特許第6334597号(P6334597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧 ▶ 住江織物株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6334597-布帛及びその製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334597
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】布帛及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20180521BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20180521BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   B32B27/12
   D06M15/277
   B32B27/40
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-90448(P2016-90448)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-196831(P2017-196831A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390014487
【氏名又は名称】住江織物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】林 里恵
(72)【発明者】
【氏名】水越 敏充
(72)【発明者】
【氏名】多根 浩一
(72)【発明者】
【氏名】松田 諭哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 慶智
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−256727(JP,A)
【文献】 米国特許第04032495(US,A)
【文献】 特開2016−000874(JP,A)
【文献】 特開昭62−015387(JP,A)
【文献】 特開2017−137598(JP,A)
【文献】 特開2001−073278(JP,A)
【文献】 特開平05−310047(JP,A)
【文献】 特開平03−234870(JP,A)
【文献】 特開2010−255132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の少なくとも表面に、日華化学株式会社製NKガードS−0671が付着され、
前記布帛の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層が積層されていることを特徴とする布帛。
【請求項2】
前記布帛100質量部に対して、前記日華化学株式会社製NKガードS−0671の付着量が0.6質量部〜1.8質量部の範囲である請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記バッキング樹脂層における前記旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080の含有率が0.8質量%〜7質量%の範囲である請求項1または2に記載の布帛。
【請求項4】
前記バッキング樹脂層を構成する樹脂がウレタン系樹脂であり、前記難燃剤がポリリン酸アンモニウム塩であり、前記バッキング樹脂層におけるウレタン系樹脂/ポリリン酸アンモニウム塩の含有質量比が、50/50〜20/80の範囲であり、前記バッキング樹脂層の形成量が30g/m2〜70g/m2である請求項1〜のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項5】
日華化学株式会社製NKガードS−0671を含有する処理液に布帛を浸漬した後、該布帛を100℃〜225℃の温度で加熱乾燥させる工程と、
前記布帛の片面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層を積層する工程と、を含むことを特徴とする布帛の製造方法。
【請求項6】
日華化学株式会社製NKガードS−0671を含有する処理液に布帛を浸漬した後、該布帛を100℃〜225℃の温度で加熱乾燥させる工程と、
前記加熱乾燥後の布帛を70℃〜100℃の温度の湯で水洗した後、100℃〜135℃の温度で乾燥させる工程と、
前記水洗、乾燥を経て得られた布帛の片面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層を積層する工程と、を含むことを特徴とする布帛の製造方法。
【請求項7】
前記布帛の片面に前記バッキング樹脂層を積層した後、加熱による乾燥を乾燥時間1.6分〜2.6分に設定して行う請求項5または6に記載の布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な防汚性を備えると共に、こぼした飲食物等が時間が経過しても浸み込んでいくことが十分に防止され、優れた浸み込み防止性を備えた布帛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車シート、カーペット等は、使用をしているうちに表面が汚れてくることから、各種の防汚性布帛が提案されている。
【0003】
