端73d,73fを基端とし、車幅方向外側端72を遊端として、ロアアーム71は上下方向に揺動可能である。なお車体側メンバとは説明される部材からみて車体側に取り付けられる部材をいう。車幅方向外側端72とストラット76の上端76aを結ぶ直線は、上下方向に延びて転舵軸線Kを構成する。転舵軸線Kは基本的には上下方向に延びるが、車幅方向および/または車両前後方向に若干傾斜してもよい。なお図中において車幅方向内側端73d,73fを区別しない場合、単に符号73を付してある。
【0025】
ロアアーム71よりも上方にはタイロッド80が配置される。タイロッド80は車幅方向に延び、タイロッド80の車幅方向外側端がインホイールモータ駆動装置10と回動可能に連結する。タイロッド80の車幅方向内側端は図示しない操舵装置と連結する。操舵装置はタイロッド80を車幅方向に進退動させて、インホイールモータ駆動装置10および車輪ホイールWを転舵軸線K回りに転舵させる。
【0026】
次にインホイールモータ駆動装置につき説明する。
【0027】
図4は
図1〜
図3に示すインホイールモータ駆動装置を取り出して示す模式図であり、車幅方向外側からみた状態を表す。
図5はインホイールモータ駆動装置を示す横断面図であり、車幅方向外側からみた状態を模式的に表す。
図5中、減速部内部の各歯車は歯先円で表され、個々の歯を図略する。
図6はインホイールモータ駆動装置を模式的に示す展開断面図である。
図6で表される切断面は、
図5に示す軸線Mおよび軸線Nfを含む平面と、軸線Nfおよび軸線Nlを含む平面と、軸線Nlおよび軸線Oを含む平面とを、この順序で接続した展開平面である。
図7は、インホイールモータ駆動装置を示す縦断面図であり、車輪およびサスペンション装置とともに表す。図面の煩雑を避けるため
図7中、減速部内部の各歯車は図略される。
【0028】
インホイールモータ駆動装置10は、
図6に示すように仮想線で表される車輪ホイールWの中心と連結する車輪ハブ軸受部11と、車輪の車輪ホイールWを駆動するモータ部21と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部11に伝達する減速部31を備え、電動車両のホイールハウス(図示せず)に配置される。モータ部21および減速部31は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oと同軸に配置されるのではなく、
図5に示すように車輪ハブ軸受部11の軸線Oからオフセットして配置される。インホイールモータ駆動装置10は、公道で電動車両を時速0〜180km/hで走行させることができる。
【0029】
車輪ハブ軸受部11は、
図6に示すように車輪ホイールWと結合する車輪ハブとしての外輪12と、外輪12の中心孔に通される内側固定部材13と、外輪12と内側固定部材13との環状隙間に配置される複数の転動体14を有し、車軸を構成する。内側固定部材13は、非回転の固定軸15と、1対のインナーレース16と、抜け止めナット17と、キャリア18とを含む。固定軸15は根元部15rが先端部15eよりも大径に形成される。インナーレース16は、根元部15rと先端部15eの間で、固定軸15の外周に嵌合する。抜け止めナット17は固定軸15の先端部15eに螺合して、抜け止めナット17と根元部15rの間にインナーレース16を固定する。
【0030】
固定軸15は軸線Oに沿って延び、減速部31の外郭をなす本体ケーシング43を貫通する。固定軸15の先端部15eは、本体ケーシング43の正面部分43fに形成される開口43pを貫通し、正面部分43fよりも車幅方向外側へ突出する。固定軸15の根元部15rは、本体ケーシング43の背面部分43bよりも車幅方向内側から、背面部分43bに形成される開口43qを貫通する。なお正面部分43fと背面部分43bは軸線O方向に間隔を空けて互いに向き合う壁部分である。根元部15rにはキャリア18が取付固定される。キャリア18は本体ケーシング43の外部でサスペンション装置70およびタイロッド80と連結する。
【0031】
転動体14は、軸線O方向に離隔して複列に配置される。軸線O方向一方のインナーレース16の外周面は、第1列の転動体14の内側軌道面を構成し、外輪12の軸線O方向一方の内周面と対面する。軸線O方向他方のインナーレース16の外周面は、第2列の転動体14の内側軌道面を構成し、外輪12の軸線O方向他方の内周面と対面する。以下の説明において、車幅方向外側(アウトボード側)を軸線方向一方ともいい、車幅方向内側(インボード側)を軸線方向他方ともいう。
