特許第6334724号(P6334724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334724
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】フロントエンド回路
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/00 20060101AFI20180521BHJP
   H04B 1/52 20150101ALI20180521BHJP
   H03H 7/46 20060101ALI20180521BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20180521BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H04B1/00 257
   H04B1/52
   H03H7/46 A
   H03H7/01 C
   H03H7/38 Z
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-554466(P2016-554466)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公表番号】特表2017-512019(P2017-512019A)
(43)【公表日】2017年4月27日
(86)【国際出願番号】EP2014061477
(87)【国際公開番号】WO2015128005
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2016年10月21日
(31)【優先権主張番号】102014102699.3
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500480274
【氏名又は名称】スナップトラック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】エラ ユハ
(72)【発明者】
【氏名】シュミットハマー, エドガー
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/140969(WO,A1)
【文献】 特開2011−120120(JP,A)
【文献】 特開2006−340268(JP,A)
【文献】 特開2012−199923(JP,A)
【文献】 特開2012−100180(JP,A)
【文献】 特開平08−172333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/00
H03H 7/01
H03H 7/38
H03H 7/46
H04B 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンド回路であって、
1つの第1のアンテナ接続端子(AT)と、
それぞれ前記第1のアンテナ接続端子(AT)とカップリングされている、第1,第2,および第3の信号経路(SP)と、
第1,第2,および第3の信号経路(SP)の各々に配設されている、第1,第2,および第3のフィルタ(FT)と、
を備え、
前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)の少なくとも1つは、複数の回路ノード(N)を備えた1つの直列の信号ライン(SL)を備え、当該複数の回路ノード(N)の各々は、1つの並列分岐路を介してグラウンドに回路接続されており、当該並列分岐路は1つのチューナブルなキャパシタンス(CT)および当該キャパシタンスに並列な1つのインダクタンスを有し、
前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)は、1つの制御回路(CE)を用いてそれぞれの周波数帯域にチューニングすることができ、
前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)は、選択的にFDD動作モードまたはTDD動作モードで動作可能であり、
前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)は、それぞれ1つのチューニング領域を備え
前記フロントエンド回路では、前記第1,第2、および第3のフィルタのそれぞれと、前記第1のアンテナ接続端子(AT)との間の前記第1,第2,および第3の信号経路(SP)には、位相シフタ(PS)が全く配設されていないか、当該第1,第2,および第3の信号経路の1つに1つの位相シフタ(PS)が配設されているか、または当該第1,第2,および第3の信号経路の各々に位相シフタ(PS)が配設されている、
ことを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項2】
請求項1に記載のフロントエンド回路において、
前記第1のフィルタは、1つのTxフィルタであり、
前記第2のフィルタおよび前記第3のフィルタは、それぞれRxフィルタである、
ことを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフロントエンド回路において、
前記第1,第2,および第3のフィルタの各々のチューニング領域は、700MHz未満の領域、700MHz〜1000MHzの領域、1000〜1400MHzの領域、1400〜1700MHzの領域、1700〜2200MHzの領域、2200〜2700MHzの領域、および2700MHzより上の領域から選択されていることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、
1つの第4の信号経路(SP4)が、当該第4の信号経路に配設されている第4のチューナブルフィルタと共に、前記第1のアンテナ接続端子とカップリングされていることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項5】
請求項4に記載のフロントエンド回路において、
前記第4のフィルタは、1つの第4のチューニング領域を備え、当該第4のチューニング領域は、前記第1,第2,および第3のチューニング領域と僅かにのみ重なっているか、または全く重なっていないことを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、
第1,第2,および第3のフィルタと前記第1のアンテナ接続端子との間の前記第1,第2,および第3の信号経路の1つに、1つのアンテナチューナーをさらに備えることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、さらに、