例えば、合成繊維上に、親水性セグメントを有するフッ素系撥水撥油剤、非親水性のフッ素系撥水撥油剤および架橋剤を含む防汚性成分の被覆層を有し、撥水耐久性が3級以上、撥油耐久性が2級以上および汚れ除去耐久性が3級以上である防汚性合成繊維布帛が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、フッ素含有率50重量%以上の撥水撥油剤により合成繊維布帛を処理したのち、さらにその表面をフッ素含有率20重量%を超え50重量%未満の主鎖の炭素に結合したフッ素原子を含有する高分子化合物で処理してなる撥水防汚性布帛が公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−317281号公報
【特許文献2】特開平3−234870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の防汚性布帛は、表面の防汚性は得られるものの、布帛の上にこぼした飲物や食物等が時間の経過とともに内部側に浸み込んでいくことを防止し得るものではなかった。ソファ、ベッドマット、自動車シート等に使用されている布帛において、このような内部側への浸み込みが生じると布帛の裏面にまで浸み込んでしまって、内側パッド部にまで浸み込みが生じ、この場合にはもはや除去することが困難であるために臭いの原因になるという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、十分な防汚性を備えていると共に、飲物、食物等をこぼした際に、時間が経過してもこれら飲食物が浸み込んでいくことが十分に防止され、優れた浸み込み防止性を確保できる布帛及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]布帛の少なくとも表面に、日華化学株式会社製NKガードS−0671が付着され、
前記布帛の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層が積層されていることを特徴とする布帛。
【0010】
]前記布帛100質量部に対して、前記日華化学株式会社製NKガードS−0671の付着量が0.6質量部〜1.8質量部の範囲である請求項1に記載の布帛。
【0011】
]前記バッキング樹脂層における前記旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080の含有率が0.8質量%〜7質量%の範囲である請求項1または2に記載の布帛。
【0012】
]前記バッキング樹脂層を構成する樹脂がウレタン系樹脂であり、前記難燃剤がポリリン酸アンモニウム塩であり、前記バッキング樹脂層におけるウレタン系樹脂/ポリリン酸アンモニウム塩の含有質量比が、50/50〜20/80の範囲であり、前記バッキング樹脂層の形成量が30g/m2〜70g/m2である請求項1〜のいずれか1項に記載の布帛。
【0013】
日華化学株式会社製NKガードS−0671を含有する処理液に布帛を浸漬した後、該布帛を100℃〜225℃の温度で加熱乾燥させる工程と、
前記布帛の片面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層を積層する工程と、を含むことを特徴とする布帛の製造方法。
【0014】
日華化学株式会社製NKガードS−0671を含有する処理液に布帛を浸漬した後、該布帛を100℃〜225℃の温度で加熱乾燥させる工程と、
前記加熱乾燥後の布帛を70℃〜100℃の温度の湯で水洗した後、100℃〜135℃の温度で乾燥させる工程と、
前記水洗、乾燥を経て得られた布帛の片面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層を積層する工程と、を含むことを特徴とする布帛の製造方法。
【0015】
]前記布帛の片面に前記バッキング樹脂層を積層した後、加熱による乾燥を乾燥時間1.6分〜2.6分に設定して行う請求項5または6に記載の布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
[1]の発明では、布帛の少なくとも表面に、日華化学株式会社製NKガードS−0671が付着されているので、布帛として十分な防汚性が得られる。更に、布帛の少なくとも表面に、前記日華化学株式会社製NKガードS−0671が付着されていると共に、布帛の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層が積層されているので、布帛の上に飲物、食物(いずれも水性、油性を問わない)等をこぼした際に、時間が経過してもこれら飲食物が浸み込んでいくことが十分に防止され、優れた浸透防止性(浸み込み防止性)を確保できる。また、バッキング樹脂層は、難燃剤を含有するので、布帛に難燃性が付与される。
【0017】
]の発明では、布帛100質量部に対して、日華化学株式会社製NKガードS−0671の付着量が0.6質量部〜1.8質量部であるから、液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)を向上させることができると共に、布帛の柔軟性も十分に確保できる。
【0018】
]の発明では、バッキング樹脂層における旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080の含有率が0.8質量%〜7質量%であるから、液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)を向上させることができる。
【0019】
]の発明では、難燃性をさらに向上できると共に、液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)をより一層向上させることができる。
【0020】