図6の紙面左右方向は、車幅方向に対応する。外輪12の内周面は転動体14の外側軌道面を構成する。
【0032】
外輪12の軸線O方向一方端にはフランジ部12fが形成される。フランジ部12fはブレーキディスクBDおよび車輪ホイールWのスポーク部Wsと同軸に結合するための結合座部を構成する。外輪12はフランジ部12fでブレーキディスクBDおよび車輪ホイールWと結合して、車輪ホイールWと一体回転する。なお図示しない変形例として、フランジ部12fは周方向に間隔を空けて外径側へ突出する突出部であってもよい。
【0033】
モータ部21は
図6に示すように、モータ回転軸22、ロータ23、ステータ24、モータケーシング25、モータケーシングカバー25vを有し、この順序でモータ部21の軸線Mから外径側へ順次配置される。モータ部21は、インナーロータ、アウターステータ形式のラジアルギャップモータであるが、他の形式であってもよい。例えば図示しなかったがモータ部21はアキシャルギャップモータであってもよい。
【0034】
モータ回転軸22およびロータ23の回転中心になる軸線Mは、車輪ハブ軸受部11の軸線Oと平行に延びる。つまりモータ部21は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oから離れるようオフセットして配置される。モータ回転軸22の先端部を除いたモータ部21の大部分の軸線方向位置は、
図6に示すように内側固定部材13の軸線方向位置と重ならない。モータケーシング25は筒状であり、軸線M方向一方端で本体ケーシング43の背面部分43bと結合し、軸線M方向他方端で蓋状のモータケーシングカバー25vに封止される。モータ回転軸22の両端部は、転がり軸受27,28を介して、モータケーシング25およびモータケーシングカバー25vに回転自在に支持される。モータ部21は外輪12および車輪を駆動する。
【0035】
図1に示すようにインホイールモータ駆動装置10の上部には動力線端子箱25bが設けられる。動力線端子箱25bはモータケーシング25(
図6)の上部およびモータケーシングカバー25v(
図6)の上部に跨って形成される。本実施形態の動力線端子箱25bは、モータケーシングカバー25v(
図6)に形成される3個の動力線接続部91を有し、三相交流電力を受電する。各動力線接続部91には動力線93の一端が接続される。動力線93の芯線は、動力線端子箱25b内部で、ステータ24のコイルから延びる導線と接続する。
【0036】
モータケーシングカバー25vの中心部には信号線端子箱25cが形成される。信号線端子箱25cは、動力線端子箱25bから離隔する。信号線端子箱25cは
図6に示すように軸線Mと交差するように配置される。信号線端子箱25cは回転角センサ84を収容する。回転角センサ84は、モータ回転軸22の軸線方向端部に設けられて、モータ回転軸22の回転角度を検出する。信号線端子箱25cには信号線接続部85が設けられる。信号線接続部85は信号線端子箱25cの壁部分と、該壁部分を貫通する貫通孔と、この貫通孔に近接する壁部分に設けられた雌ねじ孔(図示せず)を有する。さらに信号線接続部85にはスリーブ86が附設される、貫通孔にはスリーブ86および信号線87が通される。スリーブ86は、筒状体であり、信号線87の外周に全周で密着して、信号線87を保護し、貫通孔と信号線87との環状隙間を封止する。スリーブ86の外周面には、スリーブ外径方向に突出する舌部86tが形成される。舌部86tおよび信号線接続部85の雌ねじ孔には
図6に示さないボルトがねじ込まれ、これによりスリーブ86は信号線接続部85に取付固定される。
【0037】
信号線87は導電体からなる複数の芯線と、複数の芯線を束ねるように被覆する絶縁体の被覆部からなり、屈曲可能である。信号線87の一端は、信号線接続部85と接続する。図示はしなかったが信号線87は一端から車体101(
図2)まで延びる。
【0038】