1つの第2のアンテナ接続端子(AT2)
前記第2のアンテナ接続端子とカップリングされている、それぞれの対応する1つの信号経路に配設された1つの第5のフィルタ,1つの第6のフィルタ,および1つの第7のフィルタと、
1つのマルチプレクサ(MP)またはアンテナ切替器(AS)であって、前記第1および前記第2のアンテナ接続端子が、当該マルチプレクサ(MP)またはアンテナ切替器(AS)の出力部に接続されているマルチプレクサ(MP)またはアンテナ切替器(AS)と
を備え、
前記マルチプレクサまたは前記アンテナ切替器の共通の入力部は、1つのアンテナ(A)とカップリングされている、
ことを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、
第1,第2,および第3の信号経路(SP)の各々は、1つのHFチップ(TC)を前記第1のアンテナ接続端子(AT)とカップリングし、
第1,第2,および第3の信号経路(SP)の各々には、前記HFチップ(TC)と前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)のそれぞれとの間に1つの電力増幅器(AMP)または1つの低雑音増幅器(LNAが配設されている、
ことを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項9】
請求項に記載のフロントエンド回路において、さらに、
前記電力増幅器(AMP)または前記低雑音増幅器(LNAと、前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)の1つとの間に配設された、1つのインピーダンスマッチング回路(MC)を備えることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、さらに、
複数の前記回路ノード(N)の互いに隣り合った2つの回路ノードの間にカップリングされたさらなるキャパシタンス素子を備えることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項11】
請求項10に記載のフロントエンド回路において、
前記直列の信号ラインにおいて両側で終端に配設されている回路ノード(N)は、1つのバイパスインダクタンス(BI)を介して互いに接続されていることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項12】
請求項11に記載のフロントエンド回路において、
1つの半導体回路における前記チューナブルコンデンサ(CT)は、バラクタ、あるいは、複数のMIMコンデンサまたは複数のMEMSコンデンサから構成されている切り替え可能なコンデンサアレイであることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項13】
請求項12に記載のフロントエンド回路において、
前記チューナブルな位相シフタ(PS)および前記第1,第2,および第3のフィルタ(FT)は制御ユニットと接続されており、これより当該制御ユニットの1つの制御信号を用いてチューニング可能であることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のフロントエンド回路において、
らに、前記第1のアンテナ接続端子に接続されている1つの音響フィルタを有する1つの固定周波数信号経路を備えることを特徴とするフロントエンド回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばケーブル接続されない通信装置に使用することができる、チューナブルなフィルタを有するフロントエンド回路に関する。さらに本発明は、キャリアアグリゲーションモードを可能とするフロントエンド回路に関し、ここで3つの送信バンドまたは受信バンドで同時に送信または受信することができる。
【背景技術】
【0002】
携帯通信装置、WLANルータ等、または一般的にHF信号を用いて通信する送信/受信装置は、所望の信号を望ましくない信号から分離するためのHFフィルタを必要とする。このようなフィルタは、たとえばフロントエンド回路(複数)、たとえばデュプレクサ(複数)に回路接続されてよい。
【0003】
この際このフィルタはチップセットと場合によってはさらに設けられるフィルタ(複数)との間の分配の役割を担うことになる。回路のコストは出来る限り小さくなくてはならない。このフィルタは、他のフィルタの多数の様々なフィルタ技術と適合していなければならず、これに適したデバイスの小さな部品高を可能とし、かつとりわけ高い選択度を可能としなければならない。
【0004】
常に増え続ける周波数帯域に使用され得る通信装置の動向は、異なる周波数帯域用の異なるフィルタの回路の複雑な回路接続をもたらす。このため、異なる周波数帯域を同じフィルタを用いて利用することができるためのチューナブルフィルタの必要性が生じている。
【0005】
この要求に対する従来の解決方法は概ね、公知のフィルタ回路をチューナブルなインピーダンス素子で拡張することに基づいているか、あるいはフィルタ素子(複数)を1つのフィルタ接続形態に回路接続する回路を使用することに基づいている。
【0006】
非特許文献1では、音響共振器(複数)を有するHFフィルタ(複数)にチューナブルなコンデンサ(複数)を付加されるフィルタ回路(複数)が知られている。
【0007】
非特許文献2では、チューナブルなコンデンサ(複数)およびチューナブルなインダクタンス(複数)を有するHFフィルタ(複数)が知られている。
【0008】
非特許文献3では、LおよびC素子(複数)からなる回路(複数)が知られており、ここでこのキャパシタンス素子(複数)のキャパシタンスは調整可能である。
【0009】
非特許文献4あるいは特許文献1では、HFフィルタ(複数)における絶縁体(複数)の使用が知られている。
【0010】
モバイル通信規格LTE−A(Long-Term Evolution-Advanced)においては、ダウンリンク動作および/またはアップリンク動作における大きなデータレートを可能とするために、モバイル電話は、いわゆるキャリアアグリゲーションモード(CA)で動作されてよい。このCAモードにおいては、送信動作および受信動作が1つの第1の周波数帯域で可能であり、他方同時にもう1つの周波数帯において受信することができる。慣例に従い、このため様々な帯域組合せが提案されるであろうが、好ましくは、このCAモードにおける周波数帯域が大きく異なっているインターバンドの組合せであろう。このCAモードにおいて組み合わされる周波数帯域の周波数差が大きければ大きいほど、その技術的実現は容易となる。