]及び[]の発明では、日華化学株式会社製NKガードS−0671を布帛に含浸させて強固に付着させることができるので、十分な防汚性を有した布帛を製造できる。更に、布帛に、前記日華化学株式会社製NKガードS−0671を含浸させて強固に付着させることができると共に、布帛の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製アサヒガードAG−E080を含有したバッキング樹脂層を積層できるので、布帛の上に飲物、食物(いずれも水性、油性を問わない)等をこぼした際に、時間が経過してもこれら飲食物が浸み込んでいくことが十分に防止される優れた浸透防止性(浸み込み防止性)を備えた布帛を製造できる。
【0021】
更に[]の発明では、前記加熱乾燥後の布帛を70℃〜100℃の温度の湯で水洗した後、100℃〜135℃の温度で乾燥させるので、摩擦堅牢度を向上させた布帛を製造できる。
【0022】
]の発明では、バッキング樹脂層の積層後に、加熱による乾燥を乾燥時間1.6分〜2.6分に設定して行うから、ガラス霞み度(フォギング)がより低減された布帛を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る布帛の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る布帛である防汚性布帛1の一実施形態を図1に示す。本発明の防汚性布帛1は、布帛2の少なくとも表面に、日華化学株式会社製「NKガードS−0671」3が付着され、前記布帛2の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有したバッキング樹脂層4が積層されてなる。なお、本実施形態では、布帛2の全体に前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」3が付着されている(図1参照)。
【0025】
上記布帛1では、布帛2の少なくとも表面に、日華化学株式会社製「NKガードS−0671」3が付着されているので、布帛1として十分な防汚性が得られる。更に、布帛2の少なくとも表面に、前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」が付着されていると共に、布帛2の裏面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有したバッキング樹脂層4が積層されているので、布帛1の上に飲物、食物(いずれも水性、油性を問わない)等をこぼした際に、時間が経過してもこれら飲食物が浸み込んでいくことが十分に防止され、優れた浸透防止性(浸み込み防止性)を確保できる。また、バッキング樹脂層4は、難燃剤を含有するので、布帛に難燃性が付与される。
【0026】
本発明において、前記布帛2としては、特に限定されるものではないが、例えば、パイル布帛、編物、織物、不織布等が挙げられる。前記布帛2を構成する繊維の樹脂種も特に限定されず、例えばポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。
【0027】
記「NKガード S−0671」(商品名)(Tgが40℃である)は、カチオン性のフッ素含有有機化合物であり、結晶性を有する。
【0028】
前記布帛100質量部に対して、前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」の付着量が0.6質量部〜1.8質量部の範囲にある構成が好ましい。0.6質量部以上であることで、液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)を向上させることができるし、1.8質量部以下であることで布帛1の柔軟性も十分に確保できる。
【0029】
前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」は、前記布帛2の少なくとも表面に付着されている必要があり、中でも、前記布帛2の全体に付着された構成が好ましく、この場合には液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)をさらに向上させることができる。
【0030】
前記バッキング樹脂層4は、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有する。前記バッキング樹脂層4を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。前記難燃剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩(APP)、リン酸アルミニウム塩、リン酸エステル、ポリリン酸メラミン、三酸化アンチモン、デカブロモジフェニルエタン等が挙げられる。前記旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」は、アニオン性有機フッ素系撥油剤であるので、バッキング樹脂層4を構成する樹脂との相溶性を向上させることができて、浸透防止性(浸み込み防止性)を更に向上させることができる。
【0031】
前記バッキング樹脂層4における旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」の含有率は、0.8質量%〜7質量%の範囲であるのが好ましい。0.8質量%以上であることで液体等の浸透防止性(浸み込み防止性)を向上させることができるし、7質量%以下であることで樹脂との相溶性を十分に確保できる。
【0032】
中でも、前記バッキング樹脂層4は、ウレタン系樹脂、ポリリン酸アンモニウム塩および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有する構成であるのが好ましい。前記バッキング樹脂層(乾燥)におけるウレタン系樹脂/ポリリン酸アンモニウム塩の含有質量比は、50/50〜20/80の範囲であるのが好ましく、さらに40/60〜30/70の範囲であるのがより好ましい。前記バッキング樹脂層4の形成量は35g/m2〜70g/m2であるのが好ましい。