各動力線接続部91も、信号線接続部85と同様に構成され、動力線端子箱25bの壁部分と、該壁部分を貫通する貫通孔と、この貫通孔に近接する壁部分に設けられた雌ねじ孔(図示せず)を有する。さらに各動力線接続部91にはスリーブ92が附設される。貫通孔にはスリーブ92および動力線93の一端部が通される。スリーブ92および動力線93は、動力線接続部91の貫通孔から車体101側へ延出する。動力線93はスリーブ92に通されて、スリーブ92から車体101側へ延出する。各スリーブ92は、筒状体であり、動力線93の外周に密着して、動力線93を保護する。また各スリーブ92は、動力線93の一端部とともに動力線接続部91の貫通孔に差込固定されて、動力線93の一端部を保持し、さらに動力線93と貫通孔との環状隙間を封止する。スリーブ92を抜け止めするため、スリーブ92の外周面には、スリーブ外径方向に突出する舌部92tが形成される。舌部92tおよび動力線接続部91の雌ねじ孔には
図1に示すボルト91bがねじ込まれ、これによりスリーブ92は動力線接続部91に取付固定される。
【0039】
減速部31は、入力軸32、入力歯車33、中間歯車34、中間軸35、中間歯車36、中間歯車37、中間軸38、中間歯車39、出力歯車40、出力軸41、および本体ケーシング43を有する。入力軸32は、モータ回転軸22の先端部22eよりも大径の筒状体であって、モータ部21の軸線Mに沿って延びる。先端部22eは入力軸32の軸線M方向他方端部の中心孔に受け入れられて、入力軸32はモータ回転軸22と同軸に結合する。入力軸32の両端は転がり軸受42a,42bを介して、本体ケーシング43に支持される。入力歯車33は、モータ部21よりも小径の外歯歯車であり、入力軸32と同軸に結合する。具体的には入力歯車33は、入力軸32の軸線M方向中央部の外周に一体形成される。
【0040】
出力軸41は、外輪12の円筒部分よりも大径の筒状体であって、車輪ハブ軸受部11の軸線Oに沿って延びる。外輪12の軸線O方向他方端は、出力軸41の軸線O方向一方端の中心孔に受け入れられて、出力軸41は外輪12と同軸に結合する。出力軸41の軸線O方向両端部外周には転がり軸受44,46が配置される。出力軸41の軸線O方向一方端は転がり軸受44を介して、本体ケーシング43の正面部分43fに支持される。出力軸41の軸線O方向他方端は転がり軸受46を介して、本体ケーシング43の背面部分43bに支持される。出力歯車40は外歯歯車であり、出力軸41と同軸に結合する。具体的には出力歯車40は出力軸41の軸線O方向他方端の外周に一体形成される。
【0041】
2本の中間軸35,38は入力軸32および出力軸41と平行に延びる。つまり減速部31は四軸の平行軸歯車減速機であり、出力軸41の軸線Oと、中間軸35の軸線Nfと、中間軸38の軸線Nlと、入力軸32の軸線Mは互いに平行に延び、換言すると車幅方向に延びる。
【0042】
各軸の車両前後方向位置につき説明すると、
図5に示すように入力軸32の軸線Mは出力軸41の軸線Oよりも車両前方に配置される。また中間軸35の軸線Nfは入力軸32の軸線Mよりも車両前方に配置される。中間軸38の軸線Nlは出力軸41の軸線Oよりも車両前方かつ入力軸32の軸線Mよりも車両後方に配置される。図示しない変形例として入力軸32の軸線Mと、中間軸35の軸線Nfと、中間軸38の軸線Nlと、出力軸41の軸線Oが、この順序で車両前後方向に配置されてもよい。この順序は駆動力の伝達順序でもある。
【0043】
各軸の上下方向位置につき説明すると、入力軸32の軸線Mは出力軸41の軸線Oよりも上方に配置される。中間軸35の軸線Nfは入力軸32の軸線Mよりも上方に配置される。中間軸38の軸線Nlは中間軸35の軸線Nfよりも上方に配置される。なお複数の中間軸35,38は、入力軸32および出力軸41よりも上方に配置されれば足り、図示しない変形例として中間軸35が中間軸38よりも上方に配置されてもよい。あるいは図示しない変形例として出力軸41が入力軸32よりも上方に配置されてもよい。
【0044】
中間歯車34および中間歯車36は外歯歯車であり、
図6に示すように中間軸35の軸線Nf方向中央部と同軸に結合する。中間軸35の両端部は、転がり軸受45a,45bを介して、本体ケーシング43に支持される。中間歯車37および中間歯車39は外歯歯車であり、中間軸38の軸線Nl方向中央部と同軸に結合する。中間軸38の両端部は、転がり軸受48a,48bを介して、本体ケーシング43に支持される。
【0045】
本体ケーシング43は、減速部31および車輪ハブ軸受部11の外郭をなし、筒状に形成されて、