【0011】
追加的に、組み合わされる周波数帯域が同じ周波数領域または隣接した周波数帯域(複数)にある、帯域組合せが提案されるであろう。このようなインバンドCAモードに対しては、1つの単一のアンテナを用いて実現可能な、有望な技術的実現方法はいまだ全く提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際出願公開WO2012/020613号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】学会論文"Tunable Filters Using Wideband Elastic Resonators", Kadota et al., IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control, Vol. 60, Nr. 10, October 2013, Page 2129 - 2136
【非特許文献2】学会論文"A Novel Tunable Filter Enabling Both Center Frequency and Bandwidth Tunability", Inoue et al., Proceedings Of The 42nd European Microwave Conference, 29. October - 1. November 2012, Amsterdam, The Netherlands, Page 269 - 272
【非特許文献3】学会論文"RF MEMS-Based Tunable Filters", Brank et al., 2001, John Wiley & Sons, Inc. Int J RF and Microwave CAE11: Page 276 - 284, 2001
【非特許文献4】学会論文"Tunable Isolator Using Variable Capacitor for Multi-band System", Wada et al., 978-1-4673-2141-9/13/$31.00, 2013 IEEE MTT-S Symposium
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明の課題は、1つのチューナブルフィルタを有するフロントエンド回路を提示することであり、このチューナブルフィルタは、複数の周波数帯域をカバーする。もう1つの課題は、簡易なキャリアアグリゲーションモードを可能とするフロントエンド回路を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの課題は、請求項1に記載のフロントエンド回路によって解決される。本発明の有利な実施形態が他の請求項に示される。
【0016】
本発明によるフロントエンド回路は、少なくとも、1つの第1の信号経路、1つの第2の信号経路、1つの第3の信号経路を備え、これらは1つのアンテナ接続端子にカップリングされている。これらの信号経路の各々には、それぞれ1つのフィルタが配設されており、このフィルタは、1つの制御回路を用いて、その周波数帯域にチューニングすることができる。これらのフィルタは、選択的にFDD動作モードまたはTDD動作モードで動作可能である。すなわち1つのFDD(=frequency division duplexing)動作モードまたは1つのTDD(=time division duplexing)動作モードを用いる1つの伝送規格に従う。これらのフィルタの各々は1つのチューニング領域を備える。上記の3つの信号経路および上記の互いに独立にチューナブルなフィルタにより、少なくとも1つの送信帯域および少なくとも1つの受信帯域における同時動作が、全ての上記の3つのフィルタによって可能である。
【0017】
一般的に組み合わされる動作は、3つの帯域において、1つの第1のモバイル通信規格の送信帯域および受信帯域と、追加的にもう1つのモバイル通信規格の受信帯域における1つの動作を含む。好ましくはこれらの互いに結合される帯域は、上記のCAモード用に既に提案された組合せから選択されている。
【0018】
上記のアンテナ接続端子は、アンテナ側の接続端子であり、ここに上記の3つの信号経路が合流している。このアンテナ接続端子は、1つのアンテナと、直接に、または他の素子(複数)を介してカップリングされていてよい。1つの実施形態によれば、全ての信号経路は、このアンテナ接続端子を介して同じアンテナとカップリングされている。
【0019】
上記のチューナブルなフィルタのチューニング領域は、これに使用されているデバイスのQ値に依存している。これらの使用されているデバイスの充分なQ値により、たとえばそのチューニング領域に対してたとえば係数2(Faktor 2)に調整することができ、これよりこのチューニング領域の最高周波数は、このチューニング領域の最低周波数の2倍の大きさとなる。上記の3つのフィルタのチューニング領域は一致していてよい。しかしながらこれらのフィルタの少なくとも1つが、部分的にのみこのチューニング領域と重なっていてもよく、1つの隣接するチューニング領域をカバーしていてもよく、または大きな周波数空白域によって他のフィルタ(複数)の1つのチューニング領域から離間していてもよい。
【0020】
このチューニング領域の設定により、本発明によるフロントエンド回路を用いて、インバンドCAモードも、またインターバンドCAモードも可能である。
【0021】
上記のCAモードにおける好ましい構成によれば、上記の第1のフィルタはTXフィルタであり、これに対し上記の第2および第3のフィルタは、それぞれRXフィルタである。
【0022】
1つの実施形態によれば、これら3つのフィルタは全て同じチューニング領域を備えている。
【0023】
1つの実施形態によれば、上記の第1のフィルタのチューニング領域、すなわち第1のチューニング領域は、700〜1000MHzの領域をカバーする。上記の第2のフィルタは、1700〜2700MHzの領域をカバーし、こうして上記の第1のチューニング領域から大きく離間した第2のチューニング領域を形成する。上記の第3のフィルタは、これら2つのチューニング領域に割り当てられていてよく、または代替として第3のチューニング領域を備えてもよい。
【0024】