【0033】
次に、本発明の布帛の製造方法の好適例について説明する。まず、日華化学株式会社製「NKガードS−0671」を含有する処理液に布帛を浸漬した後、該布帛をマングル等で絞り、次いで前記布帛を100℃〜225℃の温度で加熱乾燥させる(浸漬工程)。100℃以上とすることで十分な撥水撥油性を付与させることができると共に、225℃以下とすることで布帛2に対して熱による悪影響(繊維の脆化等)が及ぶのを防止できる。前記浸漬工程での加熱乾燥時間は、1.0分間〜2.6分間とするのが好ましい。1.0分間以上とすることで十分に乾燥させることができるし、2.6分間以下とすることで製造効率(生産性)を向上できる
【0034】
前記処理液としては、前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」を含有するが、これ以外に、通常は、水を含有する。前記処理液に架橋剤を含有させるのが好ましく、このような架橋剤を含有させることによって、撥水性と摩擦堅牢度を向上できる利点がある。前記処理液における前記日華化学株式会社製「NKガードS−0671」の含有率は、1質量%〜4質量%の範囲に設定するのが好ましい。
【0035】
次に、前記加熱乾燥後の布帛を70℃〜100℃の温度の湯で水洗した後、100℃〜135℃の温度で乾燥させる(湯洗工程)。前記湯洗の際の湯の温度は、70℃〜100℃に設定するのが好ましい。70℃以上とすることで十分に洗浄できて摩擦堅牢度を向上できるし、100℃以下とすることで風合いの低下を抑止できるし、変色も十分に防止できる。また、湯洗後の布帛の乾燥温度は100℃〜135℃に設定するのが好ましい。100℃以上とすることで十分に乾燥させることができるし、135℃以下とすることで摩擦堅牢度の低下を抑止できる。
【0036】
次いで、上述した湯洗、乾燥を経て得られた布帛の片面に、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有したバッキング樹脂層を積層することによって(バックコート工程)、本発明の布帛1を得る。
【0037】
前記積層の手法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナイフコート法、キスロールコート法、スクリーンプリント法等が挙げられる。
【0038】
前記バッキング樹脂層を積層する際には、例えば、バッキング樹脂組成物を作成してこれを布帛の片面に塗工する。前記バッキング樹脂組成物としては、水、樹脂、難燃剤および旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」を含有する水系樹脂エマルジョンを用いるのが好ましい。
【0039】
前記水系樹脂エマルジョンにおける樹脂の含有率は5質量%〜15質量%であるのが好ましい。また、前記水系樹脂エマルジョンにおける難燃剤の含有率は9質量%〜25質量%であるのが好ましく、この場合には、難燃剤を均一に分散させることができると共に難燃性も十分に確保できる。
【0040】
前記水系樹脂エマルジョンにおける旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080」の含有率は1.3質量%〜9質量%であるのが好ましい。1.3質量%以上であることで十分な浸み込み防止性を確保できるし、9質量%以下であることで十分な難燃性を確保できる。
【0041】
上記のとおり、布帛の片面に前記バッキング樹脂層を積層した後、加熱による乾燥を行うのが好ましく、またその加熱乾燥時間は1.6分〜2.6分に設定して行うのが好ましい。1.6分以上とすることでガラス霞み度がより低減された布帛が得られると共に2.6分以下とすることで生産効率を向上できる。
【0042】
上記例示した製造方法は、その好適例を示したものに過ぎず、本発明の布帛1は、このような製造方法で製造されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
液流染色機で黒色に染色し、還元洗浄した後に乾燥させてなるポリエチレンテレフタレート(PET)製布帛を、日華化学株式会社製「NKガード S−0671」(フッ素含有有機化合物A)を7質量%含有し、イソシアネート系架橋剤を0.7質量%、水を92.3質量%含有してなる水性処理液に3秒間浸漬した後、前記布帛を水性処理液から取り出し、次いで前記布帛をマングルで絞った後、150℃で1.5分間加熱乾燥させた(浸漬工程)。なお、処理液のピックアップは55質量%であった。
【0045】
次に、前記浸漬工程を経た布帛を80℃の温度の湯で1分間水洗(湯洗)した後、130℃で1.5分間加熱乾燥させた(湯洗工程)。
【0046】
次に、ポリリン酸アンモニウム塩(APP)を16.4質量%、ウレタン系樹脂7質量%、旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080(アニオン性)」を3質量%、水を70.6質量%、増粘剤を3質量%含有してなる水性エマルジョン液を、前記湯洗工程を経て得られた布帛の片面にナイフコート法により塗布した後、130℃で1.9分間加熱乾燥を行うことによって、バッキング樹脂層を形成せしめて、防汚性布帛1を得た(バックコート工程)。
【0047】
前記得られた防汚性布帛1において、日華化学株式会社製「NKガードS−0671」の付着量は、前記PET製布帛(還元洗浄後の布帛であって水性処理液に浸漬する前の布帛)100質量部に対して1.12質量部であり、バッキング樹脂層の付着量(バッキング樹脂層形成量)は40g/m2であった。