図5に示すように軸線O、Nf、Nl、Mを取り囲む。また本体ケーシング43は、
図7に示すように車輪ホイールWの内空領域に収容される。車輪ホイールWの内空領域はリム部Wrの内周面と、リム部Wrの軸線O方向一端と結合するスポーク部Wsとによって区画される。そして車輪ハブ軸受部11、減速部31、およびモータ部21の軸線方向一方領域が車輪ホイールWの内空領域に収容される。またモータ部21の軸線方向他方領域が車輪ホイールWから軸線方向他方へはみ出す。このように車輪ホイールWはインホイールモータ駆動装置10の大部分を収容する。
【0046】
図5を参照して本体ケーシング43は、軸線Oの真下部分43cと、出力歯車40の軸線Oから車両前後方向に離れた位置、具体的には入力歯車33の軸線Mの真下で、下方へ突出する部分とを有する。この突出する部分はオイルタンク47を形成し、真下部分43cよりも下方に位置する。
【0047】
図7を参照して真下部分43cの直下には、キャリア18の下端部18bと、ロアアーム71の車幅方向外側端72が配置され、ロアアーム71の車幅方向外側端72と下端部18bが、ボールジョイント60を介して方向自在に連結される。
図5に示すように軸線O方向にみてオイルタンク47は、略垂直な後側壁部43tと、傾斜した前側壁部43uによって区画され、下向きに細くなる三角形状にされる。なお後側壁部43tは間隔を空けてボールジョイント60(
図7)と車両前後方向に対面する。前側壁部43uはリム部Wr(
図7)のうち前側かつ下側の部分と対面する。
【0048】
ボールジョイント60は、
図7に示すようにボールスタッド61およびソケット62を含む。ボールスタッド61は上下方向に延び、上端に形成されるボール部61bおよび下端に形成されるスタッド部61sを有する。ソケット62は内側固定部材13に設けられて、ボール部61bを摺動可能に収容する。スタッド部61sは、ロアアーム71の車幅方向外側端72を上下方向に貫通する。スタッド部61sの下端外周には雄ねじが形成され、下方からナット72nが螺合することにより、スタッド部61sはロアアーム71に取付固定される。
図1に示すようにボールジョイント60は、オイルタンク47の下端よりも上方に位置する。ボールジョイント60およびオイルタンク47は、車輪ホイールWの内空領域に配置され、ボールジョイント60は軸線Oの直下に配置され、オイルタンク47はボールジョイント60から車両前後方向に離れて配置される。またボールジョイント60は、
図7に示すように背面部分43bよりも車幅方向外側に配置される。転舵軸線Kはボール部61bのボール中心を通過して上下方向に延び、固定軸15と、タイヤTの接地面Rを交差する。キャリア18の上端部は、ストラット76の下端に取付固定される。
【0049】
本体ケーシング43は、筒状であり、
図6に示すように入力軸32、入力歯車33、中間歯車34、中間軸35、中間歯車36、中間歯車37、中間軸38、中間歯車39、出力歯車40、出力軸41、および車輪ハブ軸受部11の軸線O方向中央部を収容する。本体ケーシング43の内部には潤滑油が封入され、減速部31は潤滑される。入力歯車33、中間歯車34、中間歯車36、中間歯車37、中間歯車39、出力歯車40ははすば歯車である。
【0050】
本体ケーシング43は、
図5に示すように真下部分43cおよびオイルタンク47を含む筒状部分と、
図6に示すように減速部31の筒状部分の軸線方向一方側を覆う略平坦な正面部分43fと、減速部31の筒状部分の軸線方向他方側を覆う略平坦な背面部分43bを有する。背面部分43bは、モータケーシング25と結合する。また背面部分43bは、固定軸15と結合する。
【0051】
正面部分43fには外輪12が貫通するための開口43pが形成される。開口43pには、外輪12との環状隙間を封止するシール材43sが設けられる。このため回転体になる外輪12は、軸線O方向一方端部を除いて本体ケーシング43に収容される。外輪12の軸線O方向他方端部内周面にはシール材43vが配置される。シール材43vは外輪12と背面部分43bの環状隙間を封止する。
【0052】