本発明のもう1つの実施形態においては、本発明によるフロントエンド回路は、1つの第4の信号経路を備え、この第4の信号経路には、1つの第4のチューナブルフィルタが配設されており、この第4のチューナブルフィルタは上記のアンテナ接続端子とカップリングされている。この第4のフィルタは、1つの第4のチューニング領域を備え、この第4のチューニング領域は上記の最初の3つのフィルタのチューニング領域と重なっていてよく、これらのチューニング領域の1つと同一であってよく、または上記の最初の3つのフィルタのチューニング領域と全く異なっていてよい。
【0025】
上記のフィルタの2つがTXフィルタとして構成されている場合、この実施形態を用いて2つのモバイル通信規格を並行して動作させることができ、ここでこの動作はそれぞれの周波数帯域における同時の送信および受信を含む。このようにしてアップリンク用のデータレートも、またダウンリンク用のデータレートも倍増することができる。
【0026】
好ましくは、それぞれ1つのRXフィルタおよび1つのTXフィルタは、1つのモバイル通信規格におけるデュプレクス動作が可能となるように選択される。これに対応してこのために使用されているチューナブルフィルタ(複数)は、同じチューニング領域内で、もしこのチューニング領域がこのモバイル通信規格のRX帯域およびTX帯域を含んでいる限りにおいて、調整可能であってよい。もう1つまたは2つのさらなるフィルタにおいて、すなわち第3および第4のフィルタにおいて、もう1つの別の周波数帯域における送信動作および/または受信動作が可能である。この別の周波数帯域は、同じチューニング領域にあってよく、これよりこのために同じフィルタを使用することができる。しかしながらこのため別のチューニング領域(複数)を有するフィルタ(複数)が用いられてもよく、それらのチューニング領域は、上記の最初の2つのフィルタのチューニング領域(複数)に対して隣接していても、あるいは遠く離れていてもよい。
【0027】
上記のチューナブルフィルタと上記のアンテナ接続端子との間、または上記のアンテナ接続端子と上記のアンテナとの間に、1つのアンテナチューナーが配設されていてよい。上記の共通のアンテナ接続端子と接続されている信号経路(複数)におけるフィルタ(複数)が同じかまたは類似のチューニング領域を備えている場合、これより全てのフィルタに対してあるいはこれらのフィルタがチューニング可能である全ての周波数帯域に対して、同じ共通のアンテナチューナーを使用することができ、こうしてこのアンテナチューナーは、これらの信号経路が分岐する前に、アンテナとこれらの各々のフィルタとの間の1つの点に配設することができる。
【0028】
上記の共通のアンテナ接続端子と接続されているフィルタが互いに大きく異なるチューニング領域を備えている限り、各々のチューニング領域に対して専用のアンテナチューナーが使用されてよい。これはこれらのアンテナチューナーを狭帯域に構成することを可能とし、こうして少ない損失で、より簡単なマッチングが可能である。
【0029】
他の実施形態(複数)によれば、これらのアンテナチューナー(複数)を省略することも可能である。こうして上記のチューナブルフィルタあるいは上記の複数のチューナブルフィルタは、それぞれ1つのフィルタ回路を備え、このフィルタ回路においては、周波数またはその周波数帯域が調整可能であるだけでなく、追加的にさらに上記のアンテナへのこのフィルタのマッチングも行われる。
【0030】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明によるフロントエンド回路は、2つの異なるアンテナ接続端子を備え、これらのアンテナ接続端子は、1つのマルチプレクサまたは1つのアンテナ切替器を介して1つの共通なアンテナにカップリングされてよい。2つのアンテナ接続端子に対して1つのダイプレクサが使用可能であり、このダイプレクサは1つのハイパスフィルタおよび1つのローパスフィルタを備えてよい。
【0031】
これら2つのアンテナ接続端子の各々に、上述の実施形態例(複数)による3つ以上の信号経路が接続されている。これらの信号経路にはチューナブルフィルタが配設されている。このようにして、6つ以上のチューナブルフィルタを同じアンテナにカップリングすることができ、この際これらのフィルタの少なくとも3つが1つの第1の周波数領域にあり、これに対し他の3つ以上のフィルタが、上記のダイプレクサによってこの第1の周波数領域から受動的に分離可能な、1つの第2の周波数領域にある。
【0032】
上記のダイプレクサが、それぞれのスイッチ位置で2つのアンテナ接続端子の1つと接続する、1つのアンテナ切替器によって置き換えられると、これにより選択されたアンテナ接続端子と接続されている信号経路を介してのみ、かつそれぞれ対応するフィルタがチューニング可能な周波数領域でのみ、動作が行われる。1つのアンテナ切替器が設けられる場合は、上記の3つのフィルタのチューニング領域は、1つのダイプレクサの場合と異なって重なっていてよく、隣接しているか、または周波数的に大きな距離で分離されていてよい。
【0033】
本発明のもう1つの実施形態においては、本発明によるフロントエンド回路は、1つの第2のアンテナおよびこれと接続されている1つ以上のアンテナ接続端子を設けてよく、これらはそれぞれ上記したように構成されていてよい。
【0034】
各々の信号経路は1つのアンテナ接続端子を1つのHFチップと接続し、このHFチップはたとえば1つの送受信器回路を備える。この送受信器回路においては、送信動作および受信動作に対する信号処理が行われる。さらにこのHFチップへの各々の信号経路の途中に1つの電力増幅器または1つのLNA(Low-Noise Amplifier;低雑音増幅器)が配設されていてよい。
【0035】
1つの実施形態によれば、上記の電力増幅器または上記のLNAと、上記のそれぞれのフィルタとの間に、1つのインピーダンスマッチング回路が設けられていてよい。このインピーダンスマッチング回路はしかしながら適宜追加されるものであり、他の実施形態においては省略できるものである。このインピーダンスマッチング回路は、たとえば送信経路(複数)においてのみ使用されてよい。しかしながら、このフロントエンド回路のすべての信号経路にそれぞれ1つのインピーダンスマッチング回路が、好ましくは増幅器とフィルタとの間で設けられてもよい。このフィルタ自身においてインピーダンスマッチングを行うことも可能であり、このフィルタをそのインピーダンスに関してマッチングできるように構成することも可能である。
【0036】
上記のチューナブルフィルタ(複数)は、好ましくはそれぞれフィルタ回路として実装されていてよく、キャパシタンス(複数)およびインダクタンス(複数)等の「集中定数素子」("lumped elements")からなる1つの回路として実現されている。各々のフィルタ回路は、たとえば複数のLC発振回路を備え、これらの発振回路は高Q値のL素子およびC素子によって実装されている。高Q値のL部品またはC部品、すなわち高Q値のキャパシタンスおよび高Q値のインダクタンスとは、例えば10以上の高いQ値を備えるような部品のことである。このようなQ値を用いて、上述の係数2を有するチューナブル領域を実現することができる。L部品またはC部品が、さらに高いQ値を備えると、当然ながらこれは上記のチューナブル領域に対し良い方向に作用し、またこのフィルタ回路の損失に対しても良い方向に作用する。