【0048】
<実施例2>
マングルによる絞りの程度を実施例1よりも強くすることによって日華化学株式会社製「NKガードS−0671」(Tg:40℃)の付着量(乾燥状態)を0.68質量部に設定した以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛1を得た。
【0049】
<実施例3>
水性エマルジョン液として、ポリリン酸アンモニウム塩(APP)を16.4質量%、ウレタン系樹脂7質量%、旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080(アニオン性)」を9質量%、水を64.6質量%、増粘剤を3質量%含有してなる水性エマルジョン液を用いた以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛1を得た。
【0050】
<実施例4>
水性エマルジョン液として、ポリリン酸アンモニウム塩(APP)を14.1質量%、ウレタン系樹脂9.4質量%、旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E080(アニオン性)」を3質量%、水を70.5質量%、増粘剤を3質量%含有してなる水性エマルジョン液を用いた以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛1を得た。得られた防汚性布帛1において、バッキング樹脂層の付着量(バッキング樹脂層形成量)は35g/m2であった。
【0051】
<実施例5>
湯洗工程における洗浄湯の温度を70℃に設定し、湯洗後の加熱乾燥温度を135℃に設定した以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛1を得た。
【0052】
<実施例6>
バックコート工程における加熱乾燥時間を1.6分に設定した以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛1を得た。
【0053】
<比較例1>
水性処理液として、イソシアネート系架橋剤を7.7質量%、水を92.3質量%含有してなる水性処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして、防汚性布帛を得た。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
上記のようにして得られた各防汚性布帛に対して下記評価法に基づいて性能評価を行った。その結果を表1、2に示す。なお、表1、2において「アサヒガードAG−E080含有率」は、得られた防汚性布帛のバッキング樹脂層(乾燥後のバッキング樹脂層)におけるアサヒガードAG−E080含有率(質量%)を記載したものであって、水性エマルジョン液中のアサヒガードAG−E080含有率ではない。
【0057】
<防汚性評価法>
オイルを防汚性布帛の表面に滴下し、この滴下物(オイル)を乾燥ウエスで拭き取った後、該拭き取り面を汚染用グレースケールを用いて防汚性を評価した。即ち、汚染用グレースケールで4級又は5級と判定されたものを「○」(合格)とし、汚染用グレースケールで1級、2級又は3級と判定されたものを「×」とした。
【0058】
<浸透防止性評価法>
オイルを防汚性布帛の表面に滴下し、常温下および80℃雰囲気下でそれぞれ24時間放置した後、防汚性布帛の裏面を観察し、オイルの浸透の有無を調べた。また、水を防汚性布帛の表面に滴下し、常温下および80℃雰囲気下でそれぞれ24時間放置した後、防汚性布帛の裏面を観察し、水の浸透の有無を調べた。オイルを用いた試験および水を用いた試験のいずれにおいても防汚性布帛の裏面側への浸透がなかったものを「○」(合格)とし、少なくともいずれかにおいて防汚性布帛の裏面側への浸透があったものを「×」とした。
【0059】
<難燃性評価法>
FMVSS302(Federal Motor Vehicle Safety Standard No.302)(自動車用内装材料の燃焼試験)に準拠して燃焼性試験(難燃性試験)を行い、この試験に合格するものを「○」(合格)とし、合格しないものを「×」とした。
【0060】
<摩擦堅牢度評価法>
JIS L0849−2013に準拠して、乾布による摩擦堅牢度試験および水を人工汗液に代えた湿布による摩擦堅牢度試験を行った後、それぞれの布帛の表面について汚染用グレースケールを用いて摩擦堅牢度を評価した。乾布試験、湿布試験のいずれにおいても4級又は5級と判定されたものを「○」(合格)とし、乾布試験、湿布試験のうち少なくともいずれかにおいて1級、2級又は3級と判定されたものを「×」とした。
【0061】
<フォギング試験法>
JASO M 313−83及びJIS K7136−2000に準拠して、フォギング試験を行った。曇価が5%以下であるものを「○」(合格)とし、曇価が5%を超えるものを「×」とした。
【0062】
表1、2から明らかなように、本発明の実施例1〜の防汚性布帛は、十分な防汚性および十分な浸透防止性(浸み込み防止性)を確保できると共に、良好な難燃性が得られている。
【0063】
これに対し、比較例1の防汚性布帛では、防汚性が不十分であるし、浸み込み防止性も良好ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る布帛および本発明の製造方法により製造された布帛は、例えば、自動車用シート等の自動車用内装材などの車輌用内装材の他、ソファ、ベッドマット、椅子用シート等のインテリア家具等に用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1…防汚性布帛
2…布帛
3…付着物(日華化学株式会社製「NKガードS−0671」
4…バッキング樹脂層
図1