小径の入力歯車33と大径の中間歯車34は、減速部31の軸線方向他方側(モータ部21側)に配置されて互いに噛合する。小径の中間歯車36と大径の中間歯車37は、減速部31の軸線方向一方側(フランジ部12f側)に配置されて互いに噛合する。小径の中間歯車39と大径の出力歯車40は、減速部31の軸線方向他方側に配置されて互いに噛合する。このようにして入力歯車33と複数の中間歯車34、36,37,39と出力歯車40は、互いに噛合し、入力歯車33から複数の中間歯車34、36,37,39を経て出力歯車40に至る駆動伝達経路を構成する。そして上述した小径歯車および大径歯車の噛合により、入力軸32の回転は中間軸35で減速され、中間軸35の回転は中間軸38で減速され、中間軸38の回転は出力軸41で減速される。これにより減速部31は減速比を十分に確保する。複数の中間歯車のうち中間歯車34は、駆動伝達経路の入力側に位置する第1中間歯車となる。複数の中間歯車のうち中間歯車39は、駆動伝達経路の出力側に位置する最終中間歯車となる。
【0053】
図5に示すように、出力軸41、中間軸38、および入力軸32は、この順序で車両前後方向に間隔を空けて配置される。さらに中間軸35および中間軸38は、入力軸32および出力軸41よりも上方に配置される。かかる第1実施形態によれば、車輪ハブになる外輪12の上方に中間軸を配置し得て、外輪12の下方にオイルタンク47の配置スペースを確保したり、外輪12の真下にボールジョイント60(
図7)を受け入れる空間を確保したりすることができる。したがって上下方向に延びる転舵軸線Kを車輪ハブ軸受部11に交差して設けることができ、車輪ホイールWおよびインホイールモータ駆動装置10を転舵軸線K回りに好適に転舵させることができる。
【0054】
次にインホイールモータ動力線の配線構造につき説明する。
【0055】
図8および
図9はインホイールモータ駆動装置および動力線を示す模式図であり、
図8は車両後方からみた状態を、
図9は車両上方からみた状態を表す。第1実施形態では、インホイールモータ駆動装置10から車体101まで3本の動力線93が延びる。3本の動力線93は三相交流電力を車体101からモータ部21に供給する。各動力線93は導電体からなる芯線と、芯線の全周を覆う絶縁体の被覆部からなり、屈曲可能である。動力線93の一端は、各動力線接続部91およびスリーブ92によって、他端側が車両後方かつ車幅方向内側に向かって斜めの姿勢になるよう保持される。具体的には動力線93の一端部は、転舵していない直進方向の車軸(軸線O)に平行な基準線と角度θ°で交差して延びるよう、斜めに保持される。なお角度θは、インホイールモータ駆動装置10の最大転舵角α°以上90°以下の範囲に含まれる固定値である。なおθ=90°の場合、各動力線93の一端部は、車両前後方向と平行に延びる。動力線93の他端は、車体101に搭載されるインバータ103と接続する。
【0056】
各動力線93の一端部は、
図8に示すように転舵軸線K方向に間隔を空けて整列し、
図9に示すように転舵軸線K方向にみて重なるよう配置される。なお各動力線93の一端部は、
図9に示すように全数の動力線接続部91が上下に重なるよう配置される。
【0057】
各動力線93は、動力線93の一端と他端の間に、連続して延びる3つの領域を含む。これら3つの領域のうち、インホイールモータ駆動装置10と接続する側の領域をインホイールモータ駆動装置側領域93dと呼び、車体101と接続する側の領域を車体側領域93fと呼び、インホイールモータ駆動装置側領域93dと車体側領域93fの間の領域を中間領域93eと呼ぶ。
【0058】
インホイールモータ駆動装置側領域93dは、上下方向に延び、インホイールモータ駆動装置側領域93dの上側でインホイールモータ駆動装置10側と接続し、インホイールモータ駆動装置側領域93dの下側で中間領域93eと接続する。車体側領域93fは、上下方向に延び、車体側領域93fの下側で中間領域93eと接続し、車体側領域93fの上側で車体101側と接続する。中間領域93eは、中間領域93eの両側を上方とし中間領域93eの中間部分を下方として湾曲して延びる。
【0059】
各動力線接続部91と接続する各動力線93の一端部は、インホイールモータ駆動装置側領域93dに向かって水平方向に延出するが、間もなく下方へ向きを変えて延び、インホイールモータ駆動装置側領域93dの上側に連なる。インホイールモータ駆動装置側領域93dは、クランプ部材によって把持されない。
【0060】