【0037】
本発明によるフロントエンド回路において使用されているフィルタ回路(複数)は、少なくとも4つの回路ノードを備える、1つの直列の信号ラインを備えてよい。これらの回路ノードの各々に、1つの並列分岐路がグラウンドに対しカップリングされている。これらの各々の並列分岐路には、1つの高Q値のチューナブルなリアクタンス素子が配設されている。上記の直列の信号ラインにカップリングされたリアクタンス素子(複数)は、互いにカップリングされており、ここで少なくとも1つのキャパシタンスのカップリングが可能となっており、および場合により1つのインダクタンスのカップリングも可能となっている。キャパシタンスカップリングは、カップリングコンデンサ(複数)を介して行われてよく、これらのカップリングコンデンサは、上記の直列の信号ラインの途中で、2つの隣り合う回路ノード毎に配設されている。
【0038】
上記の直列の信号ラインにおいて両側で終端に配設されている回路ノードは、この直列の信号ラインに対して並列に回路接続されたバイパスインダクタンス(Brueckeninduktivitaet)を介して互いに接続されている。
【0039】
上記のカップリングコンデンサおよび上記のバイパスインダクタンスのQ値は、必ずしも上記のリアクタンス素子のような高い規格を満足する必要はない。
【0040】
上記のリアクタンス素子(複数)は、並列共振回路として構成されていてよく、これらの並列共振回路は、それぞれ1つの高Q値のチューナブルコンデンサおよび1つの高Q値のインダクタンスの並列回路を備えている。高Q値のチューナブルコンデンサは、半導体回路として実装されていてよく、たとえば1つのバラクタを備えてよい。バラクタは、そのキャパシタンスを、たとえばアナログ制御によって調整することができる半導体デバイスである。
【0041】
さらに1つのチューナブルコンデンサは、1つの切り替え可能なコンデンサアレイとして構成されていてよい。このようなコンデンサアレイは、従来のMIMコンデンサ(Metall-Isolator-Metall)(複数)を備えてよく、またはMEMSコンデンサ(複数)の形態で構成されているコンデンサ(複数)を備えてよい。これらも1つの半導体基板に集積化されていてよく、これにより上記の半導体回路の一部となっていてよい。
【0042】
上記の同じアンテナに接続された3つ以上の信号ラインでの問題の無い動作を可能とするため、それぞれの信号経路において、他の信号経路にすなわちこの信号経路に配設されているフィルタに割り当てられた周波数の減衰が行われなければならない。
【0043】
このような減衰は、たとえば1つのチューナブルな位相シフト回路によって行うことができ、このチューナブルな位相シフト回路は、上記のチューナブルフィルタと上記のそれぞれのアンテナ接続端子との間に配設されている。この位相シフト回路は、それぞれの信号経路において伝送されてはならない周波数の全ての位相を、これらの周波数が負荷されないように、回転する。伝送されるべき、上記のそれぞれのフィルタが調整されている周波数に対しては、この位相シフタは殆ど作用せず、こうしてそれぞれの対応する周波数の信号はこの位相シフト回路を殆ど減衰せずに通過することができる。このようにして、どの信号ラインも、上記のチューナブルフィルタが調整されている周波数成分を小さな挿入損失で伝送することができる。以上により上記のチューナブルフィルタの調整された中心周波数と上記の最適に調整された位相シフタとの協働で、挿入損失および選択度に関して非常に良好な特性を有するマルチバンドフィルタを実現することができる。
【0044】
ここで上記のチューナブルな位相シフタで必要とされている位相角は、上記のチューナブルフィルタの中心周波数の他に、このフィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスにも依存する。伝送損失を出来る限り小さくするためには、好ましくは出来る限り小さな位相角が設定される。
【0045】
しかしながら上記の位相シフト回路は、上記のフィルタ回路の一部であってよい。ここで1つの単一の制御信号を用いて、上記のフィルタを上記のチューナブル領域内の所望の周波数に調整することも、また同時に、フィルタ伝送特性を最適に形成するように、遮断される周波数に対してその位相を調整することも可能である。
【0046】
しかしながら上記のチューナブルな位相シフト回路は、上記のチューナブルフィルタとは分離して実現することも可能であり、そして分離して制御することも可能である。上記のそれぞれ必要とされる位相シフト回路の調整は、それぞれの帯域組合せに対応したこの位相シフト回路での調整を行う、1つの制御素子または1つの制御回路によって行うことができる。このような調整は、上記の所望に調整される帯域組合せに対して事前に行うことができ、たとえば調整されるパラメータ(複数)を含む1つのルックアップテーブルに記録することができる。
【0047】
しかしながら、上記の位相シフト回路を、測定されるかまたは他の方法で検出される動作パラメータを参照してカストマイズしてマッチングすることも可能である。
【0048】
以下では、実施形態例とこれに付随する図を参照して、本発明を説明する。これらの図は、概略的にのみ作成されており、本発明の良好な理解にのみ用いられるものである。見易くするために、その必要性が当業者にしられているか、あるいは全体の関係から分る様々な部品は記載されていない場合がある。上記のフロントエンド回路で詳細に説明されていない素子は、公知であると見做されており、これよりこれらの機能および構造に関するさらなる説明は不要であろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】3つの信号経路を有する1つのフロントエンド回路の簡単なブロック図を示す。
図2】1つのチューナブルフィルタを実現することができる1つのフィルタ回路を示す。
図3】さらなる部品を有する1つの複雑なフロントエンド回路を示す。
図4】1つのフィルタ回路に使用することができるような、一連のチューナブルコンデンサを示す。
図5】1つの切り替え可能なコンデンサアレイを示す。
図6】4つの信号経路を有する1つのフロントエンド回路を示す。
図7】4つの信号経路を有する1つのフロントエンド回路のもう1つの実施形態を示す。
図8】2つのアンテナおよび4つのアンテナ接続端子を有する1つのフロントエンド回路を示す。
図9】1つの入力側のチューナブルなインピーダンスおよび1つの出力側のチューナブルなインピーダンスを有する1つのチューナブルフィルタを示す。
図10】アンテナチューナ無しに用いられる1つのアンテナを有する1つのフロントエンド回路を示す。
【0050】
図1は、1つのフロントエンド回路の簡単なブロック図を示し、このフロントエンド回路では、3つの信号経路SP1〜SP3が共通のアンテナ接続端子ATに接続されている。それぞれの信号経路SPに、1つのチューナブルフィルタFTが配設されている。チューナブルフィルタとアンテナ接続端子との間には、それぞれ追加的に、チューナブルに構成されている1つの位相シフト回路PS1,PS2,PS3が配設されている。このアンテナ接続端子ATに対し反対側にあるこれらの信号経路SPの端部は、1つ以上のHFチップ、たとえば1つの送受信器回路と接続されていてよい。上記のチューナブルフィルタFTの各々は、好ましくはチューナブルなバンドパスフィルタとして構成されている。これらのフィルタの各々は、1つのチューニング領域を備え、ここで上記に示した3つのフィルタのチューニング領域は同一であってよい。
【0051】
図2は、1つのチューナブルなフィルタ回路FTの1つの可能な実施形態を示す。第1および第2の接続端子T1,T2の間には、1つの直列の信号ラインSLが回路接続されている。この信号ラインは、4つの回路ノードNを備え、これらにはそれぞれグラウンドに対し1つの並列分岐路が回路接続されている。各々の並列分岐路は、1つのチューナブルなキャパシタンスCTとこれに並列な1つのインダクタンスPLを備えている。信号ラインSLにおいて互いに隣り合った2つの回路ノードの間には、1つのカップリングキャパシタンスCAが設けられており、このカップリングキャパシタンスはたとえばカップリングコンデンサとして構成されている。
【0052】
代替として、同じ目的を満足することができる1つのカップリングインダクタンスが設けられてよい。
【0053】
共振回路のカップリングに作用するカップリングコンデンサCA、すなわちキャパシタンス素子は、10fF〜100pFのキャパシタンスを備えてよい。共振回路のカップリングに作用するカップリングインダクタンス、すなわちインダクタンス素子は、1nH〜300nHのインダクタンスを備えてよい。
【0054】
上記の信号ラインSLの2つの終端の回路ノードNは、1つのバイパスインダクタンスBIを用いて接続されており、このバイパスインダクタンスは、上記の信号ラインSLに対して並列に回路接続されている。これらの最も外側の回路ノードの外側にそれぞれ1つの終端キャパシタンスCAが設けられており、これらの終端キャパシタンスはチューナブルに構成されていてよく、そして周辺回路へのインピーダンスマッチングに用いることができる。
【0055】
図3は、本発明によるフロントエンド回路のさらなる部品(複数)を示し、これらの部品は、1つのフロントエンドモジュールとして、1つの共通な基板上に実装されていてよい。既に記載したように、上記の信号経路SPの各々は、1つの共通なアンテナ接続端子ATを1つのHFチップTC、たとえば1つの送受信器回路と接続している。フィルタFTと送受信器回路TCとの間には、各々の信号経路SPにおいて、1つの、好ましくはチューナブルな増幅器AMPが配設されており、この増幅器は、1つの送信経路に対し電力増幅器として構成されており、1つの受信経路に対してはLNAとして構成されている。チューナブルな増幅器は、これを狭帯域で実現することができ、そしてこのフィルタにおいてそれぞれ設定された周波数帯域(通過帯域)を調整することができるという利点を有する。以上によりこの増幅器における損失が極小化され、邪魔な信号が低減される。
【0056】
さらに増幅器AMPとチューナブルフィルタFTとの間には、1つのインピーダンスマッチング回路MCが配設されていてよい。これは自明なように受動的な部品から実現されていてよい。しかしながら最適にマッチングされた増幅器およびチューナブルフィルタの場合には、このようなインピーダンスマッチング回路MCは省略されてもよい。
【0057】
アンテナ接続端子ATと上記のフィルタとの間には、少なくとも1つのアンテナチューナーATUが配設されていてよい。このチューナーは好ましくは同様にチューナブルに構成されており、それぞれ設定された周波数帯域にチューニングされてよい。
【0058】
図4は、4つのチューナブルな高Q値のインピーダンス素子IETのアレイを示し、これらのインピーダンス素子は、1つの共通な制御ユニットによって制御されている。この構成は、もっと多数のチューナブルなインピーダンス素子IETを備えてもよい。これらのチューナブルなインピーダンス素子IETは、1つのチューナブルなインピーダンスを備える。これらのチューナブルなインピーダンス素子は、たとえば、そのキャパシタンス値がチューナブルな、チューナブルキャパシタンスとして構成されている。チューニングするための情報は、制御ユニットCEへの1つのMIPI−RFFE信号(MIPI)を介して送られてよく、この信号はこうしてそれぞれ対応する個々のチューナブルコンデンサのチューニング、またはもっと一般的には上記のインピーダンス素子IETのチューニングを実施する。これらのチューナブルなインピーダンス素子は、様々な技術で実現されていてよい。これらの全体の構成は、1つの半導体素子で実現されていてよい。制御ユニットCEは、上記のMIPI−RFFE信号からこれらのチューナブルなコンデンサに対する制御信号を生成する。
【0059】
これらのチューナブルなインピーダンス素子の各々は、1つ以上のさらなる受動的な部品を有する1つのチューナブルなインピーダンス素子となっていてよい。
【0060】
図5は切り替え可能なコンデンサアレイで、チューナブルなキャパシタンスCTのように構成することができる1つの可能性を示す。このコンデンサアレイは、1つのベースキャパシタンス(Grundkapazitat)C0を備え、このベースキャパシタンスに対して、第1のスイッチSW1を用いて1つの第1の追加キャパシタンスC1を並列に回路接続することができる。この並列回路の全キャパシタンスは、これらのキャパシタンスC0およびC1の和となる。この切り替え可能なアレイの1つの拡張においては、さらなるコンデンサ(複数)CnがさらなるスイッチSWnを用いて並列に回路接続されてよく、この際これらの並列に回路接続された個々のコンデンサの全てのキャパシタンスが加算される。回路接続可能なコンデンサ(複数)のキャパシタンス値を様々に変えることによって、またこれらの並列に回路接続されたコンデンサの数によって、所定のキャパシタンス値およびこのキャパシタンス値によって、1つのチューナブルなフィルタ回路の一部である1つの発振回路の共振周波数を設定することができる。この図の右側の部分には、1つのチューナブルなコンデンサCTに対する回路記号が示されている。