図2に示すように複数の動力線93は、車体側領域93fよりも他端側で、クランプ部材94に束ねられ、上下方向に延びるよう保持される。このため車体側領域93fは、クランプ部材によって把持されることなく、クランプ部材94よりも下側で上下方向に延びる。クランプ部材94はブラケット95を介して車体101に取付固定される。ブラケット95をホイールハウス102よりも車幅方向内側に配置することにより、車体側領域93fをホイールハウス102よりも車幅方向内側に配線することができる。そしてホイールハウス102を迂回するように動力線93を配線し得るのみならず、ホイールハウス102の壁面をインホイールモータ駆動装置10に近づけてホイールハウス102を小さくすることができる。
【0061】
図2に示すように、クランプ部材94の上下方向位置は、3個の動力線接続部91のうち少なくとも1個の上下方向位置と重なる。このため全ての動力線93は、下向きに膨らむU字状に湾曲した状態で、インホイールモータ駆動装置10および車体101に保持される。
【0062】
図1に示すように、動力線端子箱25bおよび3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両前方に配置され、各動力線接続部91は車両後方に指向する。これによりインホイールモータ駆動装置側領域93dを転舵軸線Kの近傍に配線することができる。あるいは図示しない変形例として、動力線端子箱25bおよび3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両後方に配置され、各動力線接続部91は車両前方に指向してもよい。
【0063】
また車輪ホイールWが転舵しない直進状態で、3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両前方に配置され、クランプ部材94は軸線Oよりも車両後方に配置される。これによりインホイールモータ駆動装置側領域93dを転舵軸線Kの近傍に配線することができる。あるいは図示しない変形例として、3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両後方に配置され、クランプ部材94は軸線Oよりも車両前方に配置されてもよい。いずれにせよ直進状態で、インホイールモータ駆動装置側領域93dの車両前後方向位置が、車体側領域93fの車両前後方向位置に重なるよう配置されるとよい。
【0064】
インホイールモータ駆動装置側領域93dは相対的に車幅方向外側に配置され、車体側領域93fは車幅方向内側に配置される。このため中間領域93eは車幅方向に延びる。中間領域93eは、両側をインホイールモータ駆動装置側領域93dおよび車体側領域93fによって吊り下げられ、クランプ部材によって把持されず、宙に浮いている。
【0065】
次に第1実施形態の動力線接続部について説明する。
【0066】
図10はインホイールモータ駆動装置から動力線およびスリーブを取り出して示す模式図であり、上方から転舵軸線K方向に見下ろした状態を表す。図面が煩雑になるのを避けるため、
図10中、動力線接続部91を仮想線で表す。各スリーブ92は同一寸法、同一形状であり、転舵軸線K方向にみて一部が重なるように配置される。各スリーブ92の重なり部分Lは、3個全てのスリーブ92に共通する。あるいは図示はしなかったが、各スリーブ92全体が他のスリーブ92全体と重なるように配置されてもよい。
【0067】
各スリーブ92は、転舵軸線K方向にみてロアスプリングシート79cと完全に重なるよう配置される。あるいは図示しない変形例として、ロアスプリングシート79cと完全に重なるスリーブ92とロアスプリングシート79cと一部重なるスリーブ92が混在していてもよい。
【0068】
動力線接続部91の貫通孔は、動力線端子箱25b(
図9)壁部分に形成され、各スリーブ92を差し込まれて固定されるところ、これら3個の貫通孔は全数、ロアスプリングシート79cと完全に重なるよう配置される。また動力線接続部91の貫通孔と、他の貫通孔は、転舵軸線K方向にみて一部が重なるように配置される。
【0069】
図11はインホイールモータ駆動装置から動力線およびスリーブを取り出して示す模式図であり、車幅方向にみた状態を表し、
図10に対応する。図面が煩雑になるのを避けるため、
図11中、動力線接続部91を1個のみ実線で表し、他を仮想線で表す。本実施形態によれば、