【0061】
図6は、図1と類似した1つのフロントエンド回路を示すが、しかしながらこのフロントエンド回路は、第4の信号経路SP4の分だけ拡張されている。その他は、このフロントエンド回路は、図1で説明したように構成されている。ここでもアンテナ接続端子ATとチューナブルフィルタFTとの間に、それぞれ1つのチューナブルな位相シフト回路PSが配設されており、信号経路SPに組み込まれている。ここでもこれらの4つの異なるチューナブルフィルタが異なるチューニング領域を備えてよく、そして1つの共通なチューニング領域に対して設けられていてよい。
【0062】
図7は、図6に示す部分回路を用いている、拡張された1つのフロントエンド回路を示す。チューナブルフィルタFT(複数)とアンテナ接続端子(不図示)との間には、適宜に追加で1つのアンテナチューナーATU1が設けられている。ここでこのアンテナ接続端子は、1つのマルチプレクサMPの送受信器側の出力部であり、これはこのマルチプレクサを介してアンテナAと接続されている。このマルチプレクサは、たとえばダイプレクサとして構成されていてよい。こうしてこのダイプレクサはアンテナ側に向いていない1つに第2のアンテナ接続端子を備え、この第2のアンテナ接続端子にもう1つの適宜に追加されるアンテナチューナーが接続されており、あるいは接続されてよく、そしてこれにさらなる信号経路SPがこの信号経路に配設されているチューナブルフィルタと共に接続されており、あるいは接続されてよい。しかしながらこのマルチプレクサは、アンテナ切替器ASとして構成されていてもよく、このアンテナ切替器は、アンテナAを選択的に上記の2つのアンテナチューナーATUの1つと接続する。
【0063】
それぞれ1つの共通なアンテナ接続端子と接続されている4つの信号経路は、それぞれの他の端部で1つのHFチップ、たとえば1つの送受信器TCに合流している。チューナブルフィルタFTと送受信器TCとの間には、各々の信号経路にさらに1つの増幅器AMPが配設されており、この増幅器はまた、電力増幅器あるいはLNAとして構成されていてよい。増幅器とチューナブルフィルタFTとの間には、1つのインピーダンス回路MCがこれらの信号経路の各々に設けられていてよい。
【0064】
さらに図7には1つの選択肢である実施形態が示されており、この実施形態ではHFチップTCとチューナブルフィルタFTとの間で、1つの信号経路が1つの帯域切替器BSを介して2つの異なる部分信号経路へ分岐可能となっている。各々の部分信号経路は、専用の1つの増幅器と適宜追加される専用の1つのインピーダンスマッチング回路MCとを備える。この帯域切替器BSを介してこれら2つの部分信号経路の1つを選択することができる。たとえば、これら2つの部分信号経路の1つを送信路として、そして別の1つを受信路として構成することが可能である。これはたとえばまとめて、1つのTDDモバイル通信規格の送信路および受信路となっていてよく、ここで帯域切替器BSは同時に送信動作と受信動作との間を切り替える。この帯域切替器BSの切り替えは、チューナブルフィルタFTのチューニングとリンクされていてよい。しかしながら、この帯域切替器BSによって、単に増幅器の種類および送受信器TCのそれぞれ対応する入力を選択することも可能である。
【0065】
マルチプレクサMPあるいはアンテナ切替器ASの第2の出力部には、上述したように、もう1つのアンテナチューナーが接続されてよく、そしてこれにさらなる信号経路が接続されてよい。このようにして、同時に最大8個の異なる周波数帯域をアンテナに接続することができる。この構成は、上記の第1のアンテナチューナーあるいは上記の第1のアンテナ接続端子に接続されたフィルタのチューニング領域と、上記の第2アンテナ接続端子に接続されたフィルタのチューニング領域との間に、1つの充分に大きな周波数距離が存在する場合、これよりそれぞれの周波数は互いにきれいに分離することができるので、問題は起こらない。
【0066】
図8は、2つのアンテナA1,A2を有する実施形態用のフロントエンド回路のもう1つの構成を示す。各々のアンテナAは、図7に示すように、その出力部にそれぞれ2つのアンテナ接続端子が提供される1つのマルチプレクサMPまたは1つのアンテナ切替器ASと接続されている。これらのアンテナ接続端子の各々は、図3で説明したように、3つの信号経路と接続されており、これらの信号経路はチューナブルフィルタ、チューナブルな増幅器を介して、および適宜インピーダンスマッチング回路MCを介して送受信器TCと接続されている。こうして第1のアンテナA1とは、図3に示すように、2つの回路が接続されており、これらは受動的に上記のマルチプレクサを介して、あるいは能動的に上記のアンテナ切替器を介して制御することができる。同様に、第2のアンテナA2にもまた、図3に示すように、2つのフロントエンド回路が接続されており、これらは同様にマルチプレクサMPまたはアンテナ切替器ASを介して制御することができる。
【0067】
ここに示す4つのアンテナ接続端子の各々を、これらに接続されている信号経路と一緒に1つの専用の周波数領域に割り当てると、こうして、1つの単一のフロントエンド回路で実現することができる、図8に示す構成を用いて、4つの異なる周波数領域をカバーすることができ、すなわちこれらの周波数領域における送信信号および受信信号を受信または送信することができる。たとえば図8の上側に示す複合体の周波数領域が、3つのチューナブルフィルタのチューニング領域に対応する、700〜1000MHzの周波数領域に設定されていてよい。この下に配置されている、同じアンテナA1に接続されている部分は、1700〜2200MHzの周波数領域にチューニングされた、信号経路あるいはこれに配設されているチューナブルフィルタを備えている。
【0068】
第2のアンテナA2には、1つのアンテナ接続端子ATを介して、その中に配設されているチューナブルフィルタ(複数)への3つの信号ラインを有する、1つの第1の複合体が接続されていてよく、この複合体は、1400〜1700MHzをカバーする。第2のアンテナ接続端子と接続されている信号経路あるいはこの信号経路に配設されているフィルタ(複数)は、もう1つの周波数領域にチューニングされていてよく、この周波数領域は、2300〜2700Mhzをカバーしている。このようにして、この構成体は、全ての使用される周波数帯域を取り扱うことができる。これは2つのアンテナ、4つの電力増幅器(PA)、および8個のLNAが存在しているからであり、少なくとも4つの異なる周波数において、同時に送信し、またさらに8個の異なる周波数帯域で受信するからである。
【0069】
図9は、1つのチューナブルフィルタ回路FTのもう1つの実施形態の可能性を示し、このチューナブルフィルタ回路は、各々のチューナブルな信号経路に配設されていてよい。さらに、周波数チューニングのために、この回路は、入力部側および出力部側で、さらにインピーダンスマッチング回路MCを備えてよく、このインピーダンスマッチング回路は、たとえば図2に示すように1つのチューナブルなフィルタ回路に組み込まれていてよい。これらのマッチング部は、チューナブルなインピーダンス素子として構成されていてよく、たとえばチューナブルコンデンサとして構成されていてよい。
【0070】
図10は、もう1つの実施形態を示す。アンテナAは、1つのダイプレクサMPと接続されており、このダイプレクサは、その出力部(複数)で実質的に2つのアンテナ接続端子を提供している。これらの2つの出力部すなわちアンテナ接続端子の各々には、3つ以上の信号経路からなる1つの信号経路群G1,G2がカップリングされている。これらの信号経路の各々の信号経路群は、チューナブルフィルタ(複数)FTを備え、ここで1つの信号経路群のチューナブルフィルタ(複数)は、それらのチューニング領域(複数)が同じ周波数領域に割り当てられており、ただしこれら2つの信号経路群は異なる周波数領域に割り当てられている。
【0071】
これら2つの信号経路群、あるいはこれら2つの信号経路群内のフィルタ(複数)のチューニング領域(複数)は、異なる周波数領域に割り当てられており、この周波数領域は、700MHz未満の領域、700MHz〜1000MHzの領域、1000〜1400MHzの領域、1400〜1700MHzの領域、1700〜2200MHzの領域、2200〜2700MHzの領域、および2700MHzより上の領域から選択されている。
【0072】
各々のチューナブルフィルタは、たとえば図9に示すように構成されている。さらに各々の信号経路はアンテナ側にさらに、その位相角がチューナブルな、1つの位相シフト回路PSを備えている。ダイプレクサMPは、上記の2つの周波数領域を分離し、そして上記の信号経路(複数)のそれぞれの信号経路群に対応する周波数領域(複数)の1つの内側にあるそれぞれの信号を割り当てることができる。フィルタとアンテナ接続端子との間には、1つの位相シフト回路がそれぞれの信号経路に配設されており、他方このアンテナに向いてない端部には、適宜追加されるチューナブルに構成されている1つの増幅器AMPが配設されている。図9に示す、1つのチューナブルな入力インピーダンスおよび出力インピーダンスが追加されて構成されているこれらのチューナブルフィルタによって、このフィルタは、負荷インピーダンスに最適にマッチングすることができる。この実施形態においては、アンテナチューナーは不要である。この回路は、TDD動作に対しても、またFDD動作に対しても適合しており、また使用可能である。
【0073】
上記の信号経路(複数)の各々の信号経路群内には、少なくとも1つの信号経路が、送信動作用のチューナブルフィルタと共に1つの信号経路、すなわちTx経路を構成しており、これに対し信号経路群Gの他の信号経路は、受信経路、すなわちRx経路として構成されている。
【0074】
図10に示すように、この構成体はさらに、2つの固定フィルタ回路FC1、FC2が追加されており、これらはそれぞれデュプレクサMPの2つの出力部の1つと接続されている。各々の固定フィルタ回路は、1つの周波数帯域に固定されて設定されたフィルタと、1つの対応する増幅器とを備える。このフィルタは、1つのデュプレクサであってもよい。このフィルタは、1つの音響フィルタであってよい。固定フィルタ回路FCとこのデュプレクサとの間には、1つのマッチングネットワークが回路接続されており、このマッチングネットワークは、上記のアンテナすなわちその負荷にマッチングされている。
【0075】
これらのさらなるフィルタ回路FCには、上記のデュプレクサの同じ出力部に接続されている、上記の信号経路(複数)の信号経路群と同じ周波数領域が割り当てられていてよい。 以上により、1つのキャリアアグリゲーション動作モードが可能となり、この動作モードでは同じ周波数領域内にある周波数帯域(複数)を1つのモバイル通信接続に対して同時に使用することができる。
【0076】
異なる周波数領域に設定されている、同時に伝送することができる帯域(複数)を用いるキャリアアグリゲーション動作モードが、既に2つの上記の信号経路(複数)の信号経路群G1、G2を用いて可能である。これらの信号経路群はもちろん異なる周波数領域に割り当てられている。
【0077】
上記のさらなるフィルタ回路FCを、上記の2つの周波数領域の外側に設定されている帯域(複数)に割り当てることも可能である。
【0078】
本発明は、少数の実施形態例のみを参照して説明されたが、これらに限定されるものではない。上記の信号経路(複数)の各々において、あるいはこれらの信号経路を備える各々の構成において、現状のフロントエンド回路に対して一般的に行われているように、さらなる部品および素子が組み込まれていてもよい。
【0079】
上記のチューナブルフィルタ(複数)は、異なる技術により実現されていてよい。1つの単一のフロントエンドモジュール内に異なる技術を使用することも可能である。
【0080】
本発明によるフィルタ回路のすべてのチューナブルな部品は、1つの単一なデバイス、すなわち1つの単一の半導体デバイスで実現されていてよい。しかしながら、これらの部品をその種類によって、および/または必要とされているQ値によって、異なるデバイスに分割し、そして上記のフロントエンドモジュールに取り付けることも可能である。これはたとえば、高Q値のインダクタンスをディスクリートなコイルで構成し、これによってディスクリートなデバイスとして構成することで有利となる。
【0081】
上記のチューナブルな高Q値のコンデンサ(複数)は、まとめて1つのデバイスに設けることができ、このデバイスには上記のフィルタ回路、上記のアンテナチューナー、または上記のインピーダンスマッチング回路のさらなる部品、あるいは上記のマルチプレクサまたはアンテナ切替器のさらなる部品が組み込まれていてもよい。
【0082】
本発明によるフロントエンド回路の低Q値の部品は、集積化された受動的な部品として構成されていてもよい。しかしながら、低Q値の受動的な部品は、少なくとも部分的に上記の基板に一体化することも可能である。

【符号の説明】
【0083】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10