図10および
図11に示すように転舵軸線Kから各スリーブ92までの距離は略同じにされる。したがって各動力線93に作用する転舵時の応力を略同じにすることができる。複数の動力線接続部91は、転舵軸線Kから車両前後方向にずらして配置され、動力線接続部91から延びる動力線93の一端部は、転舵軸線Kへ近づく方向に延出する。
【0070】
ところで第1実施形態によれば、各動力線93が一端と他端との間に、連続して延びるインホイールモータ駆動装置側領域93d、中間領域93e、および車体側領域93fを含む。インホイールモータ駆動装置側領域93dは、上下方向に延び、上側でインホイールモータ駆動装置10側と接続し、下側で中間領域93eと接続する。車体側領域93fは、上下方向に延び、下側で中間領域93eと接続し、上側で車体101側と接続する。中間領域93eは、両側を上方とし中間部分を下方として湾曲して延びる。これによりインホイールモータ駆動装置10が転舵する際、各動力線93は殆ど変位せず、中間領域93eの湾曲度も殆ど変化せず、インホイールモータ駆動装置側領域93dがねじれるにすぎない。したがって各動力線93は繰り返し曲げ伸ばしされず、動力線93に曲げ疲労が蓄積しない。ストラット76が伸縮して、インホイールモータ駆動装置10が上下方向にバウンドおよびリバウンドしても、中間領域93eの湾曲度が少し変化する程度にとどまり、動力線93は繰り返し曲げ伸ばしされない。
【0071】
また第1実施形態によれば、車体側領域93fが上下方向に延び、上側で車体101側と接続することから、ホイールハウス102を迂回して動力線93を配線することができる。したがってホイールハウス102に貫通孔を穿孔して該貫通孔に動力線を通す必要がなく、ホイールハウス102の剛性および強度が低下することがない。またホイールハウス102の壁面を従来よりも車幅方向外側に移設して、インホイールモータ駆動装置10に近づけることができる。したがってホイールハウス102を従来よりも小さくするとともに車内空間を従来よりも大きくすることができる。
【0072】
また第1実施形態によれば、動力線接続部91から延びる各動力線93の一端部は、転舵軸線K方向にみて、少なくとも一部が重なるように配置されることから、全ての動力線93の一端部を、転舵軸線Kから略同じ距離に配置することができる。したがって特定の動力線93に転舵時の応力が集中することがなく、各動力線93の寿命を揃えることができる。
【0073】
また第1実施形態によれば、インホイールモータ駆動装置側領域93d、中間領域93e、および車体側領域93fのうち少なくとも1は、何ら把持されないことから、各領域が自由に屈曲したりねじれたりすることができる。したがって各領域の特定の箇所に転舵時の応力が集中することがなく、動力線93の寿命を長くすることができる。
【0074】
また第1実施形態によれば、動力線93が車体側領域93fよりも他方側(車体101側)で、車体101に設けられるクランプ部材94に保持されることから、車体側領域93fを上下方向に延びるよう仕向けることができる。
【0075】
また第1実施形態によれば、中間領域93eが車幅方向に延びることから、一端側のインホイールモータ駆動装置側領域93dと、他端側の車体側領域93fとを、車幅方向に離して配置することができる。
【0076】
また第1実施形態によれば、動力線接続部91から延出する動力線93の一端部はスリーブ92に通される。各スリーブ92は、動力線93の一端部とともに動力線接続部91の貫通孔に差込固定されて、動力線93の一端部を保持し、さらに動力線93と貫通孔との環状隙間を封止する。このため動力線端子箱25bの内部の水密性を確保することができる。しかも各スリーブ92は、転舵軸線K方向にみて少なくとも一部が重なるように配置されることから、全ての動力線93の一端部を、転舵軸線Kから略同じ距離に配置することができる。したがって特定の動力線93に転舵時の応力が集中することがなく、各動力線93の寿命を長くすることができる。
【0077】
また第1実施形態によれば、ストラット76がコイルスプリング78および1対のスプリングシート79b,79cを含み、転舵軸線K方向に伸縮可能である。また転舵軸線K方向にみて、動力線接続部91に接続される動力線93の一端部は、下側のロアスプリングシート79cと重なるよう配置される。具体的には
図7に示すように動力線の一端部93aが、転舵軸線Kと平行に延びるロアスプリングシート79cの投影領域79dに収まる。これにより転舵軸線K方向にみて、動力線接続部91に接続される各動力線93の一端部は、ロアスプリングシート79cと重なる。そして動力線93の一端部93aが転舵軸線K近傍に配置され、インホイールモータ駆動装置側領域93dも転舵軸線K近傍に配置され、インホイールモータ駆動装置10が転舵する際のインホイールモータ駆動装置側領域93dのねじれ度を少なくすることができる。そしてインホイールモータ駆動装置側領域93dが転舵軸線Kに近いほどインホイールモータ駆動装置10の転舵の際のねじれ度を益々少なくすることができる。
【0078】
次に本発明の第2実施形態を説明する。
図12は本発明の第2実施形態になるインホイールモータ動力線の配線構造を示す模式図であり、車幅方向内側からみた状態を表す。
図13は第2実施形態を示す模式図であり、車両前方からみた状態を表す。
図14は第2実施形態を示す模式図であり、車両上方からみた状態を表す。第2実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。第1実施形態では動力線93が一端で動力線接続部91と接続し、該一端から下方に延びてインホイールモータ駆動装置側領域93dを構成する。これに対し第2実施形態では
図12および
図13に示すように、動力線93を動力線接続部91から上方へ延ばし、ロアスプリングシート79cで反対方向に曲げ返して下方へ延ばすよう配線する。
【0079】
各動力線93は、動力線93の動力線接続部91側の一端とインホイールモータ駆動装置側領域93dとの間に車輪近傍領域93bをさらに含む。車輪近傍領域93bは、上下方向に延びてタイヤT上部の近傍に配線され、下側で動力線接続部91側と接続し、上側でインホイールモータ駆動装置側領域93dと接続する。
【0080】
車輪近傍領域93bとインホイールモータ駆動装置側領域93dとの接続箇所93cは、ストラット76に回し掛けされ、ロアスプリングシート79cと隣り合う。このため接続箇所93cは、ストラット76の半径よりも大きな曲率で無理なく曲げられる。
【0081】
動力線93と車輪とのクリアランスは、接続箇所93cで最も短くなる。このためタイヤTのトラッドと接続箇所93cとの間にはカバー97が介在する。カバー97はストラット76の外周面に取付固定されて、接続箇所93cを下方から支持する。
【0082】
車輪近傍領域93bおよびインホイールモータ駆動装置側領域93dは、ストラット76に沿って延び、ストラット76の外周面に取付固定されるクランプ部材96に把持される。このため車輪近傍領域93bおよびインホイールモータ駆動装置側領域93dは、少なくともクランプ部材96から接続箇所93cまでの部分で、ストラット76から離れるように屈曲することがない。なおクランプ部材96は、複数の動力線93を束ねてストラット76の車幅方向内側側面に配線するものであって、各動力線93のねじれを拘束するものでない。このため第2実施形態においても各動力線93のインホイールモータ駆動装置側領域93dは個々にねじれることができる。インホイールモータ駆動装置側領域93dは、クランプ部材96の下側で車輪近傍領域93bよりも車幅方向外側に配線され、車輪近傍領域93bを超えて下方に延びる。
【0083】
ところで第2実施形態によれば、各動力線93は、動力線接続部91と接続する動力線93の一端とインホイールモータ駆動装置側領域93dとの間に車輪近傍領域93bをさらに含む。車輪近傍領域93bは、上下方向に延び、下側で動力線接続部91側と接続し、上側でインホイールモータ駆動装置側領域93dと接続する。これにより第1実施形態と比較してインホイールモータ駆動装置側領域93dを長くすることができ、インホイールモータ駆動装置10が転舵する際にインホイールモータ駆動装置側領域93dの単位長さ当たりのねじれ度を緩和することができる。
【0084】
また第2実施形態によれば、車輪近傍領域93bがサスペンション装置70に設けられるクランプ部材96に把持されることから、上下方向に延びるように車輪近傍領域93bを保持することができる。
【0085】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。